民主主義の正義

    作者:亥午

    ●民主主義的提案
     その高校では、一大イベントが企画中だった。
     しかし、その進行は遅々として進まない。クラスや部活の代表として企画会議に参加している生徒たちは、ひとつの議題に賛成するか反対するか、どちらかを選ぶための条件はどうするかと意見を入り乱れさせ、決議までたどりつけずにいる。
     このままではイベントなどできるはずがない――誰もが焦り始めていた、そのとき。
    「多数決」
     鈴のように高く、甘い声音。
    「多数決がいちばん民主的だと思うけど?」
     殺到する視線をさらり。払い落として立ち上がったのは、見知らぬ女子生徒だ。
     小声で正体を探り合う生徒たち。1分弱で、女子生徒が2年に編入してきた転校生であると知れた。
    「……具体的にどうするんですか?」
     場を代表して、生徒会長がおずおずと訊いた。
    「簡単なことよ。ひとつの議題に対して、賛成か反対か投票するだけ。投票資格者はこの学校の生徒全員。とにかく投票数が多いほうが勝ち」
     その案は、膠着する場の中で実に魅力的に響いた。内容ではなく賛成反対だけを決めるのは簡単だし、全校生徒の投票なら代表者だけが責任を負うこともない。
    「票集めの方法は自由。どんな手を使ってもかまわないとする。集める人は大変なんだから、それくらいの権限があってもいいでしょ?」
     そして生徒たちは票集めを開始した。しかし、生徒の多くは日和見で、なかなか票を入れるとは言ってくれない。
    「無責任な人には、責任感のある人たちで言い聞かせてみたら?」
     女子生徒のアドバイスにより、多数でひとりを囲んでの説得が行われるようになった。
    「票が集まらない? 規定は、どんな手を使ってもかまわない――だったわよね。だったらあなたの手をどう使ったって、規定内じゃない?」
     説得が有形無形の暴力に変わるのもすぐだった。
     それでも生徒たちは敗者に成り下がることを恐れ、票集めのため、さらに奔走する。
     喧噪を横目で見やり、転校生はただ薄く笑むばかりであった。

    ●教室にて
    「みなさんそろってますね? 説明を始めます」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が灼滅者たちにおじぎをした。
    「ヴァンパイアたちの学園……朱雀門高校が、新たに転校生を送り込んできました。場所は北関東の私立高校。そこで行われるイベントを利用して生徒たちのモラルを低下させ、闇堕ちを促進しようとしているんです」
     朱雀門高校! 凶悪にして巨大な敵の名を聞いて、灼滅者たちの表情が変化する。
    「ご承知いただいているかと思いますが、ヴァンパイア勢力に比べて武蔵坂学園は弱小です。ヴァンパイアを灼滅してしまえば、学園存続の危機となってしまう可能性が高い。ですので、このヴァンパイアを灼滅せずに撤退させることが勝利条件となります」
     この勝利条件を満たす方法は、「灼滅者たちを倒したとしても自分の作戦が継続できないと悟らせる」か、「このままでは自分が灼滅されると納得させ、退かせる」かだ。今回の場合、後者の条件を満たさなければならないわけだ。
    「接触方法ですが……この高校では授業時間中、そこかしこで票集めと称する暴力行為が行われていますので、そのひとつを止めてください。邪魔者の介入を知れば、ヴァンパイアが駆けつけてくるでしょう。どこへヴァンパイアを呼び込むかはみなさん次第です」
     ずいぶんと物騒な状況になっているようだが、小道具を使うなら一般教室や特殊教室、高低差を利用するなら階段、正面から当たるなら体育館や校舎裏……作戦に合わせた場所選びができるのは、こちらにとってアドバンテージとなるだろう。
    「ヴァンパイアが使うサイキックは、ダンピールと殲術道具の護符揃えのものです。彼女のポジションはジャマーなので、バッドステータス対策を入念に。また、眷属となった生徒が3人おり、ひとりがディフェンダー、あとのふたりがクラッシャーとして従っています。全員素手ですが、ダンピールのサイキックで攻撃してきます」
     姫子は最後にこう締めくくり、灼滅者たちを送り出す。
    「旗を振る者を失えば、騒ぎは速やかに収束するでしょう。ヴァンパイアの企みをくじき、闇堕ちを止めるため、全力で事に当たってください」


    参加者
    三兎・柚來(小動物系ストリートダンサー・d00716)
    色梨・翡翠(シンリョクアンサイズニア・d00817)
    銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)
    宇佐見・悠(淡い残影・d07809)
    六車・焔迅(彷徨う狩人・d09292)
    皇・千李(復讐の静月・d09847)
    水鏡・瑞希(神将殺しの焔の刃・d20370)

    ■リプレイ

    ●圧政の体育館
     北関東の某私立高校。近々開催されるイベントの内容を決める「多数決による投票」に勝つため、今日も生徒たちは授業もそっちのけで「票集め」に走り回っている。
     その舞台のひとつである体育館は、内側の広さに比べて出入り口が小さい。多人数でお願いしやすい上、運動部の活動域であることから、かなり激しい票集めが行われていた。
    「あ、イジメはっけーん!」
     グラウンドとつながる出入り口を思いきりよく引き開けたと同時に、三兎・柚來(小動物系ストリートダンサー・d00716)が高い声を上げた。ヘタをすれば小学生にまちがいそうな童顔だが、実は高校3年生である。
     ひとりの一年生男子を囲んでいた運動部の連中が、一斉に振り返った。
    「なんだよおまえら!?」
    「教育委員会のほうから来た者だ。票集めの規定とやらは知らないが、部活の大会の出場規定ならよく知ってるぞ?」
     昔の押し売りよろしく「~のほう」という方角を混ぜてウソをつくのは皇・千李(復讐の静月・d09847)である。
    「これは民主主義に基づいた多数決の――」
     わめく運動部員のひとりに、カマル・アッシュフォード(陽炎・d00506)が肩をすくめてみせながら、
    「民主主義。とてもそうは見えないね、コレは」
    「だな。多数決が民主主義ってわけじゃないし、民主主義が正義ってこともない。論じてみる以前の問題だよ」
     言葉を継いだのは宇佐見・悠(淡い残影・d07809)。それに銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)が小さくうなずいて。
    「あなたたちは、数の暴力を全体の総意だって言い張ってるだけです」
     正論を突きつけられ、たじろぐ運動部員たち。とどめを刺したのは六車・焔迅(彷徨う狩人・d09292)だった。
    「教育委員会のほうは、学校とちがって甘くないですよ? でも、今なら……」
     静かに言葉をかけながら、一歩前へ。
     気圧された部員たちが、弾かれたように逃げ出した。囲まれていた一年生も、おじぎをして体育館から消える。
    「相手が……頭より体の運動部の人たちで……よかったのです」
     高校へ侵入するのに普通の顔で混じっている3人の中学生メンバーを見回しながら、色梨・翡翠(シンリョクアンサイズニア・d00817)がほうっと息をついた。
     それに対して限りなく平らかな胸を張って応えたのは、中学生メンバーのひとりである水鏡・瑞希(神将殺しの焔の刃・d20370)だ。
    「威風堂々と構えていれば問題ない。自信と威信を失ったとき、その者は見下され、蹂躙される存在へと成り下がる」
     殿上人の暮らしを送ってきた財閥家の長女であり、アンブレイカブルにすべてを奪われて絶望に叩き堕とされた瑞希が言うからこその、セリフ。
    「そうそう。大事なのって、威風堂々だよな!」
     柚來のしたり顔に一同が苦笑しかけた、そのとき。
    「年齢制限はさておき、体育館に土足で侵入はいただけないわね。法治国家の一員として、実に嘆かわしいことだわ」
     大げさなアクションで天井をあおぐ少女が登場。
    「高校生の自主性と民主主義の正義をよってたかって汚す悪人どもには、裁きが必要よね?」
     にぃ。吊り上がった口の端の奥で、鋭く尖った犬歯が光った。

    ●民衆対煽動者
    「罪人はその場で控えるものよ!」
     五芒星を描いて放たれた符が、攻性防壁となって前衛の灼滅者の足を捕らえた。
    「いきなりか! やってくれるね」
     重いバッドステータスに捕らわれた紫桜里を癒やそうとする悠だったが、
    「私は自分で。まずは壁となってくださるディフェンダーのカマルさんを」
     紫桜里は自らの集気法でバッドステータスを軽減し、悠をうながした。
    「レディ優先ってのが紳士のお約束さ」
     こちらもバッドステータスを重ねられたカマルが、足を引きずりながらも仲間をかばいに飛び出せるよう身構える。
    「その心意気は応援するよ。でも、加減も油断もできない相手だ。全員が全力で挑めるよう努めるってことが最重要なんじゃないか?」
     悠の言葉に、カマルは観念して祭霊光を受け入れた。そして強く拳を握り。
    「じゃ、始めようか。あらためまして、ごちそうするぜ!」
     ヴァンパイア少女の影から染み出すように現われた3体の眷属、そのディフェンダーに抗雷撃を叩き込んだ。
    「行ける奴は眷属退治に行け。おまえらの背中、俺が預かった」
     千李のヴァンパイアミストが、前衛を癒やすと同時にその力を高める。
     背に宿敵から刻まれた傷を持つ彼にとって、背を預かるという言葉は仲間たちの命を預かり通すという、なによりも強い意志表示。
    「そんじゃー背中はおまかせしちゃって。行ってきまっす!」
     床をかすめるほど低く体を倒し、横から引っかけるようにして敵ディフェンダーのヒザを鬼の拳で打ち抜く柚來。
    「ダンスもバトルも脚が命! どーよ、イタイだろ?」
     赤い瞳を怒りでさらに赤く濁らせ、ディフェンダーが柚來に右手を打ち下ろすが、その倒し込んだ上体をさらに左右へ揺らしている彼には届かない。
    「自分は攻撃しておいて攻撃を受けないのは、公平性に欠ける行為じゃない?」
    「民主主義で投票とか言っといて、投票するやつにちゃんと選ばせないほうが公平じゃないだろー。圧政よくないっ! 独裁反対!」
     柚來が、見かけを裏切る理論的反論をヴァンパイアに投げ返した。意外な反撃に顔をしかめるヴァンパイア。その肩先を、ゲシュタルトバスターの爆風がかすめて去った。
    「ち、当たらんか……。まあ、オレ個人としては圧政も独裁も上等なんだがな。ただし、それを背負う器のない輩が裏で蠢き、でかい顔をするのは気に入らない。煽動者風情が、分をわきまえろ!」
    「あなた風情が、と返させてもらうわ。それとも自分にだけは圧制と独裁を全うできる器があるとでも言いたいのかしら? 滑稽ね」
     態度はともかく、8人の灼滅者の内でもっとも力の弱い瑞希をヴァンパイアが嘲笑った。しかし瑞希はまったく動じず、
    「今はない。だが、いずれ持つ。それを証明するため、オレはおまえの企みをぶっ潰す。みんな、雑魚の相手は頼むぞ」
     自らの弱さを認めながらも、あくまで本丸狙い宣言。そんな瑞希に、縁の下の力持ち体質の翡翠がうなずいた。
    「女子のお願い、合点承知です……。ヴァンパイアさんの企み、絶対絶対、阻止……なのです。――君たちのこと1匹ずつぶった斬って、力尽くで叩き出す」
     翡翠の口調がカチリと切り替わり、その動きが加速。無敵斬艦刀・桜花残月が低く吠え、敵ディフェンダーをななめに斬り下ろした。
    「ちっぽけな民衆の暴動は鎮圧されるもの。それが秩序。あなたたちに秩序を覆す力があるの?」
    「民衆にはその秩序とやらをはね除ける力があるんだよ。知らないのかい、世界を何度もひっくり返してきた革命ってやつを」
     ディフェンダーの反撃から翡翠をかばったカマルが、冗談めかした口調で言う。革命の本場からやってきただけのことはあり、その言葉には説得力があった。
    「革命とは縁遠い身ではありますが……今だけは。影からの支配に抗する革命戦士となりましょう」
     焔迅が駆けだした。その体に食い込む敵クラッシャーどもの鋭い爪! それでも炎迅は止まらない。怒りも痛みも闘志すらも、すべてを奥歯で噛み殺し、ひた走る。
    「第十七代目六車『焔迅』、参ります」
     言葉とともに、焔迅のエネルギーの盾に鎧われた裏拳がディフェンダーの頬を叩き、吹き飛ばした。
    「僕も裏側の人間。謀も策も友と呼べるものではありますが……その心得と覚悟を持たない表側の人々をいたずらに混乱させるやり口、好きではありません。影の女王を気取る道化に相応の痛い目を見てもらいましょう」
     道化呼ばわりされたヴァンパイアは激しい怒りをたぎらせ、眷属どもを灼滅者たちへ向かわせる。
    「もっとも貴きお方に使わされた私にこの無礼! 殺してやるつもりだったけど、やめた。ゾンビに堕として永久になぶってあげるわ!」

    ●革命のとき
     眷属どもの攻撃が、次々と焔迅の体を食いちぎる。しかし焔迅は構うことなく攻撃。ディフェンダーを倒した。
    「よくやった。すぐ治してやる。前に立ちし我らが友よ――」
     射程の短い回復術しか持たないことから、ディフェンダーに一時的ポジションチェンジしていた瑞希が集気法の起動ワードを唱え、焔迅を癒やした。
    「今は攻撃を。敵がすべて倒れれば、回復の必要もなくなります」
     たぎる焔迅の目に応えることなく、紫桜里はその横をゆらりとすり抜けた。そして敵クラッシャーの片割れの背後に貼りつき、桜花残月を上から下へ、ギロチンのごとく叩きつける。刃と彼女自身の重さを乗せた斬撃は、大根を断つほどのあっけなさでクラッシャーの首を落としてのけた。
    「ふ、うふふふあはっ。苦手なお料理、今日はとっても上手にできちゃいました」
     紫桜里の明るい笑顔の真ん中で、紫のはずの両目が深淵の闇を称えて黒く沈んでいた。
    「そうそう。上手にできたごほうび、もらいますね?」
     桜花残月にまとわせたサイキックエナジーが刃となって飛び、もうひとりのクラッシャーの肉を裂いた。恐怖のダブル攻撃!
    「ごほうびは、おふろ? ごはん? それとも、しょ・け・い?」
    「オンナ怖ぇー! ってか紫桜里まじ怖ぇー!!」
     そのクラッシャーにとどめを刺した柚來が、震えながら精神安定剤代わりのチョコを噛んだ。その様をながめながら、紫桜里は妖しく微笑むのみ。
    「チョコもいいですけど、食べます? 私のごはん?」
    「なにその笑顔!? 怖ぇーってば! ぜってーいらねーっ!」
     ちなみにこの「ごはん」。なにをどう作っても同じ黒塊にしあげてしまう紫桜里の腕前を考えれば、食べた瞬間処刑より怖ろしい結末を味わわされただろうが、さておき。
    「女子が怖い? 男ごときがなにその失礼。今すぐ土下座してあやまって。で、ゆるしてもらえたら大喜びで土下座して?」
     翡翠が戦闘モードの口調のまま、女尊男卑丸出しの理不尽さで柚來を叱る。柚來にできることはうへぇと首をすくめるだけ。やっぱり紫桜里だけじゃなく、女は怖い。
    「それにしても困っちゃいました。もう戦って殺せる人がいないんです」
     紫桜里はうずうず、悩ましげにヴァンパイアを見た。その病んだ波動にあてられて、上位種であるはずのヴァンパイアが思わず後じさる。
    「くっ! 下等種の暴動に負けるもんですか――私は、選ばれた身なんだから!」
     ヴァンパイアは灼滅者たちを遠ざけようと符を放った。その符が、仲間をかばって最前線に立ち続けていた千李の体を裂いた。
    「……命が欲しいならくれてやる。俺の、汚れた命でよければな」
     愛刀・緋桜で傷ついた体を支え、千李は仲間に向けて叫ぶ。
    「奴は弱っている! 火力を優先して一気にたたみかけろ!」
    「千李、ディフェンダーでもないのに体張りすぎだよ」
     悠が回復しようとするのを止め、淡々と千李は答えた。
    「俺はおまえたちの背中を預かると言った。その責任を果たすだけだ」
    「やれやれ。そうやってがんばられちゃ、応援したくなっちゃうね」
     悠は千李から奮戦するヴァンパイアへ視線を移す。
    「女王様もがんばってるけど、さすがに応援はできないか」
     悠が腕を覆った縛霊手で床を叩くと、そこから伸び出した影がヴァンパイアにからみつき、捕縛した。
    「卑劣な……!」
    「そりゃ卑劣だよ。弱い俺らが強いヴァンパイアとやり合うには、全力でがんばれないようにさせてもらうしかないんでね」
    「全力っ!」
     悠の発した単語に反応し、翡翠がヴァンパイアへ飛びかかった。それは灼滅者としての使命感などではなく、ただただ本能と、理性をぶっちぎった感情からの行動だ。ただし迷いがないから、速い。頭で考えていないから、鋭い。ヴァンパイアに構える隙も与えずその懐まで入り込み、
    「ぼくはヴァンパイアがキライだ! どれだけキライかって、ぐっさでもがっさでもなくて、めっっっさ!! だから今すぐ、全力で、半殺してあげる」
    「か、勝手なこと言ってんじゃないわよ!」
     あせるヴァンパイアだが、捕縛されているせいで意志のとおりに動かない。その体の真ん中を、翡翠が罪の逆十字で引き裂いた。
    「があっ!?」
    「さて、偽りの女王様は独りぼっち。まさに多数決で負けてるシチュエーションだな」
    「うる、さい! うるさいうるさいうる」
     ヴァンパイアの叫びを、カマルは言葉の代わりに日本刀・薄葉で断ち切って。
    「……話の続きだ。女王様が元いたお城へお帰りあそばすってんなら追わないよ。ここらでやめとくのがお互いのためだと思うけど?」

    ●女王退場
     あなたたちの顔、憶えたわよ。
     暗く燃える瞳で灼滅者たちをにらみつけ、ヴァンパイアは焔迅が開けたままにしておいたグラウンドへの出口から撤退した。
    「いやはや。灼滅者とダークネスは基本、殺るか殺られるかだってのに、手加減しろとは無茶なお願いだぜ……」
     疲れた顔で思いきりのため息を吐き、カマルはとんとん、自分の肩を叩く。
    「でもさ、依頼はきっちり成功できたし、因果応報も食らわしてやれたし!」
     柚來がまたもや難しいことを言う。体は運動系だがその内面、実は知性派なのだ。
    「オレはこの依頼で自分の力不足を痛感した。だが、次は今より強くなる。今より次はうまくやる。おもしろいな。戦場には果てしなく学べるものがある」
     不敵に笑む瑞希を、千李は表情のない目でながめ、そして視線を反らした。復讐に生きる彼にとって、戦いとはなにを学ぶ場所でもありえないのだ。
    「実践でいろいろ学べるって、幸せなことだよ。がんばって」
     千李の代わりか、にこにこと瑞希に声をかけたのは悠だ。主に実践による魔術研究を行ってきた彼は、戦場という空間が持つ情報の濃さを理解している。
    「でも……心残りです。ヴァンパイアさん……殺してあげられなくて」
    「色梨さんの言うこと、すごくわかります! それはもう、すごくです!」
     殺しのキーワードに殺人鬼の血が騒いだか、うんうんうんうん、何度もうなずきあう翡翠と紫桜里。
    「この学校、これからどうなるんでしょうか?」
     無人の体育館を見ながらぼんやりとつぶやく焔迅に、カマルが薄く笑う。
    「原因は取り除いたんだ。なんとかなるって祈ろうか」
    「祈るとか後、後! 見つかって部外者だーって騒がれたら困るだろ」
     柚來に急かされ、ヴァンパイアと同じ出口から撤収する灼滅者たち。
     最後にその引き戸を焔迅が元どおりに閉じて、騒ぎ続きの体育館はようやく静けさを取り戻したのだった。

    作者:亥午 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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