ロシアン怪人対アンブレイカブル! B91再び!

    作者:灰紫黄

     ざばーん。ざばざばーん。
     北海道沿岸。流氷に乗ったロシアンご当地怪人が北の大地に上陸しようとしていた。
    「我が名はコサック怪人兵団、赤足のクラース」
     誰もいないはずの海岸で、一体どこに向けて言っているのだろうか。けれど、その瞬間、海から飛沫が上がり、水着姿の女が現れた。
    「貴様がロシアンご当地怪人だな。お手合わせ願おうか」
    「ふん、いいだろう。ロシアンの力、とくと見るがいい」
     赤いブーツと俊足の拳がぶつかり、眩い光が巻き起こる。
    「はっ!」
     女が気を込めた瞬間、その姿が三つに増える。水着でいつもより露になったやわらかたわわも三倍増しで揺れる。
    「くっ、卑怯な……」
     鼻血がだばだば吹き出し、赤足のクラースの服を赤く染めた。なぜか狙いもたわわに集中する。あれか。胸の布が狙いか。しかし、攻撃が女に当たることはない。
    「隙ありだ!」
     分身したアッパーがロシアン怪人を真正面から捉える。瞬間、回転しながら怪人の体が青い空に打ち上がった。
    「ご当地怪人に栄光あれ!!」
     どかーん。派手な赤色の爆風を残して、クラースは散った。

     夏休み中ではあるが、灼滅者には休みはない。そこにダークネスがいる限り。
    「集まってくれてありがとう。宿題は……今年は少ないんだったわね、うん」
     そこで目は一瞬顔を伏せた。それが何を意味するのかは灼滅者達には分からないけれど。
    「ロシアからご当地怪人を載せた流氷が北海道に漂着したわ。もとはかなり大きな流氷だったみたいだけど、何かに破壊されたようね」
     さらに、このご当地怪人を迎え撃つべくアンブレイカブルが動き出した。腕試しの場として、各地でロシアン怪人に戦闘を仕掛けている。そこで、二者の戦闘後、勝った方を灼滅してほしい。
    「私の計算によれば、戦いに勝つのはアンブレイカブル。顔は見えなかったけど、やたらスタイルがよかったから、男子は惑わされないように」
     使用するサイキックは5つ。ひとつは、残像を生み出すことで傷を癒し、攻撃力と防御力を高める技。次に、両手に気を溜め、遠間の敵にぶつける技。残りの三つはストリートファイターと同質のものだ。また、連戦にはなるが、消耗が著しいということもないようだ。万全の状態とそうかわらにと考えたほうがいいだろう。
    「戦闘中に乱入すると、こちらを優先して攻撃してくるわ。そうなると勝ち目がないから、必ず戦闘後に介入して」
     説明は以上よ、と目は締めくくった。ご当地怪人とアンブレイカブル、両者が何を企んでいるかは不明だが、この機会を逃す手はない。


    参加者
    無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)
    普・通(正義を探求する凡人・d02987)
    不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)
    水戸・春仁(ロジカルソーサラー・d06962)
    ロザリア・マギス(悪夢憑き・d07653)
    砂原・皐月(禁じられた爪・d12121)
    攻之宮・楓(攻激手・d14169)
    綾河・唯水流(雹嵐の檻・d17780)

    ■リプレイ

    ●B91、再来
     どかーん。
     赤色の花火が北海道の空に打ち上がった。髪が伸びたのか、ポニーテールになったアンブレイカブルの後ろ姿を確認し、灼滅者達は接触を図る。
    「あれ、もしかして……クレミさん?」
     まず話しかけたのは以前の戦いで面識のある普・通(正義を探求する凡人・d02987)だ。けれど、クレミは気まずそうに目を逸らす。
    「覚えてない? 富士急ハイランドで戦った」
    「うっ」
    「前に渡した携帯電話、どうなったかな」
    「ううっ」
     苦しげに呻くクレミを見て、灼滅者達はああ壊したんだなと察した。彼女はそういう残念なところがアンブレイカブルだった。他のアンブレイカブルも大抵残念なおつむをしているが、彼女もその類に漏れないようだ。ひどい方でさえある。
    「すまない! でも事故なんだ。ポケットがいっぱいで胸の間に挟んでいたらいつの間にか壊れてしまったんだ」
    「ええぃそんなことがあり得るかその胸灼滅してくれるわっ!」
     瞬間、不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)の表情が鬼のそれへと変わる。ふんぬ、と鼻息も荒い。お湯でも沸かせそうな勢いだ。
    (「大きい……ですわね。水着姿ですし。でもあれ狙ってやったんじゃなくて絶対に泳いできただけですわよね……。どうしたらよいんでしょう。いえ、どうもしなくてもいいんでしょうけど」)
     圧倒的なやわらかたわわを目の前にして、攻之宮・楓(攻激手・d14169)は少し混乱中。スタイルを強調するかのようなビキニ姿だ。無理もない。たぶん。
    (「眼福眼福))
     健全な男子、水戸・春仁(ロジカルソーサラー・d06962)は心中で手を合わせた。なかなかお目にかかることのできない巨山には注目せざるを得ない。ただただ自然の神秘に感動するのみである。
    「えっとあの……ところでなんで水着なの?」
     視線を泳がせながら、綾河・唯水流(雹嵐の檻・d17780)が問う。少女のようにも見えるが、彼もれっきとした男子。気にならないはずがない。ぷるるん。
    「ふふ、気が付いたんだ。道に迷うなら道を使わなければいい。涼しい方向へ泳げば北海道へ着くはずだとな! 道なき道を往く者、それがアンブレイカブル!」
     ぱっと輝くドヤ顔。顔立ちは可愛らしいはずなのに、なぜこんなにも腹が立つのだろうか。
    「あのさ、一応聞きたいんだけど、誰の指示で戦闘してんだ」
    「指示? 私は誰の支持も受けていない。ただ、北海道に強敵が現れると聞いてきただけだ」
     砂原・皐月(禁じられた爪・d12121)の問いに、クレミは不思議そうに答えた。そもそもアンブレイカブルにとって戦いは本能であり本懐。戦うことに理由も因果も必要ないのだから、と。
    「お話はよろしいですか? では始めましょう、我々の戦争を」
     それはあまりにも潔い宣戦布告だった。ロザリア・マギス(悪夢憑き・d07653)の言葉が鐘となり、戦闘開始を告げる。生死を賭けた戦いでこそ、真に相手を理解できるのではないか。そんなユメは果たして真か偽か。
    「連戦で悪いけど、ボク等の相手もして貰うよ」
    「構わないさ。むしろ嬉しいくらいだよ」
     クレミに負けないスタイルを同じく大胆な水着で包んだ無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)。けれど放つ雰囲気は凛と鋭い。ほぼ同じ瞬間、拳を握り構えをとった。

    ●揺れる戦い
     灼滅者達は一斉にスレイヤーカードを掲げ、武装を召喚する。
    「龍撃砕刃! 来い、タロウマル!」
     唯水流が手にするのは、青と白の戦斧。鋭利な刃が光を反射し、鈍い輝きを放つ。
    「行動開始だ!」
     螺旋を描く槍がクレミの喉下へ迫った。けれど、刃が触れる寸前で回避。皐月の獰猛な視線とアンブレイカブルの視線が間近で交錯する。さらにその隙に、ロザリアの槍もクレミを狙う。今度は白刃取りで止めた。
    「開幕限りのご愛嬌。この真偽は、語らずともご理解頂けると思いますので」
    「謙遜しなくてもいい、いい突きだ。……はぁっ!」
     クレミの体から気が放たれ、その姿が幾重にも分身する。エクスブレインの予知にあった質量のある残像だろう。以前目にした通の目からすれば、少し進歩しているようにも見えた。通のロッドが腹部を狙うが、しかしそれは残像。本体にはかするのみ。
    「僕達と修行仲間になって欲しいんだ」
    「前も似たようなことを言われたな。だが!」
     クレミの拳が通を捉えた。一撃のはずだが、衝撃は三発分あった。
    「私は待ち合わせとかなぜか守れた試しがないんだ! 約束を破ると悪いから断る!」
    「それはお主の方向音痴ゆえじゃろうが! 滅せよ巨乳!」
     理不尽な怒りを込めた紅い斬撃がクレミ(のメロン)に迫る。しかし弾力ではね返す……はさすがに無理だったようで、大きくのけぞった。
    「…………」
     仲間の理央も巨乳といえるスタイルの持ち主だが、どう思っているのだろうか。
    「座標指定っと、そら行けっ!」
     春仁が魔導書を開くと、風もないのにページがめくられ、目当ての項にたどりつく。灼滅者達が手にした新たな力。矛盾をはらんだ、サイキックを否定する光がアンブレイカブルを射抜き、残像をいくらか消滅させる。
    「対策はできていますわ」
     楓の足元から影が伸び、無数の腕となる。ただの影ではない。濁った血液のように淀み、粘り、不快な質感を持ってアンブレイカブルを飲み込まんとする。残像が防御するが、八つ裂きになって霧散した。
    「やはり技は読まれているか。だが前のようにはいかない!」
     以前は残像に固執して敗北したが、今回はそうはいかないようだ。残像を破壊する力を持つ楓を狙って気の弾丸が飛ぶ。けれど、理央が身をさらして攻撃を受け止めた。
    「させないよ」
     構えるのはボクシングのスタイル。小刻みなフットワークに合わせて、揺れる揺れる。光の盾で拳を包み、一瞬で叩き込む。
    「ふ、やるな。でも私だって負けないぞ」
     不敵に笑い、胸を張るクレミ。『負けないぞ』の言葉が全く違う意味に聞こえた者もいたとかいなかったとか。戦闘の白熱ぶりを感じ取ったかのように、高い波が岩場にぶつかっては消える。

    ●奮戦
     戦力は互角。文字通り一進一退の攻防が続く。
    「はぁっ!」
     何度目だろうか。残像が生まれ、クレミの姿がピントがずれたようにぶれる。攻撃と防御を兼ねた技は彼女の十八番だった。
    「うぅ、水着を切り裂いちゃったらごめんなさい!」
     頬を赤らめた唯水流の光剣が残像ごとクレミを一閃する。残像の一体を消し、残念ながら、もとい、幸いなことに水着を切り裂くことはなかった。
    「なんだ、コレが気になるのか?」
     自らの胸に指をうずめながら、クレミは少し思案顔。やがてドヤ顔でこう言った。
    「なら、私に勝てれば触ってもいいぞ。ほら、これで戦闘に集中できるだろう?」
    「え、ほんと?」
    「マジで!?」
    「お主は淫魔かというかそんなことするくらいなら妾に寄越せっ!!」
     思わず反応してしまった者が数名。それが誰であるかは分からなかったけれど。
    「ふざけんな、テメェそれでもアンブレイカブルか!」
     月光のような青白い光が皐月の拳を覆う。怒りを込め、機関銃のような連打を繰り出す。一部は残像に受け止められるが、大きな胸、ではなくおおむねの打撃は命中した。
    「うう。今、もげるかと思うくらい痛かったんだが」
    「それは自業自得だと思います」
     我関せずと涼しい顔のロザリア。緩やかに槍を振るうと、穂先に氷のつぶてが出来上がる。突きの要領で放てば、氷弾は一気に加速してアンブレイカブルの柔肌を貫いた。赤い血が岩場に滴る。動きが止まった隙に、春仁がクレミに肉薄。
    「あー、なんつうか悪ぃね。下心はねぇよ? ホントだよ?」
     果たしてその言葉は真実かどうか。斬撃の狙いはどこか胸のあたりだったようにも見えた。ともあれ、腕を切りつけ、防御力を下げることに成功する。
    「クレミさん、考え直してくれないかな」
    「ダークネスと灼滅者は……人間は別の生き物だよ。関係を結んでも、いい結果になるとは思えないな」
     通の腕が鬼のそれへと変化する。彼の問いに答える代わりに、クレミは避けずに受け止めた。今まで楽しげだった声は、そのときだけはどこか重い。
    「だが、いや、だから! 今は全力で相手しよう!」
     高く跳び上がり、頭上から拳を振り下ろす。直撃した理央は大きく弾き飛ばされるが、海に落ちる直前でなんとか着地した。
    「大丈夫ですの?」
    「うん、ありがとう」
     可憐な指先から淡い光が放たれ、理央の傷を癒やす。残像を消すこともそうだが、回復も楓の重要な役目だ。戦闘開始から約二十分。お互いに損傷は大きく、戦局も終盤へと進んでいた。

    ●B91いう女
     戦況の膠着を破ったのはロザリアの一撃だった。
    「これはいかがデスカ?」
     小さく笑みを浮かべ、槍の穂先から風の刃が撃ち出す。刃はクレミの体幹を捉え、その体力を著しく削った。さすがのアンブレイカブルも膝を突いた。さらに理央が踏み込む。
    「キミに恨みはないけどっ」
    「く、はっ」
     その勢いはさながらロケット。ほとんど目に負えない速度で振り抜かれた拳がクレミを吹き飛ばす。クレミはいつかのように大の字に横たわった。
    「決着はつきましたわね」
     ひどく真面目な表情で、楓が口を開いた。仲間達もその意味にすぐ気付いた。事前の打ち合わせで、可能なら灼滅せずに撃退するという話があった。
    「そのデカチチを妾に献上するなら命は見逃してやろう」
    「いや、そういう話ではなかったような……」
    「俺達はご当地怪人の基地に借りがあってな。強くなりてぇんだよ」
     春仁が言うのはグリュック王国のことだろうか。唯水流が言葉を継ぐ。
    「私達は弱いままではいられない。純粋に強さを追い求めること、そこにアンブレイカブルも灼滅者も大差ないと思います。だからっ」
    「ははっ、くどいな君達は。それにね」
     クレミは苦笑して空を見上げた。北の空は。
    「私は以前、もう負けないと言った。でも負けた。恥の上塗りはもうしないと決めていたんだよ。だから、殺してくれ」
    「クレミさん……」
     やっとのことでクレミは上体を持ち上げる。視線の先には通がいた。その表情は顔を伏せているため分からない。静かに皐月が一歩踏み出す。
    「いいのか。私は手加減しねぇぞ」
    「ああ。ありがとう」
     クレミは笑って、皐月の拳を受け入れた。激闘を繰り広げたアンブレイカブルにしてはあっけない終わり方だった。脱力した体は頼りなく海に沈んでいく。いくら待っても彼女の体が浮き上がることはなかった。
    「妙なアンブレイカブルでしたね」
     ロザリアの呟きに仲間も頷く。彼女にとって彼らは、敬意すら抱くほどの純粋なる強者。その中にあってクレミがどんな存在であったかは彼女自身にしか分からない。
    「確かに。なんか疲れる相手だったかな」
     戦闘が終わったことで、皐月の口調も大人しいものへと戻っていた。視線は海の方へ走るが、それも一瞬。来た道へ戻る。
    「ふぅ、ボクは別の意味でも疲れたよ」
     肩の力を抜き、溜め息をつく理央。アンブレイカブルとの戦いの影で別の戦いがあったのも事実であった。理央はある意味その被害者だった。
    「あのデカチチ、めちゃくちゃにしてやったものを」
     と、悔しげに呻くのは読魅である。
    「わ、わたくしもあのくらいの年齢になったらああなるのでしょうか…………今、皆さん顔背けましたわね、ね?」
    「いや、違うんだよ、大きさが全てじゃないってことさ」
    「そうですよ、じゃなくて、それセクハラじゃないですか」
     楓に答える春仁の言葉に頷きかけるが、なんとか正気を取り戻す唯水流。やっぱり男の子ということか。
    「クレミさん、さようなら……」
     去り際に残した通の一言は潮風に飲まれ、誰の耳に届くこともなく。けれど海に沈んだ彼女にはしっかりと届いているような気がした。

    作者:灰紫黄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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