臨海学校~夏の風物詩を守れ

    作者:呉羽もみじ


     陽が落ちて少しマシになったとはいえ、暑いものは暑い。
     恨みがましく太陽を睨みつける。
    「ねえ、そろそろ行こ? あまり遅くなっちゃうと良いところ取れないよ」
     可愛らしく急かすのは最近出来たばかりの恋人。
     歩きにくいから、との理由で浴衣を着るのを頑なに拒否していた。
     が、当日に待ち合わせに少し遅れてきた彼女が、浴衣を着ていたのを見た時は、愛おしさがこみ上げた。
    「だね、そろそろ行こっか」
     彼女の手を取る。
     今日は花火大会だ。暑いのも夏の風物詩のひとつとして考えれば、それはそれで良いのかもしれない。
    「……? なんだ、あれ?」
     目の前の不可解な光景に、彼は歩きかけた足を再び止める。

    「こんなクソ暑い日に大人しく仕事なんかやってられっか!」
    「仕事なんか……いや、会社なんか……いや、ついでに人間も辞めてやるぅぅ!」
    「ひゃはーーい!!」 
     だいぶ暑さにやられた感じのスーツ姿の男達が、げらげら笑いながらナイフを振り回していた。
     ドラマの撮影か何かかと思ったが、近くにカメラの姿はない。
     何だこの人たち。てか、これはやばいぞ、と目を逸らそうとするが、一瞬早く男のひとりと目があってしまった。
     真っ直ぐに恋人達の方に向かってくる。
     彼らの額辺りには、ひらひらと動く紙のようなものがくっ付いていた。
     いや、良く見るとそれは額に突き刺さっている。
     ――なんだ、こいつら。
    「お前、リア充か。俺、リア充じゃない。俺、彼女、いない。でも、仕事、ある。俺、腹立つ。お前、謝れ。いや、死ね」
     そんなめちゃくちゃな。
     彼の突っ込みは口から零れる前に、噴き出す血で流れ落ちる。
     意識を失う直前に、男達の額にあるカードに、「HKT六六六」の文字が書いてあるのが見えた。
     なんだよ、「HKT」って。
     それが彼の最期の疑問である。

    「楽しいはずの臨海学校でこんなことが起こるなんて。本当に想定外だよ」
     水上・オージュ(中学生シャドウハンター・dn0079) は、困った顔をする。
    「でも、ダークネス絡みの事件は僕達じゃないと解決出来ないから……協力して貰えるかな?」
     九州で大規模な事件が起こることを、エクスブレインが察知した。
     事件を起こすのはダークネスや眷属ではなく、普通の一般人だが、その裏にはダークネスの組織的な介入があることが推測される。
     現時点では、敵組織の目的は不明。しかし、だからといって、事件を見過ごして良い理由にはならない。なので、灼滅者達の力を貸して貰いたい。
    「今回暴れているのはスーツを着た男性が3名。刃物を振り回している上に、その、……額に、カードが刺さってるから、見ればすぐに分かると思う。
     一般人だから、僕達灼滅者だったら、彼らを抑えることは簡単に出来る筈だよ。
     でも、普通の人間の感覚では、刃物を振り回してる人が近くにいるのは恐怖でしかないと思うんだ。だから、なるべく速やかに、事件を収束してあげたいんだ」
     原因と思われるカードを抜き取ってしまえば、直前までの記憶を失って気絶してしまうようなので、戦闘後、休憩所等に引き取って貰えば、今回の傍迷惑な事件は解決となる。
    「敵組織の狙いを探ることや、カードの分析はその場ですぐに出来るものじゃないから、任務は暴走した一般人の鎮圧までで大丈夫だよ。
     ……で、事件を解決して、はいおしまい、じゃ悲しいよね?
     せっかくの臨海学校なんだからさ、楽しもうよ。
     花火大会も開催されるみたいだし、良かったら一緒にどうかな? 
     僕、花火、好きなんだ。一緒に見に行けたら、きっと、もっと好きになれると思うんだ」


    参加者
    冴木・朽葉(ライア・d00709)
    宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)
    メリーベル・ケルン(中学生魔法使い・d01925)
    古賀・聡士(氷音・d05138)
    浅見・藤恵(薄暮の藤浪・d11308)
    小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)
    グレイス・キドゥン(居場所を探して・d17312)
    水野・真火(反する名を持つ者・d19915)

    ■リプレイ


     張り切ってひゃっはーひゃっはーと叫んでいる彼らは、群衆の中でも一際目立っていた。
     遠目にも分かる額の異物。彼らの動きに合わせゆらゆら揺れる。
    「どうしてこんな事を考えたのでしょうね……」
    「話には聞いてたけど、見事に刺さってるわね……」
     浅見・藤恵(薄暮の藤浪・d11308)は、男たちから目を逸らし、メリーベル・ケルン(中学生魔法使い・d01925)は興味津津で彼らを見る。
    「楽しいはずの臨海学校だったのにねぇ……」
    「臨海学校もひと仕事とか。この学園らしいっちゃらしいけど」
     古賀・聡士(氷音・d05138)、冴木・朽葉(ライア・d00709)のため息二重奏。
    「平和な臨海学校やと思ったら、強い死の気配が見える状況が発生するなんて、いい気分じゃないね。さっさと終わらせよ」
     その言葉と共に、小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)が、パニックテレパスを発動させる。
    「うひゃああ」、「お助けー」等と叫びながら、右往左往する一般客達。
     群衆の誰かが言った「逃げろ」の声に、パニック状態に陥っていた一般客達は我先にと逃げ始める。
     その中には先程まで暴れていた男たちも含まれていた。
    「自分らまで逃げてどうすんねん!」
     グレイス・キドゥン(居場所を探して・d17312)が焦ったように突っ込む。
    「ここにいたら危ないよ。ほら、こっち。……あ、君達は向こうね?」
     微笑みプラス、ラブフェロモンの、二段構えで宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)が、一般人に紛れて逃げ出しそうだった男達を仲間達の元へと誘導させる。
     メリーベルは、自分の近くへと逃げてきた男の一人の前に仁王立ちをする。
    「戻りなさい!」
     関係者ぽい人に自信満々で指示されると、つい従ってしまうのが通常の人間の性だろう。
    「は、はい」
     ぺこりと一礼し、男は元居た場所へと戻っていく。
    「はいはーい、こっちに移動せぇよー?」
     メリーベルの様子を見ていたグレイスは、彼女の行動を真似、暴走一般人を導いていく。
     かくして、暴走一般人は額に刺さったカードをぷらぷらさせながら、灼滅者達のいる場所へと集められた。
     聡士と藤恵が放つ王者の風により、男達の戦意が失われていく。
    「な、何だろう。この威圧感……、例えるなら、上司に怒られた後、酷く無気力になる感じだ」
    「上司だと!? まさかこの子たちは会社の刺客か!? このまま彼らの前で膝をついていて良いものか? いや、良くない!」
    「俺たちは人間を辞めるんだああ!!!」
    「そう簡単には解決させてくれませんか。仕方ありません。――『今の私にできることを』。お相手いたします。大人しくしてくださいね」
    「『今の私にできること』? お、お付き合いして下さーい!!」
     藤恵は、突進してきた男に取り敢えずワンパン入れておいた。


     水野・真火(反する名を持つ者・d19915)が深く被っていたフードを脱ぎ、鎌を持つ手に力を込める。
     鎌など、一般人にとっては草刈りの時位しか見ることのない道具だろう。
    「草の代わりに俺達が刈られたりして」
    「まさかそんなあはは」
    「いきます……!」
     そのまさかだった!
    「ちょま、ちょ、ま……えええぇぇぇ!?」
     男達の心の準備などお構いなしに、真火は鎌を薙ぐ。
     叫び声を上げながら逃げ惑う男達。額のカードがひらひら揺れる。
    「仕留めそこなったか……、フォローをお願いします」
    「了解」
     影業をナイフの形状に変化させ、冬人は男の前に立ちはだかる。
     今回はダークネスではなく、一般人。とはいえ湧きあがる殺人衝動は簡単に抑えられるものではない。
    「ふふ、動かないで、ね?」
    「冬人くん、殺人鬼の片鱗が垣間見えてるよ!」
     水上・オージュ(中学生シャドウハンター・dn0079)の突っ込みに正気になった冬人は、影業を消失させ、カードを素早く引き抜く。
    「……ダークネスだったら手加減抜きで戦えるのにね」
     倒れた男に息のあるのを確認し、冬人は苦笑交じりに呟いた。
     ギリギリで鎌の切っ先をかわし、ほっと一息ついていた男の前に拳を引き絞った聡士が。
    「悪く思わないでよね」
    「え」
     ばこーんと小気味よい音を立てて聡士の拳が男にヒットする。
     男はバランスを崩しながらも何とか態勢を立て直そうとする。
     隙だらけに見えたが、念の為、彼の背後へと回り、朽葉は腕を伸ばす。
    「……よ、っと」
     朽葉がカードを抜くと同時に、その場に崩れ落ちた。
    「さっきは油断したが次はこうはいかないぜ」
     藤恵のワンパン(手加減攻撃)が堪えたのか、脂汗をだらだら流しながら男はナイフを握り直す。
     時々えずくのは……よほど苦しいのだろう。少し可哀そうになる程だ。
    (「これ以上はちょっと……何とかESPで解決出来ないものでしょうか」)
    「くらえぇい! パニックテレパス!!」
    「ぎゃあああ」
     睨みあう二人の様子に気付いたのか、藤恵の背後から小町が精神派を男に浴びせる。
    (「チャンス!」)
     藤恵は王者の風を纏いながら男の側に駆け寄り、動かないように指示をした後、カードをそっと抜き取る。
    「ま、普段の戦いに比べたら楽勝だったわね!」
     仲間達の活躍により危険が去ったのを確認すると、最後まで一般人の誘導を優先させていたメリーベルが倒れ伏す男達を見下ろしながら「ふふん」と得意気に鼻を鳴らす。
    「これか……どういう仕組みなんやろな……?」
     グレイスがカードを弾いてみたり、聡士が空に翳すなどして観察してみるが、カード自体に何か不審な点は見当たらない。
    「ちょっと貸して。殺人鬼のあたいが見るか事で何か判るかも知れへんしな」
     小町は目を細め、念写するかのように一心不乱にカードに集中する。
    「こ、これは……!?」
    「これは……?」
     ごくり。
    「全然分からへん」
     がくり。
    「やっぱり、そう上手くはいかないみたいだね。カードの調査の依頼と、彼らの対応は僕がやっておくから、皆は花火大会楽しんでね」
     オージュが、呼んできたらしい救護班の人達に尤もらしい理由を告げながら去っていく。
    「事件解決、かな。お疲れ様。これからは自由行動だよな」
     ひらりと手を振って聡士が皆から離れていく。
    「お疲れ様でした。それでは」
    「花火大会で会ったらよろしく」
    「お疲れー」
     三々五々散っていく。
     彼らが去ってからも、戦闘の残り香が残っていたのか、暫く人通りは少なかったが、直ぐに人で埋め尽くされた。
     まるで、始めから戦闘などなかったかのように。


     黒の浴衣に着替え、待ち合わせ場所に立つ。
     少し早すぎたか、と時間を確かめようとすると、
    「お疲れ様」
     聡士、と背後から呼ぶ声に振り向けば、長い髪をふわりと靡かせ微笑む待ち人、白弦・詠の姿。
     彼女の装いは、普段の青のドレスとは異なる菫色の浴衣。
    「奇麗」と率直に感想を言えば、詠は嬉しそうに目を細める。
     喧騒を逃れるように、詠が見つけた場所へと移動すると、そこは、花火も海も両方見えるベストプレイス。
     一瞬で花開き、儚く散る大輪を、微かに流れる波音をBGMに静かに眺める。
     聡士がそっと手を伸ばし、詠の髪を優しく梳く。
     彼の側に寄り添う詠は、心が和ぐようにと歌を歌う。
     花火と波音と、歌声。
     それの全てを聴き逃さないように、聡士は目を閉じた。
     夏といえば花火大会。花火大会といえば浴衣。
     という訳で小町は浴衣に着替え、花火大会に繰り出した。
     花火見物のお供にと買った氷イチゴを食べながら花火を見る。
     しゃくしゃく……しゃく。
     氷イチゴをかき混ぜる音が止まる。
    (「こう云う時に隣にアイツがいたらええのになぁ……」)
     しゃく、しゃくしゃく、しゃくしゃく。
     赤、黄、緑、青。
     小町の伏せられた瞳が、打ち上げられた花の色に染まる。
    「花火は夜空に咲く花と表現されますけど、夜空に煌めく数々の光は星々の瞬きにも見えて素敵ですね」
     うん。素敵だわ。
    「あ、プチミントさんが花火の音に怯えて縮こまってる!?」
     あら、霊犬でも花火は怖いのかしら?
    「ほら、怖くないよー」
     そうね、怖くないわよ。
    「って、そうじゃなくて!!」
     藤森・柳は、メリーベルの突然の大声にプチミント共々目を丸くする。
    「えっと、柳さん? 花火も綺麗だけど、他にもこう、ないのかしら? 例えば私の浴衣姿の感想とか……」
    「え、浴衣? ごめんなさい気付きませんでし――」
     ジト目で見る恋人に気付き慌てて口を塞ぐ。
    「綺麗ですよ、すごく」
    「……何よ、今更」
    「ほら、リンゴ飴あげますから!」
     差し出されたのは、メリーベルの瞳の色のようなリンゴ飴。
     機嫌を直した恋人の肩を抱いて、柳は空を見上げる。
    「本当、綺麗ですよねー……」
    「それは何に対しての感想?」
    「花火……あ、勿論、あなたのことですよ?」
     見た目にも涼やかな深緑色の着流しに着替え、グレイスは屋台を回る。
     適当に屋台を回り、適度に食料を買うと、人の少なそうな場所を探してのんびり歩く。
     やがて見つけた穴場スポットに腰を落ち着け、空を眺めた。
    「うん、なかなか綺麗やね」
     そうだ。写真とか撮っておいたら喜ぶかも。
     丁度良く打ち上がった花火をカメラに収める。
    (「む、少しぶれたか?」)
     満足のいく作品が撮れるまで、何度も挑戦をする。
     何せ、気儘な単独行動だ。時間は幾らでもあるのだから。
     良かったら、一緒に少し歩きたいなって思って。
     冬人のお誘いを断る理由も無く。冬人とオージュは並んで歩く。
     次々に咲く花火の合間を縫って、とりとめのない話をする。
     散歩が好き。特に夜の散歩は格別だということ。
     料理が趣味。興が乗ればお菓子も作ること。
     動物が好きなこと。その中でも猫が好きだということ。
     同学年ということに加え、意外な程に冬人との共通点が多いことを知り、オージュは驚きながらも嬉しそうな顔をする。
    「自分と同じことが好きなのって嬉しいよね。冬人くんも花火、好き?」
    「花火も好きだけど、オージュの髪の色が今はちょっと気になるかな。夜の色と同じ。夜と髪の境界が曖昧になって、奇麗だなあって思う。……ん? どうしたの?」
    「あ、えと……褒められ慣れてなくて……ありがとう……」
     さらっと人を褒める能力はオージュには無く、冬人にはあったようだ。
     共通点を探すのも楽しい作業だが、違うところを見つけるのも面白いひとときかもしれない。


     怪我してないかな? ましてや闇堕ちなんて。
     おろおろおろ。
     早めに待ち合わせ場所に来ていた天瀬・一子は、綿菓子やたこ焼きや焼きもろこしを買うなどして、逸る気持ちを抑えていた。勿論、食べたかったからではない。
    「待たせてごめんなさい」
     待ちに待った友人の声。
    「遅いよ、ふじえちゃん♪」
     何気なく迎えたつもりだが……喜怒哀楽のはっきりした彼女だ。友である藤恵には彼女の心情など、お見通しなのかもしれない。
    「これで皆揃ったわね。二人とも、浴衣、似合ってる」
     白地に草色と臙脂の花模様の入った、シックな浴衣を着たアリシア・ローウェルがおっとりと微笑む。
    「ありがとうございます。おふたりも浴衣、とても似合ってますよ」
    「うふふー、うなじアピール♪」
     金魚柄の藍染の浴衣の袖を靡かせ、得意気にくるりと回る一子とは対照的に、藤恵はいつもと違う友人達の装いに、ほんの少しドキドキしつつ下を向く。
     藤恵は、露店で買った林檎飴を二人に一口ずつおすそ分け。
     表面の甘い飴を齧ると、後を追うように林檎の酸っぱさが口の中で広がる。
     林檎飴のお返しにと、アリシアは雲のようにふわふわと白い綿菓子を2人に勧める。
    「おいしいね」
     くすくすと笑い合う3人の頭上に大輪の花が咲く。
     打ち上げ花火は見るのは、今回が初めてだというアリシアと藤恵は次々と上がる花火を時間が過ぎるのも忘れて見入ってしまう。
    (「……うん、みんなといれて、よかった♪」)
     一子は、そんなふたりの様子を嬉しそうに眺めていた。
    「はい。買ってきたよ。アグニスも水野君も、やけどに気を付けて食べてね。水野君はたこ焼きで良いかな?」
    「迅さん、ありがとう」
    「俺、タコ苦手……」
    「分かってるよ。君には焼きそば」
    「さっすがー!」
     雨来・迅の差し出す焼きそばを、アグニス・テルヴァは両手を伸ばして受け取った。
    「みんなとこうやって見るのが、花火のダイゴミなんだろ? すっごく楽しみ!!」
    「僕、花火大会なんて来るの、これが初めてなんだ……」
     初めての花火観賞だということで、始まる前からテンションが上がり気味の真火とアグニスの賑やかな声を聞きながら、迅は3人が座れるスペースを探す。
     漸く見つけたスペースに腰掛け、露店で買った料理を一口齧ると、待ちかねたように花火が連続して上がる。
     3人共――特に花火大会初参戦の真火とアグニスは、食べるのも忘れ、打ち上がる花火に見入っている。
    「やっぱり、ニホンの花火はすごいなー!」
    「僕も見ることが出来て嬉しいよ」
     花火の打ち上がる音に負けないように、普段よりも大きめの声で感想を言い合う。
    「ふふ。今日がいい思い出になったら、俺も嬉しいよ」
    「うん! ……あ、また上がった!」
     子供のようにはしゃぐふたりを迅は満足そうに見守っていた。
     のんびりとした時間を過ごせたのは何年振りだろう?
     時間という概念すら忘れ、何某に忙殺された日々を送っていた朽葉は、咲いては散る、夜空の花を見上げながら、そんなことを考えていた。
     光が散ったその後に流れる静寂の中、注意しなければ分からない程の微かな漣の音に、この場所からは遠く離れた護りたい人の事を思い出し、思わず笑みを浮かべる。
    「今度は一緒に来れたらいいな」
     ひとりごちる朽葉の目に、見覚えのある藍色の髪が映った。
    「水上先輩」
    「ん? ああ、朽葉くん」
    「一緒に食べない?」
     と差し出されたたこ焼きに、オージュは嬉しそうに頷いた。
    「良いの? ありがとう」
    「先輩」
    「ふぁい?」
    「先輩ってハーフ?」
    「んー、日本人と日本人の混血?」
    「成程、純日本人ね。もいっこ質問。どうして『進む』ことを決意したの?」
    「立ち止るのが怖いからかな? 僕は弱いから。昨日よりも今日、今日よりも明日。少しずつでも強くなれるように、とにかく前に進むことに決めたんだ」
    「そっか」
    「でも、今日は進むのはお終い。偶にはこんな日があっても良いよね?」

     一際大きな花火が上がる。
     それは、これまでの灼滅者達の健闘を称えるかのようだった。

    作者:呉羽もみじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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