ロシアからの招かれざる客

    作者:天木一

     砕けた流氷群が北海道沿岸部に漂着する。そこから一人の人影が大地に足を踏み入れた。
    「ふむ、ここがヤポンか。温かなところだな」
     口髭を摘むと、その豊かな髭が揺れる。
    「さて、それではまず散策でもするかな」
    「待て! 貴様ロシアン怪人だな!」
     歩き出そうとした影に呼びかける声。崖を見上げればそこには筋骨隆々の上半身裸の男が待ち構えていた。
    「いかにも、我が名は怪人ビーフストロガノーフである。そう言う君はアンブレイカブルかな?」
     渋みのある声が響く。恰幅のいい体にコートを着込み、ロシア帽を被った怪人の顔は、よく煮込んだビーフで出来ていた。そこから立派な口髭がなびく。
    「その通りだ。分かっているなら話が早い、ここで死んでもらう!」
     アンブレイカブルが崖から跳躍し襲い掛かる。
    「ふむ、長旅で少々肉が硬くなっていたところだ。運動不足解消にはちょうど良かろう」
     
    「フンッ! セヤッ!」
     鋼の如き拳が、蹴りが怪人を打ち砕こうと必殺の連打を繰り出す。だがその攻撃は悉く外れた。
     見ればアンブレイカブルの体にはどろりとした茶色い粘着性の液体が絡みついている。それが身体能力を封じているのだ。
    「威勢の良かったのは最初だけだったようだな」
     怪人は怪我を負っていたが、まだまだ余裕のある笑みを見せる。対するアンブレイカブルは怪我は殆ど無いが、息が切れ、重石を乗せて動いているように体が鈍っていた。
    「まだだ! この程度で俺の攻撃を封じたと思うなよ!」
     アンブレイカブルは力を込め全身に気を漲らせる。拳を固め一撃必殺を狙う。
    「さて、ではこちらも次の攻撃に移るとしよう」
     怪人の右手から無数の白い粒が飛ぶ。それはライス! 粘着性のあるライスが既にソースの粘液に塗れた男の足にへばり付き動きを封じた。
    「ぬうぅ!」
     男はそれでも一歩を踏み出す。そこに怪人の左手から細長い糸のような物が飛び出る。それはパスタ! 弾力性のあるパスタが腕に絡み付きその拳を封じた。
    「ば、ばかなっ!」
     足を、腕を、体の動きまで封じられ、アンブレイカブルは身動きが出来なくなった。
    「では、これで終りにするとしよう」
     怪人の口から大量のソースが噴出す。
    「ぐわぁっ体が! 焼ける!」
     どろどろとした液体がアンブレイカブルを覆い尽くし、暫くして液体が地面に広がると、そこには何も残っていなかった。
    「やはりビーフストロガノフにはライスもパスタも良く合うものだ」
     満足気に怪人は髭を撫で付けると、北海道への侵入を果たしたのだった。
     
    「やあみんな、夏休みも残り少ないのに集まってもらって悪いねぇ」
     夏休みの教室に集まった灼滅者を能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が迎える。
    「まだ猛暑日が続くのに、北海道に流氷が流れ着いた話は聞いたかなぁ?」
     最近やってきているロシアからの流氷。元は巨大な流氷だったが何らかの原因で砕け、無数の流氷が北海道に漂着している。
    「そう、ロシアのご当地怪人を乗せた流氷だよ。それがまた流れ着くみたいでね」
     このままではロシアのご当地怪人の侵入を許してしまう。
    「それを迎撃にアンブレイカブルも動き出しているんだけど、今動けば漁夫の利を得るチャンスだよね」
     そう言って誠一郎は悪戯っぽい笑みを浮かべる。 
    「両者が戦って残った方を倒せば、両戦力を減らす事になるんだ。みんなにお願いしたいのはそれなんだよ」
     上手く行けば一人勝ちの状況になるだろう。
    「戦闘になるのは上陸した北海道北部の海岸だよ。戦いで残るのはロシアン怪人ビーフストロガノーフ。勝ち残るだけあって中々の実力みたいだね。でも傷ついたところを襲撃すれば十分勝てる相手だと思うよ」
     戦闘が終わるまで見つからないようにする必要があるだろう。崖で周囲は緑が茂っているから隠れる場所は十分にあるだろう。
    「今回の戦いは上手くすれば一気に2体のダークネスを減らせるんだよ。新学期早々に大変かもしれないけど、頑張ってね」
     誠一郎はそう言って灼滅者達を見送った。


    参加者
    幌月・藺生(葬去の白・d01473)
    天羽・桔平(信州の悠閑神風・d03549)
    ヘカテー・ガルゴノータス(深更の三叉路・d05022)
    庵野・是音(闇色ウィケッド・d12487)
    三和・悠仁(影紡ぎ・d17133)
    伊藤・実(高校生サウンドソルジャー・d17618)
    渚・夜深(深い海の灯台・d17913)
    リリアーシャ・コーネリア(這い寄る幼女・d18149)

    ■リプレイ

    ●ダークネスの戦い
     緑茂る夏の北海道。広々とした景色が広がる広大な大地。
     普段なら何も無い長閑な場所。そんな北の海岸で、今は人知を超えた激しい戦いが繰り広げられていた。
    「どうしたね、アンブレイカブルの力とはこの程度なのかね?」
    「口だけは達者なようだな! 次の攻撃でその口を二度ときけなくしてやる!」
     筋骨隆々なアンブレイカブルが怒涛に攻め、美味しそうな肉の顔をした怪人が強かに守る。一進一退の戦い。そんな様子を陰に隠れて観察する者がいた。
    「おーおー闘ってるなァ」
    「ロシアン怪人さん頑張れ!」
     嬉しそうな声を庵野・是音(闇色ウィケッド・d12487)が漏らす。早く戦いに参加したいのを我慢して観戦していた。
     その横ではこっそりと幌月・藺生(葬去の白・d01473)が怪人を応援する。
    「なんか、すごい戦いなんだよ……」
     天羽・桔平(信州の悠閑神風・d03549)は息を呑んで、普段見ることの無いダークネス同士の戦いを見守る。
    「……ロシアからの客人か」
    「うーん……ロシアの有名な料理だから、結構強いのかな」
     地球温暖化の本を読んでいたヘカテー・ガルゴノータス(深更の三叉路・d05022)は、ダークネス同士の戦いが始まると本をしまってその様子を眺める。
     初めての海外ご当地怪人に、渚・夜深(深い海の灯台・d17913)は興味深そうに注視する。
    「あれがビーフストロガノフで出来た怪人か……」
     牛丼とどう違うのかと、その差が分からぬ伊藤・実(高校生サウンドソルジャー・d17618)が首を傾げる。
     そうして灼滅者達が静かに隠れて様子を窺っていると、怪人が反撃に移りダークネス同士の戦いが佳境に入る。
    「そろそろ決着が着きそうですね、皆さんいいですか?」
     準備が出来ているかと、三和・悠仁(影紡ぎ・d17133)が緊張した様子で仲間を見渡すと、皆も準備完了していると戦う顔になって頷く。
    「行くよ!」
     掛け声と共にリリアーシャ・コーネリア(這い寄る幼女・d18149)が足を踏み出すと、まるで道を空けるように植物が動く。続いて仲間達も隠れた場所から一斉に飛び出す。
    「では、これで終りにするとしよう」
    「ぐわぁっ体が! 焼ける!」
     ダークネスの戦いに決着が着いた。ソースの中、溶けて消えてしまったアンブレイカブルを前に、怪人は満足気に髭を撫で付けた。

    ●ロシアからの客
    「御用だ御用だ~っ」
     藺生が捕り物のように掛け声を出して武器を構え怪人と対峙する。周囲には同じように灼滅者達が展開している。
    「君達は何者かね? アンブレイカブルの仲間ではなさそうだが……」
     怪人が牛肉の顔に皺を寄せて尋ねる。
    「流氷に乗ってきたのかな、遠路はるばるお疲れ様。日本のご当地怪人です。……嘘です、ご当地ヒーローです。とりあえずさっさと帰ってね」
    「ようこそ日本へ! ……でも、次は僕らが相手なんだよ……!」
     リリアーシャと桔平が堂々と前に立ち、これ以上日本の土地で好きにはさせないと戦いの意思を見せる。
    「ほう、次々と……どうやら我らがこの地にやって来るという情報が漏れていたようだな」
     怪人は髭を弄ったまま灼滅者達を見渡す。
    「失礼ながら先の戦いは見学させてもらったよ。実に見事だった。散策を邪魔して申し訳ないが、私達とも一戦、手合わせ願いたい」
     ヘカテーが礼儀正しく怪人に申し入れる。
    「まだ闘れる元気残ってるよなァ?」
     怪人が返事をする前に一気に踏み込み、是音は拳に雷を宿して拳を突き出す。
    「なかなかの一撃。だがまだ若いの」
     怪人はその一撃を左手から伸ばしたパスタで受け止める。ゴムのように弾力性のある麺に弾かれ、反動で是音の体は後ろに下がる。
    「よかろう、戦いが望みならば受けて立とう。我が名はビーフストロガノーフ! この名を刻んで果てるがいい」
     自ら名乗ると、掲げた右手から吹雪のようにライスが舞い散る。是音を襲う白い粒に光の刃が飛来してぶつかる。それはリリアーシャが放った光の剣の一撃だった。衝撃で勢いが弱ったところへ藺生と霊犬のクロウが立ち塞がる。
    「いくよくーちゃん!」
     藺生は縛霊手で、クロウは咥えた刀でライスを受ける。ライスが足にへばりつき動きを止めると、怪人はパスタを放とうとする。
    「……正々堂々戦り合うと分が悪そうなんでな、今狙わせてもらう。……最も、それでも楽観視できるわけじゃねぇだろうがな」
     そこに悠仁が横手から仕掛けた。刀を手に上段から斬りつける。それを防ごうとするパスタを斬り裂いた。だが切っ先が体に届く前に怪人は間合いを開ける。
    「……俺の腕じゃ、『二の太刀要らず』とは言えねぇか……。まぁ、俺の役目は殺すことじゃねぇからな」
     悠仁は深追いをしない。既に続いて夜深が怪人に仕掛けていたからだ。夜深の影が伸びて怪人の体に巻きつくと、怪人の自由を奪おうとする。
    「漁夫の利ってな。卑怯? いやいや、戦術ってやつさ。こちとらよわっちい人間様だからさ」
     その間に実はヘラヘラと笑いながら、藺生とクロウの周囲に夜霧を展開して傷を癒す。
    「日本は信州のご当地ヒーロー、ポレポレ☆きっぺー。勝負だ!」
     桔平がオーラを纏って突っ込む。怪人はライスで迎撃するが怯まずに一気に踏み込むと、拳の連打を放った。怪人はパスタで受けるが、幾つもの拳がパスタを掻い潜り体に届く。
    「むぅ……ふんっ」
     怪人は口から大量のソースが噴出す。桔平は拳を止めて地面に体を投げ出すように転がって逃げた。
     それを追うようにソースの方向を変えようとした時、ヘカテーが槍を怪人目掛けて突き入れる。
    「まずは一撃」
     切っ先が怪人の腹に捻じ込まれ、槍を捻ると肉汁が滴り落ち、地面がじゅっと蒸気を発して溶けると、肉の香りを充満させる。
    「やりおる。だが!」
     ヘカテーに向けて怪人のパスタが伸びる。槍に絡み付き腕まで巻きつこうとした時、ヘカテーは槍を手放して距離を取る。槍は地に転がった。
    「パスタを伸ばしたら、こちら側が隙だらけですよね。とりあえず海の藻くずになりますか?」
     怪人の左手側から夜深が接近し、魔力を込めた杖を振り抜いた。杖の強打は怪人の肩に当たり骨を砕く。その勢いのままもう一撃しようとすると、目の前にソースが飛んでくる。怪人は体勢を崩しながらも反撃の一撃を放っていた。直撃する直前目の前に割り込む影。
    「くひひひ、ご当地怪人ってのはおもしれぇ攻撃すんなァ♪」
     是音が怪人との間に立ち、巨大な剣でその液体を受け止めていた。だが全てを防ぐ事は出来ずに液体が体を焼くように溶かす。
     だが是音は怯みもせずにそのまま大きな剣を振り抜いた。剣圧と共に鉄の塊が迫る。
     怪人はソースを止め、間合いから離れようとする。そこへリリアーシャの影が刃となって斬り掛かる。刃は怪人の体を斬り裂き肉汁とソースが溢れ出す。
    「美味しそう……じゃなくて! 頑張るよ、殲滅だよ殲滅!」
     思わず涎が出そうになるリリアーシャは、気を取り直して戦いに集中する。

    ●美味なる肉料理
    「思ったよりもやるようだな。侮っていた事を詫びよう……肉も十分ほぐれてきた頃合だ。ここからは全力でお相手しよう!」
     怪人は纏わりつく影をパスタで引きちぎると、手で顔肉の感触を確かめるように触り、膨張するように肉を膨らませる。そしてひび割れた肉の割れ目から放射状に拡散してソースが噴出た。
    「我が熟成された濃厚ソースを存分に味わうといい!」
     単発よりも個々の威力は劣るが、粘着力のある液体が近くにいた藺生、桔平、ヘカテー、是音、夜深に降り掛かる。
     藺生と是音は武器を盾にして前に出る。そこに2体の霊犬も加わり、他の仲間には攻撃が届かないよう身を挺して守る。
    「くひひひ、いいなァ……いまの攻撃最ッ高だぜぇ♪」
     大剣を盾にして是音が笑う。粘つくソースをそのままに大剣を横薙ぎに振るった。怪人はその攻撃をパスタで受ける。だが是音は体重を乗せてそのまま押し切った。怪人は吹き飛ばされ地面を転がる。
    「おいおい、ちょっとソース噴出しすぎだろ」
    「くらげちゃん、がんばってね」
     美味しそうなソースの匂いが漂う中、実は傷を受けた仲間に夜霧を纏わせ痛みを和らげる。
     夜深が声を掛けると、後ろに控えていた霊犬の眼が輝き、藺生の体に付着したソースの粘着力を消してしまう。
     倒れた怪人の死角から悠仁が近づく。だがその時怪人の右腕が挙がった。
    「ヤポネはライスが主食なのだったな。ならばたっぷりと馳走してやろう! 存分に喰らえぃ!」
     怪人の手から白い粒が噴出し周囲を覆う。悠仁は咄嗟に腕をクロスしてガードするが、あっという間に体が白く覆われる。そこに向け怪人はソースを吐こうとした。だがその足元から影の刃が怪人の足を貫き縫い付けた。
    「何だと!?」
     影の先を見れば、いつ仕掛けたのか悠仁の足元から伸びていた。
    「……窮鼠猫を噛むってとこか。多少は効くだろ? 」
     ライスにまみれながらも悠仁は笑ってみせる。怪人の注意が悠仁に向いた瞬間、リリアーシャの放つ光刃が飛来し怪人の背中を斬り裂いた。
    「もう! こんなに美味しそうな匂いを撒き散らすなんて! お腹空いてきちゃったよぉ」
     更に牽制の光刃を放ちながら、リリアーシャはお腹を減らす。
    「ならば、浴びるほど喰らわせてやろう」
     リリアーシャに向けてソースが吐き出される。その射線上に藺生が割って入り、影を壁にしてソースを受けた。ソースは影を侵食して貫通し、粘りとした粘液が纏わりつき体を焼く。
    「……っ痛いですけど、でもまだ耐えられます。次はこっちの番ですよ!」
     藺生の指輪が魔力を帯びて輝く。禍々しい輝きが怪人を包む。すると怪人の体が石化していく。
    「この国に何の用か知らないけど、ビーフさんにこれ以上日本の地は踏ませないのだ!」
     桔平は刀を抜く。美しい刃紋が炎に包まれる。鋭く踏み込むと、石化の呪いによって動きの鈍る怪人を袈裟斬りにする。左肩から肉汁が噴出す。
    「小癪な!」
     怪人は全身に力を込めて石化を破ると、傷口をライスで塞ぎながら間合いを開ける。
    「回復する間は与えん」
     ヘカテーが鋼の糸を放つ。怪人は飛び退くように位置を変えて躱す、だがそれは敵の行動を誘導する為の誘い。ヘカテーは矢のように駆けると、動きの止まった怪人の腹に拳を突き刺し、続けて連打を浴びせる。
    「ぐっぬぅ……!」
     殴られながらも怪人がパスタを鞭のようにしならせて放ち、ヘカテーを吹き飛ばす。
    「日本の浜辺の平和は私が守りますね、たぶんそういう使命なので」
     攻撃の手を緩めまいと夜深がとぼけた台詞と共に仕掛ける。影がいつの間にか怪人の足元に伸びていた。蛇のように足を絡め取る。
    「今ですよ」 
    「ずっと闘っててぇけど、そろそろ決めてやろうぜぇ?」
     ヘカテーのお膳立てに、是音が巨大な剣を大上段に構えた。全力で振り下ろされる刃。当たれば鉄をも両断する一撃は、怪人の横に落下して大地を抉る。
     怪人は咄嗟にパスタを剣に巻き付けて、ぎりぎりの所で軌道を変えていた。
    「くひひひ、よく避けたなぁ!」
     嬉しそうに笑みを見せる是音は、そのまま怪人を蹴り上げた。そこに魔法の弾丸が撃ち込まれる。
    「鈍れ、軋め、錆び付き、崩れろ」
     悠仁の撃った弾は脇腹に命中し、魔力が侵食して体を縛る。
    「ええい、ちょろちょろと!」
     痺れる腕を動かし、怪人が右手からライスを放とうとする。だがその腕が吹き飛んだ。リリアーシャが魔力を込めた杖を叩き込み、その手を砕いたのだ。
    「……うう、近づいたら余計にお腹空いたよぉ」
     素早くリリアーシャは間合いを離す。入れ替わりに夜深が影を伸ばして攻撃しようとすると、怪人の顔が膨張した。
    「もう一度特上ソースを味わえ!」
     顔中からソースが拡散して噴き出る。それを藺生とクロウが前に出て体で受ける。
    「守るよくーちゃん!」
     噴き出るソースを受け止めると、体中を焼いて溶かすような痛みが奔る。すぐさま他の霊犬2体が体を汚染するソースを打ち消した。
    「大丈夫だ、俺がそんな傷すぐに治してやるぜ!」
     実が傷の深い藺生に符を飛ばし、治療と守りの力とする。
     だが傷が治るよりも前に怪人はパスタを追い討ちに打ち込む。その一撃を桔平が斬り捨てた。切れたパスタが宙を舞う。
    「これがご当地ヒーローの力だよビーフさん」
    「これしきで勝ったつもりか!」
     怪人がソースを飛ばすと桔平は炎の剣で薙ぎながら身を躱す。
     そこにヘカテーが拳を握って踏み込む。口を開け間合いに入る前に迎撃しようとする怪人。怪人がソースを出す方が僅かに速い。だが攻撃が届いたのはヘカテーが先だった。
     踏み込みで落ちていた槍を撥ね上げると手に取り、それで敵を突いたのだ。穂先が腹から背に抜けた。
    「ぐぅ……おお!」
     どくどくと肉汁を垂らしながら、怪人はよろめく。
    「日本では怪人は最後に必ず負けるのがルールですよ。知ってました?」
     夜深の影が一瞬巨大に膨れ上がり、怪人を飲み込む。
    「さァ、避けれるもんならもう一度避けてみろよぉ♪」
     是音が重々しい剣を真上から叩き下ろした。
     地響きと共に地面に穴が開く。そこには二つに分断した怪人が居た。
    「ば、馬鹿な……このロシアン怪人である……ビーフストロガノーフがぁ」
     そのままバランスを崩し、背後の崖から海へと落ちていく。水中に消えると爆発と共に大きな水柱が立った。

    ●北海道の美味しいもの
    「ロシアン怪人、私は詳細を知らないのですけれど、何をしに来たのでしょうかね?」
     何にしても私たちが居るから諦めて貰いましょうと、藺生が崖を覘く。
    「……さて、他の場所は大丈夫でしたでしょうか」
     同じようにやって来た、他の怪人達との戦いがどうなっているのかと、悠仁は思案する。
    「……うう、お腹が空いてもう動けないよー」
     リリアーシャがお腹を鳴らして座り込んだ。
    「なぁみんな、ご飯でも食べに行かないか? パスタとライスどっちがいい?」
    「そうしようぜ、敵みてたらすげぇ肉食いたくなってきた……ジンギスカンくってかないか? カワイコちゃん以外でもいいぜ」
     ヘカテーが街に出る頃にはちょうど昼になっているだろうと提案すると、実が賛同して皆を見渡す。
    「行きます! 行きましょう! 早速食べに向かおうよ!」
     がばっと立ち上がったリリアーシャがテンションを上げると、皆も敵の放つ匂いにお腹を空かせていたのか、揃って頷く。
    「いいですね。ビーフストロガノフはないでしょうけど、美味しいものは色々ありそうね」
    「北海道はおいしいものいっぱいだもんねー♪」
     夜深と桔平も乗り気でどこの店に行こうかと皆で話始める。
    「あ~、愉しかったなァ♪」
     是音は満足気にんーと伸びをすると、皆の後に続いて歩き出す。
     海岸では怪人の爆発と共に流れ着いた流氷の欠片も消え、平和で長閑な景色が戻っていた。
     そんな日常を守った灼滅者達は、楽しそうに食事に向かうのだった。 

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ