●廃墟の暴君
暴君は暴れまわる。
配下と共に絶え間なく、病院跡を破壊し続ける。
いつまで続くのかは分からない。
恐らくは、ネズミの体と砲塔を持つ彼らにも分からない。
分かるのは、仮に誰かが足を踏み入れたなら、殺されてしまうだろうことだけだ。
●夕暮れ時の教室にて
「本当にいるとはな。……まあ、後は頼んだ」
「はい、芥汰さんありがとうございました。それでは早速、説明を初めさせていただきますね」
予想を的中させた塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981)に軽く頭を下げた後、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は灼滅者たちへと向き直る。
「とある郊外の病院跡に、はぐれ眷属・ネズミバルカンの群れが潜んでいることが判明しました」
場所としては街から離れているが、子供でも歩いていける距離。好奇心あふれる子供たちが、いつ入り込んでしまうかもわからない。
放置すれば、惨劇が起きてしまう可能性は高い。早々に排除してしまう必要があるだろう。
葉月は地図を広げ、現場を指し示した。
「現場となるのはこの廃病院。内部へと入り込めば、ネズミバルカンの方からやって来るはずです」
その後は、戦えば良い。
構成はバルカン砲がレーザーになっているリーダー格が一体、配下が五体。
リーダー格は五人を相手取れる程度の力量を持ち、命中精度に優れている。
技は一列を連続してなぎ払うガトリングレーザー、一人へと集中させ防具を破壊する収束レーザー、エネルギー充填による浄化と自己回復。
一方、配下五体の力量はさほど高くはない。
しかし、二体が破壊力に優れ、三体が防御力に優れているという構成で、ガトリングによる一列掃射と、リロードによる浄化と自己回復を行ってくる。
また、防御力に優れている個体が守護しながら残りの者が攻撃する……と言った連携も取ってくる。
「以上で説明を終了します」
葉月は地図など必要な物を手渡した後、締めくくりへと移行した。
「郊外の病院跡とはいえ、いつ、誰が入り込むのかわかりません。どうか、その際に惨劇など起こらぬよう……何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
秋津・千穂(カリン・d02870) |
壱寸崎・夜深(暗海傀儡・d03822) |
碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041) |
異叢・流人(白烏・d13451) |
塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981) |
十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170) |
海千里・鴎(リトルパイレーツ・d15664) |
八神・菜月(徒花・d16592) |
●町外の廃病院にて
ガラスを引っ掻いたような耳障りな音を立て、廃病院の扉を押し開いた。
割れた窓から窓へと流れていた風が新たな出口を探り当て、埃と黴の臭いを運んでくる。
全員が中へと入り扉を締めた後、十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)は軽く裾を叩いて埃を落とした。
灼滅者たちの到来を察知したのか、はたまた休んでいるのか……今はまだ、暴れ回っているというネズミバルカンの気配はない。
警戒を途切れさせる事はないけれど、思考を行う余裕が生まれていく。
ネズミ退治は二回目。この時期は肝試しで近寄る人もいるかもしれないと、深月紅は考える。だからこそしっかり灼滅しなければならないと、まっすぐに廊下を見据えていく。
軽やかな足音が響く中、秋津・千穂(カリン・d02870)は情報をもたらす形となった塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981) に静かな思いを馳せていた。
廃墟、芥汰、ねずみと聞いて、その答えは猫だから? と。
自然と緩む頬を影に隠し、芥汰へと意識を向けていく。
芥汰は視線に気づいたのか、小さく肩を竦めた後に千穂に従う霊犬・塩豆へと語りかけた。
「はじめまして、かな。一緒にがんばろ」
元気の良い返事を聞いた後、続いて後ろを歩く壱寸崎・夜深(暗海傀儡・d03822)へと向き直る。
初仕事を前に、気合充分な様子。
空回りしないよう芥汰が声を駆けて行く傍らで、海千里・鴎(リトルパイレーツ・d15664)が静かに呟いた。
「どうせ病院ならネズミとかよりゾンビの方が映画っぽくて雰囲気出るんだけどなー」
病院というシチュエーションがそうさせるのか、鴎は光景を思い浮かべ、うんうんと頷いていく。
似たような感想を抱いていたのだろう。碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)は小さな溜息を吐き出した。
「幽霊の一匹でも……」
言葉を打ち切り、身構える。
仲間へと伝え廊下の彼方……瓦礫に埋もれている大部屋へと意識を向けていく。
「……ふん、汚らわしいネズミだな……」
ネズミは好きじゃないと言っていた爾夜の、吐き捨てるような言葉。
呼応するかのように、瓦礫の中に隠れていたネズミバルカンの系六の銃砲が鎌首をもたげていく。
身構え、攻め始めるタイミングを伺いながら、異叢・流人(白烏・d13451)は想い抱く。
日常を脅かす輩は被害が出る前に排除する。
そう、やることは変わらない、いつも通りに依頼をこなすだけ。
だからこそ油断せず、全力で挑んでいく。何気ない日常を守るために。
ジリジリと距離を詰めていく灼滅者たちが小石を蹴り、静かな音色を響かせる。
戦いのゴングとなり代わり、前衛陣が一斉に駆け出した!
●暴君は配下と共に全てを砕く
「派手に暴れまわるネズミたちは、ここで退治しておかなきゃね」
守るため、塩豆と共に最前線に立つ。
支えるため、千穂は仕掛けず戦場の観察を開始した。
同じく守るものを担う芥汰は、最前線へとたどり着くなり前線に位置する五体のネズミバルカンめがけて殺気を放った。
「さ、早々に鼠サン退治と行きましょう」
「そうね、さっさと片付けよう」
八神・菜月(徒花・d16592)は最前線を氷結し、五体のネズミバルカンに解けない氷を張り付かせる。
わずかに動きが鈍った隙を見逃さず、夜深は輝ける十字を召喚した。
「我、セイクリッドクロス、使用」
光の洪水に飲み込まれ、ネズミバルカンたちに張り付く氷の面積が増していく。
が、銃砲の輝きは鈍らない。
後方に位置するリーダーの銃砲が赤く輝くとともに、五体のガトリングがけたたましい音を鳴り響かせた。
質は全て同一。
前衛陣をなぎ払うため、庇い立てなど許さぬ掃射。
たとえ避けたとしても、リーダーの放つレーザーが腕を足を焼いていく。
「っ……塩豆、私は大丈夫だから、流人くんの治療をお願い。私は深月紅を治療するから」
痛みはあれど攻撃を担う者たちよりは被害は薄い。
まだ数撃耐えることができるがゆえ、光で深月紅を照らしだした。
一方、同様に守る役目を担う芥汰もまた、他者を優先するよう仲間たちに呼びかける。
「さて……それじゃ、少しずつ削っていくとしますか」
数が多い分、薄く広く氷結させる。
敵の数が減らない以上、序盤は辛い戦いとなるかもしれないけれど、撃破まで辿りつけたなら……その後は、少しずつ優位に勧めていく事ができるはずだから。
ネズミバルカンの背負う銃砲に霜をおろし、狙うべき場所を示していく。
ひと通りの治療を終えた後、灼滅者たちはさらなる勢いを持って攻め上がる!
甲高い音を響かせながら、前衛陣をなぎ払う五体分の一斉掃射。
合間を縫うようにして、収束する光が芥汰の肩を貫いた。
守りに優れるとはいえ、掃射された所に狙い撃ちされては分が悪い。爾夜は静かに瞳を細めながら、治療のための矢をつがえていく。
「矢を、受け取り給え」
撃ち抜かれた肩へと突き刺して、傷口の修復を始めていく。
が、完璧とはいかない。元々積み重なってきたものもあったのだから。
そう。千穂も塩豆も治療に回ってくれているけれど、全てを癒しきるには手が足りない。
「現状はジリ貧か……」
「ならば早く倒してしまおう。一匹でも倒せれば状況は覆るだろうしね」
早く終わらせたい、そんな声音で言葉を投げかけながら、菜月が待機に魔力を注ぐ。
ネズミバルカンの周囲を氷結させ、新たな氷を張り付かせる。
動きの鈍った個体がいた。
範囲攻撃を用いる者以外が狙い続けていた、最前線を担う守護のネズミバルカンだ。
「薙ぎ払う!」
流人がもろとも砕くと偉大なる二文字にして禁忌の四文字を冠する黒い槍を振り回し、群れの中心へと飛び込んだ。
硬質化した肉体を打ち砕き、一体を霞へと変えていく。残る個体も強打して、氷の範囲を押し広げた。
「一体倒したけど、まだ油断はできない。手を緩めず行くよ」
気のない調子で詠唱し、ネズミバルカンの周囲を焼いていく。
炎と氷、相反する二つの力で攻め立てて、存在する力そのものを削っていく。
が、倒れはしない。
一つ減ったとはいえ勢いの変わらぬ銃弾が、前衛陣に降り注いだ。
リーダー格の銃砲も前衛陣を捉えていく。そんな様を横目に、爾夜は矢をつがえていく。
「全なる者に癒やしを……」
支えていく、支え続けていく。
誰一人として倒れぬよう、無事なまま勝利を収める事ができるよう。
幸い、リーダー格を除いては炎に氷に蝕まれ続けている。一番最初の個体よりも時間がかかるようなことはないだろう。
音を立てて体を蝕む氷に囚われたか、右前に位置する個体がわずかに姿勢を崩した。
「おらおらおらぁ、大海賊鴎様のお通りだぜぇ!」
すかさず前線へと飛び出して、固めた拳で殴りかかる。
銃砲ごとネズミバルカンを打ち砕き、物言わぬ存在へと変換した。
「っと」
余韻もなく退こうとした鴎に、リーダーの銃砲が向けられる。
放たれる前に、塩豆が間に割り込んだ。
レーザーを受け止めながら、最前線に位置する二体の放つ弾丸を斬魔刀で切り払った。
――一歩分だけ後方に位置する、攻め役を担うネズミバルカンは動けない。
「漸く、功、成シタ!」
魔術の書を抱きかかえ、夜深がにやりと笑っていく。
細めた瞳が示す先、結界に包まれている二体の姿があった。
故に、深月紅は痛みなく、残る個体に駆け寄った。
「これで、形勢、逆転」
影を用いて首を狩り、静かな息を吐いて行く。
攻めるものへの道が生まれたから。
守るものがいない以上、攻めるものは脆い存在と成り果てたから。
「よっし、後一体!」
鴎が明るい声音を響かせて、オーラで撃ち抜いた個体から視線を外す。
キラキラと煌く瞳の中、件の個体は炎と氷の檻に閉じ込められまともに狙いも定められないご様子だ。
「此れデ、終幕!」
夜深が再び待機を燃やした時、配下は炭となって崩れ落ちる。
意気揚々と後方に位置していたリーダーへと向き直り、狙いの調整を開始した。
「……覚悟!」
未だ、リーダーには手つかず。
早々に討伐、と言う訳にはいかないだろう。
それでも数の優位がある。
全ての攻撃に耐えてきたという実感もある。
灼滅者たちの横顔に憂いはない。あるのは勝利に向け、全力を出し切っていくとの決意だけ……。
●闇を貫く光を弾き
重々しい音を立てながら、リーダーのレーザー砲が回転を始めていく。
光が人ところに収束し……体を大きく震わせると共に霧散した!
「夜深ちゃんの結界か深月紅さんの弾丸か……いずれにせよ、上手く効いたみたいね! 塩豆、今のうちに攻めるわよ!」
千穂の呼びかけに呼応して、塩豆が高く咆哮する。
虚空を駆ける六文がリーダーを押さえつけているうちに、千穂の影がリーダーの足元へと潜り込んだ。
瞬く間に闇に飲まれたリーダーに、爾夜は狙いを定めていく。
「お似合いだな」
静かな言葉と共に矢を放ち、体の中心を撃ち抜き闇を砕いた。
ふらつく様子を見せても容赦はせず、菜月は氷を撃ち込んだ。
「……」
力を込めるとともに、体中に散った氷が面積を増していく。
砕けば更に、範囲は広がる。
たとえ熱を持っていたとしても。
「燃えろ」
虹色に輝く深月紅の焔が、ナイフを通じて熱い胸板を切り裂いた。
鈍色の体は炎上し、相反する力に強く責め立てられ始めていく。
痛みも強く感じているのだろう。リーダーは天を仰ぎ、光をマガジンへと収束し始めた。
もう遅い。
護る者のいない治療など無意味だと、流人は杖を振り上げる。
「さあ、派手に爆ぜろ」
肩をしたたかに打ち据えて、爆裂する魔力で打ち砕いた。
散りゆく氷は頬に、足へと埋め込まれ、その面積を増していく。
「そこだ」
もろとも、芥汰が切り裂いた。
肉体を護る皮膚を削ぎとった。」
更なる力がリーダー格を攻め立てる中、流人の黒き槍が鈍く輝いた。
「穿ち、貫き通す!」
胸を深く貫いて、無味乾燥な地面に縫い止める。僅かな間だけ、動くことを禁じていく。
なおも暴れるリーダーを、鴎のオーラが押さえ込んだ。
「ネズミがぁ、海賊様にかなうと思ってんのか! ここは陸? 知るか!」
「これでトドメだ!」
暴れることを辞めたリーダーを、深月紅の炎が両断。
泣き別れになった胴体が炎に焼かれるまま灰になっていくさまを横目に、静かな息をはいていく。
戦いの終わり、静寂の訪れ。
廃病院はあるべき姿を取り戻した。
後は、己等が治療を終えて立ち去るだけ……深月紅は仲間たちへと向き直り、各々の容態確認を開始した。
治療が始まっていく中、夜深がわたわたと千穂と芥汰、そして塩豆の下へと駆け寄った。
怪我がないか確かめて、大きなものはないと安堵の息。
治療のための光を放ちつつ、二人に笑顔を見せていく。
「ディフェンダさン、格好良かタ、のヨ! 沢山、謝々!! 塩豆モ、大活躍ネ? 御疲レ様! 我モ、今以上、努力、必要! 我会努力的……!!」
元気に胸を張る少女を前に、静かな笑みがこぼれていく。
久しくない明るい花が、廃病院を満たしていく。
いつまでもいつまでも。彼らがこの場を立ち去るまで。あるいは、探検に残る者が全てを終えるまで。
平和が訪れた証として……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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