あなたがいなければ

    作者:高遠しゅん

     親同士が親友で、二人は赤ん坊の頃から兄妹のように育った。
     家が隣でよく一緒に遊んだ。学校も一緒で、不思議とクラスもずっと同じ。さすがに高校入学でもクラスが同じになるなんて、偶然にも程があるって笑ったね。
     一緒に行った京都旅行、楽しかった。
     私は舞妓さんの衣装で一緒に歩いた。写真を撮られる度、拗ねてたよね。
    『お前を別の奴に撮られるなんて嫌だ』って、子供みたいって私は笑ったけれど、本気だった。
     初めてのキスは高校1年の春。桜の木の下。
     高校最初の夏休みはずっとアルバイト。『指輪を買う』って。
     わたしと一生一緒にいる約束の指輪を買うって。
     卒業したら一緒に住もう、結婚しようって言ってくれた。
     なのに。部活の帰り道、彼は死んでしまった。
     原因不明の突然死だって、たまにある事だって説明されても、信じない。
     あなたがいなくなって、私はどう生きていけばいいの。
     ──ああ、そうね、こうすればよかったの。私にはその力があるのだから。


    「酷暑もそろそろ終わりだといいが」
      櫻杜・伊月(高校生エクスブレイン・dn0050)は、びっしり雫の付いたペットボトルの茶を口にする。几帳面にハンカチで拭いて、机に戻した。
    「この暑さの中、閉じこもっている娘が一人、予測された。まだ人間の心を残してはいるが、時間の問題だ。君たちには彼女の処遇を決めてもらいたい」
     即ち、灼滅か、救出か。
     放置したなら、娘は完全に闇に堕ちダークネスとなる。ノーライフキング、強力なダークネスだ。
    「素質があるかどうかは、この時点では見えてこない。君たちの態度次第で、おそらく、どうとでもなるのだろう」
     伊月は感情の見えぬ瞳を一巡させた。
    「生きたいと思っていない命を、君たちはどう扱う?」

     名前は『結城・むつみ(ゆうき・─)』高校生の娘。比較的大人しい方だが、打ち解けた友人は少なくなく、男子にもそれなりに人気は高い。
     人気は高いが、彼女には幼なじみの婚約者がいた。
    「婚約と思っていたのは、当人だけの約束だ。他は誰も知らない」
     一般的なサラリーマン家庭に生まれ育ち、特に不自由もなく今までの十数年を生きてきた。幼なじみの彼と、ずっと一緒に。兄妹と間違われることもあったそうだ。
    「共に、お互いの半身のような存在だった。彼──『篠原・悟(しのはら・さとる)』のなきがらを、眷属として側に置いている」
     二人、密かに廃屋の隅でうずくまっている。
    「彼女にはこう見える。『両親が悲しんでいる』『悟はもう死んだ』『悟は君に幸せになれと願っているはずだ』、知った口を利く見知らぬ相手が、大勢で心を土足で踏み荒らし、悟を殺して自分を連れて行こうとする」
     助けたいならば、それ相応の言葉を探さなければならない。
     
    「言葉は凶器にもなり得る両刃の剣。彼女の絶望は深く、どんな言葉が真の心に届くのか、私には見えなかった。灼滅を望んでいるのかもしれないな」
     君たちに全て任せることになって済まない、と。
     伊月は手帳を閉じ、地図を置いてその場を去った。


    参加者
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    ターシア・ディーバス(恐怖を歌う小鳥・d01479)
    織凪・柚姫(甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913)
    ディーン・ブラフォード(バッドムーン・d03180)
    村瀬・一樹(虚光誓紳ノ鏡・d04275)
    如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)
    ジャック・サリエル(死神神父・d14916)
    久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)

    ■リプレイ

    ●あなたがいなくては
     ひら、ひら、ひらり。
     割れた窓から一枚の紙が風に乗り、埃の積もった床に舞い落ちた。
    「こんにちは」
     少女がひとり、玄関からそっと声をかける。
    「こんにちは。入りますね」
     胸に楽譜を抱いた少女、久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)は、そこにあるものを見て立ち止まった。
     杏子に続いて足を踏み入れたのは、仙道・司(オウルバロン・d00813)。
     大きな窓には朽ちたカーテン。窓の外には背丈ほどの雑草が茂るなかに、野生化した薔薇が、色あせた赤い花を付けている。
     こんな廃屋も、かつては幸せな人たちの住む、幸せな家だったのだ。
    「こんな所で……どうしたんですか」
     司の問いかけは、問いにならなかった。
     驚かせないよう、脅かさないよう。『彼女』の話を、心の中を聞くために。接触はごく柔らかく、自然になるよう考えた。
    「何かあったの」
     万一にも人が訪れないように、殺意の結界を展開した如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)と、そのビハインド・千秋が入ってくる。春香もまた、言葉を切った。
     静かすぎる部屋。
     部屋の隅に並んで座っているのは、聞いていた年齢より幼く見える娘と、半ば色の変わった肌をした、学生服の青年の骸。
     肩を寄せ合い、手をつなぎ。少女のもつ水晶でできた鳥の翼が、ふたりを守るように包み込んでいた。ちりり、ちりり、と、微かな音がする。固いものがふれあう、澄んだ音。
     少女の肌は、人間の色をしているにもかかわらず、硝子のように光を弾いている。精巧な人形のようだと思った。翼はまるで卵の殻。脆い二人を包み守っている。
     怯えているだろう、震えているだろう、恐れているだろう。そして深く悲しみ嘆いているだろう。そう思っていた。
     怯えていない。震えてもいない。悲しみも嘆きも、二人の上には存在しなかった。
    「むつみさん……笑ってるの」
     ターシア・ディーバス(恐怖を歌う小鳥・d01479)が、微かに呟いた。
     ノーライフキングの力を持つ娘、結城・むつみ。その半身、眷属にしてアンデッド、篠原・悟。
     ふたりは、全ての制約や束縛から解放されたふたりは。
     この上もなく幸せそうに微笑んで、眠るように目を閉じているのだ。
    (「私がもし、大切なひとを急に亡くしてしまったら」)
     織凪・柚姫(甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913)は、ビハインドの翡晃の背を見上げ、大切な人々の顔を思い出して、小さく震えた。きっと、想像もつかない程の絶望と恐怖に押し潰されてしまう。
    『君は今、悟君と一緒にいて、幸せかい?』
     そう訊こうと思っていた村瀬・一樹(虚光誓紳ノ鏡・d04275)。訊くまでもなかった。二人は、たとえもう一人が既に命を失っているとしても、一緒にいて幸せなのだ。
    『迷イガアルナラ、聞カセテモラエマセンカ?』
     迷いなどあるはずもないのだ。ジャック・サリエル(死神神父・d14916)は仮面の下で瞠目した。命を落とした愛しい人と、共にいられる力があるのだから、使うことに迷いなどなかっただろう。
    「夢はいつか覚めるものだ」
     ディーン・ブラフォード(バッドムーン・d03180)は目を細めて言う。説得力を増すためと思い、大人に近い姿に変わっている。普段より若干低い声で、ディーンはきっぱりと言う。
     片手を伸ばしかざせば、てのひらの中に真紅の逆十字が浮かび上がる。
    「ちょっと手荒いモーニングコールといこう」
     ギルティクロス。集まるオーラが膨れあがり水晶の卵に激突する瞬間、光の十字が形を成し──真紅の十字は弾け飛んだ。
     光の明滅、そして。
    「……だれ」
     今までの微笑みはどこへ行ったのか。色素を失った銀色の瞳が、灼滅者たちを見つめていた。

    ●あなたがいないと
    「なにをしに、きたの」
     色の薄いむつみの唇が、かすかな声を紡ぎ出す。感情も感傷もない、硬質な、ただの言葉の羅列のようだ。
    「お話しにきたの。むつみさんと、悟さんの」
    「はなすことなんて、なにもない」
    「あの……あのね、私たちがお話したいの。そのために来たの。驚かせちゃったら」
     ごめんなさい、と杏子は言うが。むつみの瞳には何の感情も浮かんでいない。喜びも、悲しみも。ただ機械的に目覚め、言葉を発しているだけの絡繰り人形に見える。
    「でていって」
     そして拒絶。まぶたが重たげにおりていく。
    「待って」
     やはり訊こうと思った。一樹は声を上げる。
    「ここじゃあ悟君とまた素敵な思い出を作る事も、何もできない。それでも君は、悟君と一緒にいて、幸せかい?」
    「しあわせ。いっしょだから」
     そっと手を握りなおす。人間同士であれば、微笑ましく思える光景。だが、片方は屍人、片方は人でないモノに変わっていこうとする娘。
    「ここ、に……留まって、いたら……悪い方に、いっちゃう、の……」
     ターシアが、途切れ途切れに言葉を繋ぐ。
    「……思い出も、何もかも……なくなっちゃう、から……」
    「なんのはなしか、わからない」
     始めてむつみが何かの感情を揺らがせた。ほんの一瞬、苛立ちのような。
    「むつみサンガ闇ニ堕チレバ、むつみサンノ心モ、悟サンノ心モ、本当の意味デ死ヌコトニナッテシマウデショウ」
     ジャックが継いだ言葉。
     はっきりとむつみは、顔を動かし正面から灼滅者たちを見た。
    「やみ、って、おちる、って、なんのこと」
     このままでは埒があかない。
     むつみと打ち解けようとするにも、そのための言葉を探した者がいなかったのだ。二人は──正確には、むつみは。悟以外の者を必要としていない。故に、誰とも言葉を交わす必要がない。問いかけねば、言葉は引き出せない。
     口を出すつもりがなかった春香が動いた。滑るように寄り添うのは、ビハインドの千秋。
    「尋ねたいことがあるの。とても大事な質問だからできれば答えて。……彼の死因って何?」
    「……さとる」
    「そう。原因不明っていっても色々あるでしょう。何が死因だったの」
    「しんでない。ここにいる」
    「死んだのよ。心臓の音は聞こえる? 肌の色も違うでしょう? 認めなさい」
     きしり、と水晶の翼でできた卵が軋んだ。震えている。
    「しんで、ない。いきてる。ここに、いる」
    「ずっと一緒の時を過ごしてきた大切な方と、急に離れ離れにされそうで」
     怖かったのですね。柚姫が訴える。
     そんなときに、自分の力に気付いてしまった。そうして、二人でここに来た。誰にも見つからない場所を探して。ずっとふたりきりでいられるところを探して。
    「一緒に悩み考え、答えを探すことのお手伝いを、私達にもさせていただけませんか?」
     ふるふると、むつみの頭が横に振られた。悟の、屍の腕が肩を抱く。
    「ここにいるの。さとると、ふたりでいるの。どうして、だめなの」
    「今の悟さんは、歪な生を生きる者になっています」
     司が前に出てきた。屈んで翼の卵を覗き込むように、二人を見比べる。
    「それは貴方も同じ。その力は人でない者になる事で得られるものです」
    「……わたし、ひとじゃ……ないの?」
     翼がぎしりと軋んだ。水晶の欠片がぱらぱらと降りそそぐ。同じ光沢をした、むつみの肌が更に透明感を増した気がした。
    「お前の人生だ。お前の好きな様に生きろ」
     ディーンが言う。
    「聞くが、お前達はこれからどうするつもりなんだ? これからの未来への展望を教えてほしい」
    「さきのことなんて……かんがえられない」
    「道を選ぶのはお前だ。結城・むつみ」
     悟の腕の中、しがみつくように。むつみは顔を伏せた。濃い茶色の髪がさらさらとこぼれ落ち、横顔を隠す。
    「……みち、えらぶ、わからない。わたしは……ひとじゃない。さとる……しんでない。死んでない。死んでなんかいない」
     聞いた話を、唇の中だけで呟くむつみ。
     闇。
     堕ちる。
     歪んだ生。
     ──もう、人ではない、私。
    「わかった」
     翼が大きく広がった。ふわりと浮くようにして立ち上がる、むつみ。
    「あなたたちは、悟を殺しに来たんでしょう」
     両手は既に水晶と化している。足元も、また。
     水晶玉をはめ込んだような銀色の瞳が、憎しみに揺れた。
    「悟は私が守る。邪魔は、させない!」

    ●あなたがいるかぎり
     むつみの手の中で光の十字が膨れあがった。プリズムのような光沢の十字が実体化し、辺りをめちゃくちゃな光で薙ぎ払う。
    「違います、話を聞いてください、結城ちゃん!」
     埃と木片が飛ぶ中で、ビハインドの翡晃に庇われた柚姫が叫ぶ。純白の龍砕斧から開放された力で守りを固めると、真紅の十字を喚んで放った。
    「支えたいんです。一緒に、生きていきたいんです!」
    「私はもう人じゃない。悟も死んでる。だったら、私も死んでるのと同じなんでしょう。どうしてこのまま放っておいてくれないの。私も悟も、あなたたちに何か悪いことをしたの? 何もしてないわ。ここにいただけなのに!」
     茶色の髪の半分が色を失った。銀とも透明とも見える髪と、硬質の肌、水晶の手足に二枚の翼。急速にダークネスへの変化が進んでいる。
    「違います。彼のいない世界でどう生きるのか、考えて欲しいんです」
     司は柚姫と春香、二人のビハインドを示した。
    「生きて、ボクたちと一緒に来てください。そうすれば、悟さんと一緒に生きることができるかも知れません」
    「悟はもう歪んでるんでしょう。私が歪ませたんでしょう。歪んだ悟を、その顔の無いバケモノにするつもりなの!?」
    「ひどい言い方ね。もう温もりを感じ合うことはできないけれど、案外幸せよ」
     三日月を模したギターをかき鳴らし、春香は唇だけで笑む。
     音に突き刺されたかのように、むつみは身をよじり翼を広げた。背後にいる悟を守るためか。悟は命じられているのか、その場から動かない。
    「俺達は道を示し、それに必要な事を全力で行うだけだ」
     だから選べ、悟のいない世界で生きるか、悟と共に死ぬか。
     ディーンは紅翼の銘持つサイキックソードで斬りつけた。水晶の翼の片方が折れて塵になる。むつみが悲鳴を上げた。
    「私は悟のいる世界で生きたいの。ひとりになるのは嫌あっ!」
    「人ハ、苦シミをバネニスルコトガ出来ルモノデス」
     ジャックのデスサイズが、もう片方の翼を斬り落としにかかる。
     むつみが体の方向を変え、背後に守る悟を庇った。背に突き刺さった大鎌に顔を歪めながら、必死に屍の眷属にしがみつく。
    「お願い、おねがい。悟を殺さないで。私は死んでもいい、悟をもう殺さないで!」
    「ほんとうは、ちゃんとわかってるなのね、悟さんのこと」
     杏子は光の十字を喚びだした。
    「いっぱい楽しくて、いつもいるのが当然だったなのね……突然、いなくなるって、信じたくないなのね」
     杏子が思い出すのは数年前のこと。沢山の人が目の前から消えた。恐怖は今でも心の底に残っている。受け入れるまでは、まだ長くかかるだろう。
    「悟さんと、また一緒にいられるかもなの。それは、大切な事なんだって思うなの」
     光の十字が放つ光で、ぱん、と音を立てて、水晶の翼が光の粒となって消え去った。
    「いつかは……区切りを、付けない、と。そうしないと、全部、なくしちゃう……思い出も、気持ちも、全部……」
     ターシアが床を蹴った。眷属にしがみつく娘は、二人で転がるようにして刃を避けた。
    「区切りなんて、付けられない。悟がいなくなるのはいや、悟と一緒に、生きていたいの。一緒に笑ったり泣いたり、ごはんを食べて、学校に行って、時々ケンカしたり」
    「……君は、悟君と共に逝きたいの? 悟君と共に生き続けるの?」
     一樹はかつて共にあったビハインドのことを思い出す。彼女の心は今もこの胸の中にある。姿はもう見えなくとも、共にあることはできるのだ。
     右手で強く己の胸を掴み、左手で夜霧を呼んだ。傷ついた仲間を癒す霧が、周囲を霞がけて見えなくしてゆく。
    「君の願いはちゃんと叶えてあげるから」
     最後に声だけが響く。
     むつみは霧の中、悟と向き合った。
    「悟、私を許してくれる?」
     頬を涙がこぼれ落ちる。床に落ちた涙も水晶の粒となって、固い音を立てた。止まらない涙を拭おうともせず、手を伸ばして悟の髪を撫でた。
     目の前にいるのは紛れもない屍。この姿にしたのは、私だ。焼かれて骨になるなんて嫌だったから、力を使って逃げ出した。二人ならなにも怖くなかった。
     大好きな人に変わりはない。
     そっと抱きしめて、呟いた。
    「いっしょに、いきたいの」
     その意を酌んだ灼滅者が加えた攻撃で、むつみはその場にくずおれた。
     同時に、操り手を失った悟もまた、むつみを庇うように力を失った。

    ●あなたがいなければ
     ダークネスは、人間に害をしかなさない、無益な存在にすらなれない人間の敵。わたしたちはそういった輩と戦っている。
     そうした者たちがいるということは、バベルの鎖が覆い隠し、広く知られることはない。
    「それなら、私はあなたたちの都合で殺されるはずだったのね。やっと理解できた。闇とか堕ちるとか、いきなり言われてわかるわけないわ」
     包み隠さぬ春香の説明に、皮肉で返す。
    「でも、真実は知りたいでしょう?」
    「じゃあ、こっちも真実よ。脳の血管が急に切れたんだって」
     急な話の転換。
    「健康な若い人にも起きることで、本当の原因はわからないってお医者さんが言ってた。だからその……」
    「ダークネス」
    「そう、ダークネスに殺されたとか、そういうのじゃないの」
     杏子がその様子を眺めながら、小さく歌っている。
    「いい歌ね。優しい歌」
    「合唱で歌うお歌なのよ」
     そのまた隅では。時間切れのように、ディーンのエイティーンが解けていた。みるみる低くなる身長に、大きくなる服。
    「なにそれ。ズルしてたの?」
    「狡いとか言うなよ。年下から説教なんて嫌だろ?」
     袖をまくりながらの文句に、それもそうねと頷いた。
    「それで、私はこれからどうすればいいの。家にも帰れないし、ちゃんと責任とってくれるんでしょう」
    「はい。学園には寮もあるし、ビハインドを見て怖がる人もいないから」
     ふわふわと宙に浮かぶ二体のビハインド。顔も見えず足もないのに、もう怖くはない。
    「……さっきはごめんね。バケモノなんて言って」
    「仕方ないよ、初めて見たんだもん」
     柚姫は翡晃を見上げ、微笑んだ。
     むつみは部屋の奥に倒れたままの、悟の屍を振り返る。
    「ちょっと待ってて」
     このままにしておくしかないと言われた。だから、そうする。ここにあるのは、ただのぬけがら。体は朽ちても、悟の心は私の胸の中に生きている。だから。
     むつみは悟の学生服のボタンをひとつ引きちぎると、大切そうに握りしめた。
    「──さよなら。また会おうね」
     そうして、新しい仲間の待つ世界へ、最初の一歩を踏み出した。

    作者:高遠しゅん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 7/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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