臨海学校~フリマに忍び寄る殺意

    作者:泰月

    ●博多湾のフリーマーケット
     8月某日。博多湾に面した公園で、フリーマーケットが開催されていた。
     園内には、さる偉人の壺だの茶碗だのちょっと怪しい物を売ってる店から、学生が手作り品を並べている店、近所のお店が出してる出店等、かなり様々なお店が並んでいる。
     同じ日の夜に開催される花火大会の見物を兼ねた客も狙ったか、焼きそばやお好み焼きと言った屋台まで混じっている。
     とは言え、夏休みと言う事もあり、お年寄りから子供まで集まり、中々の盛況ぶりを見せていた。
     だが、そんな平和なフリーマーケットに忍び寄る悪意。
     それは、昼を回っておやつの時間を少し過ぎたくらいの、午後の事だ。
    「よーっし! 殺すよ! 殺しちゃうよ!」
    「フ……フフフ……ついに、ついに俺が死神になる時がきた」
    「いいんだよな。オレはもう、殺していいんだよな?」
     突如公園に現れたのは、そんな感じで刃物持って意味不明な事を言っている連中だった。
    「ママー、変な人たちがいるー」
     そんな子供の一言は概ね間違ってないのだが、残念ながら、暑さでハイになってる人達でも、ただの変な人達ではない。
     連中の手にした刃物がおもちゃではなく、連中が本気で危険人物である事を、公園にいた人々は、身を以て知る事になってしまう。
    「もっと殺しちゃうよ!」
    「死神だ……俺は死神になったんだ!」
     やっぱり危ない事を言いながら刃物を振り回す数人と、それから逃げ惑う人々。
     平和な午後のフリーマーケットは、ものの数分で惨劇の会場へと変わった。

    ●臨海学校2013
    「じゃ、臨海学校と事件の説明を始めるわね」
     集まった灼滅者達を見回し、夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)はさらりと告げる。
     でも待とうか。何で臨海学校と事件の説明がセット?
    「実は、臨海学校の候補地だった九州で、ちょっと不思議な大規模な事件が起きる事が判ったの」
     ちょっと不思議、と付いたのは、事件を起こすのはダークネスではないからだ。
    「一般人よ。強化一般人でもない、普通の人。それが何故か、大量殺人事件を起こすのよ」
     事件の裏には組織的なダークネスの陰謀があると思われる。
     どんな組織がどんな目的で起こす事件か判らないが、放っておけば多くの人の命が失われる。見過ごす事は出来ない。
    「それと、殺人事件を起こす一般人は、カードのような物に操られているみたいなの」
     まず事件を防いでから原因と思われるカードを取り上げれば、その一般人は直前の記憶を失って気絶する。
     後は、急病人扱いにでもして適当な所に運べばそれで良いだろう。
    「皆に向かって貰いたいのは、博多湾に面した海辺の公園。そこで開かれるフリーマーケットが狙われるわ」
     現れるのは午後3時から夕方までの間。
    「現れるのは10人。見た目は普通の人と変わらないわ。刃物持ってるけど」
     本当に刃物以外は普通の人な上に、数も多いので事件現場以外での特定は出来ていない。
    「まあ堂々と公園に現れるし、『俺は死神になったんだー』とかアレな感じの事を言ってるから、注意してれば見つけるのは難しく無い筈よ」
     見つけてしまえば、後は一般人。灼滅者が負ける筈もない。
     上手くやればESPでも十分にどうにか出来る相手だ。
    「組織の目的やカードの分析は、後回しで良いわ」
     現場で簡単に判るものでもないだろう。事件を防げれば、他は後で構わない。
    「それで、臨海学校の方だけどね。事件解決と臨海学校はセットになった結果、それ以外は割と自由よ」
     事件発生前、そして事件を防いだ後は、普通に臨海学校を楽しんで良いのだ。
    「私も九州、行くわ。解決後のフリーマーケットに行ってみようと思うのだけど、皆も来ない? 結構色んなお店が出てて面白そうだし。あと、その日は夜に花火大会があるんだけど、会場は海沿いの公園だから良く見えると思うわ」
     フリーマーケットには、その地方ならではの掘り出し物が混ざっている事もあるとか。
     そういうものを探してみるのも面白いかもしれない。
    「良かったら、向こうの公園でね。事件を防いで、臨海学校も楽しみましょう」


    参加者
    蒔絵・智(黒葬舞華・d00227)
    凪・辰巳(蒼のウイングガンナー・d00489)
    高良・美樹(浮草・d01160)
    月雲・彩歌(月閃・d02980)
    緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)
    リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201)
    柊・司(うっかり者です・d12782)
    クリミネル・イェーガー(迷える猟犬・d14977)

    ■リプレイ


    「カードに操られてヒト殺すとは、厄介なモンやなぁ」
     賑わう公園を見回し、クリミネル・イェーガー(迷える猟犬・d14977)が呟く。
     フリマに起こると言う惨劇を止める為、灼滅者達は4組に別れて会場の公園を見回っていた。
    「一般人が大量殺人……力を得たと勘違いした集団かしらね?」
     クリミネルの言葉に、リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201)が首を傾げる。
     ソロモンの悪魔の仕業――かとも思うが、にしては計画が杜撰だ。
    「わからないことは多いですけれど、今やれることは真相の究明よりも事件の阻止、ですね」
     悩む2人に頷いて、月雲・彩歌(月閃・d02980)が言う。
     今出来る事に専念する。それは、別の場所に居る仲間も同じ思いだ。
    「何が起こってるのかイマイチ掴めないけどさ、私の地元を荒らすのは許さないよ」
     別の場所で、そう意気込む蒔絵・智(黒葬舞華・d00227)の姿があった。
     見回りついでにめぼしい店をチェックしてたりするけれど。
    「さっさと終わらせちゃいたいね」
     内心では面倒そうだと感じ、高良・美樹(浮草・d01160)は淡々と言う。
     歩く足を止めて人の流れを見回せば、向こうにいる柊・司(うっかり者です・d12782)と目が合った。
     目配せし、小さくかぶりを振る。と、司が頷いた後で同じ動きを返して来る。
    「司達も、まだ何も見つけてないみたいだ」
     短いやりとりで交換した状況を智に知らせ、2人は巡回を再開した。
    「高良君達も、異常はないそうです」
     一方、司も組んでいる緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)に悪友からの情報を伝えていた。
    「辰巳さんからも連絡はないですし……中々現れないのも不穏な感じですね」
     司の言葉に頷いて、桐香は上空を見上げる。
     そこには、箒に乗って空を飛ぶ凪・辰巳(蒼のウイングガンナー・d00489)の姿があった。
     事件を阻止する為、彼は死角なき上空からの監視役を選んでいた。
    「暑い」
     遮るものがない空は、直射日光がジリジリ。見通しは最高だが、これは計算外だ。
    「どこのどいつが仕組んだ事か知らんけど、なんとなく遊び感覚な感じがするしよ……手早く阻止して、フリマ楽しみたいとこだな」
     ぼやきつつ、双眼鏡を会場の入口の方に向ける。
    「あれは……?」
     刀や鉈――刃物を持った10人組の姿があった。


     辰巳から全員に、不審者発見のメールが届く。
     が、地上の仲間達の注意は公園の中に向いていた。灼滅者が包囲する前に、10人は複数に別れてしまう。
    「拙いな」
     辰巳一人でも力ずくで倒せる相手だが、上空からの目を欠いてしまえば、相手を見失いかねない。
     動くか動かないか。辰巳が迷った、その時。
     間に合わないと判断したリステアが、2人の不審者へと風を放った。
    「なんだ!?」
    「おい、どうした!?」
     風が吹き抜ければ次々と人が眠りに落ちて倒れる。辺りは一時騒然となった。
     無関係の人達まで眠らせてしまったのは不本意だが、犠牲者が出るよりは良い。
    「どうしました? 大丈夫ですか?」
     さも関係者と言った風で彩歌とリステアが、不審者の元に駆け寄る。
    「申し訳ありませんが道をお開けください。要救護者の搬送を行います」
    「すぐに、応援呼ぶから。まずこの2人を運ばせて」
     同時に使ったESPと言動で、周囲もすっかりフリマのスタッフと信じた様子で、彩歌達に道を開けていく。
    「ありました」
    「こっちもよ」
     救護テントへ運びながら、男のポケットからカードを抜き取り、2人はほっと息をついた。
    「アイツらめ。何をやっている」
    「あの二人の分まで、俺が死神になろう」
     その様子を見ていた別の不審者達が、刀に手をかけナイフを取り出した。
     そこにクリミネルが立ちはだかる。
    「大人しく刃物とカード出しや。さもないと、痛い目合わすで」
     彼女の纏う威風に、すっかり気力をなくし固まる2人の手から刃物が落ちた。
    「そんな物騒な物は仕舞って私と遊びませんか?」
    「あ、遊ぶ?」
     東側では桐香がESPを駆使して3人の不審者を魅了していた。
    「それと、持ち物を全て見せて下さい。カードを持ってますよね?」
     同時に、司が光を放ちながら問いかける。
    「サービスですわよ?」
     更にダメ押しにと桐香が順番に抱きつき至近距離から見つめれば、3人が武器を手放しカードの在り処を口走るまで時間はかからなかった。
    「あのね……キミ達が持ってるカード……少しだけ貸して欲しいんだけど……ダメ、かなあ?」
     一方、西側では智が同じくESPを駆使して不審者達の気を引いていた。
     軽く前かがみになり下から上目遣いと言う念の入れようである。
    「こ、このカードは……」
     視線を受けた男の手がズボンのポケットを抑え――る前に、するりと定期入れが抜き取られる。
     直後、男が気を失って崩れ落ち、程なくもう一人も崩れ落ちる。
     姿を隠した美樹が、2人から定期入れを抜き取ったのだ。
     だが、そこで最後に残った女性が慌てて逃げようと踵を返す。
     仲間が倒れた。その恐怖の方が、魅了に勝ったか。だが、数mも行かない内に崩れ落ちる。
     その上では、箒に乗った辰巳が智と美樹に笑みを浮かべていた。


     多少の混乱は起きたものの、フリマ会場の平和は守られた。
    「回収したカードや」
    「ありがとう。お疲れ様でした」
     クリミネルは、公園に到着した柊子に回収したカードを渡した。
     受け取ったカードを鍵の付いたケースにしまいながら、阿佐ヶ谷事件に似ていると言うクリミネルからの報告を受ける。
     とは言え、本格的な調査は帰ってからだ。
    「他の人達は?」
    「もう皆フリマにな。一緒にフリマ巡りせんか? ウチの彼氏もこっち来とるけど、花火大会の方やからな」
    「あら、じゃあ彼氏さんへのお土産、探す?」
     灼滅者とエクスブレインとしてではなく、クラスメイトとして2人もフリマへ。

    「うーん……あんなに長いこと跨がった事なんて無かったから、ちょいと変な感じだな……」
     長い間、箒に乗って飛んでいたからか。辰巳の足腰に残る違和感。
     だが、折角来たのだ。フリマを巡って花火も観なければ、勿体無い。
     何かいいものがある。そんな己の予感を信じて骨董品の店を巡ってみれば、古びたタロットカードが目に付いた。

     聖太は、フリマを古着や使わなくなった中古品の売買の場、とイメージしていた。
     実際、そう言う物もあるが美術品や手作り雑貨も多く、、眺めて回るだけでも楽しい。
    「東京に帰ったら、皆を誘ってフリマ巡りなんてのも、悪くないかもな」
     知人達を思いながら、聖太はゆっくりと足を進める。

    「ねぇ、これもう少しお勉強してよ! せーっかく可愛い女の子が二人もお願いしてるんだよ?」
     智はフリマ初体験のなつみを連れて、値切り交渉の実演真っ最中。
    「すごいです、智さん……」
     もう一声、と粘り続けて安く手に入れた戦利品の秋物のシャツを見せる智に、なつみから上がる感嘆の声。
    「なつみも行ってきなよ。値切るのも、楽しみの一つだよ?」
    「そうですね。何事も経験……私なりに交渉してきます」
     智に促され、眼鏡の奥のなつみの瞳に決意が宿る。
    「あの、この鞄とブレスレッド、一緒に買うのでお安くして貰えませんか?」
     なつみが買おうとしている1つが、智への贈り物である事を、当の本人はまだ知らない。

    「リステアさんは何かお目当てのものってあったりします?」
    「欲しい物とは特にはないけど、珍しい光景ではあるわね」
     彩歌とリステアは、事が済んだ後も2人で小物の店を中心に回っていた。
    「モノが人の間を巡り、別の人に出会うのは、よく考えると結構面白いですよね」
    「うん、まぁそうね」
     場の雰囲気を楽しむ彩歌に頷くも、リステアの答えはどこか曖昧。
     隣を歩く人と仲良くなりたい。それは2人とも同じ想いなのに、まだぎこちなくて。
    「可愛いぬいぐるみやエキセントリックな置物とかないかな……?」
    (「可愛いか……」)
     本当はリステアも可愛いものは好きだけど、彩歌に言うにはまだ恥ずかしい。

    「ななお、これお前にええんちゃう?」
     秀憲がウニのイラストのTシャツを見せれば、有貞が無言で全力でいらねえオーラを返す。
    「これ、かわいくてカラフルでどうかな」
    「おお、可愛い可愛い」
     ヒョコがどやっと見せびらかすブラウスは普通に可愛い。
    「……ヒョコ、これどうかな」
     更にマキナが見つけたのは、オール蛍光色のマーブル柄Tシャツ。
    「マキナさん。それはカラフルの方向性が違う……たぶん有貞くんに似合うんじゃないかな」
    「……じゃあ有貞に」
    「いらねえよ、まっちゃんにやれよ。そんでペアルックしろよ」
    「えー……私?」
    「……俺が着たら周りの奴の視細胞死ぬで」
     押し付け合う彼らの様子に、必死で笑いを堪える売り子の姿があったそうな。

    「怪しげな店まであるもんだな」
     玲の手には、小さなアイアンメイデン。ちゃんと前扉が開閉する。
    「玲さん、ソレ飾るのかよ」
     そうつっこむ漣香の戦利品は、ヘアピンだ。花の飾りがついていて、女物っぽいけど、使えればなんでも良いし。
    「れんがさんもれいさんも怪しいもの持ってるねー!」
     だが、秋物のジャケットを探すミツルから、2人にド直球。
    「……趣味は人それぞれですし」
     慣れない空気にそわそわしていた葵も、ひくりとぎこちない笑みを浮かべる。
    「……あ。漣香君、向こうに女性向けの古着コーナーもあるみたいですよ」
     これも葵なりの優しさのつもり。
    「レンガくんとミツルくんと一緒に、玲くんも葵くんもヘアピンすればいいんじゃないかな!」
     言い合う男子達に、霞が爽やかに言い放つ。
    「ほら、このふてぶてしい猫がネズミ咥えてるヘアピンいっぱいあるし!」
    「や、男4人でキャラ物ヘアピンは流石にどうかと思うし?」
     漣香のツッコミに、4人揃って頷く。
    「みんな! 可愛い素敵アイテム見つけたよ!」
     そう言う茜歌の手には、ダンベル。
     薄紫色で確かに可愛いけど、10キロって刻印あるよ?
    「日々の鍛練って大事。これで女子力を磨くぞー!」
     茜歌的女子力=女子の腕力らしい。
    「それは女子力じゃ……まぁいいや」
    「茜歌ちゃん……ごめん、なんでもないわ」
     そんな茜歌にどうつっこめばいいのか、誰も判らない。

     着ぐるみがあらわれた!
     目付きの悪い黒猫な直哉、ちゃきっとポーズを決めるヒマワリはミカエラ、角のある白い龍が空で、狼系イフリートが毬衣。
    「探偵倶楽部の筈っすよ!?」
     レミがつっこむも、聞き流す着ぐるみ四天王。
    「止められなかったっす……桐香お姉様ごめんなさいっす」
    「ふふ、大丈夫ですよ」
     遠い目で謝るレミだが、桐香はこの光景に全く動じていない。
    「あ、このミケネコさん可愛いんだよ」
     毬衣が発見したのは、着ぐるみ。
    「先を越されただと!?」
     悔しがる直哉を他所に、状態を確認し店主と話して。毬衣、ミケネコぐるみ購入。
    「ミケネコですか……しっぽに青いリボンとか如何です?」
     毬衣の鬣をもふもふしていた桐香も、それに似合いそうな物を探し始める。
    「うーむ。ニワトリの被り物しかないなぁ」
     負けじとひよこを探すミカエラに、出店者からもたらされた朗報。
    「へ? これ地鶏なの? 博多の?」
     ニワトリだと思ったら、臨海学校のお土産にぴったりな被り物だった。
    「この目付きの悪さ、耳の形、肌触り……他人とは思えない。フフフ、いいもの見つけたぜ♪」
     今の自分とほぼ色違いなだけの白猫ぐるみを発見し、直哉もご満悦。
    「着ぐるみは一通り売れちゃったかな……あっ、このアクセサリー可愛い♪」
     空が見つけた、パワーストーンを使った手作りの一品。
    「これ1つくださいなっ♪」
     不思議な力を感じた気がして、迷わず購入。
    「……そろそろ私も着ぐるみを作るべきっすかねー……?」
     楽しそうな仲間達を観察するレミが思わず呟く。
     数分後、直哉からイカぐるみを勧められるレミの姿があった。


     日が沈み、フリーマーケットは盛況の内に終了した。徐々に公園の混雑も解消された。
    「……ヒョコ達、いた」
    「やっと見つけた。困った年上たちだな!」
     見事にはぐれていたハウスの面々も、無事に再会。
    「……まっちゃん、何だそれ」
    「何も買わんつもりやったんやけど……てか、ななおも何か持っとるやん」
     アメコミのフィギュアとか古いラジオとかに手が伸びたのも、そのせいではぐれたのも。
     全部フリマの魔力のせい。

    「あ、忘れない内に。ミツルー誕生日おめ」
    「お誕生日おめでとーだったねっ」
     突如かけられた言葉と共にミツルの手に収まったのは、細いビーズ飾りのヘアピンとお月見うさぎのストラップ。
    「遅くなっちまったけど」
    「僕からはこれを。いつも付けてらっしゃいますよね」
    「そんな素敵さんたちを入れるのにいいかもしれない小箱もどうぞ!」
     ペリドットのストラップ、シルバーのループタイ、ラインストーンをあしらった黒い小箱と、次々とミツルに手渡される。
    「えへへ、ありがとー! みんなだいすきっ!」
     誤魔化すようにヘラリと笑みを浮かべるミツルだが、友人達からのサプライズに彼の目は僅かに潤んでいた。

    「司はどこからこんなの見つけてきたの」
     美樹の手にあるのは、イカ型のボールペン。何と全ての足にスイッチが付いた10色ボールペンなる代物。
    「高良君も人のこと言えませんよ」
     司の手には、なんか凄い形相だけど愛嬌もある深海魚の置物。
     フリマで土産を探して来て交換しよう。
     そうがどうしてこうなった。
    「司くん。美樹くん。差し入れだよ」
     微妙に固まっている2人に、観月がかき氷を食べながら現れた。
    「柊も高良も、頑張ったと聞いて」
     芭子の手には沢山のケミカルライトの腕輪と、やはりかき氷。
    「暑い、ので……ジュースと、アイス……です」
     2人の後ろにはエイダもいる。
    「あずきのアイス。ありがとー」
     美樹の手が、お気に入りのアイスに伸びる。
    「頂きます。……柴君と袖岡さんは、大荷物ですね」
     飲み物を手に司が見れば、観月の鞄は本でずっしり、芭子の鞄からは妙な荷物がぴょこぴょこ。
    「え、いる?」
     芭子が鞄の中身を見せようとした、その時。
     ――ドンッ!
    「……わぁ……!」
     腹の底まで届く重低音が響いて、少し遠くの夜空に大きな光の華が咲く。
    「すごい、です」
     花火に見入って、殆ど言葉を失うエイダ。
     まだ知り合ったばかりの人達だけど、この瞬間を共有出来る事が嬉しくて。
    「……お疲れ、さま、でした……」
     エイダの感謝の言葉を聞きながら、芭子もぼんやりと花火を眺める。
     こうして皆と出かけて花火を見上げて、そんな今がとても楽しい。
    「面倒な事件だったけど、頑張った甲斐あったなぁ」
    「そうだね。みんなで来れてよかった」
     視線は花火に向けたまま、軽く拳を合わせる美樹と司。
    (「まぁ、たまにはこういうのもいいか」)
     花火に見入る仲間達を横目に見ながら、観月はサイダーを煽り、呟いた。
    「たーまやー」

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 4
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