博多湾沿いを西へと進めば――見え始めるのは、空を廻る観覧車。
そこはヨットハーバーやマリーナに隣接する施設・『マリノアシティ福岡』。
九州各地から沢山の人が訪れるマリノアシティは、この日も、大変な賑わいをみせていた。いやむしろ普段よりも心なしか、人が多い気がしないでもない。
その理由は。
「博多湾で今晩さー、花火大会やるんやろ? マリノアからやったら、角度的にもばり綺麗に見えるやろーね!」
「うんうん、観覧車とかカフェから花火が上がっとーの見るのも素敵やない?」
博多湾で今晩行なわれる、花火大会の影響もあるだろう。
そして博多っ子達の言うように、博多湾に面するここ『マリノアシティ福岡』からであれば、綺麗に花火が見えることだろう。
だが――買い物等を一通り済ませ、花火を待つ人々の瞳に咲いたのは。
空を彩る美しい光の花ではなく……どす黒い、血飛沫の華であったのだ。
「俺は今日で人間を卒業するとよ! 何せ俺は選ばれたんやからな!」
突然、海を臨む木製の遊歩道・ボードウォークに響いたのは、男の声。
そして何事かと、人々が声のした方向へと振り向いた瞬間。
「えっ!?」
「きゃあっ!!」
上がるのは、勢い良く噴き出した血飛沫と人々の悲鳴。
狂ったように声を張りあげ笑う男が、傍のベンチに座っていた男性の背中を、ナイフで刺したのだった。
周囲は一瞬にしてパニック状態に陥り、悲鳴が轟く。
男はそんな状況をニヤニヤ眺めつつも、ふと1枚の黒いカードを手にして。
「きさんら、選ばれた俺に殺されるっちゃけんね? ちかっぱ光栄に思いーよ!!」
今度は、逃げ遅れたすぐ傍の老人へと、躊躇なくナイフを振り下ろして。
「! うあ、あぁぁッ!」
「きゃッ! あ……ああ、ぁッ」
転んだ女性を滅多刺しにし、彼女の白の浴衣を真っ赤に染め上げてから。
「はりきって(H)・ころし(K)・たい(T)ったーーーい!!」
誰彼構わずナイフを突き立てては、海沿いに、血の華を咲かせるのだった。
●
「みんなー、ようやく待ちに待った臨海学校だねー!」
飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は集まった灼滅者達にへらりと笑むも。
少し複雑な表情を宿してから、こう続けるのだった。
「でも実はさ……臨海学校の候補の一つの九州でね、大規模な事件が発生する事がわかったんだ。大規模といっても、事件を起こすのは、ダークネスや眷属や強化一般人じゃなくて普通の一般人だから事件の解決は容易いだろうけど……この事件の裏にはね、どうやら組織的なダークネスの陰謀があるみたいなんだよ」
事件を起こるのは、この日の夜に博多湾で行なわれる花火大会開始の1時間ほど前。場所は、花火を観ようと人が集まり始めた『マリノアシティ福岡』の海沿いのボードウォークだという。
敵組織の目的はわからないが、無差別連続大量殺人が起こるのは見過ごせない。被害者を出さぬよう、この事件を起こす一般人の男を止めて欲しい。
「それでね、殺人を起こすのは、ゼンジっていう男性なんだけど。何かカードのような物を所持しててね、それに操られて事件を起こすみたいなんだ。だから事件解決後、このカードを取り上げれば、直前までの記憶を失なって気絶するみたいだから、あとは休息所などに運べば大丈夫だと思うよー」
その黒いカードが何なのかは分からないが。
どうやら原因らしいそれを取り上げれば、男は気絶し大人しくなるだろう。
「ゼンジはね、ボードウォークにやってくると、周囲の人の目を引くべく大声を張りあげるんだ。それでその後、館内案内図のこのベンチに座ってる人の背中をまずナイフで刺して、その後も、無差別に人を襲うみたいだから。灼滅者の誰かがこのベンチに座って囮になって、その隙に周囲の人の避難誘導を行ない、ゼンジのカードを取り上げることができれば、被害は抑えられると思うよ」
遥河は入手した施設地図を広げ、ゼンジの出現ポイントに、にわかに、赤くて四角い垂れ目なお面を描きつつも続ける。
「相手は一般人だから、ゼンジを取り押さえてカードを取り上げることは灼滅者のみんななら容易だと思うよ。でもボードウォークにはそこそこ人が花火を観るべく集まりかけてるから、被害が出ないようにお願いするね」
遥河はそこまで説明した後、改めて『マリノアシティ福岡』の館内図に目を向けて。
「敵組織の狙いやカードの分析とかは、みんなが戻ってきてからになるかな。現場ですぐに調べられるものでは無いだろうしねー。だからさ、せっかく博多湾で花火大会もあるみたいだし、事件解決後は、福岡での臨海学校を楽しもー」
へらりと再び笑みながら、灼滅者達を改めて見回した。
『マリノアシティ福岡』は、観覧車がトレードマークの九州最大のアウトレットモール。
広い施設内には、トレードマークの観覧車に、沢山のショップや海を臨めるカフェやレストラン、ヨットハーバーやデッキなど。まさに、ウォーターフロントというロケーションを生かしたエンターテイメントスポットなのだ。
「なんかねー博多湾を臨むこのマリノアからだったら、花火もよく見えるみたいだよー。海がすぐ目の前のボードウォークから観るのもいいし、お洒落なカフェやレストランで甘い物や美味しい物食べながら観るのもオサレだし、それに観覧車の中から花火を観るとかも、すっごく素敵じゃない? あ、マリノアでは、屋外や屋外に面した通路だったら犬を連れて入れて、テラスで一緒にカフェできるお店もあるから、霊犬も一緒に大丈夫かも。でも、もし霊犬と一緒に楽しみたい場合は、くれぐれもしっかり施設のルールを守ってね」
謎のカードを持つ一般人から、この『マリノアシティ福岡』を守って。
その後、マリノア内で花火見物をして帰るのもいいだろう。
「臨海学校なのに、戦闘が発生しちゃうことになるけどさ……臨海学校を楽しむためにも、ゼンジの凶行の阻止を、よろしくお願いするね」
遥河は赤い垂れ目のお面を顔に当てつつ、ごめーん、と何となく呟いてみた後。
館内の気になるオサレカフェを早速チェックし始めるのだった。
参加者 | |
---|---|
風音・瑠璃羽(散華・d01204) |
シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984) |
風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902) |
鳳来・夏目(鳳蝶・d06046) |
大橋・南(飛べ飛べ不死鳥魂・d11459) |
大・丈夫(ご当地の風・d14553) |
中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179) |
黄瀬川・花月(錆びた月のベルンシュタイン・d17992) |
●黒きカードとHKT
博多湾に吹く風が運ぶ、生温い夏の感触と仄かな海の香り。
福岡の今年の夏は特に暑く、漸く日が沈んだ後も、汗が引く気配はない。
だが猛暑の中でも、『マリノアシティ福岡』のボードウォークには、沢山の人の姿があった。
そして海沿いの木道のベンチへと、二人の少女が座った事を確認した後。
風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)は人の波に紛れ、身を潜ませながらも思う。
(「ふざけたネーミングにふざけたやり方、一体なにが目的だ……」)
未来予測されたのは、此処で起こる一般人の凶行。
何だか波乱の臨海学校ね! と、中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179)も、さり気なくベンチの傍で待機しつつ。
(「黒幕の正体が見えないし、何だか大きな事件の前触れなのかなって予感もするけれど……折角の旅行ですもの! 皆で思い出作りを楽しんでいきましょう♪」)
臨海学校を楽しむべく、海に似た色の瞳で周囲をそっと見回して。
(「……気持ち切り替えて、今は目の前の事、しっかりやろうか」)
賑やかな周囲の様子に、一瞬だけ複雑な表情を宿すも。
黄瀬川・花月(錆びた月のベルンシュタイン・d17992)もベンチから近い距離を保ちつつ、雑踏に姿をくらませている。
花火を待つ博多っ子達は思ってもいないだろう。
この場がもうすぐ、恐怖に彩られる事を。
だが、そうはさせない。
(「人様のご当地でなんばしてっと!」)
(「臨海学校くらい平和に過ごしたかったんだがなぁ」)
大橋・南(飛べ飛べ不死鳥魂・d11459)と大・丈夫(ご当地の風・d14553)、福岡のご当地ヒーロー達が、好き勝手させません!
(「まぁ黒いカードを回収しつつ、楽しみは楽しみでやってみようか!」)
(「とりあえずさっさと終わらすか!」)
早急に事件を解決した後は勿論、地元での臨海学校も楽しみます!
(「またえらい臨海学校になったもんやね」)
鳳来・夏目(鳳蝶・d06046)も周囲の賑やかさに、牡丹の如き赤の瞳を細めるも。
(「血の花なんて見とうないわ。必ず止めてやろ」)
夏の夜に咲くのは、空を染める光の花だけでいい。
そうふと、やって来た一人の男の姿を確認し、仲間達に目配せしてから。
(「熱気に浮かれ過ぎた無粋者はお呼びやないで。頭冷やしや!」)
冷たい閃きが振り上げられた刹那、流れる様に黒髪を靡かせ、地を蹴った。
ベンチに座っている少女達の背にナイフを突き立てたと――そう、思ったのに。
「な、何やと!?」
その男・ゼンジは、大きく瞳を見開いた。
藍色の髪をひらりと波立たせ、少女――風音・瑠璃羽(散華・d01204)が、ナイフの刃を難無くかわしたからである。
さらに、もう一人の少女・シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)が、すかさずゼンジの前へと立ち塞がる。
「誰も傷付けさせません……ここで食い止めます」
おどおどした第一印象とは違い、しっかりと言い放つシャルリーナ。分厚い眼鏡の奥の瞳に、人々を守りたい意志を宿して。
そしてナイフを振り回す男に気付いた周囲が、花月の展開したパニックテレパスの効力も手伝って、一瞬にして騒然となるが。
「大声で逃げて! ここから離れて!」
「そんなに急いだら、ぶつかっちゃうわ! あっちの方楽しそうよ、気をつけて行ってらっしゃい♪」
誘導係としてプラチナチケットを使用した夏目や、ラブフェロモンで惹きつけ声をかける紅葉、赤いマフラーを靡かせ避難を促す丈夫が、人々を巧く誘導していって。
「今、すぐ治すから」
転んだ子供へと、ヒーリングライトを施す花月。
そんな仲間達が、一般人を遠ざけている間に。
「何するとや、きさん、くらすぞ! 何せ俺は選ばれた存在……わっ!?」
「バードファイブのロストレッドとは私……いや、ボクのことさ!」
今は違うけど、と付け加えながらも。
颯爽とカッチに乗って乱入した南が繰り出すのは、ひき逃げアタッ……先制強襲!
カッチに轢かれそうになったゼンジは、慌てながらもハッと顔を上げて。
「ロストレッド、やと? あの引退したっちゃないかって、特に南区辺りで噂の……! ひっ!?」
情けない声を出した瞬間、すてんと無様にすっ転ぶ。
「折角の臨海学校で花火大会なんて素敵なシチュエーションなのに、迷惑なの!」
一般人だが、相手は狂人。
決して油断せず、肉を切らせて骨を断つ――そんな心意気で臨む瑠璃羽が王者の風を纏い、ゼンジの足を払ったのだ。
そしてシャルリーナが身体を張り、地に転がる男を取り押さえにかかる。
「ここは通しません、大人しくして頂きます……!」
「ぐ……! は、離さんか! このカードが、俺が選ばれた証なんやからな……!」
「!」
そうゼンジが取り出したのは――黒いカード。
「大人しくそのカードを渡しなさい!」
「そのものはお前にすぎるものだ。悪いこと言わないから早くそれを手放せ」
素早く、事の元凶らしきその黒いカードを取り上げにかかる、瑠璃羽や孤影や夏目。
ゼンジは往生際悪く、尚も無駄に足掻くも。
「な、何するとや! それは俺の……ぎゃあッ!?」
シャルリーナや丈夫や南の手加減攻撃をくらい、花月の肘打ちを背中に受け、カードを没収されて。
最後に紅葉にペチンとされた後、ようやく大人しくなったのだった。
そして、ゼンジを施設の救護室へとつき出した後。
「解散前に、記念撮影は如何?」
夏目の提案で、事件を解決した仲間皆で記念撮影を!
いえ、8人だけではありません。
「ふふふ、まるで兄妹ですね」
満面の笑みで張り合う夏目と伊吹に、千景も微笑んで。
「ほら、こっちですよぉ」
マルタに手招きするシャルリーナ。
「せっかくの記念だからな!」
「そうそう、折角の縁ですもの」
丈夫と紅葉も、南や太郎やエリザベスや周囲にいる武蔵坂の皆を沢山引っ張りこんで。
「ね、花月も一緒に写ろ!」
「私も端の方に混ざろうか」
遥河の声に頷く花月。
そして、向けられるカメラの前で。
「……って、きゃっ。も、もうっ……相変わらず大胆なんだから……」
静かに笑みつつも肩を抱いた孤影に、顔を真っ赤にさせる雛。
瑠璃羽も暁に微笑んで隣に並んだ後、遥河に手招きして。
煌く夜の観覧車を背景に――みんな揃って、ハイチーズ!
●いざゆけ臨海学校!
「いやはや、賑やかですねぇ……」
流希の言う通り、夜になっても沢山の人で賑わうマリノアシティ福岡。
花火大会があるためか、浴衣姿の人も多い。
「普段でしたら、人の多そうなところにはきませんが、たまには良いものですねぇ……」
流希はそう周囲を見回した後。夏の夜空に咲き始めた花を、見上げた。
その同じ頃、南は。
「やー、久々にご当地パワー貰ったわぁ」
カッチに乗り、マリノア周辺の海沿いをツーリング!
ぐるりとマリノアを一周した後、元寇防塁まで足を伸ばして。
「たまやー!」
空に上がる鮮やかな花火を見ながら、カッチと一緒に全身で感じ走る。
地元に吹く、夏の夜の潮風を。
遥河オススメのオサレカフェで、嗚呼幸せーと甘味を頬張る夏目に。
何か奢ってやろーかと……そう思った、矢先。
「言うまでもなく取られてたぎゃー!」
ちゃっかり先に味見された伊吹は、夏目に応戦!
そんな、またも兄妹喧嘩する二人を微笑ましく眺めながら。
「折角ですから花も団子も楽しまなければ損ですよね」
こくこく笑う千景も、伊吹の甘味をこっそりぱくりっ。
がくり項垂れる彼には大人気ないですよと笑いつつも、夏目には遠慮なくどうぞどうぞと差し出す千景。
でもまぁ、楽しいからいいですよね、ね!
そう気を取り直しつつ、伊吹は夜空に咲いた花火を見上げて。
夏目は、平穏なこの一時を噛み締めつつ思う。
この光景を守れてほんまに良かった、と。
そして次また何があろうとも、きっと守り抜いてみせるわ――と。
そんな密かな誓いを改めて、その胸に刻みながら。
「あ、隙アリ!」
伊吹の手元へと、再び狙いを定めるのだった。
福岡のことはオレに任せろーと。
【正義の味方部】の皆を率先して案内するのは勿論、福岡県民の丈夫。
そしてまずやって来たのは、ジェラートの店!
「オレのおごりだし好きなのを選びな!」
そんな頼もしい丈夫の言葉に瞳を輝かせ、早速皆で、メニューと睨めっこ。
「苺にしようかな、それともブルーベリーがいいかな……? みんなは何にする?」
「クレープも美味しそうですが、夏なのでジェラートでしょうか」
「オレはオレンジとストロベリーのダブルでジェラートをいただくぜ」
「ジェラートはやっぱりダブルかしら。フラッペも気になる…………クレープ、ジェラートinバナナチョコで」
それに今夜は、博多湾で花火大会があるのだという。
せっかくだから見ちゃおっか! と周囲を見回す謳歌に、丈夫も大きく頷いて。
「二階の見晴らしのいいところで花火だ! 花火を見るぞ!」
「あっ! あそことかどうかな? そろそろ始まるかな……? ちょっとどきどきするねっ」
「ここからなら花火が良く見えそうですね」
海側2階のテラス席からジェラート片手に、皆と上がり始めた花火を眺める太郎。
エリザベスもクレープを口にし、笑んだ後。
「そちらのも一口貰って良いかしら? 交換しましょう」
美しく開く光の華の下で、ジェラートの交換こを。
観覧車の近くのもんじゃ焼き屋には、【鴉真道場】の皆の姿が。
「もんじゃ焼きか、聞いた事はあるけど食べるのは初めてだ」
豚肉とチーズのトッピングを試してみたいと悟を見る花月や皆に、もんじゃ焼きのレクチャーを始めるレイシー。
でも作業は他の誰かに丸投げ! 何かしら大変なものがきっとできちゃいますから。
何やら部長が焼くと悲劇が起こるそうなので……教えて貰いつつもまず、1枚焼いてみた航は。
「やっぱ航先輩すげー手際えぇな! できたて一番のりえぇんか? おっしゃ!」
「悟、とりあえず毒味して下さい。いやぁ、何かあっても骨は拾ってあげますよぅ♪」
まずは悟に、毒見……いえ味見を!
そして。
「ううぐっ……うまー! ありやなこれ!」
いけるで! とほくほく頬張りつつ、これご飯は無いんやろかと首を傾ける悟。
もんじゃ焼きも、おかずです……!?
「ふむふむ、こうしてみるとお好み焼きとは全っ然別の食べ物なんですねェ~」
「折角だし、飲み物は奢らせてくれ。無事解決記念と、来てくれて有難うと、暑いし……な」
「大人数でご飯食べるって幸せだな!」
暑い時に熱いものを皆で食べるのもなかなかいいものだと、もんじゃ焼きを存分に堪能する面々。
そして悟は、次レイシー部長やいてみやへんか? と。色んな意味で、チャレンジです!
きらきら花火を観ながらの、わくわくカフェ。
甘い物沢山のメニューに悩むのも、また楽しくて。
シキテも一緒のテラス席で、チセと朔日は、頼んだフルーツカキ氷とアイス乗せパンケーキを味見し合いこ。
そして――スイーツを一層飾るのは、空に咲く色鮮やかな花火。
「わぁ! すごく大きかったね。朔日は柳の枝みたいに流れる花火がもう一度見たいな」
「チーは丸の中にやしの星咲くのが好き!」
そしてシキテのお気に入りは、一鳴きしたあの銀冠の花火らしい?
豪快に咲いては流れていく光の煌きの下で。
チセと朔日とシキテは、またひとつ、色鮮やかに咲かせる。
ずっと忘れない、満面の笑顔の花を。
「デートしよう! ルカの奢りで!!」
いい笑顔でサムズアップし、奇襲をかけてきた七緒に。
遥河はへらりと笑んで、いいよー約束だしねっ♪ とサムズアップ返し!
「オサレなカフェって何が美味しいんだろう?」
貴子はそう首を傾けつつも、メロンとかメロンとか所望する七緒に、メロン味のなにかあるといいね! と笑みながら。
綺麗に煌く大きな観覧車を見上げ、遥河や七緒とオサレカフェへ!
そして……そんな級友達を見つけたのは、写真を撮って歩いていた夏槻。
もしも自分の記憶がまた空白になっても、級友達は覚えていてくれているだろうか、と。
そんなことを考えつつもシャッターを切り、躊躇った後、声を掛ければ。
ナッキーもオサレカフェに行こうよ! と、キャッキャいつもの笑顔に囲まれる。
どこで何を誰の奢りで食べたとしても……皆で一緒の今は、こんなに楽しいから。
だからまたお出掛けに行こうね、と。上がり始めた花火の下で、そう約束を。
手渡したチョコレートドリンクは、礼という名目。
だけど春翔曰く、これは自分の我儘。
逆に奢られた律花は、炎の様な髪を靡かせつつ、海の様な瞳を細める。
まあ、そう言う頑固なトコも好きなんだけど……と。
そして律花は、和らいだ表情で見つめる春翔に、少し微笑んで。
「なぁに? 子供っぽいって思った? 好きなのよ、花火」
「そうらしいな。表情が生き生きしている」
「私の炎も、あれくらい綺麗なのだったら……よかったのにね」
花火に彩られながらもぽつり零した彼女を、今度は春翔が、東京の花火大会に誘う。
その時は二人ではないだろうけれど。それでも、また一緒に、出掛けたいから。
女の子らしいワンピースをふわり揺らしながら。
待って、と藍色のカーデガンの裾を掴んだ鶫に。
「手を貸せ、はぐれると面倒だ」
差し出されたのは、広樹の手。
それから手を繋ぎ、訪れたイタリアンの店で。
「お前が家の跡を継ぐ時は……その時はオレも一緒についていく事にした」
告げられた広樹の決意に鶫は驚きつつも、少し困った様に笑んでから。
上がった花火へと、視線を向けた。
そんな彼女に、広樹は悪戯っぽい笑みを向けて。
「ふむ……綺麗だ。……さて、そっちのお姫様には楽しんでもらえたかな?」
「ふふ、そうね。悪くないデートだったわ」
鶫もお返しよと、悪戯な微笑みを。
●廻る空と煌きの華
初めて一緒に見る花火だから、初めての見方でみたい、と。
立夏は素直に応じた徹也の手を引き、夜空を廻る観覧車へ。
姿勢正しく座る徹也は、観覧車からの花火を興味深く思いながらも。
――たまやー、と。
窓にへばりつき花火を満面の笑みで見る立夏と、真顔で見事なハモりを。
そして立夏はこっそり、徹也の横顔を盗み見て。
食い入るように花火を眺めるその様子に幸せを感じ、再び彼を誘う。
「へへ、来年も又一緒花火みよな!」
楽しいとか嬉しいとか、一杯感じて欲しいから。
そして徹也は少し考えた後、応える。
「了解した」
花火に染まる観覧車の中で……約束しよう、と。
「そび、そび。あれ、観覧車? 観覧車、ですか?」
アスルと手を繋ぐ草灯は、そうよ、と微笑ましげに頷いてから。一緒に、観覧車へ。
「遠くまで見えて綺麗ねぇ。ルーには一寸怖いかしら」
高く上がるにつれ、しがみついてくるアスルに、草灯はつい笑いそうになりながらも。その背を撫で、しっかりと、手を握ってあげる。
広がる海と街の風景。それを彩るのは、大輪の光の花。
「ほら、ルー。花火が上がったわよ」
「花火、すごい……。そび、花火。わ、また花火。ですー」
思わず興奮して、窓に両手をついたアスルであったが。
すぐにハッと慌てて、草灯の手を再び、ぎゅっ。
くるり廻る観覧車の中、ふたりきり。
夜空に咲く花は、手を伸ばせば届きそう。
そんな花火をうっとり眺めつつも、瑠璃羽は普段より大胆に暁に寄り添って。
彼女から伝わる体温や感触に、暁はイロイロと我慢しながらも。
ふいに目を奪われたのは、一番高い空から観る、すぐ傍で咲く光の花々。
でも、一番綺麗なのは。
「ルリの目、花火が映り込んでキラキラしてるよ」
夏の煌きに染まる愛しい人。
そしてその唇に、自分の唇をそっと重ねて。
「アキの瞳も……キラキラしてる……」
与えられたキスの優しさに、瑠璃羽も、花火に煌く彼の瞳だけを見つめる。
一緒に食事を済ませた後、シャルリーナが大切な妹を誘ったのは、花火が見える観覧車。
でも。
「マルタちゃん……。お姉ちゃんと一緒で楽しくなかったでしょうかぁ……?」
妹の顔を見つめ、そう声を掛けてみるシャルリーナ。
そんな声にマルタは返す。もちろん楽しいに決まってるじゃないか、と。
だって――シャルと一緒だから。
それからマルタはふいに、シャルリーナの顎をくいっと持ち上げてから。
「そうだ、ちょっと恋人の真似事でもしてみるかぃ?」
からかう様に大胆に姉を自分の方に引き寄せた後、誤魔化すように続ける。
……なんてね。冗談だよ、と。
「せっかく来たんだから、すこし歩いてみない?」
感じるのは、海の景色と潮風を楽しむ孤影の温もり。
雛は愛しい彼と並んで、海沿いを歩いてから。
ふたりぼっちの小さな世界――観覧車で、花火鑑賞を。
ゆっくり広がっていく景色を眺めつつ、孤影は恋人を引き寄せて。
永遠に融けあいたい……そう雛が微睡んだ刹那。
「こんなに近くで見ると、光の世界に入り込んだ気分だ」
「いい雰囲気ね……こんな近くで花火を見られるなんて、夢みたい」
二人を染める、夏色の煌き。
そして雛は彼へと、そっと顔を近づける。
――アンブラッス・モーア、ムッシュー……? と。
シェリーと七狼も、観覧車へ。
隣同士に座れば、君の体温がほら、じわり混ざり合って。触れる距離が心地良い。
「わあ、花火がこんなに近い……!」
その腰に手を添え、よりシェリーを近くに感じながら。
七狼はすぐ傍で咲いた花火と、重なる夜景の光を瞳に映した後。
カシャリと、写メを1枚――綺麗な夜景と、もっと綺麗な彼女の横顔を。
そして振り向いたお姫様に、口吻を一つ。
ずっとこの時が続けば良いのに……シェリーはそう思いながらも。
今度は二人で記念写真をと、カメラを構えた。
写真の中だったら……花火を眺める二人きりの時間は、永遠だから。
「ディアナ……俺よりも悩んでどうするんだ……」
「だって、翼はどれを着ても格好いいから……」
色々と悩みつつ、ぐるりと店を巡った後。
ふたりきりの観覧車は……いつもより余計にドキドキして。
実は翼も、ゼロになった互いの距離に、内心穏やかならぬ状態。
だが、平静を装って。
「……もうすぐ、上がるぞ」
無意識に彼女と手を繋いだ翼は窓の外の花火を見つめるも。
ふいに仕掛けられたのは――ディアナのキス。
「だって今の……学園祭の時の仕返しだもの」
そう悪戯っぽく言って、ふっと目を閉じた彼女に。
やれやれ……と、翼も花火で彩られた、お返しのキスを。
さ、どうぞっ! と紅葉に隣同士の席へと促された後。
そっと手を繋ぐ、奏と夢衣。お互いが、大好きで大切な人だから。
そして廻る観覧車の中、紅葉は花火をバックに2ショット写真を撮るべくカメラを構えて。
「ね、レオン君! これ綺麗にとれたと思わない?」
綺麗に撮れたそれをレオンへと見せる。
そしてレオンは優しく微笑んで。
「花火、綺麗じゃのう……」
観覧車から見える花火の彩を眺める。
……胸がちくりと痛むのはきっと気のせいで。瞳が熱いのは多分、夜空に鮮やかに咲く光の華のせいだから。
「夢衣、綺麗だね?」
「すごく高い、それに……とっても綺麗」
手を繋ぎ花火を見る夢衣に、奏はふいに顔を真っ赤にさせてから。
「あ、え……花火の事だけじゃなくて……いや、その……夢衣、綺麗だよ……」
鮮やかな色に染まった大切な人の顔を見つめ、ぎゅっと改めて手を握り締めた。
この幸せな日常に今、自分達は居て。大切な仲間と同じ時間を過ごせることが、嬉しい。
紅葉は、礼を言う皆に微笑みを返した後。
「他の皆も花火見てるって言ってたけれど、ここから見えるかしら?」
他の事件に赴き、同じ様に花火を見ているだろう仲間達を探す様に。
花火の彩りに染まり煌く平和な福岡の街を、高い空の上から眺めるのだった。
作者:志稲愛海 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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