臨海学校~出張RB団、戦慄の肝試し

    作者:相原あきと

    「さぁ、今日の夜だけついにお披露目! リアル肝試し『戦慄倉庫街』、町内会の有志で作った本日限りのイベンドだ!」
     夕方の海岸、海岸に遊びに来たお客さん達にビラを配るのは、有志で集まったイベント企画者たちだ。
     海岸横の漁港倉庫街、その使っていない倉庫3棟を舞台に巨大な肝試しのやろうと誰かが言い、そんなこんなで本日公開されるらしい。
    「へぇ……でも学生の手作りお化けとかだろ?」
     ビラを貰ったおじさんがケチをつける。
    「いやいや、お化け役は全員『人』がやりますからね、薄暗い中を懐中電灯1つで進むのは怖いですよぉ?」
     暗闇の中で、リアルで驚かされる、つまりはそういう肝試しだった。

     夜18時過ぎ。
     『戦慄倉庫街』の倉庫内の暗がり。
     ゾンビの格好をした幾人もの若者達がブツブツと焦点の合わない目でつぶやいている。
    「おかしいな……リア充来たら全力で驚かそうと思ってたのに……今は……」
    「ああ……なんだか……驚かすより、すげー……殺したい……」
    「まったくだ……はりきりって……ころしたい……」
    「かゆ……うま………………ちがう……殺し、たい」
     うち一人がポケットから黒いカードを取り出す。このカードを手に入れてから、まるで解放されたように気分がよかった。
     男が再びカードをポケットにしまう。そのカードには『HKT六六六』と書かれていた。

    「みんな、もうすぐ臨海学校があるのは知ってるわよね?」
     集まった灼滅者達に鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が聞く。
     もちろん知っていると答えるきみたちに、珠希は「実は臨海学校で行く九州で大規模な事件が起こりそうなの」と説明を開始する。
     それは普通の一般人が殺戮衝動にかられて殺人事件を起こす事件らしい。かなりの人数が事件を起こすとの事だが、ダークネスや眷属、強化一般人では無いので解決は難しく無いだろうとの事だ。
    「でも、この事件の裏にはダークネス組織の陰謀があると思うの……」
     敵組織の目的はわからない、けれど無差別大量殺人を放っておくわけにはいかない。
     殺人をおかす一般人は、何かカードのようなものを所持しており、それに操られて事件を起こす。
     つまりカードを取り上げれば簡単に事件は解決できる。
     一般人はカードを取り上げた時点で直前までの記憶を失って気絶するようなので、あとは適当な場所に運んで寝かせておけば大丈夫だろう。
    「相手は一般人だから、いつもみたいに危険な戦闘とかしないで大丈夫よ。ESPとかも効果あるから上手い方法を考えれば、効率的に対処できると思うわ」
     珠希はそう言うと、集まった灼滅者たちに対処して貰いたい一般人たちの説明を行う。
    「みんなに行って貰うのは博多にある倉庫街よ。そこで有志のお化け屋敷イベントが行われるんだけど……そのイベントのスタッフ全員がカードを持っているの」
     スタッフは20人いるらしく、みな倉庫のイベントの準備中らしい。
    「倉庫は3棟あって、倉庫内に全員いる事は確かだけど……」
     珠希が言うには、3棟ある倉庫内に20人がバラバラにいるらしい。
     下手に騒ぎが起これば倉庫から逃げたりする可能性もあるので、その点だけは注意との事だ。
     ちなみに、回収したカードの分析等は学園に帰ってきてから行う事になるので、そこは気にしないで良いらしい。

    「それと……実はもう1つお願いがあるんだけど……」
     そう言うと珠希はちょっとばつが悪そうに語る。
    「そのイベント、倉庫3棟を改造してお化け役もスタッフがやる、リアルなお化け屋敷的なものみたいなんだけど……事件を解決してもスタッフが気絶しちゃうし、ちょっと間に合わないかもなの……」
     倉庫を借りれるのもその日だけのようで、事件のせいで中止になっちゃうのはスタッフさんたちが可哀そうだと。
    「だから、事件解決後は、そのお化け屋敷をみなで手伝ってあげれないかな? もちろん、お客さんとして楽しむのも良いと思うし、学園の生徒に宣伝もしておくわ」
     珠希的にはこの未来予知をしてしまってから、何か責任のようなものを感じていたのだろう。
    「ま、それに……ほら、臨海学校で肝試し……定番、でしょ?」


    参加者
    シルビア・ブギ(目指せ銀河ヒーロー・d00201)
    神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)
    那賀・津比呂(最も低い・d02278)
    霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)
    柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025)
    鮎宮・夜鈴(宵街のお転婆小町・d04235)
    素破・隼(お調子者の白隼・d04291)
    神座・澪(和気愛々の癒し巫女・d05738)

    ■リプレイ


    「えへへ、みんなに差し入れや~♪」
     紅白のハート型マイクロビキニを着て、手作りのハート型アイスをスタッフに配るのは神座・澪(和気愛々の癒し巫女・d05738)、ラブフェロモンの効果もあってスタッフ達が次々にアイスに手を伸ばす。
     いつもの世紀末な格好をした神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)がプラチナチケットを使い、有志で集まった同志のふりをして倉庫内のスタッフを集め、澪が魂鎮めの風で一気に眠らせる作戦だったのだが、澪は全てのスタッフにハグして骨抜きに(澪曰く愛なのだが)していた。
    「あの……神座さん、そろそろ」
     三成が急かすと澪はこくりと頷き、魂鎮めの風を発動させる。
     優しく風が吹き抜け、その倉庫にいたスタッフ6人がバタバタと眠り込む。
    「ごめんな、エエ夢見てな?」

     三成や澪とは別の倉庫担当の鮎宮・夜鈴(宵街のお転婆小町・d04235)は、雪女の格好しアイス満載の手押し車のそばで雪見な大福を食べていた。
     すると一緒にこの倉庫担当の素破・隼(お調子者の白隼・d04291)が、倉庫内のスタッフを引き連れてやってくる。
    「雪女印のシングルアイスはいかが? ひんやりして行って下さいませ」
     集まったスタッフ5人が嬉しそうにアイスを食べ始める。
    「この倉庫はこれで全員だな」
     隼が三成から受け取っていた倉庫の地図を仕舞いつつ夜鈴に言うと、夜鈴が魂鎮めの風で5人を眠らせ、隼がカードを回収する。
     そしてコホンと空咳をする隼。
     今回の班分け(夜鈴と2人っきり)を決めたのは隼であり、つまり。
    「夜鈴、もし良かったら一緒にお化け屋敷を……」
    「あ、もしもし、シルビア姉様ですか? こちらは終わりました。そちらは……」
     夜鈴、電話中。
    「(電話口を抑え)……あの、何か言いました?」
    「……イヤ、ナンデモナイでゴザル」

    「こっちは大変な事になっておる!」
     シルビア・ブギ(目指せ銀河ヒーロー・d00201)が夜鈴の電話に出つつ、ナイフを持って襲いかかってくるスタッフの攻撃をひらりと避ける。
     プラチナチケットを使ってスタッフ9人を集める所までは順調だったのだが……。
    「最近黒いカードって流行ってンの? 持ってる人みせてくんない?」
     そう那賀・津比呂(最も低い・d02278)が聞くも、逆に「なんで?」と聞き返され言葉に詰まる津比呂。
     柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025)が差し入れのアイスを渡して間を取り。
    「実は『HKT六六六』と書かれた黒いカードはやばい物らしくてな、持っているならすぐに捨てた方が良い」
     そう説明すると何人かが、コレのことか? と黒いカードを取りだす。
     持ってる事は確認した。あとは――と、津比呂がパニックテレパスを発動させる。
     そして……5人がその場でカードを投げ捨て気絶するが、残り4人はパニックのまま走りだしたのだ。
    「とりあえず切るのじゃ!」
     そうシルビアが携帯を切り、走りだした4人に叫ぶ。
    「逃げると殺されるぞ! まずはカードを捨てるのじゃ!」
    「あああ!?」
     その4人はかぶり物をしており、どうやら声があまり届いていないようだった。
    「A棟6人、B棟5人だってさー」
    「4人で最後だな」
     澪達と連絡を取っていた津比呂が人数を確認し、倒れた一般人を介抱していた刀弥が計算する。
    「サウンドシャッターはしておきました……多少の物音は大丈夫です」
     霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)が逃げるスタッフ2人の前に立ち塞がりながら宣言し、すれ違い様に気絶させる。
    「では手加減攻撃で眠って貰うのじゃ! 勘弁せよ、早くコロッケ食べ隊(HKT)の人!」
     シルビアが残り2人を気絶させる。
     こうして、HKT六六六の陰謀は未然に防がれたのだった。
     だが……――。
    「殺気だと!?」
     刀弥が振り返ると津比呂を睨む刑一がおり、その顔には『リア充はデストロ~イ』と書かれていた。

     そう、戦いはこれからが本番なのだ。


     その漁港倉庫街にある倉庫3棟は、今や巨大な肝試しの舞台として飾り付けられていた。
     やってくるお客さんを案内する受付けの少女に、秋山・清美と竹尾・登が話かける。
    「この前一緒に勉強させて頂きましたが、お役に立てたでしょうか」
    「最下位脱出おめでとう!」
     2人に話しかけられた少女、鈴懸・珠希が視線を外して。
    「べ、別に感謝はしてないわ!」
     思いっきりツンケンされた。
    「まぁでも、そこの西瓜、1つ多めに持って行っても良いわ、特別よ!」
    「ふふ、では頂きますね」
    「次も頑張ろうな!」
     清美が微笑み、登が笑う。
     そんな2人の背後をこっそり倉庫の入り口へと進むのは富山・良太と白シーツ姿のお化け。
    「そこの人! こっちに来なさい!」
     珠希に呼ばれ受付にやってくる良太。
    「あれ、富山君?」
    「あああ、結局こうなるのか……」
     2人に近づかないようにと誓っていたのに、初っ端から瓦解する良太。
     ちなみに中君について注意事項を釘刺されました。
     結局、3人揃って中に入って行くが……その混合グループにRB団の目が光ったのは言うまでも無い。
    「ここでは恋人に抱きつかれたりなどせぬ! 恐怖のあまり恋人を捨てて逃げるが関の山なのじゃ!」
     と珠希と共に受付をするのはシルビアだ。お客用の西瓜を(アイス溶けてたので)食べつつ熱弁を振るう。
     さらにナビ役のアイスバーン・サマータイムがリア充な客を案内しつつ。
    「あ、今日はいつもの彼氏さんと一緒じゃないんですね」
     さらりと爆弾を投下していたのだった。


    「い、今、なんか居た?」
     倉庫に客として入った津比呂が灯りの通路で止まり、心許ない懐中電灯で先を照らす。
     そして浮かび上がるトンカラトン。
    「ヒッ!?」
     しかも照らした瞬間、こっちに走ってくる。
    「ちょ、急に来るのとか駄目だから!」
     逃げ出す津比呂、追うトンカラトンに扮した神宮寺・三義。
     さらに後方からチェーンソーの音が追加され、木箱を切り裂きながら赤コート&赤マフラー姿の刀弥も追ってくる。
     灯りは懐中電灯のみ……このお化け屋敷、真面目に怖いと思う。
     まー、そんなわけで。
    「す鈴懸さん、私がそばにいるので、あああ安心してくださいね」
     強引に珠希を連れきて倉庫内を歩くはミリア・シェルテッドだ。裾を掴んだまま珠希を盾にして進んでいる。
    「た、盾にしないでよ! 私も怖いのよ!?」
     珠希が抗議したので並んで手を繋ぐ事に。

     ……げだよ~。

     びくっとする2人、今の声はと後ろを照らすと、バケツを持った蛸頭のワカメ怪人がふらふらと近づいて来る所だった。
    「キャー!」
    「き、きつい!」
     ミリアに抱きつかれ逃げれない珠希。しかしよく見れば蛸ワカメ怪人はアッシュ・マーベラスであり、ほっと一安心。
     するとアッシュの後ろから少し不満げな四季咲・白虎が現れる。
     どうやら気絶した相手にソウルアクセスをし、驚かそうとしていたらしいが失敗したらしい。厳密には睡眠と気絶は違うので判定の結果です。ごめんね。
     ――と。
     ゾクリ。
     感じる視線。
     ゆっくり振り返ると暗い廊下の曲がり角、長い黒髪の女性らしき顔が。
    「きゃあああ――!」
     叫ぶミリア、白虎の手を握って逃げる珠希、慌てて追うアッシュ。
     そして……。
    「心配で見守っていただけなのですが……でも、こういうのも楽しいですね♪」
     アッシュ達が心配でやってきた奥天竜・染が角から現れ呟くのだった。
     戦慄倉庫は光の射さない暗闇を懐中電灯一本で進む方式だ。
     故にお化け役は闇にとけ込む黒か、逆に映える白い服がベターだった。
    「凍らせてあげる……ふふふふふ……」
     雪女に女装した黒崎・紫桜が抱きついてくるモブRB団をからかっていると、ふと廊下の奥に異形の何かが……。
     1歩1歩ゆっくりと、ソレの顔は骨が見え、眼球が垂れ、内蔵が飛び出したまま。
    「ちょ」
     停止する紫桜。逃げ去るRB団。
     そして再びソレを見た時、ソレは四つん這いになっており……。
    「み~つけた~」
     シャシャシャシャシャシャッ!
     そのまま高速で迫って来た。
    「お、俺、お化け役! お化――」
     ダッシュの紫桜。
     そしてソレ――ネタに走らず本気で怖いお化けと化したベル・リッチモンドは、そのまま次々と犠牲者を増やして行くのだった。
     紫桜とベルがそんな状況とはつゆ知らず、2人を探す者がいた。フランメ・バルフェットとキルシュ・バルフェットだ。
    「フラン、怖くない?」
    「こうやってる(腕を組み)から、フラン怖くないよ♪」
     ガタタッ!
    「ひゃっ!?」
     突然のラップ音、周囲で起こったポルターRB現象にフランが声を上げキルシェに抱きつく。さらに――。
     シュッ!
     飛んできた何かを叩き落とすキルシェ。
     パアンッと音を立てて手が真っ赤に染まる。
     見れば廊下の奥から怪人黒マント的な仮面男が水風船を投げながら迫ってくる。冷静に手を拭くキルシェ。
    「フ、フ、フ……」
    「フ?」
    「フリーーーダム!!」
     唐突に奇声を上げて迫る黒マント、もといRB団はラックス・ノウン。
     しかし。
     スパーンッ!
     立ち塞がった紅羽・流希のハリセンによって撃沈。
    「いやはや、その情熱をナンパとかの健全(?)な方向に使えばと……」
     ため息を付く流希は、今度はキルシェ達に向かい。
    「あなた達もです。そんな見せつけるような事をしているから、RB団という悲劇が生まれるのです。リア充も多少は自重して下さい」
     キョトンとする2人。
    「あの、僕たち兄妹なんですが……」
    「りあじゅってなぁに? お兄ちゃん大好きってことぉ?」
     思わず思考停止する流希は、そのままラブラブで進んでいく2人を、ぽつねんと見送るのだった。


    「駄目っ! 駄目って! ってか、なんで蒟蒻!?」
     白い煙と共に現れた小柄な雪女に蒟蒻をぶつけられつつ逃げて行くのは、かなりお化け屋敷を満喫している津比呂だ。
     そんな津比呂を満足そうに見送るのは相談時からこの時を狙っていた刑一。
    「樹里、その調子ですよ」
    「はい!」
     刑一の弟子であり雪女に扮した紫宮・樹里が元気に頷く。
     しかし……。
    「くっ、やっかいなのに見つかりましたね」
     刑一が暗い廊下の先を睨みつけると、闇の中から極小水着のサービス担当……コホン、磯女が現れる。
    「それ以上のオイタはアカンえ?」
     澪だった。
     即座に逃走経路を見極める刑一だが、樹里と共に逃げきれる確率は低い。ならば……。
    「樹里、同志を呼んでくるのです」
     真剣な刑一の顔。
    「負けないで!」
     樹里が頷き去っていく。
    「勝ち負けとか関係あらへん、らぶ&ぴーす&らぶや♪」
    「くっ……」

    「っと、悪い悪い」
     鎧兜を身につけたディーン・ブラフォードが、珠希の眼鏡数cm前で寸止した槍を引き戻す。
    「あ、危ないじゃない!」
    「大丈夫だって、けが人出すような――って、危ねぇ!」
     ディーンが珠希を引っ張ると、その場に何かが突っ込み壁に激突する。
    「リ、リア充は焼却、だ」
     鉄仮面を付けほぼ前が見えていない三成だった。
    「なんというか……よくやるわよね」
     珠希が三成と、鎧兜のまま天井へ登るディーンに向かって言う。
    「こういう事には労を惜しんじゃ駄目なんだ」
     リア充を狩る為にRB団も大変そうだ。
    「一緒に回りませんか?」
     急に後ろから声をかけられる珠希。
     振り向くと番長更屋敷のお菊さんに扮した幌月・藺生がいた。
    「っ!?」
     悲鳴をあげるが藺生だと解り落ち着くと、はぐれて1人だった珠希は藺生と一緒に回る事にする。
     RB活動の話をしつつ暗い倉庫を進む2人、すると。
    「あ、藺生ではないか、そういえばカード回収時のアイスはちゃんとシングルを用意したのじゃ」
     シルビアと合流した。
    「というか珠希、受付はどうしたのじゃ?」
    「信用できる人に代わって貰ったの」

     受付の机には珠希が置いていった本『七の段のコツ』。
     そして受付席には刀弥が座っていた。
     倉庫から出てきた所を珠希に捕まり受付をお願いされたのだが……。
    「ひっ!?」
     刀弥の目付きの悪さにびびり客がUターンする始末。
    「………………」 
     正直凹む。
    「はぁ……」
     苦難は続く。

    「い、今、何か言ったかえ?」
     シルビアの問いに藺生と珠希が首を横に振る。
     しん、と静まった……その瞬間。
    「キャーーーッ!」
     背後から響く悲鳴。
     女子3人が全力で走り去る。
     そして。
    「あっはっは~、皆ビビってたビビってた!」
     内緒で参加していた高橋・雛子が現れる。彼女への文句はシルビアに任せます。
     全速力のシルビア達だったが、途中から水死体女性(実は夜鈴)に追われていた。
    「い、行き止まりです!」
     藺生が注意するも止まれずぶつかるシルビア。
     しかし不思議と壁は後ろへバタンと倒れ伏す。そう、それは塗壁に扮した隼だったのだ。
     気づかず踏み越え逃走する3人。
    「川底は暗くて冷たかったですわ~」
     同様に追いかける夜鈴。
     喧噪が去ったあと――。
    「だ、誰か……起こして……」
     踏みつけられた隼に合掌。


     倉庫内のトイレで風真・和弥は待っていた。
     利尿作用のある西瓜や緑茶は受付で配るようセットしておいた。
     準備は万端。
    「ふっ、楽しい事になりそうだ」
     ほくそ笑む和弥。
     だが考えてみて欲しい。
     キミはお化け屋敷内にあるトイレに入るだろうか?
     和弥は1人、トイレで待ち続けるのだった。
     さて、暗い倉庫を2人の人影が寄り添い歩く。
    「ジョニー、怖いわ」
    「大丈夫さリンダ」
     モブリア充の2人だった。
     その時だ、明かりの先に俯いた女性。
    「リア充に悪気は無い……せやけど悲しくなりまんねん……爆発させたる!」
     グリンと顔を上げる女性、否、最近メアド交換を普通に断られて傷心な王・龍。
     ニンニクをかじりつつ近寄ってくる。
     慌てて道を戻る2人だが、そこには刀を持った少女がいた。
    「へ?」
     ジョニーの声に反応し、瞳に光すら無い刀少女――園観・遥香が呟く。
    「くははははは、やっと体を手に入れたわ! これで妾の長年の夢、りあじゅう狩りができるのぅ!」
     妖刀に乗っ取られたテイで2人を襲撃する園観。
    『ひぃ!?』
     十字路まで戻りジョニーが右の道を照らし。
     ドッドッドッ……。
     真いライダースーツを着た首無しライダー(黒い目出し帽の九条・風だ)がライドキャリバーに跨がっていた。
    「ヒャッハーッ! リア充は何処だぁ!」
     風が叫ぶ。
    「ジョニー、こっち!」
     リンダが残った左の道へ。
    「ヒャッハー! リア充狩りの開幕じゃあ!」
     そこにはボロボロ状態の鉄仮面を付けた世紀末三成が待っていた。
    「こっちもヒャッハー!?」
     十字路で四方から追いつめられる2人。
     その時だ。
    「貴様等の好きにはさせん!」
     高台に立つは蒟蒻を持ったナイト・リッター。
     助けてくれと叫ぶリア充2人。
     ジョニーに蒟蒻がぶつけられた。
    「うぶっ」
     さらに糸蒟蒻がリンダへ。
    「あうっ」
    「リア充ある所にRB団有り! 行くぞ同志達よ! リア充は!」
    『爆発しろ!』
     RB団近衛騎士団長ナイト・リッターが指揮を取る。
     彼らは今、輝いていた。
     そして、RB団がリア充に勝利するのは、彼らだけでは無かった。
     リア充が突如煙りに包まれ、それが晴れると。
    「うらめしい……いや、羨ましいでござる!」
     赤い褌にRB団の覆面を付けたニンジャ、ハリー・クリントンが仁王立ちしていた。
    「このSHIT、はらさでおくべきかでござる!」
     逃げようとするリア充達だが、ハリーと連携した桐城・詠子が回り込み爆発させる。
    「嗚呼、この胸の高鳴りは……楽しい、楽しいです!」
     まるで生まれ変わったようだと陶酔する詠子。
    「ハリーさん、これは勝負しませんか?」
    「爆破数勝負でござるか!」
     ニヤリと笑うハリーと詠子。
     だが、忘れてはいけない。RB団はある遺伝子に覚醒してしまう事を……。
     2人が標的と定めて狙ったカップルが、突如身を翻して逆襲してくる。
    「こ、これが神の意志だと……」
    「きゅう……で、ござる……」
     倒されるRB団。
    「アアッ……やっぱイイ♪」
     偽装カップルをしていたドSの天倉・瑠璃が恍惚の表情を浮かべ。
     相方の銃沢・翼冷が「たまらないな!」と同意する。
     ただ、問題があるとすればこの2人、RB団もリア充も無差別であった事だろう(でも一般人は対象外でしたので珠希のツッコミは入りませんでした)。
    「瑠璃、面白かったか?」
    「うん! またやりたい!」
     またのご来場をお待ちしております。

    「ひと夏のアバンチュールやし、夏の思い出しっかり残したげるえ~」
     襲いかかってくるモブRB団に抱きつき、次々に骨抜きにする澪。
    「師匠、もうモブがいないです!」
     樹里が連れてきたモブ達は、一人残らず澪の傍にはべっていた。
     ゆっくり歩いてくる澪。
     絶体絶命。
     だが、運命は彼らを見捨てていなかった。
    「あははははははっ! 呼び出そうかと思ってたら、ばったり会うなんて奇遇だね!」
    「ししょー? あれが有名な刑一さん?」
     刑一達の後ろから現れたのは夏炉崎・六玖と若生・若だった。
    「まさか……」
     刑一と六玖、2人のサバト服が並ぶ。
    「あははははははっ! キミはそこで休んでいると良いよ。あとは俺と若ちゃんで……」
     そう言って六玖は澪に向かって駆け出し。
     ガッ!
     転んだ。
     しかも近くにあったイスの角に頭をぶつけ。
    「ししょー!?」
     若が叫ぶが六玖の体からは、大量の赤い液が広がっていく。
    「若ちゃん……あとは、まかせ……」
    「よ、よくもししょーを……」
     怒りに震える若。
     その背後……刑一と樹里の横を何かが火花を散らして滑っていく。
     それは若が投げようとしていたネズミ花火だったのだが……パンッ!
     若の足下で破裂。
     さらに火の粉が若の持っていたネズミ花火全弾に飛び火し――。
     ――パパパパパンッ!
     心配する澪の前で、4人のRB団が連鎖爆発に巻き込まれるのだった。

    「今の爆発音……同志か」
     出口付近に集まったRB団が1人、フィン・アクロイドが呟く。
     ゴールしようとするリア充は爆破しておいたが、フィンとしてはやり足りない。
    「不満そうですね……」
     フィンに話しかけるのは丹下・小次郎。
    「凄い書記の人か」
    「軍師です……まぁ、そろそろ幕引きの時間です。最後はこの倉庫内に漂うリア充の甘い雰囲気を吹き飛ばしましょう」
     小次郎はそう言うと何かのスイッチを取り出す。
    「美学か」
    「その通りです」
     ボタンを躊躇せず押し込む小次郎。

     ドーンッ! ドカーンッ! ガラガラ……ドドーンっ!

    「……火薬の量ミスった?」
     倉庫内に作られた高台や通路などが思っていた以上に爆発し、倒壊を開始する。
    「あの、火薬のセッティングして下さったのは夕月さんですよね?」
    「はい」
     最後の倉庫に一般人が来ないよう誘導したり、今回もっとも裏方として働いていた桜井・夕月が頷き。
    「言われた通り、当初の10倍にしましたよ?」
    「十倍?」
     そんな事は言っていないと驚く小次郎。
    「あ、ボクが追加しておいたんだよね」
     柿崎・法子が現れ補足する。
    「だって……『よくあること』でしょ?」
     爆発は続き、最後にフィンがまとめるように呟いた。
    「我らRB団、去り際にてもっとも美を放つ……」
     そして4人は白い爆光の中に消えて行ったのだった。


     3つ目の倉庫から避難した者達は、倉庫前で西瓜を食べながら涼んでいた。
     そんな中。
    「うーむ……ちょーほー部の皆はどこにおるのじゃ?」
     シルビアが仲間を探して歩き回っていた。

     一方その頃。
    「あの、アイス様……これはもしかして……」
    「えっと……その、はい。迷いましたね」
     内装が倒壊して順路がなくなった倉庫内、夜鈴とアイスバーンがさまよっていた。
     彼女達が倉庫から出るのは、かなりの時間が経ってからとなる。
     だが、本当に大変だったのは……。
     塗壁のまま瓦礫の下敷きになっている――。
    「く、苦しいでござる……い、息が……」
     隼だったのかもしれなかった……再度合掌。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 32
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