臨海学校~楽しい海を守って遊べ!

    作者:雪神あゆた

     波の押し寄せる音が、聞こえる。
     ここは福岡県、博多湾周辺地域の海水浴場。
     砂浜では、
    「いい天気ねぇ」
     シートの上で、寝転がる女性。太陽の日ざしを浴びて、うっとりと眼を細めている。
     あるいは、目隠しをして棒を持った少年に、周りの子供たちが、
    「スイカはそっちだよー」
    「みぎだよ、みぎーっ」
     と声をかけている。スイカ割りをしているのだ。少年の振り降ろす棒が、砂の地面をたたく。
     他には、砂遊びをする者や、シートに座り持ってきた料理を食べる者も……。
     そんな砂浜を、猫背の中年男が歩いていた。
     男は薄汚れたシャツをきて、首からは、一枚の札を下げている。
    「こんにちはあっ。夏と言えば海、海といえば殺人だああっ、ひゃっふーっ!」
     男はポケットからナイフを取り出し、振りまわす。砂の上に置かれたスイカの隣に、赤い液体が飛び散った。
     
     学園の教室で。
     地央坂・もんめ(高校生ストリートファイター・dn0030)が仲間である灼滅者たちに話しかける。
    「皆、夏以上に熱く燃えてるか?
     夏といえば臨海学校。が、実は、臨海学校の候補の一つであった九州で大規模な事件が発生する事がわかった。
     大規模といっても、事件を起こすのはダークネスや眷属ではなく、普通の一般人。オレたちなら、事件の解決は難しく無いはず」
     なお、事件解決は林間学校と同時に行われる。
    「事件をパッと解決して、んでもって、林間学校も存分に楽しもうぜ!」
     
     そして、もんめは自分達が担当する事件の話に入る。
    「エクスブレインによりゃ、オレたちが介入するのに最適な時間は午後三時。場所は福岡県の海水浴場。
     事件を起こす中年男性が海辺を歩いているから、そこに俺達が介入。そいつがナイフで殺人するのを阻止する。
     中年男性は、首からカードのようなものをさげており、カードに操られて事件を起こすようだ。
     殺人を阻止した後、原因と思われるカードを取り上げりゃ、直前までの記憶を失ない気絶するらしいから、後は休息所などに運べば大丈夫だな。
     簡単な仕事だが……失敗すりゃ、辺りは血の海だ」
     それに、ともんめは付け足す。
    「この事件の裏には、組織的なダークネスの陰謀がある……と考えられるよな。敵組織の目的は分かんねぇ。
     でもよ、無差別殺人が起こるのを見過ごす事はできるか? いや、できねぇ! しっかり解決してやろうぜ!」
     
    「敵組織やカードを分析するのは、現場ですぐにできることじゃないだろう。それは帰ってからだな。
     事件を解決したら、まずは目一杯、海で遊ぼうじゃないか!
     海で泳いでもよし。砂浜でだって、砂遊びや日光浴などやれることは多い。
     皆で、熱く楽しくいこうぜ!」
     もんめはそう言い、にっと笑った。


    参加者
    望崎・今日子(ファイアフラット・d00051)
    白鐘・睡蓮(諸手染める復讐の煤・d01628)
    間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)
    天堂・鋼(シュガーナイトメア・d03424)
    シア・クリーク(知識探求者・d10947)
    須野元・参三(戦場の女王・d13687)
    靱乃・蜜花(信濃の花・d14129)
    中畑・壱琉(ハラペコガール・d16033)

    ■リプレイ

    ●海を護るために
     人々の笑い声。照りつける太陽。光を白い砂が反射する。
     地央坂・もんめ(高校生ストリートファイター・dn0030)の額には大粒の汗が浮かんでいる。彼女は、今、事件を未然に防ぐべく、警戒中なのだ。
     他の者もそれぞれの持ち場で警戒している。
     須野元・参三(戦場の女王・d13687)はプラチナチケットで観光客の中に溶け込み、周囲の様子をうかがっていた。
     足元にいる仲間――犬変身した白鐘・睡蓮(諸手染める復讐の煤・d01628)に話しかける。
    「こういう日に海は最高だな。さっさと事件を解決して遊ぶとしよう」
    「わん!」
     睡蓮は力強く吠えて応える。
     会話の間も参三と睡蓮は、神経を研ぎ澄まし不審な気配がないか探りつづけている。
     海水浴場にはパラソルが設置されていた。天堂・鋼(シュガーナイトメア・d03424)は猫の姿になり、パラソルの陰に隠れている。
    「にゃー」
     小さくなきながら、猫の目を細めた。
     彼女の視線の先には――スイカ割りをする子供たち。
     少年が目隠しをして、砂の上を不安そうに歩いていた。他の子供たちは彼を見守る。
     その子供たちの中に、間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)と靱乃・蜜花(信濃の花・d14129)の二人が、紛れ込ていた。
    「右右! いきすぎだ、そっちじゃない左!」
    「右なのよー!」
     両手を振って声をかける爽太。蜜花も手を口に添えメガホンのようにしながら、指示を飛ばす。
     スイカ割りからやや離れた位置で、中畑・壱琉(ハラペコガール・d16033)はしゃがみ込んでいた。両手で砂をかきあつめている。
     その隣には、シア・クリーク(知識探求者・d10947)が立っている。シアの足元には海水の入ったバケツ。
    「うーん、砂のお城ってなかなか難しいね……」
    「砂のお城は水と砂の比率が大事なんだよ、みててー」
     会話をしながら、壱琉が砂で山を作り、シアがそこに海水を慎重にかけ、二人で砂の城を構築していく。
     爽太、蜜花、シア、壱琉は遊んではいるが、四人とも遊びに没頭しきってはいない。子供たちに近づく輩がいないか、見張っているのだ。
     望崎・今日子(ファイアフラット・d00051)は、スイカ割りや砂遊びがぎりぎり見える位置にいた。彼女の手には携帯電話。
    「……そろそろ、事件が起こってもおかしくない頃合いだが……」
     呟く今日子。彼女は遠目に、猫背の男を捉えた。男はスイカ割りをする集団に近づいている。

    ●惨劇の阻止
     今日子は、目を凝らす。
     その男はズボンのポケットに手を突っ込んでいる。首から何かをさげているようだ。
     今日子は男を尾行しつつ、携帯を操作。皆にメールを送信する。
    『スイカ割りに近づく男を発見。特徴も説明と一致。方角は……』
     スイカ割りに混じっていた蜜花と爽太はメールに気づき、遊びをやめる。男と子供たちの間に立ちはだかるように移動した。
    「海辺の平和は蜜花たちがお守りするのよ!」
    「人々を救う盾になってみせる……!」
     決意を瞳に浮かべる蜜花と爽太。
     男はポケットから手を抜いた。その手はナイフを握っている。舌舐めずりする男。
     だが――今日子のメールを受け取った者たちは、既に男の近くまでやってきていた。
     人の姿に戻った睡蓮と参三も、男まで数メートルの位置にいる。
    「わんわん……じゃなかった。見ろ参三、あの男だ。挟み撃ちにしよう」
    「ああ、事を起こす前に押さえるぞ!」
     睡蓮は男の右側から、参三は左側から突撃する。二人は同じタイミングで男の腕へ手を伸ばした。がしり、睡蓮と参三の手が男の手首をつかむ。
     鋼も既に猫変身を解いていた。
    「この距離で、このタイミングならいける……」
     宣言すると、姿勢を低くする。砂を蹴って、正面からタックル。その足さばきは迅速、男に回避する事を許さない。
     蜜花と爽太は子供たちを庇える位置で待機。鋼が足を押さえ、睡蓮、参三が腕を固定。一琉と今日子がそこに加勢し、男の動きを封じにかかる。
     押さえられた男に、シアが近づき、
    「ごめんねー。大人しくしててねー」
     ナイフを振る。男の首に下げられた紐を切り、カードを奪い取った。
     シアがカードを取った途端、男の動きが止まる。
     壱琉は男が意識を失っているのを確認。
    「無事に終わったね。後は、救護室に運ぶだけかな。……っと」
     壱琉は男の体を担ぎ移動し始めた。
     その後、灼滅者の数人が、男から情報を得ようと、ESPを使ったり質問したりする。
     が、男は自分のことはおぼえているものの、カードに関する記憶はとても曖昧。いつどこで渡されたか、どんな人物に渡されたか、はっきりしない。
     しかし、惨劇を阻止できたことは、事実。灼滅者たちは互いに顔を見合せて笑うのだった。

    ●愉しい時間の始まり!
     シアが、ふっふっふ、と笑い声を出した。クーラーボックスからスイカと手拭いを取り出す。
    「ちゃんと冷やしておいたよ! 目隠しして割る役は――爽太だね!」
     爽太は手拭いを顔に巻き、目隠しする。
    「任せとけ。じっちゃんの木刀も持ってきたから、スイカなんて刀の錆に……ってあれ?」
     自信満々で宣言している爽太の腰を、壱琉がガシっと掴んだ。
    「そーっれ、まわれまわれーっ」
     はしゃいだ声を出しながら、壱琉は爽太を回転させる。勢いよく強引に。一回、二回、三回……。
     何度も回された後、爽太はふらつきつつも、木刀を振りあげた。困惑した声。
    「目が回るし、すいかがどこかわからないぞー。地央坂先輩、須野元、白鐘先輩、すいかはどっちー!?」
    「間乃中、右だ!」
     もんめが助言すると、
    「いや、違う。左だ!」
     参三があえて間違ったことを口にする。
    「それも違う。スイカは前方にある。そのまま、前へ進むんだ」
     睡蓮もしれっと嘘をつく。
     仲間に、参三は口元に指を当て、しーっと合図。睡蓮もいたずらっぽく片目を瞑って目配せ。
     混乱して右往左往する爽太を見て、数人が忍び笑い。
     一方、蜜花は、
    「爽太おにーさんの次は私が挑戦するのよ!」
     と意気込みながら、腕まくりをしていた。棒を掴んで素振りする。スイカを割る練習だ。ストレートの水色髪が元気に揺れた。

     盛り上がる仲間から、少し離れた海の家に今日子は座っていた。横には彼女の恋人、月島・立夏(ヴァーミリオンキル・d05735)。
    「オツカレじゃーん」
    「ありがとう、リツ」
     立夏が片手をあげ労うと、今日子は目を細め礼を言う。
     二人は仲間から分けてもらったスイカや、立夏が用意したドリンクを手にする。
     立夏はシャクシャクとスイカをかじり、今日子はドリンクで喉を潤す。
     今日子と立夏はともに海の方向を見る。引いては押し寄せる波。優しい音が耳に入ってくる。

     砂の上に敷かれたレジャーシート、その上に、天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)と此花・大輔(ホルモン元ヤンキー・d19737)が座っている。
     二人の真ん中には皿。皿の上には、串に刺さったホルモン焼きが大量に。
     驚いた顔の梗鼓。
    「お使いに行ってくれたのは、感謝だけど……ここに来てまでホルモン焼き? 本当に好きなんだねぇ……」
    「海は情熱。情熱はハートで、ハートはホルモン! つまり海でこそ、ホルモン焼きだぜ! ……それに、好きなモンは好きだからしょうがないだろ」
     ホルモン焼きに、がぶっとかぶりつく大輔。梗鼓は呆れつつも、ほほえましそうに彼を見守る。

     一方、波打ち際では、
    「鷹秋、水の掛け合いをしよう」
     鋼がいうなり水を掬い、山岡・鷹秋(赫柘榴・d03794)の顔に投げつけた。
     塩水でぬれた鷹秋の顔をみて、鋼は表情を変えないが、けれどどことなく嬉しそうな色を瞳に浮かべた。
     鷹秋は豪快に笑い。
    「かははっ、冷たくて気持ちいいわ。鋼もきらきらしてっし、水着も最高に似合ってるし。流石、俺の惚れた彼女!」
     鷹秋の言葉に、鋼は照れたか。一瞬できた隙を突いて、鷹秋は水を掛け返す。水の音がにぎやかに響く。

    ●それぞれが過ごす時
     砂浜では、蜜花たちがスイカ割りを続けている。
     今度は、蜜花がスイカを割る番だ。
    「一気にどかーんなのよ!」
     渾身の力をこめてスイカを――粉砕!
     木っ端みじんになったスイカに、数人が思わず苦笑。
     数分後、今度は爽太や蜜花が割ったスイカを皆で食べる。
    「みずみずしいスイカに塩。定番だが、しかし、実にいいものだ」
     参三はスイカに塩を振ってから、スイカを一口。塩が引きたてる甘さにうむ、と満足げに頷く。
    「んおいしぃー! 夏はやっぱこれだよねー!」
     歓声をあげたのは、壱琉。冷えたスイカの果汁が喉に流れていき、汗を流した体をうるおす。
     壱琉は目を閉じ、スイカの果汁の旨みを存分に堪能する。
     スイカをかじる音、汁をすする音、タネを出す音……。
     シアはスイカの赤い部分を食べ終えると、おもむろにボールを取り出した。
     それを掲げ、
    「ねぇねぇ、ピーチバレーしよーっ」
     と皆を誘う。
     爽太は既にスイカを食べ終えていた。シアの提案を聞き「いいね、やろうぜ」と賛成する。
     今度はピーチバレーを始める一行。シアがボールをポンとあげると、他の者が歓声をあげる。
     睡蓮はバレーには参加せず、仲間達に眩しそうな目を向けていた。
    「私達『灼滅者』は何者なのかをいつも考えていたが。……そんなことは些細だな……私達は、私達なのだから……」
     睡蓮の口元に浮かぶ、小さな、でも確かな笑み。

     海の家にいる二人、今日子と立夏の耳に、元気に遊ぶ仲間の声が届いた。
    「すまないな、遊べなくて」
     今日子は苦笑しながら、隣の恋人へ詫びる。立夏はドリンクを一口すすった後、首を横に小さく振った。
    「イインスよ、そんな遊びとかー。……だって、キョーコが無事なら、これから幾らでも遊べるじゃんか」
     立夏は優しい口調で言うと、今日子は確かにそうだな、と頷いた。
     頷く今日子の横顔に、立夏は自分の顔を近づける。唇を頬に寄せ――。

     鋼と鷹秋は先ほどまで水の掛け合いをしていたが、今は二人とも、砂の上でしゃがみ込んでいる。
     鷹秋が立ちあがり、鋼に近づいた。
    「これ、鋼に似合う可愛い貝殻だ。今日の記念にしような」
     鷹秋の掌の上には、薄いピンクの貝殻。
     鋼は貝殻をじっと見つめていたが、やがて、大事そうにそれをしまう。
     鋼は、鷹秋へ手を差し出した。鷹秋も手を伸ばす。二人の手がふれ、指と指が絡み合う。
    「また、来年もいっしょに海に行こうね?」
     鋼がいうと、鷹秋が力強く頷いた。

     大輔はストレッチをして筋肉をほぐしてから、波打ち際に近づいていく。
    「たくさん食った後は、やっぱ体を動かさねぇとな! 一泳ぎ……って、うおっ」
     大輔が足を海水に入れた途端、彼の顔めがけて飛んでくる水。口や鼻に海水が入り、目を白黒させる大輔。
     梗鼓が水をかけたのだ。
    「へへっ、先制攻撃! ……って、わわっ」
     梗鼓が大輔を指差して笑う。だが、大輔も反撃にえいやと水をかけてくる。梗鼓の茶色髪からぽたぽた、海水の滴がこぼれた。二人は笑いながら、水を掛け合い続ける。

     波打ち際で水遊びする者。スイカ割りやバレーでにぎやかに盛り上がる者。大事な人との時間をゆっくり過ごすもの。
     彼らの時間はあっという間に過ぎて行き――やがて、太陽がゆっくり西に沈むのだった。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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