pyromaniac

    作者:立川司郎

     煌々と燃える火が、まるで迎え火のように高く登っていた。
     抑えてきた感情が、胸の内で高まっていくのを感じる。ああ、この光景をどれだけ夢見た事だろうか。
     満足そう見つめる彼の目の前で、火が燃え上がっていく。力尽きて火に撒かれる骸は、寄り添うように折り重なっている。
     彼がこの邸宅に飛び込んだ時、彼らは丁度迎え火を焚こうとしていた。どこででも見かける、お盆の光景である。
     オイルをまき散らして狂ったように笑う彼の傍で、彼らはどうしていいか分からず右往左往していた。
     父は助けを呼ぼうとし、母は子供を抱えて逃げ惑っていた。
     彼は笑いながらデモノイドに変化し、まずは父を片付ける。
     そして、子供を連れた母を。
     バケモノを目にした彼らは、ただ立ちすくんで死を待つしかなかった。
    「燃えろ!燃えちまえ!」
     家は炎上し、骸は火に撒かれていく。
     いつまでもこうしていたいが、彼は追われている身である。……まあいい、今度は人里離れた所で火を上げよう。
     彼は満足そうに笑うと、歩き出した。
     
     花火大会の団扇で仰ぎながら、相良・隼人(高校生エクスブレイン・dn0022)は教室の片隅で彼女を待っていた。
     夏休みの教室は、いつでも閑散とした寂しい場所である。
     片手でからりと扉を締め、綾辻・綾乃(キルミースパイダーベイベー・d04769)は隼人の所へ歩みよる。
    「何か分かった?」
     隼人の前に腰掛けながら、綾乃が聞く。
     落ち着いた様子で笑みを浮かべ、綾乃は隼人の報告に聞き入る。これは綾乃が聞きつけて隼人に頼んでいた情報であり、デモノイドロードにまつわる事件であった。
     デモノイドロードはデモノイドの力を使いこなし、人の姿とデモノイドの姿を自在に使い分ける事が出来る者である。
     強い悪意を持つ為、人の姿に戻る事が出来る。しかし悪意を無くすと完全にデモノイドと化し、戻れなくなる不安定な存在であった。
    「こいつは高坂という名前の三十代の男だ。お前の言うように、脱獄して追われているようだが、まあまだ見つかっちゃ居ない。たまたまダークネスに関わるお前の情報網にひっかかってなきゃ、闇に消えていたかもしれねえな」
     高坂は放火と殺人を繰り返し、服役していた。
     現在脱獄し、山林地区にある一件の家を強襲。一家三人を殺害して放火するという事件の未来予測が出ている。
    「こっちは八人なんだ、包囲して見張っている事が相手に知れちゃあ逃げられちまう。そうなったらこのデモノイドロードは新たな場所で事件を起こす」
     人であるデモノイドロードは、周囲を警戒したり逃走を図るなど知恵が回る。戦いに際しても、逃走を阻止する事が重要となるだろう。
     デモノイドヒューマンが使う力と似ているが、彼は炎を操る。
    「デモノイドになっても、炎を使ってくるって訳ね。そんなに火が好きなら、こっちも火で応戦したくなっちゃうな」
    「やり方は任せるぜ」
     隼人はそう言葉を返すと、場所を示した地図を渡した。
     ここで仕留めれば、彼による犠牲者は二度と出ない。
     綾乃は家内の人を心配しながらも、淡々と戦いに向けた算段をはじめた。必ず捕まえ、ここで息の根を立つのだ。


    参加者
    彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)
    蓮咲・煉(錆色アプフェル・d04035)
    桐谷・要(観測者・d04199)
    綾辻・綾乃(キルミースパイダーベイベー・d04769)
    海藤・俊輔(べひもす・d07111)
    アデーレ・クライバー(地下の小さな総統・d16871)
    冷泉・深優(オキザリス・d18587)
    冷泉・朔夜(ダブルキャスト・d19296)

    ■リプレイ

     暗闇の中をするりと歩き、一匹の猫が門前を横切った。にゃあと良い声で鳴き、猫は傍を歩くもう一匹の猫に歩み寄る。
     ちらり、と『彼女』アデーレ・クライバー(地下の小さな総統・d16871)は冷泉・朔夜(ダブルキャスト・d19296)を一瞥すると、少し離れた林の木の根に埋もれるようにして身を潜ませた。
     今はアデーレも雑談をしている気分では無いようである。
     いつも表情が豊かな方ではないアデーレであったが、心の底に非常にモヤモヤとするものを抱えていた。
     かたや朔夜は初めての依頼であり、少し緊張しているようである。
     じっとしていて居てください、とアデーレの視線が朔夜に言っていた。二匹の猫の間を歩くようにして、綾辻・綾乃(キルミースパイダーベイベー・d04769)と彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)が門を抜ける。
     さくらえは通りがけにふ、と二人に微笑を向けて行く。
     制服を来た二人は、プラチナチケットの力を使ってこの一件の家を訪問していた。
    「すみません、町内会の連絡で来たんですが」
     綾乃がインターホンを鳴らして声を掛けると、中から誰かが掛けてくる足音が聞こえて来た。綾乃とさくらえは顔を見合わせ、身を正す。
     庭の方からも物音がしている所からすると、迎え火の支度をしているのかもしれない。玄関を開けて顔を覗かせた母親に、綾乃が事情を話し出す。
    「警察から連絡があって、この辺りに危険人物が彷徨いているそうなんです」
    「脱獄犯だと聞いていますから、もしかすると既にご存じかもしれませんが」
     王者の風を使ったさくらえがそう合わせると、母親は不安そうに少し考え込んだ。そういえばそう遠くない所に収容施設があるから、希にそういう事があると聞いた事があるようだ。
     母親がそう綾乃に話すと、さくらえは戸締まりをするようにと話した。
    「カーテンは閉めて、物音がしても出かけないようにしてください」
    「それじゃあ、迎え火焚けないわね……」
    「迎え火はお家で盆灯籠に灯を入れ行ってください。くれぐれも、屋外に出る事のないように」
     さくらえがきつく言うと、母親は弱々しく頷いた。
     風習も、安全には替えられない。
     玄関先の朔夜とアデーレ以外にも、庭の隅には猫に変わった桐谷・要(観測者・d04199)が、そして蛇に変身した蓮咲・煉(錆色アプフェル・d04035)と冷泉・深優(オキザリス・d18587)が草むらに潜んでいた。煉が庭の方へとそっと滑り行くと、庭にいた少女と父親に母親が声を掛けているのが見えた。
     さくらえ達から聞いた話を伝えると、急いで父親が片付けをはじめる。子供は迎え火がしたかったのか愚図っていたが、母親が抱えるようにして家に入る。
     彼らが家の中に入ってしまうのを見届けると、煉はようやく庭から出ていった。
     既に周囲は薄暗くなってきており、庭先から少し離れた門前に海藤・俊輔(べひもす・d07111)が立っていた。だが庭でたき火をしながら話していると、家内の人に火の気配を気付かれてしまうかもしれない。
    「少し玄関寄りにする?」
     他の仲間が林の方に潜伏している事もあり、俊輔は玄関前へとたき火をやった。それに伴い、庭にいた要も、庭から出てアデーレの傍へと移動する。
     なかなか付かない火に四苦八苦しながら、俊輔がようやく火がくすぶり始めると、日はとっぷりと暮れていた。
    「付いたかな? ……っとに木ってすぐ燃えるもんじゃないのかよ」
     ぼやいている俊輔の傍に、影がおちた。
     ふと顔を上げた俊輔の目に、知らない男の顔が止まる。ああ、こいつか……と俊輔は警戒しながら、笑顔で返す。
    「むかえび、ってのやってんだー」
    「そうか。……生木はなぁ、火がつかないんだよ枯葉とか油で火を付けても、すぐ消えちまう」
    「そうなの? じゃあ、おっちゃんやってみてよ」
     そう話しかけた俊輔の目に、男が後ろ手に持っていた鞄が目に止まった。そうか、油は最初から幾らか持って……。
     飛び退くより早く、俊輔の体に油がまき散らされる。
    「避けろ、火が付くぞ!」
     とっさに声が出たのは、一瞬早かったさくらえであった。瞬時に俊輔がカードを解放し、男の放火から逃れる。
     しかし地面にまき散らされた油に引火し、周囲に燃え広がっていく。男はみるみるうちにデモノイドの巨体へと変化し、けたたましく笑い声をあげた。
     落ちた火を更に押し広げるように、男が残った油をぶちまけた。咆哮は、笑い声のようにゲラゲラと響く。
     残る五人も即座に変身を解除して包囲を開始した。
     動きの速かった男は、先行して攻撃を始める。
     油の臭いと、生木が燃えるつんとした臭いが周囲に漂う。臭いに咳き込みながら、俊輔はサウンドシャッターで周囲の音を遮断した。
    「うわっ……油ちょっと口に入った…ゲホッ…!」
     怯んだ俊輔の代わりに、さくらえがシールドを使って突っ込んでいく。さくらえが前に回り込んだのを見た綾乃は、代わりに死角へ入るように動いた。
     他の仲間が攻撃の体勢を整えるまでの間、ほんのわずかでも相手を引きつけておかねばならない。
     デモノイドが腕を振り上げ、盾を構えたさくらえに叩きつける。炎をまとった拳が、盾ごとさくらえの体を吹き飛ばした。
     一人、また一人と包囲する灼滅者の姿を見た男が背を伸ばして周囲を見まわす。最後尾では朔夜がバベルの鎖の力を瞳に集中させ、油断無く男の動きを監視した。
     オーラを宿し、朔夜は深呼吸を一つ。
    「お手柔らかにね、おじさん」
     にこりと笑い、朔夜が声を掛けた。
     八名とビハインドを含めて、総勢九名が人化に戻り、武器を掴む。男の背後は、深優とビハインドの佳代子が抑える。
     ウロボロスブレイドの切っ先を男に向け、深優は冷たい目で男を見据えた。ゆるりとした仕草であるが、防御の姿勢を取ったまま隙はない。
    「高坂裕次、放火及び殺人で服役中。間違いないわね」
     炎に包まれた高坂を見ていた深優は、すうっと眉を寄せた。地面に落ちた油と火は大方消えていたが、彼が放つ火は暑い位に燃えていた。
     火は苦手だ。
     前に立ちながら、深優の思いは相手に伝わっているのかもしれない。佳代子は深優の少し前に立っており、まるで庇うようにしていた。
     炎の勢いに少し下がった深優に、高坂が拳を振るう。

     体勢を整えたばかりの深優に叩きつけられた拳は、彼女の体を炎で覆った。背後から俊輔が雷を宿した拳で連撃を続けるが、ターゲットが変わる事はない。
     狂ったような笑い声をあげ、デモノイドが火をまき散らす。
     彼は弱き者を求め。
     彼は炎を求め。
     そして彼は、炎への恐怖心を求める。
    「深優さんに火が…!」
     アデーレは、か細い声で深優を心配するように叫ぶ。
     攻撃を逸らす為、アデーレは火を怖がるように悲鳴を上げてみせる。自身も炎を操り応戦するが、攻撃は止まなかった。
     最も打たれ弱い状態にある深優は、装甲を打ち抜かれて血をおびただしく滴らせた。更に振り上げられた拳の前に、それを見たさくらえが飛び出す。
     彼女をやや後方へと引き下げながら、さくらえはちらりと傷の具合を見る。後方から煉が符を放ったのは見えていたが、傷は思ったより深い。
    「集中攻撃されれば間に合わない」
     煉が悔しそうに言い、ちらりとこちらを見た。さくらえはこくりと頷き、治癒はもう十分である事を煉に知らせる。
     言葉がなくとも、煉には伝わったようである。
     順に、アデーレへも符を放った。
    「……本当に倒れてもらっては困るよ」
     さくらえが小さな声で言うと、深優が頷いた。
     嫌悪や憎悪、そういった物に敏感なのかもしれない。高坂は、深優の中の炎への複雑な気持ちを見抜いていたようであった。
     それを抑えねば、また自分が狙われる。
    「ちゃんと押さえるわ」
    「……構わないさ。仲間が怪我をすればかばい合う、そんなのは当たり前の事じゃないか」
     信用してくれて構わないから、とさくらえは言うと立ち上がった。さくらえも傷を負っているが、深優の怪我ほどではない。
     炎を風で吹き飛ばしながら、シールドを展開する。
     高坂の体を挟んで反対側には要が立ち、手にした魔導書を開いて意識を集中させる。咆哮をあげてアデーレに腕を振り上げる高坂に、さくらえと要がそれぞれシールドとカオスペインを駆使した。
     攻撃のターゲットを、少しでも散らす為。
    「……逃がさないわ」
     小さく呟き、要は魔導書により高坂の怒りを引きつけた。高坂の視線が前衛に向いている間、後方から朔夜がミサイルを撃ち込んでいく。
     炎を吐き出す高坂は、なおも前衛に炎を巻き上げ、周囲を炎で包んでいく。全面に立つ俊輔も、さくらえやアデーレ達も。

     デモノイドの咆哮は、けたたましく笑うように響く。

    「おいおい、早く火を消さないとやべーぞ」
     朔夜は焦ったように言うと、すうっと武器を下げた。
     息を吸い込み、ゆったりと流れるような柔らかい歌声をあげる。相手の心を惑わすセイレーンの歌声が高坂の耳から染みこみ、心を惑わしていく。
     相手が油断している瞬間を、朔夜は見逃さなかった。相手を捕らえるべく朔夜が合図をすると、綾乃が糸を手に巻き付けて飛び込んだ。
     綾乃の糸が、高坂の動きを束縛していく。
     朔夜の歌声には、要が紅き逆十字で切り裂きながら合わせて催眠の海に沈めていく。歌と紅いオーラが、高坂の心をゆっくり深い海底へと。
    「そろそろ畳みかける頃かな」
     綾乃は冷静にこう言うと、糸を引き寄せた。
     足を止めてふらついた高坂の背後から、俊輔が拳を叩き込む。連撃に高坂の足取りが鈍り、視線をぐるりと巡らせた。
     炎は何時の間にか、自分と周囲を巻き込んで燃えさかっていた。
     アデーレはオーラに炎を混じらせ、高坂の前に仁王立ちする。
    「……何故ひとを殺すのですか?」
     アデーレは問いかけながら、拳を振り上げる。
     全てを焼き尽くす炎は、アデーレの体にもまとわりついている。炎はさくらえの呼んだ風が、傷は煉の符が癒してくれている。
     炎に対して炎で応戦しながら、問いかける。
     デモノイドの姿を取った彼は、ただ咆哮を繰り返すだけ。もっとも、ちゃんと冷静に話せる状態であったとしても、彼からまともな答えは返らなかったかもしれない。
     じわりと霧が立ちこめると、周囲の火はかき消えていた。
     煉は霧の力が満ちるのを感じ、ひとつ息をついた。
    「消えたわね」
     周囲の火は消えた。
     だが、これで終わらせるつもりはない。
     今まで符を使い続けたのは、最後の瞬間……自分もどうしてもそうしたかったからである。アデーレが炎を宿すと、煉もまた符に炎を灯す。
     燃え上がる符を構えると、綾乃も糸に炎を走らせた。ぎゅっと拳を握り、アデーレが高坂の懐に滑り込む。
     渾身の力で拳を繰り出し、宿した炎で高坂の体を焼いていった。消えていた炎は、アデーレ……そして煉、綾乃と攻撃を繰り出す度に燃え広がり、炎上していく。
    「あなたの力をその身に受ける気分は、どうですか?」
     アデーレは淡々とした声で聞く。
     せっかく脱獄出来たのに、こんな目立つことを何故したのか。そこまで炎が見たかったのか。死が見たかったのか。
     綾乃は糸を構え、崩れ落ちていく高坂を見下ろした。
    「ねぇ。大好きな火に包まれて……今、どんな気持ち?」
     幸せ?
     綾乃はにこりと笑い、高坂が焼け落ちるのを見送った。

     少し離れた玄関の前で、煉は迎え火を見つめていた。さくらえと綾乃は、家内の人に事情を話している。
     高坂の体はデモノイドのまま消えてしまっている為、改めて何かを話す必要はなかったのであるが、家内に閉じ込めたままにしておくのは申し訳がない。
     家の前で迎え火を焚いたことを話すと、笑顔で了承してくれた。王者の風を使ったさくらえには、少し緊張していたようだが。
     綾乃は皆の所へと戻ると、解放されたように笑顔を取り戻した。
    「よかったね、誰も怪我せずに済んだのは良いことだよ」
    「ん? じゃあむかえび、ってのやっていいのか?」
     俊輔が聞くと、綾乃はこくりと頷いた。
     俊輔はまだ体にオイル臭がついている事を気にしているようだったが、もはや仕方あるまい。
     少し火から離れるようにして、迎え火を眺めて居る。
    「油被った俺が一番損なやくまわり、だったんだからな。お礼なら、お菓子でいいぜ」
    「ふふ、それなら丁度良い。これでチャラだね」
     後ろからさくらえがキュウリを差しだした。どうやら、綾乃と先ほど挨拶に行った時に家内の人にもらったらしい。
     キュウリには足がつけられており、俊輔が珍しそうに見ていた。
     要はその様子を眺めながら、じっと思案している。先ほどの戦いぶり、そして逃走を図る点から言ってもデモノイドが知性的に行動している事は否定出来ない。
     それがデモノイドロードの特徴なのだろうか。
    「知性の代わりに膂力に優れるって印象があったけど、一概にそうとは言い切れないのね」
     それとも、そういう成長を誰かが促しているのか。
     朔夜が要の話を聞き、首をかしげる。
    「どうだろうなぁ。だって、相良先輩や今までの報告からすると、デモノイドロードで人間の姿に戻れるから知性があるんだって話だろ。今までのは戻れなかった訳だし」
    「戻れはしたけど、デモノイドである間はそんな余裕なかった……と思うわ」
     深優は朔夜に答え、少し身を離して家の近くに腰掛けた。
     あまり炎をじって見ているような気分ではなく、今は気持ちを落ち着けたい。朔夜はそんな深優の気持ちを汲んで、俊輔達の所へと向かった。
     精霊馬を俊輔と二人で弄んでいる朔夜の背をじっと眺め、深優はちらりと後ろを振り返った。佳代子はそこには既に居なかったが、気配はそこに在った気がしたのだ。
    「こんな戦いが何時まで続くんでしょうか」
     アデーレが、ぽつりと呟いた。
     デモノイドの力を宿す者として、その力を使った悪事を見続けなければならないのは辛い事である。
     しかし割り切って戦う綾乃が率先してくれたので、今回は皆の為にも安心して作戦を行う事が出来た。
     ふと煉が見下ろすと、高坂の落としたと思われるライターがそこにあった。拾い上げ、煉はあのデモノイドと仲間、そして戦うしかなかったデモノイドを思い返す。
     戻れない者も居るというのに、彼らはひたすら殺し、傷つけるだけで好き勝手にデモノイドの力を駆使できる。
     ここで苦しむ仲間が居るというのに、その影で……。
     そう怒り、そして自分へと思いを返す。
     自問自答。
     すうっと火の側にしゃがむと、煉はふと顔をあげた。
    「迎え火……って初めて聞いた。やれば、本当に来てくれるの?」
    「んー、死んだ人は戻っては来ないからね。少なくとも、肉体は」
     綾乃は、現実的にそう答えた。
     そう、死んだ人は二度と行き返りはしない。
     だけど、心には想い出が帰る。
     死んだ人を思い返す為の、迎え火かもしれない。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 15
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