臨海学校~黄昏の浜辺で

    作者:君島世界


     夕暮れ色に染まった潮騒が、真白の浜辺に打ち寄せては返す。博多の空の、夜の前触れとなる涼風は、昼から遊んでいた者たちの髪を優しく撫で、あるいはこの場所に留めさせようと、出店からますます立ち上る食べ物の匂いを彼らに届けている。
     日没後に行われる花火大会を見物しようと、この海浜公園には多くの人々が集まり始めていた。Tシャツにビーチサンダルといったラフな格好でいる者や、色鮮やかな浴衣に身を包んだ若者たちが、良い場所を確保しようと次々ビニールシートを広げている。
     公園に常設されている屋台村も、今日は特別に、砂浜の幅いっぱいにまで広げられていた。りんごアメや焼きそばといった定番の屋台の他にも、射的や金魚すくい、珍しいところでは型抜きなどもあり、花火を待つ間に暇をもてあますということはないだろう。
     
     続々と人々が増えていくなか、一人の男が鞄から大きな布を取り出した。ばっ、と音を立てて布を一気に広げると、男はそれを砂浜に敷くのではなく、マントとして己の首筋に巻きつける。
     男が装着した赤いマントは、しかし夕暮れの中にあっては殊更に人目を引くことはない。ごく近いところから向けられる好機の目を、男は無視するかのように悠然と声を上げた。
    「フハハハハァ! 愚者どもよ、この場に居合わせた不運を地獄で嘆くがよい! 我は『選ばれし者』、唯今より粛清を開始するッ!」
     ざわめきの中で、果たしてその宣言がどれだけの者の耳に届いただろうか。前後で何も変わらない光景を前に、男はニタニタと笑って鞄に手を突き入れる。
     引き抜かれたのは、鋭利に研ぎ澄まされた手斧であった――。
     

    「夏休みもそろそろ折り返し地点ということで、臨海学校の時期がやってきたわね。いい機会だし、私も海のそばでのんびりしようかなと思ってたんだけど、臨海学校の行き先候補の一つだった九州で、無差別な連続大量殺人事件がいくつも発生するらしいって事がわかったのよ」
     と説明を始めたのは、珍しく教壇に立っている柿崎・泰若(高校生殺人鬼・dn0056)だ。
    「大規模な事件ではあるんだけど、起こすのはダークネスや眷属でも、強化一般人でもなく、ただの『一般人』なのよ。バベルの鎖の優位性をフルに発揮できるから、灼滅者なら問題なく解決できるわね。
     けど、この事件の裏には、何か組織的なダークネスの動きがあるんじゃないかって、仁鴉さんが言ってたわ」
     名前が挙げられたのは、エクスブレインである鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)のことだろう。
    「その組織の目的はわからないけど、こんな事件が起こるのをみすみす放っておくわけにはいかないわね。いつもどおりにチームを組んで、事に当たりましょ。
     ――さて、私たちが担当するのは、臨海公園で起こる『マント男による無差別大量殺人事件』よ」
     
     その事件が起こるのは、花火大会待ちの人々でごったがえず臨海公園内だ。日の入りの近い午後七時ごろ、男は血のように赤い布をマントにして羽織り、手にした斧で近くにいる人に襲い掛かろうとする。
     男は一般人であるため、もちろんサイキックを操ることはできない。無理に戦闘に持ち込まなくとも、例えばESPだけで解決を図ることも十分に可能だ。
     またこの男は、ジーンズの後ろポケットに何かカードのようなものを所持しており、どうやらこれに操られて事件を起こすらしい。事件解決後にこのカードを取り上げれば、男は直前までの記憶を失い、気絶する。後は救護所の係員に任せておいても問題はないだろう。
     
    「敵の組織が何を狙っているのかとか、このカードがいったいどういうものなのか、っていう分析の類は、皆が学園に帰ってからになると思うわ。現場ですぐに結論を出せるものでもないでしょうしね。
     それよりも――うん、あえて私は『それよりも』って言っちゃうけど、私たちは臨海学校を楽しみましょう。この事件の解決に関しては、臨海学校と同時に行うことになっているから、事件の解決後には、お待ちかねの自由時間が待っているわ。
     折角私たちが守ったイベントですもの、心いくまで堪能していきましょう? 私も、今から楽しみにしてるわね」


    参加者
    九条・風(紅風・d00691)
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    椿・諒一郎(Zion・d01382)
    貳鬼・宿儺(双貌乃斬鬼・d02246)
    緋野・桜火(高校生魔法使い・d06142)
    桐咲・兆夢(鮮血急報イモータルクリムゾン・d12733)
    月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)
    安楽・刻(バッドエンドプランダラー・d18614)

    ■リプレイ

    ●捜し歩く
     博多の街を夕焼けが染めていく。夜ともなれば色とりどりの花火が彩るであろう空は、この時間ではまだ明るいが、どのような景色になるだろうかと今のうちから想像するのも、楽しい時間つぶしになるだろう。
     初めに『それ』気づいたのは、そういう風流人であった。お、と眉を上げて彼が声を上げると、つられて周囲の数名が、そしてより多くの人々が、その光景に気づいた。
    「お、あれ見てみろよ! 上!」
    「なんだあれ、人か!?」
    「おお、おなごしの二人、箒に乗っち空ば飛んでるばい!」
    「いや普通にクレーンか何かでしょお爺ちゃん……でもすごいじゃない! キャー!」
    「博多に玉掛けアイドル出現か! 拡散急げ!」
    「たーまかけ! たーまかけ!」
     ……過剰な反応が出ている気もするが、バベルの鎖の効果もあるから、実際はこの海浜公園だけの騒ぎで収まるだろう。ESP『空飛ぶ箒』と『ラブフェロモン』を使っている緋野・桜火(高校生魔法使い・d06142)は、足下の人々へ適当に手を振り、しかしこっそりと気の乗らないため息をつく。
    「――で、どうだい撫子さん。見つかりそうか?」
    「はい、この高さなら人の見分けもつきますし、視界内なら問題ないでしょう。……っと」
     行儀の良い横座りで桜火の腰を抱く久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)は、空いた手の指先をかじって小さな傷を作ると、その場で『クリエイトファイア』を発動させた。見上げる人々の視線をその灯で集め、高所からのアナウンスを意識させるためだ。
    「ご来場の皆様~、こちらは花火前のパフォーマンス部隊でございま~す。後ほど、花火はちゃんと見られますので、押しあったり、走ったりなさらぬ様に~」
     そうこうしていると、二人が装着したイヤホンからチームの仲間たちの声が聞こえてくる。スマートフォンの同時通話アプリケーションを活用し、彼らはリアルタイムの情報共有を行っていたのだ。
     画面を見ると、現在の発言者は月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)であることがわかる。彼の話を聞いていると、九条・風(紅風・d00691)もまた通話に参加をしてきた。
    「こちらは月居。桟橋付近を歩いていて珍しいものを見つけたよ。どうやらあれは、二名の空飛ぶ美女らしい」
    「九条だ。この辺の浜辺も同じく異状なし。……ッたく、動きにくくて敵わねェ。『この状態』だと余計にな」
    「はは、違いない。……では、僕はここを重点的に見張るから、皆も何かあれば即時の報告を頼むよ」
     巴は通話設定が繋いだままになっていることを確認すると、仮面越しの視線を周囲に巡らせる。彼を初めとした地上側のチームは、この時全員が『闇纏い』あるいは『旅人の外套』を発動させていた。
     彼らが探す相手である『マント男』から、見つからないようにするためである。一般人であるマント男は、こちらのESPに抵抗することができないのだ。
     ――それはつまり、桜火のラブフェロモンに対しても、全く免疫がない、ということでもあるが。

    ●捉え捕らえる
    「見つけた、東の砂浜だ!」
     桜火の視線の先で、赤マントの裾をこちらに向けてはためかせているのは――間違いなく、マント男その人だ。
    「フハハハハァ! 見ろ、いや見てくれ、そこな空飛ぶ女神よ! 我は『選ばれし者』、唯今よりその証明を開始するッ!」
    「撫子さんは全員に場所の通達を。私たちも行くぞ!」
     瞬間的に、桜火は箒の先端を一気に下へ捻りこむ。急激な移動に重心を寄せた撫子を、桜火は背で支えた。
     そして、指示の元いち早く現場に到着したのは、砂浜を中心に警戒していた椿・諒一郎(Zion・d01382)であった。男が鞄のジッパーを開くのを視認すると、諒一郎は走りながら闇纏いを解除し、マント男に叫びつける。
    「おい、そこの安っぽい格好のお前! そのマントは何のつもりだ、今時子供でもそんな物は身につけんぞ!」
    「な、なんだと貴様ァ!?」
     諒一郎の挑発に、男が怒りの視線を向けた。
    「どうした、悔しいか。なら、俺から証明とやらをしてみせろ!」
    「その言葉後悔するなよ、愚民が!」
     駆けつける諒一郎を前に、男が鞄の中に手を突っ込む――途端に、その鞄は内容物ごと破裂した。
    「な……!」
    「……推参――間に合うたか」
     パァン、と空気が砕ける音が消えると、男の手からばらばらと残骸がこぼれ落ちていく。その上空を、貳鬼・宿儺(双貌乃斬鬼・d02246)の蛇剣、『蛇乃麁正』がくるりと戻っていった。
    「……切諫――両の掌を挙げよ。唯、どの道斬らぬが」
     宿儺は手元に戻った蛇剣を直列に戻し、左逆手に構えなおすと、いつでも男に掛かれる姿勢で対峙する。
    「くそっ、ここまで来てやらいでか! あの斧がなくともオォォ!」
     男は警告を無視して宿儺へと駆け出した。その動きはしかし、灼滅者にとっては全く脅威とはなりえない。
     追いついた風が難なく男の鳩尾に拳を突き込んだ。
    「ご、が……!」
    「悪ィなオッサン、ちィと眠っててくれ。なァに、どうせ起きたら何もかも忘れてるさ」
    「…………」
     気楽に言う風の隣で、男はゆっくりとくずおれていく。と、その周辺に角笛の音がこだました。
     現れたのは、夜会服や様々な小道具を身に着けた桐咲・兆夢(鮮血急報イモータルクリムゾン・d12733)だ。兆夢は男をその身で隠すと、大仰な身振りで一礼をしてみせる。
    「はい、というわけで怪奇赤マントさんの出落ちネタでしたぁ! 彼に盛大な拍手を!」
     同時に発動されたESP『プラチナチケット』の効果で、聴衆は彼の言動に大した疑問を持たない。拍手をする者も幾らかはいた。
    「続きましては私、怪しい奇術師の手品をごらん下さい! 御眼鏡に適いますでしょうか、まずはこの闇の蝙蝠をご覧あれ!」
     兆夢の影業『黒影揚羽テフテフ』が、彼の右目の下から剥がれてその通りの形を取った。変幻自在に姿を変える影業へと人々の注意が向いている隙に、他の灼滅者たちがマント男を運び出していく。

    「これで、お仕事完了ですね! ……さて、なるほどこれが、話にあった『カード』ですか」
     安楽・刻(バッドエンドプランダラー・d18614)が験しているのは、マント男から没収した黒いカードだった。表面に『HKT六六六』という文字が記されているということ以外は、やはりこの場では解明できないだろう。
    「あ、私にもちょっと見せてくれるかしら」
     と、柿崎・泰若(高校生殺人鬼・dn0056)が刻からカードを受け取る。泰若もしばらくカードを見つめてはいたが、結局は何もわからず首をかしげていた。
    「じゃ、他に立候補者もいなさそうだし、これは私が預かっておくわねーってところで、そろそろ自由行動にしましょっか!?」
     よほど楽しみにしていたのか、カードをしまった泰若の頬が緩む。彼女の提案に、刻も全面的な賛成を返した。
    「待ってました! 夏、屋台、花火大会! ――満喫しましょう、皆さんで!」
     応、の声が、灼滅者たちの間に響き渡る。と同時に、街灯のスピーカーから、本物の花火大会運営本部のアナウンスが流れ始めた。
     ……こちらは、花火大会運営本部です。花火の打ち上げは、もう間もなく始まります。日も暮れましたが、熱中症に注意して……。

    ●灼滅者たちを照らす光
     私服に着替えた風が、混雑する屋台村を駆け抜けていく。列の消えた焼きそばの屋台の前に、風は滑り込むようにして入っていった。
    「オッチャンオッチャン! 三つ頼まァ!」
     ガラス棚に肘をかけて注文する風に、屋台の親父は嫌な顔一つせず快活に答える。
    「あいよっ、三皿お待ち! だが兄ちゃんよ、そろそろ花火始まるぜ? 急がねえと――」
    「花火ィ? ああ、ンなもん後だ後。それよりも飯の確保ってな! ありがとよ!」
     来た時と同じ速度で、まだまだ屋台の立ち並ぶ人ごみの中へ、風は飛んでいった。

    「これでようやく人心地、といったところか」
     灯と木陰とが混じる場所で、桜火はサングラスをかけたまま佇んでいる。梢に背を寄せた彼女の周囲に人気はなく、その手には小さく赤い、一本のりんご飴。
    「――うん」
     桜火は何かに小さくうなずいて、かり、と小さく飴を食む。飴の甘味とりんごの酸味が口の中でゆっくりと絡まり、ほどけて味の変化を楽しませてくれた。
     薄く閉じた瞼と色硝子の向こう、逆光ににじむ視界の中に、桜火は笑顔の人々を見出だすと、ひとりそっと微笑む。

    「事件を無事解決できたようで。お疲れ様です、諒一郎さん」
     と、救護所前から戻った諒一郎を出迎えたのは、有馬・臣(ディスカバリー・d10326)であった。自然と横に並んだ二人は、屋台村のほうへ歩いていく。
    「こちらこそありがとうございます、有馬先輩。ところで確か、浴衣を新調されたのでは?」
    「あれはまあ、この混雑では汚してしまいそうなので」
     ええ、と頷いてみせた臣は、前方のテントの群れを指差した。
    「それよりも、花火の時間までいろいろ見て回りましょうか。労いも兼ねて、奢りますよ?」
    「あまり貰ってばかりは申し訳無いですが……腹ごなしもしたいですし、ここはお言葉に甘えます」
     諒一郎はしばし考えたが、素直に申し出を受ける。
    「はい。私は牛串にしようか思いますが、同じものでも?」
    「では俺は二人分の飲み物と、――妹に綿飴を買っておこうかと」
    「ふふ、妹さんのことを忘れないとは、しっかりとお兄さんされていますね。微笑ましい限りですよ」
     口端をほころばせた臣の言葉に、諒一郎は近しい人に見せる苦笑を浮かべた。

     右手には焼きそばとイカ焼きを、左手にはりんご飴とカキ氷を持って、ミア・クファール(中学生ストリートファイター・d13261)は日の落ちた遊歩道を行く。一度口の中を空にすると、ミアはきょろきょろと周囲を見回し始めた。
    「そういえば、兆夢部長はどこにいるんだよ? ボクを誘っといて放置とか、見つけたらぶん投げてやる♪」
     かける技のシミュレーションを楽しく終えたミアは、ほどなく兆夢を発見する。ミアがおーいと手を振る直前、兆夢はミアでない別の誰かに話しかけていた。
    「あ、そこの君、ちょ~可愛いッスね! どうッスか、こんな暑いとこじゃなくて、あのホテルの展望台――じゃなくとも涼しい部屋でご一緒にごきゅ……へぶっ!」
     軽薄なナンパ男にはしかるべき鉄槌が下された。鼻頭を抑えた兆夢に、ミアは重心を落とし手を広げ、技の構えを取る。
    「……ふぅ。ようやく見つけたと思ったら、最低のナンパ繰り返してるなぁ……いきなりホテルとかって……」
    「ミ、ミア……さん? あの、その構え、何ッスかね……?」
     問われたミアは真顔で微笑んだ。
    「コズミック・ミア・スペシャルに決まってるじゃない♪」

    「さて、花火まではあと数分、ってところですね」」
     刻はベンチに座って、夜空を見上げていた。甘くはだけた浴衣と中性的なその外見に、道行く人はときおり反応を見せるが、刻はそんなことは気にしない。
    「ふう……暑いな……」
     己を団扇であおぎ、時折思い出したようにたこ焼きを口に運んでいると、――いつの間にか、心は遠く、空へと上っていった。
    「…………」
     言葉が消えていく。それは、花火の赤い輝きと、遅れて届く破裂音を体が感じても、しばらくはそのままであった。
     少年の目に夜の光が映る。

    「……所望――此方を一つ、願う」
    「まいど。袋無しだね? 三百円だよ」
    「……承知」
     屋台村の一角、小さな綿飴の屋台に、宿儺はいた。彼女の後ろでは撫子と泰若とが、その完成を待っている。
    「はいよ。そっちの子らと三人連れだね? 箸多くしといたから割って分けな」
     宿儺に綿飴が手渡されると、撫子はぼうっと綿飴機を見つめていた泰若の袖を引いた。
    「あら、わざわざありがとうございます。……泰若ちゃん、出来ましたよ?」
    「――おおう、すっかり見入っちゃってたわ」
     大仰に笑ってみせる泰若に、宿儺はすっと綿飴を差し出す。それから三人はまた屋台村のそぞろ歩きへと戻っていった。
    「おや、此の綿飴は中々に美味しいですね。学園に持ち帰れないのが残念です」
    「……是――頷く他に無い。泰若は如何様に?」
    「匠の技よねー。子供の頃に祖父の紹介で作らせてもらったことあるんだけど、――あの日は、蜘蛛の糸に巻かれる蝶の気分を味わったわ」
    「あの、泰若ちゃんの過去にいったい何が……あら?」
     と、ついに最初の花火が空へと打ち上げられる。その風切り音を合図に振り仰いだ先で、大輪の星が開き、きらめいて咲いた。
     瞬間、地上からは全ての音が消える。誰しもが足を止めて、見上げる空の彩色と、そして届く圧倒的な轟音とに心奪われるからだ。
    「……美麗」
     知らずの内に、宿儺はそう口にしていた。撫子も泰若も、この景色を邪魔しないよう最小限の声量で、小さく呟く。
    「この音と振動は、会場に居ないと味わえませんよね……」
    「ええ。……良かったわね、いろいろ」
     彼女たちの感慨を乗せて、新たな星が昇っていく。

    「ああ、時間通り始まったようだ」
     巴はその時、人の比較的少ない砂浜入り口にいた。ミネラルウォーターのボトルを片手に、自然体に立って空を眺めている。
    「たまにはこうして、のんびりと花火を見ているというのもオツなものだねえ。きなくさい臨海学校だったけど、良い思い出が作れた、かなあ」
     呟きの先で弾けた花火は、夜の空で瞬きながら色を変え、見る者を飽きさせない。その一つ一つを、巴は大事に胸の中へとしまいこんでいく。
     また、いつでも思い出せるように。

    「やっぱ、花火ってすげぇな……。絶対目を離したくなくなる、というか」
     陰条路・朔之助(雲海・d00390)は、花火見物の場所を探す足を止めていた。それほどまでに夜は美しく、彼女たちを照らし出す。
    「……ん、初めて、観ます。これが、花火……」
     朔之助と手を繋ぐ奇白・烏芥(ガラクタ・d01148)の掌に、じわりと力と熱が溢れ始めた。
    「――おい、ガラ?」
    「…………」
     夢中で空を向いたままの烏芥に、朔之助は微笑んで呼び掛けを止める。言葉ではない手段で、朔之助は烏芥に己の意思を伝えた。
     ここにいるよと、伝え返す。
    「……あたたか……い」
    「そーだろそーだろ。ガラ、お前の力も熱も、ぜんぶ僕に届いてるよ」
    「……朔之助君」
     もう一つの空いた手を、烏芥は差し出した。その上には、薄青色の小さな巻貝が一つ。
    「ありがとう……今日のことも、それと、このブローチも」
    「付けてきてくれたんだよな。嬉しいよ、ガラ」
     烏芥の帯止めに輝く橙色のブローチに、朔之助は受け取った貝殻を重ねる。こうして交換されたプレゼントは、眺める度に、この夜のことを思い出させてくれることだろう。

     ――忘れることのない、臨海学校のことを。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 6
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