intersecting times

    作者:那珂川未来

     五棟の団地は寂れ、廃れ、割れた窓ガラスから風になびく擦り切れたレースのカーテンが、まるで白い手を伸ばして手招きしているみたいに錯覚する。
     この団地に大学生が9人、探索にやってきたらしい。何年も放置されている場所となれば、それなりのいわくはつきものであるし、スリルを味わうという意味ではうってつけなのかもしれない。
     二つの班に分かれて一棟ずつ探索へ。
     第一棟を巡る男女5人が、一階ずつ周り四階へのとある一室へと入りこんだ時、窓があるはずの場所に、真っ暗な闇が渦巻いているのが見えて。
     そこへ、人の形をしているのに明らかに人でないものが、人であったものを担いで消えてゆく瞬間だった。
    『ここ、条件いい場所だったんだけどなぁ……』
     そう言って振り向いた少年の顔の半分に、肉がない。
     左の眼窩は闇を浮かべ、右手は骨だけだった。
     どう見ても、ゾンビだった。
     悲鳴が上がると同時に、次々と傾いた床の上を仲良く転がってゆく輪切りの肉片。
    『……あ、失敗した! もうちょっと綺麗に始末するんだった!』
     こいつらも眷族の素材にできたのにと、フェイは声を上げるも。隣の棟で煌めく人口の明り。口元が歪む。
    『君たちはそれを運んどいて。僕はアレを始末してくるから……運び終わったら、またここに取りに来い』
     配下に言いつけて、フェイは枠しか残っていない窓から、軽やかに大地へと飛びおりた。
     
    「ノーライフキングの眷族が現れたんだよね」
     仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)の話によると、場所はとある地方都市の廃屋団地。中心部からかなり離れた場所にある。
    「眷族のアンデットの名前は、フェイ。そこらの量産ゾンビとは格が違うんだ」
     この眷族の主であるノーライフキングが、それなりの規模の力を持っているのは、このフェイという眷族がそこらのゾンビとは比べ物にはならない強化眷族だからだ。そういった眷族を所有できる能力がある、ということになる。
     このフェイは、とある地方都市で、主の為に儀式用の人間を集めているらしい。
     そこへ運悪く探索に来た大学生を殺し、更なる素体とされる予測が出た。
    「残念ながら、9人いるうちの第一棟にいた5人の命はどう頑張っても救えなくて……」
     せめて残る大学生4人の命だけでも助けてあげたいと。
    「残りの大学生は、第二棟にいる。第一棟の北側にあるのが第二棟で、外壁に記されているから、間違うことはないと思う。バベルの鎖を掻い潜れば、フェイが第二棟の入り口へと向かってゆくその時に接触できる」
     建物の構造としては、建物の真ん中に共用玄関があり、正面に二階へと続く階段室。左右に廊下が伸び、玄関が三つずつの計六件。それが四階分ある。
     残りの命を助けるため、到着次第公用玄関の前にある自転車置き場に隠れればいいとのこと。風除けフェンスもある為、夜であるということも相まって、見つかる心配はない。
    「皆は、フェイが玄関に侵入する瞬間、奇襲をかけてほしい」
     状態的に、背中から狙い撃ち、つまり先制攻撃ができる。
    「けれど初撃を与えて喜んでもいられない。問題はここから。大学生を人質にして逃げ出したりすることを考えるだろう」
     そのため、誰かが奇襲攻撃には参加せずに、初撃でよろめいているすきを付いて建物に侵入し、大学生を建物から避難させなければならない。もちろん前もって避難させれば鎖に引っかかりアウト。幸い住宅の全てのベランダには、災害用の避難ハッチがあり、フェイに接触することなく地上へと降りることができるのでその後上手く逃がせばいい。その間、フェイを留めるため、取り囲むなどの攻撃班の作戦の工夫も必要。
     救助に入る人数や使うESPによって、多少避難速度に関係してくるので、その辺の相談は必須だろう。フェイは、野良イフリート程度の力は持ち合わせているので、戻りが速いかどうかで、戦闘班の負担も違ってくるはずだ。
    「救助班が大学生に接触できるのは、二階と三階の間にある踊り場」
     わき目もふらず向かえば、一分で接触できる。その後、どういった方法で説得し、何階の、そして何処の避難ハッチから脱出させ、逃がすか――。
    「たぶん、一人でそれを行い、彼らを脱出させるのだとしたら、上手くいって合流まで九分くらいかかるんじゃないかな?」
     人が増えれば手分けするなどして短縮できるだろうが、それでもハッチから脱出させるには最大限頑張っても、戻る時間含め七分は掛かると思ってほしい。だが別のいい方法を思いついたのなら、試してみる価値はある。もっと短縮できるかもしれない。
    「その間凌げれば、上手くいけば灼滅できるかもしれない。とはいえ、時間がかかり過ぎると、下っ端眷族が五体、戻ってきてしまう」
     相手は強敵できないにしろ、疲弊しているときに五体の援軍は正直きついものとなる。その前にフェイを灼滅か撤退させれば、ノーライフキングはしばらく警戒して、その動き自体を防げるかもしれない。
     役割をできる限り最善でこなさなければならない依頼。
     沙汰はその作戦の成功を祈りながら、灼滅者たちを送り出す。


    参加者
    藤谷・徹也(高校生殺人機械・d01892)
    九音・律(ただの可愛らしい天使・d07781)
    刻漣・紡(宵虚・d08568)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    志藤・遥斗(図書館の住人・d12651)
    三条院・榛(兎角毒もない花の毒に当てられ・d14583)
    安藤・小夏(あざといは個性・d16456)
    黄瀬川・花月(錆びた月のベルンシュタイン・d17992)

    ■リプレイ

    ●奇襲
     星明かりが細く降ってくる闇の中。自転車小屋の中に溜まる闇に身を潜め、刻漣・紡(宵虚・d08568)は胸の十字架を握りしめ、どうしても救いきれなかった命へ、償いとも言うべき黙祷を捧げて。
    (「全てを救うことが出来ない、もどかしいわね、ほんと」)
     力あろうとも、差し出す手の平で全てを受け止めきれない悔しさを、ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)そっと胸の内に燻らせる。けれど最善を尽くすというチャンスがあるならば、全力で事に当たるだけだ。
     そして現れた化け物は、格好の得物を見つけて、音もなく闇の中を滑ってゆく。
     主の為。迷宮の周りにうろつく不要物の排除と、死体確保の両方を得るために動いている。
    (「何としても、残りの人だけは助けないと……」)
     フェイの動きをしかと目で追いながらそのタイミングを計りつつ、志藤・遥斗(図書館の住人・d12651)はArgentumを手に。
     連絡手段や光源の確保、そして戦闘における作戦に関して、事前に語弊なく詰めた。後は、相手の目的について知ることができればもうけものだよねと、九音・律(ただの可愛らしい天使・d07781)は尋問内容を頭の中で反芻して。
     そしてフェイが、第二棟の共用玄関へと辿り着いた。遥斗の手に力も籠る。紡はそっと十字架から手を離し、契約の指輪をはめた指先をその背へ翳すように。
    「悪いけど、これ以上先には行かせないわよ」
     その背中が綺麗にこちらへと向いた瞬間――ヴィントミューレの石化の呪いがフェイの背を穿った。
     フェイは何が起こったか瞬間的に理解する。
     膨れ上がる殺気の刃に振り落ちる裁きの光。どうあがいてもかわしきれず。ただ只管倒れるまいとするその足を、シールドバッシュですくうように薙ぐ安藤・小夏(あざといは個性・d16456)。
    「バーミー任せたー」
     笑顔で後ろにぶっ倒れようとしてる相手をこっちへ投げろとかなんちゅうムチャ振りやと思いつつも、かわしきれない状況であることには変わりなく。三条院・榛(兎角毒もない花の毒に当てられ・d14583)は襟首掴み上げると、仲間の囲いの中、地面へ叩きつける。
     攻撃班の一撃が全てフェイの背中を突き、その侵入を防ぐことに成功する。もちろんダメージも軽いものではないだろう。初撃のサイキックで、フェイにある程度の縛りを課せられたのも大きい。
     ただ、ヴィントミューレが救出班の存在を隠そうと試みるも、フェイの進行方向であった建物へと向かってゆく二つの影を隠すことはできなかった。律の鏖殺領域も、あくまでジャマー効果を高めるためのもので、目くらまし効果とはなりえず。
    『この……!』
     さすがにいちダークネスと同等の力がある眷族ともなると、受け身とってからの立ち直りも早い。
    『ああ、もう! 油断大敵ってヤツ身をもって知ったよ』
     取り囲まれ、一般人への最短距離を厚く塞がれて。人質に利用できないだろうことは容易に理解できる状況。フェイは自身に腹を立てているものの、それでも余裕めいた態度を取るのは、ある程度は勝てる自信があるのかもしれない。
    「サティスファクションの安藤小夏! 行くよ!」
     事実六人じゃ苦戦であることは薄明だから。出来る限り隊列を維持するため、小夏はワイドガードを発現させて、霊犬ヨシダをけしかける。
    『名乗りくらいはしてやるよ。僕の名はフェイ。砕けろ駄犬!』
     ヨシダの一撃に血を飛ばしながらも狙いつけ、フェイは指先よりアンチサイキックレイを打ち放つ。
     夜霧を周囲に満たす律に続き、紡の影が、淡い藍の輝きを伴いながら、フェイを捕縛しようと広がる。
     先程の奇襲の影響か、冷静に攻撃を見極めようとしているフェイ。ギリギリでかわされて。
     抑えるには、やはり八人いなければ難しい。
     救出班、戦闘班共に、ここからが勝負。

    ●誘導
     呑気に階段を下りてくる彼等とかちあったのは、解析通り二階と三階の間にある踊り場。
     大学生は、見知らぬ少年少女に一瞬驚いた顔を見せたものの、何やら同志でも見つけたかのような軽い口調で寄ってきて。
     好意的なのはいいのだが、大学生の和やかな会話に付き合っている余裕も、悠長に説明などしている暇はない。少しでも時間を短縮するため、藤谷・徹也(高校生殺人機械・d01892)は、王者の風を纏いながら、端的に命令を下す。
    「この場より避難する。指示に従え」
     あからさまに委縮し、大学生は一斉に頷いた。なんでどうしてという疑問も口だす勇気もないほどに。
    「貴方たちの保護が俺の任務だ。生命は保障する」
    「避難経路はこっちですから。ついて来て下さい!」
     黄瀬川・花月(錆びた月のベルンシュタイン・d17992)はすぐに二人の女性の手を引いて、二階で一番近場の部屋の扉を蹴破った。とにかく、全ての行動に最短を求めて。玄関からリビング、そしてベランダへ。此処まで二分半。
     順調にここまで辿り着いたものの、予定していた避難方法では無理があることに気付いたのは、避難ハッチというものの構造の問題である。
     避難ハッチは、ひと一人が垂直にはしごを下りて脱出するものなので、人を抱えて飛び降りることは不可能。落とす時も垂直に落とさねばならず、相手との身長差で受け止める難易度は高くなる。
     徹也と花月は頭をフル回転させた。
     抱えて飛び降りるなら、ベランダから直接地面へ降りた方が早いか。
     二階の高さならば3m程度だろうか。灼滅者にはバベルの鎖があるから、飛び降りたところでダメージはないに等しい。一般人は動くに支障はない程度の怪我はあるかもしれないが、地面は手つかずのため当然草だらけ。エアライドがなくてもなんとか降りられそうではある。
     一人一人ハッチを降りてもらわず、放り投げて時間短縮する作戦でいくならば、ベランダから水平に人を落とし受けてもらう方が早いかもしれない――と現場で機転を利かせて。
    (「やるしか、ない……出来なきゃ、私は完全に――」)
     己を着実に蝕んでいる闇に飲まれる――そんな絶望をここで見るわけにはいかないから。花月は決意新たに女性を一人抱え上げると、ベランダの淵へと足を掛けた。
     女性が何か言いたげに口をパクパクしているが、付き合っている場合ではない。
    「不安? 悪かったですね」
     悲鳴と共に、大地へと降りる花月。そして徹也は無言で淡々と大学生を抱えては下へ落とすという作業をこなして。
     普通にハッチを降り、ベランダをまたがせるよりは、いくらか早く大学生を地上へと下ろしきる。
     合図を送れば、程なくして現場を覆う殺界形成の波動。
     現場を離れ出す大学生を確認するなり翻し、徹也は階段を利用し、花月はベランダの柵を乗り越えながら光刃を解き放ち、窓ガラスを突き破って。
    「本当に、なりふり構ってられない作戦だな……!」
     最短ルートを選ぶなら、回りこむより突きぬけろ。時計を確認する間も惜しいほど、戦闘班にかかっている負担は計り知れないだろうから。

    ●時間交差
     幾つもの火柱が、前衛陣の間に吹き上がる。
     今まで必死に小夏達を攻撃から守っていたヨシダが、ついに消滅を免れず。
     八人フル参戦で勝てる相手。メディックの律は勿論のこと、それを見越していた小夏も回復の一手だ。
     戦闘が始まって六分、その時ようやく救出班からの合図。
     フェイに質問を投げるタイミングは特に決めてはいなかったが、1~2分後に救出班の合流が確定している今からならば問題ないだろうと判断し、遥斗は殺界形成にて、更なる一般人の安全圏への追い出しを徹底させて。
    「ノーライフキングの迷宮の入り口の場所はどこに有るんだ?」
    『さぁ? あっちとか……もしかしたらあの辺にあるかもね?』
     ふわりとアンチサイキックレイをかわしながら、西側にある県道を指差し、次いで空を指したりと、いい加減な事を言うフェイ。
     いやしかし、確かに解析で出ている辺りが唯の入口、というわけではない可能性もある。そもそも物理的に組み上がっている迷宮ではないうえ、魔法的な何かで現実と結んでいるのだから。しかも今回のノーライフキングは、それなりの実力を持つ者だと予測できるとエクスブレインが言っていたことからも、その構造は、春に赴いた水晶城に居た成長途中のノーライフキングが組み上げた初期型の迷宮より、強固で複雑だろう。
    「どうしてこんな一般人のお肉を集めるだけの簡単なお仕事してるの。これって重要なの?」
    『君たちに説明したところで、理解できるとは思えないけど? ――ちっ、余計なの戻ってきたし!』
     律への返答間際、したたかに抗雷撃を打ってきた徹也を忌々しげに睨みつけながら、花月の放つ光刃を潰すように、拭き上がる火柱が駆け抜ける。
     次いで撃ち放つ、徹也のティアーズリッパーがフェイの胸元に朱を浮かす。
    「何のために、儀式を行っているの?」
    『必要だからに決まってるじゃない』
     イフリートの源泉の儀式にまつわるものはないか、紡は何かを零すことを期待するものの、フェイは呆れたようにそう言うだけでとどまる。
     ならばかまをかける必要があるかなと、律は少し踏み込んだ質問をして勝負に出る。
    「ねぇ、キミって強いけど、イフリートの源泉襲撃の方に行かなくてよかったの?」
     律と、その儀式は源泉襲撃と関係するのかと問う紡の言葉に、フェイが眉を寄せた。
     それは、探る様な目つきだった。
    「僕、キミは白の王の眷属かなって思って来たんだけど……。買いかぶりすぎだったみたい?」
     当ては外れちゃった?
     そんな顔をして、律はフェイを煽って何か口を滑らせるのを狙う。
     核心に迫り過ぎたかまかけは、逆にこちらの情報を提示する危険もあるが。
    『ふーん……色々知ってんだねぇ、君たちは……』
     フェイは嘲笑とも怒りとも取れない歪な表情を浮かべた。
    『遠まわしに僕の主のことを愚弄しないでくれる……?』
     この程度の眷族しか持っていないノーライフキングは、程度の知れたダークネスだと言われた。そうフェイは解釈し、律を明確な敵意を以て狙ってきた。
     アンチサイキックレイが纏う守護を一気に砕く。
    「キミの相手はあたしだよ!」
     小夏が滑る様にフェイの側面を捉え、そして渾身の力でシールドバッシュを打ち込んだ。
    『邪魔すんなよ!』
     怒りに引きずられ、フェイは小夏へと円環を解き放つ。
    「っ……!」
     小夏は激痛に目を剥いて。前線で体を張り続けたダメージも溜まっていたせいもあり、脇腹を綺麗に突きぬけていった円環の一撃に、両手をついて。
    『お前は這いつくばれ!』
     牽制しようと、律の漆黒の斬撃が腐りかけた肉片を刎ね飛ばすも、空洞の眼窩より放たれた力は的確に律の胸を穿った。
     詰まるような声を上げ、律は背中から地面に落ちてゆく。
     そして、空いた隊列の隙を突いて、フェイは逃走を図る。主にこの状況を伝えることが最善と判断したからだ。
    『他の派閥の厄介事に巻き込まれて、主を危険な目に晒すわけにはいかないんだよ!』
     灼滅者自身がノーライフキングの儀式を阻止するため、イフリートと共闘していると匂わせたのだから、イフリートの増援の可能性を考えたとしても不思議ではない。
    「逃がさん」
     常に逃走の危険を意識していた榛と紡は素早く反応。少なくても榛には、六六六人衆の様にダークネスの中でも特に逃走術に長けた奴ならまだしも、強化眷族などをまんまと逃がすわけにはいかないという、意地があった。
    『このぉっ!』
     逃走阻止の連携攻撃に道を阻まれ、苛立ったように声をあげるフェイ。
    「フェイ、あなたが行いが正しいかどうか、この裁きの光を受けるといいわ」
     立ちあがる余裕すら与えぬよう、ヴィントミューレの放つ裁きの光がフェイを真上から穿った。彼女自身が放った石化の呪いが、裁きの光に呼応したかのように、フェイの体に一時的な硬直をもたらす。
    「良し、このまま一気にたたみかけますよ!」
     このチャンスをものにしましょうと、遥斗が声をあげて。
     足を軸にして遠心力を味方にして、華奢な体ながらも、紡の勢いの付けたシールドバッシュに、フェイは踏みとどまることもできない。更に追撃を加える花月の光刃、徹也の抗雷撃が綺麗に顎を跳ねあげて。
     その、跳ねあがったフェイを、榛はしかと捕まえる。
    「祈りはすんだか?」
     榛が顔面を鷲掴みして、大地へと向けて加速を付けるように空を蹴って、
    「貴様はこれで、おしまいだ!」
     掴んだ頭を、高度から加速をつけて地面へと叩きつけた。
     ぐしゃりと潰れる後頭部から、何か赤黒いものがドロドロと流れだしたけれど、その身は幾許も持たず、本当にあっけないほどに全てが灰化してゆき、暗く湿った大気の中に溶け込んでゆく。


    ●闇
     危げなく、フェイの指示通りに戻ってきたゾンビたち四体を灼滅する。そして予定通り、わざと撤退した様に見せかけて、すぐに闇の中へと身を隠し、残されたゾンビを追尾するべく息を潜める。
     ゾンビも灼滅者達を追う様な事はせず、あの腐敗した足でも危げなく走り出すと、何を思ったか団地横の雑木林の中へと。
    「え?」
    「第一棟とは違う方向……?」
     完全なる予想外の動きに、遥斗と紡は驚きを隠せず。
    「そう命令されているのだろう」
     徹也は独り言のように呟いた。
     撹乱の為、逆の方向に行けと指示されていたのか。もしかしたら、別の入口が、そちらの方向にあるかもしれないが。
     咄嗟に後を追うが、土地勘のない場所で闇に紛れ走り去るゾンビを追うのは難しい。
     結局追尾は諦めるしかなく、第一棟の四階をくまなく探ったものの、解析で聞いた迷宮の入口は、普段は閉じられているのだろう。発見する事叶わず。
     人間とて開口部には窓や扉を設け、虫などの侵入を防いでいるように、迷宮とて不要な侵入者を阻むための扉を設けて、防いでいるのだ。やはり今時点で簡単に見つけることは出来ない。
     断末魔の瞳を使ってこの辺りの調査も行ったが、ダークネスに関する有益になる様な情報は何一つなかった。
     迷宮の入口を見つけることはできず、探索しても意味がないと明言されているため、仕方ないのかもしれないが、やはり何か少しでも手掛かりが欲しい気持は、折角現場に赴いたならば当然の心理なのだろう。
     しかし――ゾンビを一体逃がす結果が今後に大きく響く様な影響はないと思われるが、意味があったのかと言えば疑問が残る結果としなってしまった。ゾンビは見聞きしたことをそのまま伝え、邪魔をしたのが別のダークネス組織などではなく、灼滅者であったという事実は間違いなく伝わっただろう。
     ともあれ、しばらくは件のノーライフキングが、己が手駒の損失に警戒し、積極的に事件を起こしはしないだろうがことが、今回の一番の収穫かもしれない。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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