「いらっしゃいませ」
ある宝飾店を訪れたのは、華やかに波打つ金の髪をした、艶やかな美女だった。
マーメイドラインのドレススーツは気品ある赤。余程自信がなければ着こなせないデザインだ。ピンヒールを鳴らし、優雅に店内を一巡した。
大きく開いた胸元を飾るダイヤ、指を飾るのはプラチナリング。どんな豪華な宝飾品も、彼女の引き立て役に過ぎなかった。
「ルビーを見せていただける?」
尊大ではあるが、言いつけ慣れている口調。
初老の店主は長年の経験から、彼女は上客に値すると瞬時に判断した。深く一礼し、店奥の金庫から厳選した品を天鵞絨のトレイに並べる。店頭の商品とは値段の桁が違うものだ。
美女はそれらを一瞥し、指先で転がした。
「序列が上がった記念なの。遊び心のあるものが欲しいのよ」
美女の指輪が輝く。店主の胸と首と額に小さな穴が空き、そこから真紅の液体が高く吹き上がる。店員が悲鳴を上げた。
「これくらい赤くて滑稽なものがいいわ。さあ、彼らが来るまでわたくしを満たして頂戴」
●
「もしかしたらと思ったんです。番号が、空いたから……」
教室に先に来ていた、月宮・白兎(月兎・d02081)は俯きがちに言った。
その隣でまだ真新しいファイルを開く櫻杜・伊月(高校生エクスブレイン・dn0050)は、ファイルのページと手帳のメモを確認しながら頷いた。
「間違いない。六六六人衆の六三三位に、新顔が入ったようだ」
少し前に、六三三位は灼滅者の手により灼滅された。
空いたその番号を、新たに獲得する六六六人衆が出るのではないか。その六六六人衆が、またゲームを始めるのではないかと白兎に相談され、伊月はサイキックアブソーバーのもとに向かい、新たな惨劇を予測した。
「六六六人衆、六三三位。スカーレットと呼ばれる女。宝飾店ばかりを狙い、客も店員も皆殺しにし己を飾る。赤を好む紅、とは皮肉なものだ」
笑えない冗談だと伊月は唇を歪める。
「女は灼滅者をおびき寄せるために店を訪れる。一人でも闇堕ちさせるために」
「! 巻きこまれた人は……?」
「まだ何も起こってはいない。女は客として振る舞っている。だが、君たちの到着が遅れれば遅れるほど、苛立って皆殺しの確率は高くなる」
白兎は俯きながらも、はっきりと頷いた。
六六六人衆は凶悪にして狡猾。息をするように殺し、気まぐれに殺す。そしてスカーレット、新しい六三三位は灼滅者を嘲笑うように、一般人を先に狙う。
──出し抜くことは、容易ではない。
伊月は地図と手書きの見取り図を机に広げた。
「場所は繁華街の中にある宝飾店になる。店員は5名、いずれも高度な教育を受けた者たちだ」
警報装置は備え付けてある。けれど、警備員が駆けつけても被害が増えるだけだろう。
「店は界隈でも格の高い老舗宝飾店だ。避難させるための潜入には、工夫が必要になる」
学生の小遣いで買えるような商品は置いておらず、臨時でアルバイトを雇うこともない。その場に適した装いや振る舞いでなければ、やんわりと店を出されてしまう。
「到着した時点で客はいないが、すぐに常連の老夫婦が店を訪れる。二人の関係者を装って1~2名なら入店することは可能だろう。それでも、老夫婦にとっては見知らぬ他人となる」
ESPは万能ではない。
そしてどんな力があったとしても、灼滅者は子供の集団なのだ。
「全力で戦闘にかかったなら、六三三位の灼滅は不可能ではない。だが、今回の目的はあくまでも一般人の保護にある。一人でも多く一般人を救出してほしい」
伊月は手帳を閉じ、言った。
「全員揃っての報告を、待っている」
参加者 | |
---|---|
橘名・九里(喪失の太刀花・d02006) |
桜之・京(花雅・d02355) |
楠木・刹那(鬼神の如き荒ぶもの・d02869) |
椿原・八尋(閑窗・d08141) |
譽・唯(断罪すら許されない暗殺者・d13114) |
真田・真心(遺零者・d16332) |
甘夏・氷柱(極突刺深と呼ばれた女子高生・d16579) |
矢織・ケント(紫雨・d17730) |
●
「すみません……わぁ」
「すごい店ですね」
繁華街の高級宝飾店。
橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)と椿原・八尋(閑窗・d08141)は、一歩入るなり、店内の豪華さに圧倒されたように息をついてみせた。
静かな音楽に充ちた店内。磨かれたショーケースには、様々な宝石が繊細に加工され並んでいる。
紅の女、六六六人衆六三三位、スカーレットは初老の店主に迎えられ、奥の席に通された所だ。
「いらっしゃいませ。どういったご用件でしょうか」
どこを見ても乱れのない、若い女性店員がすかさず寄ってきた。どんな客であっても非礼にならぬよう、教育された微笑みと言葉で、用件を訊きにくる。
「あの女性が落とされたのを見かけて、追いかけてきたのですが」
八尋がポケットから出した宝飾品は、店頭の商品と比べれば明らかに見劣りするものだ。
即時に用意できる宝飾品の類には限界がある。精巧な模造品を入手するには手間がかかり、最も入手しやすいショップの商品は、どんなに吟味したとしても、本物と比べたなら違いがわかってしまう。
困ったらしい店員は、ショーケースの片隅で書類を整理している年上の同僚を呼んだ。
「主任、こちらのお客様が」
新たに来た店員は、彼女たちをまとめる役職の者だろう。イレギュラーな対応にも慣れている様子だった。
「お客様は商談に入っておられます。よろしければ、こちらで一旦お預かりしまして、ご確認いただいてもよろしいでしょうか?」
見るからに店にそぐわない男子学生を、顧客と直接話をさせることはやんわりと拒絶された。もし二人が無礼な真似をしたなら、店側の責任が問われ信用を損ねることになるからだ。
直接見せたいと八尋と九里は食い下がるも、店員を納得させるほどの、直接話さなければならない理由を持っていなかった。見間違いだと引き下がるわけにもゆかず、品物を店員に渡すしか方法はなかった。
「少々お待ちください」
その様子を横目で見ながら、九里は残っていた若い店員に話し掛ける。
「あの金髪美女は、よく店に来るんですかね?」
指さすのは豊かに流れる金髪、艶やかな紅を纏う女。
あけすけな軽い言葉に、店員は曖昧な笑みを浮かべるだけだった。
『店側に3人。奥に事務所がありそうなので、2人はそちら側にいると思います』
「わかったわ。ありがとう、気をつけて」
話が一旦終わっても、携帯電話は通話状態にしておく。
店の自動ドアの近くで中の様子を窺う楠木・刹那(鬼神の如き荒ぶもの・d02869)と真田・真心(遺零者・d16332)からの連絡を受け、桜之・京(花雅・d02355)たち裏口班が動いた。
従業員用の裏口は、隣のビルとの隙間になる細い通りにあった。正面入口からは見えない位置だ。
刹那は見取り図の送信も考えていたが、店内は遮蔽物もなく、一目でほとんど見渡せるため省いていた。救助対象の店員も、一箇所に留まり続けるものでもない。
その代わり、奥の壁の向こう側に事務所の存在を指摘する。店内から見える場所に、金庫などの貴重品庫や、顧客名簿などを保存する事務所があるはずがないから。
「監視カメラ、ドアにはナンバーキーに、警備会社のシール……」
数えただけでも防犯設備は3つ。頑丈そうなドアをこじ開ければ警報が鳴り、数分で警備員が駆けつけてくる事が予想できる。
「監視カメラって、バベルの鎖で何とかならないのかな」
矢織・ケント(紫雨・d17730)が首を傾げる。灼滅者やダークネス絡みであれば、情報拡散は防げるはずだ。
「私たちが強盗とか思われる事は、ないんじゃないかなぁ?」
甘夏・氷柱(極突刺深と呼ばれた女子高生・d16579)が、考えながら言う。戦闘になれば、殺界形成も発動される手はずになっている。後から来る客の老夫婦や、警備員が乱入することも恐らくはないだろう。
譽・唯(断罪すら許されない暗殺者・d13114)は僅かな音も聞き逃すまいと、周囲の音に耳を澄ませていた。
しばらくして、呟く。
「……声が……」
「どうしたの。何があったの!」
携帯から聞こえる入口前の様子。刹那と真心が交わす慌ただしい声。内容までははっきり聞き取れない。そして、
『ああっ!』
悲鳴のような声。固い雑音のあと反応が途切れた。続けて聞こえてきたのはガラスの割れる音、エンジンの音、人の叫び声。
通りが騒がしい。夕方ほど人は多くなくとも、買い物客や通行人はいるのだ。氷柱が路地の角まで様子を見に行けば、通りを人が散っていく様子が見えた。
「合図を待つ暇はないようね。行くわよ!」
京は迷わずガンナイフの銃口をドアに向ける。続けざまドアノブに撃ち込めば、辺りに警報が鳴り響いた。
●
主任と呼ばれた店員が紅の女に声を掛ける。白い布に包んだ『落とし物』を見せ、所在なげに立っている学生を掌で示す。経緯を説明しているのだろう、そのとき。
鈍い音がして店員がゆっくりと倒れた。目を見開いたままの、何が起こったのか理解できないといった表情。
胸に空いた小さな穴から、赤い液体がとめどなく広がっていく。
紅の女の指輪が光を帯びていた。
「わたくしに安い贈り物を下さったのは、あなた?」
倒れた店員を邪魔とばかりに横へやる。びちゃり、と生々しい音が響いた。
「スカーレット」
八尋が腕にデモノイド寄生体を這わせた。粘液質のそれはみるみる形を変え、サイキックソードを腕と同化させ巨大な刃と化す。
「名を知ってくれていたのね。灼滅者の坊やたち」
紅を差した唇が微笑む。先制攻撃を仕掛けようとした八尋の足が、寸前で止まった。
女が片手で鷲づかみ吊り上げたのは、商談をしていた初老の店主の首だ。呼吸を妨げられもがいているが、ダークネスの力は小揺るぎもしない。
床に広がってゆく赤に表情も変えず、九里は殺界形成を展開した。
立ち尽くす若い店員を片腕で横抱きに走り、神薙刃を自動ドアに放つ。粉々に割れたガラスが通行人に降りそそいだが、大した傷にはならないだろう。
抱えた店員を外に突き飛ばし、昏い瞳を紅い女に向けた。
「素敵な眼ね。くり抜いて指輪にしたいくらい」
「お褒めにあずかり、光栄ですよ」
歪んだ笑みが九里の唇に浮かんだ。
エンジン音が高く響いた。入口側で待機していた真心が、ライドキャリバーを突入させてきたのだ。
「チャク、止まるっす!」
勢いよく飛び込んできたライドキャリバーは急ブレーキを掛けた。このまま突撃したなら、店主まで巻き添えにしてしまう。真心はぎりと歯噛みして、ライドキャリバーに載せていた縛霊手を装備する。
突入した刹那もまた、振り上げた縛霊手の行き場を失っていた。命が潰える瞬間を目の前にしても、状況説明と突入タイミングを指示する通話を続けることが、果たしてできただろうか。持っていた携帯は店の前に落としていた。
「早かったのね。わたくしを退屈させなかった、ご褒美を上げなくちゃ」
ごぎり。
厭な音がして、店主の首がありえない方向に曲がった。力を失い、四肢がだらりと垂れ下がる。
六六六人衆は、ダークネスの中でも最凶の部類に入る。狡猾にして凶悪、子供が石を蹴りながら歩くように、六六六人衆は人を殺して歩く。人間の命など砂粒とも思っていない。
まして彼女は『遊び』に来ている。より楽しく遊ぶには玩具が必要だ。それは断末魔の痙攣であり、恐怖の悲鳴であり、それらを目にした灼滅者の怒りだった。
「さあ、あなたたちはどんな赤をくれるのかしら?」
絶命した店主を店の中央に投げ捨て、笑うスカーレットを包み込むように、どす黒い殺気が急速に渦を巻いていく。
こじ開けた裏口ドアから京とケント、唯に氷柱が駆け込もうとしてすぐ、逃げてくる店員二人とぶつかった。向こう側の見えないドアを攻撃し、怪我をさせなかったのは幸いだった。
殺界形成の効果で、女性店員二人は最も近い出口である裏口の方へ、無意識に逃れようとしていた。そこに起こった店側の異様な気配と、ドアがこじ開けられ鳴り響く警報。
うろたえるばかりの二人に、ケントのラブフェロモンは効果を最大に発揮した。
「お姉さんたち、ここは危ないよ。僕と一緒に逃げよう?」
警戒心の弱まった二人は、あどけなさを残した少年の差し出す手を握り、残る恐怖に涙を浮かべる。
こっちだよと手を引かれれば、素直に裏口へ誘導される。ケントは大丈夫と精一杯の笑顔で二人を励まし、京に向かって頷いてみせた。外への誘導は任せて、と。
「死にたくなければ、立ち止まらずに逃げなさい!」
その背に叫んで店内へ駆ける京に続き、唯はウロボロスブレイドを構え店への通路へ向かう。氷柱が影業を唸らせながら後を追った。
三人が血の臭いでむせ返る店に駆け込むと同時に、どす黒い殺気の渦が広がった。
●
全員を包み込む殺気の渦から、橘花の銘持つ槍を構えた九里が飛び出した。戦いの喜びの前では、己の傷も無意味に等しい。
「洋装は勝手が違って敵いませんねぇ」
軽い口調でいつもの服装との違いを嘆き、螺旋を描く槍は正確に女の脇腹を削り取る。槍を回り込むような動きで八尋が駆けた。
憎しみに充ちた瞳が標的を正面に捕らえ、目にも止まらぬ連打を放つ。ふたつの死を目の当たりにしても己を包まない闇は八尋を苛立たせるが、目の前の六六六人衆へ憎しみをぶつける他、手段がなかった。
「可愛いわ、あなた」
耳元に注ぎ込まれた蠱惑的な囁きに、ぞっとして数歩退く。
射線を遮るようにライドキャリバーが駆ければ、女は床を蹴って身を翻した。
「センスの腐った趣味人ほど、エンガチョなもんはねェっすよ!」
ライドキャリバーの高いエンジン音と共に、真心が叫ぶ。
「死に晒せェッす!」
両手に限界まで溜めたオーラが、女めがけて放たれる。貫くかと思えば、寸前で女は床を滑るように動いた。髪の先だけが焼け焦げる。
「品の無い子は嫌いよ」
近くはない距離を一瞬で詰め、女の指先が軽く真心の胸に押し当てられた。衝撃を覚悟したが、叩きつけられる異形の腕を避けるため、女は苦笑して退いていく。
「六六六人衆ときたら、どいつもこいつも!」
助けられなかった2つの命。刹那はショーケースを踏み抜きながら、最短距離を跳ぶようにして女を追う。再度振り上げた腕は女の肩先を抉ったが、それだけだ。確実にダメージを与えた手応えが感じられない。
いつも六六六人衆とは正面からまともに戦うことができない。嘲笑うかのように命を奪う行為は、刹那を心底苛つかせていた。
「救う手立てはないのね」
床に転がるふたつの骸。
「赤は、私も好きよ」
京は虚ろな声でぽつり呟く。息を吸って跳び、女の死角を取るため壁を蹴る。爪先が血濡れて音を立て、軽く眉をひそめた。
「怖い顔をしては、折角の綺麗な顔が台無しよ」
「笑うことはできないわ。この赤を」
殺戮経路から導き出した死の一点を狙うティアーズリッパーは、呆れるほどあっさりとかわされた。空を切るガンナイフを握る手に冷たい手が重ねられる。
「あなたの絶望も素敵ね」
スカーレットの紅い唇が間近にある。おぞましさに零距離格闘を仕掛ければ、ひらりとまた距離を取られた。
「あなたたちは今日ここに、何をしに来たのか教えていただける?」
フロアに響く声が全員に届く。
「わたくしと遊びに来たの? それとも、殺すことを止めに来たのかしら」
「……後悔を……しないため……」
唯が答える。
でたらめな軌跡で飛ぶ唯のウロボロスブレイドの一撃を、スカーレットは避けなかった。片腕を刃に切り裂かせたまま、氷柱が放ってきた黒死斬もその身に受けた。
女は構わず続ける。
「わたくしを殺しに来たのではないのでしょう?」
「少なくとも、僕は殺しに来たつもりですよ」
ずれた眼鏡を上げながら、九里は薄ら笑いで答える。
「コスパ破綻の穀潰し、それがアンタら六六六人衆だ。腹ァくくりましょうか、お互いに」
吐き捨てるように挑発する真心と呼応して、ライドキャリバーが唸りを上げる。
「殺せるならばかまわないわ。でも、何もかもが中途半端すぎるの。もう一度訊かせて。あなたたちは何をしに来たの?」
「みんなみんな守るためだよっ」
一際幼い声が響く。避難誘導を終えて戦場に戻ってきたケントだった。最後列から身軽に床を蹴って放ったご当地キックが、スカーレットの能力を高めていた効果全て破壊する。
「こんなことが楽しいなんて思えないよ。だから、諦めて帰ってもらうために頑張りにきたの!」
それを聞いたスカーレットは目を細め、艶やかに笑った。
「いい子ね。それなら、最後まで頑張ってごらんなさい」
笑みを消した女が、逆巻く殺気を纏って灼滅者達に向かい合った。
●
戦いは長引けば長びくほど、どちらかが不利になるのは、灼滅者達も知っているはずだった。極端に前に固まった配置は回復効果を薄くし、徐々に疲労が溜まっていく。
ダークネスの攻撃力と回復力は終始灼滅者を圧倒し、序盤から歩調が乱れていた灼滅者側は、一人、またひとりと倒れていく。
既に氷柱が膝を折り、唯もまた肩で息をしている。ケントが何度回復を飛ばしても追いつかない。
自然、攻撃力が最も高い九里を他の仲間が庇うことが多くなってゆき、連鎖的にダメージが蓄積されていく。
「イい声で啼いて下さいよ……!」
高速で繰り出された九里の鋼糸に身を切り裂かれても、女は顔色ひとつ変えず、赤いスーツを舞わせては腱を断つため急所を狙う。
重い一撃は、割り込んだ真心のライドキャリバー・チャクラバルティンが受けた。遂に火花を上げて動きを止めた。
「相棒!」
「守るだけじゃ終わらないのよ。坊や」
続けざまの衝撃に、真心の腹が赤に染まる。蓄積されたダメージが意識を白く染め上げていく。
「これで二人。まだ続けるのかしら」
刹那も既に回復だけに専念している。ケントの癒しも複数を回復するには追いつかず。
数度の打ち合いの後、無尽蔵に撒かれた殺気の渦が晴れた後には、唯が伏していた。
「三人。そろそろ良い子はおうちに帰る時間ではなくて?」
ふらり、京が体を傾がせた。
「……救う手立てがないのなら」
京を包む気配が歪んでいく。
「赤を好む紅。自分自身の血で、汚れればいい」
完全に京が闇に呑まれる前に、切り替わるように声を上げたのは──八尋。
「あんたたちに殺めさせるくらいなら、僕が染まって止めればいい。簡単なことだったよ」
晴れやかな表情で、八尋は昏い瞳をスカーレットに向けた。
「そう、それでいいの。わたくしを殺せたなら、序列はあなたのものよ」
不意を突いて、女は破壊された入口へ滑るように駆けた。後を追う八尋。
「待って! だめだよ、行っちゃだめだよ!!」
ケントの願いに八尋は一瞬足を止めた。
「六六六人衆は憎い。憎いよ、だけど」
あの女を殺せるんだ、と言い残し。
闇にひとり、消えた。
作者:高遠しゅん |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:椿原・八尋(閑窗・d08141) |
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種類:
公開:2013年8月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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