臨海学校~シーサイドももちで花火を見よう!

    作者:日向環


     福岡ドームの横を流れる行列が目指すのは、旧百道海岸である。
     博多湾を背景に開催される花火大会を見物するためだ。
     団扇を片手に、浴衣を着込みんだ人々が、談笑しながら目的地へと向かう。
     福岡タワーは、夜空に花開いた花火のイルミネーションが施され、薄闇の中で美しく聳え立っている。
     花火大会開催まで、30分を切っていた。
     
    「……花火が何だ」
     人の流れに取り残されたように、浴衣を着た5人の若者が立ち尽くしていた。大学生くらいだろうか。
    「花火なんかよりも……もっと楽しいことしようぜ!」
    「よってらっしゃい見てらっしゃい。虐殺ターイム!」
     突如として、懐からサバイバルナイフを取り出す。
    「お前らはついてるぜ。選ばれた俺たちに殺されんだからなー!」
     蜘蛛の子を散らすかのように、5人の若者の周囲から人が離れていく。
    「一番多く殺したやつがリーダーな」
    「オーケー」
    「異議無しだ」
     5人の若者たちの瞳が、狂気の色を宿した。
     

    「暑い……」
     かき氷をしゃりしゃりと頬張りながら、木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)がボソリと呟いた。因みに、イチゴ味だ。
    「蒸し暑い……」
     しつこいようだが、もう一度呟く。
     そんなことは言われなくても分かっていると、同じくかき氷を食べながら、集められた灼滅者達は溜息を吐いた。
    「毎年恒例の臨海学校の季節なんだけど、今年も普通の臨海学校じゃないんだってさー」
     去年のことは知らないけど、みもざは付け加える。去年の夏は、まだ武蔵坂学園の生徒ではなかったからだ。
     どうやらこの武蔵坂学園の臨海学校は名ばかりで、毎年何事かのトラブルに見舞われているらしい。
    「なんと今年も、偶然にも候補地の一つだった九州で、大規模な事件が発生することが分かってしまったのだよ!」
     みもざはわざとらしく拳を振り上げる。「偶然」を強調することも忘れない。
     灼滅者達は、また深い溜息を吐く。
    「普通の臨海学校がしたい……」
     ポツリと誰かが呟いたが、皆それを聞き流した。
    「そんでもってさっきの事件の話だけどー、大規模って言ったって、事件を起こすのはダークネスや眷属、強化一般人じゃなくって、普通の一般人なんだってさー」
     灼滅者であれば事件の解決は難しく無いはず、と学園は言っているようだが、それは単に戦闘に関してであり、殺さないように気を使わなければならない分、一般人相手の方が実は面倒である。ダークネスや眷属が相手の場合は、ある意味問答無用で灼滅できる。
    「だけどー、この事件の裏にはー、組織的なダークネスの陰謀があるらしいんだってさ」
     みもざは2つ目のかき氷に手を伸ばす。今度はブルーハワイだった。
    「敵組織の目的は分かんないらしいんだけど、無差別連続大量殺人が起こるのを見過ごす事はできないよね……って、『大規模な事件』て無差別大量殺人だったんだ」
     やる気なさそうにタブレット端末で情報を呼び出しながら、みもざは驚いたように言う。
    「え~と、なになに……? 『殺人を起こす一般人は、何かカードのような物を所持しており、それに操られて事件を起こすようだ。事件解決後、原因と思われるカードを取り上げれば、直前までの記憶を失なって気絶するようなので、あとは、休息所などに運べば大丈夫だろう』か。なるほど、ふむふむ」
     みもざは3つめのかき氷を食べ始めた。今度はメロン味だ。
    「福岡ドームのすぐ横で事件が起こるから、一足早く行って近くで待機してて欲しいかな。騒ぎが起こったらダッシュでそこに向かって、とち狂っちゃった一般人をこらしめちゃってね」
     犠牲者が出てしまったあとでは、後味が悪くて花火見物も楽しめない。
    「浴衣を着た5人の大学生が事件を起こすからね。浴衣を着た人はいっぱいいるから、事件を起こすまで特定するのは、ちょっと無理かな」
     とはいえ相手は一般人なので、いったん事件が発生し、対象が特定できてしまえば解決するのは簡単だろう。戦わずして解決することも可能なはずだ。
    「敵組織の狙いやカードの分析とかは、みんなが学園に戻ってきてから行う事になるのかな。現場で、すぐに調べられるものではないと思うしねー」
     みもざは既に、4つめのレモン味のかき氷を食べ始めている。
    「さっきも言ったけどー、今回の事件解決は、臨海学校と同時に行われる事になっているからね。事件発生前と事件解決後は、臨海学校をバッチシ楽しめるよ」
     いつものことだから、灼滅者達は充分に承知している。今年から参加の者達の中にも、諸先輩方から恒例の「臨海学校」の話を聞かされた者がいるらしい。
    「みもざも臨海学校に参加するよ。でも危ないから、みもざは一足先に海岸に行って、花火見物の場所取りしてるねー。終わったら、みもざのとこにきてよねっ」
     みもざはかき氷を一気に食べ干した。


    参加者
    羽坂・智恵美(古本屋でいつも見かけるあの子・d00097)
    森野・逢紗(万華鏡・d00135)
    アイレイン・リムフロー(スイートスローター・d02212)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    高倉・奏(拳で語る元シスター・d10164)
    乾・剣一(炎剣・d10909)
    園観・遥香(モリオン・d14061)
    神雀・霧夜(漆黒天使の夜想曲・d19873)

    ■リプレイ


     武蔵坂学園では、恒例の臨海学校が執り行われている。
     とは言っても、所謂普通の臨海学校というわけにもいかず、毎年、何らかのトラブルや事件の解決が日程の中に盛り込まれているのは致し方ない。
    「…一応言っておくが、俺はロリコンでは無いぞ?」
     誰に向かって弁解をしているのか。文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)が、画面(?)に向かって、人差し指を立てた。
     福岡ドームを背にしつつ待機中の彼の周りにいるのは、2人の小学生女子。迷子になる心配はないが、それでも年長者としては2人を気遣わねばならない。結果的に、小学生を引率している父兄のような状況になってしまった。
    「それにしてもカードって一体何なのでしょうね?」
     羽坂・智恵美(古本屋でいつも見かけるあの子・d00097)が、額に浮いた汗をハンカチで拭う。
    「スレイヤーカードを模してダークネス達が作ったのでしょうか。気になります」
    「学園に持ち帰ることができれば、何か分かるかもな」
     神妙に肯きながら、咲哉は答えた。事件を未然に防ぐことも重要だが、カードを所持している連中から、何かしらの情報を得ることができればと、咲哉は考えていた。
    「考える事は色々あるけど、まずはこの件を片付けてからね」
     2人の会話が聞こえたのか、森野・逢紗(万華鏡・d00135)が会話に加わってきた。
    「花火があがる前に大学生さんたちを休息所に運びたいわね。早く来てくれないかしら」
     アイレイン・リムフロー(スイートスローター・d02212)は時間を気にしていた。可愛らしい浴衣が、よく似合っている。
     花火大会開始まで、あと30分ほど。エクスブレインの予測が正しければ、間もなく事件が発生するはずだ。
     4人は警戒し、周囲に視線を走らせた。

    「毎年恒例という事らしいですし、慣れないといけないんでしょうね」
     黒を主調とした浴衣が、なかなか様になっている神雀・霧夜(漆黒天使の夜想曲・d19873)が、溜息混じりにボソリと呟く。臨海学校の行き先で事件が起こるとは、この学園らしいというべきなのか。灼滅者である以上、避けては通れぬ道なのか。
    「ま、相手は調子に乗ってるだけの素人だ。サックリと懲らしめちまうか」
     霧夜の呟きが耳に入った乾・剣一(炎剣・d10909)は、苦笑いしながら肩を竦めてみせた。
    「…それにしても、なんという人の数。やっぱり、花火大会は人気っすね」
     高倉・奏(拳で語る元シスター・d10164)は、移動する人の流れを目で追いながら、そう言った。
     シーサイドももちで花火大会を見物しようと、人の波が砂浜に向かっていく。この雑踏の中では、ターゲットを事前に補足するのは確かに不可能に近い。
     班を2つに分けて監視をしているのだが、もう一方の班がどこにいるのかさえ定かではない。予め、携帯電話の番号を交換していて正解だった。
    「ところで、園観はどこに行った?」
     剣一が周囲を見回す。
    「その辺にいませんか?」
     人々の熱気を避けるように、流れから徐々に距離を置きながら霧夜が答えた。
    「見付けたっす。…って、ナンパされてるし」
     奏が示した先に、2人組の高校生に話し掛けられている園観・遥香(モリオン・d14061) がいた。自分の置かれている状況が、若干飲み込めていないっぽい。
     悲鳴は、だしぬけに響いた。
     何かから逃れようと、人の流れが激変する。
    「おい、園観!」
     剣一が遥香に一声掛け、そのまま駆け出す。
    「それでは失礼します」
     2人の高校生に丁寧にお辞儀をすると、遥香は既に動き出している剣一、霧夜、奏の後を追った。置き去りにされた高校生達は、きょとんとしたまま、しばしその場に立ち尽くしていた。


    「一番多く殺したやつがリーダーな」
     浴衣の懐からサバイバルナイフを取り出した大学生風の男が、獲物を物色するように周囲に視線を走らせた。
    「異議無しだ」
     獲物になる相手の方が圧倒的に数が多い。手にしているのは殺傷率の高いサバイバルナイフだ。逃げ惑う人々の流れに飛び込んでナイフを振るえば、簡単に数人を血祭りに上げることができる。
     大学生達が一斉に動き出す挙動を取った刹那、それは許さじと灼滅者達がその場に集結した。
    「なんだ、お前ら!?」
    「ぶっ殺すぞ」
    「ゴタクは別にいいからさ、やってみろよ。…ま、やれるモンならな」
     相手を見下すような視線を向けると、剣一は大学生達を挑発した。
    「えぇと、カッコいいお兄さんたち。こんばんは」
    「あ、はい。こんばんは」
     丁寧に挨拶してくれた遥香に、大学生の1人がそれまた丁寧に答える。
    「さっき出してた黒いカード、素敵ですね。もし良かったら、園観ちゃんに良く見せてくれませんか?」
     ちょこんと首を傾げる遥香。
    「これのこと?」
    「馬鹿! なに、見せてんだよ!!」
     完全に遥香のペースに乗せられてしまった1人に、隣にいた大学生が怒鳴った。
    「お、おお。すまん」
    「こいつらからやっちまえ!」
    「そうはいきません!」
     飛び込んできたアイレインが、プリンセスモードを発動させた。突如とした目の前に出現したお姫様に目を奪われ、大学生達も、逃げていたはずの一般人達も、感動して言葉を失う。
    「ば、馬鹿野郎。なに見惚れてるんだ。さっさとぶっ殺せ!」
    「虐殺タイムを始めるぞ」
     我に返った大学生達がナイフを振り上げた。
    「虐殺? 花火の夜に血の雨なんざ迷惑な、どういう了見か聞かせて貰いたいぜ」
     ラブフェロモンを振り撒きながら、咲哉が凄んでみせた。脳下垂体を刺激された1人が、熱い視線を咲哉に向けてくる。
    「男相手に、これだけは使いたくなかったぜ…」
     俯き、拳を握り締めて、るるると涙する咲哉。物凄く、熱い視線を感じる。ヤバイ。
    「…もう一つ言っておくが、男色趣味も無いからな?」
     だから誰に対して言い訳を。
     でも、ひしひしと感じる熱い視線。
    「はい、そこまで」
     闇を纏って現れた奏が、サバイバルナイフを取り上げる。
    「危ない物は、怪我する前にしまっちゃいましょうね?」
     同じく、闇纏いで大学生達の背後に回り込んでいた霧夜が、大学生の手からナイフを奪い取った。
    「こ、こいつら!?」
     慌てて攻撃に転じる大学生達だったが、力の差は歴然だった。
    「なんだよ、中身は素人同然じゃねーか」
     剣一は完全に相手の攻撃を見切り、余裕で攻撃を受け流す。たたらを踏んだ相手の足を軽く払うと、瞬時に昏倒させた。
     大学生達は瞬く間に撃退され、灼滅者達に取り囲まれてしまう。
    「…よく覚えてないだとぉ!?」
     男相手にラブフェロモンまで駆使したというのに、当の大学生達は、カードを配っていた人物のことをよく覚えていなかった。
     カードを取り上げた影響からか、気を失って倒れてしまった大学生達を見下ろしながら、咲哉が脱力したような声で嘆いた。
    「残念です」
     同じくラブフェロモンを使用しつつ、甘え声を出してカードを入手した経緯を尋ねた遥香も、残念ながら不発に終わった。
    「カード以外は、特に収穫無しか」
     霧夜も残念そうに肩を竦めた。
    「俺達が持っても、何も起きないようだな」
     カードを奪う際、自分達に対しても影響が出ないかどうか、念の為に警戒をしていた剣一だったが、特に何も起こらなかった。
     事態が収束した空気を感じ取ったのか、逃げ惑っていた一般人達が集まってきた。奏が懸命に取り繕っている。どうやら、さっさと休息所に運んでしまった方が良さそうだ。
     灼滅者達は手分けして、気を失った大学生達を休息所まで運ぶ。これで、一応は一見落着だ。
    「任務完了、後はこれを持ち帰るだけね」
     大学生達から取り上げた黒いカードを、逢紗はしげしげと眺めた。
    「出来れば臨海学校としてだけで来たかったですね。出発前から色々不穏な発言を聞いていたので、こうなる事はわかっていましたが…」
     智恵美は、ふうと息を吐く。
    「事件も無事に終わりましたし、今日は目一杯遊んで帰りましょう。おねーさんに引率はお任せあれっ」
     一件落着と、智恵美は逢紗とアイレインに笑顔を向けた。


     智恵美、逢紗、アイレインの3人は、縁日を回って楽しんでいた。
     花火大会も既に始まっており、「どーん、どーん」という重々しい音が頭上で響いている。
    「たこ焼き食べましょうっふぁっ!? あ…あついでふ!!」
     夜空に開いた花火に見とれ、うっかり熱いままのたこ焼きを口に入れてしまった智恵美。アツアツとろとろの具が口の中に広がり、大惨事になっている。
     逢紗とアイレインが、大慌てで智恵美の口の中にかき氷を放り込む。
    「夏はカキ氷ですよね…あたた…、頭が~」
     今度は冷たいかき氷の攻撃により、智恵美は苦しむ。悶えながら、首の後ろをトントンと叩いた。なかなかに賑やかである。
    「綿菓子買ってきたよ」
     いつの間に買ったのか、アイレインは大きな綿菓子を両手に持っていた。1つは、花火の場所取りをしてくれている仲間達へのお土産用だ。
     どうやら、こういう日本のお祭りに参加するのは初めてらしく、端から見てもわくわくしている様子が分かる。
    「ん…こういう時に食べるのは、格別ね」
     アイレインから綿菓子を分けてもらい、逢紗の表情も綻ぶ。
    「こっちのも、美味しいわよ?」
     新たに購入したイチゴ味のかき氷を、アイレインにお裾分けだ。
    「こっちも美味しいよ?」
     りんご飴を調達してきた智恵美が、逢紗とアイレインの前に差し出した。

    「依頼お疲れさん。腹すかせてるかと思ったんでこれ、用意しといたぞ」
     無事に事件を解決し、待ち合わせ場所にやってきた奏と剣一を斎賀・芥(漆黒・d10320)が出迎える。
     焼きそばやジャガバタ等、一通りの食べ物が揃っていた。自分の傍らには、こっそりと綿あめとリンゴ飴をキープしている。クレープの残骸も確認できる。彼らを待っている間に食べていたらしい。
    「ヘイ木佐貫さんお待たせしました! バッチリ阻止して来ましたよー!」
    「おっ疲れさまでしたー♪」
     奏は、うろちょろしていた木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)を呼び止めると、事件解決の報告をする。
     金魚の柄の浴衣を着ているみもざが、両手を挙げて笑顔で労った。
    「ところで食べ物とか飲み物とかは大丈夫です?」
    「実は待ってる間にちょっと食べちゃったから、少し心細いかもー」
    「…ちょっと、ね」
     どう見ても「ちょっと」ではない気がするが、そこは敢えて突っ込まないことにした。
    「まあ何か足りないものがあれば言って下さい! 用意しますよ! …うちのイワ、乾さんが!」
    「イワ」という単語に反応し、剣一がジロリと奏に視線を向ける。
    「えっヤダ自分イワシなんてひっとことも言ってないじゃないですかヤダナーイヌイサンッタラ。っと、おお! そんなことより花火! 花火めっちゃ綺麗ですよ!」
     素早く話を逸らした。
    「ま、コレで機嫌直してくださいよ」
     出発前に奏の機嫌を損ねていたので、剣一はこっそり調達したかき氷でご機嫌を取る。何度も「イワシ」呼ばわりされても困る。
    「2人ともお疲れ様です」
     さりげなく、上名木・敦真(高校生シャドウハンター・d10188)が助け船を出す。2人に労いの言葉を掛け、露店で調達しておいた飲み物を手渡した。
     花火が見やすくなるように、周囲の見物客との間に、さりげなくスペースも作ってくれた。
    「それにしても、相変わらず暑苦しい格好してんな」
     黒い長袖タートルネックシャツに長ズボンというスタイルの芥に、剣一が呆れたように声を掛けた。そうは言われても、肌の出せない理由があるから仕方がない。芥は苦笑気味に笑むと、
    「しかし、あんなカードに惑わされて殺人を犯す事にならなくて、あの一般人達は良かったな。やはり殺しなんて知らないほうが良い」
     芥の言葉に、皆は肯いた。

    「咲哉も、お疲れさまー!」
     向日葵の浴衣姿のミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)が、両手をぶんぶん振って咲哉を出迎えた。
    「おう。場所取りおつか……っ!?」
     ずぼっ。
     足を乗せたブルーシートが沈む。
    「大丈夫ですか、咲哉さん?」
     香祭・悠花(ファルセット・d01386)が、穴に填まったままの咲哉に心配そうに声を掛けた。
    「ミカエラ!!」
    「あたいじゃない! 犯人はみもじゃじゃ!」
    「お前以外、こんなことするやつはいない!!」
    「うん。みっきーが1人でやった」
    「裏切り者ぉ」
     ホントはノリノリで手伝ったみもざだったが、この際だから惚けることにした。
    「未来予測、いつもありがとう。みもじゃさん」
     両手に飲み物を持って、遥香がやってきた。
    「園観ちゃんも、お疲れさまでーす」
     受け取った飲み物で、遥香と乾杯。同時に、頭上に色鮮やかな花が開く。
    「おー」
     無表情のまま見上げる遥香だったが、本人的には感動していると思われる。
    「花火、いい場所取れてよかったね! 煙、来ないし、バッチリだよ!!」
     体育座りして夜空を眺めているミカエラは、花火が炸裂する度に歓声を上げる。
    「わー綺麗ですねー!」
     咲哉の隣に陣取り、花火を見上げている悠花だったが、花火よりも咲哉の横顔を見ている時間の方が明らかに長い。
    「たーまやー!」
     残念ながらその視線に気づいていない咲哉は、霊犬のコセイを抱え、もふもふしながら花火を見物。
     それでも、ちらちら向けられている視線にようやく気付いたのか、
    「成程、馬子にも衣装だな」
     うなじは浪漫だ。やはり浴衣は冥福だと、ニンマリと笑みを浮かべた。
    「って、それは褒めてなーいっ!? うぅぅ…そんなにコセイがいいんですかー?!」
     ベージュの生地に朝顔の花柄の浴衣は、咲哉に見せつける為に気合を入れて選んだものだ。にも拘わらずこの仕打ち。
     えぐえぐと涙目でにじり寄り、コセイを奪還。飼い主は自分だ。
    「あぁ、コセイー!!」
     ガックリと肩を落とす咲哉だった。
    「色々と気になる事はありますが…… 今は、こっちを楽しむとしましょうか」
     露店で焼きラーメンを調達してきた霧夜が、仲間達にお裾分け。
     縁日を見て回っていた智恵美、逢紗、アイレインが、お土産を持って合流してきた。
    「わあすごい! わあ!」
     夜空に大きな花火が打ち上がると、アイレインが歓声をあげた。兄のハールと一緒に見たかったなと、少々感慨深げ。
    「ええ、とても綺麗だわ…」
     花火に見取れている悠花は、そんなアイレインの様子には気付かなかったようだ。
     記念写真を撮りましょうよと、智恵美が言い出した。
    「んじゃ、みもじゃがシャッター押す係やる! 並んで、並んで」
    「きっといい思い出になりますね、また来ましょう」
     3人で、花火をバックに記念写真。
    「また来年も、皆で花火、見たいです」
     奏が白い歯を見せる。
    「これがまた面倒な事件に発展しなきゃイイんだけどな…」
     剣一の呟きは、花火の音に掻き消された。
     盛大に打ち上げられる花火。
     花火大会は、これから本番だった。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 5
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ