●北海道の海岸
夏も終わりかけの夜の海岸に、流氷が打ち上げられる。
打ち上げられるのを待っていたかのように、氷の表面にヒビが入った。まるで内側から入れられたようなそのヒビは、一瞬にして氷の表面全てに走っていく。
「ラグマーァァァァン!!」
やたらと騒がしい声と共に、氷が打ち砕かれた。中から出てくるは真っ赤な麺類の身体に羊の頭を持つ何か。何を言ってるのか分からないと思うが、とにかく奇妙な生き物だった。
うおおおおー!! とその羊頭が叫ぶ、泣き叫ぶ。
「ラブシャー! ぺリメー二ー!! どこだー!!」
非常に騒がしいが、人を探しているようだ。
「おい」
その人探しを、別の声が中断させた。泣き顔が一転、キリッとした真面目な顔になり向き直る変な生き物。
「ロシアン怪人だな? お前」
「そうとも。……なるほど、日本のアンブレイカブルだな」
上陸を阻止しに来たか。
胴衣姿で現れた男に対し、素手で構える羊頭。胴衣姿の男も構えながら、いいや、と首を振る。
「俺はただ、修行しに来ただけだ。ここにこれば強いロシアン怪人と戦える、と言われてな」
「なるほど。だがそれはつまり、私を殺すということだろう?」
「無論」
その言葉が放たれると同時に。2人は同時に地を蹴った。
アンブレイカブルの拳が宙を貫き、羊の毛を刈り取っていく。頭を振って紙一重で避けた怪人が、真っ赤な麺を燃やす。さらに踏み込みながら燃える膝の一撃。
突き出してない方の手で咄嗟に受け止めた男の手、そして体ごと、大きく吹き飛ばす。衝撃で、既に無残にもあらかた抉り取られていた断崖絶壁の大地がさらに凹む。ついで巻き起こった風圧に、2人を中心として石が弾き飛ばされていく。
肋骨が折れる音。歯を食いしばりながらも、空中で一回転、片手両足をついて踏ん張ることで勢いを殺す。後ろに溜められた手には雷のオーラ。
追撃に、と身体を大きく反りながら飛び込んできていたロシアン怪人。その振り下ろされた羊の頭に振り上げられた雷を纏ったアッパーが突き刺さる。ニヤリと笑うアンブレイカブルの表情が、次の瞬間、一転する。
「ラグマァァァ……!」
本来ならば顔面への一撃は致命的、であるにもかかわらず。反発力に離れることも、仰け反ることなく、まるで鍔迫り合いするかのように押し合う頭と拳。その拳が、押され始めた。
「馬鹿なッ……!」
「ァァァアアアアアアアアンン!!」
小さく上げられた叫び声をかき消すかのごとく、ロシアン怪人の怒号。同時に、拳を圧壊し振り下ろされた羊頭が、男を岩盤に叩き付ける。
ヒビが入り、激しく揺れる大地。
「つ、よい……!」
口から激しく血を吐くアンブレイカブル。震えながら、己の胸から遠ざかっていく羊頭を掴もうとした手は、しかし宙を切り。
頭から血を流しながら見下ろす怪人の目の前で、ガクリと地に落ちた。
●教室
「まだ夏も終わってないのに北海道に流氷だって」
流石に怪しいよね、と、いつものように無表情でそうめんをすすりながら、集まった灼滅者達に告げる田中・翔(普通のエクスブレイン・dn0109)。
「まぁ、ただの流氷じゃないんだけど。ロシアのご当地怪人を乗せた流氷」
にわかにざわつく教室。そういえばそんな噂を最近聞いたような気がする、という声も聞こえてくる。
麺をすする音がざわつきにかき消されていく。
「元々は巨大な流氷で、そこにたくさんのロシアン怪人が乗ってたみたいなんだけど、流氷が壊れてばらばらになった怪人たちが、北海道のあちこちに漂着し始めているっぽいんだよね」
何で壊れたのかは、視えなかったけど。
さらに、このロシアン怪人の漂着に合わせて、何故かアンブレイカブル達が動き出している。どのように知ったのかは分からないが、北海道の各地で、漂着したロシアン怪人に死合をふっかけているらしい。
「これって、チャンスだよね」
アンブレイカブルって単体で強いし。理由は分からないけど、外国から新たなダークネスが来るのは困るし。どうせなら互いに戦わせて、生き残った方を灼滅しちゃえば楽だよね。
「で、えーと。僕が特に強く視えた情報なんだけど」
書き留めたメモを取り出し、読み上げ始める翔。
「まず、ご当地怪人。普通のアンブレイカブルを倒して上陸しようとする」
翔が担当するわけだしご当地怪人ですよね。
「ラグマン怪人っていうっぽい。あ、ラグマンって言うのは、ロシアの麺料理で。日本語で言うと『ウズベク風羊肉入り辛口めん入りスープ』」
やっぱり麺類なのね。
「で、姿なんだけど……。真っ赤な麺でできた、棒人間のような体の上に羊の頭がついてる」
やっぱりそんなわけ分からない姿なのね!
と、灼滅者の1人が手を上げて質問する。辛口麺ってことは、燃やしてきます?
「体の一部を燃やして、それを叩き付けてくる攻撃が1つあるね」
あった。
「あとは、羊頭によるヘッドバットとか。捨て身の攻撃だからか、こっちの攻撃に怯み辛くなる」
というか羊頭が高速で迫ってくる図とか、なんというか。
「あとは羊の口から炎を吐き出してくる。これは遠くまで届くね、広がるし」
何それ怖い。
「……まぁ、ご当地怪人の例にもれずふざけた感じの敵だけど。強いから気を付けて」
翔はいつになく、真面目な目つきで伝える。
「でも、油断しなければ、皆ならできると思うから」
いつもよりは、真面目にやってね?
参加者 | |
---|---|
烏丸・織絵(黒曜の鴉・d03318) |
伊郷・尊(朧童幽霊・d05846) |
久遠・雪花(永久に続く冬の花・d07942) |
狼幻・隼人(紅超特急・d11438) |
宮守・優子(はがんばらない・d14114) |
御月・神夜子(御月ノ死神・d16949) |
ソフィ・ルヴェル(カラフルキャンディ・d17872) |
守ヶ原・悠華(グリーンガーダー・d20635) |
●残暑が厳しい中に流氷とは風流だな
「……風流か?」
自分で言っておいて自分で首を傾げる烏丸・織絵(黒曜の鴉・d03318)。現在、灼滅者御一行は北海道の波が打ち上げる断崖絶壁の岩陰に潜伏中。
残暑が残る夏の終わりとは言え、流石北海道。夜も相まって半袖では少し肌寒い風が、轟音と共に通り抜けていく。
「やっぱいいよなあ、夏の北海道ってのはよぉー。夏だけ永住してえよなあー」
「それは永住って言わないわよ」
だと言うのに、丁度いい気温だぜと、冬用制服の1枚下は筋肉と言う出で立ちの伊郷・尊(朧童幽霊・d05846)のこの言葉。即座に御月・神夜子(御月ノ死神・d16949)の訂正が入る。ふぅ、と短く息を吐きながら、眼鏡をクイッと上げた神夜子。油断しない方がいいわ、と隠れている皆に告げる。
「敵について調べてみたんだけど、かなりヤバイわよ」
「どう、ヤバイの?」
皆から集まる視線、守ヶ原・悠華(グリーンガーダー・d20635)の問い。咳払い一つ置いて、メモ用紙を取り出して読み上げ始める。
「ラグマン、それは中央アジアの広い地域で常食されていて…実は拉麺のルーツで……」
岩陰の向こうから爆発音。猛烈な風が辺りに吹きすさび、声をかき消していく。
「……とまぁ、ヤバイくらいどうでもいい情報しか得られなかった、と」
「ダメやないか!?」
神夜子はかけていた眼鏡を、らしくないことはするもんじゃないわねと外す。伊達眼鏡でしたか。
がくりと項垂れた狼幻・隼人(紅超特急・d11438)が、再びこっそりと岩陰から顔を出す。アンブレイカブルの拳と羊頭が激しくぶつかっている。
「けったいな姿やけど、やっぱ外国のんは一味違うんやろなっ!」
色々な意味でっ!
「愉快な格好だなー。赤いところには親近感を抱かなくもないが」
「ラグマン怪人っすか……食べれたり?」
顔を戻した隼人の言葉に、一緒に顔を覗かせていた織絵と宮守・優子(はがんばらない・d14114)が素直な感想を口にする。
「ウズベク風羊肉入り辛口めん入りスープ……一体、どんな味なんでしょう……」
まぁ真剣にやらないとっすね! と自らの頬を叩く優子の隣に座っていた久遠・雪花(永久に続く冬の花・d07942)も、ぽつりと食べたそうに呟いていた。戦いに来たんですけど。
「真っ赤な麺……すごく、辛そう…です……」
そして岩陰から様子を見てこの言葉である。
「辛いものはちょっと苦手ですね……」
「いや、食べるの?」
雪花の言葉に続けられたソフィ・ルヴェル(カラフルキャンディ・d17872)の言葉に思わず悠華がツッコむ。
「甘いシロップをかければ辛さを打ち消して丁度良くなるのでしょうか……?」
けど聞こえてるのか聞こえてないのか、そんなことまで続けました。自分で、味は……あまり想像したくないです……」と首を振ってますが皆そうだと思います。
と、遠くから、ァァァアアアアアアアアンン!! とか声が聞こえてきた。直後、凄まじい轟音が起こり、地面が揺れる。顔を見合わせる灼滅者達。
顔を覗かせると、倒れ伏したアンブレイカブルを、羊頭の赤い麺、もといラグマン怪人が見下ろしていた。
数秒後、その顔が、複数の足音に気が付き、足音の主たちの方へと向けられる。
「ちょ……馬鹿馬鹿しい見てくれにも程ってものがあるわよ?」
これは負けるわけにはいかないわね、色んな意味で……。
「しかし改めて見るとビジュアルが……うん」
でもお腹は空くっすね。
「敵はご当地怪人。相手にとって不足はないよ!」
でも、強そうな人が来たなぁ。
などと、向かってきつつ感想を言う者達の前に立って。
「よう、お代わりを頼みに来たぞ」
片手を上げて友人に挨拶するかのように、気軽に告げる織絵。
「お前かっ! ロシアからご当地名物広めに来たんいうのは」
さらに隼人が指を突き付ける。羊の片眉(ないけど)がピクンとあがる。
「広める? 違うな。私の目的は別にある」
ゆっくりと首を振るラグマン怪人。
「……え、食わせてはくれんの?」
一瞬、隼人の声から気が抜ける、が、すぐに拳が握りしめられた
「われ、食べ物を愛する心でなったんちゃうんか。ご当地怪人がご当地名物愛さんでどうすんねん」
世界征服するんやろ?
食わせてみいやっ!
「はいはい、そこまでにしておきなさい」
このままだと収拾がつかなくなりそうなので神夜子が押し下げた。代わりに出てくるのは幼女達。
「少しフェアじゃない気もしますが……アナタを滅するため、覚悟してもらいます!」
「ボクだってご当地ヒーロー、ずっとおびえてる訳にはいかないよね!」
「ラム肉……初めて、食べます……」
「雪花、もうちょっと空気読もうな」
織絵が雪花の口をふさぐ。
「なるほど、灼滅者か。いつから潜んでいたのかは知らぬが、まぁいい」
かかってこい、と構えるラグマン怪人。羊頭もキリッとしている。各々のカードをとりだす灼滅者。
「アナタの野望もここまでです」
変身!
スレイヤーカードを収納したカードデッキを掲げて変身ポーズ、するソフィの後ろ上方。
「ロシアの大地をお前の血で染めてやろうか!」
外道な顔をしながら、雷に拳を宿して、仲間を飛び越しつつ羊頭に殴りかかる尊の姿があった。あとここは日本だ。
●ラグマンにとっては連戦になるが、勝てばいいそれが全てだ!
上から落ちる雷の拳と、下から振り上げられる炎の麺が交差して、互いの顔面にめり込んだ。羊頭が沈み、赤髪が仰け反りながら宙に吹き飛ぶ。
宙に浮く尊に防護符が飛び、背中に貼り付いた、と思ったら、そのまま一回転して足から着地する。
「そのまま回復頼むぜぇ!」
「……はぁ、相手にも名乗り口上ぐらいは言わせてやりたかったのだが」
親指を立てて向けた尊から目線を外しながらため息をつき、そのままラグマン怪人へと向く織絵。羊頭が、麺指をビシリと突き付けていた。
「良いパンチだが、貧弱ゥ! このラグマン怪人はその程度では倒れはせんぞ!」
さぁ灼滅者達よ、かかってこい!
「なら、遠慮なくいくわよ」
瞬間、身構えていた前衛の後ろ、優子が出した黒い霧に紛れて神夜子が飛び出した。懐に潜り込み、雷の拳が羊頭を下から打ち据える。真っ向からそれを受け止めつつも、ちらりとその後ろ、飛んでくる氷を見て衝撃に逆らわずに背を反らしながら後ろに跳ぶ怪人。腹の上スレスレを氷が通過していき……股間でしゃぼん玉がさく裂した。
オウッ!? とか叫ぶ怪人。うわぁって顔をする灼滅者数名。そして今、しゃぼん玉を吹いたナノナノの主人はと言えば。
「じっくり……味わって、食べるのは……全て、削り取ってからに……しましょう……」
予言者の瞳でじっと、地面に仰向けに落ちた怪人を見つめていた。
「あらたか丸!」
氷を外しつつも素早く指示した隼人に従い、超霊犬あらたか丸が、ばうっ! と返事をして尊を見つめる。悠華も展開したシールドを広げ、状態異常への耐性を高めていく。
守りを固める灼滅者達に、怪人が一歩踏み出したその身体に、3方から向けられる銃口。優子、織絵、ソフィのライドキャリバーであるガク、トール弐式、ブランメテオールに取り付けられた銃器が火を噴き、ブランメテオールが急発進した。その背に乗るソフィがサイキックソードを構え、擦れ違い様に一閃。ブレーキ音を立てて素早く反転し、止まる。
「私とブランが一緒なら負けません!」
「力で劣る分、数の暴力で勝負と言うわけか」
「勝てばいいそれが全てだ!」
相変わらずの顔芸のまま殴りかかる尊。羊頭を狙ったそれは、先ほどの氷と同じように、上体を逸らして避けられる。
嫌な予感。感じた瞬間、反り戻る。近づく頭、凄く羊だ。
「試される大地ッ!!」
カウンターで羊頭のヘッドバットが直撃し、地面に叩き付けられる尊。余裕ある叫び声を上げながら叩き付けられていたが、地面は揺れるし、尊の頭から血が出てるしなんかビクビクしてるし割とまずいっぽい。
「言ってる場合か!」
「炎の耐性はどんどんつくっすけど体力が大丈夫っすかね」
言いながら、織絵と優子が符を飛ばし、あらたか丸が浄化と言うか消毒した方がよさそうな目でじーっと見つめている。
「……しらたま、お願い……」
雪花の言葉に頷いて、ハートを飛ばしたしらたま。受けたダメージを全快した尊が跳ね起きる。
「ちょ、嘘でしょ!?」
前方から声。、ヘッドバットの隙を狙った隼人の妖冷弾で半分凍り付いた麺に突撃していったライドキャリバー達が次々と弾かれ転がされていく。しかも怪人には全く怯んだ様子がなく、凍り付いたのではなく鉄になったのだと言わんばかりに突き進む。ブランメテオールと共に転がったソフィの隣を駆け抜け、神夜子の異形化した腕をも打ち払い、尊へと向かおうとした体に、抹茶色のビームが突き刺さった。
「その辛さ、ボクが中和してあげる!」
西尾抹茶ビーム! 相手は怒る。
標的を変更して、凍り付いた麺を燃やして悠華へと殴りかかった怪人。
「ガク!」
ライドキャリバーの車体が割り込み、そのボディが炎にへこんだ。
●ずるずる戦闘を引き延ばされそうじゃない? 麺だけに
「だからその前に叩きのばすわよ! 麺だけに!」
露骨に攻撃が通りにくくなったことを感じた神夜子が、ならばとそれごと打ち砕く拳にて突き破る。フルスロットル全開にして耐えるガクに拳をめり込ませる怪人へと殺到する前衛陣。回復手が、ライドキャリバー自身では癒しきれないダメージを回復させていく。
息を吸う動作、怪人の麺が大きく膨らむ。前衛陣へと向き直る怪人。羊口が開き、次の瞬間、衝撃と言っても差し支えのない烈風を伴う炎が吐き出された。
攻撃の手を身体を庇う者、気にせずに真っ向から突き進む者全てを飲み込んで炎が吹き荒れる。幸いにも広範囲に広げられた炎は一瞬にてほぼ鎮火した。
「尊!」
しかし、先ほどから手痛い攻撃を受け続けていた尊が吹き飛ばされ、地面を転がった。隼人の声に、ピクリと手が動き、ククク……と、如何にも悪役染みた笑い声をあげながらゆっくりと立ち上がる。
「まあ慌てんなよ、直ぐにラブシャーとぺリメー二ーの所へ送ってやるからよォ!」
「そういえば人探ししてるとか言ってた気が……どうなんすかね?」
凌駕した尊が色んな意味で崩壊していた。心配した私が馬鹿だった、と額を押さえる神夜子さん、織絵さん。ほっとしているソフィさんと悠華さんはその純粋な心を忘れないでね。
「陣頭を征く者に護りを!」
「ほーい、癒しの霧っすよー」
残る炎に向けてキュアを飛ばし、衝撃をもろに受けた者へと回復が乱れ飛んだ。範囲攻撃とは言え、その威力は強い。厚く張った回復にて何とか整えられる万全の状態まで持っていく。
ダメージの蓄積と、炎を吐いたことで大きく息を整えていた怪人を、悠華の手が掴んだ。
「この火がキミを倒す力だよ!」
鳥羽火祭ダイナミック! 相手は爆発する!
悠華に地面に叩き付けられ、ラグマァァアアアッ! と叫びながら仰け反り跳ねる怪人。いや、反動で跳ねるにしては、高さが高い。
「爆発の勢いを利用したぁ!?」
「キモいわ!」
「とっても……キモい、です……」
くるくると、仰け反りポーズのまま、アアアアア……! と気合を入れるように声を出しながら宙を跳ぶ羊頭という異様な光景に、ドン引きながらも神夜子が制約の弾丸を放ち、雪花が影を伸ばす。
「アアバババアババババ!」
ビクンビクン痙攣しながら影に絡みつかれる怪人。
「よし! 痺れたわ!」
「バババアアアアアン!!」
と思ったら、痙攣しながら落下に合わせて、頭を高速で持ち上げた。残像が見える速度で羊頭が、尊に迫る。
「させへん!」
隼人が尊を押し飛ばして割り込んだ。倒れる尊の視界の中、隼人の顔面に羊頭がめり込むのが見える。何か凄く痛そうな音と共に、隼人の身体が吹き飛ばされて岩に叩き付けられた。
「きっつ! あ、これマジきっついわ!」
優子、しらたまとあらたか丸の回復が、地面に滴り落ちる血を止める。痛みと傷が治まり、ハッと顔を上げる隼人の視界にはとどめとばかりに一斉に攻撃を仕掛ける灼滅者達の姿。
「日本じゃこれも学業の内でね」
「ニンジャ!?」
迫る前衛陣に気を取られた怪人の背後に素早く回り込んだ織絵の手刀が麺を貫いた。同時に、雪花がチェーンソーを振り回してその身を抉っていく。この幼女怖い。
斬撃に仰け反った身体を横合いから、悠華の鬼の手が殴り飛ばす。吹き飛んだ身体を受け止めたのは、神夜子と尊の腕。走るブランメテオールの上にソフィが立ち上がる。
「飛びなさい!」
一度、地面に盛大に叩き付けてから、勢いをつけて上空に麺を放り投げる2人。ソフィが跳び上がった。
「アメちゃん……キーック!」
空中で、ソフィの蹴りが羊頭に突き刺さる。迸る閃光。
「ロシアに……栄光あれえええええええ!!」
ラグマァァァァアアン!
それを最後の叫びに、大爆発を起こすラグマン怪人。
「FINISH HIM!」
そして、尊のその言葉を背に、華麗に着地してヒーローポーズを取るソフィだった。
●ラグマン怪人……強敵だったっす
「今度ラグマンを食べてみるっすよ」
「麺料理はきらいじゃないけど……ボク、辛いのは苦手なんだ!」
爆発の煙を見ながら呟く優子と悠華。何か情報はないかと神夜子は海岸を調べてみるが、特にこれと言った物は見つからない。肩を落として戻ってきた彼女に、アメが差し出された。
「あ、あのぉ……アメちゃん食べますか?」
「……ありがと」
ふっと微笑んで口に入れる。甘さが疲れを和らげる。
「おー燃える戦いやったなー。飯でも食いに行こうぜー」
隼人を始めとした、既に帰り始めてる面々から声を掛けられて、少しは待ちなさいよと駆けていく。
「ま、奴が探してる怪人も気になるけどな」
と言ってから、尊は少し考える。
「ラグマンがうどんなら残りは餃子ときしめん……」
カオスだな!
「ロシア餃子……ペリメーニか」
……興味は無くも無い。
尊の言葉に織絵が反応した。それじゃロシア料理でも食べに行くっすか? あるかどうかわからないけど。と優子も乗っかってくる。
「ラム肉……食べそびれました……」
そういえば結局、戦闘は真面目だったからお肉食べそびれた雪花さん。残念そうに呟けば、よりロシア料理店を探す流れになって。誰ともなしに携帯を取り出して店を検索し始める。
(デザートには……しらたま、あんみつを……食べましょう……)
その背中を眺めながら、そっと思う雪花だった。
そして海岸から離れ際。尊が、後ろを振り返る。
「生まれ変わったら、俺達はウォッカを酌み交わす仲になれる気がするぜ……」
ラグマン、ダスビダーニャ!
作者:柿茸 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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