重き上陸、大艦のビクトル!

    作者:一兎

    ●極北より
     流氷が、岸壁に叩きつけられる。
     それなりの大きさはあるが、今の日本の季節は夏、そう長くは保たないだろう。
    「退路なしか」
     早々に判断をつけた怪人は、上陸に良さそうな場所はないかと、辺りを見回す。
     見回す途中である。
    「ついに来たな、ロシアン怪人!」
     予め待っていたのだろう、若い男の叫びが挙がる。
     見れば岸壁の上、平らな場所を陣取る若者の姿。
     その意を汲み取った怪人は流氷から跳び移り、名乗りを挙げる。
    「俺はコサック怪人兵団が一人、大艦のビクトル」
     怪人の着地の衝撃により、岩場に走る亀裂。
    「私は蜂矢の海彩、鍛え続けた日流中華拳法の技、とくと見よ!」
     若者は構えを取り、名乗りを返す。
     お互いの動きを読み合う一瞬、亀裂から剥がれ落ちる岸壁の破片。
     破片は流氷を直撃、派手な破砕音はゴングの代わりとなった。
    「どぉおおおっ!」
    「てぇぃやぁぁあ!!」
     ビクトルの拳と海彩の脚が、交じり合う。
     拳は1発、脚は4発。スピードの違いが、初撃の違いを生む。
     初撃の違いが戦いの行方を左右する。
    「どうした、遠路はるばるやって来て、その程度か!」
     ビクトルは大艦の名の通り鈍重である。素早い海彩の動きを捉えるのは難しいだろう。
     次々と浴びせられる蹴りの嵐。
    「これで終わりだ。秘技、蜂矢彗星槍!」
     さらに、トドメだと繰り出される、槍の如き鋭い一撃。
     だが。
    「その程度とは、こちらの台詞だ」
    「っ、舐めた口を!」
     その状況にあって、ビクトルは冷静に動いた。
     鈍重とは重厚、重厚とは頑強。
     ビクトルはあえて、一撃をその胸に受ける。胸の装甲板が抉れる。
     その脚を掴み、海彩を大地に叩き付ける。そして……。
    「粉砕、シベリアンクラッシャー!!」
     ダイナミックに振り下ろされる拳が、海彩ごと大地を砕く。
    「……この装甲とパワーがなければ、俺は負けていただろう。お前も強かった」
     やがて、ビクトルは息一つ漏らさぬ死体に、賞賛を送った。
     侵攻はまだ、始まってすらいない。

    ●ロシアの戦士
     季節外れの流氷。
     何かの冒頭にでも書けそうな言葉である。 
    「言っちまえば、流氷の船ってところだ」
     鎧・万里(高校生エクスブレイン・dn0087)の言葉を要約すると、次の通りだ。
     ロシアのご当地怪人が、流氷に乗って日本にやって来る。
    「さすがに、スケールのデカい国だ。やる事のスケールもデカいと来やがる」
     これで流氷のスケールもデカければ、文句なしだったと言えるだろう。
     しかし、流氷のスケールは小さかった。いや、小さくなった。
    「元々はデカかったみてぇだが、何かあったらしい。こっちにすりゃ好都合だけどな」
     原因は不明である。
     だが破片であれ、ご当地怪人たちは乗っている。それらはやがて、オホーツク海から北海道への上陸を果たすだろう。
     するとだ。
    「今度は日本から、怪人どもをぶっ飛ばすために動く奴らが出てきた」
     動きがあったのは、アンブレイカブル。
     どうして彼らが、怪人たちの動向を知れたのかは、わからない。
    「ただこいつは、両方をまとめて倒せるチャンスだ!」
     何も、一度に2人のダークネスの相手をしろと言うわけではない。
     ロシアン怪人と、アンブレイカブル。
     お互いがぶつかれば、必ずどちらかが倒れる。
     その後、生き残った方を灼滅する。
    「ちょいと卑怯だと思うかもしれねぇ。そんでも、取り逃がしちまうより、ずっといい。今後の事を考えてもな」
     万里の予測した場所では、ロシアン怪人が勝利するという。
     岸壁にしては平らに拡がった場所だが、その周囲はデコボコとした岩場。身を隠すにも困らないだろう。
     それに相手には、名乗れば名乗り返す程度の、怪人らしいプライドもある。
     逃がさずに戦うのは、そう難しい事ではない。
    「元々、向こうには退路なんてねぇんだが……。そんだけ命がけなわけだ。お前らも、覚悟の差で負けねぇようにな!」
     向こうが背負っているのは、言えばロシアの誇り。
     自身にはどれほどの覚悟があるか。灼滅者たちの気も、自然と引き締まるようだった。


    参加者
    八重葎・あき(最近クイズゲームにはまってる・d01863)
    シオン・ハークレー(小学生エクソシスト・d01975)
    領史・洵哉(一陽来復・d02690)
    射干玉・闇夜(高校生ファイアブラッド・d06208)
    犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)
    物部・七星(一霊四魂・d11941)
    小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)

    ■リプレイ

    ●岩石海岸
    「さすがは、ダークネス同士ですか」
     身のほどはある大きな岩を背にして、領史・洵哉(一陽来復・d02690)は呟きを漏らす。
     洵哉が岩越しに見る先には、戦い続ける2人のダークネスの姿があった。
     ご当地怪人のビクトルと、アンブレイカブルの海彩の姿が。
     今、灼滅者たちが居るのは、ダークネスたちの戦う場所から、やや距離をとった所にある岩場である。
     そこで灼滅者たちは、ダークネスたちの決着がつく瞬間を待っていた。
     デコボコと突き出た地形は、自然の窪みを形成しており、身を隠すのにうってつけの場所なのだ。
     中でも大きなものは、シオン・ハークレー(小学生エクソシスト・d01975)を始めに、八重葎・あき(最近クイズゲームにはまってる・d01863)、崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)の小柄な3人が隠れても余裕があるほどで。
    「あの怪人さんは、いつも見るような怪人さんと、どこか違う感じがするんだ。……上手く言えないけど、真っ直ぐって言うか。本当に戦う人って言うのかな」
     そうなると、自然に言葉が交わされた。
     内容は、主に怪人についてだったが。
    「確かに変わってるけど。やっぱり、怪人なんだよね。他の怪人たちとの合流も目指してるみたいだし。北海道で何する気なのかな?」
     シオンの考察にも近い言葉に、あきは今ある事実を重ね、疑問を絞り込む。
     当然、この問いに具体的な答えを返せる者はいない。
     代わりに一つ、確実に言えることもある。
    「怪人が集まってやる事っていえば、悪巧みに決まってるよ」
     間違っても、良い事であるはずがない。
     答え返した來鯉は、ぶら下がっていた窪みの縁から手を放すと、2人の間に飛び降り、立てかけておいた殲術道具を手にした。
    「備えておけ、そろそろ終わるぞ」
     それまで、じっと動かないでいた射干玉・闇夜(高校生ファイアブラッド・d06208)が口を開いたのは、その時である。
    『秘技、蜂矢彗星槍!!』
     同時に、岩石の向こうから順に聞こえてくる叫び。
    『粉砕、シベリアンクラッシャー!!』
     続けて、硬い岩の地面を通じて、微かな揺れが伝わって来る。
     決着がついたのだ。
    「思っとったより、早く終わったんやねぇ」
     台詞に反して、いかにも待ちかねたという風に、小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)はスレイヤーカードを取り出す。
     ふと見れば、怪人は最後まで、灼滅者たちの存在に気づかなかったらしい。
     ならば。小町はいっそ、聞かしてやろうと声を張り上げた。
    「さぁ、アンタの断罪のお時間だよ!!」
     カードの封印が解かれる。

    ●打倒、ロシアン怪人
     潮風が強い。
     アンブレイカブル海彩を打ち倒し、弔いを捧げるビクトルは、そんな他愛もない事を考えていた。
     侵攻の一歩としては、上等な充足感さえも感じながら、海彩との戦いで得た傷を治すため、しばらくここに居ようかとも思っていたのだ。
     だからこそ、新たな敵の存在を示す少女の声に、思わず叫んでいた。
    「何者だ!?」
     厚い装甲の奥から、ある種の気迫を振りまき、ビクトルは振り返る。
    「にゅーちゃれんじゃーだよ!」
     一言の疑問に、真っ先に返す言葉も一言。
     犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)は、手頃な大きさの岩の上から跳び上がり、身の丈を超える槍を振りかざす。
    「私はまおー軍、一の子分こと犬蓼・蕨なのさ! オオカミの威光の前にひれ伏せー!」
    「俺はコサック怪人兵団が一人、大艦のビクトル。そのオオカミの威光とやら、確かめてやろう」
     こんな時でも、律儀に名乗り返すあたり、怪人なのだろう。
     ビクトルは理解と行動を、一つの動作に纏めて打って出る。
     突き入れられる槍を、裏拳で払いのけ。次いで、無防備になる蕨に向けて、反対の拳を振りかぶる。
    (灼滅者とは、話には聞いていたが、この程度か?)
     いや、それは違う。
    「コサックなんちゃら団なんて、聞いた事もないんだよ。サーカス団か、何かなのかな?」
     ビクトルが、蕨の顔に浮かぶ余裕に気づいた時には、既に遅い。
    「貴様、舐めた口をっおおぉ?!」
     瞬間、宙で身の捻った蕨の向こうに、怪人の拳は突き込まれた。
     蕨の後方より飛んできていた氷塊に向けて。
     重い一撃は、一瞬で氷塊を氷のつぶてに変え、散弾のように怪人に降り注がせる。
    「流氷に乗ってこられたようなので迷いましたが、杞憂だったようですわね」
     ビクトルが目で漂う冷気を辿れば、物部・七星(一霊四魂・d11941)の姿に行き着いた。
     そのまま、睨みつけはしたが、七星が微笑みを絶やす事はなく。
    「この程度、シベリアの凍土に比べれば……」
     静かな怒りを湛えて、ビクトルは跳躍してみせる。
     その重さと体躯からは想像できないほど、高く。
    「応えるものかぁぁ!」
     着地の際に、足に力を込めて。
     今までにない揺れと共に、隆起する岩石が七星へと走っていく。
    「あら、何か気に障ったのでしょうか?」
    「消耗しているところを狙ったわけです。このくらいの怒りで良いなら、甘んじて受けてあげますよ」
     洵哉は素早く、その軌道に割り込むと、シールドを地面に向けて展開。
     隆起の波を無理やり、抑え込むように食い止める。
     視界の端に、闇夜が駆けていくのが見えた。
     岩石に串刺しにされるという道を、龍砕斧で切り開きながら。
    「ずっと拓いて行くのは面倒だな。っと、これでいいか」
     闇夜は、揺れの治まった所にまで突き進むと、斜めに突き立った岩石の先端を踏みつける。
     前に進みづらいなら、別の方向から仕掛ければいい。
     単純だが非常識な発想で、ビクトルのほぼ真上にまで跳躍。
    「寒いのが嫌なら、熱くしてやるよ!」
     落下しながら、炎を宿した龍砕斧の刃を、大上段から振り下ろす。
     先ほどの攻撃によって、足が埋まったままのビクトルに、それを避ける手段はなく。
    「おおおぉっ」
     クロスした両腕の中心で、刃を止めに出た。
     型破りな攻撃に焦りはしたが、自身の装甲が打ち破れるわけがないという自信があったのだ。
     しかし、ビクトルの自信は、呆気なく炎に飲み込まれた。
     斧が持つ力と闇夜の力、それに足されるのは重力。
    「燃えてろ!」
     燃焼する刃が、硬い装甲に一筋の溝を掘り込み、大地を砕きぬく。

    ●大艦対戦艦
     道を阻む隆起した岩石を、ビクトルは殴り砕く。
    「油断していたつもりは、なかったが。ここまでダメージを受ける事になるとは思わなかった」
     言葉の端々に、悔しさが伺える事からして、やはり応えるところもあったのだろう。
     そうやって口を開くのは、怒りを誤魔化したかったからかもしれない。
    「ダイナミックに入国してきたのは、そっち。私たちは、愛するご当地を守りにきただけなんだよ。観光が目的ってわけじゃなさそうだしね」
     怪人と正面に対峙する形で、あきは遠回しな疑問をぶつけた。
     ご当地怪人たちの目的はなんなのかと。
     言葉の意味する所を察したビクトルの答えは一つ。
    「知りたければ、俺を倒してみろ。命が尽きるまで相手をしてやる」
     倒せば教えるという意味ではない。怪人は、倒すと基本的に爆発する。
     つまり、死んでも何も語るつもりはないという意味である。
    「そっちがそのつもりなら、遠慮なくいかせてもらうんだよ!」
     元より、遠慮などなくやっていたが、あきは改めてハッキリと口にした。
     すると、決裂の意思が、あきの内にある想念を糧に一握りの弾丸となって、撃ち出された。
     一方のビクトルは、弾丸など気にも留めず、前へ踏み出し始める。
     当然、弾丸は直撃。
     ズシンと、小規模な揺れが起こる。
     痛みにビクトルが、踏ん張ったのが原因である。
    「ぬぅ、ぐっ。退けなければ、前進あるのみ。大艦の名は伊達ではないぞ!」
     ただ、それでも足は止めない。
     弾丸に込められた想念が体を蝕む事も無視して、突撃は続く。
     氷塊の海を突き進む砕氷船のように、あるいは、大艦の名の通りに。
     その進路に、來鯉は立ちはだかった。
     野球グローブの形をした殲術道具を構えて。
    「これ以上は進ませないよ。おっちゃんが大艦って言うくらいなら、勝負しようよ。僕のご当地パワーとさ」
     來鯉のご当地、広島県呉市は、かの史上最大の戦艦、大和の故郷であるという。
    「面白い、だったら受けてみろ。ロシアンナックル!」
     ならばと怪人は、目標をグローブの中心に定めて、拳を撃ち出した。
     突撃の勢いも足して、力強く。 
     その瞬間、ビクトルは踏み入った。黒い影の領域に。
    「勝負に水を差して、ごめんなさい。なんだよ」
     シオンは、両方に対して謝りながらも、伸ばしていた影に力を流し込む。
     幾ら手負いとはいえ、ダークネス一体の力を真っ向から受け止め、耐え切る事は現実的に考えて、難しい。
     結果的に、シオンのこの判断に間違いはなかった。
    「史上最大や言うのにも、護衛艦が、ようさん付いとったらしいし。丁度ええやろ」
     いや、史上最大だからこそか。
    「だから、僕達もがんばるんだよ。みんなで帰れるように」
     怪人の手足に絡みつく影の下から、小町の仕掛けた無数の護符が姿を現す。
     護符同士は引き合い、影の海の中に、結界を作り出す。
     敵艦を包囲する、艦隊のように。
     それらの中心で來鯉は受け止めた。勢いを削られたビクトルの拳を。
    「へへっ。おっちゃんも、これじゃスッキリしないよね?」
     援護に対する感謝の気持ちはある。
     ただ、せっかく持ちかけた勝負。白黒もつけたい。
     だから來鯉は持ち替えた。グローブをバットに、守備を攻撃に。
    「必殺、大和打法だ! いっけぇ!」
     闘気で作ったボールに、全力のフルスイング。
     バットに込めたご当地パワーが弾ける。
    「くっ、うぉぉっ」
     ビクトルは見た。來鯉の後ろに佇む戦艦大和の勇姿を。
     雄々しき主砲から撃ち出される、砲弾の軌跡を。
     絶壁の海岸線に、炸裂する大砲の音が轟いた。

    ●大艦、沈む
     パラパラと、砕けた岩の粒に混じって、ビクトルの装甲の一部が、剥がれ落ちる。
     胸の、ある一点を中心に。
     海彩の必殺技を受けた際に出来た傷。
    「あそこを狙えれば良いのですけれど。さすがに警戒されていますわね……」
     七星は、その細い目で、雑多に動きを変える戦場に狙いをつけながら、弓の弦を引き絞る。
     傷は恐らく狙えない。
     既に何分と続いた戦いの中で、そこに対する攻撃だけは避けているのだ。よほど大きな隙でなければ、狙えないだろう。
     ぐるぐると回る思考に決着をつけて、七星は矢を放つ。
    「そこ、ですわ!」
     矢は潮風を裂き、真っ直ぐに飛ぶ。
     ビクトルと拳を交わす、洵哉の胸へと。
    「何だ。何をした?」
     ドクン。
     矢から流し込まれる活性の力が、鼓動を強くした。
     血液の代わりに噴き出していた炎が、僅かに強まった後、傷口が閉じていく。
    「もう二度と、怪人に遅れをとったりはしませんよ」
    「ならば、二度と立ち上がれなくしてやる」
     洵哉が掲げる想いに、嘘偽りはない。たった一度の敗北は、屈辱であったから。
    「粉砕、シベリアンクラッ――」
     振り下ろされる必殺の一撃に、洵哉はただ盾を掲げた。
     二度目。
     これを受けようとするのは二度目。
    「人が反撃する時は、いつも二度目からなんです。屈辱を、相手を知った二度目から、なんだぁ!」
     繰り出す無数の拳は、盾ごと怪人の拳を押し返す。
    「ぉがッ!?」
     バランスを崩したビクトルの顔面に、締めの一撃が入った。
     痛みに目を瞑るビクトルは、たたらを踏んで、後ずさる。
    「おのれ小僧ど、も?」
     やああって、ビクトルが再び目を開くと、そこに海岸はなく。
     代わりに、水平線の彼方まで続くほど広大な、シベリアの凍土があった。
    「な、なんだ、これは、……ハッ」
     思わず声を漏らす怪人は、鋭い気配を感じて背後を振り返る。
     そこには、今にも牙を剥こうとするシベリアンハスキーの姿が。
    「馬鹿な、何故この犬がここに、ぃがふぐっ」
    「わんこじゃねぇの! オオカミなの!!」
     と、シベリアンハスキーは突然に姿を変えた。蕨の姿に。
     実際の所は、トラウマによって、そう見えていただけなのだが。
    「別に、蕨さんの事を言ったんじゃないと思うんだよ……」
     シオンの声は届いたかどうか。
     辺りを覆う影が散り、二人を朝陽が照らし出した。
     蕨の振るうマテリアルロッドが、白銀の輝きを放ちながら、ビクトルに叩き込まれる。
    「確かに凄い防御力なの。スピードはないけど、十分に恐ろしかったんだよ」
     そのまま、杖先から魔力を流し込み。蕨は小さな声で囁く。
    「でもさ、破壊力に特化した私の攻撃なら、どうかな?」
     途端、メキメキと軋み始める装甲。
     やや遅れて、拡がり始める亀裂。
    「まだだ、まだ終わりはせん!」
     さすがに危機感を得たビクトルは、反撃に出ようとするが。
    「いけ、ミッキー!」
     カキッ、チャリン。
     どこからともなく飛んできた六文銭が、ビクトルの気を逸らした。
    「っ、また貴様か崇田・來鯉!」
     この一瞬が、ビクトルの生死を分けた。
    「へぇ、余所見しとる暇があるんやね?」
     挑発するように言って、小町は影を呼ぶ。
     死をくれてやるための、黒い影を。
    「ロシアから遥々お疲れ様やけど。ここがアンタの終点や!」
     影は動き始めると、容赦なくビクトルの装甲に侵食を始める。
    「なっ、隙間からっ?!」
     亀裂の間から、装甲を切り開いていく。 
     規模を拡げる亀裂はやがて、明確な穴となり。
    「こいつを受けてみろ。俺式・シベリアクラッシュだ」
     好機と見た闇夜が走った。
     弱点を露にして、そこを狙わない道理はない。
     対するビクトルは両腕で、防御の姿勢をとってしまう。
     それを見た闇夜は。
    「残念だが、狙いはそこじゃない」
     気にせずに掴み掛かった。
     通り過ぎ様、縛霊手を着けた拳で、顔面を鷲掴みにして。
    「む、ぐっ、ぉぉぉおおお!!?」
    「吹っ飛べ!」
     最初はゆっくりと。次第に思い切り良く。
     大重量の怪人の体を、身動きの取れない空中へと投げ飛ばす。
    「おおおおおおっ!」
     最も驚いたのは、怪人自身だろう。
     今まで、投げ飛ばされた経験などないはずなのだから。
     やがて、頂点に達した体は落下を始めた。
    「この一撃で、轟沈させる!」
     その落下に合わせて、あきは跳躍した。
     餃子を返す動きを彷彿とさせる宙返りと共に、ビクトルの真上に辿りつくと叫んだ。
    「とくと味わえ! 内から溢れ出る、正義の心と共に!」
     急加速から放たれる蹴り。
    「宇都宮ぎょうざキック!」
     足先は、ビクトルの胸に出来た穴を貫く。
    「わ、我らがロシアに、栄光あれぇぇぇ!!」
     あきはそのまま、向こう側に突き抜けて着地。
     後方の空で、爆発が起きた。
     吹き飛んだ無数の金属片が、周囲に散らばっていく。
    「……これから、北海道に何が起こるんだろう」
     目の前に広がるオホーツク海。
     その向こうからやって来た怪人の存在。
     灼滅者たちは、これからも続くだろう戦いの予感を、感じずにはいられなかった。

    作者:一兎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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