Darkside of parsley 反逆の狼煙

    作者:雪月花

    「みんなに好きなものや大事なものを食べて貰えないで、闇堕ちするパターンって結構あるのかな?」
     先日救出した少年のケースを考えながら、天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)は首を捻る。
    「そういえば……パセリは生産量の90%が食べられずに捨てられてるって、前聞いたような気がするんだよね」
     その線でいってみよう。
     彼女はパセリの生産地を調べ始めた。

    「ごちそう様ーっ」
     秋の遠足にやって来た小学生達のお昼タイムが、終わろうとしていた。
    「お弁当、美味しかったねぇ」
    「うん……あれ? ねぇ、まだ残ってるよ」
     ふわふわ天然パーマの女の子が、友人が片付けようとしたお弁当箱を覗き込む。
    「えっ?」
    「ほら、パセリ」
     ピンク色の器の中で、パセリの小房がころんと転がる。
     実は彼女、農家の生まれでパセリの栽培を手伝っている、パセリを愛して止まないあまりに『プリンセス・パセリーナ』として活動しているご当地ヒーローだったりするのだ。
     女の子のちょっと洒落たお弁当の中には、パセリの房が入っているものもちらほら。
    「これ、食べられるの?」
    「飾りだと思ってたよ」
    「食べられるよ! 栄養いっぱいなのよ~?」
     顔を見合わせる級友達に、一生懸命訴え掛けるパセリーナ。
    「でも葉っぱだよね?」
    「このまま食べるのは、ちょっと……」
     気が進まない様子の少女達に、パセリーナはその日の午後をしょんぼりと過ごした。
     後日、彼女は知ってしまう。
     生産されたパセリの多くが、食べられずに捨てられているという噂を……。
     そして彼女は地元から姿を消した。
    「あーっはっはっは! 燃えてしまえ、パセリ以外の食べ物など、みーんな燃えてしまえっ!!」
     
     長谷・梨伊菜(はせ・りいな)12歳。
     梗鼓の調査に基づいてサイキックアブソーバーから引き出された事件の元凶となるのは、パセリを愛する故に覚醒し、パセリを愛していた為に闇堕ちした少女だった。
    「……家族や自分が手塩に掛けて育てたパセリが捨てられていると知った彼女は、配下を引き連れて無茶な行為をしようとしているようだ」
    「無茶なことって……一体どんな?」
     困惑気味な顔をしている土津・剛(高校生エクスブレイン・dn0094)に、梗鼓は話の先を促す。
    「それがな……道行く人から弁当を奪って中身を燃やし、代わりにパセリを詰めたり、料理を奪って代わりに配下の人型をしたパセリを乗せて食べることを強要したりと……」
    「……」
     なんじゃそりゃという顔の梗鼓を、霊犬のきょしが見上げて首を傾げている。
    「……ま、まぁ、迷惑なことには変わりないよね」
     矢車・輝(スターサファイア・dn0126)も困ったような笑みを浮かべた。
    「そうだな、それに……まだ人自体に危害が加わったケースはないが、それも時間の問題だろう。だが、今のうちなら彼女を救える可能性がある」
    「灼滅者の素質があるかも知れないってこと?」
     梗鼓がはっとしたように尋ねると、剛は深く頷いた。
    「それなら、助けにいかない訳にはいかないよね。みんな、アタシに協力してくれない?」
     勿論だよと頷く輝や、集まった灼滅者達に梗鼓は笑みを浮かべた。
     
    「長谷さんは静岡県内の都市部に潜伏して、一般人にパセリを食べさせる機会を窺っている。この駅の周辺でピクニックや弁当を持っているフリをすれば、誘き寄せられる可能性が高いな」
     地図の上で剛が示した範囲は、そう広くはない。
     混雑する時間帯を避ければ、一般人も巻き込まれずに済むだろう。
    「彼女はご当地怪人『クイーン・パセリーナ』を名乗って、いかがわしい格好で現れる」
    「いかがわしい格好?」
    「……見れば分かる」
     梗鼓の問いに視線を逸らす剛。
    「配下はさっきも言った通り、人型のパセリが4体。だが、たいして強くはない。問題はパセリーナの方で、鞭を扱い、炎を放つ攻撃を得意としているようだ」
     まともに戦うつもりなら、意外と強敵だという。
    「だが、接触時の行動で彼女の心に響くものがあれば、その戦力を弱めることは可能だ。言葉での説得も良いだろうが、パセリ人間を食べてしまっても感動して身動きが取れなくなるかも知れないな」
    「あれって食べられるの……?」
    「4体か……みんなとなら、なんとかなるかな。僕頑張るよ、梨伊菜さんを助ける為に!」
     思わずぽかんとしてしまう梗鼓の横で、輝はぐっと拳を握り締める。
    「決意固める方向が違う気がするんだけど……とにかく、仲間になってくれるかも知れない子がダークネスになっちゃうなんて、見逃せないよ。みんなで必ず助けて連れて帰ろう!」
     明るい声で音頭を取る梗鼓。
    「あぁ、お前達ならそれが可能だろう。頼んだぞ」
     剛は信頼を込めて頷いた。


    参加者
    比良坂・八津葉(死魂の炉心・d02642)
    天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)
    秋月・神華(酷寒の光焔・d10578)
    山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)
    ヘキサ・ティリテス(カラミティラビット・d12401)
    此花・大輔(ホルモン元ヤンキー・d19737)
    牙鋼・侍狼(ヴェノムズゲノム・d20111)
    高沢・麦(栃木県東ゆるヒーローむぎまる・d20857)

    ■リプレイ

    ●秋の行楽日和?
     秋晴れの空の下、悠然とそびえる山の裾野にある都市。
     朝の出勤ラッシュも過ぎ去った後、秋の行楽や遠足のような雰囲気を醸して、到着した電車から若者の一団が降り立った。
    「すぐそこに丁度良い公園があるみたい!」
     秋月・神華(酷寒の光焔・d10578)が、駅の案内板と実際の風景を照らし合わせる。
    「そこにしましょう」
     秋晴れの空を見上げていた比良坂・八津葉(死魂の炉心・d02642)が清かな笑みを浮かべた。
     こういうのは行き当たりばったりの方が面白い、と。
     時間のせいか、駅からすぐの公園に移動する間も出歩く人影は殆どない。
     しかし……。
    「なんか、視線を感じるっす」
    「あぁ……青モノくせぇな」
     丁度肩を並べていた山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)と牙鋼・侍狼(ヴェノムズゲノム・d20111)が、こっそりと言葉を交わす。
     何処かから確かに感じる、刺すような視線。
    「いやぁ、皆さんのお弁当、楽しみっすねぇ」
     不穏な気配を感じさせないよう、高沢・麦(栃木県東ゆるヒーローむぎまる・d20857)は楽しげに声を上げた。
    「ヘキサ君は随分いっぱい持ってきたみたいだけど」
     矢車・輝(スターサファイア・dn0126)はヘキサ・ティリテス(カラミティラビット・d12401)のぎゅうぎゅうの鞄をしげしげ眺める。
    「あァ、マヨネーズ詰め込んできたンだぜェ!」
    「そ、そうなんだ」
     ニッと笑うヘキサに、輝は目を瞬かせた。
     流石マヨラー。
    「俺はホルモン焼くのに、ミニ七輪持ってきたんだ」
     此花・大輔(ホルモン元ヤンキー・d19737)に至っては、弁当どころかちょっとしたバーベキューの様相だ。
     大輔らしいよねという天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)の笑みは、感心か呆れからなのか。
     自分達を追い続ける視線に、いつ襲い掛かってくるのかと思いつつ、灼滅者達は目的の公園に着いた。

    ●駿河の国のパセリ姫
    「(出てこないね)」
    「(機を見計らってるのかな?)」
     ご当地系のサガか、なかなか姿を現さない怪人に灼滅者達はこそこそと言葉を交わす。
     とりあえず、みんなで陣取れる場所を見付けてお昼を広げることにした。
    「八津葉ちゃんもおにぎりなんだ。私は鮭とかいくらとか、海産物系の具なの」
    「そうなの。私はね……」
     おにぎりを用意してきた神華と八津葉が、互いに見せ合う横で、菜々は4人分くらいありそうな弁当を取り出す。
    「そんなに食べるんすか?」
     目を丸くした麦の弁当はというと、揚げ物が多くて全体的に茶色だ。
    「みんなで食べられるようにって、多めに作ってきたっすよ」
     それでも半分は食べるのだと菜々が笑うと、自分も結構多めに用意したとヘキサも笑みを浮かべた。
    「せっかくっすから、おかず交換しないっすか?」
    「おぉ、いいっすね!」
     似たような話し口の菜々と麦が盛り上がる傍ら、侍狼は良い匂いのする袋を取り出した。
    「アタシのはママ特性お弁当♪」
    「梗鼓さんのお母さんって、料理上手なんだね」
     輝も手製のサンドイッチを取り出す。
     ミニ七輪に火を起こし、大輔は大好物のホルモンを準備する。
     お供は白いご飯のみ!
    「よォし食うかー」
     ヘキサがサクサク衣の唐揚げに齧り付こうとした時だった。

    「あーっはっはっはっは!!」

     少女の高笑いが公園に響き渡った。
    「来た!」
     仲間達と一緒に、輝も顔を上げる。
    「お主がパセリ姫にござるか……!!」
     ブレイブがごくりと息を呑む。
    「そのお弁当、クイーン・パセリーナ様がぜーんぶパセリに変えてやる!」
     ビシっと鞭で地面を叩くクイーン・パセリーナ。
    『パセー』
    『パー』
     周囲には、パセリを繁らせたパセリ人間が侍っていた。
    「うーわマジでシュールだなコイツ!」
     緑のもさもさに相対しつつ、錠は興味津々に観察する。
     麦もじっと凝視してしまう。
    「パセリーナは悪役になりきっちゃってるけど、こっちはなんかカワイイし……あれ、これモフモフ系の依頼だっけ?」
     違います。
     パセリーナはやはり際どい女王様ファッションで、
    「それ、似合ってないよ!」
     すかさず梗鼓が突っ込みを入れる。
     闇堕ちして体格も変わってしまっているようだが、元のパセリーナのイメージとはかけ離れていた。
    「それはそうと……これって付け合せだよね?」
     梗鼓はパセリの房をひょいと摘み上げ、そのままぱくりと口に放り込む。
    「!!」
     パセリーナは目を見開いた。
     とても栄養価の高いパセリ、食べないなんてやっぱり勿体無い。
     そう思いを込め、梗鼓は彼女を見詰めた。
    「……ええい、何をしてるの! あいつらの弁当を奪ってくるのよ!」
    『『パー』』
     苛立ち交じりの命令に、パセリ人間達は甲高い声を上げて弁当目掛けてよちよち走り出した。
     だが、彼らの前に武装した灼滅者達が立ち塞がる。
    『パ……』
    『パー』
    「いいから早く!」
     困った様子のパセリ人間に檄が飛ぶ。
    『パー!』
     ぺちぺち!
     ぺちぺちぺち!
    「うーっ痛いのですっー。やめてなのですー」
     前に出た蘭世が叩かれた。
    「何こいつら! かわいいんですけど!!」
    「かわいい……♪」
     梗鼓と兄の桔平は、思わず和んでしまう。
    「はうー、でもでもっ、がんばるのですっ」
    「らんちゃんだけに頑張らせる訳にはいかないね!」
     桔平は、マヨネーズとケチャップを取り出す。
    「パセリ人間……俺が美味しく頂いてやるよ!」
     龍砕斧を振るう達郎が、パセリを切り取っていった。
    「へぇ、生きてるからか鮮度は抜群みたいだな」
     ぷちっ。もぐもぐ。
    「パセリって殺菌効果あんだろ? 添えてあるのもラストに食えば、口の中さっぱりして良さそうだよな」
     錠も上の方の房を摘んで、口に放り込んでみた。
    「パセリも大好物っすよ、もりもり食べるっすー」
     宣言通り、もりもり食べ始める菜々。
    「うぅ、口の中が森になったみたい……」
     口に運んで感心げな彼らとは逆に、輝は頬を膨らませながら鼻から抜けていく緑の風味に遠い目をする。
     この様子だと、ただ素のまま食べ続けるにはきついか、と錠が思った時。
    「その憎しみを喰い千切るッ!」
     高速回転する『兎のレガリア』を履いた足で閃光の如く蹴撃を浴びせたヘキサが、千切れたパセリに両手のマヨネーズをお見舞いした。
    「オレが誰かだってェ? 見りゃ分かンだろ! 通りすがりの、マヨラーだぜェ!!」
    「聞いてないよ」
     思わず素で突っ込むパセリーナ。
    「はっ、じゃなくて」
    「えい……っ!」
     鞭を構えた彼女の頭上から、掛け声が響く。
     何かを感じて飛び退る灼滅者達。
     そこへバシャッと派手な飛沫が降り注いできた。
    「な、なにぃ……!?」
    『パ~』
     パセリーナとパセリ人間の半分が、避け切れずに被ってしまったそれは、独特の匂い。
    「なんだ、俺以外にもドレッシングを持ってきた奴がいるのか」
     達郎が笑いながら側の木を見上げると、空瓶を手にした透流がこくりと頷いた。
     彼女は怪力無双を使って、持てるだけのドレッシングを運んできていたのだ。
    「苦手な奴にはと思って、これを持って来たんだ」
     達郎の手には、自家製の梅肉ドレッシング。
    「こいつのサッパリとした風味と、パセリの相性は最高なんだぜ?」
    「なるほど……拙者も頂くことにするでござる」
     早速、ブレイブはドレッシングの掛かったパセリを食べ始める。
     パセリ人間からパセリを千切っては投げ……じゃなく、千切っては食べ千切っては食べ。
    「超おいしいんですけどっ!!」
     独特の風味さえ平気なら結構いけるらしく、梗鼓は歓声を上げながらパセリにぱくついた。
    「こ、こいつら……パセリ食べてる!? どうして?」
     肩を震わせ、その様子を眺めているパセリーナを、神華はびしっと指を差す。
    「クイーン・パセリーナ! あなたの闇を晴らしてみせるわ!」
     祖父母が農家をしている彼女は、パセリーナへの共感を胸に炎の翼を展開した。
    「あたしは北の大地で育った生粋の道産子! ゆえに野菜の好き嫌いなどないわ!」
     メインディッシュからパセリまで食べてこそ、その料理に携わった存在への感謝の表し方だと示すよう、パセリ人間に挑んでいく。

    「手を加えて良いか、聞くまでもないみたいね」
     確信を得た八津葉の視界に、ミニ七輪をスタンバイした大輔が映った。
    「俺のホルモンをただのふっさふさに変えるのはやめろ!」
     おかっぱ頭に黄色い帽子の愛らしいビハインド・実理と一緒にホルモンを死守した彼は、箸でパセリを摘み取る。
     七輪で軽く炙り、塩を掛けて口に運ぶと。
    「意外といけるな……!」
    「パセリの風味のクセと苦みは、その組織構造の硬さが原因なので、加熱でそれを壊すことで柔らかさと甘みを引き出せます」
     そつなく優歌が解説し、魔道書を開くとパセリ人間達にゲシュタルトバスターを放った。
    『パー!』
    『パセ~』
     炎に包まれて踊るような彼らから、優歌はパセリを摘んで調味料を振り掛け、皿に盛る。
    「これなら沢山食べられるね♪」
    「ん、食べ易くなったよ」
     桔平の言葉に、もしゃもしゃしつつ輝は深く頷いた。
    「TVで言ってた通り、加熱すると柔らかくなっておいしくなるっすね。そういうことを広めていって、みんなにパセリを好きになって貰った方がいいんじゃないっすか?」
    「うぅ……」
     菜々の声に、パセリーナは後ずさる。
     これなら生のパセリが苦手でも大丈夫そうだと、八津葉も手を付け始めた。
    「子供の頃からの宿敵とも呼べる相手『パセリ』、今日こそ因縁の決着よ」
    「肉味のしつこさがサッパリ消えちまうなァ!ドンドン来いやがれェ!」
     同じくパセリが苦手なヘキサは、マヨの力でパセリの山を乗り越えていく。
    「ジャンクフードでもヘルシーリッチな気分になれる……そう、パセリ付ならな!」
     侍狼はといえば、用意したケチャップと三種類のフライドポテト、チキンナゲットを広げDMWセイバーでパセリを刈り取っていた。
    「いっぺん食ってみたかったんだ。肉や揚げもんを、同じ量のパセリと一緒にな!! レタスやキャベツじゃ味わえねえ境地を見せて貰おうか!」

     工夫を凝らして十数人で食べ続けた結果、パセリ人間の量は残すところあと僅かになっていた。
    「もうこんだけか……ココは俺等に任せな?」
    「ありがとう! みんな、今のうちだよ」
     錠に促され、輝は笑顔を浮かべると周囲に声を掛けた。
     パセリーナはただ、パセリが片付けられていく様を眺めている。
     残りのパセリをサポートの面々に託し、灼滅者達は彼女目掛けて突き進んだ。

    ●取り戻せ、パセリの心
     巨大化した梗鼓の片腕を、パセリーナがスレスレでかわす。
     が、バランスを崩し軽くよろめいた。
     精彩を欠いた動作を見逃さず、菜々の勢いを乗せた螺穿槍がパセリーナを射抜いた。
    「くっ、お前達なんかに……」
     悔しげに歯噛みする彼女を、神華は真っ直ぐ見据える。
    「農家の人達のためにがんばっていた梨伊菜ちゃん……あなたは本当に、本当に素敵だわ」
    「な、何を……」
     ストレートに告げられて、パセリーナは狼狽の色を浮かべる。
    「その思いがダークネスに呑まれちゃうのは、あたし、とっても悲しい。戻ってきて、そしてまたパセリの良さを広めていきましょう!
     あたし、プリンセス・パセリーナとして活動するあなたを、応援したい!」
    「確かにパセリは、そのままはチッと食い辛ェ。けどな、そのままじゃダメでも、パセリが美味くなる食い方はあるンじゃねーかァ?
     その方法、一緒に探そォぜ!」
     畳み掛ける神華に、ヘキサが続ける。
     梗鼓も同意した。
    「アタシ、パセリのことすごく勉強したんだ。貧血や食中毒防止にとっても効果があるし、ビタミンCや鉄分も野菜や果物の中でトップなんだよね?
     ねぇ、こんなやり方じゃなくて、元の姿、『プリンセス・パセリーナ』でパセリのいいとこいっぱい広めていこうよ?
     アタシも梨伊菜のパセリ愛、広めるの手伝うから!」
    「う、うるさいっ! 梨伊菜なんて知らない!」
     首を振ったパセリーナの手から、炎が迸って前衛陣に襲い掛かる。
    「あぶねっ」
     実理や梗鼓のフサフサの霊犬・きょしが前列の仲間を庇う中、大輔は梗鼓に注いだ火炎を一手に引き受けた。
    「大輔……!」
    「へへっ、梗鼓のことは守るぜ」
     照れ混じりに、大輔は笑って見せた。
     いつか彼女よりも強くなりたいと、想いを忍ばせて。
    「お前も火が使えるんだな。奇遇、俺も炭火が使えるんだぜ……!」
     向き直り構えた腕から、炭火ビームが炸裂した。
     じりじりと押している。
     主に回復を引き受けた八津葉の力によって、ダメージも気にならない程度に留まっていた。
    「人は工夫で多くの物を食べ易くしてきました。それが料理の歴史です。炎の使用は人類が人である証の一つ。
     だから私は梨伊菜さんと一緒に人でいたい。帰ってきて」
     一緒にお料理しましょうと、優歌も訴え掛けた。
    「俺も好きなもんを認めてほしくて、今のお前みたいに闇堕ちし掛けたことがあったぜ。俺の場合は、それを通して俺を認めて欲しかったのもあるんだけど。
     だからこそ、お前の気持ちはすげぇわかる。好きなもんも自分も、他の人に好きになって欲しいもんな」
     大輔の笑みに、パセリーナはうっと言葉を詰まらせる。
    「だったら、もっとパセリの力や良さを信じてやれ。そんな強引なやり方じゃみんな逃げちまう。
     で、自分のことも信じろ」
    「う、うわああぁ!」
     叫び、振り回される鞭を軽々と避けて、麦とヘキサ、侍狼の攻撃が次々と炸裂した。
     更に巨大化した梗鼓の腕が、パセリーナを掴み取り、ダメージを与えながら仲間へとパスされる。
    「いくぜ! ホルモン焼きダイナミック!!」
     大輔に軽々と抱え上げられたパセリーナは、そのまま地面へ落下。
    「この剣で、闇を晴らしてみせる!」
     神華のサイキックソードが、黒い衣装を切り裂いた。
    「ああぁっ!」
     仰け反り、倒れていくパセリーナ。
     その姿はゆっくりと、白い可愛らしい服を纏った少女へと戻っていった。

    ●復活、プリンセス!
    「わ、わたし……あんな格好でなんてこと……!!」
     正気を取り戻した梨伊菜は、赤くなったり青くなったり大変だ。
    「蘭世もパセリは残しちゃうのです……。梨伊菜ちゃんにはごめんなさいだったのです」
    「ううん、わたしの方こそ……」
     しゅんとする蘭世に、梨伊菜は首を振った。
     灼滅者達は彼女に、学園の話をした。
     同じ力を持つ灼滅者、そしてご当地への愛に溢れるヒーロー達が集っていることを。
    「わたしと同じような人が、いっぱいいるなんて……」
     もうひとりで戦い心を挫けさせることはない。
     彼女の瞳は期待に輝いていた。
    「一緒に梨伊菜のパセリ愛、広げていこうよ!」
     梗鼓の言葉に「うん!」と頷き、梨伊菜は立ち上がった。
     そこへ漂うのは、七輪で焼かれたホルモンの匂い。
    「お弁当、再開しましょう。勿論だけど、梨伊菜ちゃんも一緒よ」
     八津葉の声に、梨伊菜のお腹がきゅーと鳴った。
     公園に、明るい笑い声が響く――

    作者:雪月花 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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