わらび餅じゃないもっちぃ

    作者:聖山葵

    「うわぁぁぁん」
     少女は泣きながら走っていた。口の周りをきな粉で汚して。
    「はむっ、ぐすっ……」
     泣いて、手に持ったくず餅を頬張り、また泣く。それ加えて走っているのだから妙なところで器用だった。
    「暑いからみんなで冷たいくず餅を食べようっておもっただけなのに……」
     効かせる相手がいる訳でもないのに独り言が漏れたのは、口に出さないと自分が壊れてしまいそうだったのかもしれない。
    「なんで『美味しそうなわらび餅ね』とか言うもっちぃ!」
     もう殆ど残っていない容器の中に残るソレは半透明できな粉がまぶされて、確かにわらび餅にも似ているように見える。
    「もう、いいもっちぃ」
     だが、少女は納得出来なかったのだ。ご当地怪人と化すほどに。
    「うわっ」
     思わずその姿を見た通行人がのけぞった。身体の右半分を黒蜜で覆い、もう半分にはきな粉をまぶした姿を。
    「ここなら、大量に作ったくず餅を冷やせそうもっちぃ」
     ご当地怪人と化したが目をつけたのは、たまたま行き着いた市営のプール。
    「まずはここを制圧するもっちぃ」
     市民の憩いの場に訪れた危機、だがそれを知る者はまだ誰も居なかった。
     
    「思ってたのとはちょっと違ったけど、そう言う問題じゃないのっ」
    「あぁ、一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしてるのだよ」
     慌てていたのか主語が抜けた事で灼滅者達が首をかしげた東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)の言を補足したのは、座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)だった。
    「『全身に葛粉を塗しただけの葛モッチア』は流石にいなかった」
     そもそもくず餅は葛饅頭と呼ばれるものがあるほか、水で溶いたくず粉を加熱し練った後、水で冷やしてから切り分け、きな粉や黒蜜をかけて頂くものがある。
    「結果として『いないわよね?』と思っていたものはなく、きな粉と黒蜜をかけただけの女の子という犯罪チックなご当地怪人へなりかけている少女が見つかったと、そう言う訳だ」
     と言う格好とか発見に至った経緯はさておき、問題の少女はまだ人の意識を残しており、ダークネスの力をモッチアながらも、ダークネスになっていない状況なのだ。
    「敢えて言おう、モッチアと言ったのは意図的だと」
    「いや、そんな所で意図しなくっていいってば」
     どこかの少年を彷彿とさせるように食いついてきた桜花がはるひを揺さぶって桜も乳とかがゆれたが、それはそれ。
    「まあいい、そう言う訳で君達には件の少女が灼滅者の素質を持つのであれば、この元モッチアさんみたいに闇堕ちから救出して欲しい」
    「ちょっと、モッチアはやめて!」
    「だが、もし完全なダークネスとなってしまうようであれば、その前に灼滅を――」
     桜花に揺すられながらも、はるひのキャラはぶれなかった。
    「むろん、私としては救って貰えることを期待する」
     灼滅者へ向けた視線も。
    「問題の少女の名は、葛谷・涼(くずたに・すず)、中学三年の女子生徒だ」
    「同じ年なんだ」
     そう学年で桜花に呟かせた少女は、友達と一緒に食べようと手作りして持っていたくず餅をわらび餅と間違えられたことがショックで闇堕ちし、ご当地怪人『葛モッチア』となる。
    「その後、泣きながら走っていった先にプールを見つけ、制圧して巨大なくず餅製造工場にしようと思い至る訳だが」
     灼滅者達が接触出来るのは15時をやや過ぎた頃、少女がプールにいたる途中の道となる。涼が持っていったくず餅はおやつのつもりだっただろう。
    「バベルの鎖に察知されない接触タイミングは他にもあったが、ちょうど近くに空き地がある。障害物もなく適度な広さがあって、まさにうってつけだ」
     戦う場所としては。なぜなら、闇堕ち一般人を救うには戦ってKOする必要があるのだから。ちなみに、ここで戦う分には一時間ほどなら人避けも不要とのこと。
    「戦いになれば半身のきな粉を盾の形に形成しWOKシールドのものに似たサイキックを使うほか、もう半分の裸体を覆う黒蜜を影業のように伸ばして変形させ攻撃してくるだろう 」
     ちなみに、黒蜜の方はどの攻撃にももれなくずぶ濡れの状態異常がついてくる。男性陣は、色々な意味で目のやり場に困るかもしれないが。
    「これも少女を救う為だと、言っておこう」
    「やっぱりその子もあたしみたいに戻ってから恥ずかしさで泣きたくなるのかな……」
     桜花は遠い目をしながら呟いていた。
    「そして救出についてだが、闇堕ち一般人と接触し人間の心に呼びかけることが出来れば戦闘力をそぐことが出来る」
     手早く戦闘を終わらせる為にも、使わない手はない。
    「最後に、戦場からそう離れていないところに少女へ襲われるかもしれなかった市営のプールがある。時間に余裕があるなら泳いでくるのも良し、だ」
     言いつつはるひの差し出したのは、プールの入場料金半額券。
    「その場合、水着は忘れないようにな」
     窓の外から聞こえるのは、蝉の声。夏はまだ終わりそうになかった。
     


    参加者
    青水無・雲雀(姫告天子・d00708)
    エステル・アスピヴァーラ(白亜ノ朱星・d00821)
    茅薙・優衣(宵闇の鬼姫・d01930)
    永月・セレナ(フェイトディスオーダー・d06562)
    十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)
    折紙・栞(ホワイトブックガール・d15951)
    ミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)
    白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)

    ■リプレイ

    ●最近
    「もっちもち~が増殖してるの、どんどん増えてる気がするの」
     黒砂糖を抱え、エステル・アスピヴァーラ(白亜ノ朱星・d00821)は無邪気に「どこまで増えるかな~」と呟いた。
    「モッチア……増殖、しているんですか?」
     と思わず折紙・栞(ホワイトブックガール・d15951)の顔が白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)の方を向いてしまったのは、黒子もまた元モッチアであったからだろう。
    (「灼滅者になって早々、新たなるモッチアが現れるなんて……」)
     発見者が元モッチアさんなら救出に赴くメンバーにもモッチア経験者というある意味完璧な布陣の中で黒子は空き地の中から隣接する道路の先を見ながら嘆息する。
    (「……私たちは後、何人救えばいいのでしょう……?」)
     声に出しても、この問いに明確な答えを返せる者は居なかった。
    「見た目はともかく、味は違うのだからそこを胸張っていればよかったと思いますが……」
     ただ、少なくとも最初から問題の少女を救うつもりでこうして空き地に居ることは、青水無・雲雀(姫告天子・d00708)も変わらない。
    「なってしまったものはしょうがないので、助けましょうか」
    「同感ですわ、ほっとけないですの!」
     言葉を交わす二人を横目で見た十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)が視線を戻した道の先には、人影が見え始め。
    「ご当地、怪人、相手は、初めて、かな」
     考えていたことを口にしたら、そんな発言になったと思われる。だが、実際には無口なまま。
    「そこの人、くず餅にラムネ粉をかけるのは邪道だと思いませんか?」
     現れたご当地怪人へ始めに声をかけたのは、茅薙・優衣(宵闇の鬼姫・d01930)だった。
    「もちぃ?」
    「まぁ、美味しそうな葛餅をお持ちですわね手作りですの?」
     呼び止められて声の方を見たご当地怪人こと葛モッチアが返事をするよりも早く、更に永月・セレナ(フェイトディスオーダー・d06562)が声をかけて会話の切欠を作ろうとしたのだが。
    「葛……餅、もちぃ?」
    「え、ええ」
    「うわぁぁっ」
     硬直した葛モッチアは、次の瞬間、堰を切ったかのように号泣しつつ、セレナへと抱きついた。
    「ちょ、ちょっ」
    「ん~ なかなかの大惨事です」
     優衣の言はご当地怪人と化してしまった少女が、きなこと黒蜜でしか身体を覆っていないと言うことでもあり、同時に『そう言う格好』で抱きついてきた事でもある。
    「そうもっちぃ、わらび餅じゃないもっちぃ……うぇ、ぐす、うわぁぁぁ」
     理解者を得て感極まったのだろうが、抱きつかれた方にはちょっとした惨事だった。たとえ、これがうち解ける切欠になったとしても。
    「混ぜる砂糖は控えめに、黒蜜と黄粉の甘さを活かすのが好きですわ」
    「ほぅ」
    「クリーニング、準備してきて良かったですの」
     くず餅談義を始めた二人の内一人にもう黒蜜ときなこがついて居ないことを確認し、黒子は胸をなで下ろした。
    「備えあらば憂いなし……です」
     こくこく頷く栞も一歩間違えば、セレナと同じ目に遭っていたかもしれない。
    「美味しい、食べ方、教えてください」
    「お、教えて欲しいもちぃ? もちろんいいもちぃよ」
     持参した葛餅を差し出し教えを請われたモッチアの反応は、最初は驚きこそ含んでいたが、好意的なものだったのだから。

    ●理解と異論
    「黒蜜ときな粉が正義です」
     葛餅を振る舞う優衣は、そう力説し。
    「確かに。けれど、誰かが求めたからこそ新たな味は存在するもちぃよ」
    「……美味しいことに、貴賤は、ない……です」
     王道を認めつつも残る物を完全否定するのは良くないと言う見解を示したモッチアへ栞はこくこくと首を縦に振って見せ、正座して葛餅を口に運ぶ。
    「美味しい」
    「……深い、です……」
    「うん、何事にも簡単にたどり着けるゴールなどないもちぃよ」
     ポツリと漏らしたミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)達の前で、葛モッチアは「あるとすればまやかしもちぃ」と頷く。
    「やっぱり、許せない?」
     説得の為の下地は出来たと言って過言ではない。だが、話には持っていき方という物もある。全力の笑顔を引っ込めたミツキは、言葉を探し、唐突にそう問うた。
    「みんなのために作った葛餅、それをみんなから勘違いされたことが一番ショックだったのではないでしょうか」
     とセレナは葛モッチアが、葛谷・涼と言う少女が闇堕ち使用としている理由を推測し。
    「わらび餅とくず餅を間違えられたコト自体は……まぁご愁傷様としか……」
    「……私もべこ餅をおこしものと間違われて深く傷つきましたからお気持ちは分かりますの」
     いきなりの問いに固まった涼を気の毒そうに見やるミツキに便乗し、黒子は同情を示す。
    「同じ、もちぃ?」
     少女は理解者を求めていたのは、セレナに見せた反応からも明らか。ただ、手放しで同意するだけが正しくもなかったから。
    「見た目は確かに似ているかもしれない。けれど、実際は食感も味も違うものよ。取り乱した貴女の方がくず餅を冒涜していない?」
     雲雀は疑問を投げかけていた。
    「なっ」
    「そこは胸張って『くず餅! くず餅は美味しい!』といえばよかったのよ」
    「あぅ」
     思いもかけないことを言われたという顔のご当地怪人は、雲雀が続けた言葉にあえぐだけで即座に言い返せず。
    「例え間違いを指摘しなくても、食べてもらったら違いがわかって、美味しくてハマっちゃったかもしんないから勿体無い」
    「食べて……貰う?」
     ミツキの発想に愕然とし立ちつくす、その発想は無かったと言わんがばかりに。
    「プールで大量生産品を作るより、心をこめてもう一度葛餅を作ってみなさんのところへ行きましょう。きっと、最高に美味しく葛餅を食べることができますわ」
    「っ」
     だからこそセレナの言葉に気圧され。
    「プール? そう言えばこの近くに市営のプールがあったもっちぃね。そこを制圧すれば作った沢山の葛餅を一度に冷や――」
     墓穴を掘った。
    「プールで冷やす? 消毒液のたっぷりはいった水で? 貴女のくず餅への愛はその程度なのですかっ!!」
    「も、もちぃっ」
     優衣の叱責に、ご当地怪人は縮こまった。そのせいで大きな葛饅頭が二つやたら強調されることになるが、優衣が怒鳴った理由はそこにない。
    「そもそもそんな恥ずかしい格好で何を企んでますの! おやめなさい!」
    「むーむー、変な格好なの、危ないから戻るのー」
     黒子とエステルが揃って涼の格好へ言及したことには、少しぐらい関連性があるかもしれないが。
    「学園にくればもっちもち仲間がいっぱいいるの~、其れに早く戻らないと後々黒歴史に」
    「……私にも覚えがありますの。若さゆえの過ちですの。後悔するからその辺にしときましょうか」
     わざとらしく咳き込んだエステルに続く形で、黒子は言及を切り上げるとスレイヤーカードを手にする。叱責と説得が効いたのか、萎縮しているこの時が好機だった。
    (「もう、葛餅は、食べられた、けど」)
     栞が教えを請うた恩恵に預かる形で深月紅も予想より随分と早く葛餅を食べる機会には恵まれたものの、涼は未だ闇に囚われたままなのだから。
    「四肢を、掲げて、息、絶え、眠れ」
     封印は解け、指輪から生じた魔法弾が煌めき、舞い飛ぶ。
    「ぶもちっ」
     不意をつかれた葛モッチアに制約の弾丸が命中した直後。
    「悪い、ダークネスは、殺します。死にたく、なかったら……早く戻って、来て下さい」
     栞は解体ナイフをしっかり握り込み、前に飛んでいた。

    ●たたかい
    「……トラウマに、負けるようでは、普及なんて……無理です……」
    「Fireatwill.URYYYYYYYYYYY」
     殴打されたモッチアが態勢を立て直すより早く、セレナはガトリングガンをご当地怪人に向けてトリガーを引いていた。
    「ちょ、いき、なっ、あばば」
     服を汚された恨みではなく、純粋な高揚感から遠慮無く連射した弾丸が涼を襲い。
    「むいむい、もっちもちたいじ~、がんばる~」
     エステルの展開した霧は魔力を宿したまま広がって行き、当人のやる気を伝播させたかの如く、仲間達を狂戦士へと変える。
    「痛いけど我慢してね」
     全ては一人の少女を闇から開放する為に。縛霊手に握り拳を作らせた優衣が地面を蹴り。
    「い、痛いと聞い……も゛っ」
     身を起こそうとしていたところを殴り飛ばされた少女は放射された網状の霊力に絡み取られ、空き地を転がった。
    「逃がさないわ」
     そこをすかさず雲雀の撃ち込んだ魔法弾が、涼を地へ縫いつけんとし。
    「ういろう、いけるね」
    「わうっ」
     霊犬が応じるように鳴いた時、ミツキはビームを既に撃ち出していた。
    「もちぃぃっ、きゃあっ」
     飛来するビームは一本にあらず、涙目になりつつただひたすら転がるという回避行動を行っていたモッチアに別方向から飛来したご当地ビームが悲鳴を上げさせ。
    「うぐぐ、もう怒ったもっちぃよ!」
     歯を食いしばって起きあがったご当地怪人は反撃に転じる。黒蜜の一部が蛇のように鎌首をもたげ、触手と化す。
    「へっ、まさ」
     当然の如く、それは黒子を狙った。
    「っ、ん、ちょ……」
     モッチアの宿命かは知らないが、粘度の高い液体で出来た触手に絡み取られた犠牲者の肌に濡れた服や髪が貼り付き、犯罪臭漂う光景が目の前に出現する。
    「大丈夫、女の子ばっかだから」
     ミツキは水着もあるし気にしないというスタンスを作ったが、その平静な顔は明日は我が身であることを悟っているが故の現実逃避なのか。
    「早く、助けて、一緒に、食べたい、から」
    「もちっ?!」
     もっとも、首尾良く一人を拘束したことに気をとられたのは、失策だった。
    「終わら、せる」
    「ぢっ」
     軌跡が鮮やかな七色に彩られ、深月紅の叩き付けた解体ナイフの刀身から生まれた炎がきなこに覆われた肌の更に上から被さり行く。
    「服着てない? けど服破れるのかな~?」
    「う……ちょ、待つもちぃ! な、何を」
     痛さと暑さに顔をしかめた涼は、エステルの言葉に嫌な予感を覚えて後ずさるが、もう、遅い。
    「ふふふ、審判の時間ですの」
    「ちょ、駄目もちぃ」
     復讐者を加え死角に回り込んだ二人が、きな粉や黒蜜を斬り飛ばし。
    「ひ、酷いも」
    「ご当地ヒーロー仲間として、救って魅せますわ……これがセレナのサイキックCQC」
     肌色を隠すように両手で自らを抱いた葛モッチアへ、セレナはビシッとポーズを決める。
    「ご当地ィィィイイキィイイッククゥ」
    「もちぃぃっ」
     戦闘前に弱体化していたご当地怪人は、腹部に跳び蹴りを食らうと身体を覆う黒蜜ときな粉だけを消滅させつつ空き地に倒れ込んだのだった。

    ●プールに行こう
    「好きなモノを好きと主張するのは悪くない」
     ミツキの向けた慰めの言葉に落ち度はなく。
    「とりあえず慰めるの~」
     まではエステルの宣言も問題なかった。
    「もっちもちなひとは終わると記憶が……うん」
    「ぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
     ただ、エステルが遠い目をしながら続けた言葉に自分が今までしていた格好を思い出した少女は、ミツキにかけられた上着を羽織ったまま絶叫しつつ走り出していたのだ。
    「プールいくです? 一緒になのなの~」
     追いかけっこか何かと勘違いでもしたのか、敢えて触れなかったのか。とてとてと駆け出したエステルが涼の後を追いかけ。
    「止めよう。……私もご当地だから、明日は我が身、だし、ね……」
     残る仲間を促して、ミツキも走り出す。このささやかな鬼ごっこの後にくず餅を食べながらプールまでの道のりを歩ききり、今に至る訳だが。
    「……最近はラムネ粉末をかけて食べるのもあるらしいですのね、試してみませんこと?」
     黒子のそんな提案にチャレンジ精神を見せた少女は、水着をまじまじ見ながらひたすらあーうー唸っていた。
    「ところで……早く着替えたほうがよろしいと思いますよ?」
    「あ、だよね」
     優衣に声をかけられそう応じたものの。これが、意識を取り戻した直後にかけられたのと同じものだったことには気づかない。
    「私のと、妹のと、その真中ぐらいのを見繕ってきたんだけれど……どれが入るかしら?」
     と、自身の用意してきた水着の中で涼が一番大きい物をチョイスしたにも関わらず、雲雀は涼の葛饅頭と見比べた時、嫌な予感しかしなかったのだ。
    「わ、私より大きかったらどうしようもないけれど……」
    「だ、大丈夫だよ。ボク、これならきっと――」
     目の前に居るのは同性だけ。思い切って下着を脱ぎ、かわりに付けた水着からは。
    「ぁ」
    「……ん」
     ちらりとそちらを見てから自分の胸をペタペタ触り出す栞の目にも明らかなほどに、もちぃと何かがはみ出していた。
    「まだ、きっとこれから、です……」
     こくこく頷きながらももう一度涼に向けた目が若干羨ましそうだったのは、気のせいか。
    「はぁ」
     意識を取り戻した時とは別の意味でとってもすごいことになってる少女を横目で見ながらミツキは嘆息すると更衣室を後にする。足の動きにあわせて瞳の色とお揃いのパレオが揺れ。
    「水着、いろいろ迷ってこれしか準備できませんでしたの」
    「ミツキのは、持ってなかったから買ったやつなんだけど」
     あまり露出度が高い水着は過去のトラウマが蘇りそうですので、と言葉を続けるスクール水着姿の黒子に応じつつ、ちらりと前を見れば。
    「涼しい、プールが、待ってる」
     それだけ告げて真っ先に脱衣所を後にした深月紅が、すれ違う人の視線を黒色なビキニタイプの水着で包んだ身体に集めていた。
    「なんていうか、この学校スタイル良いコ多くて困る……」
     涼についてはまだ武蔵坂学園の学生ではないが、あくまで「まだ」だ。
    「お待たせ。少し時間を取られたけど……さ、一緒にプールで遊ぶわよ」
    「あー、う、うん」
     振り返れば、雲雀に手を引かれた涼がすぐそこまで来ていて。
    「涼さん、手荒にしてしまったお詫びにストレッチでもいかがですの?」
    「えっ」
     休む為の物であろう寝椅子を指さし、もう一方の手を取られた涼は、救いを求めるように視線を彷徨わせるが、運命は非情だった。
    「仕方ないわね。身体をほぐしておかないとケガの元だし」
     泳ぐ前の体操やストレッチには一理あるのだ。
    「サービスシーンどんとこいでございますです!!」
     納得して引き下がった雲雀のかわりにセレナが先導する先は指さされていた寝椅子で、堂々とした態度で不穏なことを言い放った人物がストレッチを行った結果、どうなるかはお察しである。
    「まずは上半身から――」
    「ちょっ、無理無理! ハミ出る、出ちゃ」
     賑やかな声をBGMに、ネックレスとマフラーを外した深月紅がプールへと飛び込み。
    「むーん、もっちもちは後何人出てくるのかなぁ……分裂してる気分なの」
     水音と共に飛沫が飛ぶ光景を眺めつつ、プールサイドに腰を下ろしたエステルはポツリと呟いた。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 15
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