臨海学校~縁日の少女~

    作者:奏蛍

    ●賑やかな縁日
     嬉しそうに小さな女の子がりんご飴をぺろりと舐めた。味に満足したのか、横で手を引く母親に笑顔で差し出している。
     射的をする恋人を応援する女性の声。賑やかな音に紛れて、美味しい食べ物の匂いも漂ってくる。
     陽が落ち始める中で、色とりどりのカキ氷を持った少女たちが歩いていく。
    「ひひひ、殺し……殺したい……」
     そんな雰囲気とはかけ離れた浴衣少女がひとり。そして浴衣の懐から刃物を取り出して斬りかかった。
     色とりどりのカキ氷が地面に音を立てて倒れていく。白く汚れのなかった氷の部分が真っ赤に染まっていく。
     賑やかな縁日が狂気に飲まれていく。
    「いやぁああ!」
     転がったりんご飴が、不釣合いな軽やかな音を立てた。
     
    ●臨海学校
    「もうすぐ臨海学校だ」
     物静かな雰囲気をした葉純・須凰(高校生神薙使い・dn0136)が集まった灼滅者(スレイヤー)たちに、もらった情報を説明し始めた。
     どうやら、臨海学校の候補だった九州で大規模な事件が発生するらしい。大規模とは言ったが、事件を起こすのはダークネスや眷属、強化一般人ではない。
    「普通の一般人だって話」
     そのため、灼滅者であれば事件の解決は難しくないだろう。しかし、事件の裏にはダークネス組織の陰謀が隠れていると思われる。
     組織の目的が何なのかは不明だが、大量殺人が起こるとわかった今、見過ごす事はできない。
    「殺人を起こす一般人は、何かカードのような物を所持してるらしい」
     このカードのような物に操られて事件を起こすようだ。事件解決後にカードを取り上げれば直前までの記憶を失って気絶してくれる。
     記憶はなくなるので、そのまま休息所などに運べば問題ないだろう。みんなに相手してもらいたいのは黒い浴衣を着た少女だ。
     少女が殺人を始めるのはカキ氷を販売している屋台の近く。一般人である少女が相手なだけに、瞬時に解決する場合もあるだろう。
     みんなに注意してもらいたいことは、カキ氷を持って歩き出した少女たちだ。彼女たちは、一番初めの犠牲者になる。
     黒い浴衣と言う情報はあるが、縁日の最中だ。黒い浴衣を着用しているものも多いだろう。
     また、場所が人で混み合っていることも忘れないでもらいたい。
    「回収したカードの分析は戻って来てからだな」
     現場ですぐ調べられるものでもない。しっかり回収して殺される人だけでなく、少女も助けてもらえたらと思う。
    「さて、今回の事件解決は臨海学校と同時らしい」
     真剣な顔をしていた須凰がにこりと笑った。事件解決後は、臨海学校ということで縁日を楽しんでもらえたらと思う。
    「俺も皆と楽しめるのを楽しみにしてるぜ」


    参加者
    如月・縁樹(花笑み・d00354)
    水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)
    蒼間・舜(脱力系殺人鬼・d04381)
    藤堂・瞬一郎(千日紅・d12009)
    アリアーン・ジュナ(殺人人形は冬色の記憶を見る・d12111)
    桜井・かごめ(つめたいよる・d12900)
    氷野宮・三根(神隠しの傷跡・d13353)
    クレイ・レッドフッド(赤ずきんさん・d15359)

    ■リプレイ

    ●縁日の始まり
     何があって殺したいと思ったのか知らんけど、迷惑だから辞め欲しいよねと呟きながら蒼間・舜(脱力系殺人鬼・d04381)が最後に合流した。縁日の始まりはもうすぐだ。
     それぞれが運営でかき氷屋の場所は調査済みだ。
    「事が終わったらかも知れないけど、電話するわ」
     携帯番号を確認してマイペースに片手を上げた舜が人混みに足を向ける。
    「後でな!」
     にこっと笑った藤堂・瞬一郎(千日紅・d12009)が舜の後を追う。こう人が多いと、ビハインドのとし子さんとは一緒に歩けないが何となくいつもの癖で横を確認してしまう瞬一郎だった。
     女性寄りの中性的な顔立ちをしたアリアーン・ジュナ(殺人人形は冬色の記憶を見る・d12111)が、初めての縁日に周りに気を取られながらも二人を追う。アメジストの色をした瞳に、たくさんの屋台が映っていく。
     赤地に白い花が散った女物の浴衣の裾が歩くのに合わせて、微かに乱れる。折角の夏祭りだと言うのに、物騒だなと思いながらも楽しそうな世界を満喫してしまう。黒い浴衣の少女を阻止したら遊んで良いのかと思うと微かにアリアーンの足取りが軽くなる。
     白い肌を引き立てるような紺地に、朝顔模様の入った浴衣を着た桜井・かごめ(つめたいよる・d12900)が大きな瞳を瞬きさせて、三人とは別側の屋台に目を向けた。カードと言うのは洗脳するようなものなのか。
     それとも劣等感や恨みを増幅させるようなものなのか……。
    「とりあえず、阻止してカード取り上げなきゃね」
     いまは阻止することに集中しなければとかごめは足を踏み出す。
    「全く、賑やかな日に無粋なことをしてくれるものだな」
     同時に足を踏み出したクレイ・レッドフッド(赤ずきんさん・d15359)に、周りから微かなどよめきが上がる。赤ずきんの格好をしたおっさんがいる……。
     よく職務質問を受けてしまうクレイだったが、縁日のためか割とみんな好きな格好をしているため今日は心配なさそうだ。迫力のある赤ずきんの後ろから、対照的に小柄な如月・縁樹(花笑み・d00354)が顔を覗かせた。
    「頑張りましょうです!」
     立派なお嬢様の立ち居振る舞いで縁樹が後を追う。
    「じゃあ、私たちも行くか」
     見るからに無気力な水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)がマイペースに振り向いた。
    「お仕事をぱぱっと終わらせましょう」
     そんな瑠音とは真逆に、無駄に元気よく氷野宮・三根(神隠しの傷跡・d13353)が声を出す。縁日! 浴衣! 女の子!
     三根の瞳が輝いたかと思うと、ぐっと拳を作る。
    「皆さん準備はいいですかー?」
     さらに元気を増す三根が颯爽と人混みの中に飛び込んでいく。楽しいお祭りを楽しめなくさせるような危ないカードはぱぱっと回収して遊びに行く気満々だ。
    「カキ氷……じゃねぇ、縁日をぶっ潰されないようにここはしっかり抑えるぜぇ」
     三根の元気に便乗せず、マイペースに呟いた瑠音も人混みに消えていく。二人の後を葉純・須凰(高校生神薙使い・dn0136)も追った。

    ●黒い浴衣の少女
     ヨーヨーをぽんぽんしながらかごめは周りを注意深く見つめる。一緒に行動している縁樹とクレイも同じだ。
     クレイの姿を見て、困惑したように一緒に来ていた友人に声をかける縁日の客たち。
    「少女二人の中に女装したゴツいおっさんが紛れてる? フッ……気にするな」
     いや、気になります。と言いたいところだが、有無を言わせない迫力に去っていく。
    「あ……りんご飴ですね」
     縁樹の言葉に二人の目もりんご飴の屋台を見るのだった。
    「射的もいいですよね」
     カキ氷屋を見回りながら呟いた三根に瑠音が微かに首を傾げて携帯を取り出した。
    「はい?」
     鳴り出した携帯を取った舜が、一緒にいる二人に内容を伝える。位置関係を見て把握していた瞬一郎が瞳を開いた。
    「あそこだ!」
     りんご飴に射的、そしてカキ氷。全ての条件が揃っている場所は一箇所しかない。すぐに連絡しようとした舜の携帯が縁樹からの着信を告げていた。
     さすが灼滅者と言えばいいのか、考えることは同じだったらしい。陽が落ち始めた縁日会場を、九人が人を避けながら走り出した。
     さっと見渡した舜が奥まったところにいる黒い浴衣の少女を見つける。
    「どうしました? 具合でも悪いんですか?」
     声をかけられた少女が、顔を上げる。鼻緒に擦れた足を休めているだけだった。
     舜の瞳がカキ氷を買う少女たちが移る。かけられていくシロップは色とりどり。
     黒い浴衣の少女にクレイと三根が動いた。
    「おねーさん、ちょっといいですか?」
     カキ氷を持つ少女たちを庇うように三根が立つ。
    「一つ訊いておきたいが……」
     誰かから何かをもらったりしたか? と続けようとするクレイの目の前で少女が浴衣の懐に手を入れる。
    「あんま暴れると良い事ないぜ?」
     動きを止めない少女に瑠音が声をかけるのと同時に瞬一郎が動いていた。途端に爽やかな風が周囲に流れた。ゆっくりと一般人の体が眠りに落ちる。
     目を覚ます前にと、近寄ったかごめが少女の体を探る。
    「ころんじゃったのです? 縁樹のお菓子あげるので元気出して下さい」
     きょとんとした顔をして目を開けた女の子に縁樹が飴玉を差し出す。
     その頃にはカードを回収し終えて、少女を休憩所に運ぶ準備は出来ていた。
    「急に倒れたのですよ、大丈夫だったのですか?」
     ぼんやりと目を開いた少女に三根が自分たちが休憩所に運んでいる理由を誤魔化す。休憩所に少女を預けて、みんなで改めて縁日を見るのだった。

    ●縁日
     携帯で連絡を取った舜が同じようにマイペースに片手を上げて人混みに消えていく。瑠音も約束している相手を見つけて手を上げて離れて行く。
     向かってきた瑠音にカキ氷でもどう? と言おうとして氷室・翠葉(キュアブラックサンダー・d02093)が言葉を止めた。
     でも女の子だし体を冷やしすぎてもダメかもしれない……。
    「ベビーカステラとか、チョコバナナなんかどう?」
    「とりあえず、カキ氷食いてぇ。さっきから見てるだけだったからやべぇ」
     イチゴ味なと言われて、すぐに移動する翠葉だった。瑠音に片思い中だから尽くしてしまう。
    「いやー、一仕事終えた後はうめぇぜ」
     急いで食べる瑠音に翠葉があわあわしてしまう。喉に詰まらせちゃいけないし……口の周りが汚れている。
     拭いておかなきゃと甲斐甲斐しく翠葉が動く。
    「おっ、気が利くな。サンキュー」
     完全に友達扱いしている瑠音だった。しかし、片思い……女子力が高いというか、瑠音のお母さん状態になってしまっている翠葉だった。
     僕も……と待ち合わせ場所にかごめは向かう。見慣れた姿を見つけたかごめが小走りに近寄る。
    「お腹空いたっ」
     伸びをして呟いたかごめの目の前にユリア・フェイル(白騎士・d12928)がお疲れ様と焼きトウモロコシを差し出す。
    「おー、イカ焼き食おーぜ!」
     イカの姿焼きを見つけた木元・明莉(楽天陽和・d14267)が屋台に向かう。卵入りのは邪道だと個人的に思っている明莉だ。
    「先輩よく食べるねえ……って、ケチ!」
     後輩を甘やかさない主義の明莉は断固として奢らないという意思を見せる。
    「えー、そこは先輩風吹かせて奢ってくれるんじゃないのー?」
     ぶーぶーと文句を言うユリアに自費で買うように言う明莉だった。かごめとユリアが耳打ちし合う。
     好きな子には奢らないってやつ? と言うかごめにユリアが別のことをひそひそ。好きな子に奢り過ぎてほかに余裕がないのか……。
     しかし、カキ氷を見たのが明莉の運の尽きだった。
    「桜井、早食い競争しねーか?」
    「早食い? 良いよ」
     食べやすいようシロップを少なめの明莉。逆に苺シロップ大量で、もうジュースにしちゃったかごめ。
     横で応援するユリアが満面の笑みを浮かべる。
    「驕って奢ることになるとはこれいかに~」
     勝てない勝負は挑まない性分のはずの明莉にユリアが呟いた。かごめがいたずらっ子のように声を出す。
    「余裕余裕。先輩、ゴチ☆」
     濃紺の浴衣姿になった瞬一郎がにやっと笑った。
    「ばっちりエスコートしてやるから、どーんと任せてついてこい」
     日本のお祭りが初めてのアリアーンを連れて金魚すくいを探す。
    「あ。迷子やだから、手、繋いで……?」
     アリアーンが瞬一郎に手を差し出す。とし子さんがよぎる瞬一郎だったが男だし問題ないと手を引く。
    「金魚すくい……?」
     できるかなと呟くアリアーンに瞬一郎が金魚すくいの説明をする。ちなみに瞬一郎はけっこう得意だったりする。
     そして、一緒に歩けないとし子さんのために、かわいいアクセサリーがあったらプレゼントに買って帰りたいなと思うのだった。
    「ここであったのも何かの縁、一緒にお祭りをまわりましょー」
     残った仲間を見て三根が満面の笑みを浮かべた。いつの間にか大量の綿菓子を購入したクレイがご満悦な表情で、もっさもっさ口に運んでいる。
     せっかくのお祭りなら楽しまなければ損と、すぐに三根が走り出す。
    「僕も綿菓子食べます!」
     三根と一緒に綿菓子を買った縁樹は、そのままひとりでうろうろしてみる。りんご飴にたこ焼き、チョコバナナ。
     金魚すくいもしたいなと自然に顔に笑みが広がる。
    「賑やかで良いですねぇ、えへへ」
     自然と屋台を回る足も軽やかになっていくのだった。そんな縁樹の横を 紫陽花柄の浴衣を着た沖津・星子(笑えぬ闘士・d02136)の左手を右手で握り、左手を紺の浴衣を着た水無瀬・旭(晨風・d12324)と握るスティーナ・ヘイモネン(化け狐の子・d05427)が通りすぎる。
     真ん中でオレンジ色のかわいい浴衣を着るスティーナが、嬉しそうに屋台を巡る姿に旭が思わず目を細めて微笑む。
    「あ、あれも欲しい!」
     高いところにある狐のお面に手を伸ばして、旭を振り返る。
    「旭兄ちゃん肩車お願い!」
    「落ちないようにバランスに気を付けてねー?」
     スティーナを肩車する旭を、カキ氷を買ってきた星子が見つめる。
    「あらまぁ……何だか親子か兄妹みたいですよ?」
     笑顔を出すことが出来ない星子だが、その表情はそれなりに幸せそうに和らいでいる。
    「……良かったら星子さんも手を繋ぐかい?」
     離れ離れになったら困るしと呟く旭に向かって星子がもじもじしながらも手を差し出す。
    「では……その、ちょっと……いやしばらくの間だけ……」
     小さな星子の手をそっと握り返した旭の頭上でスティーナが小さな声で囁く。
    「Minulla on tuki. Rakastan sinua」

    ●続・縁日
     来たきたと言うように、舜に向かって手を振ったのは神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)だった。
    「蒼間くんはお疲れさん」
     働きに対して部長として奢ろうと言う律に、舜は少し考えてから口を開く。
    「そういえば、焼きトウモロコシとか美味しそうだったんだよねー」
     その言葉に自然と移動を開始する。歩きながら、たこ焼きをもぐもぐする森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)に律が手を伸ばす。
    「あ、神堂くん。たこ焼きですか」
     どうぞどうぞと差し出す両手には、溢れそうな食べ物。目に付いたものを片っ端から買った結果だ。
     隣にいる水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)にも心太が食べます? と言うように差し出す。
     そんなゆまの目は義兄である律に注がれている。
    「りっちゃん、食べ過ぎちゃ駄目だよ?」
     肩をすくめることで返事を返した律が慌てた声を出す。
    「……って、一個だけだから!」
     複数の焼きトウモロコシを手に持つ舜にツッコミが入る。
    「つか、こっちならでは! ってB級グルメみたいな物体ないのかね」
     あくまでマイペースな舜がきょろきょろと周りを見る。焼き鳥、焼きそば、たこ焼き。
     人混みは好きじゃないが、楽しみ方は人それぞれ。まぁ、楽しければいいんじゃない? と思いながら心太がくれる冷たい飲み物を流し込む。
    「あーっ! 夜ト先輩! 何一人でそんな食ってんすか!」
     負けられないと言うように、食べ物を買いに行く律を見送った無銘・夜ト(紫眼黒獅子・d14675)が射的をするまゆを見た。
     まゆの目的は猫のぬいぐるみ。きらきらしたりんご飴などを見ていたディートリヒ・エッカルト(水碧のレグルス・d07559)も射的に挑戦してみる。
     台に乗り出してまで撃ってみたディートリヒが瞬きする。
    「……あれ、倒れない?」
     ディートリヒと苦笑するまゆの横から夜トが手を伸ばす。ストックを肩にあてて、固定する。狙いを安定させて、両手でしっかり構える。
     本格的な構えを見せる夜トにゆまの鼓動がはねる。ちょっとカッコいいかも……。
    「すごい!」
     倒れた瞬間に、まゆの声が上がる。
    「え? わたしに……ですか?」
     嬉しそうにお礼を言いながら夜トからのぬいぐるみを抱きしめたまゆが笑顔を見せる。そして戻ってきた律とみんなを見渡して、胃薬を持ってきて良かったと思うのだった。
     紺地に牡丹柄の女性物の浴衣を着た弓塚・紫信(暁を導く煌星使い・d10845)が隣にいる天羽・蘭世(暁に咲く虹蘭の謳姫・d02277)に笑いかけた。
    「お参り、しようか」
     白地にピンクの梅柄の浴衣とふわふわへこ帯の蘭世が頷く。
     二人で縁日の縁を結んでくれたことに感謝を済ませて、縁日にくり出した。りんご飴をぺろりと舐めた蘭世が紫信に差し出す。
    「カリカリの飴のとこおいしいのです♪」
     同時に紫信が買った三色わた飴をちぎって蘭世に差し出す。
    「おいしい?」
     答えは蘭世の笑顔で十分だった。笑顔の蘭世が人混みに知った顔を見つけて歩み寄る。
    「須凰くん、こんにちはなのです」
     一緒に紫信も挨拶すると、須凰が嬉しそうに笑った。縁日を守ってくれたお礼を告げる蘭世と紫信は逆にお礼を言われる。
     自分のことを覚えていた須凰に手を振って、再び縁日の喧騒に溶け込んで行った。
     綿菓子の食べすぎでグロッキーになっているクレイを横目に、三根と須凰は射的に興じていた。人混みに流されつつふらふらしていた杉崎・莉生(白夜の月・d09116)は、足を止めた。
     話しかけようかどうしようか……。覚えて貰えているか判らないし、まごつきそう……特別に用事があるってわけでもないし、ええと……。頭の中でぐるぐるしていた莉生が再び顔を上げると三根の姿しかなくなっていた。
     思わず肩を落としそうになった瞬間、横からかけられた声にびっくりしてしまう。嬉しそうに声をかけてきた須凰に莉生は思わず微笑んだ。
    「……学園生活、楽しいでしょうか」
     少しでも和らいでいるなら、良いなと思って……遠慮がちな上に引っ込み思案な莉生が紡ぐ優しい言葉に須凰は頷いた。
     双子の兄へのお土産である面白いお面やりんご飴を手に、莉生は縁日を楽しむのだった。
    「次はたこ焼き行きましょう!」
     元気な三根の声が響き渡った。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 12
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