臨海学校~Summer Card Hunting

    作者:東城エリ

     陽がゆっくりと沈むと、陽気な雰囲気だった砂浜はしっとりとした景色に変わる。
     肌を焼く陽光は、海水に冷やされた風で涼しさを運んできたよう。
     遠くには博多湾を挟んだ向こうには、福岡市街の煌めく街並みが夜目にも鮮やかだ。
     空に浮かぶ星空は、都市部よりはクリアに見える気がする。
     ビーチサンダルの下では、砂がさくりとした感触を伝えてきた。
     南国原生の木々が防風林代わりとなって、規則的なラインを作っている。
     砂浜はそのラインに沿って、一定の距離を保ち、グループを作って楽しんでいた。
     陽が落ちる前から用意していた為、少しでも影を求めた結果だろう。
     洗い場から、切り刻んで盛られた食材を追加していたりと、各々のプレイベートな時間を満喫して居るようだった。
     家族連れが賑やかに野外料理の定番、バーベキューの材料を準備し終え、食事を始める。
     円形の蓋のついたバーベキューグリルの金網には串に刺した食材が並べられ、煙と共に美味しそうな匂いで周囲を満たし始めた。
     カップルや社会人のグループ、大学のサークル参加の人々も、アルコール飲料を口にし、喉を潤す。
     肉の焼ける音に食欲を刺激され、持参した食料などは駆逐されてしまいそうな勢いだ。
     宿泊は、もう少し奥へと入っていった所にあり、テントを張りキャンプをする場所と、簡易宿泊できるバンガローの2種類用意されている。
     空腹が満たされてくると、気になるのはあと少しで始まるであろう花火のこと。
     花火大会は間近に見られる方は、迫力もあり夜店も出ているので、祭りの雰囲気満点だが、人混みと熱気を考えて、こちら側にやってきたのが大半らしい。
     夜空に花火、遠くに福岡市街と夜のキャンバスを彩るのを今か今かと待っている。
     
     その時、洗い場からやってきた男数人が、抜き身のナイフや包丁を手にして、食事を楽しむ人々の背や首筋を切りつけた。
     砂浜という場所柄、この場にいる人々は水着や薄手の服装だ。
    「ハハハハッ やった! 殺してやったぞ!」
    「俺は選ばれたんだ。選ばれた俺に殺されることを光栄に思うがいい……!」
    「すぐに逝かせてやるよ」
     簡単に人を傷つけられる感触と血の匂いに酔いしれながら、男達は自身の周囲を血で染めていく。
     砂浜を赤く染め、賑やかな雰囲気を悲鳴と凶荒の世界へと塗り替えた。
     
    「夏らしいイベントと言えば、臨海学校でしょうか」
     そう話し始めたのは、斎芳院・晄(高校生エクスブレイン・dn0127)だ。
    「武蔵坂学園でも臨海学校のためにいくつか候補地を挙げていた中に九州地方があるのですが、このほど大規模な事件が発生することがわかりました」
     臨海学校と大規模な事件。
    「大規模とはいいましても、事件を起こすのはダークネスや眷属、強化一般人ではなく、普通の一般人です」
     普段相手にする者たちに比べれば、随分と簡単なように思えた。
    「灼滅者の皆さんなら、事件の解決は難しくないでしょう」
     集まった一同の表情を見、晄は頷く。
    「とはいえ、簡単なように見える事件の裏には、組織的に行動するダークネスの陰謀があると思われます」
     いつも通り、手を抜かずにすればいいのだと納得した様子に晄は話を続ける。
    「敵組織の目的は不明ですが、無差別連続大量殺人が起こるのを見過ごす事は出来ません。阻止をお願いします」
    「頑張らなくちゃね。楽しい臨海学校になるように」
     御門・薫(藍晶・dn0049)は、お仕事の後の事を考えて、笑顔を浮かべた。
    「そうですね。楽しい事が後にあるのなら、皆さんもやる気も起きるのではと思います」
     手掛かりとなる情報を晄が口にする。
    「殺人を起こす一般人たちは、何かカードのような物を所持しています。どうやら、それに操られて事件を起こすようです。事件解決後、原因と思われるカードを取り上げれば、直前までの記憶を失ない、気絶するらしく、後は、彼らを休息出来る場所に運べば大丈夫でしょう」

     相手は一般人ですから、皆さん灼滅者のESPなどを使うという手も使えます。
     それが済めば、皆さんは臨海学校の行事を楽しんでください。 
    「敵組織の思惑や回収したカードの分析などは、すぐに出来るものではありませんから、皆さんが戻って来てから、行う事になるでしょう」
     
    「僕、凄く楽しみにしてたんだ」
    「皆さんも、薫君も楽しんで来てください」
     晄は見送る側らしく、水分補給を心がけるよう、夏の過ごし方を一通りレクチャーしたのだった。


    参加者
    両角・式夜(黒猫カプリッツィオ・d00319)
    早鞍・清純(全力少年・d01135)
    東海・一都(和服執事・d01565)
    字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)
    風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)
    洲宮・静流(蛟竜雲雨・d03096)
    エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)
    鷹月・漣(静観する影の処刑人・d15806)

    ■リプレイ

    ●無粋な来訪者
     強い陽射しが陰り始めた。
    (「ただの臨海学校にはならないと思ったけど、…兎に角ささっと解決してしまいたいものだ」)
     濃紺地に波柄のサーフパンツを穿いた洲宮・静流(蛟竜雲雨・d03096)が砂浜へ歩いてくる。
    「少し涼しくなってきたね」
     薄手の上着を羽織った風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)は海風を肌に感じた。
     ドルフィンが裾で踊る水色のサーフパンツを穿いた御門・薫(藍晶・dn0049)は、砂の感触を楽しんでいる。
    (「一般人を操って大量殺人とはな…悪趣味すぎて笑えない」)
     字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)は溜息をつく。
     襲撃してくる者達が現れるという洗い場を注視し乍ら、目線が水着に向かうのはきっと本能。
    (「修学旅行に涙した俺達に女神が…! 臨海学校ばんざい! 水着女子ばんざい!」)
     早鞍・清純(全力少年・d01135)は心の中で拍手喝采を送る。グリーンのサーフパンツに、南国気分を醸しだすハイビスカスの花をミルクティ色の髪に挿し、にこにこ笑顔だ。
    「俺凄く幸せだ…」
    「良かったですね」
     しみじみと膝丈の迷彩柄のサーフパンツを穿いた東海・一都(和服執事・d01565)が口にする。
     今回、女子は望とエウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)の2人。望は深紺のビキニで、レースと真珠の飾りが裾を彩り、エウロペアは競泳水着に似た形状の黒の網水着だ。細かい網目から肌が透けて見え艶めかしい。とはいえ胸元は髪を垂らしているし、腰には長目のパレオでガードされている。足首では星空の環が心地よい音を奏でた。
    「あ、あまり見られると恥ずかしいから勘弁してくれ」
     望は白いキャスケットの下、恥ずかしそうに頬を染めつつ胸元を腕で隠す。
    (「楽しい一時を過ごす為にも、まずは一仕事をしないといけませんね」)
     左側に白の縦線が入った黒地の膝下丈ボクサートランクスに、白の薄手のパーカーを羽織って、鷹月・漣(静観する影の処刑人・d15806)は心中で呟いた。
     両角・式夜(黒猫カプリッツィオ・d00319)は、惨劇が起こる状況に近づいてきたなと思う。頭にはハートのサングラス、紺地に藤が描かれたサーフパンツを穿いている。相棒のハスキー霊犬 、お藤も揃いで乗せて、砂浜の感触を楽しんでいた。
    「さて、待ち構えるか」

     美味しそうな匂いが漂い始めた。
     怪しい動きをする一般人に目星をつけ、洗い場から静流が戻ってくると、背格好等特徴を伝えた。静流自身は一般人に被害が及ばない様に守り庇えればという思いがあった。折角の臨海学校を血を流したく無かった。
     まず一都が殺界形成で被害者になる一般人達を遠ざけると、誘導される様に現場から離れていく。
    「被害がない様にしないといけないからね」
     運悪く残った一般人には漣が王者の風を使い、この場から離れて貰う。
    「ごめん」
     気の毒そうな表情で見送り乍ら漣は口にする。
     遊んでいる演技をしながら、ビーチボールを打ち合う。
    「来たな」
     待ち構えている面々が頷きを交わす。洗い場からやってくる男達を認める。
     水着を着た危うさを感じさせる男達5人は、ナイフをちらつかせてやってきた。傷つける対象を探す眼差し。
     清純がサウンドシャッターを展開し、戦場外に物音が届かない様に遮断。
     予定通り、洗い場から出てきた所で取り囲む様に陣形を組む。
     式夜の盾役としてお藤は式夜の前に進み出た。
     その陣を突破しようと、ナイフを手に襲いかかってきた。
    「誰からこんな事をそそのかされた!?」
     静流が混乱している一般人を装い、問う。
    「選ばれた者は何をしてもいいんだよ…!」
     愉悦に満ちた表情を浮かべる男の刃を躱し、情報らしき物は引き出せないと判断すると行動は早い。
     エウロペアと式夜がラブフェロモンを使い、魅惑する。
    「のう、そなたら。わらわはあの空の大輪の花を楽しんでおる。暫しの間じゃ。…そのまま動かずにいてもらえるかの?」
     物憂げな表情を浮かべ乍ら、胸元の谷間を持ち上げる様に腕を差し入れて話し掛けた。
    「時間良いかな? お前の持ってる黒いカード誰に貰ったのかな」
     その間に後ろに居る男達に取りかかる。
     後方に居る男が躓き、砂浜の上に顔面から突っ込んだ。 彼方が闇纏いを使い足を引っかけたのだ。
    「選ばれたよね、もっと強い人にいじめられる為に」
     そう耳元で囁き、男の背中に跨がって乗り、手にあるナイフを抜き取ると男の手に届かない様に捨てた。続けて男が身につけている筈の黒いカードを探る。
     望は旅人の外套を使用し後方にいる男に接近し耳元で囁く。
    「…怪奇・見えない吸血鬼だ。ご馳走様…」
     そして吸血捕食を行い朦朧とさせた所で、男が所持している黒いカードを探し、回収する。
     静流が残る3人の男達に王者の風を使う。萎縮して此方の出方を見る様な態度に変わるのを見て取ると、清純と一都が手加減をし殴った。
     残る1人も手加減攻撃を喰らい、黒いカードを取り上げられると、他の男達同様に気絶したのだった。
    「…コレ持っていたら、ゲルマンシャークの所でも闇落ちしなくなるとかあるのかなー」
     彼方は黒いカードを手に、疑問を口にする。
    「どうなのだろうね」
     薫が覗き込む。
     集めた黒いカードは一纏めにし、直接触れない様に包んで仕舞う。
     漣と清純、静流で手加減攻撃で傷ついた男達を集気法や清めの風で癒し終える。
     漣は微笑を浮かべ気を失っている男に声を掛けた。
    「安心して下さい、傷は治しておきましたから」
     男手で男達を運び出す。木々に凭せ掛けて座らせておけば、転た寝をしてしまったと誤解してくれるだろう。
    「うむ、まあ夕食の前のよい運動にはなったな!」
     血を流さずスマートに事を運べたのを満足そうにエウロペアが締めた。

    ●賑やかな夕食
    「ごっはーん♪」
    (「誰かとバーベキューをするのもこれが初めてなんだよな」)
     漣はわくわくしているのを自覚していた。
    「事件性の無い臨海学校って都市伝説なのかなあ…」
     お茶を口にし、静流がぽつりと漏らす。
    「張り切って用意させて頂きましたんでバッチリです」
     静樹はおかんの様に甲斐甲斐しく動く。
    「ひゃっはー! 水着女子!×3! 水着女子を眺めながらみんなでバーベキュー!」
     ありがとう水着。清純が水着に感謝を捧げる。
    「肉中心! 野菜は少なめでいいですよね」
     一都は肉から焼き始めた。
     良い肉質の牛肉はエウロペアが通販で購入した物らしい。
     式夜が肉が焼けてきたら、焦げる前にガンガン誰かの皿に乗せて、焼き奉行と化す。
     魚のホイル包みも焼きたいと準備を始める。
     静流は鉄板で焼きそばを作り、ソースの香ばしい匂いを漂わせた。

    「お藤」
     こっそりお藤に肉をあげながら、エウロペアの口元に運ぶべく仕草で訴える。
    「あ~ん」
    「む? 何じゃ式夜、口を開けと?」
     目を閉じ、口に入れられた物を味わう。
    「むむ? これは…椎茸か! うむ、美味じゃな! ならばわらわからもお返しじゃ」
     肉を箸で摘む。
    「あ~ん。ん、美味い」
     何処か甘い雰囲気が漂っている気がした。
    「浜辺でやるのもまたいいものだな」
     海面で冷やされた風を肌に感じ乍ら、望は野菜多めの皿を攻略する。

     純血のフィラルジアの面々を見て、
    「アッー! 女子が居ないいい! 何だこの野郎率みっしりいい!」
     と涙目になる清純に一都が吼えた。
    「…折角の海辺なのにぃぃぃ!」
     水着女子は貴重種です。この場では。
    「女子の水着とか必要だろ!」
     見ろ、この男ばかりの水着姿を! と腕を伸ばし、クラブ員の皆を見やる。
     そろそろ女子禁制クラブに男装女子がこっそり入ってるとかそういう展開が無いだろうかと考える。
    「全く残念な限りです」
    「男子の水着だけとかムサクルシイよ! 目の前の炭火で更に暑苦しいよ!」
     ひたすら肉を焼きつつ、口も動かす匡。もしかして、一心不乱に焼く姿に可愛い水着女子が気づいてくれるかもという希望を抱いているからだ。
    「あ、はいこれ焼けてるよ、お野菜も食べてね、タマネギ美味しいよー」
    「俺は肉と野菜があれば十分バーベキューだと思うのですが…」
     みをきが淡々と語り乍ら、肉と好きな南瓜を皿に盛る。
    「野郎ばっかりだから、食べ物争奪戦とか気楽に出来るんじゃないですか」
     静樹はたれや塩胡椒を補充しつつ、その後に展開されるであろう先を想像してげんなりとなった。
    「野郎だけだなんて純粋に食べる事に専念するしかないじゃない!」
     狭霧が整った顔を悔しそうに歪めた。
    「こうなったら、リア充代表静流をリア充神として奉って胴上げするしか…!」
    「え、早鞍が俺を胴上げ?」
    「俺達もリア充になります様にという名目で!」
     胴上げ! とローランドのナノナノのえくすかりばーが静流の上で踊る。
    「これはお御輿じゃないから、静流くんの上でコサックダンスはダメだよ!」
    「(ヤるならボクと二人っきりのときに濃密にヤろうね?)」
     小声で相棒に囁くローランド。
    「はぁ…彼女いるしナンパはしないけど、目の保養くらいは欲しいぜ…」
     紫廉が男臭いエリアからリア充的とばっちりを喰らわない様離脱しようとする。
    「というかリア充祈願で俺を流すって八つ当りじゃないかやだー!」
    「その後? 勿論リア充は海に流すに決まってるヨネー」
     海へと入って泳ぎを競う。
    「洲宮がんばれー。頑張って非リア共を引きつけてくれー」
     紫廉の温かい? 声援が飛ぶ。
    「ふはははは、残念俺泳ぎは超得意! 返り討ちだ寧ろお前が流れろ!」
    「ヤっていいのはヤられる覚悟のある者だけだ! ってぎゃぁぁ!」
     ざっぱーんと流れていく清純。
    「花火大会始まったね」
     夜空に花火が打ち上がり始め、遠くに福岡市街と夜のキャンバスを彩る。
    「あ、俺野菜頂きます。タマネギ、あまーい」
     甘さを堪能し乍ら、美しい風景を記憶に留めておこうと海に目をやった。
    「…あれ、何か清純センパイ流されてません?」
    「ドジッコだなあ。先に頼むよ、えくすかりばーごー!」
    「え? 早鞍くんが流れてった? 誰か救助に…わかった、行ってくる!」
     慌てて匡が浮き輪を手に、清純救出に向かう。
    「…ん? 早鞍が流れてった? ふーん。まあ笠井が救助にいったしいっか」
     紫廉は引き続き、肉野菜白米と健康的食べ方で箸を進めるのだった。
    「ふ、流石は先輩方だ」
     それぞれの反応にみをきは感心する。
    「笠井先輩が助けにいったけど…他のメンバーは通常営業か。ははは、楽しい臨海学校だな」
     静流が、皆の様子に笑う。
    「どうしてこうなったも日常運行過ぎて涙誘います…笠井先輩、やばかったら叫んで下さいねー!」
     静樹が匡の背に声を掛ける。
     バーベキュー中も花火をしようと、水を張ったバケツを用意してある。花火が夜空を鮮やかな色で彩り、砂浜から打ち上げられた花火も追いかける様に花開く。

     焼き上がった野菜や肉がどんどん焼き上がり、食欲のそそる匂いが広がる。
     一葉と焦、漣も合間合間に口にしているが、焼いて居る時間の方が長い。
    「まだまだありますので安心して下さいね」
    「うん!」
     彼方は目を輝かせ、肉2:野菜1の割合でお皿に盛る。
    「…ピーマン、嫌い」
     苦手な野菜を外しつつ、焼きたてを味わう。
    「薫君、好きな食べ物はありますか?」
    「お肉に塩かけて食べるとおいしいですよー」
     一葉が好みを、焦が美味しい肉の食べ方を教えて呉れる。
    「南瓜のスライスしたのが好き。お肉も!」
    「じゃぁ、多めに入れますね。あ、焦、タマネギは私が食べます」
     一葉は焦の苦手なタマネギを自分の取り皿に盛る。
    「一葉がタマネギ食べるなら俺は納豆食べるよ! …バーベキューにそんな物無いけど」
     2人のやり取りに境月と夜深は楽しそうに見ている。ミリーは、串に刺した肉を美味しそうに食べていた。
    「嫌いな物を好きな人が食べてくれるんだ。優しいね」
     そう言って薫は2人を見上げた。

     彼方が水を入れ氷を張った盥で冷やしていた西瓜を取り出す。
    「スイカ割り始めるよー! 冷え冷えだから美味しいよ~」
    「やっぱり砂浜といえばこれですよね」
     丁度よさそうな棒を調達してくると、目隠しをしてスイカ割りが始まった。
     一都が一番目と言う事で目隠しをし少しずつ歩を進めていく。
    「ふふ、なんか楽しいな…ほら、そこ右だ」
     望が楽しそうに声を掛ける。
     周囲の誘導する声に惑わされ、真っ直ぐに進まないのがスイカ割りというもの。
    「真っ直ぐ3歩」
    「左に2歩!」
     彼方の誘導に、戻って来た清純が加わる。
    「騙されませんよ!」
     と、一都は棒を振り下ろした。
     鈍い音ともに数秒遅れて割れる音が響いた。

     バーベキューの間も打ち上げ花火を楽しんでいたが、線香花火別のよう。灯りが当たらない海側で始めた。
     彼方は花火の火がついている間、残光を利用して絵を描いたり、仲間の名前をひらがなで書いてみた入りして楽しんでいる。
    「上手くできた」
    「僕も」
     薫が見よう見まねで試して遊ぶ。
    「こういう静かな花火もまたいい…」
     望は音と単色の花が咲くのを最後まで堪能する。
    「綺麗なものだな、いつ見ても…」
     色とりどりの花火が夜空を彩る中、自分の手にある小さな火花が咲いては散る様を静かに眺めて、漣の口元には自然と笑みが浮かんでいた。
    「最後はやっぱり線香花火だね」
     彼方は爆ぜる音に耳を澄ませる。
    「たまには静かに線香花火とかも良いですね」
    「そうだな」
     一葉と焦は幸せそうに寄り添い手を重ねた。そして見つめ合い、線香花火に視線を落とす。
    「あっ、消えそう」
    「一寸待って」
     焦はそう言うと、一葉の線香花火に自身の線香花火をくっつけた。火玉が一つになる。
    「これなら、一緒だ」

    ●夜空の下で
     賑やかな時間は終わり、星空の下は静けさを取り戻す。
     漣はパーカーを砂の上に落とすと、夜の海に入っていく。冷たい海水が火照った肌を冷ます。
    「少し冷えるけど、やはり海は涼しくて気持ちいいですね」
     海に浮かんで煌めく星を見上げた。

     それぞれの時間を過ごす中、式夜はシャワールームでばったり会ったエウロペアに、声を掛けた。
    「よお、どうせだし一寸付き合わんか?」
    「くふふ覗きか、式夜よ? 一足遅かったな?」
     水着から浴衣に着替えたエウロペアの結い上げられて、先程とは違う印象を受けた。
    「違うって。いや、まぁ見せてくれるのならそれは嬉しいけどな」
     そんなやりとりをしつつ、砂浜の方へと歩く。
    「ワイワイ騒ぐのも良いが、静かな夜の海も良いもんだ」
     式夜が夜空を指で示す。その指を辿った先に広がる星々にエウロペアは感嘆の声をあげる。
    「―おお! これは…何と見事な…!」
     式夜はその様子を満足そうに眺め、
    「お前が楽しそうなのが見れてなによりだよ」
    「うむ…これは来た甲斐があったのう」
     エウロペアのはしゃぐ姿に自然と式夜は笑みを浮かべていた。

     砂浜に寄せてはかえす海の音をBGMにして、夜は更けていったのだった。

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 3
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