臨海学校~夜華乱舞

    作者:篁みゆ

    ●夏の夜
     ヒュルルルルル……どーん!
     夏の夜空に大輪の花が咲くごとに、集まった人々の大歓声が聞こえる。
     海辺に集まって腰を落ち着けて夜空に咲く花を眺める人々。座る場所がないとわかっていても人混みの中へ入らなければいけないとわかっていつつも駆けつけてしまう魅力。
     海岸の外側には多数の屋台が出ている。かき氷を始めとした食べ物の屋台の他に飲み物や、遊戯関連の屋台もあった。花火そっちのけで屋台を堪能する者達もいる。
     と思えば、人の少ない岩場をみつけてしっとりと夜空を眺める恋人たちの姿もあった。
     
    「ヒヒヒヒヒヒ……」
     縁日の側で始まったばかりの花火に気を取られている観客たち。その中で、不気味な声を上げる男たちがいた。彼らはギラリと輝くナイフを手に観客の背後に迫り――。
    「選ばれし者として!」
     ぶんっ! 振るったナイフが浴衣姿の女性の背中を斬りつける。
     ぶんっぶんっ! 中学生くらいの少女を連れた男性と、その少女を斬りつける。
    「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
     花火の音に叫び声が交じる。だが、花火の音のせいでその叫び声は思ったほど広がらない。
    「どーん! どーん!」
     男たちは楽しそうに花火の音を口ずさみながら、ナイフを振るう。そこの、老人へ。
    「ひぃっ……」
     かき氷屋の店主が、血の吹きかかったかき氷をみて腰を抜かした。
    「血のシロップのかかったかき氷、いただきまーす!」
     シュンッ……鋭いナイフが店主を切りつけて、男は吹き出した血を浴びた。
     

    「夏休みといえば臨海学校ですね」
     教室で向坂・ユリア(つきのおと・dn0041)は軽やかに告げた。けれどもそれに続く言葉は重い。
    「実は、臨海学校の候補の一つであった九州で大規模な事件が発生する事がわかったと、エクスブレインの方々がおっしゃっていました」
     しかし大規模といっても事件を起こすのはダークネスや眷属、強化一般人ではなく、普通の一般人だとユリアは言う。そのため、灼滅者であれば事件の解決は難しくないだろう。
    「けれどもこの事件の裏には、組織的なダークネスの陰謀があると思われます。敵組織の目的はわかりませんが、無差別連続大量殺人が起こるのを見過ごす事はできません」
     ユリアは自身の手をきゅっと握りしめた。
    「殺人を起こす一般人はなにかカードのようなものを所持しているようです。どうやらそれに操られて事件を起こすようですね。事件解決後に原因と思われるカードを取り上げれば、直前までの記憶を失って気絶するようです。あとは花火大会本部の休憩所などに運べば大丈夫でしょう」
     現場は海岸の側の歩道に出ている屋台。ほとんどの客は海岸で花火を見上げているので、屋台の側にいるのは遅れて駆けつけた客達だ。
     無差別殺人を起こす一般人は5人。すべて男性で、ナイフを所持している。
     浴衣姿ではあるが花火が始まった直後だというのに全く夜空を見上げていない。最初の花火に客達が気を取られている瞬間、赤いバンダナを被った店主のいるかき氷の屋台の前でナイフを取り出して凶行に走る。
     だがあくまで強化されていない普通の一般人の行動だ。最初の花火が上がった時、注意して観察していれば、事件を起こす一般人の区別はつくだろう。
    「敵組織の狙いやカードの分析は、臨海学校が終わって帰ってからになると思います。すぐに調べられるものではありませんから……」
     今回の事件解決は臨海学校と同時に行われることになっている。事件発生前、そして解決後は臨海学校を楽しんで欲しいとユリアは言った。
    「私も、臨海学校で皆さんと一緒に楽しめるのを楽しみにしています」
     ユリアは笑みを浮かべてひとつ、頷いた。


    参加者
    花蕾・恋羽(スリジエ・d00383)
    織凪・柚姫(甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913)
    姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)
    皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)
    渡辺・綱姫(渡辺源次綱・d12954)
    安綱・切丸(天下五剣・d14173)
    桜庭・黎花(はドジッコと呼ばれたくない・d14895)
    宮澄・柊(迷い蛾・d18565)

    ■リプレイ

    ●散らばる殺意
     海岸沿いに屋台がたくさん出ていて、それだけでなんだかわくわくする。浜辺や付近で既に準備万端の人々の発する声が期待に満ちていて、漣に混ざって届く。守らなければ、とより強く感じさせた。
    「臨海学校だけど厄介なことが起きてるわね。ともあれ楽しむためにもうまくやりましょう」
    「そうだな。花火を楽しむために手早く片付けるか」
     花火の開始前に現場に到着した灼滅者達は桜庭・黎花(はドジッコと呼ばれたくない・d14895)と安綱・切丸(天下五剣・d14173)の言葉に頷き合い、事前に決めていた通りに分かれる。相手が五人と多いから、漏らさないための対策でもあった。
    (「さて、随分と腹立たしい事件ですね。一般人にカードを持たせた者を見つけて殺……退治したいところですが、まずは目の前の事を片付けましょう」)
     皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)は花蕾・恋羽(スリジエ・d00383)と共に目標のかき氷屋台の側を見て回る。浴衣姿の男性は何人かいたが、そのうちのどれが暴れる男なのか見ただけではわからない。
    「せっかくの臨海学校だというのに、とんだ事件が起きたもんだな。さっさと終わらせて素直に楽しみたいもんだ」
    「そうだな」
     闇纏いをした宮澄・柊(迷い蛾・d18565)と旅人の外套を使用した切丸も問題の屋台の付近で怪しい男を探していた。柊はテレパスを使用して周囲の表層思考を探る。ほとんどが花火や屋台を楽しみにしているような内容であったが、中にはこの場にそぐわない思考もあった。
     殺す殺す殺す――殺意に満ちた思考の持ち手を探すべく、柊は視線を動かした。
    (「組織的なダークネスが絡む事件……これは黙って見過ごせないですね。……できれば少しでもカードについて情報収集ができるといいのですが……」)
     小さく息をついて織凪・柚姫(甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913)は同行している向坂・ユリア(つきのおと・dn0041)へと視線を向ける。
    「向坂ちゃん、お願いしますね~」
    「はい」
     頼まれた通りにユリアはテレパスで周囲の人の表層思考を探る。やはり大半は花火や屋台に気を取られているものだったが、中にはこの場にそぐわない物騒なものが含まれていた。
    「柚姫さん……」
    「みんなに連絡しますね」
     ユリアがあたりをつけた人物について、柚姫が各班へ携帯で連絡していく。
    「この様な人の大勢集まる場所で、しかも自らの手も汚さずに凶行を企てるとは……許せません」
     姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)も周囲に視線を向けると共にテレパスで殺意のある人物を探していた。と、ナイフの場所を確認している思考をキャッチする。見れば浴衣の胸元を抑えてニヤリと笑んでいる男性がいた。
    「屋台から見て九時の方向に深緑色に白の縦縞の浴衣の男性がいます。私はそちらに集中します」
     セカイは素早く携帯で連絡を取り、自らの標的を定めた。
    「黎花はん、見つかったやろか?」
    「ちょっと待っててね……」
     渡辺・綱姫(渡辺源次綱・d12954)と組んだ黎花もテレパスで怪しい思考の相手を洗い出しに掛かる。その間に綱姫の携帯には各班が怪しい人物に目星をつけたとの連絡が入ってきていた。
    「『俺達は選ばれし者なんだ、ここで殺さないと』なんて思いつめた感じの思考の男を見つけたわ」
    「明らかに怪しいどすなァ」
    「あの辺よ、行きましょう」
     他班への連絡を忘れずに行いつつ、二人は目星をつけた男へと近づいていく。後は最初の花火が上がる瞬間を待つのみだ。

    ●殺意を狩りに
     念の為に狙いをつけた男以外にも注意を払いながら待っていると、花火の開始時刻となった。屋台付近の客達のいくらかは急いで海岸へと向かう。
     ポンッ……ヒュルルルルル……。
     最初の花火が上がっていく。灼滅者達に緊張が走った。辺りの観客達、屋台の店員達も思わず空へと視線を向けている。その中で空を見上げていない者は限られていた。
    「黎花はん!」
     注視していた男が袂に手を入れた。綱姫が声を上げる。旅人の外套で姿を隠していた黎花が男の背後からその腕を掴んで捻り上げる。ギャッと叫び声を上げた男の膝の裏を綱姫が蹴りつけて膝をつかせて。黎花が男の背中に乗るようにして押さえつけ、テレパスを使いつつ尋ねる。
    「そのカードはどこで手に入れたの?」
    「し、知らない」
     簡単に口を割らないのは予想済み。表層思考を読む。だがどうもはっきりしない。男もはっきり覚えていないのか、女性だったような、男性だったような、子どもだったような……そんな曖昧な感じだった。男はなおも暴れようとするので綱姫が手加減攻撃で眠らせ、帯の間からカードを奪い取った。
    「暴れ、ないで、下さい……」
     男の腕を抑えた恋羽だったが、闇纏いをしている彼女の姿は男には見えていない。急に動かなくなった腕を何とか動かそうと力を込める男。素早く反応した桜夜は日本刀を取り出し、峰打ちを浴びせる。殆どの者が上を向いている間だから良かったが騒ぎになるとまずいので、男を気絶させるとすぐにしまった。
    「カードは見つかりましたか?」
    「あ、ありまし、た」
     恋羽が男の財布からカードを取り出し、任務完了。だが放置するのもあんまりなので、二人で協力して男を木陰まで運ぶことにした。
    「あの男に間違いない」
    「よし」
     背後から忍び寄った切丸が男の首に腕を回して締め上げる。もがき苦しむ男の手から柊がナイフを取り上げた。と、ガクリ、男が落ちる。それを確認して合わせに入れられていたカードを発見。熱中症だと言い訳するために木陰に運んで一息つく。
    「六六六人衆は本当大人しくならねェな。これからも新しいやり口で事件起こそうとするんだろうか……」
    「悪魔のようにデモノイドを生み出すわけでもなく、ヴァンパイアのように闇落ちを誘うわけでもなく、一般人に事件を起こさせるだけってのは何が目的なんだろうな」
     呟き合って二人は一人でいるセカイの元へ向かった。
    「貴方にこのカードを渡してきた人物はどの様な方でしたか? ……思い出しなさい!」
     切丸と柊が駆けつけた時、セカイは男を抑えこんで問うていた。テレパスで表層思考を読み取ろうとするが、やはり男はカードを誰から渡されたかははっきり覚えていない様子だった。
    「姫条!」
     駆けつけた切丸と柊がナイフを取り上げ、懐からカードを取り上げると、男は気絶して大人しくなった。
     柚姫はユリアが目星をつけた男に闇纏い状態で近づいた。ナイフを取り出そうと袂に手を突っ込んだ腕をユリアが抑えこむ。彼女を払おうとした男の反対の手を柚姫は押さえて庇い、帯に差し込まれていたカードを抜き取った。すると男は気絶して倒れこんだので、念の為ナイフを取り上げる。
     連絡を取り合い、男達を木陰に運べば任務完了。始まったばかりの花火を楽しむのに遠慮はいらなくなった。

    ●夜華乱舞
     クラブの仲間達と合流するまでの間という限定的時間の者もいたが、折角出来た縁だと屋台を回ることにする。
    「んー、リンゴ飴って固いわね……」
    「美味しい、ですか?」
     ぺろりとリンゴ飴を舐める黎花に、恋羽が首をかしげて問う。美味しいわよと返されれば、買えばよかったと少し後悔。その側では綱姫が紐くじの屋台をじっと見つめていた。
    「んー、これ当てたら都香姉はんは喜ぶやろか?」
     紐で釣られた景品を引き当てるタイプのくじ引き。綱姫の狙いは現在は生産終了している超レア物のゲーム。
    「あら、おじさん。このくじ当たりにつながってないように見えるわよ?」
    「そ、そんなことはないぞ!」
     黎花のチャチャに慌てた様子の店主。なら当たるわね、と黎花が促して綱姫が紐を引き上げた時。
     パァンッ……!
     一際大きな音に導かれるようにして、一同は空を見上げた。そこには今日一番の大輪の花が咲き乱れていて。
    「綺麗、です……」
    「わっ……何度見ても見事なものよね」
    「はぁ、地元の大文字とはまた違った風情がありますなァ」
     恋羽に黎花、綱姫が呟く。夜空は直ぐに次の花に彩られていくが、どれも綺麗だ。
    「花火は好きだぜ。屋台の食べ物も好きだが」
     切丸も妹にと射的で取ったぬいぐるみ片手に満足気に笑顔を浮かべた。
    「ふふ、この素敵な夜空に咲く大輪の華を守れてよかったです。それにこんなに素敵な人たちと知り合えたことに本当に感謝、です~」
     柚姫が嬉しそうに微笑む。本当にその通りだと他のメンバーも頷いた。

     屋台を見て回っていた【杵築古書堂】の面々。とある屋台で足を止めたのは煌介だった。そこは光の洪水。屋台を飾っているのは様々な光を放つケミカルライト。
    「おぉ、賑やかだな。さっそくかき氷でも……おや、煌介どうした?」
    「賑やかでいいですねぇ……ん、月原君、何か気になるものでも?」
     ヘカテーと嘉月の言葉に答えたわけではないが、煌介の口から出たのは、今まで見つけても通り過ぎるしかなかったそれに対する僅かな憧れが込められていて。
    「……今なら給料で買える……」
     零した言葉が恥ずかしくて横髪を弄るけれども、皆が優しく微笑んでくれたから。
    「ケミカルライトですかー、面白いですよねあれって」
    「ケミカルライトじゃないか、綺麗だな」
     細く輪になっているもの、太いスティック状のもの、いくつか組み合わせてカラフルな長い輪にしたものなどたくさんあって。
    「ケミカルライト……今まであんまり興味なかったけど、こうして並ぶと綺麗ですねえ」
     楽多がピンクを手にとったのを皮切りに、ヘカテーは青色の腕輪、嘉月は緑色、そして煌介は派手な蒼色を手に取って腕にはめる。
    「こういうのも悪くないな。静かで優しい光だから、花火の邪魔にならないし」
     腕輪をかざして空を見上げたヘカテー。瞬間、大輪の花が咲く。
    「おお、花火も迫力ありますね。消えていくの、ちょっとケミカルライトの灯りっぽいかも」
    「花火大会は人手が凄いから大変ですが、やっぱり間近で見るのはいいですねぇ……」
     楽多も嘉月も空を見上げて。追って見上げた煌介はそっと呟いた。
    「ヘカテー……雇ってくれて、感謝」

     ユリアと共に【bonheur*】の面々と合流した柚姫の頭を紫桜がぽむぽむと撫でる。
    「お疲れさん、無事に護れてよかったよな本当に」
    「本当にこの花火を守れて良かったです~。向坂ちゃんともご一緒できて嬉しいのです~。あ、綿あめ少しいかがです?」
    「あ、じゃあ少しだけ……」
     柚姫と共に両側から綿飴に齧りつくユリア。その甘さに笑顔が浮かぶ。
    「お話しするの初めてですね、仲良くしてくれると嬉しいですよー♪」
    「はい、こちらこそ!」
     ユリアに声を掛け、染は並んで歩く。紫桜や翠里は屋台で食料を買い集めて適当なところに腰を掛けた。
    「やっぱり、夏といえば花火っすね! 一度は見ておきたかったので、見れて嬉しいっすよー」
     リンゴ飴を齧りながら花火を見上げて目を輝かせる翠里。紫桜は柚姫にイカ焼きを差し出して。
    「イカ焼きもありがとうございます。ふふ、美味しいですね~」
     そっと寄り添い合う二人。
    「ねぇねぇ柚姫、花火買って今度皆で花火やらない? 今回参加出来なかったクラブメンバーも誘ってさ!」
    「わわ、染ちゃん、それは名案なのですよ~。今度クラブの皆さんで遊びましょう」
     視線を染へと向けた柚姫の耳元にそっと紫桜は唇を寄せる。
    「いつか、二人だけで花火、見に行こうな」
     小さな、約束。

    「恋羽ちゃんお疲れ様! さ、まだまだこれからよ♪」
     フリル付きの白ロリ浴衣に身を包んだ【暇部】の夜好は合流した恋羽に、かわいいカップに入ったタピオカドリンクを差し出して。
    「ありがとう、ございます。お腹すき、ました」
    「美味しそうな屋台たくさんあったよー」
     翔の言葉に恋羽のお腹が反応しそうになる。
    「焼きそばとか、たこ焼きとか、食べたいなぁ……。暑いから、かき氷とかも、いいかもです」
    「行きましょう!」
     そっと恋羽の手をとって、夜好は引いていく。翔は気ままに屋台に寄りながらも二人から離れないようについて歩いて。綿飴やリンゴ飴、焼きそばに焼き鳥、どれか一つには絞りきれない。
    「タコ焼き美味しいよー。食べてみるー?」
    「いただき、ます」
     翔の差し出したたこ焼きをはふはふしながら食べる恋羽。次は金魚すくいと射的よとお祭りを存分に楽しむ夜好。
    「わー、すごーい、綺麗なのー」
     翔の歓声に振り仰げば、今が盛りとばかりに花が咲き乱れている。
    「素敵な夏の夜ね」
    「……はい」
     夜好も恋羽も空を仰いで、この夜の名残を惜しむのだった。

     屋台の喧騒から離れてそっと、静かに花火を見上げている者達もいた。
     一日ずっと一緒だったレイラとシロ。二人共浴衣姿で岩場に腰を掛けて。既に屋台で買い込んできた水風船ヨーヨーや綿飴片手に空を見上げる。
    「わ~!レイラ、凄い凄いっ、おっきーお花! ほらまた上がるよっ」
     初めての花火に興奮気味のシロ。そっと隣を見れば花火に照らされたレイラが素敵だ。
    「浴衣姿のレイラ、綺麗で可愛いね」
    「四谷さんも素敵ですよ」
     照れながら告げたレイラは思わずシロを抱きしめて。二人語り合うのは今日一日分の思い出。
    「また今度こうやってどこかに遊びに行きたいですね」
     防砂林の側で静かにふたりきり、ぴったりくっついて夜空を見上げているのは桜夜と桜の姉妹。
    「見て見て、桜夜! すごく綺麗♪」
     桜が腕をとって声をかければ桜夜は。
    「うん、本当に綺麗だね、桜」
     大好きな妹に優しく返して。
    「わぁ、また上がったよ♪」
     可愛い妹とこうして花火を見られることに喜びを感じる。それは桜も同じだった。
     守り切ったかき氷の屋台で買ったかき氷を片手に、浴衣姿で岩場に腰を掛けているセカイとユリア。見上げる花火は艶やかで。
    「やはりユリアさんは和装も似合いますね。お綺麗ですよ」
    「そ、そうですか? なんだかいつもと違うので……緊張します」
     微笑み合った二人を見つめるように、ドォンと花が咲いた。
    「一緒にいいか?」
     と、声をかけてきたのは冷えたジュースのペットボトルを三本手にした柊。
    「勿論です」
    「どうぞ」
     快諾に礼を言い、同じ岩場に腰を掛けた柊はセカイとユリアにペットボトルを手渡して空を仰ぐ。ドォン……パラパラパラ……花が咲いては散っていく。
    「打ち上げ花火というのもいいもんだな。手持ち花火も好きだが、打ち上げのこの腹に響くのはなんというか……癖になりそうだ」
    「確かに、体中に響く音を立てて咲く花、儚いところがまた癖になりそうです」
     夜空を見上げながら同意を示すユリアの横顔をセカイはそっと見つめて。
    「波の音と花火の灯り……室町の頃より続く、日本の夏の素敵な光景ですね」
     そして視線を花火へと戻した。
     夏の夜は、儚い花達とともにゆっくりと更けていくのだった。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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