臨海学校~能古島でキャンプを

    作者:天木一

     博多湾にある能古島キャンプ場。そこに張ったテントの前で、家族連れがバーベキューをしていた。
    「ねーパパ。これもう焼けたかな?」
    「ん? ああ、いいんじゃないか……ちょうど焼けてるな。焦げない内に食べよう」
     小学生ほどの小さな娘が、網の上の牛肉をひっくり返して父親に見せると、父親は缶ビールを置いて箸を持つ。
    「じゃあこれ、一番大きいのがパパのね! それで、こっちがママの!」
    「あら、ありがとう。それじゃあこっちのがピーマンがなつみちゃんのね」
     娘が父親と母親の受け皿に肉を運ぶと、お返しに母親がピーマンを娘の皿に置いた。
    「もう! ピーマンなんていらないの! ここはお肉をおかえしするとこでしょー!」
     ぷんぷん怒りながらピーマンを父親の皿に移して、自分の皿にお肉を乗せる。
    「おいおい、これパパが食べるのかい?」
    「パパは大人なんだから、ピーマン食べなくっちゃダメ!」
     そんな様子を見て母親が笑う。
    「2人とも好き嫌いしちゃダメよ。ちゃんと全部食べてね」
    「「はーいっ」」
     母親の言葉に、2人が一緒に返事をする。
     そんな休日の楽しいひと時に、闖入者が現われる。
    「ヤってやる……ヤってやる……俺がヤるんだ……」
     ぶつぶつ呟きながら歩いてくる男。
    「君、何か用かな?」
     父親が立ち上がって尋ねると、男はいきなり腕を振り上げる。その手には金槌が握られていた。
    「ぐばっ」
     金槌が父親の顎を捉える。血を吐いて倒れ込むと、男は頭上から金槌を振り下ろした。
    「パパー!」
    「あなた!」
     娘と母親の叫びも虚しく、父親は動かなくなる。そして男の視線が2人に向けられる。
    「ほらヤれた……もっともっと、俺はヤれるんだ!」
     母親は娘を守るように抱きしめる。狂気に染まった笑みを浮かべ、ゆっくりと近づくと、金槌を振り上げた。
     
    「みんな、もうすぐ臨海学校だな。準備はできているだろうか?」
     貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)の質問に、集まった灼滅者達は頷くもの、首を振るものと様々な反応を見せる。
    「わたしたちが行くのは九州だが、実はそこで大規模な事件が起きることが予測された」
     真剣な表情でイルマが皆を見渡す。
    「事件といってもダークネスが起こす事件ではない。普通の一般人が起こすものだ」
     一般人の事件に関わるのかと、灼滅者達は怪訝そうに尋ねる。
    「実はこれらの事件は、ダークネスの組織が関わって起きると推測されている。まだ何が目的なのかも分からない、だが大勢の人々が殺されるのを放ってはおけない」
     誰も殺させはしないと強い口調でイルマが語る。
    「どうやらこれらの事件を起こす人間は、カードのようなものを所持しているらしい。もしかしたらそれが原因なのかもしれない。それを取り上げれば元の状態に戻る可能性が高い」
     操られているのなら、カードを手放せば全てを忘れて元に戻るだろう。
    「相手は一般人だ。わたしたちの力ならば、問題なく取り押さえる事ができるだろう」
     相手はこちらを傷つける事も出来ない、簡単な任務になるだろう。
    「敵組織の調査は、他の事件の情報なども纏めてからになるだろう」
     そこまで説明すると、イルマは息を吐いて間をとった。
    「ここからは臨海学校の話だ」
     難しい話はここまでと、当初の予定の臨海学校の話に移る。
    「博多湾にある島、能古島キャンプ場でキャンプができるんだ。わたしはそれに参加しようと思っている、みんなも一緒にどうだろう?」
     自分達でテントを張り、食事を作って皆で食べる。すぐ傍に海岸もあり海で泳ぐ事も出来るとイルマが説明する。
    「食事はバーベキューが用意されているが、自分たちで好きに調理してもいい。わたしは個人的にカレーを作ってみようかと思っている。料理はあまり得意ではないが、みんなで作るのならきっと美味しくなるだろう」
     手伝ってくれると嬉しいとイルマは照れながら言葉を続けた。
     食後はのんびりしてもいいし、好きに遊んでもいい。楽しみで仕方ないとイルマは微笑む。
    「一緒に行く方は、ともに遊ぼう。きっと楽しい旅になる」


    参加者
    紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)
    神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)
    化野・周(ピンクキラー・d03551)
    天宮・ひよこ(ひよこの子・d06896)
    小田切・真(ブラックナイツリーダー・d11348)
    燎・イナリ(於佐賀部狐・d15724)
    火伏・狩羅(蛍火・d17424)
    メイ・クローウェル(小学生魔法使い・d19859)

    ■リプレイ

    ●黒いカード
    「そろそろ17時前だね。行こうか」
    「うん、臨海学校を楽しむ為にも、しっかり事件解決しておかないとね」
     テントの設置を終えた紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)が時計を見て立ち上がると、テントの中で寝心地を確かめていた神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)も起き上がる。
    「今回のケースはカードを回収するだけですが、そのカードによってどのような事態が起きるのか不安もありますね」
     手早くテントの設置を終え、周りを手伝っていた小田切・真(ブラックナイツリーダー・d11348)も合流し、集まった仲間達と行動を開始する。
    「カード、ねえ。なんなんだろうな一体」
     化野・周(ピンクキラー・d03551)は人を操るというカードに興味を抱きながらも、まずは事件の阻止が優先と集中する。
     少し歩くとバーベキューの煙が昇っているのが見える。近づくとテントの前で親子連れが食事をしていた。灼滅者達は立ち止まり草木に身を隠すと周囲を窺う。
    「家族ってうらやましいなぁ~、とりあえず私はわたしの仕事をするんだよ! もろこしがかかってるからね!」
     その家族を羨ましそうに見ていた天宮・ひよこ(ひよこの子・d06896)は、終わった後の食事を想像しながら元気良く拳を突き出す。
    「せっかくの楽しい時間に事件を起こそうとするなんて許せないな、頑張って被害がでる前に解決しないといけないね!」
    「そうだな、臨海学校を続ける為にも、被害が出る前に止めよう」
     メイ・クローウェル(小学生魔法使い・d19859)は初めての依頼に少し緊張しながらも頑張ろうと言うと、貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)も同意して頷いた。
    「現われた。みんな用意はいいね? 行くよ」
     暫く周囲を警戒していると、家族連れの元へ続く道を歩く男を見つけ、燎・イナリ(於佐賀部狐・d15724)が仲間に声を掛けて動き出す。
    「一般人相手ですし、余り手荒にはしたくないですねー」
     火伏・狩羅(蛍火・d17424)は散歩するようにさり気なく近づく。
    「ヤってやる……ヤってやる……俺がヤるんだ……」
     ぶつぶつ呟きながら歩く男。その前を一匹の白猫が横切る。その猫に向け男の視線が僅かに逸れた。
     注意が逸れた機に、一般人の目から姿を消した殊亜と紫は、一瞬視線を合わせると、素早く男を左右から取り押さえる。
    「あ……なんだ……?」
     突然見えない力に動きを止められた男は驚きの顔を見せる。
     そこに同じく姿を消した周が羽交い絞めにして、家族連れから遠ざけるように連行する。
    「怪しい人確保! ふふん♪ ひよこにかかればかるがる!」
     見えない場所で待ち構えていたひよこが、もがく男を取り押さえるのに加わる。素早く人気の無い場所に連れ込むと灼滅者達が逃がさないように囲む。
    「何だお前らは! 放せ!」
     男はもがき暴れようとするが、その戒めはびくともしない。
    「他の人に見られる前にカードを探すよ」
     イナリが一般人に見られないよう周囲を警戒する。
    「カードを出しなさい!」
    「ひぃっ」
     狩羅が威圧すると男は脅え、大人しくなると尻ポケットから一枚の黒いカードを取り出した。
    「これがカードか」
     男の差し出したカードを真が慎重に奪い取る。
    「見せて見せてー!」
     ひよこが横から覗き込む。黒いカードには『HKT六六六』と書かれていた。
    「今回の騒動はHKT六六六の仕業で間違いなさそうですね」
     真が難しい顔でそのカードを調べる。
    「そうだね、HKT六六六が何かを企んでいるってことかな」
     殊亜は何か変化がないか周囲を警戒するが、特に見つからなかった。
    「怪しい人もいないね。どうしてカードを配ってるのかな?」
     隣の紫も周囲から視線を男に戻す。
    「このカードどこで手に入れたのよ。拾ったとか、誰かから貰ったとか?」
    「何だ……それ? そんなの、しら……ない……」
     周が尋ねると男はぼーっとした表情で不思議そうにカードを見ると、そのまま気を失う。
    「どうやら何も覚えていないようだな」
     真は体に異常が無いか男を調べ、特に何も問題が無い事を確認する。
    「人を操るカードなんて性質が悪いですね」
     狩羅がカードをしげしげと見つめる。
    「何も分からなかったけど、一先ずは解決だね」
     イナリの言葉に皆が緊張を解く。
    「無事解決できて良かったね! これで臨海学校を楽しめるよ!」
    「そうだな、今は臨海学校が優先だな。戻ろう」
     猫から人に変化したメイが楽しそうに笑みを浮かべると、イルマも同じように笑う。皆は男を人通りのある所まで運び、キャンプ場へと戻るのだった。

    ●野外料理
    「お疲れーっす!」
    「うーい、お疲れ!」
     時春が皆を出迎えると周も手を上げて答え、他の仲間もお疲れと声を返す。
     キャンプ場に戻れば他の人々もテントを張り終え、夕食の準備を始めようとしているところだった。
    「火の準備なら任せといて」
    「私も火の準備を手伝いましょう」
     殊亜と真が火を起こし始める。
    「ではカレーを作るか……この説明書通りに作れば上手くいくはずだ」
    「イルマちゃんカレーを作るの? メイもお手伝いするよ!」
     カレールウの説明書を真剣に読むイルマにメイが話しかける。
    「あ、イルマちゃんはカレー作るんですねっ。甘口がいいです! ニンジンはいりません!」
     ふわりも隣にやってくると、イルマは2人に向けて顔を上げる。
    「うむ、カレーならわたしにも出来そうだと思ってな。ふわり、好き嫌いはよくないぞ」
    「……なんちゃって、えへへ。す、好き嫌いしないで食べますよーだいじょぶですっ」
     本音の混じった台詞だったがふわりは笑って誤魔化し、お手伝いしますと調理台の前に立つ。。
    「それではみんなで作ろう」
    「頑張ろうね! みんなで作ったらきっと美味しいよ!」
     メイが元気に言うと3人は包丁を手に、カレーの具材を切り始める。
    「どうやったらカレーの具の形になるのかな?」
    「ん~メイも包丁を使うのは得意じゃないから……」
    「説明書には書かれていないな」
     野菜を前に首を捻る3人に、救いの手が現われる。
    「野菜はこう切るんだよ」
     水洗いした野菜をイナリが丁寧に切ってみせる。
    「「おお!」」
     3人から感嘆の声があがった。
    「難しい事はない、アタイのやってるようにすれば出来るよ」
    「私もカレー作りお手伝いするね。まずは野菜からっと」
     紫がエプロンを身に付けて野菜を軽快に切り始める。
     そんな2人を手本に皆も野菜を切り始めた。
    「そうそう上手だよ」
     イナリの指導で大きさはばらばらだが、何とかカレーの具らしくなっていく。
    「火の準備できました、いつでも使えます」
     真が汗を拭いながら、燃え盛る火を指し示す。
    「お菓子以外の料理出来るの?」
    「刃物の扱いは慣れてるからねっ。でも味は保障しないよー? すっごく甘いかも……!」
     料理をする紫を殊亜がからかうと、紫も笑みを浮かべて軽口を返す。
    「カレーの方は大丈夫みたいですね。それでは私はご飯の用意をしましょうか」
    「俺も手伝おう」
     周りを見た真は、手馴れた様子で飯盒炊爨の準備に取り掛かる。そこに智寛も手伝いに来る。
    「あっ、トッキーこっちこっちー! バーベキューしよー!」
    「さ、早くバーベキューするっすよー!」
     周が用意した網の前で時春を呼び、2人は早速熱くなった網に具を乗せていく。
    「こっちは醤油でこっちはバター味にしようかな♪」
     その隣では、ひよこがバーベキューで一面にとうもろこしを焼いていた。
    「いてっ……! よそ見してたら指切った……」
    「消毒液と絆創膏持ってきたから、兄ちゃんが手当てしちゃろう」
     カレーの具材を切っていたシグマが包丁で指を切ると、飯盒炊爨をしていたクレイが手早く傷を治療する。
    「そうだ、形ガタガタになると思うが野菜俺が切ろうか?」
    「じゃあ頼むか……俺、具がゴロゴロのカレー好きだぞ?」
     任せろとクレイが不器用ながらも野菜を切る。シグマはその間に鍋と水の用意をしておく。

    ●美味しいひと時
    「あ、トッキー、たまねぎ焼けたわよ。ほらお食べー。野菜食わなきゃ大きくなれないって母さんも言ってた」
    「玉葱甘くてうま……は!? んな、そんな変わんねぇじゃねーっすか!」
     周の差し出した焼け目のついた玉葱を、時春は美味しそうに頬張る。そしてはっとなって身長の事をムキになって言い返す。
    「トッキー俺より小さいもんな! な!」
    「むーそんな周にはこれっす!」
     目の前で背伸びする時春を周がからかうと、時春はピーマンを串に重ね刺して周に手渡す。
    「周はベジタリアンなんすもんねー? 体重気にしてるみたいっす」
     そう言って自分は肉に喰らいついた。
    「人にピーマン押し付けといて自分は肉って、おま、お疲れ様する気ないだろ。ベジタリアンじゃないですー」
     じゃれ合うように2人は肉の奪い合いを始める。
    「炒め物は火力が命だよ!」
     イナリが強烈な火で野菜を炒めていると、とうもろこしを持ったひよこがやってくる。
    「ねぇねぇ、とうもろこし焼けたよ! みんなで食べよう!」
     こんがり焼けたとうもろこしを皆に配っていく。
    「ありがとう、いただくとしよう」
    「わー! とっても美味しそう」
    「甘くて美味しいですっ」
     イルマ、メイ、ふわりがとうもろこしにかぶりつく。
    「もろこしって美味しいよねーポップコーンもいいんだけど、やっぱりこんがり焼けたのが一番だね」
    「BBQ……ソレは血を血で洗う闘争の歴史……そうBBQとは戦場となんら変わりないのだ!!!」
     そんなナレーションと共に、狩羅と十三が真剣な表情で焼ける肉を見つめる。じゅうじゅうと肉汁を垂らして焼き目の付いた肉を狩羅が素早く奪い取る。
    「ちょっと、火伏さんその肉は私が育てたやつ!?」
    「弱い者が(育てた肉を)食われ強い者が(育てた肉を)食うのです! 大体何ですか、獲物を奪うのに作法が必要ですか?」
     肉を奪われ文句を言う十三に、開き直って狩羅は言い返した。
    「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で……なんというか……救われてなきゃあダメなんだ」
    「そういうわけで肉を奪いに行ってください倶利伽羅!! ……あれ? 倶利伽羅? 倶利伽羅さーん……か、勝手に肉食べてる……!?」
     十三の言葉を聞き流し、狩羅が霊犬に指示を出そうとすると、既に尻尾を振って肉に喰らいついていた。
    「………その肉もらったああああああああああああああ!!」
    「させるかー!」
     その隙に肉を奪おうとする十三に対し、狩羅の燃える箸が迎撃する。
    「ちょっサイキック使うとか正気ですか!」
     2人のBBQバトルは続く。
    「はぁいシギー☆ 兄ちゃんが炊いた米うまいか?」
    「ちょっと焦げっぽいけど、うん、ウマイな」
     少々米が焦げたが、それでもいつも食べるのより美味いとシグマのスプーンが進む。
    「俺も弟が作ったカレーうまい!」
     歪ながらも大きな具の入ったカレーは十分美味しく食べられた。
     2人はあっという間に皿を空にして御代わりするのだった。
    「「いただきまーす!」」
     出来上がった野菜たっぷりの夏野菜カレーを皆で食べ始める。
    「んむ、ちょっと辛いですー……でも美味し、ですね♪」
    「うむ、美味いな。わたしにはちょうどいい辛さだ」
    「えへへ、美味しいね♪ メイもこれくらいがちょうどいいかも」
     ふわり、イルマ、メイが美味しそうにカレーを頬張る。中辛と甘口のルウを混ぜたカレーはほんのり甘くてお子様で食べやすい味付けだった。
    「うん、美味しいよ。ご飯も美味しく炊けてるし、これなら花丸だね」
    「それは良かったです。野外活動は慣れているので飯盒炊爨は得意なんです」
     イナリが褒めると作った皆が嬉しそうに笑い。ご飯を炊いた真も一口食べてみて満足そうに頷いた。
    「中々上手く出来ているな」
    「これ美味しいねー」
     智寛が観察するようにカレーを味わい、京哉も出来たカレーを味わう。
    「紫さん、このカレー美味しいよ。ちょっと甘いけど」
    「私もやれば出来るんだよ!」
     殊亜の感想に紫は得意気に笑う。
    「やっぱりカレーにもとうもろこしだね!」
     とうもろこしをカレーに入れたひよこが美味しそうに口いっぱいにする。
     自分達で作ったカレーは格別な味がした。

    ●島の海
     満腹になると、それぞれ海で遊んだりのんびりし始める。
    「隙あり!」
     そんな時、一条の水が飛来しイルマの頭を濡らす。
    「ふふー、油断したなイルマ! 戦いは既に始まっていrわぷっ」
     水鉄砲を構えた京哉に、反撃とばかりにイルマも水を撃ち返す。 
    「……ふふ、お互い戦うことに異論はないようだね。ならば始めよう、この勝利などない水まみれの戦いを!」
    「受けて立とう」
     京哉とイルマは水鉄砲を構える。
    「私も水鉄砲する!」
    「楽しそう、メイも参加するね」
    「わたしもやりますよ!」
     ひよこ、メイ、ふわりも参加して楽しく海辺で遊ぶ。そんな様子をイナリは微笑ましく眺めていた。
    「燎さんは泳がないんですか?」
    「アタイはもう少し休んでからにするよ」
     ゴミの始末をしていた真が尋ねると、イナリは砂浜でのんびりと伸びをする。
    「真先輩は泳がないのかい?」
    「私もこのゴミを処理したら少し泳いでくるつもりです」
     尋ね返したイナリにゴミを持った手を振って真は歩いていく。
    「絶対離さないでにゃ……?」
     『拾ってください』と書かれたプレートを首に掛けた紫が、殊亜にしがみ付く。
    「……よ、よし。水泳開始!」
     顔を真っ赤にした殊亜がおんぶの姿勢で泳ぎ始める。
    「凄い凄い、速いよー! ……にゃ」
    「……って、ちょっと! 前! 前見えない!」
     高い波を被って混乱した紫は殊亜の頭に抱きつき視界を塞ぐ。
     殊亜は背中の紫の感触に顔を赤くして、岸へと戻るのだった。
    「んー美味い! 肉、幸せっすねー……ふふ。……って、あ! それ次食べようと思ってたのに!」
     時春の前から肉が奪われ、周の口へと運ばれる。
    「いただきまーす……って、うぇ、なにこれ……!」
     周が思わず涙ぐみ驚いていると、時春がにやりと笑った。
    「掛ったっすね! それは肉巻きワサビっすよー!」
    「えっおま、俺が子供舌って知ってんだろ? 酷くね?」
     涙目の周は仕返しとピーマン巻きワサビを時春の皿に投入した。
    「これが最後の肉……」
    「最後くらい遠慮したらどうですか?」
     十三と狩羅の視線は間に残った肉に向けられ、その瞬間を待つ。
     肉汁がぱちりと垂れて燃える。それを機に両方から箸が伸びる。
    「私の勝利ですねー」
     肉は狩羅の口の中へと消えた。
    「くっそおおおおおおおおおおお!」
     悔しさに叫んだ十三の声が木霊する。
     臨海学校の楽しい時間が過ぎていく。
     完全に日が落ちて夜が来ると、寝る準備が整えば男子と女子に別れてテントの中へと入っていく。
     自然に囲まれ、虫の声を聴きながら、仲良くお喋りが弾む。夜が更けるまでお喋りの声は続く。やがて喋り疲れて寝息に変わると、遠く波の音が子守唄のように辺りを包んだ。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 2
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