●
サングラスをかけた屈強な彼は言う。
「先日、ノーライフキングノ邪悪ナ儀式ヲ一ツ潰シタノダガ、ソノ儀式ノ目的ハ、我ラノ同胞ガ守ル源泉ヲ襲撃スル為ノモノデアッタ。
敵ノ数ハ多ク、我ラダケデハ撃退ハ難シイダロウ。
モシ、武蔵坂ノ灼滅者ガ撃退シテクレルナラバ、我ライフリートハ、ソノ指示ニ従ッテ戦ウダロウ」
彼――クロキバの言葉に偽りは感じられない。
クロキバは、一呼吸をおいて口を開く。
「ヨロシク頼ム」
●
クロキバから、イフリートのいる源泉にノーライフキングの眷属による襲撃が行われようとしていると連絡が来た――そう話す須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、サイキックアブソーバーからも同じ事件が予知されたことを灼滅者に告げる。
「クロキバの言っていることは本当だよ。
そして、源泉のイフリートはみんなの作戦指示に従って行動してくれるっていうから、みんなには、源泉のイフリートと協力してノーライフキングの眷属を撃退してほしいんだ」
ノーライフキングの眷属は、源泉を取り囲むように数か所から現れて源泉を目指して進軍してくる。
敵が合流してから源泉で迎え撃つこともできるが、眷属達が合流する前に各個に撃破することが出来れば、有利に戦うことができるだろう。
偵察を出して眷属の動きを確認して、うまく立ち回れば、勝利は難しいことではない。
「ただ、クロキバからは、源泉に近づかせずに撃退してほしいっていう要請があったの。これを実現するためには、こっちも人数を分散して、それぞれの敵と戦わなきゃダメなんだよね」
距離が離れてしまえば、他の戦場で勝利した仲間が別の戦場へ救援に駆けつける事が難しくなる。
様々なことが想定される中、どう戦うかは灼滅者たちの判断だ。
「それで、今回みんなに行ってもらう場所は群馬県の山の中にある源泉だよ」
ノーライフキングの眷属が6人と4人の二手に分かれて襲撃をかける。
どこから来るかはわからないが、先に6人組が源泉に近づいてくるらしい。
その4分後に、反対側から4人組が。
「それぞれのグループには、指揮官が一人ずついるの。
戦闘能力は同じだけれど、その指揮官がいることによって、組が統率されているから、ちょっと厄介かも。眷属が一人一人勝手に動くわけじゃないしね。
それに、指揮官が外見からは判断しづらいっていうのもあるから……みんな、気をつけてね」
まりんは、神妙な面持ちで言葉を区切る。
そして、
「一緒に戦うイフリートだけど、結構、好戦的だよ。周りが怪我をしていても回復するっていう発想はないみたい。戦ったら、敵一直線みたいな感じかな」
もともと、殺戮欲が強く、利口な方ではないイフリート。
難しい指示をだすと理解できず、思い通りに動いてもらえない可能性も大きい。
「ノーライフキングが何を考えているのかわからないけれど、みんな、ダークネスの企みはここで阻止しようね!」
参加者 | |
---|---|
巴里・飴(舐めるな危険・d00471) |
香祭・悠花(ファルセット・d01386) |
武野・織姫(桃色織女星・d02912) |
リオーネ・ブランシュ(運命黙示録・d04884) |
咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814) |
御神楽・フローレンス(高校生エクソシスト・d16484) |
南谷・春陽(春空・d17714) |
シュウ・サイカ(栄華謳え無窮の武芸者・d18126) |
●1
「こんにちは。私はハルヒ。あなたの名前は?」
南谷・春陽(春空・d17714)は、答えの返ってこない相手に首をかしげた。
話せないのだろうか。
山の中に湧き上がる源泉の側で座っていたイフリート。
灼滅者たちを見るなり、その巨体を立ち上がらせたのだが、視線を落とすだけで口を開かない。
「しゃべられないのでしょうか~? イフリートさんと仲良くおしゃべりしたいと思っていましたのに……」
がっくりと肩を落としながらも、ふいをついて話しださないかと、武野・織姫(桃色織女星・d02912)はイフリートの側を落ち着きなく歩き回りだした。
その光景を見て、リオーネ・ブランシュ(運命黙示録・d04884)はなんともいえない、おかしな感じを受ける。
ダークネスであるイフリートと、襲い襲われずにいる関係。
表に出していないが、御神楽・フローレンス(高校生エクソシスト・d16484)も似たような複雑な物を抱えている。
全員が、この状況を受け入れられるわけではない。
「まっ、いっか。じゃあ、イフリートは、私についてきてね。私と一緒。一人で勝手に動いちゃダメ。私から絶対に離れないで。わかる?」
春陽がゆっくりとした口調で、短くわかりやすい言葉で話しかければ、ちらりと目を動かしてきたイフリートがうなずいた。
イフリートは大丈夫だと確信した織姫は、
「それでは、皆さん、全員、同じ地図を持ちましょう~」
「……全員同じ地図?」
自身の持つ地図を見ていた目を大きくして顔をあげた巴里・飴(舐めるな危険・d00471)は、にこにこ笑っている織姫を見た。
織姫曰く、同じ地図上で源泉を原点としてXY座標軸を書き込めば、スーパーGPSを使っても誤差が少ないだろうとのことだ。
「一理ありますね」
これには、飴もうなる。
地図に引いたXY座標線がお互いの位置確認を知る目安になると考えていた飴だ。
地図が異なれば、スーパーGPSの現在地の表示も統一されない。
「同じ形の地図ですと、場所も伝えやすくなりますね」
フローレンスの後押しもあり、飴はすぐに人数分の地図を作り始める。
「飴、これ使って」
そういって咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)が差し出したのは、事細かに書かれた地図だ。
ほぼ正確だというその地図は、千尋が探しに探して見つけた詳細に書かれた山の地図を元に書かれている。
源泉周辺にピックアップした地図は春陽から借れば、地図は完成する。
「同じ物であれば、索敵する時も心強いな」
地図を受け取ったシュウ・サイカ(栄華謳え無窮の武芸者・d18126)がスーパーGPSを発動させれば、XY軸の原点にマーカーが現れる。
後は、それぞれが装備を整え、先発組が源泉を囲むように位置づけば作戦決行。
後発組である香祭・悠花(ファルセット・d01386)とフローレンス、千尋が源泉の側に控えて、トランシーバーを握りしめる。
「気をつけてくださいねー!」
明るい声で悠花は、外向きの円状に広がっている先発組を見送った。
●2
源泉から離れていくのは、シュウ、リオーネ、織姫、春陽、飴の5人。
源泉から遠ざかれば遠ざかるほど、互いの間は離れ、孤立していく。
しかし、どこから現れるかわからないノーライフキングの眷属を探すためには、効率のいい作戦だろう。
また、トランシーバーからは、先発組の誰がどこにいるかという報告が入るため、地図のXY座標軸から割り出せば、どこにいるかが簡単に割り出せる。
近くにいなくても、仲間の位置がわかる。
共にスーパーGPSを持たない織姫の位置をおおまかにでも知って安心したリオーネは双眼鏡をのぞきなおして敵の姿を探した。
相変わらず、山の中だけあって見晴らしが悪い。
6人もいるのだから、見落とすことはないはずだが――。
……ザ……ザザッ……。
トランシーバーが音を鳴らした。
先ほどと同じように耳の近くへ持っていけば、鼓膜に静かな声が聞こえてくる。
「こちらはシュウ。ゾンビを発見した。サーヴァント組、聞こえているか? 場所は――」
山の中の空気が一気に変わった。
「ここから先は立ち入り禁止だよ」
シュウは右手にあるガンナイフを構えるなり、ホーミングバレットを打ち出した。
ゾンビは、腐敗しきっているとは言いがたい見栄えのよさを持っているせいか、乱射された弾丸に当たれば肉がえぐられ、散る。
一人しかいない相手に6人のゾンビが押し寄せるように攻撃してくるのは想像に難くないシュウは、仲間がかけつけるまでヴァンパイアミストと援護射撃で持ちこたえるが、全ての攻撃は避けきれない。
しかし、事前の行動が功をなして、すぐに仲間は一人、二人と増える。
5人が揃った時には、後発組もゾンビと出会う時間だ――。
連絡を受けて、すぐに知らされた位置と真逆に進んだ後発組は、源泉から離れた場所でゾンビと遭遇した。
灼滅者より数は多いものの、ライドキャリバーや霊犬を合わせれば灼滅者側の方が多くなる。
後発組は、先発組がイフリートと共に6人のゾンビを倒すまで源泉を守る壁になり、ゾンビを迎撃する。
源泉を巡る双方の戦いが始まった。
●3
前衛と中衛の列を築いた6人のゾンビは、半円を描いて灼滅者を取り囲み襲い掛かってきた。
ウェーブヘアをなびかせるリオーネがカルペ・ディエムを手に禁呪を唱えれば、前列のゾンビが炎にまみれ、それを目印といわんばかりに、灼滅者たちの攻撃が炎に包まれたゾンビへ集中する。
耐えることもできずに消滅した1人のゾンビを目に、残りのゾンビたちは動きを変えた。
全員が前衛。
春陽と飴しかいない前衛を叩き潰すようだ。
しかし――。
「前で戦って!」
イフリートは、春陽の指示通りにクラッシャーでゾンビを食い散らかし始めた。
イフリートとゾンビ一人の力の差は歴然だ。
「戦闘なら自信ありますよ」
好戦するイフリートに負けずと、飴が飴細工。をまとい、その力を見せつける。
すさまじい連打の跡をゾンビに殴りつけ、横から襲い掛かってきたゾンビには身軽にかわせば、振り向きざまに抗雷撃を見舞わせる。
「甘いです」
言い切って、さらに一撃。
ふらつくゾンビに、絶好の間で織姫が魔法の矢で、リオーネが輝ける十字架で追い打ちをかけると、新たな屍がうまれる。
「リオちゃん、ナイス!☆」
息の合った動きに手を打ち付けてきた織姫と可愛らしい音を鳴らせば、リオは嬉しそうな雰囲気を醸し出す。
そして、織姫が、なじみ深い馬を思わせる蹄鉄を連想させるリングスラッシャーを浮かばせれば、その近くでシュウが、仲間の強化を堅実に続けていた。
この場で、唯一の回復手といっていいだろう。
状況を見て、ヴァンパイアミストとフェニックスドライブを使い分け、ゾンビの攻撃に対して仲間を奮い立たせる。
半分まで数を減らしたゾンビたちは灼滅者たちと距離を保ち始めた。
前衛は変わらないものの、不用意に近づかなくなったのだ。
まだ、指揮官は残っている。
それでも、灼滅者たちの行動は変わらない。
仲間が攻撃した敵を、弱った敵を――。
「あっちと合流させないんだから!」
攻撃を受けたゾンビへ春陽が紅蓮斬を落とした。
一方、後発組は。
「面倒なことをつぶしておくためにも、コセイ、みんなが戻ってくるまで持ちこたえましょうねー」
後ろにいる霊犬へ息を荒らしながらも笑いかけた悠花は、「わう」という鳴き声を聞いてさらに顔をほころばせた。
やっと、一人のゾンビを倒した悠花と千尋。
「まったく。指揮官はわかったっていうのに、そう簡単に倒させてくれないとはね」
霊犬、そしてフローレンスから治癒を受ける千尋のいうように、指揮官は他のゾンビたちに守られているため一筋縄ではいかない。
ゾンビの動きなどから指揮官を推測して千尋が攻撃を仕掛けたところ、見事的中のだが、指揮官は灼滅者の威力を恐れてか他のゾンビを盾にしている。
「姑息やな」
源泉に行くためなら手段も選ばないのかと、短い言葉を吐き捨てた千尋が、クラッシャーの名にふさわしい豪快さで紅蓮斬をゾンビにたたきつける。
すっ、と、目を移せば、別のゾンビも襲い掛かってくるが、そこは快活に割り込んできた悠花が迎え撃つ。
「こんにちは♪」
展開したシールドでゾンビを殴りつけた。
霊犬シェルヴァに攻撃を任せ、前方で戦う二人に何度も契約の指輪を向けていたフローレンスは、そろそろジャッジメントレイも使わければならないと状況かもしれないと判断し始める。
しかし、後ろから感じた気配に振り向けば、その考えは改まる。
「お待たせしました!」
6人のゾンビを倒した先発組が来たのだ。
先発組の癒せる傷は、飴が移動中で治してある。
「フローレンスの赤い糸のおかげで、迷わなかったよ」
「お役に立ってなによりです!」
道標として源泉からアリアドネの糸を引いていたフローレンス。
先発組をより早く導かせた糸から顔上げると、先発組が陣を築く。
8人揃った灼滅者を前に、ボロボロになった二人のゾンビと、傷ついた指揮官のゾンビが散開した。
「ばらけたって、ちゃんと目星はついているんだ。こいつが指揮官や!」
地面に足を力強く押し付ける千尋が、先端を鋭い刃に変えた妖影で指揮官のゾンビを切り裂けば、くぐもった声がゾンビの口から吐き出される。
「キャリバー!」
千尋の声に、ライドキャリバーがエンジンを鳴らして灼滅者とゾンビの間をかけめぐり、突撃していく。
悠花と千尋の傷が織姫とシュウによって癒えれば、形勢は完全に灼滅者の優位。
援護がなくなったシュウは禁呪で炎を生み出し、織姫は今にも倒れそうなゾンビへリングスラッシャーを飛ばす。
そこに飴が閃光百裂拳を殴り込めば、1人のゾンビが倒れ、残りは2人となる。
こうなってしまえば、指揮官など役に立たない。むしろ、立っているのもやっとの他のゾンビが役に立つわけもない。
フローレンスの撃った制約の弾丸の後を追うように悠花が駆ければ、シールドバッシュで指揮官ではないゾンビを倒す。
「ごめん、あ・そ・ば・せ♪」
残された指揮官のゾンビが選べる手段はもうない。
春陽が、戦うだけだと向かって来た指揮官のゾンビを影喰らいで飲み込めば、リオーネがデスサイズをふるう。
――この場所を絶対に穢すわけにはいかないの。
最後のゾンビも肉の塊になった。
●4
源泉にノーライフキングの眷属を近づかせることなく、戦いは終えた。
イフリートは、役目を終えたといわんばかりに源泉へ戻ると腰をおろし、灼滅者たちに背を向けて負った怪我を治し始めた。
飴は源泉に入って疲れをとりたい気もしたが、男子もイフリートもいるところでは入れないので、おうちまで我慢と諦める。
そして、春陽も、もう、話に耳を傾けてくれないイフリートに談笑して源泉やクロキバについて聞くことを諦めた。
最後に、千尋は、あえてイフリートの正面に立つと、
「ダークネスと灼滅者が肩を並べて戦った。妙な気分やけど……でもなんか楽しかったわ」
イフリートは、生暖かい息を吐くと足の上に顎をおいて目を閉じる。
そして、灼滅者が、帰る、と、一言告げれば、しっぽが左右に一回ずつ。動いた。
作者:望月あさと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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