決して振り向いてはいけない

     桜沢・飛良(知識の石・d11660)は、こんな噂を耳にした。
     『何かを食べながら歩いていると襲われる道がある』と……。
     その場所は都内某所にある裏通り。
     ここで何かを食べていると、背後から『置いてけぇ』『寄越せ』と恨めしい声が聞こえてくるらしい。
     それでも、『知るか、ボケェ!』と思いつつ、バリバリボリボリ食べていると、『みんな持っていけ、何もかも!』と叫び声を響かせ、背後から伸びた無数の手に何もかも『持っていかれて』しまうらしい。
     だからと言って、食べているものを捨てての逃げたり、後ろを向いても結果は同じ。
     無数の手が伸び、何もかも『持っていかれて』しまう。
     対処方法はただ一つ。
     そこを通る場合は、『何も食べない』という事だけ。
     どうやら、この無数の手は都市伝説で、どれか一本が本体であるようだ。
     それを見分ける手段はないが、手当たり次第に切り落としていけば、いずれ倒す事が出来るだろう。


    参加者
    蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    黒沢・焦(ゴースト・d08129)
    椿原・八尋(閑窗・d08141)
    桜沢・飛良(知識の石・d11660)
    亜麻宮・花火(平和の戦士・d12462)
    宿木・青士郎(パナケアの青き叡智・d12903)
    峰月・織音(紅茶狂いの眠りネズミ・d17754)

    ■リプレイ

    ●真夏のお約束
     『決して振り向いてはいけない』。
     そう言われて振り向いてしまうのが、人の常。
     『決して部屋の中を見てはいけません』と言われればこっそり覗き、『決して玉手箱を開けてはなりません』と言われれば、これまた開ける。
     おそらく、彼らはこう思った事だろう。
     『……えっ? 今のはフリじゃなかったのか』と……。
    「何かを食べながら、歩いていると襲われる……? 何だか変わった都市伝説ですね。まあ、食べ歩き自体あまり褒められたものではないと思いますが……」
     ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)はサウンドシャッターを使った後、仲間達と共に都市伝説が確認された道を歩いていた。
     ……決して振り向いてはいけない。
     その言葉だけを胸に秘め、ヴァン達が道を進んでいく。
    「んー?? なんだか不思議な都市伝説が出てきたみたいだね。お腹が空いているのかな?」
     キョトンとした表情を浮かべ、亜麻宮・花火(平和の戦士・d12462)が首を傾げる。
     だが、都市伝説が本当に求めているのは、食べ物ではなく、人間自身。
     故に例え食べ物を放り投げたとしても、そちらに興味が向く事はない。
     それが分からなかったため、沢山の者達が襲われ、命を落としてしまったのだから……。
    「んー……、振り向いちゃ駄目なのか……。どんな都市伝説、なのかなー?」
     チョコがいっぱいに詰まった棒状のお菓子を食べながら、峰月・織音(紅茶狂いの眠りネズミ・d17754)が想像を膨らませる。
     事前に貰った資料の中に、都市伝説のイラストもあったのだが、無数の手が描かれているだけで、正直よく分からなかった。
     そのせいで、実際に見てみたいという気持ちが強まり、抑える事が出来なくなった。
     特に裏側。
     もちろん、背後に回る事は難しいが、興味津々だったりする。
    「でも、何もかも奪われちゃうのは嫌だなー」
     そう言って黒沢・焦(ゴースト・d08129)が、カップラーメンを食べて、幸せそうな表情を浮かべた。
     既にカップラーメンは伸びきってしまっているが、それでも美味い、美味すぎる!
     こんなに美味いカップ麺であったのなら、いっそ箱買いしておけば良かったという後悔が過ぎる。
    「まさに、これは夏の怪談。敵の正体は、お腹を空かせたまま死んでいった地縛霊なのだろうか。とにかく、そんなホラーなものは倒さないといけないね」
     真夏にも関わらずロングコートを着込んだ状態で、椿原・八尋(閑窗・d08141)が口を開く。
     だが、ここに現れたのは都市伝説であって、地縛霊とは似て非なる存在。
     都市伝説は噂によって生み出されたもの。地縛霊は未練を残して、この地に留まっているもの。
     そう言った違いがあるため、成仏させる事は出来ず、消滅させる以外に倒す方法はない。
    「何だか、おいてけ橋だか、おいてけ堀の話に似ていますね。詳細覚えていないのですけど、いつの時代でも人が考える事は一緒なんだな、と思いまして。もしかして、その妖怪も当時の都市伝説だったのかもしれないですね」
     そんな事を考えながら、蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)が道を歩いていく。
     今のところ、都市伝説が現れた様子はない。
     しかし、妙な気配を背後に感じる。
     妙にネットリと纏わりつくような感覚と共に……。
    「どちらにしても、被害が広がらないうちに対処した方がよさそうだな」
     ただならぬ気配を感じ取り、宿木・青士郎(パナケアの青き叡智・d12903)がゴクリと唾を飲み込んだ。
     何やら嫌な気配が迫っている。
     ジリジリ、ジリジリと、次第に距離を縮めつつ。
    「ええ、ここで倒してしまいましょう」
     覚悟を決めた様子で、桜沢・飛良(知識の石・d11660)がスレイヤーカードを構える。
     それと同時に『置いてけぇ』、『寄越せ』、『コッチヲミロォ』と不気味な声が聞こえてきた。

    ●這い寄る手
     背後から声がする。
     『置いてけ』、『寄越せ』、『コッチヲ見ロォ~』と。
     だが、振り向いてはいけない。振り向いたら、最後。
     ……そこに待っているのは、死。絶望の中で迎える死、のみである。
     それでも、振り向かねばならなかった。
     負の連鎖をここで終わらせるために……!
    (「……とは言え、ここでタイミングを誤れば、あっという間に地獄逝き……。何か策を考えておく必要がありそうですね」)
     飛良は迷っていた。
     ここで攻撃を仕掛けるべきか、もう少し時間を置くべきか、を。
     一瞬の判断が命取り。
     故に迷い。
     自分が何を選択し、どう動きべきなのかを考えつつ……。
    「ここで食べ物をおいていったら、どうなるんでしょうね」
     そんな疑問を抱きつつ、悠が飴玉を足元に置いた。
    『チガウ、コレジャナイ。モットオオキク、トオトイモノダ』。
     その途端、沢山の声が駄々っ子の如く喚き散らす。
     おそらく、声が欲しているのは、悠達の命。
     それが直感的にわかるほど、背筋には寒気が走っていた。
    「わわ、ど、どうしよう。何だか物凄く怒っているみたいだよっ!?」
     その気迫に圧倒されて、織音が妙にあたふたとする。
     しかも、声は脳に直接聞こえているらしく、耳を塞いでもまったく意味がない。
    「なんというか、鬱陶しいですね」
     嫌悪感をあらわにしながら、ヴァンが深い溜息を漏らす。
     ……まるで蚊だ。無数の蚊が耳元でブンブンと羽音を立てて飛んでいるような感覚。
    『モウマテナイ。ホシイ、ホシイ、ホシイィィィィィィィィィィイ』。
     次の瞬間、ヴァン達を掴むようにして、無数の手が伸びていく。
     それはまるで餌に群がる鯉のようだった。
    「な、何、この手! すっごくホラーなんだけど……! やめて、やめて、来るなああ! うわああ!」
     無数の手に恐怖を覚えつつ、八尋が槍を振り回す。
     だが、襲い掛かってくる手の数が多過ぎて、防げない……防ぎ切る事が出来なかった。
    「た、確かに、都市伝説だと分かっていても、ゾッとしちゃうね」
     そう言いつつも、花火が八尋を守るようにして陣取った。
     何がキッカケになったのか分からないが、無数の手が次々と伸びている。
    「カップ麺は誰にも渡さないよ」
     そんな中、焦がカップ麺を死守。
     これだけは渡す訳にはいかない、渡さない。
     例え伸びていても、美味いものは美味いのだから。
     故に一本たりとも、スープ一滴でも渡す訳にはいかないのである!
    「フゥーハハハ! そんなに我らの命が欲しいのなら、くれてやる! 奪えるものなら奪ってみろ!」
     それと同時に青士郎がスレイヤーカードを解除し、都市伝説に攻撃を仕掛けていった。

    ●都市伝説
     虚空から伸びる無数の手。
     その手がどこから伸びているのか分からない。
     それを知った時には、身体をバラバラにされ、意識は三途の向こう側。
     故に、その手がどこから伸び、どんな目的を持っているのか、誰も知らない、分からない。
     分からないからこそ、襲われた者は恐怖を覚えてしまうのだろう。
    「数だけわらわらと……ええい、邪魔だ!」
     青士郎はイライラとしていた。
     倒しても、倒しても、無数に伸びる不気味な手。
     その手が男のものなのか、女のものなのか、分かるよりも早く倒していかねば、あっという間に腕や足を掴まれ、引き千切られてしまうほどの速さ。
    「とりあえず、都市伝説に近づき過ぎない様に気をつけないとねー……」
     警戒した様子で間合いを取りながら、織音がジグザグスラッシュを仕掛ける。
     それに合わせて霊犬も都市伝説に飛び掛かろうとしたが、無数の手が迫ってきたため、寸前のところでアスファルトの地面を蹴って飛び退いた。
    「轟雷で手を一つ叩き落とします」
     その間に飛良が都市伝説の死角に回り込み、轟雷を使って攻撃する。
     それでも、虚空から伸びる手の勢いが収まる事はない。
    「一気に畳みかけるよ」
     そのため、八尋が仲間達と連携を取り、ティアーズリッパーを仕掛けていく。
     そうしていくうちに一本だけ短く、まるで子供のような手がある事に気づいた。
    「……見つけましたよっ!」
     次の瞬間、ヴァンが放ったギルティクロスが炸裂した。
     その一撃を食らって都市伝説が弾け飛ぶ。
     まるで花火のようなに。パァンと大きな音を立てて。
    「生理的に気持ち悪い敵でしたね。後ろからかけられる声って、やはり想像が膨らむのかしら」
     都市伝説が消滅した事を確認した後、悠がホッとした様子で溜息を漏らす。
     だが、未だにもやもやする。
     もしかすると、都市伝説がまだどこかに隠れているのでは……。
     そう思えてしまうほど、不安な気持ちが全身を包んだ。
    「でも、カップ麺を取られなかったから……いいかな……」
     焦にとっては、それが救い。
     例え、ラーメンが伸びていようとも、これだけは譲れない、曲げられない。
    「よし、みんなで甘い物でも食べよう!広島名物のもみじ饅頭だよ!」
     そう言って花火が仲間達に、もみじ饅頭を配っていく。
     もう虚空から手を伸びる事はない。
     でも、まさか……。
     背後から感じる気配が消えた後も残る一抹の不安。
     それを掻き消すようにして、花火達は歩き出した。
     都市伝説は人々の噂が作り出したもの。
     背後から感じた気配は、おそらく自分の弱さが作り出した錯覚。
     今はただ前を見て、力強く進む事のみである。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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