●金剛カナコの場合
「ヘイ榛名、紅茶が飲みたいネー」
「もうそんな時間なのですね。お姉様、榛名にお任せ下さい」
夏休みの麗らかな午後、日本語の発音が片言な少女が妹らしき少女に紅茶をおねだりしていた。
「ソーリー榛名、私まだキッチンのことよくわかってなくて」
「いいのですよ。お姉様はまだ日本に帰って来たばかりなのですから」
姉に微笑み返すと榛名と呼ばれた少女は紅茶を淹れるために部屋を出て行く。
「んー、もっと色々と慣れないと駄目ネ、日本語とか……ホワット?」
少女が窓の外を眺めていると、換気のために開けられていた窓から何かが飛び込んできた。
「お隣の洗濯物? これは……巫女服?」
少女は好奇心でそれを手に取り、引き寄せられるようにそれに袖を通してしまうのだった。
●武蔵坂学園の教室
「和装系のフライング眷属も居そうだと思ったんだよーぅ。巫女服とか?」
教室に集まった灼滅者達を前にニコレッタ・ベルニーニ(熱情の機甲退魔シスターニコ・d14620)がそう切り出す。
「ニコレッタさんから依頼を受けて調べてみたところ、そんな眷属が発見されたんだよ!」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)がニコレッタから話を引き継いだ。
「私の未来予測に引っ掛かったのはフライング巫女服、帰国子女のお姉さんがそれに魅入られてしまうみたい」
巫女服といっても袴部分はミニスカートで袖の部分にはスリットが入っていてコスプレ衣装なデザインであるらしい。
「フライング巫女服も他のフライング眷属同様に魅了された人を配下強化一般人にしちゃうみたいで、フライング巫女服を着てしまった金剛カナコさんの3人の妹さん達をもう魅了して配下強化一般人にしちゃってるみたいだよ」
これ以上被害が広がってしまう前にフライング巫女服を灼滅してほしい。
「未来予測では金剛さんの家の玄関前で接触できるよ」
妹達にもお揃いのコスプレ巫女服を用意していてまだ外に出ていないため、玄関前で待ち伏せすることで接触することが可能だ。
「姉妹だし、服装がお揃いだと本物を見つけるのが大変そうに思えるけど、金剛さんの日本語が片言だから、しゃべればすぐにわかると思うよ」
金剛カナコも妹達もバスターライフルとバトルオーラに似たサイキックを使用してくる。
「他のフライング眷属と同じで灼滅すると脱げちゃうから、灼滅した後のフォローも忘れないであげてね。お願いだよ」
参加者 | |
---|---|
脇坂・朱里(胡蝶の館の女主人・d00235) |
殿辻・尚都(アルミニウムプライズ・d01744) |
砂原・鋭二郎(中学生魔法使い・d01884) |
華鳴・香名(エンプティパペット・d03588) |
雨積・舞依(は巫女服引き裂き隊・d06186) |
ニコレッタ・ベルニーニ(熱情の機甲退魔シスターニコ・d14620) |
東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925) |
セリーナ・セルヴィッジ(高校生魔法使い・d19223) |
●編成出撃
「「灼めつ、始まります」」
金剛家のある閑静な住宅街で未来予測の時間を待っていたニコレッタ・ベルニーニ(熱情の機甲退魔シスターニコ・d14620)と東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)が突然声を揃えてそう唱えた。
「……うん、言わなきゃいけない気がしたんだ」
仲間達の怪訝な視線に対して桜花があたふたとした様子で言い訳する。
「四人姉妹の一番上が帰国子女で、他三人は日本育ちと言うのは、どういう家庭事情があったのだろう」
砂原・鋭二郎(中学生魔法使い・d01884)は思った疑問をぽつりと呟いた。
確かに長女一人だけが帰国子女というのは、それだけ聞いただけでは事情を推測することが難しい。
「それにしてもフライング服は色々と迷惑ですね。破れた後のサポートも必要ですしね」
「……もう服なら何でもアリになって来てませんか、アレ」
脇坂・朱里(胡蝶の館の女主人・d00235)と華鳴・香名(エンプティパペット・d03588)が空飛ぶ眷属を思って溜息を吐いた。
眷属としてお馴染みになりつつあるフライング不思議な服であるが、魅了して強化一般人を増やすし、灼滅すると破けて着用していた一般人が大変なことになるしで、戦闘とは別の部分で厄介な相手である。
「巫女装束はオリジナルなデザインに限ると思うンだー。しっかし、あたしもうっかり着ねーよーに注意しねーとナー」
白衣のポケットに手を突っ込みながら殿辻・尚都(アルミニウムプライズ・d01744)は改造コスプレ巫女服を着た4人が出てくるだろう家のドアを眺めた。
「フライング眷属は色々いるようだけど、これはいけないわね……巫女服はね……巫女服だけは…………気合を入れて退治しましょう!」
雨積・舞依(は巫女服引き裂き隊・d06186)はどこか陰のある表情でブツブツと呟きながら黒いオーラを纏っているような雰囲気を醸し出す。よほど巫女服に思うところがあるように見える。
「さて、とっとと巫女服を破いて裸の女の子を拝み……じゃなくて事件を解決しましょ?」
一瞬不穏なことを言いかけつつセリーナ・セルヴィッジ(高校生魔法使い・d19223)は殲術道具のバスターライフルを掲げながらそう締め括った。
セリーナが言葉を言い終わるか終わらないかというタイミングで金剛家の玄関は開き、4人の強化一般人達が現れる。
●索敵開戦
「フォローミー! シスターズ、私に着いて来るネー」
意気揚々と先頭に立ってカタコトの少女が玄関を潜り抜けて来た。
「……失礼します。どちらが金剛カナコさんですか?」
姉妹達の中からまず金剛カナコを見つけ出すために会話を引き出そうとしていた灼滅者達は少々面食らうが、念のために朱里がカナコらしい少女に質問する。
「カナコは私だケド……ユー達はどちら様デスカ?」
カナコ達はカナコ達で自宅の前に集まった8人の灼滅者達を訝しんだ。
「貴方を助けに来た者だと言っても通じないとは思うが……」
『灼滅開始』と小さく口にして、鋭二郎はスレイヤーカードから殲術道具を取り出し、足許から影業が伸びてマテリアルロッドに絡まり武器を形成していく。
「よくわからないケド、私達の邪魔をするって言うなら容赦しないヨ?」
カナコの特定ができ殲術道具を構えて臨戦態勢に入った灼滅者達に対して、カナコは巫女服の腰の後ろで重厚な存在感を放つ金属パーツに搭載された砲門を灼滅者達に向けた。
「全砲門、ファイヤー!」
そのまま口火を切ったのはカナコの方で、鋭二郎を狙った砲弾を横から走り込んだ桜花のライドキャリバーであるサクラサイクロンが受けて転がっていく。
「狙い撃たせてもらおうかしら」
距離を取って射撃姿勢を取っていたセリーナのバスターライフルから漆黒の弾丸が反撃に放たれ、カナコの掲げた腕に命中し巫女服に黒ずんだ毒素の傷を与えた。
「砲撃、用意して! よく狙って、撃ぇー!」
続けて桜花のバスタービームが至近弾となってカナコの体勢を崩す。
「補給と艦砲射撃はお任せあれーぃ♪」
ニコレッタのヒーリングライトがカナコの砲撃で傷ついたサクラサイクロンを癒し、戦線に復帰したサクラサイクロンが強化一般人達を回り込みながら機銃掃射を行った。
「カナコねーちゃん助ける間、大人しくしててナー」
サクラサイクロンの疾走した後を尚都が駆けて、狭い玄関前に密集していた姉妹達を巻き込むように五星結界符を展開して強化一般人達の足並みを崩す。
「オイオイ、ついうっかり巫女服着ちまうだなんテー、こっちを誘ってやがんデースかぁ!? ……あら、ついうっかり口調が移ってしまいました」
香名は威嚇するようにチェーンソー剣をけたたましく鳴り響かせながら、もう一方のウロボロスブレイドを鞭のようにしならせ、ブレイドサイクロンを姉妹達に叩きつけた。
「うふふふ、巫女服だけは駄目よ……絶対に許さない!」
仲間達の列攻撃による波状攻撃の隙にカナコの背後に回り込んでいた舞依の横薙ぎのチェーンソー剣を、カナコは前方へ転がるように跳躍することで回避するが、巻き込まれた裾切り刻まれて宙を舞う。
「お姉様を邪魔する人は許さない!」
カナコに襲い掛かった舞依に向かって妹達からの集中砲火、二発はサクラサイクロンが庇いに入るが、一発が舞依の背中に被弾した。
「取り敢えず、勢いを減じる」
鋭二郎のセイクリッドクロスが敵陣中央に降臨し、無数の光線を弾幕として舞依が距離を取るまでの時間を稼ぐ。
「消火……急いだほうがいいですよ?」
朱里は舞依の攻撃を避けるために妹達と分断されたカナコをレーヴァテインで一閃、巫女服が炎上しながら大きく裂けた。
●砲雷撃戦
「よくも巫女服をこんなにボロボロに!」
カナコが今度は砲身に集束されたオーラを、仲間をかばい続けて中破状態のサクラサイクロンに向かって発射する。
サーヴァント轟沈の危機に桜花が射線の前へと飛び出した。
「……みんなはあたしに構わず前進して、敵を灼滅してくださぁーい!」
ディフェンダーとはいえサーヴァント使いである桜花の防御はそれほど固くはない。カナコの砲撃を受けた桜花は防具をボロボロにしながら膝をついていた。
「おぉー、おっきなタンクー♪」
「ってかこっち見るなー?! タンクとか言うなー?!」
回復に専念していたニコレッタだけが、ボロボロというより今のカナコより派手に脱げている桜花に気づいてジロジロと眺める。
「皆の邪魔はさせねーヨー」
一人でカナコの妹達の前に立ち塞がっていた尚都が影業でまず一人目を絞め落とした。
「それでは行きますよ。一枚一枚テメェらの布切れ、嬲る様に引っぺがしてやんヨー!」
尚都が妹達を足止めしている間に、朱里に続いて香名もカナコに接近し、チェーンソー剣を振るってフライング巫女服を傷つけていく。
「散りなさい。跡形もなく……!」
背中への被弾にも怯まずカナコに追い縋った舞依が更に加わって死角からチェーンソー剣と解体ナイフでカナコの手足を狙う。
「頭を冷やせ」
鋭二郎は殲術道具でカナコを指すとフリージングデスを発動させ、フライング巫女服を凍りつかせた。
「お姉様、回復します!」
残った二人の妹達は背負っている金属パーツの重量を感じさせない快速で尚都の脇を抜けてカナコの毒や炎や氷を払おうとする。
「超重砲、発射ぁ!」
乱戦の合間を縫ってよく狙いセリーナはバスタービームを撃つが、狙撃に気づいたカナコが身を捻って金属パーツの先端だけに被害を留めた。
「そう簡単に、思い通りにはさせませんよ?」
セリーナの狙撃にカナコが気を取られている隙に朱里のオルタナティブクラッシュが氷ごと巫女服を打ち砕く。
「まだまだヨ!」
体勢を崩しながらもカナコは残った砲塔で一斉砲撃、狙われたサクラサイクロンが堪らず消滅した。
「追いついた。意外と速えナー」
追い抜き様に尚都が導眠符を片方の強化一般人に張りつけて昏倒させる。
「ほぉ~ら、お楽しみの最後の1枚ダヨー! これで貴方を救いだしますネー!」
「うふふふ、巫女服は滅するのよ!」
だいぶ布面積の大変なことになってきたフライング巫女服を香名の蛇咬斬と舞依の騒音刃がギリギリまで削り取った。
「トドメだ」
冷静に淡々とした様子で鋭二郎はマテリアルロッドに纏わせていた影業を解放し、無数の影の刃をカナコへと殺到させる。
遂には原型を留めることができなくなったフライング巫女服が細かい光の粒子と化しながら灼滅された。
●戦果リザルト
「後は任せた。男が居るとややこしいだけだろう」
フライング巫女服の灼滅を確認した鋭二郎はカナコが意識を取り戻すより早く闇纏いで姿を消しながらその場を離れた。
「Oh! 部屋に巫女服が飛んで来たと思ったら、どうして玄関の外にいるネー?!」
一瞬遅れて魅了されている間の記憶の抜け落ちたカナコの意識がすぐに戻る。
(「同じ女でも裸なんて見慣れてねーし、裸のまま外にいさせるわけにはいかねーよナー」)
本人が自分の状態に気づくより早く尚都は愛用の白衣をカナコに羽織らせてとりあえずの目隠しにした。
「近くで干されてたパーティー用の安物コスプレ衣装が金剛さんの家に飛んでいくのが見えたんだよーぅ」
「安物で縫製が脆かったから、この辺の尖った物……そこの柵とかに引っ掛かって破れてしまったのでしょう」
「最近の安物のコスプレ衣装は縫製のいい加減なものもあるのよ……こんなふうに壊れちゃうこともあるって、よく聞くわ……」
ニコレッタ、香名、舞依が矢継ぎ早に言葉を並べて、記憶が混乱しているカナコを強引に誤魔化そうと試みる。
「大丈夫ですか? 衣装を引っ掛けてしまった時に転んで頭を打たれたのかもしれませんね。不幸中の幸いで、ここは玄関のすぐ前。すぐにお着替えを」
「そうネ。とりあえず家に入らないと。皆さん、親切にアリガトウゴザイマース!」
幸い家の目の前ということもあってパニックを起こす前に朱里の誘導でカナコは素直に自宅へと帰って行った。
「うう、あたしだいたい脱げていますよね……」
カナコを見送りながら、念のためカナコ用に準備しておいた着替えを自分で着つつ、桜花はさめざめと涙を流すのだった。
作者:刀道信三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年8月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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