蒲生ネズミ逆ハーレム王国の興亡

    作者:るう

    ●発見された石版
    『オロカナル ネズミドモニ セイサイノトキガキタ。
     サカシイ ギンノ メスノ トウモクガアラワレ コノチヲ サワガス。
     シカシ ネズミゴトキ ワガマエアシヲ ワズラワセルマデモナイ。
     イデヨ すれいやードモ。
     ムレル ネズミドモニ シヲモッテムクイヨ』

    ●武蔵坂学園、教室
    「イフリートたちからの伝言が、また見つかりました」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が机の上に置いたのは、鹿児島県姶良市蒲生町米丸付近で見つかったという一枚の石版だ。
    「米丸は水田の広がる盆地ですけれど、実は三キロ東の住吉池と共に活火山に指定されています」
     石版は、その一帯を縄張りにするイフリートが残したのだろう、と姫子。
    「実際に、その周辺にネズミバルカンの群れが出る、という未来予測が出ています。美しい銀色の、他よりも強力な雌ボスが群れを纏め上げていることも、石版の記述と合致します」
     彼女らは米丸を通る後郷川を、我が物顔で闊歩している。今こそ人間から手を出さない限りは無害だが、周辺からボスの元に求婚しに集まってくる個体が増えれば、必ず周囲を荒らし回ることになるだろう。

    「群れは、ボスを除いて十体と多く、残らず退治するのは難しいかもしれません」
     群れを殲滅しようと思うなら、川の上流側と下流側、それに両岸を全て抑える必要がある。敵に察知されずに近づける最大限の人数は八人だが、それではボスを逃がさないよう戦うだけでも精一杯だろう。ボスさえ倒せば群れは解散し無害になるので成功ではあるが、より完璧な成果を求めるなら、周囲にフォロー役がいると楽になる。
    「雄の半分は、好戦的なものの不利と思えば逃げ出すタイプ、残りはボスのために我が身を挺するタイプです」
     ボスはその性質をよく理解していて、鳴き声で彼らを鼓舞すると同時にしたたかに群れを操るようだ。自らの逃げ道を作るための指示もする。
    「牽制の方々の取り纏めは、姶良・幽花(中学生シャドウハンター・dn0128)さんにお願いしています。皆さん、よろしくお願いしますね」
     姫子に言われて幽花は、集まる灼滅者たちにぺこりと頭を下げた。


    参加者
    篠崎・結衣(ブックイーター・d01687)
    梅澤・大文字(りなちゃ番長・d02284)
    霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)
    皇・なのは(へっぽこ・d03947)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)
    黒橋・恭乃(黒と紅のツートンハート・d16045)
    高柳・一葉(はらぺこ殺人鬼・d20301)

    ■リプレイ

    ●灼滅者たちのお使いタイム
    「イフリートめ、完全にボクらを小間使いと思ってるな?」
     ひと月ほど前にもイフリートにネズミ退治させられたのを思い出し、月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)は軽く溜息をつく。
    「イデヨ、とか言われましても、私達は便利屋ではないのですが……」
    「完全にそんな扱いだよね。仲良くできるのはいいけれど、対等と思われてないんだなって思うとね……」
     篠崎・結衣(ブックイーター・d01687)の呟きに、高柳・一葉(はらぺこ殺人鬼・d20301)が愚痴っぽく返す。
    「まあ、暴れられると困るのも事実ですけどね」
     確かに結衣の言う通り、ここは利害の一致ということで我慢するのが大人の対応というものだ。文句を言うのは、目の前の問題を解決してからでいい。
    「まったく、後で前足でお手して貰いたい位ですね。肉球をぷにっと」
     霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)はいつか直接文句を言う時を思い、とても楽しみそうな顔をしていた。まあ、今回会えるかどうかはわからないので、今後のイフリート退治のどさくさに紛れて頑張りたまえ。

    「しかし、ピュアーな男心を誑かす女狐……いや女鼠か……鼠界にもそんなんが居るモンだとはな、恐ろしいぜ」
     梅澤・大文字(りなちゃ番長・d02284)は夜風にマントをたなびかせながら、目深に被った学帽をくいと持ち上げた。口に咥えた草の茎が、ピンと伸びたまま風に揺れる。……が。
    「ニエも逆ハーレムを作って、男を馬車馬のように使って養われて過ごしてーものです」
     さらりと凄いことを言ってのけた猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)のセリフに、思わず萎れる茎。が、周囲の動揺をものともせず、仁恵は何事もなかったかのように言葉を続ける。
    「けれど、でけーネズミは不気味ですよね」
    「ネズミバルカンの逆ハーレム……確かに、想像するだけでも気味のいいものではありませんね」
     不味い料理でも出された時のような表情で、黒橋・恭乃(黒と紅のツートンハート・d16045)は同感と頷いた。
    「でも銀色のネズミって、雄がいっぱい求愛してくるってことはよほどなんだろうね。もし小さければ可愛いかも?」
     そう言って皇・なのは(へっぽこ・d03947)が川辺を覗き込むと……確かに銀色のメスだけは美しい毛並みだったけれど、やっぱり巨大ネズミは可愛くなかった。

    ●ネズミ玉を吹っ飛ばせ!
     灼滅者たちと目が合うと、ボスはしきりに鳴き始める。
    「確かに銀色のネズミだねー、目立ってわかりやすいかも」
     何やら命令しているらしいボスの様子に、うんうんとなのはが頷く。ついでに言うと、ボスの周りに群がる五体と、少し手前に出て威嚇してくる五体もわかりやすい。
     突然の闖入者に騒然とし、手始めにとなのはに群がるネズミ達の上を、棒高跳びの要領で槍を使った千尋が跳び越えた。
    「まずは露払いってね!」
     空中からの槍が、避けようとするネズミの耳を削ぎ落とす。その間にも、群がるネズミどもの間を縫うようになのはに放たれる、癒しの力を込めた結衣の矢!
    「攻撃してくる敵は気にせず、ボスの周囲にいる敵を狙って下さい」
    「もちろん! 言われなくても!」
     ネズミの山が内側から弾け飛び、中から槍を構えたなのはの姿が現れる! ネズミどもを振り払った勢いをそのままに、槍は取り巻きの一体の肩口を抉る!
     混乱し、押しくら饅頭状態になったネズミの群れを、黒いオーラが包み込んだ。
    「さぁ、ネズミ狩りしましょう! ハハッ!」
     刑一の、数多のカップルどもを屠ってきた嫉妬のエネルギーは、眷属たるネズミバルカンのハーレムをも戦慄させる。慌てて川に沿って自らの身で防壁を展開し、その後ろ側からボスを逃がそうとしたネズミ達だが……しかし、それは叶わなかった。
    「ボスだけは、絶対に逃がさねぇぜ」
     川の下流側に向かった一体が、大文字の張った結界に弾き返される。痺れたまま、宙を舞うネズミバルカン。
    「さぁ、ディナーの時間です」
    「さぁ、お食事の時間だよ!」
     恭乃と一葉、二人の声が、正反対の方向から同時にハモる。二人がスレイヤーカードを解放すると同時に、一葉の放った灼熱の弾丸が空中の雄を焼いたかと思うと、その体は恭乃の手により無数の断片に切り刻まれていた。まるで、ネズミの丸焼きを輪切りにしたかのような様相だ。
    「……ですが、流石にネズミは食べる気が起きません」
     燻る焼肉を、ぽいとその辺に放り捨てる恭乃。無造作に行われた『調理』に慄き、他の雄がおっかなびっくり反撃する……が。
    「そんな腰抜け攻撃でどうにかできるわけねーですよ」
     仁恵の放った光の盾が恭乃の傷を癒し、同時にネズミ達を遠ざける!

     甲高い、ボスの号令。先ほどなのはに群がっていた五体は、円陣を組み直すかのように一歩下がると灼滅者たちを威嚇する。
     一歩、また一歩と近づいてゆくなのは。その手には今度は、槍の代わりに杖。魔力を込めた一撃が、間合いの外から振り下ろされる……が、まだ遠い!
     そう思った時には既に、取り巻きの一体は頬骨を砕かれていた。ただゆっくりと歩いているように見せながら、一気に動と静の境界を越えて距離を詰める歩法。
     再び、ボスが鳴く。頬骨を砕かれた雄の顔が、まるで鼻の下でも伸ばしているかのように興奮して歪んだ。傷の深いなのはに、すかさず背中の砲を連射……けれど浮ついた反撃を受けてやるほど、なのはもお人好しではない。
    「雄くん、そんなに興奮してると狙いがずれちゃうよー?」
     なのはの挑発にムキになる雄を、ボスが直々にたしなめる。一旦は引いた雄だったが、彼がその反省を次に生かす機会はついに訪れなかった。
    「デストローイ!」
     刑一の目が妖しく光り、槍が雄の首筋を大きく切り裂く!
     美しい雌に直々に声をかけられる雄……だと? これはリア充の爆破を至上命題とするRB団の一員としては、是非とも処刑せねばなりませんよね。まあ、リア充とはいっても所詮ネズミだけど。

    ●女鼠、逃がすべからず
     灼滅者たちの迫力に圧されたボスは、引き続きなのはに攻撃しようとしていた雄たちに号令をかける。一斉に、自分たちを取り囲む敵を牽制するかのようにサイキックの弾丸をばら撒き始める雄たち。
     その裏でボスが妙な動きを始めたのを、千尋は決して見逃さなかった。
    「一般に鼠は水が苦手って言われるけど、追い詰められたからって川を渡って逃げるつもりかな?」
     槍の妖気が氷柱となって、白銀の毛皮を凍りつかせる。
    「去る者は追わず。……但し、お前だけは逃がさないよ。部下を残して逃げるなんて許されないのさ!」
     執拗に降り注がせる氷柱だけでは、決してボスの行く手を阻むことはできない。だから千尋は、雄どもの射撃を側転で躱し、その勢いで雄の背を跳び箱の要領で飛び越えて、一路、ボスの鼻先へ!
     もちろんネズミどもも、その様子を手を拱いて見ているだけではない。千尋の目の前に立ちはだかり、ボスの行く手を遮らせるまいと威嚇する雄。その必死な様子を眺めていた大文字が、にやりと笑う。
    「……女の見た目に目が眩むたァ、馬鹿なヤツらよ」
     大文字の下駄が大地を踏みしめ、土に二筋の溝を生む。
    「いいとも男共も……この業炎番長、漢(おとこ)梅澤がまとめて目ェ覚ましてやんよ! ウオォォォッ……!!」
     唸り声と共に、漢の拳が炎を纏う! 燃えながら弾き飛ばされる雄の悲鳴を聞き流しながら、大文字は立て膝の姿勢で残心を示しながら、胸元で拳を握り締める。
    (「フッ……。決まったな」)
     はためいた後、ゆっくりと大地に落ちるマントの裾。口に咥えた茎の先に、ぺかりと小さな花が咲く。
    「あの……別のネズミも邪魔しに来てますよ?」
     横からの一葉の指摘を受けて、片膝立てのポーズのまま、こめかみ付近に冷や汗を垂らす大文字。そんな彼の代わりにやってきたネズミを蹴散らした後、一葉は思わず遠い目をする。
    (「私は灼滅者になったばかりだから、これから鍛えていくためにも、皆の戦いぶりをしっかりと目に焼き付けて真似できるようになきゃ……って、思ってた筈なんだけど……」)
     大文字の様子を見ていると、灼滅者としての使命が云々という話はどこかへ飛んでいき、危なっかしいけど楽しそうだなぁ、なんて思ってしまう。……いいんだろうか?
    (「でも、責任感に押し潰されながら戦うよりは、楽しく戦った方がいいはずだよね!」)
     肩の荷が下りる。少しずつわかってくる、灼滅者としての戦い方。吹っ切れたように、一葉は自らの影でネズミどもを『喰って』ゆく!

     灼滅者たちの阻止に失敗し、慌てて別方向に駆け出すボスに向けて、仁恵の声がかかる。
    「銀色ネズミさん、あーそびーましょっ」
     ボスがぎょっとする間もなく、鞭のように伸びてしなる刃が、ボスの体に巻きついた。
    「つーかまえた。……逃がす訳ねーじゃねーですか」
     ボスはもがく。けれど刃はそのその度にきつく絞まり、美しい白銀の毛並みに赤黒い斑点を生むのみ。
    「本当は上手く男をこき使う方法も訊きてーところですが、喋れねーなら仕方ねーです」
     無表情のまま、仁恵は刃をきりきりと、ボスの身体に食い込ませてゆく。
     必死に仁恵に食い下がり、ボスを解放させんとする雄たちの努力は、結衣の癒しの矢により半ば以上を無に帰されていた。もっとも、癒し残った傷はこの場で治すには深すぎるので、事実上はネズミ達の完敗だ。
    「あなた達も必死で生きているのでしょうが……ネズミ相手にいちいち考慮するほど、暇ではありません」
     足掻けども、悲しいかな、ネズミの知能。自らの自由を取り戻すのに精一杯なボスからの指示が途絶えてしばらくもすれば、有象無象の集合となるばかりか、逃げ出す者まで出てくる始末。
    「所詮は、その程度の度量しか持たない輩。再び取り巻きになる事はあっても……中心となる事はまずないでしょう」
     仲間がこれ以上危険に陥ることはないと見て、結衣は番えていた矢を取り替える……癒しの力を込めたものから、破壊の力を込めたものへと。
    「逃げるネズミ用に、巨大ネズミ捕り器でもあればいいんですけどねェ」
     冗談ですよ、と付け加えてから、恭乃は悪どい顔をしてみせる。ようやく刃の鞭から抜け出したボスの鼻先に向けて伸ばされる、猫の爪。
    「とうとう……ブレイズゲートで拾ったこの『怪猫爪』を使う時が来ました。ネズミさん、動けると思いましたか? 残念、私がソレを許しませんでしたー!」
     ハイテンションで、ボスに向けて爪を振り下ろす恭乃……けれどその止めのはずの一撃は、まだ戦意を失っていない雄の献身により、ボスの身体には届かない!
    「愛の力ですねェ……。けれど、助けて差し上げるわけにはいかないんですよねェ」
    「そ。悪いけど、他の子はいいけど銀色ちゃんは駄目なんだよねー」
     なのはのビームからも身を挺してボスを守り、雄は満足そうにその場に倒れ込んだ。

     周囲を素早く見回すボス。その表情には、明らかな怒りが込められている。逃げ道は、もう、ない。
     ここまでくれば灼滅者たちも、逃げようとする敵を見逃してまでボスを狙う必要もなくなるだろう。
    「もちろん、今からでも逃げられるようであれば、逃げても構いませんが……」
     千尋は空中に跳び上がると、戦うべきか逃げるべきかと悩む雄の一体に目標を定める。目をよく凝らさねばわからぬほど細い糸が、雄の自由を奪う!
    「というか、逃がしませんよ、とーぅ!」
     すかさず止めを刺す刑一。残った雄も、囚われの姫君の身と自分の身の安全を天秤にかけて悩む一瞬の隙に、一葉の結界にサイキックエナジーを奪われ、結衣の矢に穿たれ、仁恵に直接ぶん殴られて、ある者は斃れ、またある者はその場から一目散。
     最後まで右往左往しながらもボスの身を案じていた雄を大文字の炎が屠ったのに合わせて、恭乃が放った毒の弾丸が、ボスの命を刈り取った。
    「米食ってちゅう。毒喰ってぎゅう……? まぁいいや、消えてくださいな」

    ●イフリートへの伝言
    「何だか、イフリートからの感謝の気持ちが足りん!」
     燻る不満をぶつける場所を探していた千尋がふと横を見ると、何やら川の中から大き目の平らな石を引きずって持ってくる恭乃の姿。
    「ネ・ズ・ミ・王・国・終・焉・の・地……っと。これでいいでしょう……おや、どうかしましたか?」
     そうだ……これだ!
     恭乃の書いた文字の脇に、「ニンムカンリョウ タダ スコシクライハ カンシャシテホシイネ!」と書き加えておく千尋。
     石の裏に、自分もちゃっかりと「ツカレタ ゴホウビ クダサイ ダイモンジ」と書き込むと、大文字はやれやれ、と呟いて川の土手に大の字になる。
    「そういえば、イフリートたちの手紙? も、個性が出てきたよね、なんだか面白いかも」
     こちらも三者三様の書き残しを見て、なのははくすりと笑う。そういえば、今回送ってきた手紙を書いたのは、一体どんなイフリートだったのだろう?

     一方その頃、一葉は一人、ちょっとした検討会を開いていた。
    「えっへへ……分かり易すぎちゃったかな?」
     今回のために考えたスレイヤーカードの解除コードが恭乃と被ってしまったのを、成功と取るべきか反省点と取るべきか。
    「ネズミどもを軒並み一網打尽にできたのだから、分かり易くても構わねーのです」
     横から炸裂する、役に立ちそうで立たない仁恵のアドバイス。
    「ネズミといえば……そういえば、逃げたネズミは今頃どうしているでしょうか……?」
     ぽつりと疑問を口に出す結衣に、刑一は含み笑いを漏らしてみせた。
    「フッ……。この世に悪の栄えた試しなどはありません……」
     仮にこの場から上手く逃げ果せたところで、彼らも少数で人間の近くに棲み着こうなどとは思わないだろう。悲劇は未然に防がれた、今回の成果は、そう言うに足る結果だった。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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