臨海学校~火縄銃の筒先、花火の穴場

     博多湾に程近い一角。地元民、観光客を問わない時ならぬ喧噪。
     そこには、大規模な花火大会の会場がセッティングされていた。
     花火の観客を目当てとした縁日が立ち並び、また座って花火を観るための簡易なあずまやの客引き、弁当やアルコールの売り子の声などもそこかしこに響く。
     間もなくお楽しみの時間だ。無数の花火が、博多の海と大空を、七色に彩るのである。
     ――そう、誰も信じて疑わなかった。
     
     一方、その花火大会会場をやや遠くに見下ろす、古ぼけたビル。
    「おお、いるぜいるぜ。人がいっぱい」
    「花火、か……470年の刻を経て、なんと火薬の無駄遣いをするようになったものよ」
    「何だっていいさ! 俺は、はりきってころすんだー!」
     そのビルの屋上に、何人かの人影があった。
     服装は様々で、話もまるで噛み合っていない。てんでばらばらの印象。だが彼らは、手に1つの長い物体を持っているという1点で共通していた。
     鉄色に光る筒。それはまるで、鹿児島県種子島に伝来した鉄砲、火縄銃のように見えた。
    「さて、殺るか」
     目下の花火大会会場に向けて、鉄色の筒が並べられた。
     そして――銃声が立て続けに鳴り響く。
     
    「間もなく福岡での臨海学校です。まりんさん、お話とは何でしょうか?」
     呼び集められた灼滅者を代表して、高屋敷・紗菜(箱入りストリートファイター・dn0102)が尋ねた。首をかしげる動作とともに、愛用の白ベレー帽もひょこっと揺れる。
    「うん、その臨海学校なんだけど。
     どうも、福岡のあちこちで、無差別殺人の事件が発生するようなんだ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)がそれに応じ、説明を始める。
     無差別殺人事件を起こすのはダークネスでも、強化一般人でもないただの一般人。戦って倒すのは困難ではない。
     しかし、彼らの背後に組織的なダークネスの陰謀がある可能性は極めて高い。
     灼滅者としては、その陰謀を突き止めねばならなかった。
    「私が視た未来予測は、花火大会の会場でのヴィジョン。会場から見上げる位置のビルの屋上に加害者の一般人が潜んで、そこから火縄銃を使って花火の観客を殺していくようなの」
    「火縄銃? それはまた、ずいぶんと古典的な武器ですね」
     本物の火縄銃なら、ビル屋上から花火会場を撃ってもまともに当たる距離ではない。弾込めや銃身の掃除にも時間がかかるはず。
     だから彼らが持っているのは、何らかの形でその点を改良された火縄銃だと思う――とはまりんの推測。
    「けど、所詮は強化すらされてない一般人。戦いに慣れた灼滅者のみんなに当てられるような腕前は持ってないし、仮にラッキーヒットをもらったって大事に至りはしないと思うよ」
    「当然です。そのような卑劣な輩の弾になど、当たってたまるものですか!」
     紗菜は大声を挙げていた。
     無辜の花火観客を、しかも遠くから狙い撃つという行為が、どうも紗菜のカンに障ったらしい。
    「あとね、どうも一連の事件には、加害者をコントロールする『黒いカード』が関与してるみたいなんだ。今回の未来予測では視えなかったけど、火縄銃使い達もカードを身体のどこかに持ってると見て間違いないと思う。
     だから、彼らを倒したら、カードを探して回収して来て欲しいんだ。カードさえ取り上げてしまえば、彼らも正気に戻るはず」
    「黒いカード、ですね。憶えました」
     灼滅者達に向けてそこまで話を終えてから、まりんはにっこりと笑った。
    「話はそれだけ。あとは臨海学校を思いっきりエンジョイするだけね。どうせカードを回収したって、詳しいことがわかるのは学園に持って帰って調べた後だろうし。
     もしも他に人が来ない場所で、静かに花火を楽しみたいなら、問題のビルの屋上、いい穴場になると思うよ。花火大会会場と違ってお店はないから、お菓子やお弁当が欲しければ事前に準備しとかないといけないけどね」
    「わかりました。
     花火大会を成功させて、そしてわたくし達も花火を楽しむため、頑張りましょうね皆さん!」
     紗菜はあまり表情を変えることなく、静かに闘志を燃やしているようだった。


    参加者
    アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)
    月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)
    九条・村雲(サイレントストーム・d07049)
    美波・奏音(エルフェンリッターカノン・d07244)
    深束・葵(ミスメイデン・d11424)
    永舘・紅鳥(焔黒刻刃・d14388)
    卯月・あるな(正義の初心者マーク・d15875)
    雨崎・弘務(常夜の従僕・d16874)

    ■リプレイ

    ●黒いカード
    「銃を向けるのは狩猟目的か戦闘。それを無防備な人に向けるのは……ちょっとお仕置きが必要かな?」
     古いビルの、さらに古いエレベーターに乗り込む月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)。笑顔を浮かべているようだが、その目は笑ってない。
    「まったくです。許す訳には参りません」
     右手にウレタンを巻きつけながら、高屋敷・紗菜(箱入りストリートファイター・dn0102)もうなずく。
     一見ほっそりした紗菜の白い手だが、拳として振るえば十分以上の凶器となる。故に相手を傷つけないため、彼女は己の拳にリミッターをかけていた。
     そう、今回の相手は火縄銃使いの一般人。
    「まぁ、一般人が相手なんだし、即行で終わらせて花火楽しもーぜぇー」
     永舘・紅鳥(焔黒刻刃・d14388)の態度を楽天的と評価するのは簡単である。一般人と言っても、どうやらダークネス組織がばら撒いた『黒いカード』の影響を受けているらしいのだ。
     それでも、これまでダークネス当人と幾度も渡り合った灼滅者達にとっては、恐れるような相手ではなかった。
    「ところで、このオンボロビル、エレベーターぶっ壊れてなきゃいいんだけど……」
     たぶん耐用年数を超えたエレベーターの天井を見上げながら、怪力無双でライドキャリバー『我是丸』を抱えた深束・葵(ミスメイデン・d11424)が縁起でもなくつぶやいた。

     屋上階に無事到着した灼滅者達(どうやらエレベーターも大丈夫だったらしい)は、外に出るための戸をわずかに開いて、屋上の様子をうかがった。
    「……いた。あれはベルトポーチ、かな?」
     5人の火縄銃使いが、花火大会会場の方角をにらんでいる。アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)の目は、彼らの腰に据えつけられたポーチらしき物を捉えていた。
     そしてそのタイミングで、外に爆発音が響いた。
    「ドーモ、鉄砲隊さん、鉄砲隊殺すべし、慈悲はない! でござる! イヤッー!」
     爆発音の正体は、壁歩きでビルの外を登ってきた雨崎・弘務(常夜の従僕・d16874)の爆裂手裏剣であった。
     手裏剣は足元の屋根に向けて放ったのでダメージはない。が、音で火縄銃使い達をひるませ、そして仲間達に戦闘開始の合図を示すには十分な効果だった。
    「仕事開始だ……」
     九条・村雲(サイレントストーム・d07049)が静かにつぶやく。
     戸がバンと開かれ、囮役を託された2台のライドキャリバーが突進する。その陰で灼滅者達も動いた。

    ●謎
     動いた、と言っても、戦うばかりが能ではない。
     少しでも楽をするやり方はいくらでもあった。
    「種子島のご当地ヒロイン見習いとしては、火縄銃を悪用なんてさせないよ!」
     もっとも手近な火縄銃使いに向けて、卯月・あるな(正義の初心者マーク・d15875)は王者の風を吹かせた。
    「うっ……うぅ」
     たちまち相手は畏怖状態に陥る。
     さらにあるなは準備してきた獲物を構えた。愛用のバスターライフル『タネガバスター』……ではなく、それと同じデザインの水鉄砲だ。
    「それと、狙撃っていうのはこうやるんだよ!」
     戦意のある敵の銃の小さな火縄を戦闘中に狙い撃つのは、例えスナイパーでも無理だ。
     だが、相手が畏怖してしまった今ならできる。あるなは水鉄砲の引き金を引いた。火縄が水浸しになり、機能を失う。
     これで1人目の火縄銃使いは、早くも完全に無力化された。
    「そんな物騒なモン持ってねーで、一緒に楽しもーぜぇ?」
    「え、は、はい……でも……」
     紅鳥の奥の手はラブフェロモン。
     黒いカードの影響下にあるという2人目の火縄銃使いは、簡単に火縄銃を手放すとまでは行かない。それでも、その銃口は紅鳥から逸れた。故に。
    「ほいっ、2人目ね!」
     こちらもあるなに火縄を消され、無力化された。
     残りの3人に対しては、正統派の手加減攻撃を選んだ灼滅者達が向かった。
    「すみませんが、約束があるので速攻で終わらせます」
    「火縄銃はそもそも狙撃用じゃないけど……罰当たりさんは一発殴って、警察が来る前にとっとと退場してもらいましょうか」
     アルヴァレスが駆ける。葵のガトリングガン『猿神鑼息』が彼を支援する。
    「ひっ……!」
     銃声が響き、アルヴァレスの頬に僅かな熱さが走る。だがかすっただけの弾丸は、彼の戦闘力をいささかも阻害しない。
     腹部にミドルキックを叩き込まれ、相手はあえなく昏倒した。
     これで3人。
    「……」
     ひとたび戦闘とならば、村雲は物言わぬ戦鬼と化す。
     接近して振るわれるガンナイフ『white bullitt』に、たちまち銃をはたき落とされた火縄銃使いは、
    「その火縄銃、一体どこで手に入れたのかな? どっちにせよ撃たせないけどね!」
     さらに架乃のバスターライフルの銃身にぶん殴られ、倒れ伏した。
     一瞬で最後の1人となってしまった火縄銃使いにも、紗菜が迫る。
    「愚考の報いをお受けなさい!」
    「ぐふ……く、くそっ」
     ウレタンの拳が、男の鳩尾を捕らえた。
     衝撃にふらつきつつも、男は後退して距離を取ろうとする。
     その後ろには誰もおらず、猫が1匹見えるだけだ。この位置からなら邪魔を受けずに一撃を紗菜に浴びせられる、はずであった。
    「くはっ……?」
    「後ろに誰もいない、と思った? お生憎様!」
     が、すかさず猫変身を解いた美波・奏音(エルフェンリッターカノン・d07244)が、手刀を首筋に撃ち込み、最後の敵を気絶させた。
    「ナイス! さて、カードを探さないとね」
     5人の服装はバラバラで、共通して目を引くのはベルトポーチだろうか。もっとも怪しいのはポーチ、と踏んだ灼滅者達は、まずそこから調べにかかった。
     ポーチの中には、蓋つきの小さな紙の筒がいくつも収納されている。そしてその隙間に、
    「あった!」
     『HKT六六六』と書かれた黒いカードも入っていた。
    「こんなカード1枚でねぇ……ダークネスの力はよく分かんないな……」
     指先でカードをくるくる回す紅鳥。
     彼が手に持ってみた限りでは、灼滅者への悪影響は特にないように思える。
    「そうだな。だが、用心するに越したことはない」
     村雲は5枚のカードを1まとめにすると、布とアルミホイルでくるんだ上で袋に入れた。
     学園に持ち帰って調査すれば何らかの情報が得られる、と期待して。
    「して、この紙の筒は何でござろう」
    「紙の筒……? ごめん、それちょっと貸して!」
     弘務の手から引ったくるように紙筒を奪うあるな。
     蓋を開けてみると、筒の中から出てきたのは金属の弾1つと、そして黒い粉。
     『種子島のご当地ヒロイン見習い』あるなにとって、それは非常に馴染み深い物だった。
    「やっぱり! これは早合(はやごう)だよ」
    「早合?」
    「火縄銃の弾丸1発と1回分の火薬を紙の筒にパックしておいて、弾込めの時間を減らせるよう工夫した物だよ」
     おそらく火縄銃使い達は、2発目、3発目を撃つ時に早合を利用するはずだったのだろう。灼滅者の動きが迅速だったので、2発目を撃つ機会は与えられなかったが。
    「それじゃあるな、この銃について気づくことはある?」
     葵が火縄銃を差し出す。
    「うーん……詳しくはわからないけど、結構新しい鉄だと思うよこれ」
    「なるほど。骨董品をそのまま持ち出した、って訳でもないんだ」
    「けど妙だな? 『HKT六六六』と言うからには、全員が六六六人衆の組織、のはずだよな。俺達殺人鬼と対になるダークネスだ」
     くしくしと紅鳥が頭を掻きむしる。考え込んでいるようだ。
    「だったら、もっと効率よく人を殺せるように、高性能で連射もできる銃を使ってもよさそうなもんだ。
     どうしてこいつらは、こんな早合を準備してまで、火縄銃を使って殺そうとしたんだ?」
    「さあ?」
     9人で首をひねってみても、答えは出そうにない。架乃が首を振った。
    「……気になることはあるけど、真面目なのはもう終わり!
     まずは見ようよ。現代の平和な火薬の使い方、花火をさ」

    ●祭の前に
     先程まで戦場だった屋上の真ん中に、紅鳥は大きなござを敷いた。
     戦って花火の穴場を確保した者達のための特等席、といったところか。
    「くぅっ、やっぱこういうのいるよね~♪」
     さらにペットボトルの麦茶を紙コップに注いで、ぐいっとあおる。
    「いいでござるね。かき氷が欲しい方はござるか?」
     弘務は荷物から、かき氷機とシロップを取り出した。架乃の瞳が輝く。
    「かき氷っ! 私はイチゴとできれば練乳で!」
    「了解でござる。紗菜殿にも好みのシロップはござるか?」
    「ありがとうございます。では、レモンをお願いできますか?」
     しゃりしゃりしゃり。赤と白の、そして黄色のかき氷が手渡される。
     甘酸っぱい氷の粒を頬張ると、紗菜のこめかみにきーんと痛みが走った。
    「こっちもお祭りの定番用意したよ! 遠慮せず食べてって!」
     お返しに、とばかり架乃がクーラーボックスから取り出したのはチョコバナナ。よく冷えたチョコがいい感じに固まっている。
    「ありがと、もらうね」
     さっそく葵が受け取り、もぐもぐとチョコバナナを頬張った。
     楽しい時間の本番は、これからだった。

     クラスメイトの奏音とあるなに誘われて、花火観賞に来た椎葉・武流(d08137)。
     が、当の奏音とあるなが、何故かどこにも見当たらない。
    「お待たせー!」
    「遅いぜ……って、お前ら何てカッコしてるんだ!?」
     しばらくしてから姿を見せた2人は……いつの間にやら、大胆な水着姿に着替えていた。
    「せっかく臨海学校に来たんだからめいっぱい楽しもうよ。だって、これがあたし達灼滅者の『青春』なんだから」
     奏音は彼女のバトルレオタードとも似た色の、ピンクのワンピース水着を身につけていた。
     ただし、似ているのは色だけで、細いスリングショットデザインの水着は奏音の素肌をほとんど護っていなかった。
     とりわけ豊かに張りつめた奏音の胸は、ぷるぷる震えるふくらみの真ん中に、頼りない細布が申し訳程度に乗せられているにすぎない。左でも右でも好きな方の果実に触れなば、両方が落ちんという風情だ。
    「そうだよ、暑いから水着姿! 他に誰も見てないからいいよね?」
     あるなの方は紫色の、競泳風の水着。
     南国娘あるなの小麦色に灼けた顔や手足は日頃から見慣れていた。が、学園の制服やスクール水着に隠されて、あるなの背中やヒップの肌はまったく日焼けせずに残されていたことを、武流は知らなかった。
     鋭く食い込むハイレグから、そっくりはみ出してしまった真っ白なままのお尻が、浅黒く灼けた太腿とのツートンカラーをくっきりと描いて何ともなまめかしい。
    「しまえ! 隠せ!」
     空しく響く武流の絶叫。

     もう少し離れた場所では、静かな、2人だけの世界の中で花火を楽しもうとする者達もいた。
     浴衣姿の双海・銀麗(d12664)はビニールシートに腰掛け、おにぎりを頬張っていた。
     名雪・苺(d10591)が持ってきてくれたお弁当は、旅館の厨房を借りて作った力作である。
    「花火、楽しみですね」
    「んっと……苺とだったら。なんでも、楽しみだよ」
     夏の博多の夜風は生暖かく、じっとりと汗ばむ。
     それでも、銀麗と苺が並んで座る空間の心地よさは、何者にも代え難かった。

     アルヴァレスもまた、ユエファ・レィ(d02758)と『約束』していた2人の世界を築いていた。
     ユエファのお弁当の、メインのおかずとなるのは大量の唐揚げ。それがアルヴァレスの好物であると、ユエファは知っていた。
     でもそれ以上は自分は、アルヴァレスの好みについて、何も知らない。
     故にユエファは、恐る恐る、という感じで他の様々なおかずを少しずつ詰め込んできていた。
    「(大丈夫かな、嫌いじゃなかったかな……)」
     卵焼きやハンバーグにアルヴァレスの箸が、そしてユエファの視線が動く。
     いつしかユエファ自身の箸は、すっかり止まっていた。

     そして。

    ●華、開いて
     どぉ……んっ。
     足元から響く重低音、そして赤く、青く、博多の空に開く光の華。花火大会の会場からはどよめきが上がった。
     そんな喧噪も、このビルの屋上とは無縁。
     ただ花火の光だけが、等しくこの地にも降り注いでいた。

    「きゃっ……!」
     花火の音に驚いたのだろうか、ユエファは思わずアルヴァレスの腕にしがみついた。
    「花火、綺麗ですね」
     アルヴァレスは静かに、ユエファの頭を撫でた。
     ずっと色んな時間を、彼女と一緒に過ごしたい。例えどんなことがあっても、彼女を怖がらせたりはしない。
    「(でも……僕も男だからこんなにくっつかれると……その、ドキドキします……)」
     アルヴァレスの内心を知れないのは、ユエファにとっては不幸なのか幸運なのか。

    「ころんと寝転がって花火を見てみたいんですけれど、良いでしょうか?」
    「……ん。いいよ」
     苺の求めに応じて、銀麗は膝を枕に提供した。
     横になって見上げる夜空。次々と弾ける光。頭の下から伝わる熱と、静かに髪を撫でてくれる指の感触。すべてが心地よかった。
     だけど、苺は気づいていなかった。
    「……ね。苺」
     いくら素敵でも、居心地がよくても。
     そこは仮に逃げたくなっても逃げ場のない、蟻地獄の巣の底であると。
    「あっ……んんっ」
     誰も邪魔が入らない、夜空に限りなく近い場所で、苺は唇を奪い取られた。

    「あっ、ほら花火!」
     頭の上で夜空を指さす奏音。
     同時に武流の首筋が、包み込まれた。左、右、後ろの3方向から。
     ゴム鞠のような柔らかさと温かさに、むにゅうっ、と。
    「あ、ああ……」
     全力で花火を注視する武流。と言うか、花火以外の方向を、全力で視界から排除する。
     それでも脳裏からは、ピンクの紐の隙間からそっくり露出した、ふくらみの谷間のヴィジョンが離れない。ちょうどあの辺りが、今は自分の後頭部に……。
    「うわあ、綺麗……もぐもぐ」
     今度はあるなが、さつまいもアイスを頬張りながら、武流の傍らに寄ってきた。
     すり、すりと、ズボンの横からハイレグのお尻をこすりつける。
    「……」
     頑張れ男の子。超頑張れ。

    「た~まや~!」
     大輪の華を見上げて、架乃、紅鳥、弘務の声がハモる。
     ついでに『我是丸』にロケット花火を何本か取り付けて、独楽のように回転させる葵。
    「……」
     どんちゃん騒ぎ中の仲間とは対照的に、村雲は受け取った麦茶にもほとんど口をつけることもなく、静かに花火に見入っていた。とことんまでストイックな印象を与える。
    「本当に綺麗ですね。よかった……」
     虐殺の陰謀を叩き潰し、平和な花火大会を実現できた満足に、紗菜は微笑んだ。
     それから、ウレタンを外した右手をすっとかざす。
    「……ですが、いずれは」
     もう少し全力で戦いたかった、というのも一方の本音なのだろうか。
     とは言え、陰謀を阻止された『HKT六六六』がこのまま事態を放置するとは思えない。紗菜の望みは近いうちに叶えられそうであった。

    作者:まほりはじめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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