走り去った約束

    作者:聖山葵

    「うわぁぁぁぁ」
     陽炎の立つアスファルトの先、遠ざかりつつある軽トラックの後方で響き渡ったのは慟哭だった。
    「おいちゃぁぁぁぁん」
     少女には走り去り行くわらび餅販売車を止める術はない。傍目から見れば、それはただ一人の少女がわらび餅を買いそびれただけであったかもしれない。
    「うっ、えぐっ……」
     だが当人にしてみれば、話は別で。
    「もっちぃぃぃ」
     アスファルトに涙の染みを作り出した少女の身体は変貌を始めるのだった、ご当地怪人へと。
     
    「とある町に一人のわらび餅売りの男性が居た」
     それなりに老齢で、夏の暑さもこたえるせいかこの夏いっぱいで仕事を辞めるつもりだと常連だった一人の少女に明かしたらしい。
    「少女は言った『だったら、うちおいちゃんのわらび餅、今月は毎日買いに来るわぁ』と」
    「ただ、悲しいことだけどこの約束は果たされない」 
     座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)の後を継ぎ語ったのは、たまたまわらび餅を買う少女を見かけたサリィ・ラッシュ(ロケットクィーン・d04053)。いつものようにわらび餅を買いに出かけた少女は、道に迷っているお年寄りと出くわしてしまい、このお年寄りを目的地まで連れて行った為に、買い逃してしまうのだ。
    「こうして、約束を違えてしまった絶望から一般人が闇堕ちする事件が起ころうとしている訳だな」
     もっとも問題の少女は、闇堕ちしても人間の意識を残していてダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状況になると思われる。
    「故に、君達には少女が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちからの救出をお願いしたい」
     そして、もし完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅を。むろん、救われる方を望みつつ、はるひは言葉を続けた。
    「問題の少女の名は蕨田・優希(わらびだ・ゆうき)、中学一年の女子生徒だ」
     闇堕ちする理由は前述の通り。わらび餅の販売車を追いかけ、転んでしまった後に少女はご当地怪人わらびモッチアへと変貌する。トレイで作った鎧を身に纏い、全身にきな粉をまぶした少女といった姿へと。
    「優希のもつバベルの鎖に引っかからないように接触するタイミングは、優希が変貌を遂げた直後」
     わらび餅販売車の男性へ走り去る前に接触することは可能だが、これによって優希を待っていて貰ったりしてしまうと、優希が演算通りのタイミングで闇堕ちせず、事件が防げなくなってしまう。
    「知っていると思うが、闇堕ち一般人と接触し、人間の意識に語りかけることが出来れば、弱体化させることも可能だろう」
     そう言う意味では、男性への接触も無駄にならない。かわりに買いに来たなどと言ってわらび餅を買っておけば、説得の面で有利に働くのは疑いようもない。そもそも闇堕ちした一般人を救うには戦ってKOする必要があるのだから。
    「状況からして戦場になるのは、夕暮れの車道になる」
     販売車が帰ってしまった後の為、人も居らず優希が走って後を追いかけられる程に車も通らない。
    「戦闘開始から三十分であれば人よけはいらない」
     むろん、時間をオーバーすればその限りでもないということでもある。
    「わらびモッチアは戦闘になれば手にした大きな爪楊枝で妖の槍のサイキックに似た攻撃を行ってくる」
     堕ちかけとはいえ油断すれば痛い目を見るのは灼滅者かもしれない。
    「善意からご老人を助け、待っていた結末が闇堕ちとはあまりに悲しい」
     だからこそ出来れば少女を救って欲しいとしながらも、はるひは五百円硬貨を灼滅者達へと差し出した。
    「もし買うつもりがあるならばだが」
     自分にもお土産にわらび餅を買ってきて欲しい、つまりはそう言うことだろう。
    「宜しくお願いする」
     二重の意味であると思われるはるひの言葉を背に受けて、灼滅者達は教室を後にした。
     


    参加者
    海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)
    向井・アロア(晴れ女だよ・d00565)
    アプリコーゼ・トルテ(中学生魔法使い・d00684)
    朝霞・薫(ダイナマイト仔猫・d02263)
    サリィ・ラッシュ(ロケットクィーン・d04053)
    渡部・アトリ(黒龍騎ファントムブラスター・d10178)
    ナイン・ドンケルハイト(闇ニ潜ム混沌・d12348)
    灰神楽・硝子(中学生シャドウハンター・d19818)

    ■リプレイ

    ●一パック350円
    「半分持ってね、はい」
     差し出されたわらび餅入りのビニール袋を渡部・アトリ(黒龍騎ファントムブラスター・d10178)は受け取った。
    「ありがと」
    「お買いあげありがとう。優希ちゃんによろしくねぇ」
     礼を言うサリィ・ラッシュ(ロケットクィーン・d04053)とわらび餅売りの男性の声に頷きで応じ、仲間の元へと歩き出す。
    「ご苦労様。足止めは必要なさそうね」
     もっとも、今回救うべき少女は今わらび餅を買った販売車を追いかけてくるのだから、移動時間にしてもさほどかからない。ナイン・ドンケルハイト(闇ニ潜ム混沌・d12348)が出迎えた位置からも軽トラックのエンジン音はしっかり聞こえ、灼滅者達に問題の時間が近いことを知らせる。
    「ワラビ餅一箱……今日一日体重計に気絶しててもらうわ……」
    「ドイツのお菓子よりおいしいかしら?」
     遠い目をした朝霞・薫(ダイナマイト仔猫・d02263)の呟きに、初めて食べることになるそれのパックへナインは視線を落とす。茜色の空に体重計の幻影すら浮かべていそうな薫の言が正しいなら、一日でも年頃の少女へ恐怖の存在から目を背けさせるような魔力があると言うことなのだから。
    「サリィ、いっぱい買ってきた?」
     出迎えた向井・アロア(晴れ女だよ・d00565)の視線がビニール袋に固定されていることからも推して知るべし、といったところか。
    「一応十人分ね」
     分担して持ってきた為にサリィの袋に入っているのはパックが五つだが、代金はサリィが出している。
    「今月のお小遣いが……」
     成り行きで決まってしまった出費が財布を軽くしたが、無駄な出費ではない。
    「ありがとうございます。ゴチになります」
     海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)からは感謝の言葉を受け取っているし、エクスブレインからはちゃんと代金を受け取っている。
    「救ってみせないとね」
    「はい」
     だが、何より一人の少女を救う為なのだ。出費と引き替えに得た物をぶら下げた仲間へ、灰神楽・硝子(中学生シャドウハンター・d19818)は力強く頷き。
    (「おいちゃんさんとの約束を必死に守ろうとする健気な所や迷子の老人に手をさしのべる優しい所……そんな純粋な娘を闇になんて……絶対救って見せます!」)
     拳を握りしめてわらび餅の販売車とすれ違う。硝子が救うと誓った少女も間もなく車を追ってやってくるだろう。
    「救わないとね『闇もちぃ』から」
    「えっ」
     何だか新しい単語が誕生したが、気にしている時間はない。
    「……ぃちゃぁぁぁぁん!」
     物陰に身を隠しつつアプリコーゼ・トルテ(中学生魔法使い・d00684)の聞いた叫びは、アトリにも聞こえていたのだ。
    「おじいさんとの約束を守ろうとしてもちぃるのは可愛そうだね。何としても助けてあげよう」
    「早速活用してます?!」
     フォローなのか新単語を使いつつ、アトリに背を押された硝子は。
    「もっちぃぃぃ」
    「大丈夫? 怪我はない?」
     転んでご当地怪人へと変貌した少女へ声をかけていた。

    ●モッチア戦慄す
    「モッチアになった所を襲う」
     そう言えば人聞きは悪いとも薫は言うが、灼滅者達はご当地怪人わらびモッチアとなってしまった少女を救う為、足を運んだのだ。
    「絶望に身を任せるのはまだ早いっす!」
    「もちぃ?!」
     変身した少女の前に魔法少女の如くポーズをとったトルテの登場にビクッと少女が震えたのは、物陰にいたトルテに今まで気づいていなかったからで他意はない。
    「……やっぱり胸、大きいですね」
     反動で揺れた何かに視線が行ってしまった硝子がポツリと漏らす中、最初に進み出たのは、アトリで。
    「このわらび餅はキミに渡す為のものだ。でもすぐに渡せない」
    「そ、それは」
     即座にアトリが手にしたわらび餅を見て思わず手を伸ばしてしまったのは、目にしたものがただのわらび餅ではなく、少女がこの日買い逃した物であることに気づいたからだろう。
     少女に、蕨田・優希へ言葉を聞かせる為にすぐには渡さず、先に説得する予定だったのは、トルテも同じ。
    「それに……いらないならあっしが食べちゃうっすよ?」
     説得の後、まだ反応が薄いようならトルテはそう言って仲間達の方を見るつもりだった。
    「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて。わらび餅でも食いねぇ」
    「「え゛」」
     だからこそ、ひょいとご当地怪人へわらび餅を差し出したサリィの行動に二人揃って固まった訳だが。
    「え?!」
     固まった二人の顔を見て、ぽかーんと口を開けたサリィも自分に注がれる視線から気づいたらしい。
    「あ、ああ、ちょっと待っててね」
    「む、手短に頼むもちぃよ」
     すぐにでもわらび餅を受け取ろうと寄ってきたご当地怪人を手で制すると二人に近づいて何やら相談し始める。
    「どうしよう」
    「……けど、反故にするのは危険デース」
    「拙いっすよね?」
    「そうだ!」
     話が纏まりだしたのか、アトリが声を上げたのを切欠に秘密会議は活性化し。
    「終わったもちぃ?」
    「エー、ワタシ嘘はつきまセーン、落ち着いて貰う為にまずは一切れ差し上げマース」
     モッチアの問いかけに頷いたサリィは、爪楊枝に刺したわらび餅をモッチアの前へと差し出した。
    「わぁ、おいちゃんのわらび餅もっちぃ! はむっ」
     尻尾があればちぎれる程振っていそうな笑顔で即座に食い付いた少女は幸せそうな顔でわらび餅を咀嚼し始め。
    「ただ、二切れ目を食べる前に僕達の話を聞いて欲しいんだ」
    「もちっ?!」
     アトリが切り出した条件へ、わらびモッチアは大げさに驚いた。わらび餅を完全にお預けして先に説得を聞いて貰おうというプランが崩れたからこそ即席で組み上げた折衷案だったのだが。
    「そ、それは……わらび餅洗脳術っ」
    「わらび餅洗脳術ってなんだソレ」
    「小学校の頃、夏休みの宿題一ページ終わらせたら一切れあげるとお母ちゃんが言葉巧みにうちを騙して三日で宿題を終わらせた戦慄の精神操作術もちぃ」
     オウム返しに尋ねたアロアへ、戦慄の表情を浮かべた少女は解説し出す。
    「動物の調教みたいだね、芸をしたらご褒美に餌をあげる的な」
    「三日で終わらせたというのは凄いと思いますが」
     ヒソヒソと言葉を交わす灼滅者達の声は、たぶん聞こえていない。
    「あれを使ってくるとは恐るべし。あんたらただ者ではないもちぃね?」
     真顔で問うてくるモッチアへ、発泡スチロールのトレイ工作で小学生が作ったプロテクターみたいなものを着込んでるその姿の方がよっぽどただ者ではない、とは誰も言わなかった。その精神操作術とやらが齟齬が生じてフォローの為に即席で組み上げた案であるという真実も。
    「とにかくそう言う訳なので、話を聞いて」
    「むぅ……しかたないもっちね」
     相手が話を聞く姿勢を作ったのなら、あとは説得するだけ。
    「このままでは、おいちゃんとの約束が果たせなくなってしまいますよ?」
    「な」
     話した訳でもないのに事情知られていることに驚き、モッチアは目を剥いたが、切り出した詠一郎は視線に動じない。
    「キミはおじさんの為にわらび餅を買い続けることの出来る優しい子だ。でもここでキミが闇に負けてしまったら明日のわらび餅が買いにいけなくなってしまう!」
    「迷子の老人を放って置けなかった貴女の優しさを、餅屋さんも喜んでくれるはずです。明日も明後日も、餅屋さんが引退するその日まで……貴女が買いに行ってあげなくてどうするんですか!」
    「うぐっ」
     詠一郎の後を継いだアトリと硝子の言葉に、少女はたじろいだ。

    ●なめられたもの
    「約束は守らないといけない、でもどうしても守れないときはあるっす、大事なのはその後にどうするかっす! あなたは約束を破られたら絶対にゆるさないっすか? そんなことないっすよね」
    「け、けど約束は……」
     灼滅者達の説得に気圧されているのか、アプリコーゼへ反論しようとするわらびモッチアの声には力がない。
    「あなたが愛したものを捨てるなんて勿体ないわね」
    「いや、それただ剥がれただけもちぃ」
     同様のあまり肌からきな粉が剥がれおちていたせいか、ナインの言を取り違えてズレたツッコミを入れるも、心が揺らいでいるのは明白だった。
    「うにょっ?!」
    「このきな粉の味は……嘘を……じゃなくて魂が動揺してる味だわ……モッチア」
     薫に接近されたことにも気づかず、トレイ鎧の隙間から肌に舌を這わせられて悲鳴を上げている無防備ぶりからしても。
    「この味が、こんな事をしてもワラビ餅が喜ばない事を、アナタが一番わかっているって証拠よ!」
    「や、ちょ、ど、何処舐めてそんなこと言ってるもちぃ!」
     確信を込めて薫は断言するが、わらびモッチアの顔が真っ赤なのは図星だからではなく、別の理由からだと思われた。
    「……やけに瑞々しいプルプルでプニプニなワガママすいーつぼでぃになったわね…………ダークネスッ!」
    「こ、これは自前もちぃ。あっ……」
    「揺れかたの違いが、戦力の決定的差でない事を教えてあげるわッ!」
     やりとりの会話だけ羅列すると微妙に犯罪臭がしたが、きっと気のせい。
    「くっ、実力行使もちぃか」
     WOKシールドを構えた薫を見て、少女も鎧の一部に収納していた巨大爪楊枝を構え。
    「好きなものがなくなる寂しさはわかるけどさ、だからって早まらないで」
    「うち、早まって弄ばれた訳じゃないもちぃ!」
     顔を赤らめたまま、微妙に誤解してサリィへ叫び返す。もはや戦いは避けられないが、灼滅者達かれすれば最初から覚悟していたことでもある。
    「何だか不本意な誤解をされてる気もするけれど」
     ぼそりと呟いてナインは少女の死角へ回り込み。
    「むむたん、よろー」
     ナノナノに呼びかけつつアロアの撃ち出した光輪は熱を含んだ空気を切り裂きながらご当地怪人目掛けて飛翔する。
    「貴女が約束を守れなかった後悔に潰されそうだと言うのなら、私達が貴女を明日へ繋ぎ止めてみせます!」
     仲間達の盾となるべく進み出たライドキャリバーの名を呼ぶと、硝子はサイキックソードを強く握りしめながら、刃を少女へと向けた。
    「ちょ、いきなりそん、もちぃぃ」
     カーボの機銃を援護に、撃ち出された刃は前後して飛来したしゃぼん玉やリングスラッシャーで逃げ場を失っていた少女の鎧を容赦なく斬り飛ばす。
    「くっ……あ、きゃあぁぁぁ!」
     痛みに顔をしかめつつも、鎧の一部が無くなったことに気づいたご当地怪人は露わになった肌色を慌てて手で隠し。
    「負けちゃダメだ。あのおじさんとの約束を守る為に!!」
    「別の意味で挫けそうも」
     アトリの言葉に涙目で応じつつあったモッチアは、絶句した。気がついたら、抱きつかれていたのだ。正確には、持ち上げて叩き付けようとするご当地ダイナミックの過程であったのだが。
    「嫌ぁぁ、もうこんひぁぁぁぁぁっ」
     悲痛な声声は途中で別種の悲鳴にかわりつつ宙を舞ったモッチアの身体はアスファルトの上で爆発に飲み込まれる。
    「うぐぐ……」
    「こんな辛いことは早く終わりにして、おいちゃんの美味しいわらび餅を食べましょう……ね?」
     ヨロヨロと身を起こす少女にかけた詠一郎の言葉、辛いの意味合いが別の意味にもとれそうだったのは、気のせいと言うことにしておこう。
    「このまま押し切るっすよ」
     アプリコーゼが大仰な身振りで詠唱圧縮した魔法の矢を生み出し、飛ばすのに合わせて詠一郎が地を蹴った。
    「おいちゃ……」
     色々限界だったのだろう。二分ほどボコボコにされたご当地怪人は元の少女に戻るとぽてりとアスファルトの上に倒れ伏したのだった。

    ●しょっぱいもの
    「「お疲れさま」」
     黄昏の中、ハモった声が明るかったのは、一人の少女を救うことが出来たからか。
    「みんなで食べたほうが楽しいっすよね、今日は特別におごりっすよ」
    「はいはい、全部わたしのおごりね」
     アプリコーゼの声にサリィの見つめる空は茜色。
    「じゃあ改めて、わらび餅配るわよ」
    「ワーイ、ありがとう!!」
     何人かの分は既に手がついているが、説得に必要だったのだから仕方ない。
    「ふぁあ、おいしい……」
    「んー、人のお金で食べると余計おいしく感じるよね」
     一仕事終えた後の甘味に顔をほころばせる硝子の横で爪楊枝を手にアロア呟き。
    「ってゆーか、わらび餅って喉詰まんない?」
    「ああ、というかお茶があるとより一層美味しく食べれるかと思ったので、お茶持ってきてますよ」
     良かったらどうぞと、詠一郎が水筒から注いだお茶を差し出す。
    「それなら冷たい麦茶持ってきてるわ」
    「助かった。水分なしとか、マジでギルティだし」
     薫が涼しげな音を立てて容器を満たすお茶を眺めつつ一息ついたアロアは、ちらりと遠くに見える自動販売機を一瞥し、殆ど空になったわらび餅のパックに視線を戻す。
    「こだわりの食べ方があったら教えてください」
    「せやなぁ、夏場は冷やして食べるけど……」
     横では、意識を取り戻した優希と硝子の会話が続いているが最初はこれほど落ち着いた物ではなかった。もっとも、そのときヒートアップしていたのは優希ではなく、硝子だったけれど。
    「なんだったらカーボに乗って――」
    「ええんや」
     ライドキャリバーで一般道爆走してでもわらび餅販売車を追いかけようと申し出た硝子へ優希は首を横に振って言った。灼滅者達に説得されて気持ちに整理がついたのだろう。
    「ご馳走様。ふぅ、甘いモノの次にはしょっぱいモノだよね」
     最後の一切れを食べ終え、空のパックを手にアロアは立ち上がる。
    「しょっぱい……もの?」
     進行方向に一人の少女が居たのはたまたまだが、少女は顔を青くし自分を抱くようにして後ずさった。
    「う、うちそんなに汗っかきやないし、しょっぱくないで!」
     たぶん、モッチアの時に誰かに舐められたからだろう。そんな、勘違いをしたのは。自然と視線は薫へ集中する。
    「悪かったわ」
     結局、誤解が解けたのは半数以上の灼滅者がわらび餅を食し終えた後のこと。
    「さて、はるひさんに、お土産のわらび餅をお届けしないといけませんね。喜んでくださると嬉しいのですが……」
    「そうだったわね。、このわらび餅を待っている娘がいるんだけど、いっしょに渡しに行かない?」
    「せっかくのお誘いやけど」
     詠一郎の言葉に便乗する形でサリィが持ちかけた提案へ、少女は頭を振ってみせる。だが、それは灼滅者達への拒絶ではなくて。
    「うちこんな格好やし」
    「「あ」」
     戦闘でボロボロになった衣服に一同が失念していたからだった。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 7
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