臨海学校~水辺のショータイム

     すっかり日も落ちて、博多湾を臨む扇状の観客席からは、ライトアップされたショープールに揺らめく水面が一望できた。
    「はーい、みなさーん。大変お待たせしましたー」
     プールを挟んだ向こうのステージに、スウェットスーツを身に纏った男女の係員がにこやかに笑いながら手を振っている。
    「アシカショーに続いて、イルカショー夜の部が間もなく始まりまーす」
     観覧席には300人を越える人達の歓声が沸き上がる。
    「本日は打ち上げ花火が博多湾の向こうに上がりますー。イルカ達が花火にあわせて大きくジャンプしますので、うまくいったら大きく拍手をお願いしますー」
     観覧席から再び歓声が上がり、所々に拍手の音も響き始めた。
     その時、観覧席の中段辺りに1人の男が立ち上がった。
     トイレなどで席を立つ観客も他にいるので、それ自体は目立たなかったが、男は手に抱えていたサメのぬいぐるみの腹部に手を突っ込むと、中からダガーナイフを取り出してかざして見せた。
    「花火の前に、観客雄志による、血祭りが始まりまーす!」
     恍惚としたような口調でそう叫ぶと、男は目の前に座っている観覧客の首筋にナイフを走らせた。
     噴水のように血しぶきが噴き出し、周辺の観客に降り注ぐ。斬りつけられた観客は、自分に何が起きたかも理解できないまま大量の出血で意識を失い、程なく絶命した。
     一瞬の間をおいて、観覧プールに恐怖の悲鳴が響きわたる。そして、そこから離れた別の観覧席からも同じように鮮血が宙を舞った。
     それぞれ別の座席にいた男性と女性が立ち上がってナイフを振り回し、次々に無防備な人達に襲いかかっている。
     すぐに会場はパニックとなり、観客は狭い通路を互いに押しのけるように出口へ殺到する。
     口元をゆがめて笑いながらその様を見つめる3人の殺戮者達は、逃げまどう群衆に飛びかかり、凶刃を振るいだした。
     辺りに響く絶叫と悲鳴に負けないほどの声で男は叫んだ。
    「ヒトを、殺すって、たのしーねー!!」

    「えっと、みなさん集まってくれてありがとうです。さっそくなんですが、もうすぐ臨海学校がはじまるんですけど、その予定地の福岡県の博多でダークネスによる事件が起こる事がわかりました」
     神立・ひさめ(大人っぽいけどまだ小学生・dn0135)は、ぺこりと頭を下げた。
    「わたしの未来予測でみたんですが、海の中道という街にある大きな水族館でナイフを持って暴れる人達が現れます。ただ、この人達は闇落ちでも強化されてるわけでもなく、ごく普通の人達なんですが、何かの理由で人が変わったかのように人を襲い出すんです……はっきりとはわからないんですが、ダークネスが関わっていることは間違いないと思います」
     見た目的に似合わないと思っている小学生制服姿を見られて、少し恥ずかしそうにはにかんでいるが、ひさめは話を続けた。
    「じつはこれに似た事件は博多のほかの所でも起きるようで、どの事件でも犯人はなにかカードのような物を持っていて、たぶんそれに操られていると思います。それを取り上げたらその人は気を失って、起きた後もその時の記憶がなくなっているようなんです」
     視線を落として少し考え込んだ氷雨だが、すぐに顔を上げた。
    「8月はその水族館は夜までやっているようで、午後7時30分から始まる夜のイルカショーのときに襲いはじめるんです。事件を起こすのは3人で、まったく繋がりのない人達のようですが、3人ともそこでは売っていないサメのぬいぐるみを持っていて、それが目印になると思います」
     手振りでぬいぐるみを説明する。どうやら長さ50cm程度で丸っこい形のようだった。
    「事件を起こすときに相手をするのがいちばん簡単ですけど、たいした力もない普通の人だし、せっかくのイルカさんのショーの邪魔をしないうちに見つけ出して、カードを取り上げるとかで解決できたらいいんじゃないかなと思ってるんです……ただ、ぬいぐるみはショーの1時間くらい前までカバンか何かにしまっていて見えないですし、人も多くて探すのも大変なので、その時は手分けをした方が良いかもです。今回はわたしも一緒にいきますので、少しはお手伝いできると思います」
     役に立つかはわからないけどと、ひさめは微笑んだ。
    「相手は一般の人だし、今回はすぐ解決できると思うんです。手に入れたカードはどうせ学園に戻らないと調べられないですし、終わったらみんなでイルカさんのショーを見ませんか?」
     ひさめは急に身を乗り出しながら楽しげに言った。
    「わたし、夜の水族館なんて初めてなんです……じつはすっごく楽しみで、花火と一緒にイルカさんのショーが見られるなんて、きっとおもしろいんだろうなぁって……みんなで一緒の方がきっと楽しいですよ、ね!」


    参加者
    狐頭・迷子(迷い家の住人・d00442)
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    土岐野・有人(ブルームライダー・d05821)
    八重垣・倭(蒼炎の守護者・d11721)
    小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)
    埋木・潤哉(物語の余白・d13316)
    エミーリオ・カンタレッラ(黒一閃の裁き・d15288)
    岬・在雛(領主の後継者候補・d16389)

    ■リプレイ


    「水族館も久しぶりですが……夏休みだけあって、夕方でも賑やかですね」
     土岐野・有人 (ブルームライダー・d05821) は早足で進みながらも行き交う人を観察していた。
     人と話すことが苦手な狐頭・迷子 (迷い家の住人・d00442) は何も言わずにこくんと頷いて返し、有人と同じようにすれ違う人達を注意深くうかがっている。
     1フロア3人ずつに分かれて探索する計画で、エクスブレインの神立・ひさめ(大人っぽいけどまだ小学生・dn0135)に出入り口周辺の見張りを頼んで、迷子と有人はサメのぬいぐるみか、それが収まって持ち歩けるような手荷物を持っている人を探して歩いていた。
     その時、迷子が立ち止まった。
    「あそこ……」
     彼女が指さした先に有人が視線を向けると、少し離れた先に二十歳くらいの男性が不自然な雰囲気の真っ黒な紙袋を手に持って歩いていた。
    「すみせん、ちょっとこちらによろしいですか?」
    「えっ? ああ、はい」
     男性は有人の『プラチナチケット』の影響を受けて、何度かまばたきをした後に納得したような顔になって2人についていく。
     途中でさり気なく黒い紙袋の中をのぞき込んだ迷子は、その中に灰色がかった青色のまるっこいぬいぐるみを見つけた。
     人気のない壁際のベンチまでつくと、迷子は意識を集中する。心地よい穏やかな風が男性を包み込み、『魂鎮めの風』が男性を深い眠りへと誘った。
     有人は倒れそうになる男性を素早く支え、ゆっくりとベンチに寝かせ、紙袋からぬいぐるみを引っ張り出す。デフォルメした丸っこい形のサメのぬいぐるみからは、ずしりと重い感触が伝わってくる。
     裏返し、腹部にあるファスナーを開いてみると、その中にはダガーナイフと、真っ黒なカードが1枚入っていた。


    「見つけたっ!」
     岬・在雛 (領主の後継者候補・d16389) は、それらしいぬいぐるみを大事そうに抱えていた男性を発見し、すぐに仲間にメールを送った。
     別々に捜索しいてた2人からはすぐに返事が来たので、在雛は中年男性の隣に立つと足止めのために話しかけた。『プラチナチケット』に惑わされた男性は、係員と話しているつもりになって在雛を受け入れている。
     すぐに小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)と埋木・潤哉 (物語の余白・d13316) が走ってきた。
    「うん、たしかにひさめちゃんから聞いたまんまのぬいぐるみだね」
     亜樹は事前にひさめから詳しく聞いており、その特徴どおりのぬいぐるみだった。
    「えーと……?」
     自分を囲んでいる子供達に戸惑いながらも、男は状況に違和感を感じないまま受けている。
     潤哉がすっと前に出て意識を集中すると、目の前の男性が急に恐怖に引きつった表情になって言葉もなく後ずさっていく。
     『王者の風』に威圧された男性は物陰にまで誘導されると、力なくへたり込んだ。
    「その、物騒なぬいぐるみとカード……渡してください」
     男は恐怖に怯えてぬいぐるみを潤哉に差し出した。ぬいぐるみを受け取ると、ファスナーを開けて中からナイフと漆黒のカードを取り出す。
    「よーし、さっさとかたづけてイルカショーを見に行こうよ」
    「……すごく楽しみです」
     そんな亜樹と潤哉を余所に、在雛はこっそりと潤哉の手から受け取ったサメのぬいぐるみを抱えてじっと見つめる。
     在雛はにへっと口元をゆるませると、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


     八重垣・倭 (蒼炎の守護者・d11721) はスマートフォンの通話を切り、ポケットに押し込む。
    「3階と2階で1人ずつ対処したらしい。それと、ぬいぐるみを真っ黒な紙袋に入れて歩いている奴がいたとも言っていた」
     倭は花守・ましろ (ましゅまろぱんだ・d01240) とエミーリオ・カンタレッラ (黒一閃の裁き・d15288) に電話の内容を伝えた。
    「じゃあそれっぽいの持ってるやつはあやしいな」
     捜索の足を止めないまま、すれ違う1人1人に注意して視線を走らせているエミーリオ。
     しゃがみ込んでぬいぐるみの特徴を子供に聞いていたましろは、首を横に振るその子にありがとうと言ってまた別の人に話しかけていた。
    「あっ……あの女の人、何か変だよ」
     アザラシの水槽の前に立っている、大学生くらいの女性をましろが指さした。
     その女性の方は表情がこわばり、睨むような視線を水槽に向けている。そして、その手には大きな真っ黒の紙袋をぎっと抱きかかえていた。
     3人は無言で頷き、周辺をうかがいながら近づいていく。幸いこの辺りには倭達とその女性以外の人影はなかった。
     エミーリオがゆっくりと背後に近づいてゆく。
     ましろは様子を見て、サイキックを解放する。『魂鎮めの風』はすぐに険しい表情の女性を深く優しい眠りへと誘い込んだ。
    「おっとと」
     意識を失って倒れそうになる女性を、エミーリオが背後から支えてゆっくりと腰を下ろしてゆき、壁にもたれるようにして座っているような体勢で寝かせた。
     通りかかる人影はなかったが、念のために『闇纏い』で視認されないようになった状態で倭が近づき、女性の手から黒い紙袋を取り上げる。
     袋を開いて中を見ると、ひさめから聞いたそのままの形のぬいぐるみを発見し、その中からナイフと黒いカードを確認すると、3人は安堵の息をもらして足早にその場から立ち去った。


    「みなさん、今日は本当にありがとうございました」
     助けてくれた灼滅者達に、ひさめは深々と頭を下げて礼を言う。
     無事事件を阻止できた9人は、ちょうど良い時間になるイルカのショーや水族館をゆっくり見学することにしていた。
     何人かは別の仲間と一緒に見学する事になっていたが、そんな約束のない人達は一緒に見て回る事になった。
    「せっかくの臨海学校ですし、残った時間いっぱい楽しみましょう!」
     期待に目を輝かせているひさめは、みんなを急かすようにしてショープールへと走り出した。


     緋乃・愛希姫(緋の齋鬼・d09037)は入場手続きを済ますと小走りで中に入り、待ち合わせ場所にいた有人の元へとたどり着いた。
     有人は笑顔で愛希姫を迎え、一緒にショープールへと向かって歩き出した。
     満席に近い会場で2人ならんだ席を確保すると、愛希姫はライトの明かりを反射してゆらめく水面に見入りながら、開演を待ちわびていた。
     その時、頬に氷のような冷たさを感じ、愛希姫は小さく悲鳴をあげた。開演前に飲み物を買いにいっていた有人が、悪戯心で背後から冷えた缶を愛希姫の頬に触れさせたのだ。
     愛希姫はすぐにお礼を伝えたが、びっくりした自分が急に恥ずかしくなって、しばらく顔を上げることが出来なかった。
     そんな自分がおかしくなってきて、愛希姫はクスクスと笑い出す。有人はそんな愛希姫に少しだけ戸惑ったが、すぐにつられて口元をほころばせた。
     その時、係員の合図と共にイルカたちの演舞が始まる。2人はお互いに優しい気持ちで笑みを交わし、打ち上げ花火にあわせて跳び上がるイルカの舞いを心ゆくまで楽しんだ。


    「イルカのショーなんて見るのは初めてだな……楽しみだ」
     伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)はわくわくしながらも時々倭達にちょっかいを出す。クラブ『梁山泊』の一行の目的は、もちろん水族館やショーを楽しむ為だが、恋人同士である倭とましろをひやかすことも大事な目的だった。
    「よかったら飲み物ありますよ……もちろん無糖珈琲ですが」
     森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)は、甘い空気を出すであろう身内のカップルに皮肉を込めて差し出した。
    (デートか……こういう場所って雰囲気良いから人気なんだろうなぁ)
     仲良さそうにしている2人を見て何気なく考えた黒瀬・夏樹(錆色逃避の影紡ぎ・d00334)だったが、そう言うことを想像している自分が急に恥ずかしくなった赤面してうつむいてしまった。
     その時、開幕の挨拶が始まって、係員の合図と共に勢いよくいるかが跳び上がり、夜のイルカショーが始まった。博多湾をはさんだ対岸でも花火大会が開幕されて、体を揺さぶる音と共に花火が打ち上げられ始めていた。
     鮮やかな花火の輝きにあわせて複数のイルカ達が宙を踊る。色々なジャンプを披露するイルカ達に観客は夢中になって大きな拍手を送る。
    「わぁ……! すごい、ですね……無事に見られて良かった」
     それぞれの手に食べ物とお茶を握りしめていた潤哉も、それらを床において立ち上がり、盛大な拍手で喜びを表した。
     最前列に席を取っていた一行だが、部長である池添・一馬(影と共に歩む者・d00726)は更にプールの目の前に立ち、あえて水しぶきを受け止めていた。
     大量の水をかぶった一馬はニヤニヤ笑いながら振り返った。
    「ふぅ、どこかからのお熱い空気で倒れそうだったが、これで少しは涼しくなったぜ」
     どっと笑いが沸き起こった。
     南谷・春陽(春空・d17714)は用意していたタオルを取り出して、呆れ顔で水をかぶった仲間達の頭を拭いてあげていた。そして急ににんまりとする。
    「八重垣さんは彼女さんをふいてあげてね」
     春陽は意地の悪い笑顔を浮かべて、憮然としている倭に新しいタオルを手渡した。
     打ち上げ花火とあわせたイルカ達のジャンプに興奮していた御影・籐眞(中学生神薙使い・d19533)だが、こちらもひやかすチャンスを逃さない。
     倭が仲間達にはぶすっとしながらもぬれたましろを丁寧に拭いていると、籐眞は用意していたコーヒーをぐいっと飲み干した。
    「部長、私が飲んでいるブラックコーヒー、ココア並みに甘いんですが」
    「それはこのプールの海水を全部使ってもどうしようもないぜ」
     すかさず返した一馬の言葉にまた笑いが巻き起こる。
    「皆さん楽しそうで何よりです」
     丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)はゆったりとした雰囲気で楽しそうな仲間達を眺めていた。
     うんうんと頷く長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)はあまりしゃべらず、目立たないように仲間達にタオルを配ったり飲み物を差し入れたりとフォローに徹していた。
     もちろん2人ともひやかすことは忘れていなかった。小次郎はわざとらしく苦みの強いお茶を飲んでいたし、麗羽もましろ達にはひとつの飲み物にストローを2本さして渡していた。
     同じようにひっそりとひやかしていた無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)だったが、うち上がる花火を背にして華麗な技を見せるイルカ達のことも忘れずに楽しんでいた。
     ふとましろを見ると、からかわれている倭に日だまりのような笑顔を向けている。
     自然と理央の口元もゆるんだが、すぐに苦笑いに変わってよく冷えた緑茶をのどに流し込んだ。
    「ふー、熱い熱い」
     恋人達への祝福とひやかしはそのまま延々と続き、ショーが終わるまでとぎれることはなかった。


    「わー、テレビで見るのと全然違いますね……すごく可愛いです!」
     セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)は食い入るように身を乗り出して歓声を上げる。
    「色々なジャンプを見せてくれるみたいです……ほらまたっ」
     落ち着いた風に装っている月雲・彩歌(月閃・d02980)だったが、初めて見るイルカの多彩な動きにわくわくする気持ちを抑えきれなくなっていた。
     お互いイルカのショーを見るのは初めてで、触れあえるかもという望みは叶わなかったが、それでもそんな気持ちを吹き飛ばすようなイルカ達の舞いに心を奪われ、係員が投げたフープの中をスクリューのように横回転しながらくぐってみせるイルカの姿に、2人で力強い拍手を送っていた。
    「またこうして一緒に出かけられると良いですよね」
     おそろいのイルカのぬいぐるみを買う約束をしたあとでふと口を開いた彩歌に、セレスティは満面の笑みで答える。
    「ええ、また一緒にお出かけしたいです」


     花火にあわせて宙を跳ね回るイルカ達を見て、桂・棗(アーデルグランツ家使用人・d00541)は大きく見開いた瞳をキラキラと輝かせながらはしゃいでいた。
     イルカを見たり花火を見たりと無邪気によろこぶ棗の様子をみて誘って良かったと、エミーリオ自身も自然と笑みを浮かべていた。
     楽しい時間はあっという間に過ぎ、いつの間にかショーの閉幕の時間になっていた。
    「まだ閉館じゃないし、土産とか買い物もしてこーぜ」
     エーミリオは残念そうにしている棗の目の前にすっと手を差しのばす。もっともっとたくさん楽しい時間を、棗に過ごして貰いたかった。
     その手を見て少し何かを考えた棗だったが、すぐにエーミリオの手を取り、逆に引っ張るようにして通路を走り出した。
    「うん、うちほかの水槽とかもみてみたいっ」
     互いに想う気持ちを込めて、つないだ手をぎゅっと握る。
    「誘ってくれてありがとぉ、今日はすごく楽しかったんよ。またこうして、一緒にあそぼな」
    「おう、また遊ぼうぜ!」


    「おもしろかったねー、もっといっぱい見せてくれればいいのに」
     イルカショーの興奮がまだ収まらない在雛は、いつの間にかショップで買っていたイルカのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめている。
     亜樹達は順路に沿って水槽や展示物を見て回っていた。
    「あ、このトンネル♪ さっきは探すのにいそがしかったから、もう一度みたかったんだ」 水槽の中を通り抜けるトンネル通路から見える様々な熱帯魚の姿に、亜樹は透明な壁に手をついてほわーっと眺め入いる。
    「……うわぁ」
     ショーの間気絶しそうになるまで抱きしめてきた在雛を警戒して少し離れて歩いていた迷子だったが、まるで海の底から魚達を覗いているような幻想的なトンネルを見上げて、思わず声をもらした。
    「すごいね、小梅」
     胸に抱えた霊犬の『小梅』に語りかけながら、迷子は魚の踊る水の中に見入っていた。
     目を輝かせて楽しそうに走り回りながら水槽を見ていたひさめは、先行してトンネルの奥まで走っていくと、振り返って両手を振った。
    「この先にもいろいろありますよー、早く行きましょうー」


     パノラマ大水槽の中ではイワシの群れが光を反射しながらダンスを踊っていた。
     そんな光景を嬉しそうにはしゃいで指さすましろと、そんな彼女を優しく見守る倭。
     ショーが終わった後、倭はそこから先は邪魔しないよう仲間達に警告して、ましろを誘って大水槽へと手をつないでやってきたのだ。
     水族館でもショーの間でも、ましろだけでなく多くの人が楽しんでおり、それを守ることが出来たことに、倭は深く満足していた。なにより、隣でましろが笑ってくれていることが嬉しかった。
     ましろはそんな倭の気持ちを察して、精一杯つま先立って背伸びをし、倭の耳元でそっとささやいた。
    「すてきな思い出、ありがとう……大好き、だよ」

    作者:ヤナガマコト 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 4
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