とちぎ から てがみするよ。
さいきん いたちが あばれていて こまっているよ。
たいじ してくれると うれしい。
たのめ ないだろーか。
いやほんと こまってる。
まじで。
●
「……というわけで。まじで困ってるみたいだ」
冷房の利いた教室。
灼滅者達の前で久遠・レイ(高校生エクスブレイン・dn0047)は言った。
彼が持っているのは手紙……らしい。どうやら。
つまりはクロキバ派からのご連絡で、ある。
「どうやら、栃木北部の山間……ええと、この辺かな……に、鎌鼬が出没しているらしい。これを灼滅するのが今回の任務だよ」
眷属退治、である。
敵の数は六体。
特別な能力は持っていない。油断しなければ勝てるだろう。
そして。
レイは、つ、と地図上の指を滑らせ――言う。
「那須。温泉がある地域なんだよね、これがまた」
がたっ。
灼滅者達が立ち上がった!
落ち着け。レイは極めて真剣に言葉を紡ぐ。
「諸君の気持ちは良くわかるよ……故に僕はエクスブレインとして宣言しよう。灼滅後は、温泉宿に一泊して来ても構わない、と! しかもアレだ、向かった日の夜は花火大会もあるぞ!」
言い切った。
というか、この男がここまで強い口調で依頼説明したのは初めてじゃないだろーか。
「ゆっくりしてきてくれ。休むのも、戦士の仕事だからね」
しかしいいねぇ、温泉。日本の文化だ。
半分日本人のクセに、いやに羨ましそうに、レイは言った。
参加者 | |
---|---|
伊舟城・征士郎(アウストル・d00458) |
佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597) |
鬼無・かえで(風華星霜・d00744) |
天祢・皐(高校生ダンピール・d00808) |
高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463) |
水葉・楓(紅の辻風・d05047) |
宮代・庵(小学生神薙使い・d15709) |
天草・水面(和風エクソシスト工業科・d19614) |
●速攻粛清
さて、そうして此処は栃木の山奥。
今回の戦場である――。
「誠に勝手ながら、後の予定が閊えております故、手早く終わりにして頂きます!」
響くのは声と技。
伊舟城・征士郎(アウストル・d00458)のヴァンパイアミストだ。
「さあ、それじゃ――さっさと退場してもらうっスよ!」
『!?』
同時、動く影は天草・水面(和風エクソシスト工業科・d19614)。
ヴォルテックスの一撃が敵、鎌鼬の気勢を削いだ。
故に、灼滅者の手番は終わらない。
「――夏日にそんな格好、ご苦労さま。今涼しくしてあげるね……?」
「――悪いけど、お仕事だから。恨まないでねっ!」
重なる声は二人。
鬼無・かえで(風華星霜・d00744)と水葉・楓(紅の辻風・d05047)の連携だ。
ティアーズリッパーと閃光百裂拳が、たじろぐ鎌鼬の身体、その芯で爆ぜる!
『キッ!』
漸くの反撃は、無論弱いものではない。
しかし、それでも――。
集団戦闘に関して、灼滅者の右に出るものは希少だ。
「痛いねぇ、やっぱり。まぁ、それでもこの程度なら……」
余裕はありそうっスね。
呟く高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)の表情には、苦笑以上のものはない。
彼は――カオスペインで攻撃を誘発させ、ディフェンダーの加護で耐える。
そして。
「さ、わたしの傷もBSも吹き飛ばす天上の歌声で存分に癒されちゃって下さい」
宮代・庵(小学生神薙使い・d15709)のエンジェリックボイスがその傷さえ癒す。
……強い。
明らかに灼滅者たちの戦闘能力は、個としても集団としても鎌鼬のソレを凌駕していた。
「いやー、マジで困ってるってーし。助けに行かないと酷い人になっちゃうもんなー」
「そうですねぇ。これではまるで便利屋ですが、まあ、仕方ないことではあります」
反撃は速やかに。
佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)と天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)が、人生に対する悟りを感じさせる――聖人のような、とも言えるか――呟きと共に開始した。鎌鼬に回避する術は無い。
「仕方ないよなー」
「仕方ないですよねー」
そう。
敵は人類の脅威である。
だから、灼滅者達は夏の山にも現れる。
――温泉とか花火とか、そういうのもあるらしいがそれはささいなコト。
あくまで彼等は、人類の守護者なのだ。
「仕方ないっスねー」
「仕方ない、仕方ない」
『キィーッ!?』
だから。
あれだ。
鎌鼬が少ない描写でやられていくのも、仕方ないことなのだ……。
●誰が為に湯は流れる
というわけで。
灼滅者たちの全力は、割と容易く敵を捻じ伏せていった。
「さぁて――でかい花火にゃ敵わんが、これでも喰らっとけ!」
『キッ!?』
今もまた、司のレーヴァテインが一匹の鎌鼬を無力化する。
重傷者は居ない。
悪いことじゃないなと、内心呟く司である。
「終わらないと花火……おっと、なんでもないよ」
「いけませんね鬼無さん。本音は隠しておかないと」
『キー……』
同時、中空を走る槍は二つ。
かえでと皐。
のんびりとした口調に反し、空気を切り裂く一撃は鋭く強い。
妙に納得いかなそうな鎌鼬の声が、尾を引いた。
(「問題なく、終わりそうっスね」)
と、一息つくのはライドキャリバーを巧みに操り手数を増やす水面である。
実戦。
油断できるものではないが、しかし理さえ護れば、戦果はしっかり獲得できる。
ソレを学べたのは、少なくともマイナスではあるまい。
そして。
「これで――終わりっ! 次は温泉と、花火だよっ!」
楽しみがあるのは、きっと良いことだ。
最後の一体を、急加速で――険しい山道でそこまでの機動を実現できる点は賞賛に値する――補足した楓が、トラウナックルで戦闘を終わらせる!
『キィ……』
早くないですか。
何故かそんな風に聞こえなくも無い悲鳴が一度だけ上がる。
つまりはそれが終結だ。
「終わったなー」
「ふふ、目立った負傷者が居ないとは。流石は私ですね。これで人々に仇成す存在は消し去れたので、存分に温泉と花火を……こほん、いや、それはあくまでついでですが……」
「うんうん、その通り。あくまでついでに、楽しめば良いさ」
くい、と眼鏡の位置を直して庵が本音を流せば。
鷹揚に琥太郎がその小さな肩を、優しく叩く。
実際、彼女の回復にはミスが無かった。ディフェンダーとしてはありがたい限りだ。
「さて、それでは……休暇と参りましょうか?」
にっこり呟く征士郎の言葉を否定するものは誰も無い。
故に。
ここから先は、夏の優雅な時間である……。
●湯に遊べば
鎌鼬を討伐して数時間後。
場所は温泉宿である。
否。
もっと正確に言うと、温泉である。
「善き哉、善き哉。正にこの世の極楽ですね……」
肩まで湯船に浸かるのは征士郎。
藍の瞳は気持ちよさそうに細められ、表情も戦闘中の厳しいソレとは別物だ。
戦士にも休息は必要。
なのである。
「しかし、まあ、学園も割と良い宿を見つけてくれるよなー……」
「そうですね。このレベルの宿は、学生身分だと中々泊まりませんから」
対して、浴槽の縁に腰かけているのが琥太郎と皐の二人だ。
呟き、見回す露天風呂の格式は決して低い物ではない。
武蔵坂学園――経常利益を絶賛削減中である。
まあ頑張ったんだからいいよね!
「いやー、生き返るっスねー。依頼も成功したし、良かったっスよ」
「……そういえば、天草さんは先程まで外出されていましたね」
「ああ、そう言えばソレは俺も気になってたんだよな。何処行ってたんだ?」
と、そこで、ざぶ、と湯船に追加が二名。
体を洗っていた水面と司の両名だ。
やけに笑っている水面の様子に皐が首を傾げると、司も同調の頷きを見せた。
「え? あー、ちょっと色々見て回ってたんスよ。探しモノというか、なんて言うか……」
「……探し物は、見つかりましたか?」
「ええ、まあ」
それは良かった。
元気よく答える水面に、征士郎が微笑みを返す。
「うーん、彼が一番年下の筈なんだが……」
「雰囲気的には、引率の先生に近いな……」
琥太郎と司は、そんなことを言ったりもした。
なんにせよ、平和な男湯だった。
●湯に親しめば
「ふっふっふ、こんなこともろうかと、今日は浴衣持参なのだっ!」
「勿論私も持ってきています。流石、私はオフの準備も万全ですね」
そして女湯。
非常に高いテンションを見せるのはかえでと庵の浴衣持参コンビである。
旅館備え付けの浴衣に甘んじぬ姿勢……!
流石は武蔵坂の灼滅者ッ……!
「へぇ、凄い凄い。二人とも楽しみにしてたんだねぇ」
「それは勿論!」
「いえ別にそういう訳では無いのですが何事も手を抜くのは良くないと思ったので!」
湯船につかってくつろぐ楓には真逆の反応が返ってきたが!
しかし先程から庵の表情も満更でもなさそうなので、多分問題は無いだろう。
(「いやー、極楽極楽……って、これじゃおじさんくさいか」)
女性陣最年長の楓は落ち着いたものである。
「……しかしこの露天風呂、広いわねー」
否。
少しだけ、湯船を見てうずうずしている。気のせいかも知れないが。
「これだけ広いと泳げそうだね!」
「……確かに」
「!」
そしてかえでの台詞と庵の相槌にちょっと驚いていたようにも見えなくもない。
気のせいかも知れないが。
「うーん……」
「「?」」
まあ、結局。
誰も泳がず、優雅に温泉を楽しんだことだけは、追記しておく。
●夜宴
「さて、湯上りで色気を増したところで夕食なワケだけれども!」
「高宮先輩、必要以上に説明口調なのは何故ですか?」
温泉を楽しんだ後は当然夕食が来る。
灼滅者達は、それぞれさっぱりした顔で食堂に顔を出していた。
――琥太郎の台詞に、ノータイムで突っ込んだのは庵だったが些細な事だ。
「うーん、美味しい! 学園も中々、灼滅者に理解があるじゃないの!」
「恐ろしく旨いっス……きっとこれ、高いっスよ……!?」
卓に並ぶのは豪華な山の幸。
木の芽の天麩羅に楓の。
鮎の塩焼きに水面の体力が回復する。
多分、戦闘力は最高値にまで戻っているに違いない。
「さて、もうすぐ花火が始まりますが……どうしましょうか?」
と、軽やかに手を合わせる皐に視線が集まった。
そう。
まだイベントは残っている……!
今日は忙しい日だ。
「僕は花火大会見て回ろうかなー」
「私は宿でゆっくり見ようかと……あ、でも、周囲の名所は粗方調べてありますので興味があれば行ってみてください。明日の朝、帰る前に見るのも良いですね。例えば那須なら――」
「……んん!?」
外出派、かえでが手を上げれば、にこやかに口を開いたのは征士郎だった。
しかも説明は長い。早い。
「始まったな……」
「ああ……」
男性陣は妙に達観した瞳でソレを見る。
そう、彼等は知っていた。
征士郎が大量のガイドブックを持ち込んで入念に予習していたことを……!
(「これを年相応と見るべきか、やはり大人びていると見るべきか……」)
司の苦笑は温かい。
きっとこの食卓に流れている空気は、温かいものだ。
「まあ、想い想いに過ごすという事で……楽しくやりましょう?」
おそらく、一人では出せない旅の風情が此処にある。
皐が、笑って、とりあえず食べましょうかと場を締めくくった……。
●華
そして――。
夏の山に、花火が咲く。
「うわー、結構人がいるねぇ……」
会場には沢山の出店。
感嘆の声を上げる、かえでの右手には既にラムネがある。
「……凄い」
宿を出る際、遠くに聞こえた囃子はもうすぐ近い。
小さく、本当に小さく庵が洩らした呟きは、すぐに人ごみに消えていった。
「……眩暈がしそうっス」
それは、解り易いほどの非日常。
祭りの雰囲気は、生で体験しないと、分からない。
「さーて、みんな、欲しいものはとりあえず買っておいてね……天草くん!」
「らじゃーっス!」
浴衣姿が華やかな庵とかえでの肩を優しく叩き、水面に声を掛ける楓は、外で花火を見る外出組の引率だ。自身も落ち着いた色調の浴衣を纏った彼女が視線を移すと――びしっと水面。
「それじゃ、案内するっス……最高のスポットに!」
どうやら、見学場所は彼が決めるようだ。
●
さてさて。
外出組は四人。
今回の依頼参加者は八人。
つまり、残る四人が宿に居るワケだが――。
「今頃、天草さんの先導が始まった頃ですかねぇ」
「水葉さんが背中を押して?」
「もしかしたら、そうかも」
ゆっくりまったりを選択したのは四人の男達。
ぱたぱたと団扇を扇いで皐が言えば、応じるのがやや上気した様子の征士郎。
――因みに征士郎、既に二度風呂である。
「おーい、飲み物買ってきてやったぞー」
「あ、お帰りなさい」
がらりと入室するのは残る二人、司と琥太郎。
どうやら、もう完全装備で花火を鑑賞するらしい……。
「さて、それじゃ俺は露天風呂で一杯やろうかな」
「覗きは、」
「しませんー! さっきだってしてなかっただろ!?」
コーヒー牛乳片手に風呂場へ向かう琥太郎は更なるこだわりを見せる。
俺程の紳士は中々居ないよと嘯いて、部屋の外へ出て行った。
「ん……?」
……と、その時だ。
笑って見送る皆の耳に聞こえてきた音は……。
●
「というワケで、花火観覧にちょうどいいスポットを用意したッス!」
再び外。
いや、正確に言えば山。
御富士山と云う名の山中で、胸を張る水面がいた。
実は彼、どうせなら最高の景観を……ということで、戦闘後に一人、観覧スポットを探していたのだ。中々山の中を探索するのは骨が折れるが、そこはそれ、日頃から戦闘に身を置く灼滅者の面目躍如である。
「「あ……」」
――そして。真っ暗な夜空に、華が咲いた。
「いやー、流石に日本の夏の風物詩はいいですね。まるでわたしのように美しいです」
「うん、これは……凄いね。戦闘の疲れ、吹き飛んじゃうかも……!」
黄。
赤。
青。
緑。
様々な光が、満足気に眼鏡をくいくい動かす庵と、そして嬉しげな楓を照らした。
美しい。
素直に、そう言える光景が、目前にある。
「もっと大勢で来たら、もっと楽しかったかもね……」
かえでがぽつりと呟く。
そう、独り占めするのがもったいない位の、光景だった。
これだけ綺麗な光景には、全てを忘れてしまいそうで……。
「……あ」
「どうしたの?」
「気分でも悪いスか!?」
「か、完璧な私に手伝えることなら手伝いますけど」
「あー、うん、大丈夫……」
ついつい、そういえば宿題全然終わってないなぁ、なんて思い出して。
みんなに心配される、かえでだった。
●
「しかし、これはまた……美しいですね」
「いやー、流石、良く見えるな! エクスブレインの情報通りだぜ」
そしてそして、再び旅館。
空に連続で上がる花火に笑みを漏らす征士郎と司がいた。
咲いては消えて、咲いては消えて。
一瞬だけ存在する花火には、けれど何にも代えがたい価値があった。
(「その一瞬の為だけに、職人が力を尽くす――美しくない筈が、ありません」)
感嘆の声を上げる二人を静かに肯定するのは皐だ。
ゆったりと、窓際で見る花火には、いつまでも飽きることが無い。
まさしく、これこそ……。
●
「――こういうのが、贅沢って言うんだろうなぁ」
おそらく他の灼滅者全員が抱いているだろう想いを呟くのが琥太郎だ。
贅肉のない体を、ほどよく持参した飲み物で冷やしながら、飽きずに空を見る。
「しっかし……」
良い時間だ。
実に。
更に言うなら――。
「あ、そういえばお土産、どうしましょう?」
「旅館で買っても良いけどな」
「でも、折角ですし。明日、見て回りますか?」
賑やかな仲間もいる。
実は露天風呂のすぐそばの部屋にいる皆の声に微笑して、琥太郎は再び空を見上げた。
●学園へ
楽しい時間は、あっという間に終わった。
鳥の囀る、朝が来る。
「それで、花火は良く見えたのか?」
「はい、問題無く。温泉も入り直して、完璧です」
最初に宿の入口を出たのは司と庵。
すぐに、残る仲間も二人に続く。
「あー、もう日常に帰る時が来たんだね……」
「まあまあ。宿題をやるのも学生の醍醐味ですよ。多分」
因みに、かえでは未だへこんでいた。
にっこり笑う皐は大人の対応である。
「あー、でも、お土産買っていきたいかな?」
朝風呂でご満悦の楓が問えば――。
「大丈夫、多分征士郎が知ってる!」
「……お菓子が好きなら、お菓子を集めたお城など、如何でしょう?」
琥太郎がすごくいい笑顔で征士郎を指さす。
そして征士郎が即答。
早い!
「それじゃ、ゆっくり回って……無事に帰るっス!」
帰還して報告するまでが、依頼ですから。
水面の言葉に、皆が頷いて――歩いていく。
那須の木々に囲まれた、大地を。
ゆっくりと、確実に。
きっとそれは――想い返せば貴重な思い出の一ページに、なってくれる光景。
作者:緋翊 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
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