臨海学校~夏の海はボーナスステージかテコ入れか

    作者:黒柴好人

     夏の博多は暑い。それこそ海に飛び込みたくなるくらいに、だ。
    「HAHAHA! ほうーらハニィー! 塩分多量な水を存分に浴びちゃえよ!」
    「UFUFUFU! ダァリンってば、海水は水に対しておよそ3%の塩分なのよ!」
    「おっとそいつぁ多量とは言えないな!」
    「そうよ。でもこんなにしょっぱい……。一体ナゼなのかしらね?」
    「俺がキミを泣かせてしまったからサ」
    「え?」
    「幸せの涙で……な……!」
    「ダァリン!」
     水着できゃっきゃとはしゃぐカップルもいれば、
    「なんだアレ……」
    「現代日本にあんな奴らが現存するのかよ」
    「……木っ端微塵にもげろ、リア充どもめ」
     男同士でむさ苦しく海を楽しもうとするグループもいる。
     幸せと負の感情が折り重なり融け合う。それが夏の海。
    「おい、あっち行こうぜ。あんなん見てたら目と精神の毒だ」
     と、彼女いない歴ウン年の少年が踵を返してその場を離れようとし、しかしそれは出来なかった。
    「そんなに目障りなら消しちゃえばいいんじゃね?」
    「は……?」
     ビーチパラソルを肩に背負い、Tシャツにズボンを履いた男が目の前に立っていたのだ。
    「輝く太陽! 爽やかな潮風! 鼻を突き抜ける海の家のやきそばの芳香! どれも最高だよな!」
    「は、はぁ」
    「こんな最高な気分は害されたくないよなー。てなわけで、消すのが一番ってこった」
     閉じたビーチパラソルの中から抜き出したのは、
    「こんな風に」
     熱い太陽に輝くぶ厚いナイフ。
     男はそれを躊躇なくカップルへと振るい、叩きこみ、斬る。
     一瞬にしてカップルの命は断ち斬られてしまった。カップル生命という意味ではなく、命そのものが。
    「な、簡単だろう? あ、まだ見たい? 見たいよな!?」
    「う、うわああああああああああ!!」
     ――やがて。
    「選ばれた俺に、これくらいは造作もないんだよね!」
     男は黒いカードを掲げ、満足そうに笑った。
    「って、誰も聞いてないか! はりきってころしすぎたもんな!」
     多くの犠牲者が転がる、赤い砂浜の中心で。
     
    「夏休み楽しんでる? 私はもう最高に楽しんでる!」
     武蔵坂学園のとある教室で観澄・りんね(中学生サウンドソルジャー・dn0007)はうきうき顔で語った。
    「そんな夏休みをもっと盛り上げるイベントがあるんだよね。そう、これ!」
     りんねは集まった灼滅者たちに背を向け、黒板に何やら文字をでかでかと書き出した。
     書き終えたりんねは振り返ると同時に黒板に手を叩きつけ、高らかに宣言する。
    「臨海学校っ!」
     臨の字がひらがなだった。
     誤字を恐れての結果だろうがそれはさておき。
     臨海学校とは武蔵坂学園の行事のひとつで、文字通り海の近くで日常ではなかなかお目にかかれない体験を通し、生徒たちに幅広い視野を持たせたり学習させたりする、割りと楽しい学校イベントだ。
    「でも臨海学校に行く予定場所のひとつ、九州でおっきな事件が起きそうなんだって」
     困ったような顔で息を吐くりんね。
    「臨海学校のついでにそれを解決しちゃおうって魂胆なわけだね! というわけで今回はエクスブレインの人に聞いてきた情報を私が直接教えてあげるね!」
     何故わざわざエクスブレインでもない彼女が……と思うだろうが、きっと臨海学校が楽しみ過ぎて体が動いてしまったのだろう。
     遠足前の小学生が前日にテンションが上がりまくってしまうのと同じ原理と言えよう。
     とにかくりんねは『りんねメモ』と表紙に刻まれたメモ帳を片手に説明を始めた。
    「場所は福岡の、このあたりの海水浴場」
     早速不安ではあるが、地図のコピーが黒板に張られ、マークされた場所を指差す。
     福岡市内からもそれほど遠くなく、シーズン中は多くの海水浴客で賑わう場所らしい。
    「時間は午後3時くらい。ここで大勢の人が殺されちゃうみたいなんだけど……事件を起こすのはダークネスとかじゃなくて、なんと普通の人!」
     一般人による大量無差別殺人。つまりはそうなる。
     これはある個人の残虐な愚行……その一言で片付けられる事件ではないようだ。
    「実は、組織的なダークネスの陰謀だったんだよっ!」
     何だと……! バカな……!
     そんな声が教室内から漏れる。
     お約束で。
    「どうしてこんなことするのかわからないみたいだけど、こんなの無視できないし、それに私たちには止めることができるんだよっ」
     ぐっ、と拳を握るりんね。
    「事件を起こそうとしている人が持ってる『カード』を取り上げちゃえば問題解決!」
     目標となる一般人はこのカードらしき物に操られている可能性があるらしい。
     この海水浴場に現れる目標はおよそ海水浴を楽しむ客にも、海で仕事に従事する者にも見えないTシャツに長いズボンを着用している。
     その上、大きなビーチパラソルを持っているので見間違える事はないだろう。
     どうにか目立たないように接触し、秘密裏に事を運べば何も問題は起こらない。
     一般人への不要な殺傷攻撃は避けつつ、カードを確保して欲しい。
    「カードを取り上げれば直前までの記憶を失って気絶する、だって。その辺にほうっておくわけにもいかないから、どこかに運んであげればいいかもしれないねっ」
     目が覚めるまで介抱し続ける必要もないだろう。
    「うん、難しい話はこれでおしまい!」
     りんねはりんねメモを閉じた。このメモ帳、必要だったのだろうか。
     その顔は実にはつらつとしていた。
     取り上げたカードの分析やダークネス組織については現場で得られる情報はまずないと見ていいだろう。
     とすれば、残った時間を思う存分臨海学校にあてるのが正解というもの。
    「あとはみんなで海を楽しもうっ! 今から何して遊ぼうか悩ましい……あっ!!」
     突然の大声に灼滅者の1人が何事かと尋ねる。
    「まだ難しい話、終わってなかったよ」
     一体どんな重要な情報を忘れていたというのか。
    「……今年はどんな水着を買ったらいいんだろうね?」
     灼滅者たちは難しいリアクションを強いられた。


    参加者
    田所・一平(赤鬼・d00748)
    風野・さゆみ(自称魔女っ娘・d00974)
    榎本・哲(狂い星・d01221)
    高嶺・由布(柚冨峯・d04486)
    千葉魂・ジョー(ジャスティスハート・d08510)
    竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)
    極楽鳥・舞(艶灼姫・d11898)

    ■リプレイ

    ●海! の前にお仕事です
    「うわぁ、すっごく混んでるのです~」
     風野・さゆみ(自称魔女っ娘・d00974)は海水浴場を見渡していた。
    「下は見るからに暑そうですけど、やっぱり『上』は快適なのです~」
     心地よい潮風がさゆみの体を抜けていく。
     さゆみは文字通り『上』にいた。
     空飛ぶ箒で宙を舞っているのだ。旅人の外套でこっそりと、だが。
    「さて、きちんと探さないとですね~」
     さゆみは急旋回すると、海水浴場の入り口付近から目標の捜索を開始した。
    「いやー、空は気持よさそうだねー」
     そんなさゆみを砂浜から見上げるのはアリスエンド・グラスパール(求血鬼・d03503)。
    「快適さは勿論、索敵力もバツグンだな!」
     同じく額に手をかざし、空を見る千葉魂・ジョー(ジャスティスハート・d08510)。
    「にしても、ビーチパラソルがもっさもっさ動いてたら見つけやすくね?」
    「うん。あんなに大きいんだから地上でも簡単に見つかるかもね♪」
     榎本・哲(狂い星・d01221)の呟きに、水着の上に前を閉じたパーカーを着る極楽鳥・舞(艶灼姫・d11898)はレンタルされているビーチパラソルを見る。
    「ま、それでもマジメに偵察しないとな」
     哲は自分の視界に意識を集中させた。
     刹那、哲が認識したのは。
    「あらあらアキラ、どこに集中しちゃってるのかしら?」
    「ぬあ!?」
     田所・一平(赤鬼・d00748)の顔面、しかもドアップだった。
    「なんだ一平ちゃんかよ。俺はただ」
    「ただ?」
    「あの張り詰めたパーカー、ちょっとは透けて見えるんじゃないかと」
     哲は舞の一部分を凝視していた。
    「ねぇみんな、終わったらスイカ割りと洒落込むわよ!」
    「は? 何だよその黒と緑の油性ペンは」
    「やるやるー。全力で叩く! そう、全力でだ!」
     意図を理解しているのかいないのか、竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)はスイカを割るには過剰威力であろう鈍く光る鉄パイプのようなモノを手にしている。
    「夏の海にドス黒い花が咲いちまうぜ?」
     あの無邪気さならヤりかねないのがコワイ。
    「……大体な、あれは見なきゃ逆に失礼だろ?」
    「素直に出ている所を見ればいいでしょうが」
    「一平ちゃんには男のロマンってのが理解できんのかねぇ?」
    「アキラ、アンタ今からジョーちゃんとBLペアで囮に蹴り出してもいいのよ?」
    「あー! そのー! うおっほんッ!」
     危機を察知したジョーはわざとらしい咳払いで2人の舌戦を遮った。
     ジョーがサングラスの下でさり気なく視線を向けた先では。
    「そーれ、かけちゃうよー!」
    「あはは。りんねさん冷たいです。冷たい」
     早速観澄・りんね(中学生サウンドソルジャー・dn0007)と高嶺・由布(柚冨峯・d04486)が波打ち際で水を掛けあっているようだ。
     これも作戦だと頭では理解しているが、由布はどうにも顔が赤くなってしまっていた。
    「それーっ、りんねスペシャル!」
    「あ――」
     必殺技であろう大量の水を回避しようとした由布は、しかし柔らかい砂に足を取られ派手に全身を着水させてしまった。
    「ありゃ。由布くん大丈夫……って、わっ!?」
     尻もちをついた由布に手を伸ばしたりんねだが、その腕は思いもよらない力で引っ張られ――結局りんねもダイブ。
    「もう、やったなー!」
    「空も太陽も綺麗ですが……りんねさんが一番綺麗です」
    「えっ?」
     更なる反撃の応酬を繰り出そうとするが、りんねの腕は由布に握られたまま。
     2人の距離は極めて近い。
    「福岡の海が冷たいのは何故だと思います? 僕らの恋の炎を少しでも和らげようとしているから、ですよ」
     由布は決して巫山戯てなどいなかった。
     が、言った自分が自我を保てず全身が砂糖になって崩れ朽ちてしまいそうになっていた。
    「……つまり、どういうこと?」
    「その、どうって、つまり2人の恋は夏の太陽さえ――」
     作戦なのだからと由布が小声で伝えると得心したように頷き、
    「よーし、2人で海を沸騰させようねっ!」
     一応それっぽくなった。

    「水に濡れた姿というのも……むう?」
     ジョーは緊迫した様子で合図を送るさゆみに気が付いた。
     目標を発見したようだ。
    「あれね。アキラ、アタシは側面から様子を見るから……」
    「俺は後ろからだな。さっきの話の続きは終わってからな、一平ちゃん!」
     何だかんだで息の合った動きで目標に近付く一平と哲。
    「あっ恐れ入りますーこの周辺緊急避難経路になっておりましてどいてくださーい」
     進路上と目されるエリアでは蛍が関係者のような振る舞いで一般人の密度を減らそうと赤く点灯する棒をくるくる回している。
     そして舞は。
    「ふんふふ~ん♪」
     鼻歌交じりにシートを引き、その上で徐にパーカーを脱ぎ出したではないか。
     見よ! あの山脈、そして峡谷を!
     これが神聖なる外套(パーカー)に秘匿されし秘宝ぞ!
    「「「!!」」」
     男共が『カッ』と目を見開いた!
    (「すげぇ、チートじゃねぇかアレ!?」)
    (「子供っぽい顔付きにあのボディ。舞ちゃん、逸材ね」)
    (「スク水ではないのか……」)
     哲と一平とジョーはそれぞれ顎に手を置き、そんな事を考えた。
     一方、目標は暫く多くの一般人に紛れて由布たちを眺めていたが、やがて視線を外し歩き出した。
    「ねえ、お兄さん♪」
    「ん?」
     その先で舞はラブフェロモンを使ってみる。
     ESPの効果は問題ないようだ。
    「お兄さん、ただ者じゃない感じがするね♪ 何か特別なんじゃない?」
    「いやぁ分かる? そうだなぁ、冥土の土産に教えてあげちゃおうか!」
     舞はテレパスも使ってみるが、有用な情報はなにもなさそうだ。
    「実はこのカードで俺は特別な存在になったんだ!」
     と、何やら黒いカードを舞に見せつけた。
     あっさりと。
    「それで……って、何だこんな時に」
     突如鳴った携帯電話の着信音に、
    「出てもいいよ♪」
    「あ、悪いね」
     目標はビーチパラソルを置いてズボンのポケットを探る。
    「誰? 今いい所なんだか……」
    「もしもし、私アリス。今あなたの後ろにいるの」
    「ら?」
     反射的に振り向いた、そこには。
    「残念、アリスエンドちゃんでした!」
     笑顔のアリスエンドが。
     ハンドフォンのホラーな使い方である。
     いや、彼には見えないがもう1人、闇纏いをしたジョーが軽く目標の手を叩き、
    「うっ!?」
    「もらったあー!!」
     落としたカードはバク転で蛍が空中でキャッチ!
    「終わったみたいですね~」
     合流したさゆみが安堵の息を吐くが。
    「……」
    「蛍さん?」
     何か様子がおかしい。
    「うっ、うう~……」
    「ま、まさかまだカードが!?」
     蛍は、
    「うそー!」
     ウィンクしながらぺろりと舌を出した。
    「「嘘かよ!」」
     お約束とばかりに哲と一平がコケた。
     とにかく事件は未然に防いだ。後は。
    「海だー! いやっほーい!」
     本来の目的を果たすのみ!

    ●作画にも気合を感じるぜ!
     一行はカードに操られていた男を邪魔にならない場所まで移動すると、
    「よし、完成!」
     蛍が気絶した男を顔と足だけを残し、砂の中に埋めた。
     申し訳程度に差したビーチパラソルに若干の配慮を感じる。
    「本当に埋めるとは……」
     ジョーは戦慄したが、いきなり野放しにするのも不安ではあったのでこれはこれで妥当なのか。

    「このファッションセンスぐんばつのアタシが見つけてきてやったわよ!」
    「俺オススメの水着を持ってきたぜ!」
     一平と哲は同時にりんねに水着を差し出した。
    「本当? ありがとう! でも2着は着られないなぁ。どんな水着なの?」
     2人は「その名も」と目を光らせる。
    「溶ける水着!」
    「透ける水着!」
     ご大層なモノだった。
    「やっぱりわかってねぇな一平ちゃん。モロじゃダメなんだよ見えるか見えないか目を細めて見るくらいが良いんだろ!!」
    「わかってないのはそっちよ。透けるとか、微妙にギャグになりきれてないエロとかキモイわよ。一発でドカンと溶けてイヤーンマイッチングってのがバラエティのお約束でしょうが」
    「さありんねちゃん。あんなイヤラシイ水着は無視して、ね? ホラ、特別に簡易式更衣室も用意したのよ!」
    「更衣室って一平ちゃん、上下の通気性がやたら良くて薄い板切れと薄いカーテンの……アレの事を言ってんのか?」
    「そうよ。簡易式だから仕方ないわね」
    「仕方ねぇなよくやった。だけどな、着るのは俺の水着だ。そもそも水着がなくなったらただの裸だろ!」
    「透けてみたいのも結局はそれでしょ? 男らしくないわねぇ」
    「うるせーオカマ!」
    「あア!? やるか!?」
     2人は組み合ったまま横に走り、
    「「ぐああああ!!」」
     簡易更衣室という名のパブリックスペースに激突した。
    「結局着なくてもいいのかな?」
    「……紺の旧スクには夢が詰まっている。そう思わないか」
     デッキチェアに腰を下ろしているジョーはよく冷えたドリンクをストローで吸い、サングラスを太陽に輝かせつつニヒルに笑っていた。
    「ジョーさんは何してたの?」
    「え? ああっ、りんね! これはその……そう、い、今どんな水着が流行ってるのか調査してるんだよ!」
    「そうなんだ。勉強家なんだねっ」
     実はスク水だけしか目に入っていないなどとは言えまい。
    (「この体躯にスク水か。ふむ、そういうのも……」)
     そんな事を考えていると、
    「いいカラダをしているネ!」
    「は?」
     見知らぬマッチョマンがジョーに話しかけてきた!
    「僕と一緒にサンオイルをぬ ら な い か」
    「だ、だから俺はそういうんじゃないんだってー!」
     ジョーは逃げ出した!
    「りんねさんいぇ~い」
    「いぇーいっ」
    「りんねさん、まだ水着決まらないの?」
     そこにボトムがスパッツ状になった昨今登場した最新型スクール水着にも似た水着を着た蛍が参上。
    「だったら私のオヌヌメを貸そうか?」
    「わあ、どういうの?」
     りんねが広げてみると、それは。
    「……これは」
    「カエルスーツ」
     ててーん、という効果音が脳内に鳴り響き、輝くカエルスーツ。
     水中での活動能力が向上しそうだね!
    「かわいいけど、遠慮しようかな?」
    「りんねさんいぇ~い!」
     テンションでどうにかしようとした!

     その頃。
    「あ、起きましたかぁ?」
    「う、ここは……って何コレ!?」
    「まあ驚きますよね~」
     読んでいた本を閉じ、さゆみは目覚めた男に顔を向けた。
     そして倒れた所を介抱し、紆余曲折の後訳あって砂で埋める事になったと説明した。
    「納得はできないけど、理解した」
    「ところで、黒いカードってご存知ですか~?」
    「ん? んん? 誰かに貰った……気がしないでも。違うかな」
    「そうですか~。わからないならいいのですよ~」
     さゆみは特に追求せず、再び本を開く。
     それは一夏の恋をテーマにした小説。
    (「きっと来年こそは泳げるようになるのですよ~」)
     遠くに見える輝く水平線を眺め、さゆみは静かに誓うのだった。
     ふと波打ち際に視線を流すと。
    「うおおおおお!!」
    「なんでえええ!?」
     そこでは秀煉と彼の柴犬風霊犬の焔玉がりんねを追いかける形で超疾走していた。
    「夏、ですねぇ」
    「いやこれ出してくんない?」

    「わたしの予想ではホルダーネックのフロントクロスビキニだと思ったんですけどねー」
    「それも可愛いよね。今度見てみようかな」
     何とか更衣室まで辿り着いたりんねは悠花と合流し、着替えて再び砂浜に降り立った。
     結局りんねは白を基調としたビキニで、腰にはパレオを巻いた普通な感じにしたようだ。
    「りんね、やっぱりスタイル良いね♪ 似合ってるよ♪」
    「ありがと! 舞さんもモデルみたいで凄いよねっ」
    「でしょ♪」
     同じく一緒に来た舞は腰に手を当て、胸を張る。
     水着が張り裂けそうだ……!
    「着替えたばっかりだけど、海の家に行かない?」
     舞の提案に2人は同意し、一路海の家へ。
    「悠花さん、コセイも一緒なんだねっ」
    「普通のわんこじゃないですから、あまり目立った事はさせてあげられませんけどね」
     ちょこちょこ歩くコセイに暑さも忘れつつ辿り着いたものの、中は満席のようだ。
     買うものは買う事が出来たが、さてどうしようかと思っていると。
    「ん、レゲエ?」
    「あ、りんねちゃんたち! こっちきて一緒にたべよー!」
     レゲエの音色に誘われ歩いてみると、寛子がパラソルの下でまったりしているではないか。
     ラジカセで周囲の迷惑にならない程度の音量でレゲエを流し、寛子なりに海を楽しんでいたという。
    「やっぱり夏の海にレゲエって合うよねー」
    「実はあんまり聞かないジャンルだから、私には新鮮かもっ」
     しばし4人はかき氷ややきそばをレゲエと共に堪能した。
    「りんねさん、一緒に泳ぎませんか? 良ければ皆さんも」
     そんな時、由布がやって来た。
    「いいの? りんねと2人きりじゃなくて♪」
    「それは――」
    「なるほど、そういう事なんですね」
    「こういう時に合う音楽に変える?」
     悠花と寛子も何となく察するが、
    「みんなで楽しもうよ。ねっ!」
     悲しいかな、当人は由布の気持ちをよく分かっていないようだった。

    「ここか? こっちっすか?」
    「いや左だ。おっと、すでに足元かもしれないな」
    「ん、違う……少し右、だよ」
    「ええい、うりゃあっす!」
     幾度も砂が舞った結果、ついにそれは炸裂した。
    「やった、当たったっすね!」
     確かな手応えに、ギィは目隠しを外してガッツポーズをとる。
     シートの上のスイカは見事に割れていた。
    「にしても、嘘情報多すぎじゃないっすかね」
    「それが醍醐味だろう?」
    「ん、わたしは嘘は言っていないよ」
     鏡は薄く笑い、七葉は真面目に誘導したと主張した。
    「りんねって意外と運動できるんだねー」
    「意外とできるんだよ! あれ、スイカ割り?」
    「ん、りんねさんたちもスイカ割り、どうかな?」
     通りかかったアリスエンドとりんねを輪に加える七葉たち。
     順番に、まずは鏡が挑戦するが。
    「どりゃあ!」
     会心の一撃は、しかしスイカの僅か数センチ横を振り抜いてしまった。
    「……外すと結構悔しいな」
    「じゃ、次はりんねさんっすね。サウンドソルジャーなら、周りの音や声を拾うのはお手の物でやしょう?」
    「やっぱりそう思う?」
     すっかり乗せられたりんねだったが。
    「ん、左……もう少し……うん、そこ、じゃなくってちょっと前かな……」
    「それはちょっとじゃな――」
    「てやっ! うん、いい手応え!」
     棒は砂にめり込んでいた。
    「やっぱりダメだなー。ならわたしがスイカの割り方を教えてやる! 私のエクスカリ木刀が火を噴くぜ!」
     次の挑戦者たるアリスエンドは指示に従い動くと、
    「スイカには弱点がある。ルービックキューブの事しか考えられないヤマトのように!」
     ズギャァ! という音と共に木刀がスイカを捉える。
     真上から突き刺し、串刺しになっていて割れていないが。
    「このまま食べる?」
    「うーん、無理っす!」
     灼滅者たちが守った海は賑やかに、そして楽しい時を刻み続けていった。
     

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
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