贄を食らう龍神

    作者:魂蛙

    ●アメリカのオレゴン州にある都市の夏?
    「ユージーンSummer?」
     都市伝説の噂を聞いたンーバルバパヤ・モチモチムール(ニョホホランド固有種・d09511)はナニソレ? と言いたげに首を傾げるが、盛大に聞き違えているので分からないのは当然である。
     正しくは水神様である。
     水の体を持つ龍の神様が夏祭りの日に現れる、という噂だ。水神様は川などに現れ、自ら濁流と化して周囲の物を押し流すらしい。
    「オゥ、水遁の術ヨ!」
     それなら知ってる! とばかりに目を輝かせるンーバルバパヤ。
     水遁の術が、筒を水面に出して呼吸を確保しつつ水の中に身を隠す、割と地味な忍法であることを、彼女はまだ知らない。

    ●水神様
    「この猛暑に加えて空梅雨……都市伝説が生まれるのも、無理ないかもしれないな」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は教室に差し込むかんかん照りの陽射しを見て、1つ嘆息した。
    「人々の渇水への恐れと、水神信仰にサイキックエナジーが結びつき、新たな都市伝説を生み出したようだ。この都市伝説は水でできた龍の姿で現れる。正しく龍神、といったところか」
     姿こそ水の神を模しているが、あくまで都市伝説だ。倒すことで灼滅者や町に祟りがあるわけではないので、そういう心配は無用だ。
    「この都市伝説は川辺の町で開かれる夏祭りの日に現れ、濁流と化しながら山中の川を下っていく。それだけなら水不足解消に貢献……と言えなくもないが、事はそう単純じゃない。都市伝説が川を下る際に、山に入り川で遊んでいた子ども2人を攫っていくんだ。……或いは、そうして生贄を食らう事も、この都市伝説の存在理由に含まれているのかもしれないな」
     信仰心も絡んで生まれた都市伝説ならば、その可能性は大いにありうるだろう。
    「とにかく、放っておくわけにはいかないだろう。お前達にはこの子らの救助と、都市伝説の灼滅を頼みたい」

     ヤマトは今回の戦場周辺の地図を机に広げてみせる。
    「都市伝説が出現するのは午後3時頃、川に子どもがいないと出現しない。子ども達だけで遊んでいる必要はないから、できるだけ近くで待機して、都市伝説が現れたらすぐに川から引き離すんだ」
     子ども達に怪しまれることなく、一緒になって水遊びをしていられれば、より確実に助けることも可能だろう。
    「一度都市伝説が現れれば、それ以上子どもが川に留まる必要はない。離れた場所に隠れさせるか、山を降りるように言い聞かせてもいい」
     地元の子らであり、迷子になる心配などはないだろう。
    「都市伝説は単体で出現し、クラッシャーのポジションからマテリアルロッドの物によく似た3種のサイキックを使用する。戦場と敵の性質から濡れるのは避けられないと思うが、まあこの炎天下ならすぐ乾くだろうし、問題にはならないだろう」
     季節的には丁度いいくらいだ。とはいえ、戦闘中に水浴びを楽しむ余裕はないだろうが。

    「無事事件を解決したら、帰る前に町の夏祭りを楽しむのもいいかもな」
     あまり大きなお祭りではないが、定番の出店や屋台は一通り揃っているそうだ。
    「勿論、都市伝説との戦闘が第一義だがな」
     最後に念押しして、ヤマトは灼滅者達を送り出した。


    参加者
    九条・鞠藻(図書館のヌシ・d00055)
    橘・瞬兵(蒼月の祓魔師・d00616)
    天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)
    藤波・純(喧嘩買取人・d02035)
    松下・秀憲(午前三時・d05749)
    ンーバルバパヤ・モチモチムール(ニョホホランド固有種・d09511)
    天槻・空斗(焔天狼君・d11814)
    鏑木・直哉(無銘の鞘・d17321)

    ■リプレイ

    ●真実って残酷
    「サボりだー! いっけないんだー」
     祭りの手伝いをしていたが暇になったので川に遊びに来た、という松下・秀憲(午前三時・d05749)に、浅井・英彦が子どもらしくはやしたてる。今中・絵美は英彦の後ろに半分隠れるように立ち、不意に現れた灼滅者達をまだ少し警戒しているようだ。
    「ちょっと、お眼を拝借。タネも仕掛けも……まぁ、なかったらできないんだけどな」
     一歩前に出て子ども達の目を引いた天槻・空斗(焔天狼君・d11814)が、ポケットに何も入っていないことを見せてから、飴玉をポケットに入れる。
    「そんで、ポケットを軽く叩いてみると……ほら、どうだ」
     空斗が2つに増えた飴玉をポケットから取り出すと、子ども達が歓声を上げる。
    「お兄ちゃんすごーい!」
    「もっかいやって! もう一回!」
     仲間達が子ども達と打ち解けたのを見届けると、九条・鞠藻(図書館のヌシ・d00055)と鏑木・直哉(無銘の鞘・d17321)、橘・瞬兵(蒼月の祓魔師・d00616)の3人が学校の課題の河川調査という名目で上流へ向かう。
    「それにしても、ンーさんは張り切ってましたね」
     スキップで山を登っていたンーバルバパヤ・モチモチムール(ニョホホランド固有種・d09511)の様子を思い出し、鞠藻が口元を抑えながら思い出し笑いする。
    「水遁の術を学ぶ、だったか。何か勘違いしている様子だったが……」
    「水遁に限らず、いわゆる遁術って逃げるための術だから、基本は地味だと思うんですけどね」
     直哉が思案しながら頷き、瞬兵は苦笑する。
     しかし、目を輝かせてくるくる踊るように回っていたンーバルバパヤの事を思えば、
    「言えないですよね……」
    「言えないな……」
    「言えませんね……」
     下流を遠い目で見つめるしかなった。
     鞠藻達の遠い視線の先、当のンーバルバパヤは天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)と絵美を間に挟む形で、川辺で釣り糸を垂らしていた。
     ンーバルバパヤは身長で絵美にさえ負けてしまうという、受け入れ難い現実に落ち込んでいたのも一瞬の事、焚き火まで起こして上機嫌に鼻歌を歌っている。
    「これだけ騒がしいと、釣果には期待できないかもしれませんけどね」
     絵美に竿を持たせてやりながら、皐は川に入って英彦と遊ぶ仲間達を見て苦笑する。
    「いやっほぉおおう!」
     藤波・純(喧嘩買取人・d02035)に至っては、準備運動なしで川に飛び込んだり、流れに逆らって泳いだり、川遊びを最高に満喫している。あまり教育にはよろしくなさそうではあるが。
    「あーこら、水着じゃないんだから手加減しろって」
     英彦が遠慮なく飛ばす水を浴びながら、秀憲はちらりと上流を気にする。
     時間は、刻一刻と迫っている。
     異変に最初に気づいたのは、最も上流で監視をしていた瞬兵だった。
     川の流れが不意に早くなり、上流の方から地鳴りのような音が響いてくる。
    「来た……」
     瞬兵が上流に目を凝らすと、凄まじい勢いで鉄砲水が迫ろうとしていた。
     ただの鉄砲水ではない。生き物のようにうねり、のたうちながら咆哮を轟かせるそれが、ただの自然現象である筈がなかった。
     すぐさま瞬兵はハンドフォンで下流の仲間達の携帯電話にコールしつつ、同時に駆け出した。
    「ええ、かなりの速度で迫っています。すぐに子供達を……はい」
     川が緩やかにカーブを描く地点で監視していた鞠藻も、同様に都市伝説の接近を察知して下流の仲間達に連絡を取る。
     連絡を受けた秀憲は、まだ遊びたそうにする英彦の手を引き、川から連れ出す。
    「上流に言った仲間達から連絡があったんだ。川が増水してる、鉄砲水が来るから早く逃げろ!」
     絵美を連れた皐と合流し、秀憲は森の獣道まで子ども達を連れて行く。
    「できるだけ川に近づかないようにして、山を降りるんだ。約束できるか?」
     秀憲の真剣な表情から状況を察したのか、英彦も素直に頷く。秀憲は英彦の頭を撫でてやり、それから送り出した。

    ●降臨
    「皆、避難しろ!」
    「今秀憲達が逃がしている!」
     下流側での監視を担当していた直哉が駆けつけると、川と子ども達の間に立ちはだかる純が答える。既に、都市伝説は目視できるところまで近づいていた。
    「龍神相手か、面白い」
    「コレが本場の水遁の術……スゲー格好良いヨ!」
     川原を抉りながら押し流す激流と相対し、純とンーバルバパヤは寧ろ目を輝かせて待ち構える。
     灼滅者達に迫る激流が、鎌首をもたげる。長い髭と角を生やし、牙を剥いて吼えるその巨体は、龍神と呼ぶに相応しい威容を誇っていた。
     龍神は速度を緩めることなく、純に突進する。対する純も一歩も退くことなくその場に踏み止まり、禍々しく顎を開いた龍神の突進を、がっちりと受け止めた。
    「さて、喧嘩しようか」
     瞬間、膨れ上がった純のオーラが足元の水面を叩き、水柱が突き上がる。水の壁を砕いて姿を現した純は、派手な刺繍の施された白の特攻服を身に纏っていた。
    「不動なる力をこの手に。……immortalize!」
     純の膝蹴りで龍神が怯むと、即座にimmortalizerを構えた直哉が追撃をかける。
     直哉が電光走るimmortalizerを龍神の脇腹に叩きつけると、眩光を撒き散らしてスパークが炸裂した。
     よろめく龍神は大きく抉れた体を、足元の水を吸い上げ修復する。
    「目覚めろ。疾く駆ける狼の牙よ」
     空斗が実体化する諸刃の大剣、焔天狼牙の柄を掴んで引き構えた。握り込んだ焔天狼牙の刀身が顎を開くよう左右にスライドし、展開した刃の間から焔を噴く。
    「吼えろ、焔天狼牙ァッ!」
     空斗が焔天狼牙を振り抜き、焔を飛ばす。焔の剣閃が龍神に喰らいつき、周囲に激しく蒸気を散らした。
     蒸気を切り裂き飛びかかったンーバルバパヤが、龍神の額に張り付く。激しく頭を振る龍神にしがみつき、ンーバルバパヤはkatana of Tanakaで、龍神の額にカオスペインの紋章を刻み付ける。
     明滅しながら振動する紋章に、龍神が苦悶の唸りを上げながらもンーバルバパヤを振り払う。怒り狂う龍神は、渦巻く水流の爪を振るってンーバルバパヤに襲いかかった。
     ンーバルバパヤは振り下ろされる爪を、後退しつつ刀で受け捌く。が、連続で襲い来る爪の重さに体勢を崩され、そこに痛撃を浴びて弾き飛ばされる。
     更に追撃せんと突進する龍神の巨体を、しかし飛んできた防護符が阻んで押し止めた。
    「御許に仕える事を赦したまえ……」
     防護符を飛ばしたのは、上流から駆け付けた瞬兵だ。
    「さて、お仕事開始です」
     瞬兵と共に駆けつけた鞠藻は白い羽織を羽織り、柄を伸ばし薙刀形態にした妖刀・蛟丸を構え、龍神に飛びかかる。
     防護符が展開する障壁を破って振りかざした龍神の腕に、鞠藻が取り付く。鞠藻が龍神の肩口に妖槍刀を突き立て、その切先に冷気を集中させる。
    「水神同士の対決です! ……とはいえ向こうは偽者、こちらも本物かどうかわかりませんが」
     妖槍刀が龍神の腕を巻き込みながら氷の刃を形成し、凍結した龍神の腕を粉砕する。
     凍った肩の傷口を砕き新たな腕を生やす龍神に、子どもを送り出し戻ってきた皐と秀憲が攻撃を仕掛ける。
     WOKシールドを展開し前に出た秀憲は、一気に龍神の懐に潜り込む。秀憲は押し潰さんと降ってくる龍神の爪を跳躍して躱し、龍神の鼻先にシールドを叩き付ける。
    「水を殴るってーのもなんかな。効いてるのか?」
     衝撃に砕けた鼻先を修復しつつの噛み付きを、秀憲は身を翻して躱し後退する。
     執拗に秀憲に追い縋る龍神の脇腹を、皐が無敵斬艦刀で斬りつける。身をくねらせる龍神の尻尾の反撃も斬艦刀を盾に受け止め、皐は更に左手の妖の槍で龍神を突き貫いた。

    ●荒神
     天を衝く龍神の咆哮は、悲鳴ではなく怒号だ。龍神の呼び声に応えるように、灼滅者達の頭上低い所を局所的に暗雲が立ち込める。
    「天候を操るか。いよいよもって神らしくなってきたな」
     直哉が呟いた直後、龍神の足元から風が巻き起こる。渦巻く風は無数の竜巻となり、川の水を巻き上げながらうねり、灼滅者達に襲い掛かった。
     直哉が飛び退くも、荒れ狂う竜巻の風圧に弾き飛ばされ、木の幹に強かに叩き付けられる。
     直哉は苦悶の息を吐きながらもすぐに立ち上がって体勢を立て直し、風を纏いつつ飛び出した。
    「貴様は確かに神だそうだが、だとしても貴様にはチェーンソーすら惜しい!」
     薙ぎ払う龍神の尻尾を、直哉は高く跳躍して躱す。龍神の頭上を取り、捻りを加えて天地逆転した直哉が、風の刃を纏った腕を鋭く振り抜いた。
    「獰猛なる神と言うのなら、目の前の贄を取り逃がさず食い散らかすだけの意地を見せろ!」
     放たれた風の刃が、龍神を渦巻き、斬り裂いていく。
     そこに、純が一気に間合いを詰めにかかる。烈風と水流が成す二重螺旋の刃に肌を切り裂かれながらも、強引に竜巻を突破した純は踏み込み龍神の懐に潜り込み、雷光を握り固めた拳でその土手っ腹を――、
    「昇龍撃ッ!」
     ――突き上げる!
     上空で身を翻した龍神が鋭く吼えると、暗雲を電光が走る。純の頭上で収束した光は、稲妻となって飛来する。
    「させんよ!」
     飛び出した秀憲がシールドを展開しつつ割って入り、雷撃を受け止める。
    「松下さん! 今、清めの風を……」
     瞬兵が起こす清めの風が秀憲を包み、雷撃に焼かれた腕を癒した。
     地上に降りた龍神が皐に迫り、迎え撃つ皐は足元に槍を突き立てる。瞬間水面を破って伸びた影業の刃が、鮫の背鰭の如く川を割って走り、龍神の爪を受け止めた。
     影を追って飛び出した皐は槍を納め、斬艦刀を両手で握って振りかざす。大上段から振り下ろした刃が、龍神の頸を深く斬り裂いた。
     龍神は怯んで後退するも、すぐさま態勢を整えて皐に食らいつこうと襲い掛かる。
    「捕まえたァッ!」
     が、純が龍神の尻尾を抱え、龍神の前進を阻む。
    「そりゃぁあああっ!!」
     純は尻尾を担ぎ上げ、そのまま背負い投げでブン投げた!
    「輝く御名の下、荒ぶる偽りの神に鎮守の光を……」
     瞬兵が天を指した手を龍神目掛け鋭く振り下ろす。刹那、暗雲を突き破って一条の光が飛来し、龍神を貫いた。
     ジャッジメントレイに射貫かれ墜落する龍神を、妖槍刀を構えた鞠藻が待ち構える。
    「はぁっ!」
     鞠藻は龍神を妖槍刀で迎え撃ち、
    「せいっ!」
     踏み込み旋転から逆水平に薙ぎ払い、
    「せやぁああっ!」
     跳躍して頭上で回転させた妖槍刀を振り下ろす。
     川に着地した鞠藻が蛟丸の柄を短縮させると、同時に刀身が川の水を吸い上げ、斬艦刀の刃を形成する。
    「はぁぁああああああっ!!」
     鞠藻が裂帛の気を吐き、斬艦刀を逆袈裟に振るう。巨大な水の刃は川を割り、龍神の胸を斬り裂いた!

    ●神殺し
     苦悶の声を漏らしつつも、龍神は鎌首をもたげて灼滅者達を見下ろす。1つ吼えた龍神は空斗に狙いを定め、突進を仕掛けた。
     空斗は敢えてその場に踏み止まり、龍神を迎え撃つ。
    「水神だかなんだか知らねぇが、自然の摂理には勝てねぇだろうがっ!! 最大火力で蒸発しちまぇっ!!」
     刀身を展開して焔を噴出させる焔天狼牙を構えた空斗が、顎を開いて突っ込む龍神に飲み込まれる。
    「ぶっぱなせ――」
     その直後、
    「――焔天狼牙っ!!」
     龍神の胴体が爆裂し、黒焔の刃が龍神を内側から斬り裂く!
     蒸気を引き裂き、黒い焔が刃を成す焔天狼牙を携えた空斗が飛び出した。空斗は跳躍の最頂点で、焔天狼牙を振り下ろす。
     放たれた黒い焔の奔流が龍神を襲い、体の修復も動くことさえも封じ込める。
    「今だっ!」
     空斗が叫んだ時、既にンーバルバパヤと秀憲は構えに入っていた。
     ンーバルバパヤが両手を頭上に掲げ、その背後に立つ秀憲はンーバルバパヤの手に重なるように両手を突き出す。2人の手の中で形成された2つの漆黒の弾丸が、2重螺旋を描きながら融合して膨張する。
    「これで――」
    「――とどめヨ!」
     ンーバルバパヤが投げ――、
     秀憲が打ち出し――、
    『デッドォ! ブラスタァアアアアッ!!』
     ――放った漆黒の砲弾が水面を引き裂き地面を抉り飛翔し、龍神を直撃する。
     漆黒の衝撃が、龍神を戒める焔ごと粉砕する。逆巻く力の奔流が天を衝き、龍神を無へと還した!
     龍神の断末魔の余韻が消えると、雲も消えて太陽が姿を現す。水神との激闘に勝利した灼滅者達を祝福するように、真夏の陽光が降り注ぐ。
    「うへぇ、びしょびしょだ……」
     空斗がぼやき、秀憲は貼り付く長髪を鬱陶しげにかき上げながら太陽を見上げて目を細める。
    「アレ? ないヨ?!」
     と、ンーバルバパヤが素っ頓狂な声を上げながら辺りをキョロキョロと見回す。
    「どうしたんですか……?」
    「ンーの釣竿がないヨ……」
     瞬兵に答えてしょんぼりするンーバルバパヤが指差すのは、河原の水際辺りだ。
     瞬兵は少し考え、それからとても言いにくそうに口を開く。
    「多分、流されたんじゃないでしょうか……」
    「オゥ……ウツケだたよ……」
     ちょっぴり涙目で下流を見つめて呻くンーバルバパヤ。恐らく「迂闊だった」と言いたいのだろうが、まあ意味は通っている。
    「あーほら、泣くなよ! 私と瞬兵が一緒に探しに行ってやるから」
    「え、僕もですか……?」
     見かねた純が、さりげなく瞬兵を巻き込みつつンーバルバパヤの頭をわしわしと撫でる。
    「マジか! ジュンもシュンペーも、イイヤツヨ!」
     途端に目を輝かせるンーバルバパヤにぶんぶんと握手されては、瞬兵もいやとは言えない。
    「それじゃ、皆さんは先にお祭りに行っててください。釣竿見つけたら、合流しますから……」
    「そうさせてもらおうかね」
     頷いた空斗を先頭に、釣竿捜索組と別れた灼滅者達が山を降りていく。
     山を降りると、すぐに祭の喧騒が灼滅者達を出迎えた。
     道に沿って出店が並び、浴衣姿の人々が楽しげに行き交う。きっと、灼滅者達が助けた子ども達も、どこかで祭を楽しんでいる筈だ。
    「おっちゃん! たこ焼き1つ!」
     早速空斗は屋台からたこ焼きを調達している。
    「久しぶりに射的でもやっていきましょうか」
    「どうせならあのぬいぐるみを……」
     皐と鞠藻は射的に挑戦する。
     鞠藻は景品の中でも一番大きな、正体不明なケモノのぬいぐるみを狙う。外す方が難しいくらいの特大サイズで、狙い過たずコルク弾はケモノの額を捉えた。
    「む……」
     が、それだけだった。アルカイックスマイルを浮かべたケモノは、容易くコルク弾を弾き返した。
    「あれは流石に難しいでしょう」
     微笑しつつ皐が撃ったコルク弾は、キャラメルの箱に当たって台から弾き落とした。
     秀憲と直哉は祭の中心地である神社の方まで足を伸ばし、お社を見つめる。
    「やっぱり、ここの神様は水神だったりするのかね?」
    「かもしれんな」
     秀憲の呟きに直哉が頷き、それから祈りの言葉を呟いた。
    「願わくば、此処の神が穏やかなる祈りを吸収し、穏やかなる神にならんことを」

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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