臨海学校~造られた恐怖と惨劇

    作者:高橋一希

     そろそろ空が暗くなりはじめた頃の話。
     キャンプ場も併設された海水浴場には自然教室にやってきた少年少女が集っていた。
     砂浜にはヤシの樹が並び南国雰囲気を漂わせる――特に日中は。
     しかし、夜の帳が降りた後では雰囲気はがらりと変わる。
     ヤシの影がゆらりとゆれて、まるで魔物か何かのようだ。
     遠方に見える都市の夜景は美しく、それが殊更にこの場を孤立した場所のように思わせる。
    「どんな仕掛けされてるかな?」
    「お、俺は怖くないぞ」
     笑ったり、隣の友達をちょっと脅かしてみたりと楽しそうにおしゃべりに夢中。
     そんな彼らへと先生らしき女性が注意をし、一旦場は静かになった。
    「それじゃ、はじめましょう。順番に、ヤシ林を抜けてバンガローまで行ってお札を取ってくる。それがルールね」
     先生の指示に従い、ちびっこ達は「はーい」と手をあげる。
    「それじゃ、一番最初、いってらっしゃい」
     小学生くらいと思しき少女の背が押される。その時の事だった。
     ヤシの樹の影から5名の人物が姿を現した。彼らの手にはそれぞれに、刃物が握られている。
     唐突に、彼らは声を張り上げる。
    「はりきってーはりきってーこーろすー!」
     そして、振り上げられた包丁が女性の胸に冗談のように突き刺さる。
    「はりきってーはりきってーこーろすー!!」
     即座に引き抜かれた刃物がぬらりと赤に濡れ、噴きだした血が砂浜を染めた。未だ昼の暑さをもった大気の中には新鮮で濃密な血臭が漂い出す。
    「はりきってーはりきってー殺したいっ! 殺したいっ!!」
     悲鳴を上げる少年少女を切り裂いて、生暖かい血液を飛び散らし、彼らはひたすらに惨殺、惨殺、そして惨殺。
     再び砂浜に沈黙が戻ってくるまで、手にした得物を振るい続けたのだった。
     
    「夏休みといえば臨海学校ですね」
     述べた五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)の横では牛飼・みくる(小学生ご当地ヒーロー・dn0057)がとってもニコニコしていた。
     何故なら。
    「りんかいがっこーって、みんなでお出かけしてお泊まりしてたのしーんだよねっ!」
     ……という事らしい。
     だが姫子の表情はあまり明るいものではなかった。何故なら。
    「しかし、実は、臨海学校の候補の一つであった九州で大規模な事件が発生する事がわかったんです」
    「ええー……」
     即座にしおたれるみくる。
     だが、その「大規模な事件」を起こすのはダークネスや眷属、強化一般人ではないのだと姫子は語った。
    「じゃあ、誰なの?」
     みくるがその場にやってきた灼滅者達を代表するかのように姫子へと問いかけると、彼女は真剣な面持ちでこう述べた。
    「…………一般人、です。ごくごく普通の」
     確かに一般人相手なら、灼滅者ならば手段はさておき事件の解決は容易だろう。
    「それに……どうもこの事件の裏には、組織的なダークネスの陰謀が考えられるのです」
     組織の目的は不明。
     しかしながら放置しておけば無差別大量殺人が引き起こされるのだ。
    「そんなの放っておけないのっ!」
     憤慨するみくるに姫子は少しだけ穏やかな視線を向け、再び灼滅者達の方へとそれを戻す。
    「殺人を起こす一般人は、5名。どの人物も黒いカードのような物を所持しています。そして、そのカードに操られて事件を起こすのです」
     事件解決後は原因と思われるカードを取り上げれば、直前までの記憶を失なって気絶するらしい。あとは休息所などに運べば大丈夫だ。
     ただ、問題はそのカードがどこに仕舞われているか判らない……という事だろうか。
     財布やポケットに仕舞われている可能性もあるが、とにかく所持しているのは確か。回収の為には何らかの形で一般人達を無力化するなり拘束するなりの必要があるだろう。
    「事件が起こるのは、博多湾近辺にあるキャンプ場も併設された海水浴場です」
     姫子がキャンプ場の場所を記す。
     そこを訪れた自然教室の一般人の団体が、夕暮れ時、少しでも涼もうとお約束のように肝試しを始める。
     殺人を起こす一般人達は、まずはこの肝試しを始めようとしている団体を手にかけ、それから、他の場所に居る人々を殺しに向かう。さらに、殺人を起こす一般人達は、現地にたどり着くまでは流石に見分ける事は不可能。故にこの場での確保が求められる。
    「敵組織の目的や、カードの分析などは皆が戻ってきてから行う事になるでしょう」
     いくら何でも現場ですぐに調べられるものではないでしょうからと姫子は付け加えた。
    「そうそう、今回の事件の解決は、臨海学校と同時に行われるんですよ」
     姫子述べた途端にみくるのパーカーの牛耳部分がぴんとはねた、気がした。
    「事件解決したら、りんかいがっこー、楽しんでいい?」
    「勿論ですよ」
     元気なみくるに姫子はにこにこ。
    「みくるもりんかいがっこー、楽しみなのっ!」
    「そうですね。折角ですから肝試しをしてみるのも面白いかもしれませんよ」
    「え……きもだめし……?」
     微妙にビビるみくるはさておき――折角の臨海学校。そして折角の肝試し。
     みんなで全力で楽しむ為にも、事件を解決するのだっ!


    参加者
    御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)
    葉山・一樹(ナイトシーカー・d02893)
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)
    火室・梓(質実豪拳・d03700)
    ジンジャー・ノックス(十戒・d11800)
    ジャック・サリエル(死神神父・d14916)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    イリヤ・ナジェイン(青の鍵・d17600)

    ■リプレイ

     波打ち際には人々が集っていた。本来ならば彼らは楽しい自然教室。そして武蔵坂学園の学生は楽しい臨海学校――のはずだった。
    「その前に変なのが暴れるのをさっさとボコらないといけないですが……」
     火室・梓(質実豪拳・d03700)はぼそりと呟いた。
    (「やれやれ……またおかしな事件が起きたものね。次から次へと頭が痛いわ」)
     ジンジャー・ノックス(十戒・d11800)も内心の煮えたぎっている。
     何故一般人を使って殺人を犯させるのか? 疑問はあるが、まずは事件の解決からだ。
    「肝試しですか? 私もこれからみんなでやる予定なんですよ」
     梓は自然教室のメンバーと接触し、打ち解けていく。
    「……あんま前行くなよ。危ないぞ」
     イリヤ・ナジェイン(青の鍵・d17600)もプラチナチケットで思いっきり混ざり込んでいた。
     えーなんでー? などと言われるあたり、彼らは危機が迫っている事など微塵も気づいて居ない。
     旅人の外套により身を隠し、ジンジャーは警戒中。同様に崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)も。傍にはゴールデンレトリバー風の霊犬「ミッキー」も控えている。
     襲撃されたなら、即座に自然教室の一般人を守る為に。そして。
    「……来た」
     來鯉が仲間達へと注意を促す。
     ヤシ林の中から3名の人影が現れる。手には包丁を持ち、おかしな言葉を口走る様は異様。自然教室の一般人もただならぬものを感じたのだろう。顔が恐怖に引きつった。
    「こっちの道が安全だから、早く!」
    「危ないですから、あちらに逃げて下さい」
     イリヤが声を張り上げ御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)も指示を出す。ジンジャーと來鯉は姿を現し、戦いに備える。
     そんな中、梓はすたすたと敵の前へと進み出る。鋭い刃物が振るわれるも、灼滅者の身体には傷をつける事も出来ない。
    「こんなところまで出てきちゃ駄目じゃないですか」
     即座に手加減攻撃を繰り出し、彼女は敵を撃退。ジンジャーと來鯉も同じく。
     あと2名、どこかに居るはずだ。
    「脅かし役が出てきちゃ興ざめですよね。ちょっと注意してきます」
     逃げようとしていた自然教室の一般人達へと伝え、梓達はヤシ林の中へ――。
     裕也は倒れた一般人のポケットなどを探る。
    「……あった」
     彼の指先に触れたのは、噂通りの黒のカード。

     その頃ヤシ林では。
    「残念じゃが、何もさせりゅわけにはいかにゅのぅ」
     シルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)が刃物を構えた一般人二名と対峙していた。
    「何が目的でこのようなことをすりゅ?」
     問いかけるも相手は「がんばってーがんばってーこーろすー」と叫ぶばかりだ。
    「わりゅくおもうでないぞ」
     多少痛い目にはあって貰う事になるが、手加減攻撃だ。死にはしない。
     葉山・一樹(ナイトシーカー・d02893)と、駆けつけたイリヤも構える。
    「ちょっと痛くするぜ?」
     サイキックを使おうとした二人を牛飼・みくる(小学生ご当地ヒーロー・dn0057)があわてて留めた。
    「ちょ、ちょっと待って欲しいのっ!」
     サイキックでの攻撃を受けても一撃で死ぬことはほぼ無いが、それでも怪我は負うだろう。せめて手加減攻撃ならば、重傷や即死などの致命的な効果は受けにくくなる。駄目なら二手目からはサイキックで、という話だったはずだ。
     彼らが次の行動を起こすより前に、ジャック・サリエル(死神神父・d14916)が黒のローブを翻し一般人達の前に立ち塞がった。
    「ヒャッハーハハハ! 子供達ハ殺サセマセン。ワタシが守リマース」
     眩く輝く彼。途端の事だった。
    「何故殺そうとなどと……」
     がくり、とその場に膝をつき、人々が包丁を取り落とす。素早く彼らからカードを取り上げると、彼らはぱたぱたと気を失いその場に倒れ伏した。
     やってきた裕也が彼らを抱え上げ、休憩所へと運んでいく。
    「……これって何なんだろうな」
     回収した黒のカードをためつすがめつ眺めイリヤは呟く。
    「こんなふざけたカードを作ったゲロカス野郎は後で思いっきりぶん殴ってやるから、死ぬ準備をして待ってなさい」
     闇を見つめるジンジャー。それは、その場に居た誰しも同じ思いだったに違いない。
     休憩所に連れて行った一般人が目覚めるのを待ち、シルフィーゼはいくつかの問いを重ねた。だが、彼らの記憶はそれぞれに曖昧。
     情報源として今ひとつ頼りにならない内容に彼女は臍をかんだ。

     さて。
     肝試しタイムである!
     楽しみに待機中の者もいれば、既にビビってる者もいる。それでもイベントに期待する気持ちは皆一緒だ。
    「こういうのっていいですよね、驚くだけで害が無いですから」
     かたい表情のみくるへ梓は強く微笑み返す。
    「普段は本物だったり本物っぽい偽物だったりを相手して倒さないといけないですから」
     都市伝説とかですね! わかります!
    「人魂は人の魂などではなくプラズマなどによる発火現象、引火ガスによる発火との諸説があり……」
     鷹は顔を引きつらせつつも延々と蘊蓄を語る。涙目気味なのでみくるも彼へと訴えてみた。
    「怖いよね! 怖いよね!」
    「そ、そんな事は無いっ! ほら《幽霊の正体みたり枯れ尾花》とか言うだろう、幽霊とは人間の思い込みと周りの情報より誤解誤認された存在なんだそうだ存在しないんだ」
     噛みつつも必死で幽霊否定中!
     そんな彼らへと恵理は躊躇い気味の視線を――。
    (「脅かすのは可哀想ですが……折角自分から参加している催しですし……」)
     ――瞳、めっちゃキラッキラしてた。
    「え、目が輝いてる? 何の事でしょう」
     何処かに向け述べつつ彼女は考える。こういうのは折り返しでほっとした瞬間が狙い目、と。
     劔はまだまだ怯えるみくるを手招きしていた。
    「甘い物を食べて元気つけて一緒に肝試しに行こう!」
     牛乳多めのカフェラテとシフォンケーキを贈呈し、お料理上手な劔は笑顔でさむずあっぷ!
    「こわい時は思い切りこわがる! 我慢すると余計頭の中で色々想像してこわくなるんだって聞いたんだ。思いきり悲鳴あげた方が案外すっきりすると思うし、それが肝試しの醍醐味だよね!」
     しがみつかれてもパニックになってぶんなぐられてもどんと受け止める! と心に決めた劔は、女の子だけれど漢気に満ちあふれていたという。
    「す、すごく怖いですけど、此れ位、乗り越えられないと立派なご当地ヒーローになれないですよね……」
     述べる少女は來鯉の妹で悠里という。
    「うっ……!」
     みくるが言葉に詰まった! 悠里は顔真っ青でブルブル震えつつも「う、うち頑張ります!」と尊敬の籠もった眼差しを投げているし!
    「おねーちゃん、おにーちゃんなんだから一年生にカッコいい所を見せられるようお互い頑張ろう!」
    「ううっ……!」
     來鯉の言に困った顔。だが続けられた言葉は自身にも覚えのあるものだった。
    「『ぜったいぜったい良い先輩になろうね!』と指切りしたろ?」
     少しだけ、恐怖は解れた。
    「うん! がんばるね! 來鯉くんも、悠里ちゃんも、一緒にがんばろ!」
     怖くない怖くない、とみくるは笑顔で悠里の両手を握り、上下に軽く振る。
     年下の為にも頑張りたい。そう思うのは彼女らだけではなかった。
    「お姉ちゃんだからしっかり藍ちゃんを守るの!」
     と、出発した寛子だったが。
    「……でもやっぱりちょっと……いや結構怖いかも……」
     左手を握る藍は怯えた様子は無い。曰く「想定外の出来事が起きたら驚くけど」との事。
     ヤシ林を通りかかった彼女たちの肩を背後から誰かが叩く。振り返った先に居たものはロングヘアに白のドレスの人物。だがその顔は骸骨だ!
     実は牙羅なのだが、この暗さと衣装では分かるわけもない。
     喉元まで出かけた悲鳴を寛子は飲み込む。しかし反対側に迫っていた白の外套を纏い、前髪で顔を見えないようにした一樹には気づかなかった。
     唐突に一樹が叫ぶ。
     小さな悲鳴と上げ寛子は藍に抱きつき、藍がびくっっ! と固まる。驚いたのは寛子にも伝わった。
    「あ、ごめん藍ちゃん……」
    「大丈夫だよ。突然の出来事に驚いただけ」
     冷静に告げつつも嬉し恥ずかし、心はドッキドキ。一番想定外な事態だった。
     ヤシ林を抜け二人はバンガローへ。
     裕也と修斗も手を繋いで進んでいる。
    「修斗はこういうの怖くない?」
    「貴方と一緒なので怖くないですよ」
     手を引く修斗はあっさり答える。お札を回収しようと建物内に入ると見るからに暑そうなローブ姿の人物――恵理が。
    「さあ、お持ちなさい……片方はこの地獄からの脱出切符……そしてもう片方は……」
     恵理は二枚の札を差し出す。裕也は受け取った札の裏にぬるりとした感触を覚えめくるとそこには……。
    「み ー つ け た」
     赤くどろりとした液体で書き付けられた文字を認識するとほぼ同時に目前のローブ姿の人物は高笑いを始める。
    「おや……結構本格的に脅かしてきま……」
     修斗は裕也を守ろうと一歩前へ。そんな彼の手を裕也がきつく握る。
    「大丈夫です、ほらもう少しですよ」
     二人でバンガローの外を目指して。
     そして、外に出てから、修斗は裕也をぎゅーっと抱きしめ、頬へとそっと「勇気の出るおまじない」をするのだった。

    「……ていうか、出てくるのわかってんのに驚くわけねーじゃん」
     イリヤは懐中電灯片手に一人行軍。そんな彼の首にぽたぽたと水が! あまつさえ足元には市松人形の姿が! ライトアップで怖さも倍増! 更には直ぐ傍に人の気配。耳元にふっと吐息がかかる。
    「……もう、戻れないよ」
     普通なら驚く所だがイリヤにはとても聞き覚えのある声だった。それも安堵してしまう程の。
    「……怖くねーし。スバルだろ?」
    「あはははは! その通り! 僕だよ! 楽しんでくれたかなー?」
    「……ま、面白くなかった、とはいわねーけど?」
     ほら行くぞ、と昴の手を握ってイリヤは進む。大丈夫、彼と一緒なら恐れる事など何もない。

    「みくる殿、つきあわにゅかえ?」
     シルフィーゼに告げられみくるの表情が明るく!
     しかし暫く歩むうちにみくるはぽつりとこう述べた。
    「妙にオバケ、多い気がするの……」
     というのも、シルフィーゼが怖がってるフリして態々オバケ役が沢山いる方に誘導していたりするからだ。だが、昔の人は言いました「人を呪わば穴二つ」と。
    「ヒャッハーハハハ! URAMESHIYA~!」
     唐突に響いたハイテンション声。主は髑髏の仮面を被った黒ローブの人物。
     その瞬間、少女の喉から思いっきりカン高い声が響き渡った。みくるは限界値を超えたらしく無言で大脱走!
     つまり悲鳴をあげたのは……。
    「き、気のせいじゃ!」
     彼女はどこかに向けてそう言い張ると逃げ出したみくるを追いかける。
     因みに死神風の人物は言うまでもなくジャックである。
     肝試しは怖いもの。怖ければ怖い程楽しいに違いない! と彼は頑張って脅かし続けるのだ!

     バンガローで劔と合流したみくるは周囲を見渡す。誰も居ないのを確かめて、そっとお札に近寄り、手を伸ばした途端――。
     バァン!! と凄まじい打撃音!
    「にゃぅぅぅぅぅぅ!」
    「牛飼さん!?」
     止める間もなくお札を掴んでみくるは脱兎の如く駆け出す。
     あまつさえ地獄の底を思わせるシャウトがバンガロー内に響き渡る。所謂デスボイスというやつだが、こういう場だととっても怖い!
     劔も慌ててその場を後にする。
     残された、バンガローの死角に隠れ音を出していた張本人――錠は小学生達を心配そうに見送った。

     脱走したみくるは悟に宥められていた。。
    「大丈夫や怖ないで。もうちょいがんばろ」
     浴衣姿の悟に手を繋がれ、とにかく進む。極力オバケからみくるを守るよう悟は頑張った。それどころかみくるがオバケを殴らないようにも頑張った!
     ヤシ林ももうじき終わりという頃。
    「キャアアアアッ!!」
     絹を引き裂くような女性の悲鳴に二人は慌てて駆けつける。そこに居たのはジンジャーだ。
    「だ、だいじょーぶ?」
     差し伸べられた手をジンジャーが握る。
    「……ああ、怖かった!」
     声を発したはずの口は、顔面に存在しなかった。それどころか、目も、鼻も、眉も、何一つ。
    「にゃぁぁぁあ!??」
     大絶叫したみくるを抱え、悟はその場を後にする。だが……。
    「あれ? 急に真っ暗や。俺……どうしたんやろ?」
     急に自身の顔を押さえる悟。
    「具合わるい? えっと、誰か呼んでこ」
     みくるが覗き込むとその顔は今さっきみたばかりのものと同じくつるりとしており――。
     もはや声にもならない悲鳴と共にみくるは今度こそ大暴走。悟を置いて駆け出した。

     尚都とゆうはもうすぐゴール。そこにもすっとみくるが突撃!
    「お、みくるちゃんもくる?」
    「オネーサン達が守ってあげるヨー」
     宥めながらゆうを先頭にゴール目指しててくてく。ひたすらにてくてく。
    「夜の砂浜って不気味。足も取り憑かれたように重い……あ、砂だか……」
     ゆうが言いかけた時の事だった。
    「なんで私を助けてくれなかったの……?」
     唐突な声に一同は振り向く。そこには前髪を下ろし、水着を纏った全身ずぶ濡れの少女の姿が。
    「なんで……」
     先ほどより悲しみと怒りを込めて少女は迫る。
    「どーかゴカンベン! か弱くてカワイー女の子なンで、お見逃しをー!」
    「ぎょわああああああ!!」
    「きゅうっ……」
     尚都とゆうががっちりと抱きつこうとして、間のみくるがサンドイッチ。
     距離を詰めてくる少女に恐怖度MAX。ゆうが他の二人を引きずるようにして逃走開始!
     逃げ去った三人にオバケは密かに拳を握る。
     この人物は舞子だった。折角なので脅かし役をやる事にしたわけだが、溺れた学生の霊の演技で順調に脅かしている。目標人数三名の悲鳴もらくらく達成! 更なる高みを目指して彼女は新たな犠牲者を待つ!
    「これぞ青春……よね?」
     多分ね!!

     全員が無事にゴールし、一樹が飲み物を配る。脅かし役も、脅かされる側も喉を潤し、それぞれにネタバラシや、健闘を称え語らいはじめる。
     悟はのっぺらぼうの仮面を手に困ったように笑っていた。みくるに「おにーちゃんのいじわるー」とダダっこパンチを食らっているからだ。
    「すまんもうやらへんで」
     みくるも彼を怒っているわけではない。八つ当たりみたいなものだ。
    「お疲れ様。ほら」
     來鯉に渡されたものはゴールデンミルクをつかったミルクティ。そして、同じく豪華なミルクレープ。
    「これ食べて落ち着いてよ。……悠里もよく頑張ったよな」
     なでなで、と頭を撫でられるも、悠里はまだちょっと涙目。
    「もう大丈夫だから、ね?」
     みくるも背中を撫で宥めている。その様子を見た錠は少しだけ頬を緩ませた。後輩が成長した様子は嬉しいものなのだ。

     斯くして肝試しは無事終了。
     黒のカードなど謎は残るものの、調査は明日から。
     今夜だけはあらゆる懸案を忘れて皆で楽しく語らい思い出を作るのだ!

    作者:高橋一希 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 9
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