臨海学校~渚の影を追い払え

    作者:柚井しい奈

     晴れ渡った空の色を映して輝く青い海。寄せては返す波が砂を濡らし、白い飛沫が跳ねるたびに歓声が響いた。
     腰の辺りで浮き輪を抱えた少年が砂を蹴って海に駆け込んだ途端、大きな波に押し戻されて波打ち際で行ったり来たり。
    「お母さん、海すごい!」
    「あーあ、頭に海草くっつけて」
     笑いながら後を追いかけてきた女性が子供の頭に手を伸ばす。
     その動きが、ぴたりと止まった。
     視線を上げた少年の頬にぽたりと赤い雫が落ちる。
    「さぁて、はりきって殺しまSHOW!」
     けたけたと笑う男の声。
     水着に包まれた胸から突き出た刃。
    「う、うわぁっ!?」
    「きゃあああっ!」
     母の唇から紡がれた言葉は周囲の悲鳴にまぎれた。刃を引き抜かれ支えを失った身体が目を見開いたまま動けない少年の上に降ってくる。大人の体を支えられるはずもなく仰向けに倒れた少年に容赦なく波が被さる。
     けれど、差し伸べられる手はなかった。
     けたけたと笑う男は血まみれのナイフを振りかざす。近くにいた青年は事態に硬直しているうちに次の餌食となり、周囲の人間は我先にと逃げ出した。
    「ひゃははははは!」
     笑う男のポケットから黒いカードが覗いていた。
     
    「臨海学校を楽しみにされていた方も多いと思いますが、九州で大規模な事件が発生することがわかりました」
    「ええと、臨海学校で行く予定の場所だよね?」
     申し訳なさそうな微笑を浮かべる隣・小夜彦(高校生エクスブレイン・dn0086)の言葉に草薙・彩香(小学生ファイアブラッド・dn0009)がマーガレットの髪飾りを揺らした。
     事件が起きるならば対処せねば。使命感に燃えた瞳に見上げられて小夜彦は口元を緩める。
    「大規模といっても事件を起こすのは普通の一般人です。灼滅者の皆さんなら解決は難しくありません」
     ダークネスや眷属どころか強化一般人ですらない。何の特別な力も持たない人間が無差別の大量殺人事件を引き起こそうとしている。
    「どうやらこの事件の裏には組織的なダークネスの陰謀がありそうなんです。目的まではわかっていませんが」
    「どんな目的でも、たくさんの人が死ぬような事件をほうっておくわけにはいかないよ。そうだよね?」
     彩香の小さな手が胸元できゅっと握られる。大きな瞳が同じ教室にいる灼滅者たちに視線を投げた。
    「犯人は黒いカードのようなものを所持していて、それに操られているみたいです。カードを取り上げれば直前までの記憶を失って気絶するようなので、あとは休憩所か何かに運べば事件解決かと」
     場所は博多のとある海水浴場。事件を起こす一般人は黄色いパーカーを着た20代の男だ。注意深く観察すればパーカーのポケットから黒いカードが覗いているのが見えるだろう。
    「目に付いた相手から手当たりしだいに殺そうとするようですから、少し目立つくらいに騒げば向こうから近づいてくると思います」
    「それでどうにかしてポケットのカードを取っちゃえばいいんだね」
    「はい。よろしくお願いします」
     とにかく今回は殺人事件を阻止できればいい。敵組織の狙いやカードの正体といったものの調査は後の話だ。現場ですぐ調べられるものでもない。
    「それで話は最初に戻りますが、今回向かってもらうのは臨海学校を行う場所でもあるんです」
    「じゃあ、事件解決したらそのまま臨海学校だね!」
    「はい。ちょっと普通の学校行事とは勝手が違ってしまいましたが、事件を未然に防いで臨海学校を楽しんでください」
    「もちろん事件解決は頑張るけど……えへへ、海で泳ぐの楽しみだね。水着忘れないようにしなくっちゃ」
     彩香は皆を振り返り、押さえきれない様子ではにかんだ。


    参加者
    安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)
    有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)
    天咲・初季(火竜の娘・d03543)
    淡白・紗雪(六華の護り手・d04167)
    刀牙・龍輝(蒼穹の剣闘志・d04546)
    青和・イチ(布団と湿気と仄明かり・d08927)
    リディア・キャメロット(無音の刃・d12851)
    竹間・伽久夜(高校生エクソシスト・d20005)

    ■リプレイ

    ●海では楽しく遊びましょう
     青空にカラフルなビーチボールが高く跳ねる。
     緩やかな弧を描くボールを追いかけて細身の少年が砂を蹴った。首に巻いたスカーフがはためく。高い。プロのスポーツ選手もかくやという滞空時間。
     周囲からどよめきがあがる。
     言葉はなくただ息を詰め、青和・イチ(布団と湿気と仄明かり・d08927)は相手コートめがけてボールを叩き込んだ。
    「わわっ」
    「ナイスセーブ!」
     腕を伸ばして滑り込む草薙・彩香(小学生ファイアブラッド・dn0009)の隣に駆け込み、有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)がジャンプ。長い黒髪を躍らせ、ボールを前に空中で前転。明らかに無駄な動きを織り交ぜてへるは不敵に微笑んだ。
    「シャイニングプリティー大車輪アタァーック!」
    「すげえ、今あの子何回転した!?」
    「……なるほど、飛んでくるボールを打ち返せばいいんだね」
     拳を固めた刀牙・龍輝(蒼穹の剣闘志・d04546)が腰を落とし、ボールめがけて渾身の正拳突き。アルティメットモードの龍輝が放つ拳はまさにラスボスとの最終決戦に挑む勇者のごとく人々に感銘を与えた。
    「うおおおおおおぉっ」
     ビーチバレーとはなんだったのか。
    「龍輝さん、もしかしてバレーボールやったことない?」
    「大丈夫。今やるべきことはわかってるから」
     彩香の問いに対する答えは肯定だ。まあ目立っているからノープロブレム。
     常人離れしたプレイを繰り広げる少年少女たち(しかも一部は妙に感動を呼ぶ服装をしていた)に海辺の視線は釘付けだ。
     竹間・伽久夜(高校生エクソシスト・d20005)は近づいてきた一般人に改心の光を使い、ゴミ拾いを促して人を遠ざけていたのだが、ESPまで駆使して人目を引いている状況ではきりがない。
     人だかりの合間を癖のない金髪がさらりと流れる。リディア・キャメロット(無音の刃・d12851)だ。泳ぎに行こうか、野次馬に混ざろうか、そんな素振りで歩きながらもサファイアブルーの瞳は油断なく周囲を探る。
    「いざとなったら一般人を避難させないとね」
     ひとりごちて人ごみの中、目を細めた。
    「ブリリアントスウィートスパイラルアターック!」
    「やらせないよ」
    「蹴ったあー!?」
     明るい声が波音を打ち消す勢いで響き渡る。
    「いーなぁ、楽しそう……」
     にぎやかな砂浜を見下ろしてため息をこぼすのは天咲・初季(火竜の娘・d03543)。箒にまたがって上空を旋回する彼女の姿は特殊な気流にさえぎられて一般人の視界には入らない。
     空からの監視は自ら言い出したことだが、一人はやっぱり暇だ。暑いし。帽子をずらして額をぬぐう。
    「ちょっと集まりすぎなよーな……あ、いた」
     黄色いパーカーを着た男。ポケットに突っ込んだ手にはナイフを握っているのだろう。へると龍輝のどこかずれた派手な攻防を目にした瞬間にさまよっていた視線は定められ、唇をつりあげる。
     初季は高度を落として仲間の近くに降り立った。
    「来たよ」
     超人的なビーチバレーを繰り広げていた面々が視線を交わす。
     伽久夜は黄色いパーカーを視界に収めるやいなや改心の光を放った。さらにはへるとの2人がかりでラブフェロモンまで発動しているのだから男の精神状態たるやいかに。
    「うわ……っ」
    「どうかしましたか?」
     男は首を傾げる伽久夜から視線をそらす。赤くなったり青くなったり落ち着かない。
     いつでも攻撃に移れるよう、リディアは足の裏に力をこめた。
     闇を纏った安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)が背後から忍び寄る。
    「まだだ……最大の隙を見せたそのタイミングが勝負だ」
     パーカーのポケットから垣間見える黒いカードを奪うには、まだ男の手が邪魔だ。
     ビーチボールを持った淡白・紗雪(六華の護り手・d04167)がにこりと笑った。小さな体から放たれる威圧感は王者の風。
    「おにーちゃん、きーていいかなっ♪」
    「ひっ!?」
     目の前にいるのは笑顔の女の子だというのに、背筋に寒気が走るのを感じて男は身を縮める。
    「そのカードどこで手に入れたかなっ♪ もらったならどんな人からかなっ?」
    「え、あ……う……」
     顔をそらしたまま男の唇は無意味な音をもらすばかり。満足な答えは望めそうもない。最初から期待していなかった紗雪は頷いて一歩下がった。
    「大丈夫ですか? 深呼吸したら落ち着きますよ?」
     そっと顔を覗き込むようにして、伽久夜が男の手をとった。硬直する体。生じた隙を逃さず、乃亜の腕が伸びる。
    「もらった!」
     ポケットに滑り込んだ指先が黒いカードが白日の下に全容をさらす。一見すると本当になんでもないそれが離れた瞬間、男は膝から崩れた。
     遠巻きに心配と好奇の入り混じった視線が注がれる。イチはざわめきに振り返り、苦笑を浮かべて見せた。
    「海で……テンション上がっちゃったんですね、きっと……」
     休憩所で休ませると告げれば人々もそれ以上は気に留めず、それぞれ当初の目的へと戻っていく。意識のない男を運び込み、休憩所の人には寝かせといてくださいと言い置いて、今日の事件は解決だ。
     本来の姿を取り戻した海水浴場で灼滅者たちはほっと息を吐き出した。
    「これも気になるけど……」
    「学園に任せるしかないわね」
     乃亜の手元を覗き込んで見たものの、黒いカードが何なのかはわからない。今考えても仕方ないと切り替える初季にリディアは小さく頷いた。
     なんと言っても、今日は臨海学校なのだ。イチの声に期待がにじむ。
    「本来、こっちが目的、だよね……」
    「いよしっ、おわりっ♪ あそぶぞーっ!」
     紗雪が拳を突き上げた。
     大きな波が潮の香りを強くする。陽光が白い飛沫を輝かせ、臨海学校の本番を告げた。

    ●海を遊び倒そう!
    「さあ、何をしようか。何でも受けて立つよ」
    「一仕事終えた後の遊びってのは、楽しいものよね」
    「ビーチバレーの続き、する? ……スイカも、持ってきた……」
     海を背景に両腕を広げたへるに、リディアの瞳がほのかに和らぎ、イチは荷物から取り出した大玉スイカを持ち上げて見せた。足元で尻尾を振るくろ丸。
    「スイカ? じゃぁ、スイカ割りやるっ?」
    「ビーチバレー、私もやりたい! もちろんスイカ割りだってするよ!」
     紗雪と初季が交互に声を弾ませる。彩香も輪に入ってどっちから遊ぼうかと笑みを浮かべていたら龍輝が「スイカを割るのが遊びになるの?」と首を傾げたから先手はスイカ割りに決定。
    「皆と守れた平和、満喫させてもらうとしよう」
     見守り体制に入った乃亜の前で目隠しをした初季がへるに勢いよく回されて、ふらふらとおぼつかない足取りは右へ左へ。
    「前へ前へ!」
    「あ、ちょっと左だよっ♪」
     皆の声を頼りに振り下ろした棒がスイカの皮をぱこんと砕いた。
     割れたスイカは皆で美味しくいただいて、腹ごなしのビーチバレー。
    「私もご一緒してよろしいかしら?」
    「もちろんです、ほら」
     首を傾げたリディアに微笑み、伽久夜がビーチボールを渡す。小さくひとつ頷いて、リディアがボールを高く跳ね上げた。
    「そっち行ったよ!」
    「えいっ」
    「くろ丸も、ボールとれる?」
    「わふっ」
    「あははは、たーのしぃー!」
    「うん、本当に」
     時折風にあおられて変な方向へ流されるボールを必死に追いかけたり、砂に足をとられて転んだり。そのたびに上がる笑い声。表情の動かないリディアもボールを追いかける動きは軽い。
     龍輝にとっては何もかもが初めてで、ボールが跳ねるたび心も浮き立つ。もっと楽しみたい。次は何をしよう?
     日が暮れるまで、まだまだ時間はたっぷりだ。

    ●海の花園
    「気持ちのいいくらい素敵なビーチだよねっ」
     桃子が潮の香りを思い切り吸い込めば、ホルスタイン柄のビキニに包まれた胸がはちきれんばかりに揺れた。
    「スゴい海ですねっ♪」
    「おう、行くぜ静香」
     空と雲、海と砂。青と白で埋め尽くされる景色に向かい、静香と竜胆は熱い砂を蹴った。波がざぁっと音を立てて足を濡らす。
    「竜胆さん。ビーチボールですよ、ビーチボールっ」
     水着と同じく苺プリントのビーチボールを掲げれば、竜胆は頬を緩めて腕を持ち上げた。陽光を弾いて宙を跳ねるボール。
    「オラッ!」
    「そーれっ!」
    「行く……ぜ、えぇええ……!?」
    「ふぇ? わ、わぁ……」
     竜胆の動きが止まる。ボールが落ちて波の上に転がった。真っ赤な顔を見て何事かと静香が振り返ってみれば。
    「あらあら……?」
     のんびりと泳いでいたスミレも同じ方角に目をやって小さく笑う。
     そこは一緒に遊びに来た皆が遊んでいたはず。コセイの鳴き声もする。
    「もらったー! ……って身代わりの術ー?!」
    「そう簡単にさせませんよ?」
     指を広げて繰り出した悠花の両手をいち早く察知し、りんごは素早く彩澄と位置を入れ替えた。ひよこよろしく笑顔で後ろをついてきていた彩澄に避ける暇もなく。
    「へ?」
    「おのれ、りんごさんめぇぇぇ!」
     報復失敗に呪詛を吐きつつ、掌にあまる膨らみはしっかり堪能する悠花。白いビキニ越しのやわらかさがけしからん。
    「ふぁっ……!? や、やめてくださいよぉ!」
    「……えいっ♪」
     いつの間にやら背後に回りこんだスミレが後ろから手を伸ばす。寄せて上げれば谷間はもはや底の見えない峡谷である。伝い落ちた水滴の行方が見えない。
    「って、だれですか後ろからわしづかみにするのはー!?」
    「あらあら、おっきい。うふふ……♪」
     目の前の笑顔を見て、悠花はスミレも先日の共犯だったことを思い出した。
    「この至近距離で隙を見せるとは……えーいっ♪」
    「ひゃんっ……♪」
    「おー、楽しそうだなぁ……」
     はしゃぐ3人を眺めて杏子は手慰みに水面をかきまぜる。物足りないのはいつもいじる相手がいないから。
    「くっ、宿で揉んでやる……」
    「羨ましいなら混ざりますか?」
    「そ、そうじゃないんだけどねー……」
     とか言ってる間にりんごの手はちゃっかり胸に伸ばされていた。いや悪戯される側になりたかったわけではなくて。でも気遣われていると思えば甘える気持ちも湧いてくる。
    「みんな、楽しそうですねー♪」
    「お、おい待て静香っ」
     手招かれて近づく妹分を竜胆は慌てて追いかけた。
    「私も混ざっちゃおうかな。えーい♪」
     桃子も一緒になって突撃。波に押されるままに飛び込んで。杏子が目を丸くする。
    「ちょ、おま! 体勢がー!?」
     白い水柱がざんぶらこ。咳き込む音と笑い声が波の間に響き渡った。

    ●夏といえばやっぱりこれも
    「乃亜、お疲れさん。お前らも、好きなの選んでいいぜ」
    「いっやっほぅー!」
     隼鷹が運んできたトレイの上には4色のカキ氷。すかさずサリィが氷レモンを持っていった。快活に跳ねるポニーテール。
    「乃亜ちゃん、お疲れ様。……その水着、似合ってるよ」
    「その、えっと……ありがとう」
     詠一郎が乃亜の肩を抱き寄せる。
     シンプルな黒のビキニは凛々しい彼女の美しさを引き立てる。甘い囁きに乃亜の頬が朱に染まった。
     カキ氷の冷たさにしかめられていたサリィの顔が別の意味で歪む。
    「お前ら、そんなひっついてて暑くねぇの……?」
     隼鷹の疑問に言葉以上の意味がないのだからなおさらだ。
    「隼鷹さん、サリィさんをエスコートしてあげたらどうです?」
    「そうだぞ、隼鷹氏。君も偶には女性に対してスマートな対応を見せてみろ」
    「……言ってる意味、わかんねぇぞ?」
     あ、溶ける。ブルーハワイをかきこむ隼鷹。
     こっそりとため息ひとつ吐き出して、サリィは隼鷹の手をとった。
    「あーアツいから、海に入ろう!」
     空の容器をゴミ箱に放り込んで海へ駆け出す。
    「エスコートできる日は遠そうだね」
     詠一郎は小さく乃亜に笑いかけると、2人の後を追って歩き出した。

     うねる水面が宝石をちりばめたように輝く。寄せては返す波は海の手招き。
    「彩香ちゃんっ♪ 一緒におよがない?」
    「うん! うわあ、ちょっとドキドキしちゃう」
    「大丈夫、だよ」
     紗雪に誘われて波打ち際に来た彩香は胸を押さえて深呼吸。微笑むイチの後ろから寛子がひょいと覗き込む。
    「彩香ちゃん海で泳ぐの初めてなの? 寛子と一緒にボートに乗る? それとも浮き輪使う?」
    「それじゃあ、浮き輪借りてもいいかなぁ?」
     はにかむ彩香に笑顔を向けて、ポンプで空気を入れた浮き輪を頭から被せてやる。
    「ありがとう。寛子さんも泳ごう?」
     波打ち際では砂を巻き上げて濁っていた水も一歩進むたびに透き通る。爪先で水底を蹴ればもう足が届かない。
     初季が大きな波に突っ込んで頭のてっぺんからずぶ濡れに。
    「楽しい! しょっぱい!」
     大きな笑い声に周りもつられてはしゃぎだす。
     沖で波をかき分けるのはスウェットスーツに身を包んだ慧悟だ。
    「地獄合宿でも、海に入ったけど、あの時よりは、気楽……」
     同じ学校の行事とは思えない。
     視界の隅に小さな影を捉えて大きく息を吸い込んだ。潜った先に見えた景色は和らいだ日差しのきらめきと、自由に泳ぐ小さな魚。感嘆の声の変わりに唇から漏れた気泡がゆらゆらと海面を目指した。
     一方、浜に残った伽久夜は砂を濡らして地固めし、ヘラや参考写真までばっちり用意して砂の城作成に取り掛かっていた。
    「やっぱりそのまま作っても迫力が出ないわね……。デフォルメを効かせないと」
     波打ち際にそびえたつ福岡城。
    「むむ、なかなか力作じゃないか」
     隣にへるがぱったりと倒れこんだ。炎天下、休むことなく全力全開ではしゃいでいたらさすがにエネルギー切れだ。軽く目を回しながら空を仰ぐ。
     ところどころに白い雲をたなびかせた空はいっそう青く、まだまだ暑い日が続くことを感じさせた。夏休みがあと半分もないなんて信じられないくらいだ。
     傾きかけても太陽は容赦なく照りつけて、この景色ごと今日の記憶を焼き付けた。

    作者:柚井しい奈 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 11
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