●ロシア怪人カチューシャVSデルタ・ザ・スピードコア
北海道某所。あるロシア怪人が上陸。海辺にあった喫茶店へずかずかと踏みいった。
「……そこにいるのは分かっている。貴様、ダークネスだな?」
「ダークネスだ? そんなモンはこの世に山ほどいるぜ。ゴミか石ころと一緒の呼び名だ、そう思わねえかい」
野外テーブルに両足をのせ、オシャレなカップでコーヒーを飲む男が居た。
髪をオールバックにし、ぎらついたシャープなサングラスをかけた男である。
「俺様はロシア出身、怪人カチューシャ。八本のロケット砲を連続発射する力をもつ戦争の権化よ。この俺様と出会ったのが運の尽き、いっそのこと店もろとも砕け散るが――」
背中に並んだ八連ロケット砲をがしょんと傾け――るより早く、男は彼の後ろに回り込んでいた。
コーヒーのカップと皿を両手で持ち、たちのぼる香りを優雅に楽しんでいる。
「貴様、いつのまに!」
振り向きざまに福装サブマシンガンを叩き付けようとした怪人カチューシャだが、その時には既に男は店内へ移動しており、カウンターに一万円札をぽんと置いていた。
「やぁお姉さん。ウマいコーヒーだったぜ。こいつで何かうまいもんでも食ってくれ。でもってコレ名刺ね。クラブでDJやってんだ、たまにだけど。今度見に来てくれな」
こめかみを二本指でこするようなキザな敬礼をする。
怪人は怒りに顔をゆがめて振り返った。
「貴様ぁ、俺様の名乗りを無視するだけでなく、存在ごと無視するつもりか……!」
怪人がロケット弾を連射。オシャレなカフェはたちまち吹き飛んだ。ガラス扉はもちろん、一人がけソファやウッドテーブル、壁にかかったビンテージもののレコードジャケットやハート型のオブジェ、カウンターに設置されたレジ機械やコーヒーメーカー、さらにはキッチンセットまでもが中を舞う。
「グハハハハ! まずは日本のダークネスを一人ほふったぞ! 女になどうつつを抜かすからだばかめ!」
ひとしきり打ち込んだあと、ぼろぼろになったカフェの前でげらげら笑う怪人。
が、しかし。
男は店員と思しき女性を優しく抱きかかえ、道ばたにそっと下ろしていた。
「怪我はなかったかいレディ。もめ事に巻き込んじまってすまねえな。店の分はこんど弁償するから、ちっと離れててくれるかい?」
悲鳴をあげて逃げ去る女性。
男はサングラスを外しながら振り向いた。
「通り過ぎるだけなら無視してやれたもんを。女とコーヒーをぶちこわす奴が俺は大嫌いだ。だが一番大嫌いなのは――」
男は手をくるりと返すと、サングラスからレコードディスクに持ち替えていた。
いつのまにかである。
「テメェのようにトロい奴だ」
突如男が七人に分裂した。
いや、そんなはずはない。あまりの速さにそう錯覚しただけである。
「セブンスハイロウか。そんなものがなんだ! まとめて爆ぜろ!」
八連ロケット砲炸裂。分裂した全ての男に命中して爆ぜた……かと思いきや。
怪人の真後ろに男は立っていた。
「おいおい、俺はまだ325BPMってとこだぜ」
「なっ……!」
振り返る、その時には既に腹と背中にあわせて二十箇所のスラッシュ跡がつき、すべてが一気にひらく。
「お、おのれぇ……!」
「もっと早い奴ぁいないかねえ。退屈だぜ」
男はため息をついて、空からはらはらと降ってきた名刺を掴んだ。
「やっべ、あの子名刺忘れていってるぜ」
名刺には『デルタ・ザ・スピードコア』と書かれていた。
●最高速の男、シャインザSC
夏も終わらぬこの季節、北海道に流氷がきたという。聞けばロシア怪人を乗せた流氷であり、彼らは暫く漂流した後北海道の海岸地帯へとばらばらに流れ着いたらしい。
その動きにあわせてアンブレイカブルたちが行動をおこしたらしく、流れ着いたロシア怪人たちとバトルに突入している。
「今回はそんな現場のひとつに乱入……というか、戦闘決着後のダークネスを叩く作戦だ。でもって、みんなに対応してもらうのがコイツだな」
大爆寺・ニトロ(高校生エクスブレイン・dn0028)は資料束をばさりと机に投げてよこした。
デルタ・ザ・スピードコア。
速さに拘ったアンブレイカブル。レコードディスク型のシールドリングを武器としており非常に強力とのこと。
「戦場は説明にあるように海岸のカフェだ。既にボロボロだけどな。それにみんなが到着する頃には怪人のほうが倒されてるだろう。なんせ手際の早いやつだ。だがラッキーなこともある。こいつは全て攻撃をよけてるように見えるが、かなり砲撃を食らってるみたいだ。多分カフェから出るときじゃないのか? 見た目は平気そうだがダメージの蓄積が激しい。やろうと思えば彼を灼滅するのも不可能じゃないだろう」
最後に、ニトロはデータコピーをみなに渡してから説明を締めくくった。
「なんにせよダークネスはダークネスだ。クールでいかしたやつだが、放って置くわけにはいかん。後は頼むぜ、みんな」
参加者 | |
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凌神・明(英雄狩り・d00247) |
置始・瑞樹(殞籠・d00403) |
犬神・夕(黑百合・d01568) |
風真・和弥(風牙・d03497) |
雨松・娘子(逢魔が時の詩・d13768) |
浦原・嫉美(リア充爆破魔法使い・d17149) |
泉夜・星嘉(星降り・d17860) |
茂多・静穂(ペインカウンター・d17863) |
●デルタBPM50
戦いの記録である。
故に、あらゆるものを省き、割き、飛ばす。
これは戦いの記録である。
●デルタBPM100
アンブレイカブル、デルタ・ザ・スピードコアが突如八人に増えて見えた――程度のことで犬神・夕(黑百合・d01568)は驚かない。
材質を疑うほど強靱なレコードディスクでもって高速斬撃を加えてくるのに対し地面スレスレに伏せて回避。顎と片手を地につけつつ倒立すると槍を軸に回転。自分を通り過ぎたばかりのデルタに対し黒死斬を繰り出した。
ほぼ真後ろからのスルーカウンターだというのに機敏な反応で身を転じたデルタは平たく突きだしたディスクでこれを防御。お互い流し合った結果になったが、灼滅者八人が八人よしなにとはいかぬもの。現実史実がそうであるように他七人が一斉にスラッシュアタックを食らう羽目になっていた。
破れかけた服のすそを掴む雨松・娘子(逢魔が時の詩・d13768)。引きちぎるかのように放り投げると別人と見まがう程の派手で開放的な装束に転じた。バク転を打ちながら着地。どこからともなく引っ張り出したギターを抱え始まりのコードを押さえて乱暴にひっかいた。
――逢魔が時、此方は魔が唄う刻。さあ演舞の幕開けに。
全人類がそうであるように、心を揺らす音楽が泉夜・星嘉(星降り・d17860)の傷を癒やしてくれた。無論穏やかな癒やしではない。血液を三倍速でポンプして強制的に自然治癒を促すかのような激しい音楽治療である。これを古くイタリアの言葉で舞踏療法と呼ぶ。
地に片手両足をつけてスライドすると、星嘉は霊犬はやぶさの動きを目で追った。追いつ、影業を発射。今まさに一人に収束するデルタの腰に影が巻き付いた。また別の方向から影業が巻き付き、肩や腰をぐるぐると縛り付けていく。新たな影はどこか巨大な手錠に似ていた。
鎖を強く引く茂多・静穂(ペインカウンター・d17863)。
反対側からも星嘉が影の縄を引き、デルタはついに動きを止めた。ここで終わってしまうのか。折れてしまうのか。
否、それほどつまらぬ世ではない。
デルタは両手にディスクを構えると、突如突風と化した。
●デルタBPM270
速さばかりが能では無い。
風真・和弥(風牙・d03497)は放ったクリスタルダイスを再びキャッチすると、小さく頷くと共に飛び込み前転をかけた。立ち上がりよりも先に後方へ剣を繰り出し、それは今まさに後方を通り過ぎんとしたデルタの背を切るに至った。
和弥はそれほどまでの超人的動体視力を有していたのか? ダークネスを超えるほどの瞬発力を? そう思われるのも無理はない。
だが見よ、彼の手の中にはダイスがほんの僅かに輝いているではないか。ある業界の人間にのみ伝わる説によるならば、手の中でダイスが振動する感覚を『魂の輝き』と呼び、その時転がしたダイスは必ずクリティカルすると言われている。
おわかりだろうか。先刻こそ、ダイスの女神が微笑んだまさにその瞬間だったのだ。
かような隙を見逃す浦原・嫉美(リア充爆破魔法使い・d17149)ではない。蛇の巻き付いたような杖を振りかざすと、輝く瞳からビームを放った。
嫉ましきを恨む目である。人類史において盛者必衰の理にあるは嫉妬と禍根、怠惰と慢心である。この四理のひとつを常に満たすのが嫉美という人間であった。――彼女自身かように壮大に語られることも希だろうに。
対してデルタは左右に残像を残しながらイナズマ機動をかけ嫉美へ接近。
しかしそれを許さぬが置始・瑞樹(殞籠・d00403)である。
仁王立ちにて塞がると、胸上にて拳を交差。巨大なシールドをもってデルタをはじき返してみせる。
中空を蹴って瑞樹の頭上をとるデルタ。自由落下の五倍に至る速度で急降下すると同時に分裂。七人がかりで瑞樹にディスクスラッシュラッシュを仕掛けた。
目を瞑って防御姿勢を維持する瑞樹。
彼の背後にてようやく停止したデルタだが、瑞樹は未だに防御姿勢のまま立っていた。
彼を倒したがゆえの攻撃停止ではない。現に彼はまだ立っている。
ではなぜか?
凌神・明(英雄狩り・d00247)が刀を抜いて急接近をかけてきたからである。
腰ひねり。うねる風圧。
先足踏み込み。砕けるコンクリート床。
歯噛み。小さく散る火花。
腕力み。吹き上がる蒸気。
全制限開放。
満を持して解き放たれたパワーとスピード、そしてインパクトが刀身に全て集中し、デルタの身体を上下真っ二つに切り裂いた。
切り裂いてしまった。
●デルタBPM573
サイキックエナジーの粒となって破裂したデルタ・ザ・スピードコア。
唯一残ったサングラスだけが地面に落ちて一度跳ね――次の瞬間には鳶の魚獲りの如くかっさらわれていた。何にか? 決まっている。デルタの指にである。
それまでの衣装とは打って変わって開放的になったデルタはサングラスをかけ直し、どこからともなく出現したダブルディスクテーブルへとレコードディスクをセット。常識ではまずあり得ない速度でレコードを高速回転させ、針を落とした。
十数メートルをコンマ2秒で埋め、夕の眼前にデルタが接近。ほぼ野生の勘だけで繰り出した拳が彼の拳と交差。しかしスピードとパワーに圧倒された夕は弾丸のように吹き飛び、後方のカフェへと突入。爆発的な破砕音を鳴らした。
かなり頑丈につくられたカウンターテーブルを真っ二つに砕いた末に、カクテルセットの収まった棚に背中を埋め、ソーダ水を頭から浴びる夕。
ぺろりと唇を舐めると、弾丸を超える速さでデルタが店内へ突っ込んできた。と同時に天井を突き破って舞い降りてくる瑞樹。晒した胸部にデルタの拳が激突。エネルギーシールドを展開。静かな湖に岩をたたき落とした化のような激しい波紋が波打ち、中央が破断。瑞樹の胸に拳が突き刺さり、背中から貫通した。
だがこれぞ置始瑞樹の真骨頂。自らの肉体を極限まで引き締めデルタの腕を拘束した。と同時に巨大な茨がごとき鞭剣がデルタに巻き付き、更に瑞樹にまで巻き付き、動きを完全に拘束してしまった。ギターを翳して後方より飛びかかる娘子。
――縛り痛めつけられて昂ぶったこの力今解放する。
――某にゃんこと申しますれば。
――『拘束』を『高速』に転じて。
――流離いの唄歌いに御座います。
――受けてください私のハイビート。
――どうぞどうぞ聞いていって下さいませ。
ギターを滅多打ちにする娘子。
更に店内へ突入してきた嫉美と星嘉が扇状に展開してビームを連続照射。加えて霊犬はやぶさの射撃が加わる。
とどめとばかりに飛び込んだ明と和弥が二本の剣をまるで同時に突き刺した。
デルタの身体を貫通。くたりと身体から力を抜くかと見せたその刹那から、デルタはさらなる加速を見せた。
●デルタBPM888
もはや人間が目で追えるような速さでは無い。まして脳で腕や足で追える速さではなく、本能と反射のみでようやく感じることのできる速度に達していた。
デルタの姿が消えた直後に和弥の後頭部へ延髄蹴りが炸裂。和弥はダイスの女神様を恨みながらすぐそばのソファに顔から突っ込んだ。ソファに顔から埋まり、そのまま爆砕するなどという経験をまさかしたことのある方はおられようか? 今しがた和弥がした経験がそれである。
その時には既に娘子がデルタの直上をとらえ音速の波動を発射。デルタはそれをピボットターンで回避――しつつ繰り出した手刀が、その時まさに斬撃を繰り出していた明の刀とぶつかった。否、明の刀を真っ二つにへし折って通過し、更にすぐそばまで接近した瑞樹の胸に一文字を刻み込んだ。
一瞬遅れて生まれた真空の圧力によって無理矢理に引き込まれ、さらなる反動で無理矢理に吹き飛ばされる。
そんな中を天井スレスレを走ることでかいくぐった夕が影業を展開。ジグザグに変形した狼の牙がデルタに食らいつく。更に静穂の大手錠までも巻き付いた。が、それらがデルタに接触するコンマ一秒前の段階で近づいたそばから破砕。粉みじんになって消滅した。
飛びかかる霊犬はやぶさ。既にその場にいないデルタ。星嘉の顔面めがけて繰り出された拳は既に振り切った状態にあり、星嘉が認識した時には壁に掛かった絵画を自らの身体で突き破り、テラス席のテーブルへ頭から突っ込んだところだった。
咄嗟に追撃を警戒してビームを連射。デルタはそれらのビームを拳状態から放った四連デコピンで全てはじき飛ばすと更に星嘉へスタンピングキックを繰り出した。星嘉の頭が砕かれる直前、首根っこを掴む嫉美。背負って投げて地面へ叩き付ける。デルタは中空で身をひねって両足から着地。逆に嫉美の腕を掴んで放り投げ、嫉美は店内のテーブルや椅子の残骸をボーリングのピンのごとく撥ね飛ばしながら地面をスライドしていった。
サングラスを掴み、握りつぶすデルタ。サイキックエナジーに還り、途端世界が急速にスローモーションへと流れ込んだ。
●デルタBPM999
厳密に言うならば、灼滅者は人間では無い。
ダークネスの力を受け入れ、克服し、人として人外の力を行使する者どもである。
故に、時として世界が数フレーム向こう側に見えることがある。
今がまさに、その時であった。
もはや、区切って語るに余りある。
時のるつぼを知る時だ。
――いざ。
デルタの拳が明の頬をとらえたと同時に刀を瞬間再生させ胸へと突き刺し背中へ貫通した切っ先を握り込んで連続のパンチを叩き込んだ瑞樹の腹と背と顔面と腿と肩にほぼ同時に蹴りを繰り出したデルタの首を握り込んで顔面へ拳を叩き込む夕の後ろ髪を掴んで瑞樹たちに身体ごと叩き付けたデルタを上から下まで真っ二つに切断する和弥の左右で同時再生したデルタが一人サンドアタックを繰り出すも双方同時に蹴り飛ばした娘子の両足をへし折るレベルで払ったデルタの両肩を押さえ込んで至近距離からビームを乱射する嫉美の背中に蹴りを放ち胸まで貫通させたデルタの胴体にかかった大手錠を引いて連続のパンチを叩き込む静穂の眼球をモロに狙って突き出された指が二センチ刻みで明によって切断されるも即座に再生し後ろ回し蹴りによって明の腰部分が消失するかに見えたが仁王立ちした瑞樹がそれを全て受け止め代わりに骨から内臓から全てかき混ぜて身体をへし折られるがまだ意識を保ち追撃にと拳を繰り出したデルタの腕を掴んで一本背負いに持ち込む嫉美だがデルタが身をひねって着地に至るその寸前で地面から夕の影が出現し大きく口を開けた狼に腕を一本丸ごと持って行かれたデルタだが追撃にきた和弥の突きをかわすでもなく突撃し身体に剣を貫かせたまま首根っこを掴んでスイングし娘子のギタースイングと相殺させ更に粉砕し左右から同時にしかけた星嘉と静穂の腕を握り込んで握りつぶしたその瞬間に瑞樹のドロップキックが炸裂し肩をむりやりはずされたデルタへ二本目のギターを叩き付ける娘子の頭を両足で挟んでねじり折るデルタの首を掴んで振り上げる星嘉と同時に拳をデルタの胸に突き込む静穂が後頭部を掴まれ地面に頭から叩き付けられ跳ね上がった破片を全て薙ぎ払って明の横一文字斬りがデルタの腰を切断し更に夕のナイフが足を足裏から腿の付け根まで縦向きに切断し更に和弥の剣がデルタの首を高速で跳ね飛ばした――。
端っこしか残らなかったカウンターテーブルにごろんと乗ったデルタの首。
静穂は剣を突きつけて言った。
「ここに来たのは?」
「おいおい、敵に質問しちゃうなよ。嘘つかれたら大変だろ? それより言いたいこと、あるんじゃねーの?」
「そうだな」
地面に横たわったまま、明は目を瞑った。
「これより先があったとするなら。見られぬことが残念だ」
「だよな」
デルタは笑って。
そして死んだ。
以上。
これは戦いの記録である。
作者:空白革命 |
重傷:置始・瑞樹(殞籠・d00403) 泉夜・星嘉(星降り・d17860) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年9月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 18/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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