イフリート源泉防衛戦~イフリートのさっちゃん

    作者:日向環


     あのクロキバが、なんと武蔵坂学園に姿を現した。
    「先日、ノーライフキングノ邪悪ナ儀式ヲ一ツ潰シタノダガ、ソノ儀式ノ目的ハ、我ラノ同胞ガ守ル源泉ヲ襲撃スル為ノモノデアッタ」
     出迎えた学園関係者に向かって、クロキバはそう言った。
    「敵ノ数ハ多ク、我ラダケデハ撃退ハ難シイダロウ」
     つまり、戦力が欲しいということのようだ。そこで、クロキバが直々に武蔵坂学園に赴いたということらしい。
    「モシ、武蔵坂ノ灼滅者ガ撃退シテクレルナラバ、我ライフリートハ、ソノ指示ニ従ッテ戦ウダロウ」
     武蔵坂学園の灼滅者だけに戦わせるというわけではなく、現地で源泉を守っているイフリートと共闘することになるようだ。
    「ヨロシク頼ム」
     

    「サイキックアブソーバーでも、同じ事件が予知されたから、この襲撃が行われるのは間違いないみたいだよ。クロキバっち一味の罠ってわけじゃなさげ」
     タブレットPCの画面に呼び出した情報を見ながら、木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)は集まった灼滅者達にそう告げた。
    「この戦いでは、源泉のイフリートは、灼滅者の作戦指示に従って行動をしてくれる約束になってるよ。協力して、ノーライフキングの眷属を撃退してね」
     ノーライフキングの眷属は、源泉を取り囲むように数か所から現れて源泉を目指して進軍してくる。
     敵が合流してから源泉で迎え撃つこともできるが、眷属達が合流する前に各個に撃破する事が出来れば、有利に戦う事ができるだろう。
     偵察を出して眷属の動きを確認して、うまく立ち回れば、勝利は難しくないと主思われる。
    「クロキバっちからは、源泉に近づかせずに撃退してほしいといった要請があったみたいなんだけど、状況によりけりだよね」
     クロキバの要請を実現するためには、こちらも人数を分散して、それぞれの敵と戦わなければならない。それぞれの班の距離が離れてしまえば、他の戦場で勝利した仲間が別の戦場に救援に駆けつける事は難しくなるだろう。
    「状況を見て、みんなの判断で作戦を立ててもらうしかないかな」
     みもざは、申し訳なさそうに言う。
    「で、みんなの担当は新穂高温泉にある源泉のひとつね」
     奥飛騨温泉郷の最奥に位置する源泉だ。
    「アンデッドは、6体ずつ北側、東側、西側の3箇所から進行してくるよ。ツルハシとかスコップとかを武器にしてる」
     イフリートを加えると、こちらの戦力は基本的に9人。3つのグループに分散させて戦うか、それとも全戦力を源泉に集中させて迎え撃つか、はたまた、最低限の迎撃部隊を源泉に残し、何れかの方面から進行してくる敵を各個撃破するか、何通りかの作戦が考えられる。
     どういった作戦を立てるかは、作戦に参加する灼滅者達の判断に委ねられる。
    「源泉を守ってるのはね、イフリートのさっちゃん。『さっちゃん』てくらいだから、女の子なんだと思う。ちょっと臆病な子なんだけど、クロキバっちからの指示には忠実で、何が何でも源泉は守ろうとするみたい」
     イフリートはあまり頭が良くない。難しい指示を出すと、こちらの思い通りに動いてくれないかもしれないということだ。
    「だから、さっちゃんには分かりやすい指示を出してあげてね。せっかくの共闘なんだから、戦力は有効に使わないとね」
     勝手に動かれて、作戦が台無しになってはたまらない。イフリートに対しての指示も、かなり重要になってくるだろう。
    「厳しい戦いになるかもしれないけど、気合いで頑張ってね!」
     みもざはガッツポーズを作り、灼滅者達を激励した。


    参加者
    久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)
    左藤・四生(覡・d02658)
    九曜・亜門(白夜の夢・d02806)
    バスタンド・ヴァラクロード(英雄的豪炎ストライカー・d10159)
    星空・みくる(お掃除大好きわん子・d13728)
    黒橋・恭乃(黒と紅のツートンハート・d16045)
    幸宮・新(弱く強く・d17469)
    辻・蓮菜(反魂パステルアーミー・d18703)

    ■リプレイ


     近くで見ると、さっちゃんは以外と大きかった。臆病だと聞いてはいたが、流石はイフリートである。
     とはいうものの、全体的に丸っこい感じで、全身を覆う体毛は、ふさふさとしていて触り心地が良さそうだ。頭の2本の角は申し訳程度で、精悍というイメージからは程遠い。顔も丸っこく、可愛らしいお鼻がひくひくしていた。
    「初めましてだね。ここのゾンビは僕達が当たらせてもらうから、一緒に頑張ろうね」
     まず、幸宮・新(弱く強く・d17469)が挨拶する。イフリートとの共闘には一抹の不安があったが、ある意味いい機会でもあるかもしれないと考えていた。
    「四生です、よろしく。…えっと、確認なんだけど。今回は僕達の作戦に従ってくれる、って事でいいんだよね?」
     左藤・四生(覡・d02658)が、さっちゃんの顔を見上げた。一瞬、額に「?」が浮かんだような気がしたが、直ぐにこくこくと二回肯いてくれた。どうやら、長い言葉を理解するのに、ちょっと時間が掛かるらしい。
     くりくりとしたさっちゃんの目を見ていた四生は、自嘲気味に小さく笑んだ。馴れ合いは危険かもしれないと考えていたが、この子は信用して良さそうだと感じた。
    「共同戦線、よろしくお願いしますね、さっちゃん!」
     黒橋・恭乃(黒と紅のツートンハート・d16045)は、柔和な笑む。共同戦線を展開することについては、特に抵抗はなかった。
    「イフリートってイケてるよな…。今喧嘩する理由もないし、仲良くいこうぜ!」
     初めての依頼に気合い充分なバスタンド・ヴァラクロード(英雄的豪炎ストライカー・d10159)が、ニカッと笑った。髪型といい、装飾用の呪旋角といい、全体的なシルエットはイフリートっぽい。さっちゃんが不思議そうにこっちを見ている。
    「一緒に戦えば怖くないぜ! クロキバのためにがんばろうな!」
     さっちゃんがこくこくと肯く。
    「あとサチでいい? 言いにくいんだぜ…」
     また、こくこくと2回肯いた。
    「本当に分かっているんじゃろうか」
     九曜・亜門(白夜の夢・d02806)が苦笑した。
    「源泉を守るため、頑張ります。イフリートさん、よろしくお願いします」
     空飛ぶ箒に乗った星空・みくる(お掃除大好きわん子・d13728)が、さっちゃんの目の前で停止して声を掛けた。さっちゃんは小さく喉を鳴らした。どっちかというと、さっちゃんの興味は、みくるの頭の上をふよふよしているナノナノのノノにあるようだ。
    「せっかくのチャンス! 協力してゾンビ倒したら存分にモフ…じゃなくて友好関係を維持したいっすね!」
     さっちゃんのもふもふっぷりに、辻・蓮菜(反魂パステルアーミー・d18703)の食指が動く。用意してきた骨ガムとかフリスビーとか猫じゃらしとか地面に広げ始めた。
     骨ガムはちょっと小さすぎたようで、噛み噛みする前に飲み込まれてしまった。フリスビーに興味を示したのは亜門の霊犬・ハクの方だったが、猫じゃらしは気に入ってくれたようだ。
    「反応が猫っぽくて可愛いっす。うりうりうり。はっ。…別に遊びに来たわけじゃないじぇ!」
     ついつい夢中になってしまった蓮菜だったが、仲間達の冷めた視線に気付いて我に返った。
    「そろそろ準備を始めようか」
     のんびりとしている時間はあまりない。久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)がこの辺り一帯の地図を広げた。メンバーを班分けし、配置に付かねばならない時間だった。


     彼らが守るべきは、奥飛騨温泉郷の最奥に位置する源泉だった。この源泉に向かって、三方向からゾンビの集団が進行してくることが分かっている。源泉を中心にして、北側、東側、西側の三方面から、それぞれ6体ずつのゾンビが、原生林の中を突き進んでくるはずだった。
     対して、灼滅者達は3つの班に分かれて、これを迎え撃つ。だが、この場でただ手をこまねいて待っているつもりはなかった。偵察を出し、相手の状況を確認した上で、迎撃する作戦だった。偵察を行うのは、3班中最大の人数が割り振られているC班のメンバーだ。
    「んじゃ、行ってくるぜ!」
     バスタンドがもふもふの大型犬に変身し、西側の密林の中へ駆け込んでいく。新は北側だ。ダブルジャンプを駆使し、さながら忍者の如く、木々の枝を伝って密林の中に消えた。四生は隠された森の小路によって作られた自然の道を、悠々と進んでいった。
    「空から偵察を行います」
     みくるはノノと共に、箒に乗って上空へと移動する。高い位置から、偵察に向かったメンバーの動向を確認する為だ。
    「どうっすか?」
     蓮菜に無線機に向かって話し掛ける。
    『木の枝が邪魔で、空からはよく分かりません。…ノノ、見える? すみません。ノノも駄目のようです』
     残念そうなみくるの声が返ってきた。上空からの偵察は、残念ながら効果は薄そうだ。しかし、不測の事態に備えて、みくるはそのまま上空に留まることにした。万が一、偵察メンバーが敵に発見されて戦闘となった場合、逆に上空からの方がその位置を確認しやすい。
     既に他のメンバーは、所定の位置で待機していた。偵察隊からの連絡を待つばかりだ。
     さっちゃんはと言えば、しきりと後方の源泉を気にしていた。クロキバからの指示を守ろうとしているのだろう。
    『こちら東側。敵を発見した。距離、約500。…!? 悪い、気付かれた。直ぐに引き返す』
     四生の声は緊迫していた。慎重に進んでいたつもりだったが、接近があまりにも素直すぎたようだ。
    『こちら北側、新。こっちも発見した。同じく、500メートルってところだね。仕掛けよろしく!』
     新の言う「仕掛け」とは、落し穴のことだ。原始的な罠だが、ゾンビ相手には有効な罠だと思われた。進行方向に落し穴を作り、罠に掛かった瞬間に奇襲する作戦だ。
     バスタンドからの連絡はない。犬変身したままでは無線が使えないので、致し方がない。戻ってくるまで待つしかないだろう。
     程なくして、ぜーぜー言いながらバスタンドが戻ってきた。やはり、他の方面と同程度の位置に、敵の集団を確認したようだ。
    「さっちゃーん、落とし穴作るの手伝ってー」
     戻ってきた新が、さっちゃんに指示を出す。自分が何をすべきか理解したさっちゃんは、前肢を駆使して豪快に穴を掘り始めた。
    『ぐるる?』
     どうやら、穴掘りが気に入ったらしい。灼滅者達が掘るスピードを遙かに上回っている。瞬く間に5つの穴を掘ったさっちゃんは、良い仕事したという顔つきで一息付いている。
    「さっちゃん、すごすぎ…」
     その見事な仕事っぷりに、灼滅者達は唖然としてしまった。


     さっちゃんのいるC班は、さっちゃんの活躍もあって予定数以上の落し穴を作ることができた。反面、他の2つの班は1つ作るのがやっとだった。人数も少なく、また、迫ってくるゾンビの監視も必要なので、思うように作れなかった。穴掘りに夢中になるあまり、ゾンビの接近を見落としては目も当てられない。
    「うじゃうじゃ来るんだな。全部やっつけてやるよ!」
     木々の陰に身を潜ませ、織兎は気合いを込めた。

     ノノが大慌てで戻ってきた。穴掘りを手伝えないので、先行してゾンビの様子を探っていたのだ。
    「黒橋さん! もうきちゃったみたいです」
    「仕方ないですね。…さて、ディナーの時間です」
     恭乃はスレイヤーカードを解放しつつ、源泉方向へと後退する。落し穴から距離を取る為だ。
     茂みに身を潜め、息を殺して敵の到来を待つ。
     程なくして、鈍重な足取りでこちらに向かってくるゾンビの集団を確認することができた。
     唯一の落とし穴に、1体が填まる。しかし、他の5体はそんな仲間のことなどは気にも留めない。
    「貴方たちに恨みはありません。がー、死者は死すべき慈悲はないのです」
     これ以上は進行させるわけにいかない。恭乃は咎人の大鎌を手に、防御の構えを取る。
    「黒橋さん、お願いします」
     みくるとノノが、恭乃の隣に並んだ。やや後方に、点火した発炎筒を転がす。
     2人と1体が横一列になって、6体のゾンビを迎え撃つ。

     反対側のB班も、敵と接触していた。
     残念ながら落し穴は機能しなかったが、先手は取ることができた。
    「やれやれ、ようもこれ程湧いたものよ…」
     先頭を進行していた2体のゾンビにブレイドサイクロンを浴びせると、亜門は無貌面・白夜の奥で薄く笑った。その横で、ハクが緊張感の無い大欠伸をしている。
    「…まあ、いつもの事か」
     苦笑しつつ、後方を振り返る。
    「辻君。狼煙をお願いしても良いじゃろか」
    「あいあいさー!」
     軽く敬礼すると、蓮菜が発炎筒を点火させた。足元に転がし、自分は亜門の隣に移動する。
    「まずは時を稼ぐかのぅ」
     自分達だけで、6体のゾンビを倒しきれるかどうか分からない。ここは無理をせず、持久戦に持ち込む。
     防御の構えを取る2人と1匹に、6体のゾンビが襲い掛かってきた。

     落し穴作戦により奇襲に成功したC班は、戦力も充分なこともあって、次々とゾンビを撃破していた。
     さっちゃんは、けっこう強かった。流石はイフリートである。
    「あっちから敵がくるぞ、行こう!」
     織兎の簡潔な指示も功を奏していた。さっちゃんは、素直に指示に従ってくれた。
    「ムリしない! 生きて帰る! 絶対に勝つ! だぜ!」
     バスタンドは、常に後方にいるさっちゃんを気に掛ける。
    「残りは?」
     鬼神変で1体を撃破した四生が周囲を確認する。
    「これで倒れちゃいなよ!」
     織兎の閃光百裂拳が、ゾンビを肉片に変えた。
    「今ので最後だな」
     周囲を再確認し、バスタンドがふぅと息を吐いた。
    「急いで他の班の支援に向かおう」
     上空を見上げながら織兎が言った。発煙筒の煙が辛うじて確認できる。
    「あれ? サチがいねぇ!?」
     バスタンドが慌てた。後ろで寛いでいると思ったさっちゃんの姿が見えなくなっている。
    「まさか、逃げたかな?」
     やはり全面的に信用すべきではなかったかと、四生は呟いた。
    「サチはそんなことしねぇ!」
    「とにかく。まずは味方の救援にいこう」
     困惑した表情のバスタンドに新はそう告げると、そのまま駆け出していく。
    「そ、そっちか! 待って!」
     バスタンドは慌てて新の背中を追い掛けた。


    「生憎、死者には何の躊躇もしません。残念でした」
     バランスを崩し、踏鞴を踏んでいたゾンビに、恭乃のティアーズリッパーが炸裂する。短く呻いたゾンビは、地面に倒れこむとそのまま動かなくなった。
    「よし! 2体目ですね。残りは……あれ!? 2体しかいません!!」
     ゾンビの数を確認したみくるが血相を変えた。遭遇した敵は6体。2体を撃破したので、残りは4体いなければならない。
    「これは、良くない状況ですね」
     回り込もうとしているゾンビにデッドブラスターを放ちながら、恭乃が唇を噛んだ。
     ゾンビの目的は源泉である。ゾンビから見れば、灼滅者達は自分達の進行を妨げる障害物でしかない。と言うことは、特に足止めをされることがなければ、灼滅者達を無視して源泉へ向かうのは当然のことだ。
    「意外に片付いてるね」
     少々拍子抜けしたような四生の声が聞こえた。救援に駆け付けてくれたのだ。
    「ごめんなさい! 実は、2体に突破されてしまったみたいなんです!」
     みくるは泣きそうだ。
    「なら、さっさと殲滅しようか」
    「哀れな死者にギロチンの祝福! これはひどい!」
    「随分とハイテンションだね」
     虚空ギロチンをぶっ放した恭乃の姿を見て、四生は苦笑いした。

    「やれやれ、なかなか厳しいか…」
     ハクに防護符を貼り付けながら、亜門は周囲を見渡す。撃破したゾンビの数と、今対峙しているゾンビの数が合わない。
    「急がないとまずいっす」
     蓮菜の状況を理解していた。後方の源泉が気になるが、今はここを動くわけにはいかない。
    「あ! 後ろっす!!」
     亜門の背後に回り込んだゾンビの姿を見つけて、蓮菜は叫んだ。
    「背後を取られるとは、不覚!」
     背中に激痛を感じたが、慌てる程の傷ではないことは感覚で分かる。
    「因果は巡りて往訪するものと心得よ」
     反撃の神薙刃。しかし、トドメを刺すまでには至らない。
     再び攻撃に転じようとしたゾンビに、凄まじい蹴りの連打が叩き込まれた。
    「無事ですね?」
     新とバスタンドだった。
    「ばすたん! 源泉に2体向かったっす」
    「何だと!?」
    「すまぬ。気付くのが遅れてしまったようじゃ」
     この場に残っているゾンビは残り1体。撃破したのは、今のを含めて3体だという。
     無線が入ってきた。A班のみくるからだ。2体の突破を許したという内容だった。
    「まさか!? ここは任せた!!」
    「ばすたん!?」
    「サチがやべぇ!!」
     バスタンドは全速力で、源泉のある方向に向かって走り出す。
    「どういうことじゃ?」
    「戦闘の途中でさっちゃんがいなくなったんだ。源泉にゾンビが接近していることを察知して、1人で戻ったのかも」
     いや、きっとそうだと、新は考えていた。
    「こちらから2体。向こうからも2体。このままだと、さっちゃんは1人で4体のゾンビと戦わなければならないことになる」
    「なら、急ぐっす! この人数なら、1体だけなら楽勝っす」
    「ハクよ、合わせるぞ」
     1体だけ残っていたゾンビに対し、集中攻撃が加えられた。


     東西の迎撃にあたっていた班が源泉に戻ってきた時には、既に戦闘は終了していた。
    「ばすたん? さっちゃん?」
     恐る恐る、蓮菜が声を掛ける。
     源泉の手前で、さっちゃんはぐったりしたように丸まっていた。そのさっちゃんの体毛の中に埋もれているバスタンドの足だけが見えた。
    「間に合わなかったというのか?」
     四生は茫然とその場に立ち竦む。
    「そんな…。2人とも死…」
     みくるが言葉を漏らしたその時、
    「お疲れ!」
     バスタンドがむくりと起き上った。
    「びくぅ!?」
    「いやはや、サチのやつ強ぇのなんの!」
     どうやら、源泉に侵攻してきたゾンビの3体は、さっちゃんが撃破したらしい。
    「さっちゃん大丈夫か? すごいな!」
     織兎がさっちゃんの喉の辺りを撫でてやると、嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
    「クロキバの指示、まもれたかな」
    『マモッタ』
    「お、しゃべった!」
    「ホント女の子好きっすよね」
     蓮菜が呆れたように言った。
    「実は男の子だったりして」
     意地悪そうに新が笑う。ノノが、さっちゃんの頭の上をふわふわと漂っている。
    「…折角の温泉じゃ、ゆるりと休んでから帰るとしよう」
     亜門は言いながら、白面を外した。
    「その前に、落し穴を埋めなきゃ」
    「ノノ。もう一仕事あるよ」
     さっちゃんと遊びたそうにしているノノを、みくるは呼び寄せた。
    「ではさっちゃん、仲間同士としてまた会いましょうね」
     恭乃が、さっちゃんの脇腹を軽く叩いた。
     今回は、共に戦うことができた。だが、次に会うときは敵同士かもしれない。
     そんなことにならなければ良いと願いながら、灼滅者達は奥飛騨温泉郷の源泉を後にするのだった。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 11
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