けもの、うるさい。

    作者:幾夜緋琉

    ●けもの、うるさい。
     8月中旬、日本全国、熱い熱い陽射しが照りつける季節。
     学校に集められた灼滅者達に、姫子はニコリと微笑みかけながら、説明を早速始める。
    「皆さんに集まって貰ったのは他でもありません。今回……学校に、こんな手紙が来たのです」
     と姫子が見せる手紙。
     宛名である学校の住所だけが記された茶封筒……その茶封筒から取り出したるは、一枚の手紙。

    『しゃくめつしゃたちへ
     おれのすみかのやまに、うるさいけものがあらわれた。
     ほんとう、うるさい。
     ころすの、かんたん、だけど、くろきばさまにいわれたいいつけ、まもる。
     だから、はやくこい。
     そしてはやく、たおせ』

     そんな尊大な書き方で記されていた手紙……そして姫子はその手紙を封筒にしまいながら。
    「この手紙は、どうやら北海道は登別の地に棲むイフリートさんが書いたものの様です。そしてイフリートさんが書いたこの手紙……つまり要約すると、住処に現れた、うるさいはぐれ眷族を倒してきて欲しい、という事になる様です」
    「そして調べたところ……イフリートさんが五月蠅いと言っているのは、はぐれ眷族のバスターピッグらしいですね……ピィピィと山の中に鳴き声を上げながら、背中の砲門を乱発している様ですし……確かにたまったものではないかもしれません」
    「とは言え、イフリートさんの申し出に対し何もせずいると、イフリートさんが怒って不味い事をしでかすかもしれません。だから、早々にバスターピッグを倒してきて頂きたいと思います」
    「尚、バスターピッグらは山中を我が物顔で回り回っている様です。バスターピッグの数は10匹で、基本2匹1グループになっている模様です。そして攻撃を受けた際に響く鳴き声が、周りに居るバスターピッグを誘うようですので……一匹に掛ける時間が長ければ長い程、大量のバスターピッグを一緒に相手に為なければならなくなります」
    「当然ながら、バスターピッグらの攻撃手段は背中から放出する砲撃が主軸の攻撃です。また、背中に銃を背負っているというのに素早い動きでちょこまかと動き回る様なので、それに翻弄されない様にご注意下さいね?」
     そして最後に姫子は。
    「イフリートさんの言い方は尊大ですけれど……こうして頑張って手紙を書いてきたのですし、皆さんの力を貸して欲しいという事ですし……皆さん、気を悪くせずに、力を貸して頂ける様、お願いしますね」
     と、軽く微笑みながら、頭を下げるのであった。


    参加者
    斎賀・なを(オブセッション・d00890)
    東方・亮太郎(ジーティーアール・d03229)
    碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)
    斎賀・芥(漆黒・d10320)
    森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)
    三葉・林檎(三つ葉のクローバー・d15609)
    鴻上・朱香(無銘の拳・d16560)
    春夏秋冬・那由多(中学生ダンピール・d18807)

    ■リプレイ

    ●いふりーとの声
     姫子の依頼を受けた灼滅者達。
     彼らは、北海道の登別市へとやってきていた。
    「……んー……北海道の登別……と、えーと……とうべつ……だっけ?」
    「……いや、のぼりべつ、だろ?」
    「あ、そ、そうだよな! の、のぼりべつだよな!! はっはっは、冗談だよ冗談!!」
     のぼりべつ、を読めなかった東方・亮太郎(ジーティーアール・d03229)と、それを軽く苦笑しながら指摘する斎賀・なを(オブセッション・d00890)。
     それはさておき、登別温泉と言えば温泉。
     山の中にも隠れ温泉などがあり、正しく湯の町……そこに棲まうイフリートから、今回の依頼はもたらされた。
    「イフリート……か。イフリートは何故、漢字が書けぬのだろうな? というか、あの手でどうやって手紙をしたためたのだろうか。気になる」
    「そうですね。でも最近イフリートさん達から依頼が来ても驚かなくなりましたよね~」
     斎賀・芥(漆黒・d10320)に、森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)が笑いながら言うと、それに春夏秋冬・那由多(中学生ダンピール・d18807)、芥、三葉・林檎(三つ葉のクローバー・d15609)が。
    「……イフリートさん、お願いですから自分でやって下さい……って、言えないか。第一森の中で暴れられたら山火事になりそうだし」
    「ああ。はぐれ眷族とイフリートの山中戦、それで登別の山中が燃え盛る……なんて事になったら目も当てられん。小物狩りとは物足りないが、仕方有るまいて」
    「そうだね……それにいくらダークネスだと言っても、無駄に関係を悪化させたくない。だから、頑張るかな」
    「うん。他でもないイフリートさんからのお願いだしね……少しだけ騒がしいはぐれ眷族さん達には、少しだけ静かになって貰いましょうか」
    「ああ……だがイフリートか……あの、イフリート娘と対面した記憶が蘇るな。確か、アカハガネとか言ったか。あの強さは厄介だ。この程度の用事で友好関係がある程度築け上げられるのであれば、進んで依頼をこなすとするか」
    「そうだね」
     そんな仲間達の会話の一方……碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)と、鴻上・朱香(無銘の拳・d16560)は、そんな仲間達の言葉を聞き届けた後。
    「しかしこのクソ暑い時期になんだっていうんだ。まぁ……北海道だからこそ、いい避暑にはなるがな……」
    「……日々是修行也。暑い中で戦うのも修行の一つ……しかし、バスターピッグ……食えないのか?」
    「いや……はぐれ眷族だろ? 終わったら消えちまうんじゃなかったか……」
    「そうか……残念だ」
     そして、仲間達の言葉を纏めるように。
    「まぁともかく、あんまり暑くならない内にちゃっちゃと決着を付けることにしようぜ。という訳で……あっちい山の中に潜るとするか」
     また溜息一つ吐く爾夜だが、山中に行かなければはぐれ眷族も居ない訳で……灼滅者達は、熱い熱い山中へと向かうのであった。

    ●けもの、あばれて、うるさい
     そして山中を歩いて暫し……はぐれ眷族を倒すが為に、灼滅者達は息を潜め、そして耳をそばだてながら歩く。
     ……当然ながら、山中では小鳥の鳴き声等が響き、耳に心地よい。
     しかし……この平和そうな森の中にも、はぐれ眷族の魔の手が忍び寄っているのだ。
    「……さて、果たしてどこから出て来るのだろうな……」
     爾夜がぽつり呟きながらも、森の中を更に奥へ。
     ……周りから、人気も無くなり始めた位の森の奥で……。
    『ピィィ……』
     ほんの僅か聞こえた鳴き声。
    「ん……と……左方向、結構遠くの方に居るみたいだな」
    「そうですね……では」
     朱香に林檎が頷き……スレイヤーカードを、祈るように握りしめ。
    「お願い。少しだけ……この場を乗り切る力を貸してね……」
     と、その力を解放。
     他の仲間達も。
    「……我は照らす黎明の光」
     と、なをがその力を解放……準備を整えた所で、その声の方へと二班に分かれて森の小路で注意深く進んでいく。
     そして森の中を進んでいけば……はぐれ眷族の鳴き声は、次第に、次第に大きく成っていく。
    「近いですね…………と、あそこに居るのは、もしかして……?」
     と那由多が指差した所には……背中にライフルを背負ったバスターピッグが二匹。
    『ピィィ……』
    『ピィ、ピィィ……』
     周囲を警戒するように鳴き声を上げながらも、森の中をのっしのしと歩いている。
    「発見、と……それじゃ追い詰めようか」
    「ん、了解だ」
     那由多に頷くなを。
     なを、心太、林檎、那由多の四人が前方から接近。
    「では……行きましょう」
    「うん。久しぶりの狩り……気合いが入りますね!」
     林檎にニッ、と笑う心太。そしてバスターピッグの真っ正面から……特攻を仕掛ける。
    『ピィ!?』
    『ピィィィ……!!』
     と、甲高い鳴き声を上げようとするバスターピッグだが、その瞬間。
    「その鳴き声、止めるよ!」
     と林檎がサウンドシャッターを使用し、その鳴き声をせき止める。
    「どんなに早い敵でも……捕らえて見せます!」
     そして林檎が予言者の瞳でなをの狙アップを付与すると、合わせて那由多がブレイドサイクロンでたたっ切る。
     そしてなを、心太も。
    「行くぞ!」
    「……僕達の攻撃で、まずは足止めをさせてもらいますよ!」
     なをがティアーズリッパーと、影縛りで一匹を集中的に攻撃。そして那由多のビハインドの刹那も、武器封じの攻撃をバスターピッグに叩き込む。
     その一方、残る灼滅者達は、はぐれ眷族に朱香、亮太郎、爾夜、芥の四人は後方から接近。
     そして。
    「ったく、ピーピーと吼えてんじゃねぇぞ!!」
     と荒げた声を上げて、先陣切って仕掛ける亮太郎。
    『ピィ!?』
     突然背面からやってきた灼滅者達に、驚きの言葉を上げる……そして心太が。
    「ナイス、ピッタリの追い込みです!!」
     と指を立てて微笑む。
     そして亮太郎が、クラッシャー威力を乗せた、渾身のご当地キック。
     その一撃は……攻撃を受けてなかった一匹の横から叩き込む。
     そして朱香が同じ敵をターゲットとし、オーラキャノン。
     また、爾夜は予言者の瞳で、芥は癒しの矢で狙アップを付与する。
     更に、芥のライドキャリバー、ファルコンも機銃掃射し猛撃連打。
     確実にはぐれ眷族を傷つけていく。
     ……勿論、バスターピッグ達は、その背中の手法、砲門を大きく開いて反撃。
     一撃、一撃がかなりのダメージで……そして更に、豚だというのにすばしっこい。
    「……ったく、さっさと倒れてくれよ……暑いんだから」
     と爾夜が恨み節を吐き捨てる。
     ……そして……2刻目。
    「さぁさぁ、続けて行きますよ!」
     嬉しげな心太の言葉。
     山を駆ける豚たちを、こちらも楽しそうに身を翻して反撃。
     砲門の一撃を交しつつ、懐に潜り込んで……今度は神薙刃。
    「ここは木気に溢れていますからね。木気の形の一つ、風も扱いやすいですよ!」
     そんな生き生きとした心太に、なをも。
    「確かにな……ともあれ油断はするなよ?」
     と一言忠告しつつも、心太とタイミングを合わせた連携攻撃。
     そして林檎、那由多も、回復が不要と認識すると。
    「わたしも、仕掛けますね! いっきます!」
     とゲシュタルトバスターの炎を列付与。那由多も今度は蛇咬斬で捕縛。
     ……炎に包まれ、正しく焼き豚になるバスターピッグ……。
    『ピィィィイ!!』
     そんな鳴き声を上げたバスターピッグ。
    「あー……うっせぇんだよ本当に!!」
     その鳴き声に、半ばキレ気味の亮太郎。
     ある意味……この暑さと、炎の暑さに怒りが入ってる気がしないでもないが、それはさておき。
    「……まぁ、落ち着け、亮太郎」
    「ん? ああ、すまん」
     と爾夜に一言返しつつも、攻撃の手は更に厳しく。
     ……そして、戦闘開始から5分で一匹目を倒し……更に3分。
    『ピィ……ィィ……!』
    「こら、よそ見してんな! 焼き豚にすんぞゴラァァ!!」
    『ピィィィ……!!』
     亮太郎の攻撃に断末魔の悲鳴を上げるバスターピッグ。
     その姿が消え失せ、静寂を取り戻すと共に。
    「……よし、まずはこれで二匹、と……」
    「……後8匹か……まだまだだな……」
    「そうだね……でも、しっかり一件ずつ片付けて行くしかないんだよね……」
     爾夜に苦笑する那由多。
     ともあれ灼滅者達は、一陣目のバスターピッグを倒し、また次なるバスターピッグらを見つけに森の中を進んでいった。

     そしてその後も、数度のバスターピッグとの戦闘を経る灼滅者達。
     サウンドシャッターで、戦闘時の悲鳴、鳴き声を全てシャットアウトしたおかげか、戦闘中に割り込んでやってくるバスターピッグはいなかった……そのおかげで、戦況は優位に進める事が出来る。
     とは言え……10匹という数は、戦っても戦っても中々先が見える事が無く。
    「……後、何匹だ……」
    「そうだな……後、二匹か」
     爾夜になをが一言告げる。
     後二匹……というのだけが、灼滅者の心を奮い立たせる。
     とはいえ山中を歩き廻っていて、既に皆はクタクタで……。
     ……と、そうしていると。
    『ピィィ……!!』
     最後のバスターピッグの鳴き声が、遠いところから聞こえてくる。
     荒ぶるバスターピッグの鳴き声は、ある意味灼滅者達にとっての最後を示す鳴き声。
    「……最後のヤツが来たか……おっしゃ、これで終われるぞ!!」
     と、嬉しげな声を上げる亮太郎……そして亮太郎が先陣切って、その声の方へと賭けて行く。
     そして見つけるやいなや、すぐサウンドシャッターを展開しつつの……。
    「焼き豚にしてやるぞごらぁ!!」
     と、ご当地キック。
     そのまんま、木の方へと吹き飛ぶバスターピッグ……突然のに、もう一匹のバスターピッグが。
    『ピィ……ピィィィィ!?』
     驚いたなんていうもんではなく、もう取り乱しているバスターピッグ。
     でも、そんなバスターピッグの状況に対しても、戦闘方法を変えるような事は無く……大きく回り込んで、バスターピッグの裏手からもう一班が退路を塞ぐ。
     ……そしてふさがれた退路に、強行突破しようとするのを。
    「させるか!」
     なをが素早く立ち塞がり、そのままティアーズリッパーの一撃、そして心太が鬼神変でたたっ切り……血飛沫が視界を染める。
     ……暑さに、気が立っていたのもあるだろう。
     とは言え、灼滅者達の連続攻撃は、バスターピッグの想定以上。
     反撃の背中の砲門の攻撃も乱発されるが、那由多のヴァンパイアミストと、芥の癒しの矢により、それらダメージは的確に回復されていく。
     ……そして、数分の戦闘の後。
    「さぁ……みなさん、トドメを刺しましょう!」
     と、林檎の大きな声に、一斉に灼滅者達は連携攻撃。
    「……この矢を避けられるかな」
     と、爾夜の彗星撃ちの後、朱香が。
    「見える!」
     と、素早くステップで接近し、紅蓮斬の一撃を叩き込み……最後のはぐれ眷族を、名栗の名の舌に叩きのめすのである。

    ●おてがみのあと
    「……あー、終わった終わった」
     亮太郎が肩をコキコキとさせながら、息を吐く。
     ……無事、10匹いたはぐれ眷族、バスターピッグを倒し終え、ほっと一息を吐きながら周囲を確認。
     ……何かある、という訳ではないが……心なしか、先ほどまでより暑い様な気もする。
     とは言えイフリートの姿は、近くには無い様で。
    「……まぁ、これでイフリートさんも、静かに過ごせるといいんですけどね……」
    「そうだな……と、あー、スゲェ叫んだからなんか腹減っちまったんだよな。なぁみんな、豚カツとか食いに行かねえか?」
     林檎と亮太郎の言葉に、爾夜、芥、なをが。
    「そうだな……こんな山で戦っているだけでは涼しくともなんともない。さっさと倒して北海道の夏を堪能したい所だよな……」
    「食べに行くのもいいが、北海道の山に折角来たんだ。何か秘境的な温泉がありそうだしな、イフリート自体も温泉が好きそうなイメージがあるし……依頼が終わったら、ちょいと探しに行くのもいいだろうな」
    「そうだな……そういえば北海道といえば、ここではないが豚丼というのがあるらしいぞ? 確か……函館だったが」
    「函館……ちょっと遠いなぁ……でも、折角北海道まで来たんだから、食べて行きたいよなぁー……うーん、悩む!」
     亮太郎が神をがしゃがしゃやりながら、本当に悩む。
    「ま、何だ。私はちょっと隠し温泉でも探してみることにする」
     と芥の提案した、秘境温泉を探しに山の奥へと向かうのと、亮太郎の提案した、食事をしに行くのとに別れ、その山中を後にする灼滅者達なのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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