モッチアだけど餅じゃなかった

    作者:聖山葵

    「やめろぉ、その木は……市の木なんだぞ! 名前が『金持ち』に通じるから縁起木として庭木にも大人気なんだぞ!」
     少年が叫んだのは、凶行を止める為だった。ただの街路樹にしか見えなかったとしても、彼にとっては大切なモノだったのだ。
    「はんっ、知ったことか。ちょうど試し斬りがしたかったんだ」
     バチッと音を立てて飛び出した刃は、目の前の不良が通販で買ったと得意げに語っていたナイフのもの。
    「うぐっ、離せっ」
    「ざけんなよ。石井さん、このまま押さえてるんで、やっちゃって下さいよ」
     暴れる少年にのしかかりながら、ナイフを持った不良に声をかけたのも不良の一人。
    「だな、じゃ――」
    「やめろぉぉぉっ!」
    「うぉっ?!」
     刃が枝へ近づいた時、少年の身体が輝いて押さえつけていた不良を吹き飛ばす。ごく普通の学生服が霧散し、植物を模したと思われる漆黒の鎧に変じて装着される。
    「うわっ」
    「な、何だこいつ……」
     一見すれば、その姿は特撮のヒーローだろうか。装着されたヘルメットによって少年の顔はうかがい知れなかった、が。
    「俺の名は――クロガネモッチア、もちぃ」
     名乗りは、いろんな所を台無しにしていた。まぁ、そもそもご当地怪人なんだけれども。
     
    「来たようだな。ならば説明を始めよう」
     いつものように「時間は有限だ」と呟いた座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は、灼滅者に向き直ると抱えていた植物図鑑を手近な机の上に置いた。
    「一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしている」
     通常ならば、闇堕ちした次点で人の意識は消えてしまいダークネスの意識が取って代わるのだが。
    「問題の少年は人間の意識を残しているのだよ」
     つまり、ダークネスの力を餅、もとい持ちながらもダークネスになりきっていない状況になるのだ。
    「元々はただ自分の好きな市の木が不当に傷つけられることを防ごうとして、防げなかった絶望が引き起こした闇堕ちだ」
     もし少年が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しい、とはるひは言う。
    「完全なダークネスとなってしまうようなら、その前に灼滅を」
     むろん、助けられるに越したことはないのだが。
    「救えるかどうかは君達次第だと思う。それで、まずは接触についてだが」
     灼滅者達が相手のバベルの鎖に引っかからず接触出来るのは、少年が闇堕ちした直後のみ、とのこと。
    「放置すれば街路樹を傷つけようとしていた不良達の命が危ないだろうな」
     まずはその状況を何とかしなければいけない訳だが。
    「介入時、幸いにも不良はまだ木を傷つけていない」
     むしろ、そのまま不良達を殺そうとした方が近くにある木も傷つく可能性は高い。
    「ここで戦っては街路樹が傷つくと言えば、少年にも迷いが生じる筈だ」
     この隙に不良を逃がせば、ご当地怪人『クロガネモッチア』の敵意は灼滅者達に向くだろう。
    「あとは、戦場を変えるよう提案すればいい」
     幸いにも現場は川の堤防沿いに設けられた歩道、堤防を降りればそれなりに広い河川敷がある。人避けに関しても、必要はないという。
    「そもそも不良が街路樹を傷つけようとした時間帯、本来人は通らないのだからな」
     少年が通りかかったのは、高校の同好会活動に参加した帰り道だったかららしい。
    「少年の名は、望月・鉄騎(もちづき・てっき)、高校一年生だな。この道は一応通学路でもあったようだ」
     もちろん、クロガネモチの好きな鉄は好んでこの道を通っていたのだろう。
    「話を戻すが、ご当地怪人と化した少年は戦いになればご当地ヒーローのサイキックの他、マテリアルロッドのフォースブレイクの様に『攻撃の直後に爆発を生じる』斬撃とガトリングガンのブレイジングバーストの効果に似た『当たると爆発する金属製の葉っぱを連続射出する』攻撃で応戦してくる」
     直撃に爆発を伴う攻撃が多い辺り、本当に守りたいものの側で戦うには向いていない攻撃手段だ。
     もっとも、闇堕ち一般人を救うには、戦ってKOする必要がある。戦いは避けられないのだが。
    「知っているとは思うが、闇堕ち一般人と接触し、人間の心に呼びかけることで戦闘力を下げる事が出来る。これを活用しない手はないだろうな」
     堕ちかけとはいえ、相手はダークネスなのだから。
    「もし救えると言うのなら、私としても見捨ててはおけない」
     指ぬきグローブをはめた手で握り混んだもう一方の手を覆い、宜しく頼むよ、とはるひは頭を下げたのだった。
     


    参加者
    帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)
    巴・后漸(見合い婆参上・d09793)
    悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)
    月村・アヅマ(風刃・d13869)
    小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)
    千歳・残夏(カーネイジ・d15449)
    天城・翡桜(碧色奇術・d15645)
    綾町・鈴乃(無垢な純白・d15953)

    ■リプレイ

    ●ろくにんめ
    「うわっ」
    「な、何だこいつ……」
     吹き飛ばされた不良が悲鳴を上げ、目の前で人が変身するという非日常を目撃した別の不良が狼狽えた時だった、巴・后漸(見合い婆参上・d09793)が己の手をナイフと枝の間に割り込ませたのは。
    「はものふりまわすのはあぶないのですよ」
    「「は?」」
     綾町・鈴乃(無垢な純白・d15953)の声が割り込んできて、ようやく不良達は闖入者に気付いたが、あっけにとられる。刃物の前に手を晒す少女も理解不能だったが、自分達に意見するのは、どう見ても小学生低学年の女の子。
    「あ? え?」
    「このようなものに頼るなんて……筋肉が足りない証拠ですわ」
    「うぇっ? 俺のナイ……ひぃぃぃッ」
     ただ理解の追いつかないだけだった不良達を、バキッという音が恐怖で支配した。
    (「証拠写真を撮った意味、あまりなかったかもな」)
     后漸に自慢のナイフをへし折られ、怯える不良達を眺めながら月村・アヅマ(風刃・d13869)はカメラを下ろすと脇に退いた。不良担当の灼滅者は自分以外にもまだ残っていたのだ。
    「おいクソ共、ピーピー喚いてたかと思えば、随分しょべぇオモチャだったなぁ、オィ」
     仲間が先にナイフを折ってしまったのは、千歳・残夏(カーネイジ・d15449)にとって予想外だったが、折られた柄の部分は不良が投げ出し、足下に転がっていた。
    「そんなにコイツで遊びたいのなら、この俺が相手してやる」
     たぶん、そんなことを言いつつ残った柄を堤防のコンクリートに叩き付けなくても、不良達に戦意など欠片も残っていなかっただろう。
    「あ、あぁ……」
    「つまらないいたずらをするから、こわいおもいをするのです」
     恐怖の表情を顔に貼り付け後ずさる不良達は、鈴乃からぶつけられた言葉にも反応出来ない。
    「……とっとと失せろ」
    「「う、うわぁぁぁっ」」
     アヅマに睨み付けられて弾かれたようにようやく逃げだし。
    「待て、逃げ――」
    「すごく勇気のある人ね。私達、学内新聞を作ってるんだけど、庇おうとするぐらいだもの、あの樹に纏わる思い出とかあるのかしら?」
     狼藉者を呼び止めようとしたご当地怪人へ帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)がすかさずマイクを向ける。
    「な」
     変貌を遂げた少年には、レポーターを払いのけ、逃げる不良を追うという選択肢もあった。
    「待ちなさい。見たところ……貴方はこの樹がとても大事と見えます。何か深き思い出や熱きがあるのですか?」
    「っ」
     ただし、執事服を身に纏い声をかけてきた悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)を振り払った上。
    「おぉっと、……なんだよつれねぇな? 俺達よりあっちの雑魚が良いのか~? あ゛~?」
     と足止めの為に絡んできた残夏まで一蹴出来たならの話だったが。
    「ちゃんとはんせいするのですよ?」
     鈴乃の声に弾かれたように視線を戻したご当地怪人が見たのは、既にかなり小さくなった怨敵の背中。
    「何故あいつらを逃がした?」
     押し殺した苛立ちは、ヘルメットに隠した顔からは窺い知れない。
    「……此処で戦うと、クロガネモチ傷つくけど、良いの?」
     だが、小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)に問われてしまえば、ぐうの音も出なかった。
    「戦うなら場所は変えませんか? ここだと街路樹も巻き込んじゃいますよ」
    「くっ」
    「ですね。此処で貴方の力を使ってしまえば木を傷付けてしまうことになりますので……あの河川敷がベストでしょうか」
    「わかった、ならば行くぞッ」
     アヅマ達の言葉に実力行使を躊躇ったご当地怪人が、天城・翡桜(碧色奇術・d15645)の示した場所へ歩き出したのも樹を大切に思っているなら当然のこと。そも、場所を移そうと申し出たのは、一人二人ではない。
    「むろん、あそこで納得の行く説明をして貰えるんもっちぃな?」
    (「何とかして闇堕ちから救い出して差し上げないと……」)
     人の心の鱗片からか、樹を思ってか話を聞く態勢を見せたクロガネモッチアに、翡桜は頷き返して見せた。
     
    ●不可避
    「うおおおおおっ」
    「っ、大切な樹を守りたい一心で果敢に向かっていた貴方は本当に凄いと思ったわ」
     雄叫びを上げた漆黒の戦士が金属の葉を連続で撃ち出し、怒りを向けられた優陽は、爆炎の中、後方に飛んで影を操る。もともと説得をしたとしても戦いは避けられない運命だった。
    「解りました……ですが……貴方は今、その大事な樹を真に思っておりません」
     クロガネモッチアと化した少年の言い分を聞き終えた英一が、大事に思っているのでしたらあの場で戦おうとするわけがありません、と断じたのは、つい先程のこと。
    「その闇……私達が払いましょう。……コード……Combatant! ……変……身!」
     自分で語った言葉を思い出すようにと説得してカードを掲げた英一は、もはや執事ではなく。
    「イイーーーーーーー!!!」
     特撮ヒーローものにおなじみの戦闘員。
    「イーーーー!」
    「うっ」
     高速で振り回す刃がヘルメットをガリガリと削り。
    「望月おにーさん、クロガネモチへの熱い気持ち、思い出すの」
    「……気持、ち?」
    「デッドブラスター、発射なの」
     呼びかけで僅かに動きが鈍った瞬間を狙って美海の弾丸が同じ色をした鎧向けて撃ち出される。
    「違う、俺は守るからこそこ……くっ」
     咄嗟に打ち払おうにも振るおうとした腕を影で出来た触手が引っ張り。
    「木を傷つけようとした人達相手に寛容になれないのは分かりますが、傷つけるため葉っぱ使って攻撃するのは如何なものかと。あの木、好きなんでしょう?」
     問う翡桜の影が巨大な口を開いてご当地怪人へ襲いかかる。翡桜だけでない、ご当地怪人と化した少年がどれほどその樹を愛していたかは、説得を行った灼滅者達全員が聞いている。
    「まぁ、気持は解らなくもないけどなァ。気に入らない奴はブッ潰したくなるのも……」
     当時、やる気なさそうに視線を外していた残夏ですら少年の気持ちには理解を示していた。
    「止めとけよ、お前みたいな奴は殺った後に後悔するタイプだ……これは親切で言ってやってんだぜェ? クククッ……」
    「うるさい、俺は戦う。戦わなくてはいけないもちっ!」
     だが、いくら警告しようとも闇堕ちしかけた一般人は、己の力で踏みとどまれない。もっとも、戦闘を好む残夏にとっては願ったり叶ったりだったかもしれないが。
    「上等だぁ、ゴルあァ」
    「おおおおっ」
     凶暴な笑みを作って手繰る腕の動きに禍々しい影が従った。影に逆方向へ引かれながらも繰り出したクロガネモッチアの拳と影の刃がぶつかり、金属同士がぶつかったような音を立てた両者が弾かれ流れる。
    「ちっ」
     残夏が舌打ちした理由は攻撃を捌かれたと言う単純な理由ではなかった。
    「俺は、俺はぁぁッ」
     残夏は、ビハインドの唯織が少年へ肉薄する姿を視界に捉えていたが、残夏を見ているご当地怪人は気づいておらず。
    「……ところで、そんなに好きならクロガネモチの花言葉は当然知ってますよね?」
    「何ッ」
     アヅマの接近にさえ声をかけられて気づいたこと。
    「ぐああっ」
     感情の高ぶりか、説得によって戦闘力が落ちているからか、視野狭窄に陥ったクロガネモッチアは、叩き付けられたマテリアルロッドを避けきれず、漆黒の鎧を焔の色に彩られつつ、地面へ倒れ込み。
    「くっ、強いな。だが、負けられないもち」
     呻きつつも即座に跳ね起きるとファイティングポーズを取る。簡単に倒されるつもりは無いと言うことだろう。おそらくはクロガネモチの為に。
    「だいじなきにいたずらされそうになっておこるのはわかるのです」
     と理解を示しつつも仲間達と共に戦いの場を変えようと申し出た事を思い出しつつ、ぐっと拳を握りしめ、鈴乃は歌い出す。人間の意識を持っていようとも、内なる闇を倒さなくては戦いは終わらないのだ。
    「行くぞ、とうッ」
    (「ここまではうまくいきましたもの。あとはモッチアさんを救出できれば御の字ですわ」)
    「がッ」
     呪いをかけつつ后漸が見つめたご当地怪人は、地を蹴った直後、足の一部が石に変わって派手にすっ転んだ。

    ●漆黒の戦士
    「石井さんといい、そのお友達といい、望月さんといい、筋肉が足りないのですわ!!」
     后漸はそう思う。不良達は結局逃げ出し、闇に囚われたままの望月と言う少年は未だにご当地怪人として自分達との戦いを繰り広げていたのだから、ふがいない的な意味なのだろうか。
    「クロガネ・ブレードッ!」
    「きゃあっ」
     場所を変える時に理解を示して続けた木々を守るには大きすぎる力が、斬撃となって漆黒の軌跡を描きながら仲間へと襲いかかり、優陽のWOKシールドの表面で爆発が生じる。
    (「すずのしってます。ろくにんめは、いままでのごにんとはちょっとふんいきがちがうのです」)
     以前戦い、救った少女と比較しつつ、鈴乃は祝詞を謳った。弱体化して尚、折れぬ戦士は本当に色々と違ったのだ。
    「お札さん、回復なの」
    「ありがとう」
     美海に護符で援護された優陽の影が、波打つように揺れる。
    「その力は大きすぎて守りたい物さえ巻き込み壊してしまう物だから――私は貴方を止めます。貴方が更なる絶望に心を潰されない様に」
    「俺は屈しないも」
     WOKシールドを下ろしたのとほぼ同時に動き出した影が、睨み付けるご当地怪人を飲み込んだ。
    「お゛おおおッ」
     苦痛の声か雄叫びか、籠もった声が影の中から漏れて。
    「イーーッイイイーーー!!」
    「がッ」
     包んだ影ごと、マテリアルロッドで少年を殴打した英一が、少年を足場にそのまま飛びずさる。
    「ァァァッ」
     影が内から爆発し、裂け目から漏れた悲鳴へ僅かに遅れて転がり出たのは傷だらけの戦士。
    「うぐっ、俺は……倒れないもちぃ。悪を許す訳には」
     闇堕ちしたことで歪んだ正義、それを支える唯一の大義名分を口に、ヘルメットの割れたバイザーから瞳を覗かせつつ、クロガネモッチアは拳を握りしめ。
    「クロガネモチの花言葉、怒りに囚われている今の貴方には程遠い言葉だと思いませんか、望月さん! それに力づくでどうにかしようなんて、さっきの連中と変わらないですよ!」
    「っ、寛……容」
     尚も駆け出そうとした足をアヅマの声が縫い止めた。
    「木を傷つけようとした人達相手に寛容になれないのは分かりますが、傷つけるため葉っぱ使って攻撃するのは如何なものかと。あの木、好きなんでしょう?」
    「そ、それは――」
     翡桜の言葉が、追い打ちをかけ。振り向いたご当地怪人が見た者は、拳にオーラを集めながら至近距離まで踏み込んでいた翡桜の姿。
    「ぐあぁぁぁぁっ」
     嵐の様に繰り出された拳が豪雨の如く漆黒の鎧を打つ。
    「く、くそ……だが、俺」
     翻弄され、撃ち込まれた一撃一撃によって鎧にいくつものヒビを入れられながら後退したクロガネモッチアを待つのは、残夏の。
    「……あ゛~? 俺忘れてんじゃねぇぞ」
    「ぐああああっ」
     死角に回り込んだ残夏の斬撃だった。漆黒の鎧は一文字に切り裂かれ、背中に傷を負ったご当地怪人は身体を傾がせ、膝をつく。
    「こんなもんかよ」
    「けど、まだ終わりじゃないわ」
     もはや、少年は満身創痍で、知るが故に灼滅者達も畳みかける。
    「明るい所を好み、沢山の人に愛され生きているあの樹のように私は貴方にもそんな温かくて優しい人であって欲しいから」
    「うっ」
     影は、再び踊る。細長く伸びた黒が漆黒に絡みついて動きを妨げ。
    「うおぉ……おオオオオオッ!」
    「イーーーイイイイーーー!」
     それでも最後の力を振り絞るように武器を構え、吼えた戦士に向けて英一が飛ぶ。
    「こぶしけいみこのおしおきぱんちをおみまいするのです」
     鈴乃が走り出したのと、ほぼ同じタイミングで。
    「必殺・もふビーム、なの」
    「足りてませんわ、筋肉が!」
    「ああああッ」
     美海の放ったビームに后漸の撃ち出した魔法弾、肉薄する仲間を援護するように飛来したサイキックに身体を穿たれながら、クロガネモッチアも地を蹴って飛ぶ。
    「クロガネェ・ダイナ、ぐぅ」
    「終わりですよ」
     英一の足を掴み担ぎ上げようとしたご当地怪人は、鎧を砕かれ脇腹にめり込んだ拳に呻き声を発すとアヅマの巨大化した片腕にたたき落とされ。
    「イ゛ェ゛ア゛ーーー!!」
     河川敷に爆発が生じた。英一の断末魔っぽい叫びが響いたのは気のせいだと思う。
    「く、くろが」
    「帰ってきて下さい、その姿のままでは守りたいものも守れなくなりますよ」
     爆発のほぼ中心地、蹌踉めきながらもまだ立とうとした漆黒のご当地怪人は声と共に放出した翡桜のオーラに呑まれると、今度こそ崩れ落ちて元の姿に戻ったのだった。

    ●新たなる英雄
    「少し、話をさせて貰いますね」
    「話?」
     意識を取り戻し、オウム返しに問うた少年へ、アヅマは語り始めていた。自分達の素性、この場所に足を運んだ理由などを。
    「そうか」
     少年こと鉄騎は、短い理解の言葉を口にし、横たわった姿勢から上半身を起こしたまま黙り込む。
    「闇堕ちせずとも貴方の好きな木は守れると思いますよ。よろしければ灼滅者として貴方の好きなその木の魅力、広めてみませんか?」
     自分達が救った少年の前にしゃがみ込んだ翡桜がその瞳を覗き込むように問うたのは、沈黙に焦れたからではない。
    「私も、望月おにーさんには武蔵坂学園に来て欲しいの」
     更に美海の呟きが沈黙を破って、数秒後。
    「クロガネモチを守れるのなら、迷う必要など何処にもない」
     アヅマとしては、どうするか本人の判断に任せるつもりだったが、結論が出たらしい。
    「俺は――ご当地ヒーロー、クロガネ・モチアスだ」
     その名乗りは、一つの門出。こうしてまた一人、ご当地ヒーローが誕生したのだった。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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