不良アンブレイカブル、北海道へ

    作者:時任計一

     場所は北海道の沿岸。そこに、ひとつの流氷が流れ着いた。乗っているのはご当地怪人、コサック怪人兵団の1体だった。
    「何とか生き延びたが、他の団員は無事だろうか? ……いや、私が生き延びたのだ。他の団員も私のように、生きてどこかに流れ着いているかもしれない。今は、仲間の無事を祈ろう」
     そんな中、1人の少女が怪人の前に現れた。
    「キミが、ロシアン怪人?」
    「何奴!?」
    「通りすがりのアンブレイカブル。キミに勝負を挑みに来たよ」
     少しの間、沈黙が続く。口を開いたのは、怪人の方だった。
    「勝負をしなければこの場は通さない、といった様子だな。いいだろう、その勝負、受けて立つ!」
    「感謝するよ。じゃ、よろしくお願いしますっ!」
     その一言を皮切りに、二人の勝負が始まった。
    「くらえっ!」
     コサック怪人が、一定の間合いを維持しての射撃戦法で攻める。
    「アンブレイカブルを相手に、わざわざ接近戦を挑むつもりはない! この勝負、もらったっ!」
    「なら……これでっ!」
     対するアンブレイカブルは、自らのオーラを飛ばして攻撃する。単純なオーラではない。広範囲をなぎ倒す、逃げ場のないオーラの嵐だ。コサック怪人も例外ではなく、直撃を食らい吹き飛んでしまう。
    「ぐあっ……! 小娘め、味な真似をしてくれる!」
     しかし、コサック怪人が目を開けると、彼女の姿はどこにもない。
    「零距離、取ったよ」
     コサック怪人の背後で、彼女の声がした。それと同時に、無数の拳打が怪人に叩き込まれる。その強烈な攻撃に、怪人は耐えることができない。
    「ぐっ……無念!」
     そう言い残し、コサック怪人は爆発と共に消え去った。
    「はぁ、はぁ……ありがとうございましたっ!」
     押忍! と言わんばかりに手を振り、彼女は倒した好敵手に一礼をした。


    「集まったな。じゃあ、始めるぞ。北海道に、季節外れの流氷がいくつも流れ着いてるんだ。もちろん、ただの流氷じゃない。ロシアのご当地怪人を乗せた、厄介な流氷だ」
     その流氷は、元々は大勢の怪人を乗せた、ひとつの巨大な流氷だったらしい。しかし、何らかの理由で流氷は破壊され、怪人を乗せたまま、北海道の海岸に漂着し始めているようだ。
    「しかし、この事態に、アンブレイカブルが動いているらしいんだ。奴らは腕試しのつもりなのか、漂着したロシアン怪人に戦いを挑んでいる。そこで、だ。お前達には、奴らの戦いが終わった後に戦いに介入し、生き残った方のダークネスを倒す、漁夫の利作戦を取ってほしい」
     ご当地怪人とアンブレイカブルを一度に倒せる、いい機会だ。狙う価値は十二分にある。
    「予測では、勝つのはアンブレイカブルの方だな。中学生程度の外見をしている、女のアンブレイカブルだ。見かけは小柄だが、アンブレイカブルの名に恥じないだけの戦闘力を持っている」
     見た目で判断すると、痛い目に遭うだろう。
    「両者が戦っているのは、北海道の海岸になるな。その辺りは岩場になっているんだが、戦場付近だけは手広く、足場もしっかりしているから、戦闘に支障はない。実際、アンブレイカブルと怪人も戦っているわけだしな」
     周囲には岩などが多くあるため、隠れて機をうかがうのにもちょうどいいだろう。
    「アンブレイカブルは、ストリートファイターとバトルオーラのサイキックを使ってくる。ただし、オーラキャノンのサイキックが、オーラストームという独自の代物に変わっているな」
     具体的には、オーラキャノンを遠単攻撃から遠列攻撃にして、その代わりに威力を下げたサイキックとなっている。しかし、彼女はクラッシャーに位置するため、それでも十分な威力の攻撃となるだろう。
    「手負いと言えど、かなりの強敵になるだろう。下手に気を抜けば、それが即負けに繋がるかもしれないから、十分注意して戦って欲しい。じゃあ、頑張ってくれよ!」


    参加者
    スウ・トーイ(エクスペンタブルズゲート・d00202)
    巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)
    水瀬・瑞樹(神の娘か人の娘か・d02532)
    朧木・フィン(ヘリオスバレット・d02922)
    ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)
    リーファ・エア(夢追い人・d07755)
    リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201)
    九葉・紫廉(紅狼咆吼・d16186)

    ■リプレイ

    ●不良アンブレイカブル、再び
     北海道の海岸にある岩場で、ご当地怪人とアンブレイカブルが戦っている。灼滅者達はその様子を、岩場に隠れて見ていた。
    「さて、この後の戦闘に有効な何かが見つかるといいんだけど」
     水瀬・瑞樹(神の娘か人の娘か・d02532)がそうつぶやく。今回は、戦っている両者の勝った方に戦いを挑む、漁夫の利作戦。新しい情報を手に入れるチャンスを逃す手はない。
     だが、実際に新しい情報を手に入れた九葉・紫廉(紅狼咆吼・d16186)は、複雑な顔をしていた。
    「やっぱり、更級だったか……」
    「あのアンブレイカブル、やはりお前が知っている奴だったということか?」
     巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)の言葉に、紫廉はうなずく。
     更級・風香。通称、不良アンブレイカブル。修行とそれ以外のことを割り切り、強くなる以外のことにも興味を持つ点がその名の由来だ。明るくさっぱりとした性格で、紫廉は以前の遭遇時、彼女と友好的な関係を結んでいる。
    「あぁ……こりゃ地獄行き確定だ、俺」
     それを聞き、やや自虐的にそうつぶやくスウ・トーイ(エクスペンタブルズゲート・d00202)。風香との戦いに、思う所があるようだ。
    「だが、行動目的に依然変わりは無い。彼方も決着が付いたようだ。俺達も行くぞ」
     ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)は、淡々とそう言う。それを合図に、灼滅者達は行動を開始した。背中を見せて、倒したご当地怪人に一礼をする風香に向かって……。
    「ロシアン怪人をきれいにぶっとばした、そこの貴女! すばらしい力をお持ちですわね!」
    「お疲れの所申し訳無いんですが、続けて私達と戦って頂けますか?」
     朧木・フィン(ヘリオスバレット・d02922)とリーファ・エア(夢追い人・d07755)が、堂々と宣戦布告をする。不意打ちをしようと思う者は、誰もいない。
    「誰!? って、この展開は……もしかしなくてもキミ達、灼滅者?」
    「そうよ。連戦になって申し訳ないけど、武人である貴女のことだから嫌だとは言わないわよね?」
     振り返り、灼滅者を見据える風香に、リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201)が挑発めいた発言をする。
    「いやそんな、武人だなんて大したもんじゃないよ。でも戦いを挑まれたのなら、逃げる気なんて全然……訂正。ちょっと逃げたい」
     灼滅者を前に、軽い調子で応対する風香だったが、紫廉の姿を見つけると、一瞬表情を凍らせる。
    「よう、また会ったな」
    「……うん、久しぶり。いやー、今度は戦い抜きで会いたかったんだけどなー」
    「俺も残念だが……こっちの方が性に合ってるだろ?」
     そう言って紫廉は、ファイティングポーズを取る。対する風香も、にやりと笑って戦闘態勢を取った。
    「まぁ、確かにね。今回も、出会い頭に奇襲なんかしない、気持ちのいい人達みたいだし」
    「ダークネスとはいえ、清々しいほど正々堂々とした性格と見えたが故だ」
     風香の言葉に、ニコがそう返す。
    「ありがと。じゃあこっちも期待に応えて、正々堂々お相手するよ!」
     次の瞬間、9人が同時に地面を蹴った。

    ●海岸での開戦
    「まずはこっちからっ!」
     先手を取った風香が、リーファを狙って近付く。しかし、繰り出す抗雷撃が命中する直前、その間に冬崖が立ちはだかり、攻撃を防ぐ。
    「おっと、ここから先に進むなら、まずは俺を潰して行きな」
     そう言いつつ、カウンターでシールドバッシュを叩き込む冬崖。そしてその後ろから、冬崖にかばわれたリーファが風香に飛びかかった。
    「さあ、本気でやりましょう! もっともっと、強くなるために!」
     リーファの影を纏った拳が、風香の体に沈む。そしてこの隙を突き、スウ、紫廉、フィンの3人が、続けざまにシールドバッシュを叩き込んだ。
     息つく暇もない連続攻撃だったが、風香は軽く受け身を取って体勢を立て直す。効いてはいるだろうが、まだ余裕が見える。エフェクトも、抗雷撃が作り出した耐性により、一部無効化されてしまったようだ。
    「じゃあ、続けてこれっ!」
     少し開いた距離を縮めようともせず、風香はオーラを集めて投げつける。広範囲を薙ぎ払う、オーラストームだ。
    「多勢に無勢の対処法、覚えてきやがったか!」
    「おかげさまでねっ!」
     紫廉はそう言いつつ、楽しそうに笑いながら攻撃に備える。それは、以前に紫廉が指摘した、風香の弱点だった。
     周囲の岩肌も削るオーラの暴風が、前衛に襲い掛かる。直接の拳打よりはマシな威力だったが、それでも全員、一撃でかなりの体力を持って行かれてしまった。
    「予想以上の威力だが、依然想定内だ。回復に回る」
    「この状況なら……私も」
     ニコとリステアが、傷を癒す深い霧で前衛全体を覆った。一拍置いて、瑞樹が武器に炎を纏わせ、風香に迫る。エフェクト効果を高める霧の影響で、その炎は油を吸ったように大きく燃え盛っていた。
    「じゃあ、これを食らってもらおっか」
    「くっ……」
     瑞樹の武器を、両腕を交差させて受け止める風香。しかし完全には受け止めきれず、多くの炎とダメージを負うこととなる。
    「痛つつ……でも、少し分かってきた。防御を重視した陣形みたいだね。じゃあまず、攻撃役から叩く!」
     素早く体勢を立て直し、たった今重い一撃を繰り出した瑞樹を狙う風香。連撃で一気に決めるつもりだ。
    「そう簡単には通してやれないねぇ」
     しかし、攻撃のタイミングを読んでいたスウが攻撃を受け止め、全てさばき切る。そして最後の攻撃の後、逆に鋼鉄拳を叩き込み、風香の持つエフェクトへの耐性をブレイクした。
    「しまった……!」
    「もらいましたわ!」
     絶好のチャンスに、フィンは制約の弾丸を撃ち込み、風香の体をマヒさせる。続いてリステアが、青い炎を纏った鎌を振り、彼女を引き裂いた。風香の体に、青い炎が燃え移る。
    「では、私達の防御陣形が崩されるのが先か、私達があなたを灼くのが先か。我慢比べといこう」
     炎に焼かれる風香に向かい、リステアがそう言って挑発する。それに対して風香は、にやりと笑って応える。
    「いいね、それ。簡単にはやられてあげないよ」
     そう言って風香は、次の攻撃を繰り出した。

    ●紙一重の攻防
     戦闘開始から約10分。持久戦に疲れ切った灼滅者に向けて、何度目かのオーラストームが叩き付けられた。
    「俺が回復する! ベルクシュタイン先輩も頼んます!」
    「了解した。未だ危険な者には、スウと九葉が回復を。極力被害を残さないよう留意してくれ」
    「了解だ。一番怪我がひどいのは誰だい?」
     冬崖が吸血鬼の霧を、ニコが夜霧を展開させて、全体の回復を図る。スウと紫廉はシールドを使い、瑞樹とリーファの回復に回った。ニコの指示により、常に効率的な回復がなされていたものの、しかし彼らの体力は、既に限界に近かった。
     一方で、比較的被害の少ない後衛に位置していたフィンが、このタイミングで一気に風香と距離を詰め、拳打で攻撃を仕掛ける。
    「叩きのめして差し上げますわ!」
     フィンの乱打は、全て風香のガードをすり抜け、確実に急所を突いていく。風香に致命的なダメージを与えたと確信したフィンは、素早く距離を取り、元の配置に戻った。
    「くっ……き、きっついなぁ……」
     疲れ切っていたのは、風香も同じだった。息は上がり、足元も少しふらつき始めている。防御を堅くし、攻撃の手を一切緩めずに攻め続けた結果だ。
    「こっちも、回復を……」
    「それはやらせない」
     風香が回復に出ることを察知したリステアが、風香に向かって鎌を振り下ろす。体力の回復を阻害する、死神の大鎌だ。風香は避けることができず、その一撃を食らってしまう。
     直後、風香は集気法で体力回復を図った。多くのバッドステータスは回復できた様子だったが、そんなに体力が回復したようには見えない。
    「あらー……失敗だったかな?」
    「おっと、攻撃の手を緩めたね? その一瞬が命取りだよ」
     回復のために動きを止めた風香に、瑞樹が攻撃を仕掛けた。自分の影を延ばし、風香を影で飲み込むことで、心と体に強烈な一打を叩き込む。
    「まだ終わりではありません。行きますよ!」
     更にリーファが、影から解放された風香に拳打の嵐を叩き込んだ。一撃一撃に確かな威力を込め、『壊れざる者』アンブレイカブルである風香を圧倒していく。
     最後の追撃を入れるリーファ。しかし、2人の強烈な連携攻撃を受けても、まだ風香は立っていた。
    「痛っつー……厳しいねぇ。でも、まだ終わりじゃないよ!」
    「いや、そろそろ終わりだよ」
     風香と負けず劣らずの怪我を負った紫廉が、自分の影を刃にして風香を切り裂き、彼女の防御を崩す。そして同時に彼のライドキャリバー・カゲロウが機銃を撃ち、彼女の足を止めた。
    「こっちも、さすがにもうヤバいからな。決めさせてもらうぜ」
    「そう。じゃあ……こっちも行くよ」
     そう言って風香は、手にオーラを集め出す。オーラストームを放つ気だ。
    「せぇ……のっ!」
     気合いの声と共に手元を離れた風香のオーラが、勢いを増して前衛の5人と1台を襲う。荒れ狂う嵐に体力を奪われながらも、攻撃が止んだ後、灼滅者たちは何とか全員立っていた。
    「まだだよ」
     しかし突然、リーファの背後から風香の声がした。オーラストームは囮だ。
     彼女は既に攻撃態勢に入っている。渾身の拳打を、リーファに向けて……。
    「そうはさせねぇ!」
     その瞬間、冬崖が滑り込むようにして二人の間に割り込み、風香の攻撃を体で受け止めた。一瞬意識が飛びそうになりながらも、冬崖はそれを何とか引き止め、風香に向かって不敵に笑いかける。
    「くっ……い、言ったろ? まずは俺を潰して行きな、って……俺がいる限り、誰もやらせねぇよ」
    「ぜ、全部、止められ、た?」
     冬崖の、決して折れない闘争心を前に、風香の動きが完全に止まる。それを狙って、スウが動いた。
    「ごめんな」
     スウはそう詫び、シールドバッシュで風香を吹き飛ばす。背中から地面に落ち、あお向けに倒れたその体が、これ以上立ち上がることはなかった。

    ●灼滅者とダークネスと
     軽い応急手当の後、灼滅者達は倒れている風香の様子を見に、彼女の元に集まった。
    「誰も正義には成れないか。でも……君の悪はきっと俺だ」
     最後の一撃を入れたスウは、自虐気味にそうつぶやく。
    「……気にしないでよ。最低でも、あたしはそんなこと思ってないから」
     突如、風香が口を開いた。気を失っていただけらしい。だが、放っておいてもそう長くないだろうことは、誰もが理解していた。
    「ゾクゾクする、良い戦いでしたよ。最高の時間、ありがとうございました」
    「あはは、それは何より。あたしも楽しかったよ。負けたのは、ちょっと悔しいけどね」
     リーファの礼に、風香は笑顔で応える。
    「しかし、やっぱり灼滅者は強いね。完敗だよ」
    「単体戦闘力なら、お前の圧勝だと思うが」
     ニコの率直な感想に、風香は首を横に振って答える。
    「最低でもアンブレイカブルは、どこまで行っても結局1人。でもキミ達灼滅者なら、力を合わせれば、あたしたち以上のことができる。あたしも灼滅者だったらな、って思うよ」
    「……ダークネスの言葉とは思えませんわね」
    「不良だからね」
     フィンの言葉に、風香はあっさりとそう返した。そして突如、彼女の体が光へと分解され始めた。灼滅が始まったのだ。
    「また、『どこか』で闘いましょう」
     リステアが、そう風香に言う。その『どこか』は、もちろんこの世の話ではないだろう。
    「『どこか』、ね。うん、『待ってる』よ。あ、紫廉くん。前の時のみんなにも、よろしく言っておいて」
     最後に笑って『じゃあね』とだけ言って、更級・風香はその場から姿を消した。
    「変わったアンブレイカブルだったな」
    「相手がダークネスで、そしてこれが命のやり取りでなければ良かったのにね」
     冬崖と瑞樹が、ぽつりと感想を言う。しかし、何はともあれ、任務は達成だ。灼滅者達は、どこかみんなで食事に行って、学園へ帰ることとなった。
    「(一度仲良くなった相手を灼滅して感じる癒やしってのは、どうにも嫌な気分だな)」
     帰り道、紫廉は苦い顔をしながら、そんな独り言をこぼしていた。
    「(ダークネスと灼滅者は、仲良くしちゃいけないのかねぇ……?)」
     その問いに答えられる者は、誰もいなかった。

    作者:時任計一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 5/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
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