うすざんより ぶたさんたいじの おねがい

    作者:旅望かなた

     うすざんに ぶた はっけん
     くえないので たいじ してね

    「いつもながらイフリートのお手紙はかわいーよね!」
     にこにこ言い放つ嵯峨・伊智子(高校生エクスブレイン・dn0063)の隣の教卓には、今回もででんと石版が置かれている。
    「つーわけで、食べれない豚さん……バスターピッグの退治をお願いします! 場所は北海道の洞爺湖温泉近くの有珠山!」
     バスターピッグの数は8体、全てがバスターライフルと同じサイキックを使用する。
    「でね、この中に一匹大きいのがいて、こっちはバスターライフルに加えて手裏剣甲っぽいサイキックも使って来るから気を付けてね!」
     大体ここらへん歩いてたら会えるよ、一般人は通りかからなさそうだよ、と言って地図に丸を付けてから、洞爺湖温泉のパンフレットを取り出す伊智子。
    「でもってねー洞爺湖温泉といえば大きい温泉プールがあんのね! 浮き輪の貸し出しもあるし、おっきい浮き輪とボートの中間みたいなのに乗って滑るウォータースライダーとか、流れるプールとかあるし、グッズの持ち込みもOKだって!」
     プールは男女混合、もちろん水着着用。
    「あと、お風呂の方も大きくて、打たせ湯とかジェットバスとかもあるのね! こっちは男女別になっちゃうけど……」
     どっちを楽しんでもいいし、いっそどちらも楽しんでも!
    「とゆーわけで、ばっちり退治してばっちり遊んできてちょ! よろしくね!」
     そう言って伊智子は、灼滅者達を送り出した。


    参加者
    ジャック・アルバートン(ヒューマノイドヘビータンク・d00663)
    椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)
    天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)
    廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)
    宮屋・熾苑(高校生ファイアブラッド・d13528)
    天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)
    斎場・不志彦(燻り狂う太陽・d14524)
    肆矢・獅門(災骸回路・d20014)

    ■リプレイ

    「イフリートさんから、可愛いお手紙貰ったのです!」
     天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)が、きらきらと瞳を輝かせた先には――伊智子の持ってきた、イフリートの手紙……石版だから手石版、だろうか?
    「……これが噂に聞くイフリートの手紙か」
     伊智子から石板を見せられて、肆矢・獅門(災骸回路・d20014)は興味深げにそれを見て頷いたものである。
    「確かにこれは可愛らしい、彫ってる姿を想像すると何だか和むな」
     ――今回はそのイフリートに会えぬのは、残念ではあるが。
    「字だけじゃなく、文面もかわいいですよね、イフリートの手紙」
     みんなで覗き込んだ石板を思い出し、「伊智子さんが気に入るのもわかる気がします……」とくすり、椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)が微笑む隣で「イフリートも温泉好きなら、一緒に入りに来てくれればいいのにね」と天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)が呟く。
    「そういえば、イフリートさんの石版って誰が運んでくるんだろう?」
     確かに謎である。
    「せっかくの夏休みなのに、依頼で豚さん退治かぁ……」
     そう呟いて廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)は、小さく溜息を吐いた。何か考え深そうな顔で、麒麟が首を傾げる。
    「きりん、ブタさんは好き、美味しいから。なのに、せっかくのブタさんを、食べられなくするなんて、ダークネスってひどいね」
     どんな奴が豚さんを改造したんだろう?
     こうしてダークネスとの戦いを続けていれば、いつかは知るときが来るかもしれない。
     そこに横から呵々と、太い笑い声。
    「喰えたら退治したのだろうな、恐らく。解りやすいのは嫌いじゃない」
     そう腕を組んで言うジャック・アルバートン(ヒューマノイドヘビータンク・d00663)の声も表情も、今日はどことなく楽しそうであった。
    「イフリートは邪魔な豚を排除でき、俺達は余計な騒ぎを事前に防げる、言う事無しだ」
     ついでに温泉付きなのだから、これはもう張り切るしかあるまい、とジャックは拳と掌を打ち合わせる。
    「それにしても初仕事が温泉付きとは、運が良い方なのかな」
     安心して浸かれるよう、頑張るとしようか、と獅門は柔らかに微笑んで。
     ポケットに入れた音楽機器から、イヤホンを繋ぐ宮屋・熾苑(高校生ファイアブラッド・d13528)とは動と静。対極に見えるけれど、戦いへと向かう心意気を整えるという点では同じ。
     お気に入りのロックは、戦いの前に集中力を上げるため、彼が毎回聞く音。
    (「有珠山……また懐かしい場所に来る事になったな」)
     音に意識をゆだねながらも、ここも活火山だから、イフリートがいても――おかしくねぇか、と心の中で呟いて。
    (「学園へ入ってからこの辺に来る事はねぇと思ってたが……不思議な縁だ」)
     何やら彼にとっても、有珠山は縁のある地であるらしかった。
     ふ、と唇を吊り上げて、熾苑が軽く肩を竦めて口を開く。
    「久々の地元近辺だ。ちゃっちゃと倒して遊ばせて貰うぜ」
    「うーん……豚さんには悪いけど、さっさと終わらせてみんなと遊びに行くぞー! 温泉……!」
     燈が思いっきり拳を突き上げれば、女の子達がそれに続いて。首尾よくバスターピッグ達を倒せれば、温泉でガールズトークをする約束。
    「あれはっ!」
     獅門が指をさす。その先には――確かに、バスターピッグが八体!
    「本当はイフリートと戦いたかったんだが、たまにはこういうのも良いだろう」
     近づいてくるバスターピッグ達を見ながら、斎場・不志彦(燻り狂う太陽・d14524)はニィと笑う。「実際に戦う時に一言二言、楽しい話をしながら戦えるってもんだ」
     ま、酔狂さ。
     ひょいと無造作にカードを取り出し、そう言い放って不志彦は力を解放する。それに続けて仲間達が、次々に解除ワードを口にして。
     すいとイヤホンを外し、ポケットにしまう代わりに熾苑はカードを取り出して口元に軽くかざして。自信に満ち溢れた強気な笑みが唇を飾り、「Let's show time」と歌うように、静かに唱える解放の言葉。
     轟、と足元から舞い上がる炎、纏うオーラは対照的に漆黒。けれどそれが混じり合い、一瞬巨大な恐竜の姿を映して――なにもなかったかのように、消える。
    「豚さんに恨みはないのですが、これから一般人さんが犠牲になっちゃう可能性もありますし頑張るのです~」
     優希那が大きく頷いて、己も力を解放し、契約の指輪をそっと撫でる。
    「さ、お仕事です。お互いのために、キチンと片付けましょう♪」
     紗里亜がそう言って、「備えあれば憂いなし、ですね」と防護符を連続で飛ばす。まずはディフェンダーである不志彦と獅門の背に、それは貼り付いて状態異常を防ぐ加護を与えて。
     燈が楽しそうに飛び出し、槍を振るう。次々にバスターピッグ達が飛ばしてくるビームや円盤状の光を、あるいは受け止めあるいは石突で叩き潰し、他称の怪我なら負ったとしても怯むことはない!
     同じく傷を受けながらも、ジャックが稲妻を載せたアッパーカットでバスターピッグを打ち上げ――、そのまま浮き上がったところにキックを叩きこむ。
    「ブタさん目つき悪いね……、ブーブー言われても、きりんにも食べてあげる事が出来ないの……」
     果たしてバスターピッグが食べて欲しがっているのか。それを知る者は、いない。
     麒麟がガンナイフの刃をバスターピッグに埋め込み、引き金を引く。大きな鳴き声を上げながら、その一体が消滅していく。
    「ぶうううううう!」
     熾苑が鬼神のものに変えた腕を叩き付け、大声を上げて攻撃の精度を高めたバスターピッグにもう一撃、狙い定めるサイキックの加護を噴き飛ばす。さらに不志彦が燃える太陽を纏うような鬼の一撃を決め、優希那が大きく異形に変形した腕を振るい、加護を破る力をその身に宿して。
    「そうは問屋が卸しません。ヤーッ!」
     さらに狙いを付けていたバスターピッグを、紗里亜はジャッジメントレイで弾き飛ばして。続けて熾苑に防護符を飛ばし、護符の如く貼り付けて。
     獅門がWOKシールドを輝かせ前に飛び出す。敵の怒りを己に集め、仲間達をかばい続けるという強い意思が、その表情に気迫を与える。
     鬼棍棒を軽々と、ジャックは振り回された。中が空洞なのかとも思えるほどの動作だが、どごお、と肉にめり込む重い音が、その重量を物語る。
     続いて、魔力の爆発。悲鳴が止んだ時には、そこにはもはやなにもおらぬ。
     燈が勢いよく影の刃を伸ばし、ざっくりとバスターピッグの毛皮を引き裂いて。麒麟が雷を解き放ち、熾苑が炎の嵐で敵を一気に焼き払う――さらに一体が、その一撃で消えた。
    「ぶぅぅぅ!」
    「あばばばっごめんなさいですよぅ~」
     気勢と共に解き放たれたビームを、慌てて優希那がマジックミサイルで相殺――次の瞬間、一際大きなバスターピッグの砲台から、毒を孕んだ黒きビームが雨あられと降り注ぐ!
     不志彦がWOKシールドを一気に広げ、優希那が急いで清めの風を吹かせる。さらには習い始めたばかりのギターを紗里亜が掻き鳴らし、復活のメロディを歌い上げ――まだ拙くとも、込める心は十分!
     獅門がサイキックソードに力を込めて刃を生み斬りつけて――これで、半分。ジャックが大上段に無敵斬艦刀を構え、一気に振り下ろす。不志彦が地を強く蹴り、同時に一気に伸びた影が一匹のバスターピッグを縛り上げる。
     燈のマジックミサイルが、早贄の如くバスターピッグを穿ち消し飛ばした。怯んで後ずさりしたバスターピッグをフリージングデスで牽制し、さらに熾苑が鬼神と化した腕を思いっきり叩きこめば六体目のバスターピッグが地に還る。
     ――次の、瞬間だった。
     爆発。それも、二連続。
     さらに癒しを阻害する力が働き、本人の意志に反して治癒の力を拒む。
    「はっ、それくらいが楽しいんじゃないか!」
     不志彦が軽口を叩きながら、WOKシールドを広げそのままウロボロスブレイドを振るい一体を薙ぎ倒す。あとは、今アンチヒールを与える爆発を繰り出した巨大なバスターピッグのみ!
    「あとは大きな豚さんだけだね!」
     燈がくるりと槍を回す。己の力をも高める槍――螺穿槍。
     それに貫かれながらも、逆に燈を引っ張りそうな勢いでバスターピッグが走り出す!
    「うわぁぁん、こっち来ないでくださいでしゅ……?」
     突撃してきた巨体に焦って転びそうになった優希那の前に、さっと影が差す。守ってくれたのは、同じクラブの不志彦。嬉しそうに優希那が手を振る。
    「今、行きます!」
     紗里亜がヒーリングライトを照らし、傷の深い不志彦へと癒しを飛ばす。ジャックがオーラを集めて癒しの気と為しさらに鋭いアッパーカットを叩き付け。巨体は吹き飛びはしなかったが、揺らいだ巨体にジャックのこれまた大きな足が埋まる。
     麒麟が突き刺した刃の影から、さらに弾丸が巨体を貫通して。
     そこに、飛び込んだ獅門の盾が埋まる。向いた怒りの視線に躊躇することなく、さらに影の刃を一閃。
     震えていた巨体が、どうと倒れた。
    「……食べてあげられなくてごめんね」
     ちょっと寂しそうに麒麟が呟く中、巨体は地面に溶け込むように消えて行った。

    「皆様お疲れ様でした、お怪我の具合はいかがでしょうか?」
     仲間達の傷の様子を確かめ、優希那はほっと息を吐く。
     燈がやった、と腕を突き上げ、仲間達へと振り向いて。
    「みんなで温泉に行こー! 女の子みんなで温泉に入ってガールズトーク♪」
     そんなわけで宿へと戻り、男子と女子に分かれて楽しい温泉の時間!
    「あばばばば、お待ちくださいませですよぅ~」
     慌てて優希那が長い髪の毛をまとめて皆を追おうとする。燈と同じ小学六年生の少女には少々大変な作業だが、髪の毛をつけてしまうのはマナー違反なればしっかりと。
    「いざ温泉! なのです~」
     ようやく髪をまとめ終え、嬉しそうに優希那も早足で温泉へ!

    「ふ~、疲れた体に、温泉が気持ちいいですね」
     大きく体を伸ばして、「おふろも広くて、の~んびり~~」と紗里亜がゆっくりと体を沈めていき……うっかり沈みすぎて、ぶくぶく。
     一生懸命まとめた甲斐あって、髪が落ちてこない上に、首筋を涼しい風が通り抜けていって優希那もご機嫌である。
    「……ん、温泉、広いし、気持ちいいね……」
     ほわほわするね、と麒麟はそっと目を細めて。
     景色もきれいだし、ぼんやり眺めながら時間いっぱい入ってたいな……そう、温泉好きの麒麟は思ってしまうのである。
    「ほわぁ……おふろ、きもちーねー」
     ほわんほわんと燈が表情を緩めて。普通のお風呂もあればサウナも打たせ湯もあり、中でも燈が「面白くて楽しいから好き!」とお気に入りなのは湯船の底からぶくぶく泡が出るジェットバス!
     いろんなお風呂に行きながら、ガールズトークに盛り上がる。ほんわりとお湯に浸かっていた麒麟も、よくわからない間に「……ん?」とガールズトークに混じっていて。

     そしてこちら、男湯である。
    「俺はやっぱりスタイルの良い女を見る方が楽しいからな」
     そう言って軽やかに去って行った熾苑は、今頃水着コンテストでも着用したド派手な柄の水着に目元はスポーツサングラスで覆い、プールをエンジョイしているはずである。
     さんざん色んな湯を楽しんでから、獅門は最後の打たせ湯に向かって。
    「……この打たせ湯というのはどう使えばいいのだろうか」
     首を傾げる獅門の問いに応えるように、居合わせたジャックが胡坐をかいて滝のように落ちてくるお湯の下に座り込む。じっと目を閉じ、しかと身体に重みを与える湯の感触を堪能して。
    「日本の温泉は素晴らしい、来た甲斐があるという物だ」
     そう言って、ジャックは打たせ湯に来るまでに堪能した温泉の数々を思い出す。薬草湯にジェットバス、サウナにももちろん入って水風呂の冷たさも堪能したし、露天風呂は暑い季節ではあるが汗を流すに丁度いい。
     思い出しながら、思わずジャックは笑んだ。
     長くじっくりとこの温泉を堪能しよう。何ならもう一周してくるのも――悪くないかもしれない。
    「よう、いい表情してやがんな」
     にかと笑って不志彦が隣の打たせ湯へ。反対側の隣では、獅門が打たせ湯はそのように楽しむものなのか、と感心したようにジャックを見習って湯を浴びる。強い水流が案外に気持ち良くて、思わず獅門の顔も緩んで。
    「応、これが和の心かと思うてな」
     ジャックがいい笑みで不志彦に頷く。
     なお、打たせ湯は肩や背中に当てると、勢いのよい水流で凝りが取れて非常に素敵である。肩こりに悩む方は癖になる事請け合いなので、どうかお試しあれ。

    「ぷはー、うめー!」
     風呂上がりのフルーツ牛乳を腰に手を当てて一気飲みし、不志彦は幸せそうに息をついた。果物の甘酸っぱさと牛乳の優しい甘さ、そして喉を通る冷たさが、汗を流した体に良く染みる。
     ジャックがぐびぐびと飲み干すのは、名物の紫蘇ジュース。一息つけば、紫蘇の爽やかな香りが鼻腔へと運ばれる。
     それにジャックが満足していた頃、女湯の方では……。

    「燈はアイスを……え……シソジュース? 美味しいのかなぁ……っ!?」
     綺麗な紫色に興味を持って、一口飲んだ燈が慌てて口を押える。なんとか飲み込んでからもちょっと涙目で、「と、燈はフルーツ牛乳が好みなのです……」とフルーツ牛乳を買い直して。もう片方の手には、初志貫徹でミルク味のアイス。
    「きりんは、ダメ……、絶対これ毒が入ってると思うよ……、絶対飲まないから」
     紫蘇ジュースを前に、臭いだけでダメって分かるよ、と麒麟はぶんぶん首を振る――確かに、紫蘇の匂いは苦手な人も、多い。
    「これ美味しいですねぇ~どうやって作るのでしょうか?」
     反対に一口飲んだ瞬間瞳を輝かせて、深い紫色のジュースに見入るのは優希那。紗里亜も「ソーダ割りが美味しそう……♪」とちょっとクセのある味に満足した様子。
    「お家で、おじいちゃんとおばあちゃんに作って差し上げたいのです! 聞いたら教えて下さるでしょうか?」
     カウンターのお姉さんに尋ねれば、「企業秘密です」と唇の前に一本指を立てて。けれど優希那ががっかりする前に、もっと簡単にできるレシピを教えてくれる。
     それは紫蘇を煮込み、取り出した後に砂糖とクエン酸を加えるという、初心者でも美味しく作れそうなもの。
     その間に美味しそうにアイスを頬張る燈に、紗里亜が頬を緩めて。
    「アイスもいいですよね。地元産ならまた格別かも!」
     思わずついつい買って、頬張って、堪能してから――目の端に映った体重計に、途端に紗里亜の顔が青ざめるのだった。

     温泉を堪能していたらもう夕暮れ時、部屋に戻れば夕餉が待っている。
     名も知らぬ誰かの命を、日常を守れたことを誇りながら、洞爺湖を楽しむ灼滅者達なのであった――。

    作者:旅望かなた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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