臨海学校~夕餉の支度をハリキッテ

    作者:佐和

     福岡市博多湾の程近く。
     海の見えるキャンプ場で、夕飯の準備が始まっていた。
     大人達が楽しそうにバーベキューの支度をする間、あっちに行って遊んでなさい、と子供達は追いやられて。
     兄弟姉妹や幼馴染、家族ぐるみの夏のイベントに集まった幼稚園から小学生までの12人は、探検とばかりにキャンプ場から離れていく。
     木々が立ち並ぶ中、何か面白い物はないかと探すそのうちに。
    「あれ? 何だこれ」
    「いっぱい落ちてるね」
     見つけた黒いカードを、子供達は次々と拾い上げた。
     そして……。
    「まったく、あの子達はどこまで行ったんだか」
     バーベキューの支度がほぼ終わった頃、子供達の名前を呼ぶ大人の声が響くそこへ。
    「うわぁぁぁん。おかぁさあぁぁん」
    「助けてえぇぇ」
     泣きながら駆け込んできたのは子供達。
     だが、その人数はあからさまに少なくて。
    「ちょっ……どうしたのコウくん? これ、血!? 怪我したの!?」
    「アヤ、チハルちゃんはどうしたんだ?」
    「ソウタは? 一緒じゃないのか?」
    「……っぅ、ソウちゃん、急に木の枝で叩いてきたの」
    「リナもだよ。落ちてた棒拾って、思いっきり振り回してきたんだ!」
    「ユナがね、倒れてね、動かなくてね」
    「変なカード見つけたら、ヒナタも皆も、変になっちゃったんだ」
    「変なカード?」
    「うん。これ……」
     涙を拭いながら、1人の男の子が差し出したのは、数枚の黒いカード。
     受け取った大人は、訝しげにそれを見て。
     何だ何だと問いかけられて、大人達の手に手にカードが回っていく。
     ただの黒い紙。意味不明のアルファベットと数字が書かれているのが変といえば変だが。
     そこに。
    「見つけたぁ! 皆、殺すぞー!」
    「ころすっ。リナもころすのっ!」
     錆びた鉄の棒や木の枝を手に、血走った目の子供が飛び出してきて。
    「俺は選ばれたんだ!」
    「よぉし! 沢山殺して人間卒業だぁ!」
    「え!? あなた!?」
    「鈴木さんまで、いきなりどうしたんだ!?」
     大人のうち数人が、鉄串や包丁を手に持ち振り上げて。
    「はりきって、ころしたーい!」
    「きゃぁぁぁ!?」
     悲鳴と血飛沫が飛び交う、殺戮が、始まった。
     
     ……喧騒の中、誰の手にも留まらず、ひらり、と落ちた黒いカードが1枚。
     そこには『HKT666』という文字が書かれていた。
     
    「……臨海学校、行く先……事件、起きる……」
     灼滅者達を前に、八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)は袋を抱えて話を始める。
     臨海学校先で大規模な事件が発生することが分かったのだという。
     珍しいことに、事件を起こすのはダークネスでも眷属でもなく、普通の一般人。
     黒いカードを手にした人々が、いきなり殺人を始めるのだ。
     誰彼構わず無差別に大量に、周囲にいる人を次々と殺していく。
     詳細は不明だが、殺戮を行う原因は、その黒いカードにあるらしい。
    「カード、手放せば、元に戻る……気絶して、カード持ってた、間の記憶、なくす……」
     騒ぎを治めて一般人からカードを取り上げるのが、今回の依頼となるようだ。
     秋羽が予知した事件は、夕飯時のキャンプ場で起こる。
     林の中に入った子供達がカードを拾ってしまい、そのうちの数人がまず暴れ始めて。
     キャンプ場まで逃げた子供からその親達にもカードが渡ってしまい、さらに被害は大きくなる。
    「林の、中……子供達、見つけられる、と思う……」
     灼滅者が子供達を見つけられるのと、子供達がカードを見つけるのはほぼ同時だろう、と秋羽は少し困ったように眉を寄せた。
     子供達より先にカードを探すことはできない。
     でも、上手く対応すれば、キャンプ場にまで騒ぎが広がるのを防ぐことはできるだろう。
    「子供達、強化されて、ない……から、気をつけて……」
     注意すべきは『上手く対応』すること。
     カードを手にした一般人は、あくまで一般人のまま。
     強化一般人にはならないまま、殺戮衝動だけが膨れ上がっている状態のようだ。
    「あと、カード……置きっぱなし、駄目、だから……」
     子供達が全てのカードを拾っているとは限らない。
     取りこぼしのないように気をつける必要もある。
     そのカードが何なのか、誰が何のために用意したのか、何らかの組織が動いているのか。
     その辺りは、学園に戻ってきてからの解析となるだろう。
     だから。
    「無事終わったら、臨海学校、ね……」
     秋羽は大量のお菓子が入った袋を抱えて、食べる気満々でした。


    参加者
    科戸・日方(高校生自転車乗り・d00353)
    美泉・文乃(幻想の一頁・d01260)
    野々垣・露(花弁一片・d02077)
    李白・御理(外殻修繕者・d02346)
    志賀野・友衛(高校生神薙使い・d03990)
    暁吉・イングリット(進撃ジーン・d05083)
    カミーリア・リッパー(切り裂き中毒者・d11527)
    桑折・秋空(悠々抛擲・d14810)

    ■リプレイ

    ●黒いカードをハリキッテ
     キャンプ場の程近くにある林の中から、明るく騒がしい子供達の笑い声が聞こえてくる。
     楽しそうなその喧騒の中、1人がそれを見つけて、疑問の声を上げた。
    「あれ? 何だこれ」
     好奇心が他の子供も呼び寄せ始めた、そこに。
    「その黒いの触ったらダメ!」
     響いたのは、科戸・日方(高校生自転車乗り・d00353)の鋭い声。
     びくっと驚いた子供達の前に、声を追いかけるように日方が駆け込んできた。
    「カードに触れないで下さい」
    「無闇矢鱈に落ちているものを拾ってはいけないだろう……?」
     続いて現れた野々垣・露(花弁一片・d02077)と美泉・文乃(幻想の一頁・d01260)の柔らかいけれどもどこか怖い声に、子供達は見つけたもの……黒いカードから逃げるように後ずさる。
     割り込みヴォイスと王者の風。2つのESPのおかげでカードを手にした子供はいなかった。
     けれども、その表情には戸惑いと怯えが色濃く、恐れるようにこちらを伺っている。小さな子は今にも泣き出しそうだ。
     その状況をフォローすべく、志賀野・友衛(高校生神薙使い・d03990)と李白・御理(外殻修繕者・d02346)はプラチナチケットを使いながら進み出た。
    「カードを持っている子はいないな?」
    「大丈夫でしたか? これ、悪いばい菌がついていて危ないんです」
     カードの関係者と思ってもらえればと考えた御理だったが、プラチナチケットは設定を使用者が指定できるESPではない。
     そういう意味では、チケットは役に立たなかった。
     だから、子供達がその表情を緩めたのはESPの効果ではなく、友衛の気遣うような優しい声と、子供が納得できるようにと気遣った御理の説明のおかげで。
    「脅かしてごめんな」
     しゃがみこみ、目線を合わせて謝る日方も加わって、子供達の緊張が解けていく。
    「オレ達、ソレを集めてるんだけど……譲ってくれない?」
     そこに、穏やかに微笑みながら暁吉・イングリット(進撃ジーン・d05083)が声をかけると。
    「うんいいよ。あげる」
    「だからおねーちゃん、一緒に遊ぼうっ!」
     子供達は一気に笑顔になってイングリットへと駆け寄った。
     ラブフェロモン効果で一瞬にして人気者になってしまったようです。
     長い金髪のせいで性別を間違われてしまったが、内心では実は結構頑張って演技をしているイングリットにそれを正す余裕はなく、あわあわと子供達に囲まれて。
    「みんなでお話ししながらキャンプ場まで行きましょう」
     御理の先導で、子供達はその場を立ち去るように歩き出した。
     イングリットもそれに流され、友衛は小さな子が逸れないようにと気を配りながら最後尾につく。
    「気をつけてな」
     そんな子供達と3人の仲間を日方が手を振り見送って。
    (「誰も傷ついたりしなくてよかった、かな」)
     桑折・秋空(悠々抛擲・d14810)も小さくなる背中と喧騒に少し目を細めた。
     そして、トングを手に振り返り、のんびりと次の行動を宣言する。
    「それじゃ、カードを集めようか」
     得体の知れない『HKT666』と書かれた黒いカード。それが灼滅者に反応しないとも限らないと、万が一の可能性も回避するべく、回収は慎重に行われた。
     軍手をしてトングでカードを摘み上げた露は、文乃が広げたビニール袋にそうっと入れて。
     手を振るカミーリア・リッパー(切り裂き中毒者・d11527)に秋空が近寄ると、『ここにあるの ↓』と書かれたスケッチブックが出迎える。
     秋空にカードを回収を任せて、カミーリアは無言のままじっとそれを見つめた。
    「こっちにもあったぜ」
     日方も草むらをかきわけて、だが決して素手では触らず、また必ず2人以上になる状況で拾えるようにと声を上げ。
     拾い残しがないようにゆっくり周囲一帯を歩き回り、じっくりと虱潰しに探していく。
     そのうちに子供達を送り届けた3人も戻って、捜索に加わって。
     時間をかけて丁寧に、灼滅者達は全てのカードの回収を終えた。
     もうすっかり時間は夕飯時。辺りは夕闇に染まりかけていて。
    『お肉食べたいですお肉』
     カミーリアのスケッチブックに誰からともなく微笑むと。
     臨海学校へ戻るべく、その林を後にしたのでした。

    ●バーベキューをハリキッテ
     戻ってきた8人を迎えたのは、多くの笑顔とバーベキュー準備の楽しげな喧騒。
     そして、飼い主を見つけた大型犬のように飛び出して、イングリットに抱きついてきた姫之森・桃(d11665)。
    「イングリットお帰り! ダイジョブ? ケガ無い?」
     桃はそわそわ忙しなく、あちこちぺたぺた触ってその無事を確認する。
    「大丈夫ッス」
     イングリッドは少し照れつつもされるがままで。仲間の視線がむずがゆい。
    「ふみふみ、露ちゃん先輩。お疲れ様!」
     続いて、桃ほどの勢いはないものの、凍らせたタオルを抱えた風巻・涼花(d01935)が駆け寄ってきて。
     同じクラブの文乃と露にまず冷たさをお届けすると、他の面々にも手渡していく。
    「すずの優しさプライスレス!」
     自画自賛の涼花に笑みを浮かべながら、刻漣・紡(d08568)も兎林檎を差し出して。
    「丹生先輩と火も起こせたし、もう少しで食べられるわ」
     丹生・蓮二(d03879)の隣で立ち上がった蓮咲・煉(d04035)は、一息つきつつ、休んでいてと言葉をかける。
     迷わず座った文乃は、
    「それじゃ、芥汰くん。お茶取ってきて?」
    「ふみ先輩。ソレただのパシリと言いませんか?」
     ご指名を受けた塵屑・芥汰(d13981)が、ハイハイ、と空返事をしながらもお茶を運ぶ。
    「露、差し入れがあるんです」
     用意しておいた荷物……お手伝いさんお手製ローストビーフとシャーベットが入ったクーラーボックスを探して、露がぱたぱたと走り出し。
    「何か手伝えることあるか?」
     日方は鉄板の近くへと歩み寄っていく。
     それぞれ、思い思いの場所で過ごす、バーベキューが始まるまでのわくわくする時間。
     そのわくわくは当然ながら、時諏佐・華凜(d04617)が用意した野菜よりも、刻漣・紡(d08568)が保冷バッグから取り出した肉の山に向けられて。
    「お野菜より肉が欲しいでっす!」
     元気よく宣言する御神本・琴音(d02192)に始まり、
    「皆でBBQ! おにく、おにく!」
     鼻歌交じりに肉の準備を手伝う雪椿・鵺白(d10204)。
    「肉いっぱい食べますよ肉!」
     涼花の視線も一直線。
    「写真部なのになんでこんなに肉食系の集まりなんだよ……」
     女子はもっとカロリーとか気にするもんじゃねぇのか? とため息をつく東雲・軍(d01182)。
     アストル・シュテラート(d08011)のキラキラした瞳も、しっかり大きな肉へと向いています。
     芥汰はその光景をスルーして、休憩組へとお茶を配る。
    「芥汰くんもお料理が出来るの?」
     お茶を受け取りつつ何気なく話しかけた露の質問から、料理話が広がって。
    「露ちゃんはお料理苦手なの? 意外ねぇ……」
     手際よく、アルミホイルを使ってじゃがバターの仕込みをしていた光鷺・雪季(d20334)が驚きの声を上げる。
    「じょしりょく」
     芥汰がこくんと頷いた横で、雪季はふふっと笑って、
    「ユキはなんでもできるのよ」
     と、何故か芥汰に向かってウィンク。
    「露も教えていただきたいと……思い、ます」
     男子2人に頼むってどうなんだろうと思いながらも露が声を絞り出せば。
     火起こしや重労働で一旦活躍を終えた蓮二が会話を聞きとめて。
    「……露の料理は危険なの?」
    「そ、そんなことは……」
     慌てて弁明しようとするも、隣で文乃がふんわりと微笑んだ。
    「露ちゃんはお願いだから料理はしないでね」
    「はぅ!」
     突き刺さった言葉に、露はその場で震えるのでした。
     料理苦手な休憩所から目を移せば。
     仲良く並んで野菜を切っている、鴛水・紫鳥(d14920)と大場・縁(d03350)。
     一緒の海に、おそろいの水着に。包丁のリズムと共に、会話も弾んで。
    「……えっと、それ、大丈夫ですよね?」
    「きゃっ! ご、ごめんなさい……」
     楽しすぎて時折、縁の手元が危なくなりながらも、作業は進んでいく。
    「私、海に来るのとても久しぶりなんです。
     ちっちゃな頃に両親と行ったきりで……」
     そんな中、ふと悲しそうな表情を見せた紫鳥に気がついて、縁は作業を止めて。
    「私、何もできないですけど……大好きな友達には笑顔でいて欲しいんです……」
     ぎゅっと手を握る縁に、紫鳥はふんわり微笑んだ。
     そうして。準備の整った食材が、鉄板や焼き網の上に並び始める。
    「キャベツにピーマン、それに玉ねぎ、とうもろこし」
     初めてのバーベキューにわくわくしながら野菜をチェックする望月・小鳥(d06205)の隣で、
    「お野菜と一緒にお肉も食べないと大きくなれないのですね」
     御理はバランスよくと鉄板に肉を並べていく。
     そして。
    「それからこんなのはどうでしょう?」
    「……そ、それは盲点でした」
     御理が網の上に乗せたのは、おにぎり。
     驚いたのも束の間、香ばしい米の匂いに、小鳥はすぐ笑顔に戻る。
    「李白さんはタレと醤油、どっち派です?」
     その向こうでは、桃が肉や野菜を片っ端から焼いていて。
    「こっちも焼けただヨー♪ どんどん食べてネー?」
     先ほどまでの心配性はどこへやら。笑顔でどんどん配りまくる。
     一段落したところで、自分の分を手に、もりもりと食べていたイングリットの隣に座れば。
    「……足りるんッスか?」
     その少なさに首を傾げるイングリットへ、ダイジョブと満面の笑顔。
    「みんなで食べるご飯って美味しいネ♪」
     にこにこしている桃にイングリットも嬉しくなって、そっと穏やかな笑みを浮かべた。
     紫月・灯夜(d00666)も焼けた傍から箸を進めて。
     大好きな姉様に褒めてもらおうと、大業物・断(d03902)はいっぱいお手伝い。
    「はい、友衛姉様……」
     美味しそうに焼けた肉をお皿に取って、友衛に差し出して。
    「ん、ありがとう。ほら、断も一緒に食べよう」
     勧められた隣の席に座って、2人仲良く、いただきます。
    「こうやって大人数でバーベキューとかするのって、やっぱ楽しくていいな」
     気付くといそいそと焼き方に回ってしまっている日方は、肉の焼け具合を確認して。
    「羽くんと僕にもください」
     秋空から差し出された空き皿を受け取る。
    「……『羽くん』?」
    「いや、『秋くん』って呼ぶと僕と被るじゃん」
     首を傾げる日方に、秋空は振り返りながらのほほんと答えた。
     その視線の先では、秋羽が菓子袋を開けている。
     どうやら次の肉が来るまでのつなぎのようですが。
    「秋羽くんは……バーベキューでもお菓子なのです?」
     御理もちょっとびっくり顔。
     そんな秋羽の横に座るカミーリアは、山盛りの肉と野菜と肉とご飯と肉をひたすら食べていて。
     ハムスターのように頬袋があるのではないかという勢いで、もぐもぐもきゅもきゅ忙しい。
     傍らに置いてあるスケッチブックは『お肉食べたいですお肉』と書かれたままだったが、どうやらそのままで合っている模様。
     日方は、あっちもそのうちお代わりが必要そうだな、と思いながら、
    「ほら、秋羽は菓子ばっかじゃなくて、肉も野菜もちゃんと食えよー?」
     まずはと秋羽へ皿を渡した。
    「持ってるお菓子焼いたら美味しいんじゃない? 責任はもてないけど」
     暢気に言う秋空に、それならと御理が手を挙げて。
    「串にマシュマロ通して、焼いてきましょうか?」
     提案するが早いか、御理の前にずいっとマシュマロの袋が差し出されました。
     気付くとカミーリアの視線も向いていて。
     御理は微笑むと、待っててくださいね、とマシュマロを受け取った。
    「デザートも楽しみだね」
     日方から肉を受け取って、秋空が秋羽の隣へ戻ってくる。
     わくわくしながら、まずはと皿の上のものを食べ始める秋羽に、秋空も箸を動かして。
     掴んだ野菜をそっと、秋羽の皿へと押し付けた。
     やっぱりバーベキューは肉です。
     それがもっと顕著なのは、やはりというか予想以上にというか、某写真部の面々。
    「おっと、その肉は渡さん!」
    「あ! 肉のレディーファーストは世界の常識ですよ!」
     蓮二の箸の動きに涼花が叫び。
    「カルビいただきます!」
     鵺白の箸が、美味しそうに輝いて見える肉目掛けて一突き。
    「琴音ちゃん、胸には鶏肉がいいんだそうです!」
    「琴、がんばって食べるんだよ!」
     露と琴音が肉情報に踊らされている中で。
    「軍もどんどん食べなさいよ」
    「じゃあ、これを……」
    「イクちゃんやめて! それは琴のお肉なんだよ! 琴の肉子を返してよ!」
     芥汰が勧めた肉を巡って、琴音が軍に泣きついた。
    「僕は肉はそんなに必要ないかな……
     イクくん、僕のために玉ねぎを焼いてきてよ」
     さらに文乃からの指令が下り、軍からまた肉が遠ざかる。
    「皆さん、お野菜も食べないと勿体無い、ですよ」
     華凜がぽいぽいと男子の皿に野菜を投げ込んでいけば。
    「ネコチリ君もお疲れ様でした」
     鵺白がにっこり笑顔で芥汰の皿に盛ったのも、野菜。
    「僕、野菜は……苦手だ……」
    「……シュテラート。私野菜の方が好きだから食べようか」
     困るアストルに、煉が救いの手を差し伸べる。
     ありがたくその申し出を受けながらも、でもせっかくだから少しはと、頑張るアストル。
     その煉が用意したじゃがバターも食べ頃になって。
    「文乃ちゃん、あーんしてあげよっか?」
    「あはは、鷺くんごめんね。僕、じゃがバターは自分で食べる派なんだ」
     雪季の提案を文乃はさらりと受け流す。
     そんな喧騒を、写真部らしく芥汰がパシャリ。
    「デザート用に林檎もあるの」
    「ユキ、オレンジも持ってきたのよ!」
     そして肉がなくなりかけた頃、紡と雪季が取り出した果物が、火の上に並んでいく。
     断も一通り食事を終えて。
    「それがしから友衛姉様にプレゼント……じゃじゃーん……」
     クーラーボックスから取り出したのはアイスクリーム。
    「美味しい?」
    「ああ、美味しいな」
     答えると、笑顔で抱きついてくる断。
     友衛は目を細めて、優しくその頭を撫でた。
    (「こうして一緒に楽しく過ごせるのも、あの時、八鳩が断を見つけてくれたからだ」)
     闇堕ちした断を助けに向かったあの時。教室でそれを教えてくれた秋羽を思い出して、友衛の胸に感謝の思いが浮かぶ。
     いや、秋羽だけではない。
     一緒に助けに向かった者も、心配してくれた友も。
     あの時も、あれからも、そしてその前からも。日々何気なく笑いあい、共に過ごす仲間達。
     ほんの少しの関わりだとしても、かけがえのない時間が紡がれて。
     今、この時がある。
     今日の依頼も、その一片。大事にまた積み重なる思い出の1つ。
     だから。
     さあ、今日を皆で一緒に楽しもう。
     溶けていく冷たい甘さに微笑んで、友衛は不思議そうに覗き込んできた断の頭を、また撫でた。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 4
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