臨海学校~博多のビーチは死の香り!

    作者:海あゆめ

     ここは福岡県、福岡市の博多湾。
    「いっくよ~! そ~れっ!」
    「あははっ! ちょっと、どこ飛ばしてんの~?」
     ビーチボールで楽しく遊ぶ水着の女の子達。
    「ね、背中に日焼け止め塗ってくれる?」
    「ああ、いいよ」
     パラソルの下で寛ぐ、ラブラブカップル。
    「わーい! カキ氷だー!」
    「こらこら、あんまり走ったら落っことしちゃうぞー」
     海の家では、家族連れの笑顔が、あの空の太陽のようにキラキラと輝いている。
     夏真っ盛りの今、博多湾のビーチは今日も大賑わい!
    「も~、もうちょっと狙って打ちなさいよね~……あっ、すみません」
     波打ち際に落ちたビーチボールを追っていった女の子は、そこにいた若い男達のグループの中に入っていってしまったのに気がついて、ぺこりと小さく頭を下げた。
     頭を下げながら、女の子は怪訝な顔をする。
     この男達は、海に来ているというのに、皆、真っ黒なパーカーのフードをすっぽりと被っていて、何だかひどく暑苦しそうな格好をしていた。
     その妙な男達の中の一人が、ひょい、とビーチボールを拾い上げる。
    「……これ、キミの?」
    「あ、はい、すみません、ありがとうございま……」
     ボールを受け取ろうと手を伸ばした女の子の目が、驚きに丸くなる。
     男の手の中にあったビーチボールが、バスっと鈍い音を響かせ、見る見るうちにしぼんでしまったのだ。
     それだけではない。ぺちゃんこになってしまったボールの後ろから、キラリと光る何かが見えた。
     ナイフだ。
    「ひっ……!」
     一瞬にして引きつった表情へと変貌した女の子を前に、3人の男達はニヤニヤと憎たらしい感じの笑みを浮かべる。
    「ねえ、知ってる? 俺達はね、特別なんだ」
    「だから、こんなことをしても許される……!」
    「そう! これからキミも、このボールみたいにしてあげよう!!」
     大きく振り上げられたナイフの刃が、太陽に反射して光を放った。
     ついさっきまで笑い声に満ちていたはずの博多湾のビーチに、今、恐怖の戦慄が走る……!
     

    「夏休みといえば~! 臨海学校~っ!!」
     テンション高めにそう叫んだ、斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)が、何を思ったか着ていた制服を勢いよく脱ぎ去った。
     夏休み中の空き教室に衝撃が走る!
     かと思いきや。
    「にひっ♪ みてみて、可愛いでしょ~? この間買ったばっかりなんだ~♪」
     中に着込んでいたらしい、あっという間にセパレートタイプの水着姿になったスイ子は、悪戯っぽく笑いながらそのまま空いてる席に腰を下ろした。
    「や~、じつはね、臨海学校でどこ行こうって話になった時に九州の名前が挙がってたわけなんだけど……そこでね、おっきい事件が起きることがわかっちゃったの~」
     そう話すスイ子は、水着姿も相まってか、どうも緊張感に欠けている気がする。大丈夫なのかと心配そうな顔をする灼滅者達に、彼女はヘラっと呑気に笑い掛けてきた。
    「うん、あのね、大丈夫だよ。大規模っていっても、今回事件を起こすのは普通の一般人だから、灼滅者のみんなになら、ちょちょいのちょいで事件解決できちゃうよっ♪」
     ばちこん! とスイ子は灼滅者達に向かってウインクを飛ばしてみせた。

     今年の武蔵坂学園の臨海学校当日。福岡県、福岡市の博多区で、一般人達による無差別連続殺人事件が起こるという。
     一般人による事件ではあるが、実はこの事件の裏には、組織的なダークネスの陰謀がある……らしい。
    「せっかくの楽しい夏休みだもん。殺人事件なんて起きちゃったら台無しだよね。そこで! お休み中たいっっっへん恐縮ですが! 楽しい臨海学校を守るためにもね! 事件の解決、お願いします!」
     ビシッと敬礼してみせたスイ子が予測で捉えたのは、博多湾のビーチで、3人の若い男がナイフで無差別に人を襲う事件である。
    「その男の人達はね、なんか、こう、カードみたいなのを持ってるらしいんだよね。おかしくなっちゃたのはそのカードのせいっぽいの」
     その問題のカードを取り上げれば、男達は直前までの記憶を失い、気絶する。騒ぎが起きる前に男達を取り押さえ、カードを奪ってしまえば事件は無事解決するだろう。
     なるほど。確かによっぽどのことがない限りは簡単な任務のようだ。
    「その人達、ビーチなのに真っ黒なパーカー着て3人でつっ立ってるから、探すのも楽だと思うよ。あとは~、うん、そうだね。みんなにはさ、便利な能力がいろいろあるんだし、上手くやれば戦うとかしなくても大丈夫かもね♪」
     よろしくお願いね、とスイ子はねだるような仕草で小首を傾げた。
     まあ、確かに、ビーチに遊びに来ている他の一般人達もたくさんいる。なるべく騒ぎを起こさないようにして解決するのが最善だろう。
    「事件が無事解決したら、その後はみんなで海水浴、思いっきり楽しんじゃおうね! なんか、敵組織のこととかカードのこととかは全~部後! その場でどうこうできる問題でもないし、ね?」
     にひひ、と笑ってスイ子は立ち上がり、机の上に片膝を掛けてポーズを取ってみせる。
    「あたしももちろん行くよ~。事件解決までは安全なとこでこうしてセクシーポーズでも取って待ってるからさ、終わったら一緒に遊ぼうねぇ」
     一瞬、だけど誤魔化せない沈黙が走る。
    「……うん。あのね? そろそろ突っ込んでもいいんだよ?」
     途端に恥ずかしくなったらしい。スイ子はいそいそとポンチョ型になったバスタオルをすっぽり被って赤くなった顔を覆った。

     ともかく、せっかくの臨海学校だ。サクッと事件を解決して、みんなで海水浴を楽しもう!


    参加者
    古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    伊奈波・白兎(妖怪骨髄喰らい・d03856)
    真月・誠(道産子くせっ毛ガキ大将・d04004)
    椿・深愛(ピンキッシュキャラメル・d04568)
    多々良・鞴(ぼんやりぼんぼやーじ・d05061)
    巴津・飴莉愛(白鳩ちびーら・d06568)
    羅睺・なゆた(闇を引き裂く禍つ星・d18283)

    ■リプレイ


     賑わいをみせる、シーズン真っ只中な博多のビーチ。今日、ここで、恐ろしい殺人事件が起こるという。
     現場に辿り着いた灼滅者達は、さっそく手分けをして事件を起こそうとしている犯人達の捜索を開始する。
    「まぁ~このクソ暑いのによくやるよね全く」
     パタパタと手で顔を扇ぎながら、伊奈波・白兎(妖怪骨髄喰らい・d03856)はテレパスを駆使して付近の捜索にあたった。
    「こぉ~ら、何処見てるの~? えっち」
    「み、見てねぇってば!」
     時折、悪戯っぽく、真月・誠(道産子くせっ毛ガキ大将・d04004)をからかって。
     こんな感じに、灼滅者達がいつもよりリラックスして作戦にあたっているのには訳があった。
     今回、事件を起こそうとしている犯人は、ダークネスではなくただの一般人。犯人を見つけてしまえさえすれば、灼滅者達にとって彼らを取り押さえる事はあまりにも容易いのだ。
    「……! あっ、あそこっ!」
     一方、プラチナチケット効果で監視台の上にちゃっかり登っていた、椿・深愛(ピンキッシュキャラメル・d04568)は、何かを見つけて指を差す。
     波打ち際に、黒いパーカーをがっちり着込んだ若い男が三人。楽しそうに遊ぶ人々の中で、じっとつっ立っている。
    「黒さん達がいるんだようっ!」
    「あれは……間違いありませんね! 皆に連絡します……!」
     監視台の下で待機していた、多々良・鞴(ぼんやりぼんぼやーじ・d05061)が、急いで携帯電話を取り出した。
     幸い、まだ男達に目立った動きはない。
    「わかった、今向かうよ。それじゃ……さあ、行こうか、白焔」
    「ああ……全く、暑いからと頭を沸かさんでも良かろうに」
    「はは、同感だよ」
     携帯電話を仕舞い、走り出す、古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)の後を、御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)も追う。
    「なゆたお兄さん、早く早く!」
    「分かった、分かったから引っ張るな」
     双眼鏡片手に目標を確認しつつ、巴津・飴莉愛(白鳩ちびーら・d06568)は羅睺・なゆた(闇を引き裂く禍つ星・d18283)の手をぐいぐい引っ張って走った。
     捜索を開始してからそれほど時間も経ってはいない。ほどなくして難なく合流した灼滅者達は、素早く黒パーカーの男達を取り囲んだ。
    「動くな!」
    「ひっ!」
    「な、何だいキミ達は!?」
    「こっ、この特別な僕達に何か用っ……」
     王者の風を纏った誠の一言に縮こまる男達。なゆたは呆れたように浅く息をつく。
    「お前らが特別? 笑わせるな、精々家畜止まりって所か」
    「な、何の話だい……?」
    「つまり、悪いのはお前達が持っているカードを作った者で、お前達は利用されているということだ」
     はぐらかそうとする男達を前に、白焔は、なゆたの後に付け足すよう、ズバリと言い放つ。
    「……っ!?」
     男達が、はっとしたような顔でパーカーのポケットを押さえた。おそらく、問題の黒いカードとやらはそこに入っているのだろう。
    「そのカードが悪いんですね? 大丈夫です、皆さんが悪いのではありません」
     改心の光で、清らかに輝く鞴の言葉。
    「今なら間に合います、刃物なんて捨てて海水浴を楽しみましょう」
    「あ、ああ……!」
    「僕達は、一体何を考えて……!」
    「な、なんて事だ……!」
     神々しいものを見るように身を震わせた男達が、がくりとその場に膝をつく。
    「……何処で手に入れたか教えて欲しい」
    「え……?」
     白焔の問いかけに、男の中の一人が首を傾げた。そうして、仲間達を振り返る。
    「な、なあ、どうだったっけ?」
    「さ、さぁ……」
    「……すまない、よく、分からないんだ」
     すっかり綺麗な瞳になった男達が、ポケットから黒いカードを取り出しつつ申し訳なさそうに頭を下げた。
    「ふ~ん? ねぇねぇお兄さん、それ、もっと近くで見せて?」
     ラブフェロモンを纏った飴莉愛が、たじろぐ男達ににじり寄る。ピンク地のビキニについた青いフリルがひらひらと。
    「これ、欲しいなぁ」
    「え、や、でも……」
     幼女に迫られ、ドギマギする男達。何だかイケナイ雰囲気になりつつあるが、これが絶好のチャンスだった。
    「っ、取った~♪」
     一瞬の隙を狙って、飴莉愛は男達からカードを奪い取った。カードを奪われた男達が、その場にバッタリと倒れ込む。
    「気絶したか……」
     男達の体を起こしつつ、白焔は息をついた。
     結局、カードの入手経路などの詳細については、情報を得ることはできなかった。やはり、いろいろ調べるのは学園に戻ってからということになりそうだ。
    「後の事は任せて欲しい。私は、別の場所にいる友人との約束もあるしな」
     気を失っている男達を日陰に運びながら、白焔はそう皆を促す。
    「そうか、なら、お言葉に甘えて……」
     回収した三枚の黒いカードをアイテムポケットにしっかりと収納しつつ、けいは満足そうな笑みをみせる。
     事件の発生は無事に防いだ。次は、思う存分、海水浴を楽しむ番である。


    「深愛ちゃんお疲れ様、怪我とかしてない? 大丈夫?」
    「みあは怪我してないよ、ジャンプだって出来ちゃうくらいにめっちゃ元気!」
     ぴょこたん、と元気に跳ねてみせる深愛に、イヅナは、ほっとしたように笑って目を細めた。
    「ふふ、それじゃあ早速泳ごうか。見て見て、パフェ型の浮き輪を持ってきたんだよ」
    「あっ、それ水コンで持ってたパフェ! みあね、それめっちゃ可愛いって思ってた!」
    「えへ、ありがと。深愛ちゃんの水玉オレンジの浮き輪もすっごく可愛い」
     きゃあきゃあとお互いを褒め合いながら、和気藹々と楽しそうに海へと繰り出していく深愛とイヅナ。
    「いやぁ~終わった終わった。ゴメンね~待った?」
    「事件未然の解決お疲れ様ね。さて、何して遊ぼっか」
     一方、ビーチでは手を振り駆け寄ってきた白兎を労いつつ、御凛がワクワクと目を輝かせる。
     広いビーチ。友達二人で楽しく、かつ盛り上がれる遊びといえば……。
    「あっ、ねぇねぇ、こういうのはどう?」
     何かを思いついたらしい。白兎はいそいそと砂浜に小さな山を作り、その上に旗を立てた。
     一対一のビーチフラッグ対決だ!
    「んっ、やるからには本気で行くからね」
     白のハイレグ紐ビキニから零れんばかりの白兎の胸をジトっと凝視して、御凛は気合を入れた。
     旗から離れ、二人並んで砂浜の上にうつ伏せになる。
    「どうせなら何か掛けよっか。負けた方が海の家の一品を奢るとかどう?」
    「フフフ、いいよぉ、それじゃ、よ~い……ドン!」
     二人同時に、スタートを切る。
    「……っ、やっぱりハンデの差かなっ!」
     僅かにリードし始めた御凛が、にやっと笑った。
    「なんの、まだまだ~! 必殺、巨乳ガード!!」
     負けじと、白兎が御凛に向かってダイブする!
    「きゃーっ! 何それーっ!?」
     旗を掴むその前に、白兎と御凛は二人揃って砂浜に倒れていった。
     照りつける太陽の下、賑やかな海日和。
    「やあ、桜嬢、素敵な水着だね。益々麗しいよ」
    「な、なんかそう言われると、照れ臭いです……♪ あ、そうそう、迦南とアイス買ってきたんですよ。どれにします?」
     けいに紳士的な仕草で褒められて、桜は照れ照れと上機嫌に持っていた袋を広げてみせた。
     袋の中には、いろんなアイスがよりどりみどり!
    「あっ、俺はねー、チョコか苺かー……あ、でもソーダ味もいいな……悩むよねー」
     指をくわえつつ袋の中を覗き込む迦南の横で、けいも、おやおやと目を丸くする。
    「随分たくさん買ってきたんだね……ああ、御機嫌よう、スイ子嬢。スイ子嬢はアイスなら何が好みだい?」
    「え~、なになにアイス? あたし、オレンジかレモンかグレープフルーツがいいー!」
     けいに手招きされて寄ってきた、斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)も加わって、アイス談議に花が咲く。
    「ふふ、そうか、スイ子嬢はシャーベット系が好きみたいだね。桜嬢は?」
    「私はねぇ……バニラとかストロベリーとかチョコレートとか好きですねぇ。あと、レアチーズとかも……」
    「……っ、アイスだと!? おい俺も話しに……あれ?」
     美味しそうな話に釣られて目を覚ました真言は、あり余る違和感にギクリと固まった。
     何だか平衡感覚がおかしなことになっている。自分は、今立っているのか寝ているのか。確か、砂風呂を作って眠っていたはずなのだが……それに、目を開けているはずなのに、真っ暗で何も見えない。これは……。
    「目隠し……だと……!?」
    「やあ、お目覚めは如何かな、姫君。お仕置きの時間だ。覚悟はいいね?」
     けいの、どこか楽しんでいるような声が響いた。
    「え、仕置き? おい、まさか……!?」
    「スイカ割り……これは俺へのミッションなんだねっ? そう、だから仕方がないんだ……決してウキウキなんて……してないんだようー?」
     超絶爽やかないい笑顔で、迦南は目隠しを着け、竹刀を持って歩き始める。向かう先は、二つ並んだ、丸々美味しそうなスイカと、いつの間にか砂にすっぽり埋められていた真言の元……!
    「迦南、三歩位進んで左だ」
    「っ、待て! その方向指示をやめろ! 嫌な予感しかしない!」
    「あ、違う違う! そっちじゃないですよー! もっと右ー!」
    「え、えと、本当はどっちー? ここかなー?」
    「ちょっ、何か掠った!?」
     良い子は真似しないでね! を地でいくスイカ割りゲーム。これも信頼し合う仲間同士ならではなのだろう。たぶん。
    「……そろそろ引き上げるとするか」
     賑やかな仲間達の様子を海に浮かべたゴムボートの上で何となく眺めていたなゆたは、ゆっくりとボートを漕ぎ出した。
    「あ、なゆたお兄さんが面白そうな事してる~。いりあも乗せて~」
     と、そこへ、浮き輪の飴莉愛がパシャパシャと近づいてきた。なゆたは少し困ったようにして口篭る。
    「いや、もうこんなところに用は……」
    「え~、一緒に遊ぼうよ~。そのために来たんだよ? だって今日は臨海学校だもん。波に浮かんで、かき氷食べて、人を砂に埋めて……あ、なゆたお兄さん、もしかして、カナヅチ?」
    「随分とやることがあるんだな……まぁ良い。ここまで来た以上、今更戻る気も起きないしな。それと、言っておくが、僕は別にカナヅチじゃない」
     何だかんだで押し負けた。やれやれ、と苦笑して、なゆたは飴莉愛をゴムボートに乗せてやる。
     ビーチで思いっきり遊ぶのも楽しいけれど、海に入って遊ぶのも楽しい海水浴。
    「おーい、とっととこっちまでこい!」
    「北海道での特訓の成果、見せてあげる」
     遠くで手を振っている誠を目指して。鶫は思い切って海の底から足を放した。
     必死に足を動かす。けれど、向かってくる波が意外と強くて、あと少しが進まない。
    「おい大丈夫か鶫!?」
    「ふふ、ここまで来れたわ。特訓のおかげね」
     顔を上げた鶫は得意顔。
    「おう、おめぇが頑張ってきたのはオレぁずっと見てたからな」
     誠も真っ直ぐに笑ってみせた。
    「あ……」
     その時、釣られて小さく笑顔を返そうとした鶫は、自分を支えている誠の手の位置に気がついてしまう。
    「っ~~!?!? 何処触ってんのよこの馬鹿ッッ!!」
     べちん! と、両手で頬を挟むようにして打ついい音が響いた。
    「なにすんだこのバカつぐ!」
     何のことだか分かってない誠が、抗議の声を上げる。
    「にひっ♪ 君たち、おねいさんの知らない間に大人の階段上っちゃったぁ?」
     ビニールのイルカに跨ったスイ子が、ぷかぷか横切りながらニヤニヤとした笑顔を向けてくる。
    「はっ!? ななな、何言ってんのよ!」
    「ちちち、ちっげーよ! 誰がこんなバカつぐ……!」
     そうして、ぎゃーすか言い合う二人。
    「ごちそうさま~」
     ひらひらと手を振って、スイ子はイルカに跨ったまま海を進む。その途中、特大パフェと水玉オレンジの浮き輪に乗ってぷかぷかしているイヅナと深愛が。
    「あ~っ、スイ子ちゃ~ん!」
    「よかったら斑目先輩も一緒にどうですか?」
    「うん? 二人とも、何やってるの~?」
    「えへへ、えっとね~……」
     口元に手をやって、深愛は悪戯を思いついた子どものように笑ってみせた。
    「今から水かけっこ~っ!!」
    「えっ、わっ、ちょっと待って深愛ちゃんってば~!」
    「ひゃ~っ! あたしも負けない~っ!」
     楽しそうな笑い声と共に、大きな水飛沫が上がった。


    「ふぅ、流石に何本もやったら疲れるわね……少し休憩しない?」
    「うん、そうだね~」
     あれから延々とビーチフラッグ勝負をしていた白兎と御凛は、休憩所の近くまでやってきた。
     この辺りのビーチは、パラソルの下でのんびりする人達や、バーベキューをして楽しむ人達で賑わっている。
     ふと、辺りに漂う、香ばしいソースの匂い。
    「もうすぐ出来上がりますよ。皆さんも、是非一緒にどうぞ」
     鞴が、慣れた手つきで焼きそばを作っていた!
    「魚も釣ってきたッス! これも焼くッスよー!」
     水面が近くの穴場で釣り上げてきたという、新鮮な魚介も加わって。これぞ、海のバーベキュー!
    「デザートのマシュマロもありますよ。これは、最後に炙って食べましょうか」
     さらには、紗綾が串に大きなマシュマロを。アウトドアならではの、外はパリっと、中はとろーりな極上デザートの準備も万端!
     思いっきり遊んだ後は、さすがにお腹もペコペコだ。
    「はい、どうぞ」
    「……ん」
     気だるげにぼんやりしていた、なゆたも、鞴に差し出された出来立ての焼きそばには手を伸ばす。
    「少年~、楽しんでるぅ?」
    「……お前も大変だな、こんな下手すれば自分も殺されるかもしれない場所で海水浴なんて」
     隣に腰掛けてきたスイ子に、なゆたは少しだけ呆れたように目を向けた。
    「どうして? あたし、みんなのこと、信じてたよ♪」
     それに、スイ子はへらりと笑って返す。
     事件の発生を未然に防いでくれた灼滅者達がいたからこそ、エクスブレインのスイ子だけでなく、この博多のビーチで楽しむ人々の平和は守られたのだ。
    「ねー、スイ子お姉さんセクシーポーズ見せて見せて~」
    「えぇ~? それじゃ、ちょっとだけよ~♪」
     作戦遂行を頑張った飴莉愛のお願いにも、ノリノリで応えるスイ子。
    「わ~い、スイ子お姉さんセクシー」
     飴莉愛も、大喜びだ。セクシーの意味を分かっているかは謎だが、大喜びだ。
     何だかんだ、皆で楽しく過ごす臨海学校。
    「臨海学校、ぎりぎりでも参加を決めてよかったです。来年もまた皆さんと来られますように……あ、事件のほうはいらないです」
    「あはは、そうですね」
     事件がなければもっと良かったかもしれない。来年に向けて祈る紗綾に、鞴は思わず苦笑した。
     けどまあ、先の事を心配しても仕方がない。
    「あ、そうだ。オラ、線香花火いっぱい持ってきたッスよ!」
    「いいですね、皆で勝負しましょうか」
     夜になれば、浜辺で花火も楽しめるだろう。
     そう、今は、今年の臨海学校を思いっきり、全力で楽しまなければ!

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 3
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