ナインに萌えるの!

    作者:陵かなめ

    「こんにちわぁ。知地・ナイン(ともち・ないん)でぇす。よろしくお願いしますぅ」
     際どいバニー衣装を身につけた少女が、商店街の一角でチラシ配りをしていた。
     近づいてきた男性達にナインが頭を下げる。
     かがんだナインの胸元に視線が集まった。だが、女性らしい谷間はない。
    「もぉ。気にしているんだから、言わないでくださぃ。でもでも、小さいけど、ちゃんと、胸は、ぁるよ?」
     ナインは顔を真赤にしながら男性達に近づき、わざとらしく自身の胸を腕に擦り付ける。
    「お、おぅふ。この感触」
    「そそそそ、そうだよね。控えめな柔らかさが一番だよね」
    「ゴクリ」
     深く帽子をかぶった男、長身でメガネをかけた男、大きなリュックを背負った男。三人の男達は感激に震えた。
    「えへへ。ナインの事、応援してくれますかぁ?」
    「「「勿論です!」」」
     声を揃え、男達は叫ぶ。
    「じゃあ、この黒いカードをプレゼントするね。みんな、頑張って人を殺してきて!! そうしたら、ナイン、皆のこともっと大好きになるね!」
     キラキラと瞳を輝かせ、ナインは言う。
     黒いカードを受け取った男性達は歓喜の声を上げた。
     
    ●依頼
     教室に集まった皆を見て、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が深い溜息をついた。
    「臨海学校で騒ぎを起こしたHKT六六六人衆のこと、皆覚えてる? あのHKT六六六人衆がまた事件を起こすようだよ」
     黒いカードを持った男達が殺人事件を起こすのだ。今回の男達は、ただの一般人ではない。武器を持って、サイキックに似た攻撃を仕掛けてくるのだという。
    「これが、黒いカードの能力なのか、それとも別の何かなのかはわからないんだけどね。この男達の強行を止めて、カードを回収してきて欲しいの」
     男達はKOすれば正気を取り戻すから、心配はいらないということだ。
     さて、まりんの深い溜息の原因だけれども。
    「三人の男が、『ヒンニューサイコー』とか『ナインちゃん萌え~』とか奇声を発しながら一般人を襲うんだよ」
     想像するだけで、嫌な光景だ。
     ともあれ、冗談のような言葉を叫んでいるが、男三人が行うのは殺人だ。
    「はっきり言って、強化一般人の戦闘能力は低いんだ。けど、必ず取り押さえなくちゃね」
     男達が狙うのは、田舎のバス停でバスを待つ人達だ。ヒンニューがなんたらと叫んでいるが、老若男女関係なく襲う。ただ、慎ましやかな胸を持つ女性には、色々言葉をかけながら凶行に及ぶ。精神的な意味合いで、気をつけてほしい。
    「バス停には、二人の一般人が居るの。逃すか守るか皆で決めてね。バス停の近くに小さな待合室用の小屋があるから、そこで待ち伏せは出来るかも」
     バス停の周りは田畑が広がっており、他に人通りはない。
     なお、男達はカードを胸ポケットに入れているので、KOした後回収してほしい。
    「油断しなければ大丈夫だとは思うけど、皆頑張ってね」
     そう言って、まりんはペコリと頭を下げた。


    参加者
    錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)
    叢雲・秋沙(ブレイブハート・d03580)
    西園寺・奏(想い紡ぐ歌姫・d06871)
    五十嵐・匠(勿忘草・d10959)
    ルナール・シャルール(熱を秘める小狐・d11068)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    久瀬・悠理(鬼道術師・d13445)
    羽鳥・メイ(高校生サウンドソルジャー・d14823)

    ■リプレイ

    ●待合所にて
     のどかな田舎のバス停に、二人の一般人が並んでいる。二人は知り合いなのか、時折笑顔を見せながら話し込んでいた。
     そしてバス停近くの待合所。小さな小屋の中には、灼滅者達が身を潜めていた。
    「今度、は。うさぎ……。と。思ったけど。あの、カード。なんだ」
     ルナール・シャルール(熱を秘める小狐・d11068)の言葉に、叢雲・秋沙(ブレイブハート・d03580)が首を傾げた。
    「うーん、あの黒いカードって何なんだろ?」
     戦力に使うにはお粗末だし、混乱させるのが目的ならば本人達が出向いたほうが簡単かつ確実のように思う。
    「しかもHKT666じゃなくて淫魔が配ってるし」
    「そうだねー。他のダークネス組織も絡んでるのかなー?」
     と、羽鳥・メイ(高校生サウンドソルジャー・d14823)。
     HKT六六六人衆か淫魔か、それとも他のダークネス組織なのか。とはいえ、あまりにも情報が少なすぎる。カードを確実に回収して調べてみなければ。
     秋沙やメイの言葉にルナールもうなずく。
    「とりあえず。がんばる」
    「そうですよね。罪を犯そうとしている人を見過ごすわけにはいきません……止めて見せます」
     利用されている人が罪を犯すことは嫌だ。
     西園寺・奏(想い紡ぐ歌姫・d06871)は、今回のような事件、全力で阻止したいと思う。
     ところで。
    「ヒンニューってなんでしょう?」
     奏の純粋な眼差し、純粋な疑問。
    「うーん。……ヒンニューサイコー? よくわかんないけど、色んな人がいるんだねー」
     メイも、はてなと首を傾げた。
     不思議そうにする二人の隣で、月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)がどんよりとした表情を浮かべる。
    「『ヒンニューサイコー』だってさ……。はー。ヒンニューねぇ」
     口調は抑揚もなく穏やかな気もするけれど、なんとなくふつふつと怒りがわいているようにも見える。
    「女子の胸に大きさで優劣をつけるとは不届き千万な奴だ。ましてそれを街中で叫ぶなんて紳士の風上にもおけないね。きっちり成敗してくれようか」
     憤っているのは五十嵐・匠(勿忘草・d10959)も同じだ。
    「む、胸の大きさが、関係あるんですか……?」
     小学二年生の純粋な奏には、まだちょっとよくわからないことでもあるのだ。
    「うん。つまり、その、あれだ」
     匠が言葉を探すように仲間を見る。自然に、お互いの胸に視線がいってしまうのだけれども。
     玲と匠の視線がバチリと合った。
    「よし、潰そう」
     玲がきっぱりと宣言する。
    「賛成だ。是非、潰そう」
     匠も全面的に賛成した。
     しかし、ヒンニューにしか萌えることができないなんて。
    「私は可愛い女の子ならどんな娘でも愛でる自信があるよ」
     それに比べて、と久瀬・悠理(鬼道術師・d13445)は言う。ヒンニューサイコーなどという珍妙な男共は、物理的にボロ雑巾にしてからカードを回収すればいいと思う。
    「「ボロ雑巾、賛成」」
     玲と匠の声が揃った。
     さて、そんな待合室の片隅。
     静かに地面にのの字を書く錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)の姿があった。
     琴弓だって、好きで無いわけじゃないんだよ。毎日牛乳だって飲んでるんだよ。けれど、ほんのちょっと成長しきれていないんだよ。
     とにかく、何かもう本当にいろいろ許せない敵である。
     灼滅達は敵が来るのを今か今かと待ち構えていた。

    ●乙女の敵
     それからしばらく後、バス停に近づく足音が聞こえてきた。
    「あ、いた……。あいつらを殺せば……」
    「ぐふっ。ナインちゃんが、僕のものに……っ。ぐふふ」
    「早く片付けよう」
     ねっとりとした不快な口調で会話する男三人。
     待合所から気配を探る。帽子、メガネ、リュック。聞いていた特徴そのままの三人だ。間違いない。あれが、今回倒す敵だと、確信する。
    「来る」
     短いルナールの言葉と、男達が走り出すのはほぼ同時だった。
    「ちょっと危ない3人組が居るみたいなんで、逃げてー!」
     待合所から飛び出し、玲が一般人2人に声をかける。
     同時に悠理が周囲に殺気を放った。
    「うおぉぉぉぉっ」
    「ひひ、ヒンニューを、このてにぃぃぃ」
    「まぁてぇぇぇぇぇ」
     男達も、バス停めがけて大声を張り上げながら突撃してきた。
    「え、なに?」
    「ひっ」
     バスを待っていた一般人は、一瞬突然の事態に困惑したようだった。しかし、男達の様子と悠理の殺気が効いたのだろう、すぐに顔色を変えて逃げ出した。
    「あっ。待て、待てー!!」
     一般客を目指していたメガネが殊更大きな声を上げる。
     その間に、小さな体を滑り込ませたのは奏だった。
    「貴方達の相手は私達がします!」
     無銘斬艦刀とブラスターロッドを構え、オーラを纏う。
     同じように、琴弓も男達の前に立ちふさがった。
    「あの人達は傷つけさせないんだよ」
     2人、気丈な態度で男達を見据えた。仲間達も次々に飛び出し、一般人を逃がす。
    「フェルヴール!」
     ルナールは叫び、戦う力を解放した。取り出したフルートを器用に回し、構える。
     一般人の姿が遠く小さくなった。
    「殺人はいけないんだよ~?」
     メイが念のため、戦場の音を遮断するようESPを使う。
     秋沙は赤いオープンフィンガーグローブを着用した。
    「あの人達に手出しはさせないよ」
     口調を変え、戦いに挑む。
     一般人を見送った玲も、男達に向き直った。
    「我が前に爆炎を」
     武器を構え、男達に対峙する。
    「世の女性に喧嘩を売るとは大変いい度胸だね」
     六太(霊犬)を従え匠も姿を見せた。
     灼滅者を前に、男達は戸惑いの表情を浮かべる。
    「なんぞ、このお子様たちは?」
    「さぁ? 僕達の邪魔をするのかな? ……ってぇ、ヒンニューっ娘じゃないですかぁ」
     帽子とメガネが、顔を見合わせ瞳を光らせた。
    「……」
     胸の辺りを凝視され、琴弓の口の端がひくりと小さく痙攣する。いや。琴弓は、男達の言葉を無視することにした。
    「あっ、こ、こ、この子もあの子もヒンニュー」
     リュックもまた、仲間とともに倒錯的な笑みを浮かべ頬を赤く染めた。
    「「「おお。おおお。サイコー、ヒンニューサイコー」」」
     男達の口は減らない。好みの女性陣(主に胸の辺りで判断)に熱い視線を注ぎ、腕を上げ下ろして喜んでいるようだ。
     だが、全然ちーっとも、これっぽっちも、嬉しくない。
    「へー、貧乳最高。へー。私も大きいほうじゃないけどさ、へーそういう事言っちゃうんだ」
     玲の目が若干据わっている。
    「……とりあえず、潰す! 女の敵! 再起不能にしてあげるよ!!!」
     B.Bを構え、魔法光線でリュックを打ち抜いた。
    「あっ。そんな、いきなり、熱いものがっ」
     リュックは吹き飛ばされたが、すぐに体をくねらせ体勢を立て直す。
    「西園寺奏、いきます!」
     間髪入れず、オーラを拳に集めた奏が、凄まじい連打でリュックを再び吹き飛ばした。
    「正気に戻ってください!」
     言葉をかける奏に、リュックが答えた。
    「ふふふ。君も男子ならいずれ気づくはずだ。貧乳に全てを捧げる日が来ることをっ。……捧げる。ぼ、僕のナ、ナニを捧げようかな。ふふふ」
     リュックの太めなボディから、じっとりと汗が浮かび上がる。大げさな身振りでそのようなことを言うため、リュックの汗がかなりの勢いで飛び散った。
     決して体で受け止めたくない。
     灼滅者達は、とっさに体をひねって汗をよけた。

    ●ただ倒す。とにかく倒す。
     男達との戦闘は続く。
    「そういう個人的な趣味はひっそりとやってくれ」
     不快な主張を繰り返すリュックに、匠の影が伸びる。触手状に分かれた影が、リュックを縛り上げた。
    「はぅん。し、縛られてる」
    「……それは、わざと言っているのか」
     何となく、攻撃をしているのに不愉快な気分になった。
     やはり、精神的にも一応BS的にも、リュックを潰さねばならない。
     悠理はバトルロッドを構え、リュックとの距離をぐんと縮めた。
    「君たちのような愛で方なんて、理解できないんだよね」
     むしろ、可愛い女の子はみんな素敵だと思う。勢いのまま、ロッドで殴りつけた。そして、魔力を流し込む。
    「くっ……」
     リュックはもがいた。もがき、手を伸ばす。
    「あの、ヒンニュー、一度でいいから、揉みたかった……」
     だが、その手は届かず、リュックはその場に倒れた。
    「おおおおおー! 同士よー!! その心、僕が、代わりに伝えよう!!」
     リュックの散り様を見て、帽子が滝のような涙を流す。そして、暑苦しい視線をメイに向けた。
    「その美しい胸のライン。余分な肉のついていない理想の乳。すばらしい!!」
     びしっと、メイの胸を指差す。
    「わーい、褒められましたー」
     メイはにこにこと笑顔を浮かべた。
    「さ、さぁ。その胸をぼ、僕に差し出して……」
     はぁはぁと荒い息をしながら、帽子がわきわきと指を動かし、メイににじり寄る。
    「……なんだろー?」
     帽子の男はメイのことを褒めているはずなのに、何かもやもやした思いがこみ上げてくるような……?
     ひらりと帽子の手つきをかわし、ダンスのステップを踏む。何となく触りたくないけれど、踊りながら攻撃を繰り出し帽子をけん制した。
    「あっ、あっ、そ、そんなところを、攻められたらっ、ぼ、僕っ」
     ダメージを受けながら変な声を上げる帽子に、ルナールも攻撃を仕掛ける。
    「あなたが好きなのは……揉むほどないでしょ」
     言いながら、メイのステップにあわせるように踊った。
     二人の攻撃が、帽子を2歩3歩と後退させる。
    「くっ。何もわかっていないんだな。普通では揉めないような乳を、寄せてあげて無理やり揉む。これこそが、真の……」
     言い終わらないうちに、秋沙のヴァルキュリアスが帽子を捕らえた。
     螺旋のごとき捻りを加えた突きが、帽子を穿つ。
    「そういうの、もういいから……沈んで!」
    「くぅ……。無い乳を恥ずかしがる女子が、萌えるのに……。何故わかってくれない」
     それが、帽子最後の言葉だった。
     最後に残ったメガネがキリリとナイフを構える。
    「くっ。同志達の思い、受け取ったぁぁ!!」
     そして、真っ直ぐに琴弓に向かってきた。
    「きき、君の胸、可愛いねぇ。いいなぁ。小さいのいいなぁ。ち、ちょっと、よく見せて……」
    「な……!」
     無視しようと思っているけれど、いちいち気に障る言葉だ。琴弓は相手の動きを見ながら、一歩後退した。
     その間に六太が滑り込み、射撃でメガネの進撃を食い止める。
     一瞬できた隙。玲が手にしていた武器を投げ、メガネの懐に飛び込んだ。
    「残るはキミだけ、行くよっ」
     こぶしに宿した雷で、力の限りアッパーカットを繰り出した。
    「ぐ、はぁ」
     メガネの身体が、綺麗な弧を描いて宙に舞う。玲はそれを見ながら、落ちてきた武器を再び握った。
    「逃がさないよ」
     その身体目掛け、ルナールが雷をぶつけた。
    「ぎゃんっ」
     メガネは空中で一跳ねして、地面にたたき付けられる。
     そして、身体をうまくコントロールできないのか、落ちてきた勢いのままゴロゴロと転がった。
    「あ、あ、せめて、その胸を見るだけでも……」
     転がった先に、琴弓が控えていた。
     この状況でもなお都合の良いことをつぶやくメガネに、ついに琴弓が口を開く。
     もう、我慢できない。
    「お兄さん、仏の顔も三度までって、知ってる?」
     大きく腕を振り上げ、握り拳を作る。後ろに控えるは、琴弓の影だ。
    「貧乳貧乳って好きで無い訳じゃないんだよ!」
     そして、力いっぱい殴りつける。
     メガネは吹き飛んだ。間違いなく吹き飛んだ。そして、声も無く地面に沈んだ。
    「よーし、終わった終わった。カードを回収するんだよね」
     悠理の言葉に、仲間達は頷きあった。

    ●戦い終わって
    「見つけた……これのせいで皆が」
     奏が目を回して倒れている男の懐から、黒いカードを取り上げた。匠とルナールもカードを見つけ出し、同様に回収する。
    「知らない、人に、手出しされても、困るから」
     ルナールは言う。
    「う……うーん」
     そうしている内に、帽子の男が他の2人よりも早く意識を取り戻したようだ。
    「お兄さん、お話聞かせて欲しいんだよ」
     琴弓の問いかけに、男はぼんやりと辺りを見回した。
    「カードを渡された人に、どこに行けば会えるのかなー?」
     メイが首を傾げ問いかける。
    「……カード……? ああ、たしか……。うーんと、何だっけ?」
     どうにも記憶があやふやなようで、しきりに首をひねるだけだ。
    「この様子じゃあ、目新しい情報はないだろうな」
     匠の言葉に、玲が頷いた。
     残る2人の男も目を覚ましたが、やはり記憶があいまいで確かな情報は聞き出せなかった。
    「さて、それじゃあ帰るか」
    「そうだね。学園に帰ってきちんとカードを調べたほうがいいよね」
     気分を変えるように玲が言うと、秋沙もそれに同意した。
     皆が帰り支度を始めたその横で、悠理が空を見上げ叫んだ。
    「ナインちゃん待っててね、次はそのバニー服を合法的に脱が……じゃなかった、灼滅してあげるからね!」
     それがフライングシリーズなら、灼滅すれば溶けるはずなのでは?!
     悠理の考えが正しいかどうかはともかく、灼滅者達は無事に依頼を終えた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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