臨海学校～博多の浜辺でバーベキュー！

■リプレイ

●白昼の悪夢
「たく、やりづらいな。今回は」
　デイキャンプ場に到着し、開口一番発せられた台詞。声の主は九条・龍也（梟雄・d01065）である。
「折角の臨海学校だってのにダークネスの奴等、はた迷惑な事しやがるな。ぶっ潰してとっとと海を楽しむとすっか」
　彼に頷き、言葉を返したのは隣に控える不動・嵐（喧嘩暴風・d12445）。手のひらに拳を打ち付けて、ぱぁん、と小気味よい音を響かせる。
「博多とはずいぶん物騒なところなのですねぇ。え？　違うと？」
　どこかズレた感想を漏らすのは加賀峰・悠樹（惨劇の視聴者・d05633）。少なくとも、今このデイキャンプ場で和気あいあいとバーベキューを楽しんでいる集団の中には、危険は欠片ほども感じられない。皆笑顔で、楽しそう……幸せそうだ。
「悲劇を起こす訳にはいかないね。止めるよ」
　それを目にして、決意を新たにする九条・茜（夢幻泡影・d01834）だった。
「さっさと終わらせて、バーベキューを楽しむのです～♪」
「さっさと片付けて、肉を食おう。閃も待たせているしな」
　タイミングよく、似たようなことを言い放った板倉・澪（いつもしろちゃんと一緒・d01786）と、前田・光明（中学生神薙使い・d03420）。二人は、目を見合わせて笑いあった。
「事件も解決スル、臨海学校も楽シム。両方しなければいけないのが灼滅者の辛いところデスネ。サア、とっとと解決してバーベキューを楽しみマショウ！」
　金剛・ドロシー（ハイテンション系特攻娘・d20166）がバーベキューを先に楽しんでいる家族連れの一角を指差すと、偶然にもそこから悲鳴が上がった。よく見れば、女性が包丁を振り回している。
「始まりマシタカ……頼みマスヨ、みなさん」
「早速来たか。……行こう」
　ドロシーが、そして雨月・京哉（雨止まずとも歩みは止めず・d11691）が闇を纏い、気を引き締める。
　作戦が、始まった。

「ふにゃ……」
「おっと」
　浜に倒れこむ、カッターナイフを持った小学生。龍也が彼を受け止め、近くの休憩所へと運び込む。
　既に一人が捕獲され、再び暴れ出さないようロープで縛りつけられていた。閃の未来予知によれば、残るは四人。
　広いキャンプ場に魂を鎮める風が行き渡るよう、茜と光明が手分けして加害者、被害者問わず一般人を眠らせにかかっていた。
「何をしている！」
　光明が、サバイバルナイフを構えている男性に向かって王者の風を吹かせる。
「……！」
　そして怯んだところに、同時に魂鎮めの風を。襲われていた周辺の一般人ごと、男性は眠りについた。
「そっちはどう？　板倉くん」
「皆無力化なのです～♪　茜お姉さん～♪」
　茜や光明の手の回らない所は、澪が王者の風で無力化を図っていた。
　そして。
「何で皆して眠るのよ？　まぁ刺すのには好都合よね～」
「そうは行かないぜ」
「しばらく眠って頂きます」
「うっ──」
　包丁を振り上げる女子高生に、闇纏いで背後から近よった嵐が彼女を羽交い絞めにし、悠樹が首筋へ手加減した一撃。女子高生は一瞬で気絶した。
「おおぉぉぉ、無性に殺したいぞぉぉ！」
「ご老体に無茶は禁物デスヨ！」
「爺さん、年は弁えようぜ……」
　同じように、忍び寄ったドロシーが老人を拘束し、京哉が一撃を加える。これもあっさり昏倒。
　デイキャンプ場のほとんどが制圧された時、巻き起こる殺気の暴風。その気は一瞬だったが、いくら殺人衝動に捉われているとはいえ、並の一般人が発せられるものではなかった。明らかに、手練れの気配。
「ひっ……」
　それに怯んだ最後の暴漢と化した者が、思わず逃げ出す先に回り込んでいたのは、龍也。
「おら、大人しくしてろ」
「う、うるさい！　お前から、死ねぇぇ！！」
　ナイフを手に突っ込んでくる男性に対し、その勢いを逆に殺さぬまま利用して鳩尾に一発。こちらは手加減を加えているので、ほぼ突進の力のみで気絶させられた。
「あんま世話焼かすな」
　こうして六人の人々が無力化、拘束された。

　デイキャンプ場の客がほぼ全員眠らされ、休憩所から幾許かの人払いもされた後、拘束された六人は一人ずつ起こされて尋問された。
「殺すコロスころす！」
「はーっはっはっは！」
「離せよこの野郎！　俺は人が死ぬのが見たいんだよぉ！！」
　等々、まともな反応は返って来ず、到底会話にならなかった。
　仕方ないので件のカードを探して取り上げる。大体がポケットか、財布の中に入っていた。『ＨＫＴ六六六』と書かれた黒いカード。
　カードを取り上げられると、その者は気絶してしまうので、再度起こして尋問する。しかし、
「何で私、こんな縛られてるの？」
「痛ぇ……」
「何じゃ、それは？」
　直前までの記憶を失っていて、またどこで手に入れたかの記憶も曖昧、当人同士の共通項も見つからず。
　結局、ただ解放するしかなかった。
　解放されると、彼らはちょっぴり特別な日常へと戻っていく。
「ミッション、コンプリートデスヨ！」
　大きく跳ねてＶサインするドロシー。
　一方、眠らせたり無力化した人々への対処に当たる京哉。テレパスで相手の表層心理を読み取りつつ、会話で丸め込む。
「ふふふ、実はオレたちは悪い奴をやっつける正義の味方なのです。今回は罪もない人たちを操って凶悪な事件を起こそうとする、敵の野望を阻止するために駆けつけたのです！」
　事実は小説よりも奇なり。または、嘘には適当に真実を織り交ぜた方が真実味を増す（今回はほぼ真実だったが）。どちらが効果的に働いたのかは人それぞれだったが、大抵は笑い飛ばしてくれる。
「やだー、何それ」
「とにかく君たちみたいな可愛い子に怪我がなくてよかった」
「そんな可愛いだなんてー」
　問題があるとすれば、彼の話しかける対象が若い女性に限られていたことだろうか。
「このカード、一枚頂いてもいいですかねぇ」
「駄目だよ」
　カードの入手経路や影響に興味を示す悠樹だったが、背後から閃に声をかけられて、懐に収めかけたカードを取り出す。
「それは学園に戻ってから分析なり何なりするから、ちゃんと提出してね」
「はい……」
「早い到着だったな」
「未来予測に従っただけさ。兎も角、皆お疲れ様。臨海学校に来た他の皆も連れてきたから、後は一緒に臨海学校を楽しもう！」

●夕刻の臨海学校！
　デイキャンプ場の他の集団も、バーベキューを再開していた。
「よーし、焼くぞー！　食うぞー！！」
　龍也は牛肉、魚、エビ、貝をクーラーボックスに入れて持参。貝は真水につけて内臓から砂などを取り、エビは塩水で洗い背ワタを取り、殻を剥く。牛肉は薄くスライスし、魚は三枚におろして小骨を取る。主夫属性全開、恐るべきスピードで下ごしらえを進める。
　春翔、杏月、響の三人は、パラソル立て、野菜の処理、火起こしを引き受ける。
「鵜島さん、良かったら野菜を切っていてもらってもいいですか？」
「食材を切ればいいのですね？　了解しました。……野菜の切り方がわかりませんね、テレビなどで見るのは輪切りだったでしょうか」
「そうそう、輪切りでいい……杏月、手ぇ切らないようにな？」
　杏月はそれに頷き返した後、危なっかしい手つきながらも、黙々と作業をこなしていく。
　一方、巨大な塊肉と対峙していたのは千草。それを見ている歩夏と茜。
「慌てて来たので調理用刃物がありませんね」
「じゃあこれ使って。暴れてた人から回収した包丁の一本だけど……綺麗に洗ったから大丈夫！　多分」
「ありがとうございます、茜さん」
　いいのかそれで。
　ともあれ、肉を捌きにかかる千草。
「白いラインに沿って横から刃を入れれば、ほら」
　すっと、大した力も必要とせず、包丁が肉を綺麗に両断する。
「実は粗暴さがあった方が味にも深みが……いえ失礼しました」
　ちろりと本性が。
「ここをこうやって……完成なのです～♪」
「うわぁ、おいしそう……」
　一方、不慣れな手つきで健闘していた澪。鉄串に野菜と肉を刺していくが、やっとのことで一本完成。親友の奏もそれを見て瞳を輝かせ、二本目からは自分も手伝う。
　そして日向では、緋衣が巣作りで巨大なスペースを確保しようとしていた……が、邪魔になるのと、景観が良くないとの理由で一般客から遠巻きにされてしまった。何より、十人しか入れない。
「無理なら仕方ない」
　と、地道にブロックを積んでかまどから作っていく。そしてカートリッジ式のコンロで飯を炊き始めた。
「ＯＨ､ヒゴロモさん、準備お疲れ様デスネ！」
　そこへドロシーも駆けつけ、作業を手伝う。
　もう一つのかまどを作り、火起こしを始める春翔と響。
「あっちーな……肉が焼ける前に俺が焼けるぞ」
　木片から火を起こしていく本格派。
「ボクたちじゃ危ないので、閃お姉さんもお願いなのです～♪」
「僕でいいのかな？」
　と言いつつ、澪にせがまれてやる気の閃。貸し出されたライターがあったので火起こしはあっという間だったが。
「ありがとうなのです～♪」
「ライターだと！？」
「君達ももう少し楽に出来たんじゃない？　連れの杏月さん……」
「……ファイアブラッド！」
　愕然とする男二人。
「何となく楽しそうですので、問題ないと判断しておきました」
「まぁ……確かに鵜島さんのお力を借りれば楽だったでしょうが、こう言うのは場の雰囲気ですから」
　切った野菜を運んで来た杏月に、穏やかに答える春翔。一人絶望する響。
　そして鉄板や金網では、野菜が、肉が焼かれ始める。香ばしい匂いが立ち込めた。
「えっと、まだ食べてダメなの？」
「まだよ西園寺くん……今！」
　奏と澪が見守る中、茜は絶妙なタイミングで野菜や肉を皿に盛りつけていく。彼女が世話役に回ってくれたおかげで、皆に均等に肉と野菜、魚介類、そして麦茶が回る。
「エー、皆さんお肉とお茶は行き渡りマシタカ？　それでは皆さん、ワタシたちの今後の友好を願ッテ、カンパーイ、デス！！」
「かんぱーい！」
「乾杯」
　ドロシーの合図で皆が紙コップを掲げ、または軽くぶつけ合い、麦茶を一気に飲み干す。
「皆さん、こちらもどうぞ」
　そう言って悠樹が取り出したのは、調味料の数々。塩コショウ、バーベキューソース、醤油、激辛ハバネロソース、激辛辛子粉末、激辛豆板醤などなど。悠樹自身の好みで、辛いものが多い。
「わー、美味しそう」
「いただきまーす！」
　一斉に食べにかかる面々。
「真夏に海辺で食う肉は最高だな。量は足りてるか？」
　光明も色々と世話を焼く。
「熱中症に気をつけて水分もしっかり取れよ。スイカを切ったからここに置いておくぞ」
「ありがとう。前田くんも食べてね」
「ああ」
　茜と交し合う視線は、場を取り仕切る者同士特有のもの。
「龍也、これも焼こうぜ」
「お、いいな」
　嵐が取り出したのは大きな骨付きリブロース。それを金網に乗せると、皆も盛り上がる。
　と、その陰に隠れて小さく龍也が、
「ほれ、嵐。あーんしろ」
　とちょっとからかい半分に肉を差し出す。嵐は顔を真っ赤にして周囲を気にし、こそっと食べる。
「……ん……相変わらず美味いな。龍也のはよ」
　咀嚼した後、今度は嵐から龍也へ、焼けたリブロースで「あーん」のお返し。龍也は嬉しさを隠さず、それを受けた。
「せ～ん～ちゃ～んっ！」
「お姉さんも一緒にバーベキューしようです～♪」
「あ、うん」
　ちょっと日陰でもぐもぐしていた閃を、ライアと澪が皆のもとへ引っ張っていく。陽射しはキツい、でも気分は最高だ。
「そうだな。これも最高だ！」
　と食べながら親指を上げる実里。閃はそんな彼に、黙って親指を上げて返した。
「杏月は嫌いな物ないか？　あったら春翔の皿に入れろよ」
「問題ありません、好き嫌いは特にありませんので」
「鵜島さん、此方も焼けてますよ」
「脱水症状起こしたら俺が怒られるから、春翔も肉もだけど水分とれよ！」
「水分補給は此方のセリフです」
「……咲宮さんと朝間さんは、仲が良いのですね」
「春翔と俺は幼馴染だしな。けど、杏月とも仲良しだからな？」
　軽口の中で出てくる、本音の言葉。響の発言に苦笑しながら、静かに頷く春翔。そして杏月は、ただ頷いて肉を口に入れた。
「茜がバーベキューの準備をしてくれたから、アナはバーベキューを楽しむだけだね」
　アナスタシアは、仕切る茜に感謝をこめて手を合わせると、肉をひょいひょい取り始めた。すると肉ばかりが取られた皿に、どかどかと重ねられる野菜。
「野菜もちゃんと食べないとね」
「……はい」
　一方、真面目な会話も片隅では見られた。
「無事にカードが回収出来たみたいで、良かったね」
「はい。敵の狙いを探り、怪しげなカードの分析をする、やるべきことは山のようにございます」
　歩夏と、これからのことを話し合う千草。
「ただ、今警戒しなければならないのは、自分が育てた肉をひとに奪われないことでしょうか」
　ぎらり。視線が閃くと、千草の前の肉を取ろうとしていた者がびくっと手を退かせる。
「最後のデザート用にマシュマロを持ってきたよ。マシュマロを軽く炙って食べると、外がコンガリ、中がトロトロでスゴく美味しいよ」
「おお、それは良い！」
「アナちゃんでかした！」
　早速、金網の上で焼き始める面々。マシュマロは一瞬で焦げるので、焼きすぎ注意。
　そんなこんなで、バーベキューは盛況のまま幕引きとなった。

「オレ達もバーベキューしてその後遊ぶ予定なんだけど、一緒に遊ばない？　メアド交換しよー？」
　皆がひたすら食べていた脇で、ひたすらナンパに興じていた京哉。光明が最小限注意しながら「元気だな」と笑っていたが、そんな風に誘われた一般人女性達が集団に加わった。
　その後の遊びとは、一部の者が用意してきた花火。そして京哉は、大量の浴衣を用意していた。閃にまで白地に朝顔柄の浴衣を差し出す始末。
「女物はちょっと……」
「可愛い浴衣姿が見たいのです！　着てくれない？」
「……今回だけだよ」
　これもお祭り騒ぎの一環、と閃も承諾。思えば、武蔵坂学園へ来てから初の女装（？）だった。
「ふふ、綺麗。似合ってるよ。君達もねー！」
　手を振る先には、こちらも浴衣に着替えた女性陣。
　六威は最初から和装だったが。彼女はナイアガラ等の大きな仕掛け花火から、線香花火まで色々用意していた。
（「京哉……」）
　彼に対しては色々と思うところがあるようで、常に三歩後ろに付き従っている。ただ、バーベキューも、花火も、そのすべてが、真新しく、楽しかった──そう六威は後に語る。
　同じく、蒼い生地に白の百合をあしらった浴衣を着て、髪をサイドアップで纏めたライア。端の方で線香花火をしていると、閃が寄り添ってきた。
「僕も、こっちの方が好きかな」
　ド派手な光、小さな瞬き。どちらも同じ、限られた煌めき。
　だからこそ、精一杯輝いて行こう。この戦いの日々を、学園生活を。──人生を。
　後から線香花火でシメに移ってきた皆も共に、誰もが実感するのだった。

作者：天風あきら	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年8月23日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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