Primary Lesson

    作者:篁みゆ

    ●Rule
     そこは田舎の中学校だった。生徒数はそう多くなく、3学年合わせても100名程度。けれどもリーナにとっては大きな舞台だった。
     蝶よ花よと育てられた彼女にとって、一人で任務に挑むのはとてもとても勇気がいることで。けれどもリーナの為を思ってこの学校を紹介してくれた先輩たちに報いたい気持ちはいっぱいあった。
    (「この任務を成功させれば、先輩方も、憧れのお姉様も喜んでくださるかもしれないわ」)
     血は繋がっていないが姉と慕う人の事を思い出すと勇気が湧いてきた。ちょっと古い形の手さげタイプの学生鞄を身体の前で両手で持ち、前を歩く担任教師の後をついていきながら小さく頷いた。
     教室に入ると30数名分の瞳がリーナを射抜く。男子の歓声のような声とともに女子達の「綺麗ー」という声も聞こえてきた。
    「み、みなさん、ごきげんよう」
     金色の髪をさらりと流して頭を下げる。頭を上げてメガネの位置を直し、にこりと微笑めば、クラスメイト達はもうリーナに夢中だった。

     都会から転校してきた美少女、リーナは田舎にはいないタイプで、純朴な田舎の中学校の生徒達は彼女が転校してきてくれたというそれだけで彼女に親切にしてくれて、なんでも言うことを聞いてくれるものだから、リーナはただ微笑んで告げるだけでよかった。
    「支配の証として、今日から皆さんの上履きとスリッパは、ピンクの花がらにしてもらいます」

    「やあ、いらっしゃい」
     教室に足を踏み入れると、物腰柔らかに神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)が声をかけてきた。座ってくれと声をかけると、瀞真は和綴じのノートを繰る。
    「ヴァンパイア達の学園である朱雀門高校の生徒達が、各地の高校に転校してその支配に乗り出しているということは知っているよね?」
     今まで灼滅者達はいくつかその学園支配の企みを打ち砕いている。
     ヴァンパイアは強大なダークネスであり、現時点で敵対するのは自殺行為。だがこのまま多くの学校がヴァンパイアに支配される事を見過ごすことはできない。
    「転校先でのトラブルという程度であれば、戦争に発生することはおそらくないだろう。今回の依頼の目的はヴァンパイアの撃退ではないよ。ヴァンパイアの学園支配を防ぐことだね」
     けれども、と瀞真は一旦言葉を切って、そして続けた。
    「今回はちょっと……勝手が違うんだ。場所は田舎のとある中学校。生徒数は3学年で100人程度の小さな学校だね。そこに転校したヴァンパイアがいるんだ」
     名前はリーナ・ウェルトン。中学3年生の少女。金髪でメガネを掛けた美少女だ。
    「鄙には稀な美少女だから、彼女が転校してきた、それだけで素朴な田舎の中学生たちは夢中になってしまって、彼女の言うことをなんでも聞いてくれる状態になっている」
     簡単に、学校が支配されてしまったのだ。ただし、リーナのした支配はなんというか……かなりぬるい。
    「リーナ君は生徒達の上履きとか職員や来客用のスリッパを全部ピンクの花がらにしたんだ。学園支配の証としてね」
     支配といってもはっきり言って朱雀門高校のヴァンパイアに比べれば『ちょろい』感じだ。この支配活動を阻止するのは比較的簡単だろう。
    「リーナ君は自分の支配を邪魔する者がいると気がつけば襲ってくる。つまり戦闘になるんだが……実は彼女、闇堕ち状態から救い出せそうなんだ」
     教室にざわめきが走る。瀞真はそのざわめきに割って入るように続けた。
    「周囲に甘やかされて育った彼女は朱雀門高校に入学予定でね、優しい先輩たちにも甘やかされている。今回の学園支配も朱雀門に入る前にリーナ君に功績を与えてやろう、みたいなノリでお膳立てされた場所らしい」
     支配難易度が優しくても、学校を一つ落としたという事実は変わらない。よほど可愛がられているようだ。
    「彼女を救うためには説得が必要だけれど、厳しい指摘などはされ慣れていないのか、びっくりしておどおどしてしまう。泣きだしてしまうかもしれない。そうなってしまっては話を聞いてもらえないだろう。逆に優しく接すれば、話は聞いてくれるはずだよ」
     少し言葉と内容を選びながら説得する必要がありそうだ。彼女が話を聞いてくれなくなっては、救えるものも救えない。甘やかされてきた彼女に思うところのある者もいるだろうが、彼女を闇落ちから救うためにしっかり考えてほしい。
    「少しイレギューラーな依頼だけれど、学園支配も放っておけないし、灼滅者となる可能性のある彼女も放っておけない。できればどちらも解決して欲しいと思う」
     瀞真は頼んだよ、と笑った。


    参加者
    因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)
    風宮・壱(ブザービーター・d00909)
    雨谷・渓(霄隠・d01117)
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)
    天瀬・一子(Panta rhei・d04508)
    ラックス・ノウン(不動のフーリダム・d11624)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)

    ■リプレイ

    ●Lesson1
     その学校は伝統あると言えば聞こえがいいが、端的に言えば古びた校舎の学校だった。昔は生徒もそこそこいたのだろう、空き教室や使われていない校舎もあるようだ。
     念の為に制服を着た上から闇纏いで敷地内へと侵入した風宮・壱(ブザービーター・d00909)と雨谷・渓(霄隠・d01117)は二人で共に周辺を警戒しながら戦闘場所を探しているところだ。授業中の教室を覗けば、皆がピンクの花柄の履物を履いているという光景は、やはりなんだか少し異様にも思えた。
    「杞憂で済めばいいんだけど」
    「そうですね」
     二人はリーナ以外のダークネスや強化一般人の存在にも警戒していた。おかしな同行を見せる教師や生徒がいないか注意しつつ、屋上への階段を登る。危険だからだろう、立入禁止と書かれたカードの下がった紐が階段に張られていたことからなんとなく予想はしていたが、屋上は施錠されていた。
     さらさらもふもふの犬に変身した新沢・冬舞(夢綴・d12822)と黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)は首から携帯電話を下げて、人目につかないように気を配りながら体育館まで辿り着いた。授業時間中だが現在使用しているクラスは無いようで、電気は消されているが扉は開いたままだった。
    「広さ的には十分だな」
    「そうっすね」
     中を覗きこんで頷き合う二人。一応体育館を候補地として抑え、さっと身を翻らせる。不測の事態で体育館が使えなくなった時のために他の候補地も探しておかねば。使われていないらしい校舎の裏手へ向かいつつ、冬舞は振り返った。
    (「……誰か、リーナが成功したと判断する者が必要だろうから、監視者はいるようにも思えるが、……さて」)

    ●Lesson2
     一度に四人も転校生が訪れて、クラスが、校内が沸き立たないはずはなかった。休み時間になると自然、四人のそばに人だかりができる。
     リーナの事はひと目で分かった。金髪でメガネを掛けた美少女。目立たないはずはない。彼女は人垣の外で、四人の転校生を見つめていた。
    「見て見て。この上履き、可愛いでしょ。ヒヨコ柄♪」
     天瀬・一子(Panta rhei・d04508)は自らのはいている上履きを見せて。すると周囲の女子から「可愛い!」と声が上がったが、彼女達の表情がすぐに曇る。
    「でも私達はこの履物で……」
    「天瀬さんもこっち履いたら?」
     逆にピンクの上履きを進められる始末。
    「そう? でも可愛いと思ったらそっちに変えるのもアリなんじゃないかな♪」
     負けじと笑顔で推す一子。リーナと同じ目線であることをアピールする彼女だったが、女子達は中々に頑なだ。誰か一人が一子に従ったら、その子は裏切り者として仲間はずれにされてしまうのだろう、そんな女子特有の雰囲気が見え隠れしていた。
    「え、この学園入学したらピンクのスリッパ履かなきゃなんないの?」
     大きな声を上げたのはラックス・ノウン(不動のフーリダム・d11624)。転校したて故に履物が揃っていないのをいいことに、ラックスは自分の履いている少し洗練されたデザインの上靴を指して。
    「それよりオレの今履いてる都会で流行してるこれの方がいいんじゃない。ちょうどたくさん持ってるからプレゼントとしてあげるよ」
    「え? いいのか?」
     男子としてはリーナのお願いとはいえやはりピンクの花柄への抵抗は隠せないのだろう。都会で流行しているという触れ込みも、田舎の少年達の心をくすぐったようだ。上靴を受け取った少年達は「すげー」とか「カッコいい」などと口々に賞賛しながら新しい上靴を履いてみている。と、輪の外れにいたリーナが何かを手にしてラックスへと近寄ってきた。生徒達は自然、リーナのために道を開ける。
    「ノウン君、でしたよね? これ、お近づきの印に」
     リーナが差し出した紙袋の中には、薄々予想していた通りピンクの上履きが入っていた。ラックスはそれを無造作に机の上に置いて、荷物を漁る。
    「こっちこそ、よろしく。あ、これ、いいだろ?」
     ラックスが差し出したのは男子達に配っていた上靴。にこやかに差し出されたそれには悪気がないと取ったのか、リーナは少し悲しそうな顔をしながらも「ありがとうございます」とそれを受け取り、輪から離れていった。
     学園支配の証が少しずつ崩されていくことをリーナは感じたことだろう。残りの転校生二人にも早く上履きを渡さねば、教室から出て行く二人の後ろ姿を見て、リーナは紙袋に二足上履きを詰めた。
     その二人、因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)と赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)はダメ押しも兼ねて職員室を訪れた。直談判だ。
    「先生、この学校の履物なのですが、教育現場で柄物は如何なものでしょう?」
     ですます調を心がける布都乃。亜理栖もそれに呼応するように声を上げる。
    「来客があった時に、派手なものだと相手に失礼だと思うんです。逆に怒らせてしまうかもしれないよ」
    「た、確かにそれはそうなんだが……」
     気まずそうに口ごもる教師達。一人の女生徒の言いなりになっているなんて言えないのだろう。
    「教育委員会の視察とかの時に困りませんか? 学校の品性が疑われますよ」
    「そうだ、な。やはりもとに戻すべきか……」
     布都乃の意見で教師の心が揺らいだ、その時。パサッ……廊下で何かが落ちる音がした。亜理栖が廊下を覗くと、落ちていたのはピンクの上履きの入った紙袋。そして走り去っていく後ろ姿と遠のいていく足音。
    「リーナさん……?」
     聞かれたのならそれはそれでよかった。学校支配が妨害されていると実感してもらえただろうから。後は戦闘場所を探している警戒組の四人からの連絡を待つだけだ。

    ●Lesson3
     話がしたいから、放課後体育館に来てほしい――警戒組から体育館が調度良さそうだと連絡を受けた転校生組が調べた所、今日の放課後は体育館を使う部活の活動は休みだという。決戦の場所を体育館に定め、リーナを呼び寄せる手紙を机の中に入れた。後は彼女が来るのを待つのみだ。一同は体育館の中でリーナを待ち構える。
    (「救える可能性があるってコトぁ、まだ完全に堕ちちゃいねぇのか。ったく、優しくってガラじゃねぇんだが……それがオーダーなら仕方ねぇ」)
     布都乃は心中でぼやきつつも、かけるべき言葉を探している。
    「お日様みたいなヴァンパイアって、いるんだね♪」
     一子は、堕ちても特別な人がいるリーナはきっと人一倍愛情に篤いのだろうと思う。その愛情の篤さを刺激して彼女を助け出せればかと考えていた。
     カタ……体育館の入口扉が小さく音を立てた。
    「来たみたいだな」
     ラックスの言葉に一同の視線が入り口に集まる。そっと横開きの扉の隙間から身を翻らせて体育館へ入ってきたのは、金糸を揺らしたリーナ、その人だった。彼女は一人であり、強化一般人などを連れている様子はない。
    「お手紙をくださったのはあなた達ですか……?」
     思ったよりも人数がいたことで、少しばかり驚いているようだ。彼女は灼滅者たちと距離をとって立ち止まる。
    「ああ」
    「丁度良かったです。私も……私の学園支配を邪魔するあなた達にお話がありました」
     布都乃の肯定にリーナは少し緊張した面持ちで告げた。その言葉に反応するように、壱はゆっくりと口を開く。
    「君はここを支配したんだよね? 一緒に勉強したり遊んだり……それって支配じゃなくて友達って言うんだよ」
    「違います、私は支配したんです」
    「やっぱり支配じゃなきゃダメ? どうして?」
    「お姉様や先輩方が、私がそうすることを望んでくださるから……」
    「お姉様や先輩達のこと、大好きなんだね♪」
     絞りだすように告げられたその言葉を否定しないように、今度は一子が声をかける。
    「それじゃあ、一番大好きだった人は? 堕ちちゃう前、大好き大好きで、闇堕ちしても離れたくなかった人。その人への想いはどうしちゃったの?」
    「それは……」
     リーナは口を閉ざしてしまう。渓は武器を見せずに笑みを交え、語りかける。
    「指示に従い支配する関係、其処に貴方の求めるものはありますか? 自分なら対等な形で友になる事を望みます。貴方ともそうなれたらと」
    「私の求めるもの……?」
    「学校中から笑顔が消えるかもしれない。自分も本当の笑顔を忘れるかもしれない」
     淡々とであるが優しく、棘のある表現にならぬよう言葉を選んで蓮司が紡ぐ。
    「……今はよくても、支配が進めばいつかそんな日が来る。俺は、皆から笑顔が消えたり、何よりリーナさんがリーナさんでなくなる事は嫌っすよ」
    「私が私でなくなる……」
     噛みしめるように、リーナは呟いて。
    「認められたいっていう気持ちも大事だと思うけど、そのためにみんなを巻き込むのは可哀想だよ」
    「可哀想?」
     亜理栖の言葉に首を傾げるリーナ。掛けられる言葉達が彼女の心を揺らしたのか、瞳には混乱の色が見えている。
    「尊敬している人のために頑張ることはえらいと思うよ。けど、それだけじゃなくて、自分のために頑張るほうが僕は好きだな」
     このままあの組織の一員になってはいけない。多分、戻れなくなっちゃう――思いを込めた亜理栖の言葉。
    「先輩達は喜ぶかもだが、この学校は支配され自由を奪われる。優しくしてくれた友達が苦しむ姿、嫌じゃねえか? 言いなりになって誰かを傷付けちまう前に、よく考えてくれ」
    「先輩達は喜んでくれるはず……でも、友達は苦しむ……そんな、私はどうすれば……」
     揺れる心境を表すかのように顔を手で覆って頭を振るリーナ。
    「落ち着け、リーナ。ゆっくりでいいから」
     冬舞の穏やかな言葉に彼女は頭を振るのをやめて。顔を覆っていた手を外して荒く息を吸う。
    「その先輩はリーナになんと言ったんだ?」
    「カミラお姉様は、私が朱雀門高校に入った時にエリートとして一目置かれるようになるために、この学校を支配してきなさい、と……」
    「それは貴方の本当の望みですか? 本当の望みは、願いは何ですか?」
     優しいけれど心に突き刺さる渓の問い。
    「俺、いっぱい友達作れるリーナさん素敵だと思うよ」
    「友達……」
     壱の言葉で改めて思う、彼らは友達だったのかもしれない、と。
    「ああっ……私、どうしたら、どうしたら良いの……っ!」
     再び頭を振ったリーナの身体から、赤きオーラの逆十字が出現する。その逆十字は一子を切り裂く。だが説得が効いているのだろうか、身構えたほどの威力ではなかった。
     灼滅者達は一斉に武器を取り出し、殺界形成を使用して戦闘態勢に入る。リーナの中のダークネスを灼滅するために。

    ●Lesson4
    「ワリィっすけど、今から抉りますよ」
     素早く飛び出した蓮司が『無哭兇冥 -穿-』に捻りを加えて突き出す。それを追うように壱は炎を宿した武器で斬りかかった。
    「リーナにも意思や希望はあるだろう? それは捨てなくていいんだ」
     死角に入り込んだ冬舞が彼女の身体を斬り上げつつも、言葉をかける。
    「リーナちゃんは優しいから苦しんでいるんだよね。その優しさ、忘れないで欲しいな」
     亜理栖は『vorpal sword』に緋色のオーラを纏わせ、振り下ろす。渓は殴りつけると同時に放射した霊力でリーナを縛り上げた。
    「思い出して下さい、本当の望みを、願いを」
    「想い出して! 絶対に忘れたくなかった、あの想い! 大好きだった人は誰?」
     一子は霧を展開して自らの傷を癒しながらも訴える。
    「そして覚えておいてあげて。お姉様たちも、絶対に忘れたくなかった想いを抱いていたって」
     ラックスが高速移動でリーナを薙ぎ払うのに合わせるように、ビハインドのフリーダムが霊撃を放つ。布都乃も『蒼黒縛手』を振るって霊力の網で彼女を縛り上げた。
    「私は、私はっ……」
     リーナの肉体は涙を零しながら逆十字を顕現させる。ラックスを狙ったそれを壱が代わりに受けた。
     蓮司がリーナの懐に入り、『無哭兇冥 -瀾-』を纏った拳をひたすら華奢な身体に叩きつける。身体を2つに折って、リーナは少し後退した。
     壱がかき鳴らすギターから発せられる音波がリーナを襲う。影を宿した冬舞の刃が彼女の身体を切り裂く。亜理栖は巨刀を振るって思い切り振り下ろした。
     リーナ一人に対して八人の猛攻。説得が効いていると思われる彼女がふらつき、その攻撃が逸れ始めるまでそこまで時間はかからなかった。灼滅者達も無傷ではなかったが、布都乃や壱が回復補佐に回れば、持ちこたえることができた。
     リーナの様子を見た渓は手加減して攻撃を放つ。一子は『Knight’s Pawn』を振るって魔力を流し込む。布都乃が雷に変換した闘気を宿した拳でアッパーカットを繰り出した。のけぞったリーナに狙いを定め、ラックスが止めとばかりに強烈な斧の一撃を繰り出した。
    「……おねえ、さま……」
     口の中で呟いて、リーナはそのまま床へと横たわった。

    ●Last Lesson
     布都乃の制服を掛けられて意識を失っているリーナの側で、一子は思う。
    (「ヴァンパイア同士でも、親愛の情ってあるんだね。ペットへの愛情みたいなものかも知れないけど、ヴァンパイアでも誰かに執着できるというのなら……もしかしたらお兄ちゃんも、ボクに執着してくれるかな?」)
     と、リーナの長い睫毛が震えた。ゆっくりと開かれた瞳に、覗きこむ灼滅者達が映る。
    「気分はどう?」
    「あ、はい……私……」
     亜理栖や蓮司に事情を説明されて、リーナは黙り込んだ。冬舞や渓、ラックスや布都乃は念の為に警戒を続けている。質問したいことはたくさんあるが、ここは学園ほど安全とは言いがたかったし、彼女自身混乱しているようだから後にする。
    「ねぇリーナさん。リーナさんの過去は知らないけど。ある人をすごく慕ったり、たくさん友達を作ってみたり……何だか寂しかったのかなって思った」
     視線の高さを合わせた壱の声に、リーナはゆっくりと顔を上げて。
    「良ければ俺達と来て欲しいな。リーナさんの大事な人達を捨てなくていいよ。ただその中に俺達を入れて貰えたら嬉しい。君には色んな事を知って欲しいんだ」
    「私……いいの?」
     差し出された手をおずおずと取って、リーナは導かれるままに立ち上がる。
    「行こう」
     学園まで、必ず彼女を守ってみせる。
     灼滅者達は無事に一つの学校を守りぬき、そして一人の少女を救ったのだった。それは仲間が一人増えた瞬間でもあった。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 3/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 27
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