臨海学校~とあるキャンプ場の無差別殺人事件

    作者:御剣鋼

    ●とある小島の無差別殺人事件
     博多湾にぽっかり浮かぶ、とある小島の浜辺にある、キャンプ村。
     オープン時に植えたヤシの木が、まるでハワイのような南国の雰囲気を醸し出している。
     海を渡る風と、波の音が心地よい夜のビーチに、バーベキューの香りが漂っていた。
    「お、御飯の方も、上手く炊けたみたいだな」
     炊事場から、にこやかにご飯の盆を持ってきた息子の頭を、若い父親は優しく撫でる。
     その後ろから来た妻と幼い娘が握り飯にしていく様子に父親は瞳を細め、腕をまくった。
    「母さん達がおにぎりを作ってくれるから、お前は父さんを手伝ってくれ」
    「うん! 野菜もドンドン焼いていこうね!」
     火の加減を見ながら網を乗せた父に、息子が豚バラ串刺しを手渡した、その時だった。
     突然、大学生らしき青年達が、奇声を上げながら刃物を振り回してきたのはッ!
    「今日から俺達は、普通の大学生を卒業します!」
    「ヒャッハー、血湧き肉踊りまくるぜいっ!!」
     君達何を……と、眉を寄せた父親。
     その刹那。青年はためらうことなく包丁を父親に深く突き刺し、鮮血が息子に掛かる。
     踵を返しながら悲鳴をあげようとした少年の背に、次々と刃が振り注いだ。
    「それでは皆さん、ご一緒にっ!!」
    「「はりきって、ころしたああああぁーい!!」」
     母親と少女の金切り声に似た悲鳴に、幾つもの奇声が重なる。
     炎の照り返しを受けていた浜辺は、さらに紅く紅く、染まっていった――。
     
    ●臨海学校は血湧き肉踊る
    「血沸き肉踊る、夏休み……ある意味、言葉に間違いはございませんが」
     ――臨海学校。夏休みの心弾む行事を前に、しかし里中・清政(中学生エクスブレイン・dn0122)の歯切れは悪い。
     その様子に何かしらの事件を悟ったのだろう、集まった灼滅者達も、静かに言葉を待つ。
    「実は……臨海学校の候補の1つであります九州にて、大規模な無差別殺人事件が発生することが、判明したのでございます」
    「――!!」
     大規模といっても事件を起こすのはダークネスや眷属、強化一般人でなく、普通の人々。
     そのため、灼滅者であれば、事件の解決はそう難しくはないと、付け加える……が。
    「この奇妙な事件の裏には、組織的なダークネスの陰謀があると思われます」
     ……現段階では、組織の目的は分からない。
     そう、神妙な眼差しを浮かべた執事エクスブレインに、ワタル・ブレイド(小学生魔法使い・dn0008)は「十分だ」と声を掛ける。
    「オレみたいな小学生にとって楽しみなイベントに、よくもまあ水を差してくれるぜ」
     何はともあれ、無差別大量殺人事件が起きるのを、黙って見過ごすことは出来ない。
     そう、肩を軽く竦めてみせたワタルに、執事エクスブレインも力強く頷いてみせて。
    「殺人を起こす一般人ですが、共通して『黒いカードのような物』を所持しております」
     カードは財布やポケットに入れており、それに操られて事件を起こすとのこと。
     原因と思われるカードを取り上げれば、直前までの記憶を失なって気絶するだけなので、後は最寄りの休息所等に運べば、問題なく解決するだろう。
    「皆様に解決をお願いしたいのは、博多湾内の小島で起きる、殺人事件でございます」
     博多湾にぽっかり浮かぶ、浜辺のキャンプ村。
     時期的にも多くの人々で賑わいを見せており、事前にカードを持っている人物を特定するのは、ほぼ不可能とのこと。
    「ですが、18時頃にバーベキューをする一家を見つけるのは、そう難しくありません」
     最初にターゲットとなる一家は、父、母、息子と娘の4人家族。
     事件は一家が浜辺でバーベキューを始めた、18時半頃に起きると付け加えると……。
    「今回の敵は一般人ですので、ESP一発で解決ということも十分可能でございますが」
    「おいおい、行殺にも程があるんじゃね?」
     ツッコミを入れる、ワタル。
     しかし執事エクスブレインは、キリっと表情を引き締める。
    「効果範囲を絞れないESPも、ございますからね」
     襲ってくる一般人は、青年らが10人程度とのこと。
     敵組織の狙いや黒いカードの分析などは、学園に戻ってきてから行うことになるだろう。
     現場で直ぐに調べられるものでは、無いだろうから……。
    「なお、今回の事件解決ですが、臨海学校と同時に行われることになっております」
     事件発生前、そして、事件解決後は、臨海学校を楽しんで欲しいとのこと。
     執事エクスブレインは一礼すると、ふと何かを思い出したかのように、微笑を浮かべて。
    「無事に事件を解決しましたら、皆様もキャンプでバーベキューをされては如何ですか?」
     戦闘の後の浜辺で、夜の潮風に吹かれながらの、バーベキュー。
     準備や片付けが面倒というグループには、手ぶらでバーベキューのコースもあるとか。
    「食材も、現地ゆかりのものを、多数揃えてあるとのことですよ」
    「おー、いたりつくせりだなー!」
     もちろん、炊事用具、調理道具、バーベキュー道具一式も全て揃っているとのこと。
     九州産の黒毛和牛、豚バラ串刺し、若鶏、イカ、ホタテ、季節の野菜、ウインナーなど。
     かまどにマキをくべて、お釜で炊く御飯で作るお握りも、格別に違いないっ!
    「バーベキューを楽しんだ後は、やっぱりテントとかで、過ごしたいよなー」
     キャンプ村には、大人数を収容できる、キャンプ用バンガローが多数揃っている。
     テントの持ち込みもOKと聞いたワタルも、ウキウキと楽しそうにした、その時だった。
     ふと、真顔で執事エクスブレインに問い掛けたのは……。
    「……泊まりって、やっぱり男女は別々って、オチじゃねえよな?」
    「ええ、先生方がいなくても、魔人生徒会の刺客には気を付けて下さいねっ!」
     イイ笑顔でサムズアップする、執事エクスブレイン。
     ある意味、殺人事件よりも、操られた一般人よりも、強敵ではありませんかああ!!

     ヤシの木に囲まれた小島で過ごす、キャンプ。
     博多湾に広がる福岡市内の夜景と波の音を聴きながら、 夏の夜を楽しみませんか?


    参加者
    七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    葛木・一(適応概念・d01791)
    シオン・ハークレー(小学生エクソシスト・d01975)
    叢雲・こぶし(クノイチさん・d03613)
    神薙・焔(ガトリングガンスリンガー・d04335)
    黒夷・黒(愛黒者・d10402)
    九十九坂・枢(迷宮深喜劇・d12597)

    ■リプレイ

    ●惨劇の幕開け
     バーベキューを始めた一家を見つけた一行は、二手に分かれる。
     3人が動物に姿を変え、それ以外はキャンプ客を装って、一家の近くで待機していた。
    「それにしても、誰がこんなひどいことしようとしてるんだろうね?」
     ……折角の臨海学校、楽しく終わりたい。
     そう、零したシオン・ハークレー(小学生エクソシスト・d01975)に、九十九坂・枢(迷宮深喜劇・d12597)も強く頷く。
    「ああ、どんだけ悪趣味なこと考え付くんやろ、これ引き起こしたダークネス」
     あまりに悪辣な手段に加えて、連日の猛暑と空腹が重なった枢は、怒り心頭の様子。
     叢雲・こぶし(クノイチさん・d03613)よりやや離れた所でキャンプ客に扮した枢は、バーベキュー中の一家が火傷をしないよう、足下に消火用の水を置いて行く。
    「黒いカードっすか。ダークネスカードとかのコピーの臭いがぷんぷんするんすけど」
     平和なキャンプ場で大量殺人なんて、勘弁極まりない。
     さくっと終わらせて臨海学校に戻ろうと呟いたギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)の近くで、七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)も静かにその時を待っていて。
    (「黒いカードは一体なんなんだろうか、気になるところだが……」)
     今気にしても、何かが判るわけでもない。
     誰歌の瞳には、これから起きる惨劇を知らない一家が、鮮明に映っていた。

    (「サングラス掛けてる犬なんて目立ってしょうがないだろうしなぁ」)
    (「せっかく遊びに……げふん、殺人とかやめて欲しいわねぇ」)
     犬の姿で周辺を警戒していた黒夷・黒(愛黒者・d10402)は体の一部とも言える、サングラスを掛けられずに、残念がっていて。
     猫に姿を変えた神薙・焔(ガトリングガンスリンガー・d04335)も、家族の死角から周囲を見張っていた、が……。
    (「さっと片付けて、バーベキューたらふく食うぞ~」)
     と、意気込んでいたものの、仕事としては簡単な気がするのも、事実。
     猫になった葛木・一(適応概念・d01791)も、家族連れだけでなく浜辺の警戒に払おうとした、その時だった。
     突如、奇声をあげた若者の集団が、一家に迫ろうとしたのは!
    (「オレ達は逃亡防止に回るぜ!」)
    (「やれやれ、最近の若者は血気盛んだねぇ」)
     サーヴァントの鉄(くろがね)と勢い良く飛び出した一の背を、黒が追う。
     集団と一家の間に飛び出した獣達が、奇行に走らんとする若者らの行手を塞いだ。

    ●風、惨劇を斬る
    「黒幕見つけたら、絶対に締め上げる!」
     奇声を上げて凶器を振わんとする若者に枢は強く拳を握り、素早く風を巻き起こす。
     ESPの範囲が狭かった場合に備え、こぶしと背中合わせになるよう位置取りながら。
    「危険なもの振り回す人には、眠ってもらおうねー」
     一家を庇うように前に出たこぶしも、眠りを誘う風で若者達を眠らせていく。
     次々と倒れていく一般人、その中には標的となる一家も混ざっていた。
    「火傷しないやろうか……」
     火元付近で眠る一家。心配性で考え込んでしまう性質の枢は、心中穏やかではなく。
     しかしそれは、仲間の連携もあって、直ぐに杞憂に終わった。
    「一般の人たちに被害がでないようにがんばるの」
     打ち漏らしがないよう、無力化された一般人を数えていたのは、シオンだ。
     報告に合った人数を確保し終えたら、直ぐにカードの回収に取り掛かれるように。
    「何かあると大変だからな」
     誰歌も眠りに落ちた一家に注意しながら、ポニーテールを靡かせて若者の行手を塞ぐ。
     反対側を塞いでいた黒も、彼等が一家の方に向かわないよう、立ち回っていた。
    「さっとお勤め終わらせて、臨海学校に戻るっすよ」
     前へ進む勇気をくれた仲間と楽しい時間を過ごすためにも、負けられない。
     沈黙した一般人は、怪力無双を発動させたギィが素早く休憩所へ運んでいく。
    「思いのほか呆気なかったな」
     魂鎮めの風の効果は周囲にも及んでしまう程で、殴って気絶させるまでもなく。
     様子を伺う怪しい者も特に見つからず、一は物足りなさを感じながら猫変身を解いた。
    「これで全員ね」
     仲間が無力化している間、周辺に危害が及ぶものがないか警戒していた焔も人に戻る。
     近くで倒れていた若者の側にあったカードを回収すると、ギィに身柄を引き渡した。
    「こんな女の子に運んで貰うなんて、なかなかレアな体験じゃないかな」
     ……って、寝てるから関係ないか。
     舌をペロっと出したこぶしも、怪力無双で運搬の手伝いを買って出る。
     このまま眠らせるのは可愛そうだし、何処か安全な所に運んであげたかったから。
     1人も打ち漏らすことなく夏の平和を守れたことに、枢は安堵の溜息を洩らした。

    「あとは黒いカードを取り上げてお終いだな」
     シオンが若者の人数が揃っていることを確認すると、一は手速くカードを回収する。
     例え一般人であろうと、目覚めて逃げることを考慮して、決して警戒は怠らない。
    「いやー、海っていったら、やっぱしアロハにグラサンは外せないよな」
     浜辺の依頼ということで、ちゃっかりアロハシャツを着ていたのは、黒。
     サングラスを満足そうに掛けると、休憩室に横になった若者らの側に片膝を着いた。
    「元凶は元から断たないとね」
     良心が痛むけど、これ以上の悲劇を防ぐためにも、仕方がない。
     こぶしも彼等が持っているというカードを探さんと、ポケットを漁っていく。
     回収し終えた人数分のカードには、どれも『HKT六六六』と、書かれていた。
    「HKT六六六っすか、ふざけるのも程々にしてほしいっす」
     漆黒のカードに鮮明に刻まれた文字に、ギィはシオンと静かに眉を寄せる。
    「それにしても、どこら辺でカードを手にいれたんやろ?」
     枢が財布から抜き出したレシート等からは、行動の記録が判るものは無く。
     それでも枢は入手した場所の調査資料等になれば幸いと、一緒に回収する。
    「ESPで片が付く依頼で良かった」
    「これからは楽しい臨海学校っす、しっかり楽しんで帰りやしょう」
    「ああ、はらへったー」
     安堵の言葉を洩らした誰歌に、ギィは改めて宜しくと労いの声を掛けていて。
     黒幕等が見張っているかもと警戒していた一も、待ちわびた楽しみに笑みを零した。

    ●みんなでバーベキュー!
    「せっかく来たんだし、ちゃんと臨海学校も楽しまないとだよね」
     学園に来てからというもの、日本各地に足を運ぶことが多い、シオン。
     社会の勉強にもなると関心しながらも、シオンの瞳はキラキラと輝いていて。
    「一くん、鉄くん、お疲れ様でした……です」
     霊犬のさっちゃんと共に温かく出迎えたのは【星降】の彩雪とリュシール。
    「あの家族でしょ? 助けられたのって。楽しそうね……」
    「ま、相手は一般人だから余裕だったぜ」
     しっかり仕事を終えたご褒美にリュシールが差し出した肉を、一は得意顔で受け取る。
     上手く肉に紛れていた野菜に気付きながらも、そのまま美味しそうに口に運んだ。
    「あー、これこれ、その肉はまだ生焼けよ」
    「腹に入ったら変わらねしー、オレはミディアムが好みだぜ」
     ダサカッコイイTシャツにスパッツ姿でBBQ奉行と化していたのは、焔。
     火起こしから火加減まで口を挟まれたワタル・ブレイド(小学生魔法使い・dn0008)は、もう勘弁してくれと肩を細めていて。
    「料理は普段からするけど、こんな風にするのも楽しいね」
    「あとは火にかけて焼いていきやしょう」
     ギィと協力して食材の下ごしらえをしていたのは【ギィ・パーティー】。
     彩華が切った材料に、ギィが塩胡椒などを丁寧にすり込んでいく。
    「……ボクは……うん、肉巻き焼きおにぎり、作ろう……」
     手際よく材料を切っていく彩華に視線を留めていたアレシアも、腕をまくる。
     そして、飯盒炊飯の準備に取り掛かろうとしていたギィの背を追い掛けた。
    「私はデザートバーベキューする!」
     お茶とお菓子を愛する枢にとっては、甘いものは常時携帯済み!
     茄子とトマト、若鶏を焼くと、嬉々とバナナとパイナップル、マシュマロを並べていく。
     現地で提供された食材だけでは物足りなかったのは、焔も同じ。
     持参した本場ドイツ製ヴルストをドンドン焼いていくと、こぶしの箸もドンドン進む。
     そんな中。
    「……zzZ」
     香ばしい香りに誘われることなく、黒は依頼が終わってから終始寝ていて。
     連れ合いの分の串焼きを取った誰歌は、余っていたヴルストを黒の紙皿に添えた。
    「やっぱり、普段食べられない物を中心に食べようかな?」
    「ここは男らしく、全種類と行こうぜー」
     ずらりと並んだ美味しそうな食材に年相応にワクワクする、シオンとワタル。
     どれから焼こうと楽しく悩むシオンに焔が肉を、枢が甘味をこれでもかと薦めていく。
    「お近づきの印に……はいっ♪」
    「はい、ありがとうございます……頂きます」
     前のバーベキューでは昔を思い出してしまったけど、もう大丈夫。
     リュシールは一を挟んだ新しい縁を楽しむように、彩雪にトウモロコシを差し出す。
     人見知りモードを発動していた彩雪も、美味しい味わいに満面の笑みが広がっていた。
    「リュシールちっとも食べてねぇじゃん? 加賀谷もどんどこ食え食え!」
     一は焼く側に回っていたリュシールに串焼きを握らせると、彩雪のフォローに回る。
     鉄と楽しく肉を取り合いながらさっちゃんにお裾分けする一に、彩雪の頬が弛んだ。
    「美味しい、です……えへへ、何だか、すごく幸せ、ですね」
     ――誰かを助けられた後だから?
     だからきっと、いつも以上に美味しい気がするのかもしれない。
     こんなに美味しくて幸せで、皆でこの幸せを分かち合いたいと、彩雪も肉を焼いていく。
    「香ばしく焼けたトウモロコシでも、お1つどうぞ♪」
     ――何よりも、食べている人を見るのが1番好きだから。
     ほっとくと一が全部食べてしまうと、リュシールも柔らかな笑みを浮かべていた。
    「アレシア君の肉巻きおにぎりもおいしそう♪」
     仲間と談笑しながら焼く野菜と肉の香ばしさに、彩華の頬も蕩けていて。
    「みんな、よかったら、どうぞ……?」
     極度の人見知りのアレシアも、料理が得意なのも手伝って恐れつつ周囲を見回す。
    「あ、私も独り占めはせんよ?」
     甘いものと美味しいものを胃袋一杯に納めていた枢も、幸せのお裾分け♪
     うっかり自分だけで完食しないよう、ワタルやこぶし、シオンにも声を掛ける。
    「ごはんもやっぱり普通に機械でたくのとはぜんぜん違うよね」
     ふっくらして甘みがある御飯と食べる野菜がすごく美味しくて、シオンの箸が進む。
     何時もより一杯食べてる気がすると、ちょっとだけ脳裏に過ったのは、身長のこと。
     野菜をバランスよく食べながらも、牛肉とホタテを少しずつ口に運んでいた。
    「日本に来てホント良かったぜ!」
     現地の食材に加えて、仲間の自慢の逸品をワタルも美味しそうに頬張っていく。
     智寛と灯夜にも料理を振舞うアレシアに瞳を細めた彩華は、感謝の視線をギィに向けた。
    「僕も手伝うから一緒に食べようよ♪」
    「自分は残り物をいただくっす、ご心配なく」
     ギィは皆が食べてる間も焔の火加減を見たり、食べきった枢に新しい串を渡していて。
     美味しいご飯を皆で囲む楽しみ、これからも一緒にいっぱい味わいたい!
     手伝いながら焼けた肉や野菜の串を差し出す彩華に、ギィは最初は遠慮していたけど。
    「こういうのは皆で楽しまなきゃね♪」
     と、微笑む彩華。
    「ごちそうさまでした……美味しかった……」
     アレシアも後は綺麗に片付けをするだけだと、率先して食器を運ぶ。
    「ま、手伝ってくれるなら、歓迎するっす」
     楽しい1日は深夜へと続いて行く。

    ●惨劇、再び!?
    「寝場所は男女で別々っすか。自分は男の子でも……いや、止めときやすか」
     男子のバンカローでは、既に黒が爆睡中。
     寝入り始めた一とシオンを起こさないよう、ギィが寝床へ潜ったその時だった。
    「えへへ……恥ずかしながら戻ってまいりましたぁ……」
    「「!!!」」
     ウィットに含んだジョークを1人喋りながら現れたのは、女子のこぶし!?
     どうやらトイレから戻ろうとして、寝ぼけて男子部屋に入ってきたようです♪
    「ココは男子の……って、おい!」
     半分だけ体を起こしたワタルが手の甲を向けて帰れと促したのも、束の間。
     こぶしは、そのままワタルの寝床へ潜り込んで――!?
    「……すぅ」
     相手の迷惑なんて、なんのその。
     安らかな寝息を立てて熟睡するこぶし、ワタルが諦めに似た溜息を洩らした、刹那。
     ふと、何時の間にか空となっていた黒の寝床に留まると、思わず眉を寄せる。
     しかし眠気には勝てず、小柄の少女に寝床を譲ったままワタルも瞼を閉じてしまった。

    「……あ。こいつぁ、ヤバい気が……」
     寝起きでぼーっとしながらも目を覚ました黒は、トイレに向かっていた筈だった。
     が、間違えて女子部屋に踏み込んだ瞬間、速攻で簀巻きにされたのでした。

    ●夏の空を見上げて
    「こんなところでどうしたフローラ、星か?」
     女性陣に簀巻きにされていく黒を横目に、誰歌はベランダの柵に座っていたフローレンツィアの背に声を掛ける。
    「ええ、武蔵坂で見るよりずっと綺麗よ。あら、お夜食?」
     足をぶらぶらさせながら、のんびり夜空に見入っていた少女が振り返れば、串を乗せた紙皿を持った誰歌が瞳に入った。
    「……私の分はちゃんと残しておいてくれよ?」
    「ん、レンはそこまで食い意地張ってないわ?」
     フローレンツィアは可愛らしく頬を膨らませると、嬉しそうに串焼きに手を伸ばす。
     柵に腕を乗せて持たれ掛かった誰歌の隣に座ると、見上げるように微笑んだ。
    「ん、どうかしたか?」
    「ふふ、なんでもないわ」
     ……家族と旅行してるみたいで、ちょっと嬉しいから。
     想いを胸の内に秘めたまま誰歌を見上げたフローレンツィアは、小さな笑みを零す。
     不思議そうに小首を傾げた誰歌は上着を脱ぐと、少女の肩に掛けた。
    「そんな薄着だと風邪引くぞー?」
    「あら、ありがとう。……そーいう誰歌こそ、風邪ひいちゃダメよ?」
     誰歌の声に悪戯っぽく微笑む、フローレンツィア。
     その言葉通りになったのは、翌日の話♪

     ――翌朝。
     仲間と合流した焔の視線が、簀巻きで吊るされた3人に留まる。
     驚いて瞳を瞬かせたシオンに、こぶしとワタルが同時に顔を上げた。
    「はずかしい……なんてことを……僕はミノムシなりたい……」
    「オレみたいな小学生は、どうみても濡れ衣だろーが!」
     顔をゆでダコの如く真っ赤に染めていたのは、こぶし。
     声を荒げたワタルも騒ぐよりも諦めるのが吉と悟ると、ガクっと項垂れて。
    「ゆっくり寝るにはいいねぇ、日焼け止めが欲しいなぁ」
     1人簀巻きに身を任せていた黒は、夏の空を見上げる。

     晴れ渡る空の下、朝の賑わいをみせるキャンプ場。
     賑やかで楽しい喧噪を子守唄に、黒は再び微睡みの海へ身を委ねた。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
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