臨海学校~にくにくキャンパー

    作者:麻人

     玄界灘を臨む博多湾周辺にはキャンプや海水浴の楽しめる砂浜が広がっている。来週末には花火大会が予定されており、空に咲く大輪の花をひと目見ようとたくさんの人が集まっていた。
     まさかそれが、血塗られた惨劇の舞台になるとも知らずに――。

    「燃えろ、燃えろぉっ!!」
    「あははははは、やだあ、もっと楽しませてよねっ!?」
     砂浜は血で染まり、赤い炎がテントを燃やして逃げ惑う人々の背を飲み込む。先ほどまで笑顔と歓声にあふれていた浜辺は一瞬にして、地獄絵図。
     何が彼らを駆り立てたのだろうか。
    「おい、お前らどうしたんだよ。やめろ、やめろって……うわあっ!!」
     突如として、数人の客が刃物やライターを手に殺戮を始めたのだ。バーベキュー用のかまどに足を引っかけた子供が悲鳴とともに転ぶ。
    「大丈夫?」
     優しく声をかけた女性の顔が――次の瞬間、ゆがんだ。
    「ふふふふふ、あははははっ!!」
     楽しい。
     たのしい、たのしいたのしい……!!
    「次の獲物は、だぁれ?」
     指先に翻す黒いカードを唇に当てて、彼女たちはさまよう。
     夏の海辺を。

    「キャンプ…………」
     一色・リュリュ(高校生ダンピール・dn0032)は考え込むようにつぶやいた。臨海学校の行われる博多湾周辺はこの時期、夏休みを利用したキャンプ客でにぎわう。
     武蔵坂学園でも、浜辺でキャンプを行う予定になっていた。
    「野外炊飯」
     花火も見られるらしいが、リュリュの興味は夕飯にしか向いていない。
    「すなわち、肉の宴。それを乱す者がいるという予知は遺憾で御座います」

     エクスブレインによれば、この大量殺人事件の背後には組織的なダークネスの動きがあるという。
     ただし、彼らは表だって現れない。
     裏から一般人を操ってキャンプ場を混乱に陥れようとしているようのだ。
    「殺人を起こす一般人はみんな、カードみたいな物を持ってるの。これが操られていた原因。カードを取り上げれば操られていた間の記憶も消えて気を失うから、あとは休息所に運んであげれば大丈夫だよ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)によれば、事が起こる前にカードを持っている一般人を特定することは難しいらしい。
    「皆に止めてもらいたいのは、サークル仲間でキャンプに来てる大学生グループの人達。そのうち六人がカードを持っていて、夕飯の準備中に暴れ出すはずだから被害が出ないうちに何とかしてあげて!」
     ただし、今回の相手は強化一般人ではなくて、普通の人たちだ。あまり手荒な真似はしないで欲しいという話だった。

    「騒動の狙いやカードの分析などは学園に戻ってから、というお話ですので、解決後は心置きなく宴に興じるべきかと。あまり詳しくないのですが、やはり定石は牛? それとも、こういった場合にはもっと相応しい家畜がありますか? 豚、鶏、あるいは……馬?」
     氷がいっぱいのクーラーボックスに詰めて、持てるだけ持ち込む。事件が起こるのは夕刻過ぎだから、それまでにテントを立ててキャンプの用意をしてしまうといいだろう。
     花火に先駆けて浜辺の空に立ちのぼるおいしそうな匂い――肉を焦がす、極上の。
     くぅ、と誰かがお腹を鳴らす音がした。


    参加者
    玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)
    天瀬・ひらり(ひらり舞います・d05851)
    千凪・志命(生物兵器のなりそこない・d09306)
    水戸・飯人(分厚い腹のタフガイ・d10000)
    黄嶋・深隼(風切の隼・d11393)
    炬里・夢路(漢女心・d13133)
    一宮・閃(鮮血の戦姫・d16015)
    ナーシャ・アタシナ(おてんば吸血歌手・d18837)

    ■リプレイ

    ●黒片の罠
    「…………」
     夏の日差しがそそがれる砂浜に花が咲いたかのような、監視台の上。ピンクのストールを被り、足を組んで周囲を見渡している炬里・夢路(漢女心・d13133)に目を奪われた男達が横目に見ながら通り過ぎていく。
    「さすがユメはん、人目を惹きますわー」
     首元を扇子であおぎながら玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)が苦笑した。紗の日傘越しに白い肌を焼く太陽は既に凶器の域だ。
    「あかん……溶けてまうー……」
     じりじりと熱せられた海原は水面が滲み、まるで陽炎のように揺れてみえる。少しでも庇の下に入ろうと、一浄は膝を曲げて自分の足を身体のほうに引き寄せた。
    「もうすぐ夕方だっていうのに、あっついですねー」
     額の汗をぬぐい、天瀬・ひらり(ひらり舞います・d05851)はにっこりと笑う。
     一色・リュリュ(高校生ダンピール・dn0032)はきょとんと首を傾げ、ひらりに尋ねた。
    「どうすべきなのですか、これは」
    「コンロはですねー、こうやってこうしてガスボンベを繋いでしまえばOKですっ!」
     ほとんど役に立たないリュリュと一緒に、すいすいとキャンプの準備を進めてしまう。器用で面倒見のよい少女である。
    「ちょっと休憩しましょうか」
     お菓子でもどうですか、と勧められたリュリュは人懐こい子犬のように両手を出した。
    (「……和やかだ……」)
     嵐の前の静けさに千凪・志命(生物兵器のなりそこない・d09306)は身を委ねる。
     普段は物静かな彼の姿は他のキャンプ客に紛れて、今は存在感というものを消し去っていた。ライフセイバーと同じ帽子と水着に扮装した志命はある団体客のすぐ傍で耳を澄ませていたのだが、当の客たちは彼の存在など最初から目に入っていない様子で夕食の準備を進めている。
    「あらっ、猫よ、猫がいるわ」
    「何言ってんだよ、海に猫がいるわけ……」
    「……いるね」
     健康的に日焼けした大学生のサークル仲間たちは、砂の上にちょこんと座って尻尾をたゆませている小柄な猫の存在に気づいた。
     人を怖がる様子もなく、その猫は彼らの足元をくぐり抜けたり、物見するように荷物の上に乗って辺りを見回したりしている。
    「誰かの飼い猫なんじゃないか?」
    「旅行先に猫なんか連れてこないわよ。ねえ、誰か見ててあげなよ。火のそばに来たら危ないわ」
     猫の正体は変身した一宮・閃(鮮血の戦姫・d16015)なのだが、彼らには知る由もない。
    「すいませんー、火がうまくつかないんですけど、教えて貰えません?」
    「ライターなどの火をつけるものを忘れてしまったので貸して頂けないでしょうか?」
     黄嶋・深隼(風切の隼・d11393)は持ち前の明るさで、ナーシャ・アタシナ(おてんば吸血歌手・d18837)はやや改まった、不安そうな口調で大学生たちに話しかけた。
    「へえ、君たち高校生? デート?」
    「違います!」
    「ちゃ、ちゃいますっ! 俺たち臨海学校で……!!」
     ナーシャと深隼は同時に否定する。
     顔を見合わせ、困ったように目線を交し合った。
     大学生たちは、ああ、とすぐに納得したようだ。周りを見渡せば彼らの他にも学生らしき姿が見つかる。
     そう、武蔵坂学園の臨海学校は既に始まっているのだ。
     大学生はうらやましそうに笑って、「いいよ」と深隼とナーシャの申し出を引き受けた。
    「火のつけかたはね……」
     だが、ライターを手にした大学生の女はぴたりと動きを止める。
    「どうしたの?」
     声をかけようとした別の大学生は不意に後ろから襲われて悲鳴をあげた。手に石を持った大学生の男がそれを振りかざして暴れ始めたのだ。最初のライターを持った女も奇妙な笑みを浮かべ、それを振り回す。
    「きゃああああっ!!」
     だが、ライターを持った女の手を厚い男の手のひらが掴み上げた。
    「ったく、変なカードのせいかしらねえがつまんねえことしてんじゃねぇよ」
     一体どこから現れたのだろう。
     たるんだ肉の体を揺らして、水戸・飯人(分厚い腹のタフガイ・d10000)はため息まじりに言った。
    「おい、大丈夫だったか……」
    「きゃーっ!!」
     幸か不幸か、悪党にしか見えない飯人の顔を見ただけで女は砂浜を駆け逃げていった。同時に手首を掴まれていた女が膝から頽れる。
    「失礼な御仁じゃのぅ」
     振り返ると、変身を解いた閃がビハインドの麗人を控えてやれやれと肩を竦めている。無論、手加減はした。
    「恨むならそのカードを寄越した者を恨むのじゃな!」
     清楚な少女から一転、芝居がかった口上と共にナーシャは暴れる大学生の背後に回り込んでひと思いに魔導書の角で頭を打ち据えた。
    「大丈夫、そんなに硬くないですから跡は残りませんよ」
    「……いやあ、結構痛そうだケド」
     ま、自業自得の思って我慢してネ――夢路は軽く片目をつむって笑い、不覚にも腰を抜かして逃げ遅れた男の首根っこを掴んで海辺へと放り投げた。
    「ほらほら、とっとと逃げなさァい! 熱い? 焦げた? 逃げ遅れるのが悪いのヨ!」
     殺界形成とパニックテレパスの併用によって、一般人たちはわけもわからぬまま逃げ惑う。
    (「ああ、ユメはんがキレはった……」)
     などと心の中でぼやきつつ、一浄は女性に手を貸して立ち上がらせた。
    「さ、はよう水辺へ」
    「はっ、はい……」
    「早く逃げて下さーいっ! あっちですっ! あっちなら安全ですっ!」
    「おい、あっちなら安全だってよ!」
    「あっちってどっちだよー!!」
    「あの女の子だ、太ってる子! あの子が手を振り回してる方向だ!!」
    「むむーっ、失礼な。ちょっとふくよかなだけですよー!」
     ぽむぽむと砂浜を跳ねるように身振り手振りで騒ぎとは逆方向を差し示すひらりは、ほっぺたをぷっくらと膨らませて言った。
    「倒した人はあっちの休息所に運んであげて下さいっ! リュリュちゃんが準備を整えてくれてるはずなのでっ」
     了解、と閃は頷いて麗人にもそれを伝達する。
    「……早く、逃げろ……」
     志命は任務に忠実な傭兵のように、辺りから完全に人がいなくなるまでパニックテレパスを念じ続けた。
     ふと、飯人に殴り倒された大学生の手からこぼれ落ちたカードに気づいて微かに眉をしかめる。
    「……カードで暴走とは、あまり信じられない話だがな……」
     一体、何者がどんな理由で糸を引いているのか――。
    「さあさ早くお逃げなさい、これからパーティが始まるのヨ」
     踊るようにストールをひらめかせて、夢路は舞台を作り上げる。次第にカードを持った者たちは他と隔離されて一カ所に追い込まれていた。
     残りは三人。
     それぞれに石と包丁、そしてロープを手にしている。
    「くそっ、邪魔するなぁああっ!!」
    「やぁネ、命知らずはこれだからっ!」
     頬を掠めた刃に夢路は心持ちドスを効かせた声色で怒鳴りつけた。
    「な、なんだと……」
    「あかんよ、それ以上やらはったら恥ずかし若もんになってまうで」
     にっこりと笑む一浄だが、言外に「手間かけさせんといて」という圧力がにじみ出ている。何しろこの陽気にこの場所柄、走る度にふらりふらりと日射病寸前である。
    「こんな騒ぎ起こす暇があったら肉食えよ肉!」
    「ごふっ!!」
     問答無用で飯人にぶん殴られた大学生は軽く二メートルほど吹っ飛んだ。
    「悪いですけど、寝といて下さいね」
     無事に一般人を逃がして、最後の一人を昏倒させた深隼は『それ』を指先で取り上げるとしみじみ呟いた。
    「ほんまに、なんなんやろなぁ、このカード」
    「不思議ですよね……」
     砂浜に膝をついたナーシャは用意していた聖骸布でカードを包むと人目につかないようにそれを仕舞い込んだ。

    ●肉の賛歌
    「おら、焼けたとこからさっさと食えよ! 野菜なんて焼く暇があったら肉食え肉!」
     飯人の言葉通り、鉄板の上には肉肉肉肉肉の饗宴である。熱された鉄の上に置かれた生肉はじゅっと焦げる音と煙を上げながら香ばしい匂いで浜辺を支配した。
     どうやら、肉の種類によって匂いも微妙に違うらしい。
     鍋奉行ならぬ肉奉行についたナーシャは珍しい色形の肉を箸でひっくり返しながら、首を傾げた。
    「この少し癖にある匂いは……?」
    「マトンとラムだ」
    「というと……」
    「ほう、羊まで焼いておるのか」
     麗人に人数分の茶を注がせながら、閃はテーブルの上にたんたんたん、と味噌ダレ・塩タレ、それに焼き担当のナーシャや飯人には用意してきた鶏のモモ肉とせせりを預ける。
    「焼き過ぎはよくないが、生焼けも論外じゃ。焼肉はのう、食べる順番で勝敗が決まる」
     ちゃっ、と箸を構えて肉の焼けるタイミングをうかがう閃である。
     脇では団扇で煙を追い出そうとしていた一浄が潮風の逆襲にあってむせていたり、箸休め程度の野菜をこっそり焼こうとしていた深隼がスペースを見つけられずに焦っていたりと忙しない。
    「ちょ、これじゃ肉の海やんか!」
    「さすが肉パーティーねェ……まぁ野菜は生でも食べられるワ!」
     頂戴、と深隼からレタスを貰った夢路は熱々の肉を包んで頬張った。
    「はぁん、幸せ」
    「ほう、レタスはよいのう。ピーマンは勘弁じゃが」
     心底嫌そうな顔でピーマンから顔を逸らした閃は、ふと鼻先を掠めたハーブの香りにぴくんと反応する。
    「ほう、香草入りのベーコンか」
     チィン、と涼やかな音を立てて百合は持参のマイナイフとフォークを交差する。
     既に臨戦態勢。
    「ふっ、肉なら何でも来いだ。端から端まで、食らい尽くしてやる!!」
    「頼もしいですねっ! でも負けませんよれっつフードファイト!!」
     受けて立つひらりは、軽く炙ったバゲットにベーコンを挟んでその上からたっぷりとマスタードやケチャップをかけた。
    「ややレア気味に願えるか? じっくり焼いたウェルダンも好きだがな」
    「ほなこれぐらいでどうですやろ。こっちの地鶏は秘伝の山葵風味ダレがお勧めでっせ」
     惜しみなく焼けた鶏肉にタレを絡ませれば、甘辛さの中にさっぱりとした山葵の香りが鼻に抜ける贅沢な和の風味。
    「あらいいの? 秘伝の味をごちそうになっちゃって」
    「どうぞ、おあがりやす。一色はんももっと食べな」
    「oui、oui」
     こくこくと頷いて皿を差し出すリュリュの隣で夢路はほう、と頬に手を当てて秘伝の味を堪能した。
    「んー! ちょっと辛めなのが夏にはちょうどいいワ」
    「そないに旨いん?」
     休みなく火箸で肉を裏返していきながら、深隼は食べやすそうな大きさの肉を選んで雪花と百花のために取り分ける。その甲斐甲斐しさは女性に甘いオリヴィアとしてはごく当たり前の気遣いでしかないのだが、彼の甘酸っぱい想いを知っているとまた別の感慨が湧き出でるのだ。
    「雪花ちゃん、こっちのタレおいしいよ!」
     ねえねえ、と呼ばれる度に雪花は百花の後ろをとことことついていく。
     妹のように、というよりは子犬か子猫が懐いているようだ。
    「……ありがとう、ございます」
     表情には出ないが、きょろきょろと辺りを物見する仕草や肉を口に入れた時の目の輝きで雪花がこのバーベキューに興味を抱いていることは明らかだった。
     話には聞いていたけれど、実際に体験してみるのとは違う。
     風向きによっては咳き込んでしまうほどの煙や、気をつけないと服を汚してしまうだろう肉汁の飛沫。
     そして、舌をとろかす肉の味。
    「おや、雪のような白い肌が汚れているよ」
     オリヴィアに頬を拭いてもらうまで口元の汚れなど気がつかなかった。オリヴィアは満足げに笑って、深隼から回ってきた新しい皿を雪花のそれと交換してやる。
    「オリちゃん相変わらずやなぁ」
    「お褒め頂き光栄ですよ」
     さらっと流してしまえるのがまた、この涼やかな麗人の強みだ。
    「雪花ちゃん、綺麗になったね」
     にっこりと笑う百花だったが、深隼には全部見えていた。
     雪花以上に百花の頬も茶色いタレで汚れてしまっている。よほど食べるのに夢中だったのだろう。横から伸びてきた深隼に拭われて、初めて惨状を知る。
    「ん、これで綺麗になった」
    「あわわわ、あ、ありがとう……」
     真っ赤になった百花は、トウモロコシの端に小さくかぶりついている雪花と顔を見合わせた。てへ、と笑えば小さな頷きが返る。恥ずかしいのに嬉しい気もして、なんだかこそばゆい。
    「…………」
     尊敬する先輩についてやってきたヴォルフは、次々と重ねられていく空いた皿を唖然として見つめた。
     食べる勢いは自分と変わらず淡々としているのに、なぜか、先輩である志命の皿ばかりが積上げられていくのである。
    「志命さん。よく食べれるな」
    「……俺のことなど気にせず、好きなものを取って食え」
     言いながらも志命はあれこれとヴォルフの世話を焼いている。
    「このタレは甘口でうまいぞ……」
    「あ、どうも」
     もっと食べろ、と周りから言われるのは常であり、そのことに対して困惑を隠しきれないヴォルフに志命は言った。
    「……美味いものは、素直に美味いと言えばいい。それが、最大の褒め言葉だ」
    「おう、がたがた言わずに肉食ってりゃいいんだよ! それが正義だ」
     にやっと笑った飯人は皿に山盛った牛肉とジンギスカンの盛り合わせをヴォルフに手渡した。そうかもしれませんね、とつぶやいてヴォルフはそれを受け取る。
    「タレもいいが、塩と胡椒でシンプルに味わうのもいいぜ!」
    「……ああ、塩は俺も好きだ」
     頷き、志命はまた一枚皿を空にする。
    「つか、焼肉なんだから柔らかい白肉よりこういうんでいいだろ。豚も豚トロとかねえしな」
     飯人の言葉にリュリュはなるほどと合点がいったようだ。
    「適材適所なのですね」
     宴もたけなわになった頃、ようやく手が空いたナーシャは海辺へと涼みに離れた。同じく、引いては返す潮騒の音に耳を傾けていた一浄が微かに笑んだ。
    「夏の夕暮れやねぇ」
    「はい。まるで一日が終わるという感じがしませんが……」
     夏の夜は長い。
     燃えるような夕陽は空を朱く染めて、鮮やかに夜を呼び寄せる。遠くで花火大会の開催を告げる大砲の音がした。
    「も、もう食べられませんー!」
     そして、お腹をふくらませたひらりの宣言もいつの間にか漂ってきた甘い匂いに取り下げられる。デザートは別腹という格言通り、深隼の拵えたホットケーキは女の子たちのお腹に軽々とおさまった。

    作者:麻人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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