飛んだ兎は漆黒を従え

    作者:緋月シン

    ●選ばれし者達
    「くっ、今回もまた失敗、か」
    「ああ、だが仕方あるまい。所詮奴等は唯の凡百……我等とは違い選ばれた者ではないのだからな」
    「だからこそ我らが導いてやらればならん、か……だが本当に奴らにその価値があるのか?」
     薄暗い路地裏。全身を黒一色に統一した男達は、闇に潜むようにそこに居た。
     壁に背を預け、腕を組んでいる。その視線は何も見ておらず、何も映っていない。まるでこの世界のものなど映す価値などないとでも言わんばかりに。
     そんな中、何処からか、耳障りな音が聞こえた。ぜひーぜひーと、まるで必死になって呼吸を繰り返す音のように聞こえるが、実際には何なのかは分からない。
     その発信源は男達の口からのようにも思えたが、きっと気のせいだろう。何処かから必死になって逃げ惑った挙句荒い呼吸を繰り返すような音が、男達の口から漏れるはずがないのだから。
     言葉が続かないのは、きっと世界に嫌気が差しているからに違いない。
     そんな中。
    「くっくっく、今更そのようなことで悩むとは……情けないな」
     その言葉は、唐突に響いた。
     だが何処から喋っているのかは分からない。音が反響し、その発信源を悟らせないのだ。
    「っ、一体何者だ……姿を現せ……!」
    「いいだろう……」
     やけに素直に現れたその姿に、男達は言葉を失った。
     決して現れたのが少女だったからとか、バニーガール姿だったからとか、片目に眼帯を付けていたからではない。
     一目見た瞬間に、只者ではないことが分かったのだ。
    「き、貴様は、一体……」
    「そのような些事、どうでもいいことだ。そうだろう? 選ばれし者達よ」
     言いながら少女は、その手に持つそれを示す。
     それは漆黒の色をしていた。そう、まるで男達を示すかのように。
    「さあ、これを手にし始めるがいい……本当の、導きを」

    ●という設定
    「……ええと」
     集まった灼滅者たちを前にしつつ、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は何処か困ったような表情を浮べていた。
     しかしそれも仕方のないことだろう。それは正常な反応である。
     だがそのままでは先に進まない。姫子は一つ大きな深呼吸をすると、頭を切り替えて説明を始めた。
    「とりあえず皆さん、先日はお疲れ様でした。そして既に聞いている方もおられるかと思いますが、先日の臨海学校で騒ぎを起こしたHKT六六六人衆が、再び事件を起こそうとしているようです」
     今回もまた事件を起こそうとしているのは黒いカードを持った男達だ。
     しかし前回とは異なり、今回はただの一般人ではなく武器を持ちサイキックに似た攻撃を仕掛けてくるらしい。
    「これが黒いカードの新しい能力なのか、或いは別の力なのかは分かりません。ですがそれを知るためにも、彼らの凶行を止めて黒いカードを回収してきて欲しいのです」
     男達はKOすれば正気を取り戻すが、さすがに前回ほどあっさりとはいかないだろう。
     もっともダークネスとは比べ物にならない程度の力しか持たないので、倒すのはあまり難しくないはずである。
     だがそれでも、一般人にしてみれば十分過ぎるほどの脅威となってしまうだろう。理不尽な暴力が振るわれる前に、何としてでも止めなければならない。
    「彼らは市内の商店街で事を起こすつもりのようです。全員黒いマントを羽織っており、言動が……その、何といいますか……痛々しい感じですので、すぐに分かると思います」
     商店街に居る人数は大体三十人といったところか。その人たちを避難させつつ、男達を撃退する必要がある。
     ただ彼らは別々の場所に居るため、こちらもある程度ばらける必要があるだろう。
    「また、どうやら彼らと似たような言動を行うと注意を引きやすいようですが……どうするかは、任せます」
     さすがにそれを推奨することは出来なかったのだろう。視線を逸らしながら姫子はそれを伝えた。

    「自分勝手な理由で無関係な人を傷つけていいわけがありません。皆さん、どうかよろしくお願いします」
     そう言うと、姫子は皆に向けて頭を下げたのだった。


    参加者
    藤柴・裕士(藍色花びら・d00459)
    セシル・カエキリウス(神父見習い・d07144)
    トランド・オルフェム(闇の従者・d07762)
    清浄院・謳歌(アストライア・d07892)
    天槻・空斗(焔天狼君・d11814)
    篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)
    改・昂輝(灼紅鬼・d18542)
    北条・葉月(ツッコミ属性パンクロッカー・d19495)

    ■リプレイ

     未だ闇は片隅に潜み、世界を仮初の光が覆っている時刻。
    「闇の欠片を手に入れた程度で調子に乗っているそうだが、真の闇が何たるかをこの私自らが教えてやろうではないか」
     大仰な挙動を言葉で飾りながら、篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)はそこに降り立った。
     その瞳に映るは数多の人々。有り得ざる偽りの日常を過ごす者達だ。
     彼らは闇が隣人であることを知らない。覗き込むまでもなく、それらがすぐそこに広がっていることを理解していない。
     だがそれでいいのだ。そうでなければならない。
     なればこそ。
    「あまつさえ、無辜の民を巻き込もうとは愚の骨頂! 蒼刃の魔王の力、その身で思い知るがいい!」
     真の闇の意を。光を冒す事の罪を。世界に刻まれし罰を。
     そう、その身を以って――そろそろ面倒になったんでやめていいですかね?
    「ままー、あの人何やってるのー?」
    「シッ、見ちゃいけません!」
    「……よし、一花今回も頑張るっ!」
     何処かやりきった顔の一花は、近くを通りかかった親子のやり取りにも気付かずに、小さく握り拳を作ると呟いた。
     そうしてから周囲を見渡す。その場に居るのは三人の仲間だ。姿を確認するように動き、止まる。
     視線の先に居るのは、天槻・空斗(焔天狼君・d11814)であった。
     そして一花の目は、完全に仲間を見るそれだ。
    「うん、黒い服着てるからって別に厨二じゃないからな」
     そんな目で見るなと言わんばかりの空斗だが、その格好は黒の袖無しロングコートに黒いマント、黒のオープンフィンガーグローブである。
     どう見ても厨二です、ありがとうございました。
     そんな二人を一歩下がった位置から見ているのは、改・昂輝(灼紅鬼・d18542)だ。その視界に先ほどの一花の言動や空斗の格好を捉え、反芻しながら、なるほどなどと呟いている。
     そろそろ中学生になる昂輝は、予習に余念がないのだ。
     その手にはカンペが数枚握られており、その中の一枚には集気法と書かれた文字の上に、『ルテンスルチカラ』などというルビが振られている。
    「私の付け焼刃な知識がどこまで通用するか分かりませんが、できることをやるのみです」
     その光景を眺めながら呟くのは、トランド・オルフェム(闇の従者・d07762)。多分他意はない。
     身に纏っているのは執事服であるが、自前のものでありコスプレではないらしい。
     ともあれそんなことをしながらも、四人は脇道を抜けていった。
     一方残りの二組、その片方。
    「この暑いのに黒マントとは、ご苦労な事で。ま、オレの普段着も黒い服ばっかだから、あまり人の事言えねーけど」
     呟いたのは、北条・葉月(ツッコミ属性パンクロッカー・d19495)である。
     だがその言葉はさり気なく味方もディスっていることに気付いていない。
     傍らを走る藤柴・裕士(藍色花びら・d00459)は、まあいい。その服装も黒ではあるものの、それは袴であり、死覇装のようなものだ。見方によっては涼しくも見える。
     しかしこの場に居ない約一名がアウトだ。全力で黒いマントを羽織っていた男が居る。この場に居たら危ないところだった。居ないから多分セーフだろう。
     ともあれ周囲を見回しながらそれっぽい格好をしているものを探し、二人は走るのだった。
     残り二人のうちの一人、セシル・カエキリウス(神父見習い・d07144)は、その姿を普段のものとは変えていた。前髪を下ろし、眼鏡はコンタクトへと。
     その理由は単純だ。恥ずかしいからである。今後のことを考えれば、無理もない話だろう。
     そんなセシルの隣を走る清浄院・謳歌(アストライア・d07892)は周囲を見回しつつ、しかし少し別のことを考えていた。
     その脳裏を過ぎるのは、以前赴いた迷宮、その主である屍王だ。
    (「前に迷宮で戦った佐藤さんのお友達かな……?」)
     ――ヒルフェブラウレーゲンだっつってんだろうが!
     なんか幻聴が聞こえた気がしたが、幻聴なので無視である。
    「このままだと佐藤さんの予言通り『第二第三の屍王(ダークネス)』になっちゃうかも知れないから、わたしたちの力でカードの呪縛から解放してあげないとっ」
     呟きながら視線を巡らし――ふと、視界の端に黒を捉えた。
     その手に着けているのは、真っ黒な指ぬきグローブ。
     故にその相手を確信しながら、謳歌は近付いていった。ノリはあの時みたいなのでいいのかなと、そんなことを思いながら口を開く。
    「えっと、グレックヘェンバオムさんでよかったかな?」
    「……貴様、何故我が真名を!?」
    「あと他の二人は、ライスフェルトミッテさんにホッホブリュッケさん、だよね?」
    「あいつらの真名まで、だと……!?」
     驚愕の表情を浮かべる鈴木。得意気な謳歌。そのやりとりと雰囲気から何かを察するセシル。
    「何でかは、言わなくても分かるんじゃないかな?」
    「なるほど、我らと同じということか」
     漫画の台詞でも言って注意をひこうかと思っていたセシルだが、任せた方がよさそうなので黙ってることにした。
    「ちょっと違うかな。わたしたちは自らの闇に抗ってこの力を手にした。でも貴方たちは闇に囚われている」
    「見解の相違だな。我らは望んでこの力を手にしている」
    「……そう。でも」
     意思を宿した目で見据える謳歌。応じる鈴木。二人は放っておいて殺界形成で周囲の一般人を逃がし始めたセシル。
    「ヒルフェブラウレーゲンを倒したこの力で、貴方たちを闇の呪縛から解き放ってみせるっ!」
     それにしてもこの娘ノリノリである。
    「奴を倒した、だと……!? 面白い、ならばその力見せてみるがいい!」
     そしてこいつも同じぐらいノリノリだ。
    「きて、ルナルティン!」
     言葉と共に現れたルナルティンを掴むと、手の中で一回転させてから構えた。その横にしれっと、今までずっとそこに居て参加してましたよ、みたいな顔して並ぶセシル。
     緊迫した空気が流れたのは一瞬。直後に破ったのは謳歌だ。
     放ったのは魔法の矢。さらに一拍を置き、自らも地面を蹴る。
     弾かれる矢。続けて繰り出された拳を、ルナルティンで迎え撃った。
     激突音が響き腕に衝撃が伝わるも、押されることなくその場に踏み止まる。
    「ふん、やるではない」
    「まだまだこれから、だよっ!」
     腕を弾き飛ばすとシールドバッシュを叩き込み、自分に意識が完全に向いた瞬間を見計らって飛び退る。
     そこに放たれたのは無数の光線。
    「仲間内で楽しむのはいいですが、人に迷惑をかけるのはやめましょう」
     貫きながら投げられた、セシルの言葉と鋼糸。高速で迫るそれに切り裂かれ、一瞬動きが鈍る。
     そこを見逃さず、再度謳歌が飛び込んだ。振り抜かれるルナルティン。
     流し込まれた魔力が、爆ぜた。

    「逃げろ! 怪我しねぇうちに、遠くへ離れてろ!」
     その姿を捉えた瞬間、葉月達は一般人を逃がしていた。
     それが済んだのを見計らい相対する。そこに居るのは高橋だ。
    「黒を纏った奴が、殺しなんてダセェ事するなよ」
    「……同類かと思ったが、見当違い、か」
    「ああ。だからどっちが世界に選ばれたのか、決めようじゃねぇか」
    「……望むところだ」
     商店街はそれほど広いわけではない。時折遠くから、他の仲間達の声も聞こえてくる。
     隣の葉月の言葉やそれらを聞きながら、裕士は楽しげな笑みを浮かべていた。
    「ちゅーか……結構皆ノリノリやん」
     厨二病のことはよくわからない裕士であるが、皆のように面白いことを言えばいいのだろうと、そんな納得をしながら自分も口を開く。
    「なぁ、俺の瞳、見える? ……そう、この赤い瞳が囁くねん。もっとお前らの血がほしいって」
     若干外れた感じの言葉を発しながらも、やはりその様子は楽しげだ。
    「ふん、出来るのならばやってみるがいい」
     互いに構える。が、その前に。
    「なぁ、お前のポケットのそれ……どこで手にいれたん?」
    「答えると思うか?」
    「まぁ、せやろなぁ……」
     意味があるとは最初から思っていない。それでも聞いてみたのは、一応だ。
     初撃は葉月。放たれたオーラを、しかし相手もぼさっと食らってやる道理はない。
     かわしたと同時に振られる腕。それに合わせ、五本の糸が踊る。
     だがその全てを裕士が叩き落とし、即座に動く。二人の身体が別々に動き、高橋が一瞬どちらを狙うか迷った。
     そして攻撃を当てるための隙は、その一瞬だけで十分だ。
     高橋の真下に展開される影。広がったそれが、高橋の身体をすっぽりと包み込んだ。
    「……この手の人間のトラウマって、ある意味壮絶な気もするけど」
     ふとそんなことを思うものの、ま、気にしても仕方がないかと思い直す。
     事が起こったのは葉月がそんなことを思った次の瞬間だった。
    「や、やめろ! 二人組みを作ってくださいねー、じゃない! やめるんだ!」
     二人して、あー、みたいな目で見た。聞いてるだけで悲しくなってくる。
     だが現実は非情で無情である。追撃のために、轟雷をぶち込んだ。

     黒いマントに、ナイフ。
     その姿を視認した瞬間、空斗はスレイヤーカードを手にしていた。
    「目覚めろ。疾く駆ける狼の牙よ。吼えろ、焔天狼牙」
     一瞬で展開される殲術道具。代わりに掴むのは、両刃大剣の焔天狼牙・幻-MABORO-。その背に黒い焔翼を全力展開しながら、悠然と歩いていく。
    「死にたくない奴は失せろ!」
     効果は覿面だ。パニックテレパスと一花と昂輝の殺界形成のおかげもあり、一般人の避難は即座に終わりを告げた。
     その際昂輝が誰かに向かって、憧憬の如く視線を向けていたが、きっと余談なので割愛する。
     避難が済み訪れた静寂。それを切り裂くように一歩を踏み出したのは、一花。視線の先に居るのは、田中だ。
    「闇の欠片を手に入れた迷い子よ。大人しくそれをこの蒼刃の魔王に差し出すがよい。闇の欠片の力が如何様なものであろうとも、真の闇たる私に敵う道理などないぞ? さぁ、諦めて差し出すがいい!」
     続くように昂輝も進み出る。
    「……フ、わかるだろう? 貴様等……『選ばれた』な? だがだからこそわかるだろう、その『導き』は…………『むこうがわ』だ。そこは『境界線』だ。それでも、踏み入るのなら」
     一息。
    「『覚悟を決めな』」
     言葉と共に袖口から取り出したのはスレイヤーカード。そのまま横へと振りぬき、二本の指で挟んだそれを相手に見せ付けるようにして構える。
     解放。オーラに覆われた拳を突き付けた。
     ちなみに先ほどの台詞の間に一回つっかえてカンペを見たりしているが、それは触れてやらないのが優しさである。
    「ふん、何者かと思えば。だが愚問なり。覚悟などとうに完了済みだ。例えこの身が虚無の地平を彷徨おうと、ラプラスの魔に魅入られようと、導くと決めたのだ!」
     その言葉に、なるほどと頷くトランド。それから田中へ向けとてもいい笑顔を浮べた。
     そして。
    「日本語でOKです」
     田中の動きが一瞬止まる。
    「り、理解できぬか。だが当然だ。上位の位階に存在する我に着いてこれるはずもない」
     もう一度言おうか迷ったトランドであるが、さすがにやめておいた。
     しかし折角母国英国ならではの話、黒魔法や魔方陣云々の話を予習してきたというのに、どうやらその出番はなさそうである。
     その代わりというわけでもないが。
    「折角の両の目を生かさないとはなんと勿体無い……こんなにも世界は色鮮やかですのに」
     アヌビスの頭部を模した飾りがあしらわれた黒いマテリアルロッドを手にし、その姿を見据える。
     口元には普段と変わらぬ笑み。だが細い双眸をさらに細め、眼鏡の奥からは鋭い眼光が覗く。
     言葉はそれ以上不要。
     そのままトランドが踏み込んだ。一瞬で懐に潜り込むと、腹部へと魔力と共に叩き込む。
    「私が蒼刃の魔王と呼ばれる所以、そしてそれが伊達ではないことを見せてやろう!」
     刹那の間に煌いたのは蒼き刃。捉える暇もなく断ち、抜けた。
     反撃の如く一撃が繰り出されるが、代わりに飛び込んでいた空斗に弾き飛ばされる。
    「おいおい、選ばれし者がこの程度か……笑わせてくれるな。その程度の力で導くとは片腹痛いな!」
    「ぬかせ!」
    「昏き漆黒の焔に蝕まれて奈落の堕ちろっ!」
     再度振りぬかれた一撃ごと、炎を纏った剣が薙ぎ払った。
     たまらず一歩下がった田中へと、昂輝が一歩を踏み込む。
    「ハンドレッド・ジャッジメント!」
     言葉と共に放たれるのは無数の拳。息を吐かせぬ連撃は確実に相手の身を削っていく。
     だがさすがにそれも無限とはいかない。途切れた間を突き、田中の身体が大きく飛び退いた。
     しかし逃がさない。トランドの放った鋼糸が絡み、巻きつく。
    「俺の焔は、陽を蝕む……貴様らの栄光ごと飲み込んでやろう」
     放たれたのは爆炎の弾丸。黒い焔が解き放たれるが如きそれは、着弾と共に次々と体内で暴れ狂った。
     だが。
    「やるではないか……だがここからは本気でいくぞ……!」
    「なに……!? 闇の波動が強まっているだと……?」
    「はっ、望むとこだ……いくぜ、紅焔翼・破邪顕正!」
     応じるように昂輝の背より生じたのは炎翼。普段よりも無駄に派手なそれが炎の羽を周囲に散らし、紅く照らす。
     踏み込んできた敵に合わせるように、昂輝も動いた。まだ拳が届く距離ではないが、構わず踏み込む。
    「双掌光彩砲!」
     気迫と共に放たれたオーラが、敵を貫いた。
     だがそれでも、敵は構わずに突き進む。
     その腕を振るった先に居たのは、一花だ。
    「……っ!」
     深々と、その刃が突き刺さる。
     しかし。
    「くっくっく、やるではないか。だが魔王の力は伊達ではない。コキュートスより溢れる力を受けし私を甘く見ないことだ」
     その腕を掴み、それ以上の動きを封じる。
    「高まれ、闇の波動……! この身を焦がすとも、敵を滅する力となれ!」
     集まる力。その全てを拳に集約し。
     全力でぶっ飛ばした。

     静まり返った商店街。戦闘は終わり、勝者は一つ。
     一箇所に集めた少年のズボンから、空斗はカードを取り出した。
    「これが噂の黒カードねぇ……?」
     陽に翳して眺めながら呟くも、ただのカードにしか見えない。
    「……ほんま、なんなんやろ、このカード」
     同様に回収した裕士が、カードに視線を落としながらふと疑問を零した。
     だが答えられるものはいない。
    「知らない人からものを貰ったらいけないと習いませんでしたか?」
     小言のような言葉を呟きつつ、トランドが最後の一枚を回収。
     ともあれ、これで終わりである。
     少し離れた場所では、刺されたお腹を抑えながら、痛い……でも頑張ったっ、などと一花が涙目で呟いていた。
     三人が目を覚ましたのは、そのすぐ後。しかしバニーガールについて聞いてみたものの、よく覚えていない様子であった。
     情報を得ることは出来なかったが、人々を守れたことだけは違いない。
     何となく、謳歌は空を見上げる。視線の先には、よく晴れ渡った空が広がっていた。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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