イフリート源泉防衛戦~共闘炎華

    作者:東城エリ

     武蔵坂学園を訪れたのは、精悍な身体に褐色の肌を持った黒服の男。
     クロキバと名乗った男は、自身が対処した事について口にした。
    「先日、ノーライフキングノ邪悪ナ儀式ヲ一ツ潰シタノダガ、ソノ儀式ノ目的ハ、我ラノ同胞ガ守ル源泉ヲ襲撃スル為ノモノデアッタ」
     そんな事があったのかと、話を聞く内にクロキバが困って居ることが分かった。
    「敵ノ数ハ多ク、我ラダケデハ撃退ハ難シイダロウ」
     手助けを必要としているらしい。
    「モシ、武蔵坂ノ灼滅者ガ撃退シテクレルナラバ、我ライフリートハ、ソノ指示ニ従ッテ戦ウダロウ」
     サングラスの奥にある瞳を窺い知る事は出来ないが、同族達の事を心配している事は言葉と声音から知ることが出来る。
    「ヨロシク頼ム」
     そう言うと、クロキバは踵を返し去っていった。
     
    「クロキバからイフリートのいる源泉に、ノーライフキングの眷属による襲撃が行われようとしていると、連絡が入りました」
     斎芳院・晄(高校生エクスブレイン・dn0127)が、集まった灼滅者を前に話を始める。
     手には黒皮のファイルを手にしている。今回の依頼の詳細でも書かれているのだろう。
    「サイキックアブソーバーの予知でも、同じ事件が予知されました。クロキバの言葉に間違いなく、この襲撃が行われるでしょう」
     皆さんに向かっていただく場所は、鶴見岳にある源泉のひとつ。
     周りは山の木々が生い茂っています。
     以前は雪も積もっていましたが、今は初秋です。
     山肌の状態も悪くないでしょう。山登りに適した靴などで向かわれると歩みも楽だと思います。
    「彼が言うには、源泉にいるイフリート達は、今回、灼滅者である皆さんの作戦指示に従い、行動してくれるとのことです。皆さんは、イフリート達と協力し合い、ノーライフキングの眷属を退けてください」
     ノーライフキングの眷属であるアンデッドは、源泉を取り囲む様に数カ所から現れ、源泉を目指して来ます。
     敵の目的は源泉ですから、数カ所から分散して現れたとしても、源泉の前で待ち構えて迎撃すれば、此方の戦力も分散せずに戦えるという利点はありますが、眷属達が合流する前に各個撃破する事が出来れば、此方の戦力が上回った状態で戦況を優勢に持って行くことが出来ます。
     偵察を出して眷属達の動きを確認し、立ち回ることが出来れば勝利は難しくないでしょう。
     ただ、クロキバの要望で出来るだけ源泉に近づかせずに退けて欲しいとのこと。
     ですが、これを実現するためには、数カ所から現れるノーライフキングの眷属達の行動に合わせて、此方も同じ数だけ分散させて対処しなければなりません。
     数カ所から現れた敵のグループが近距離であれば、此方も片方の戦闘終了と同時に片が付いていない味方の方へと助力すべく向かう事も出来ますが、距離が離れていれば、それも難しいでしょう。
     その辺りの判断も含め、よく考えて行動をしてください。
     
    「ノーライフキングの眷属であるアンデッド達は、戦力を3つに分散させて出現します」
     現れる場所は3カ所。
     5体で1グループ。
     ナイフや斧を所持し、解体ナイフや龍砕斧のサイキックに似た攻撃を仕掛けてきます。
     今回共に戦うイフリート達ですが、彼らは難しい指示を理解するのは難しいようです。
     我慢を強いて指示に従わせようとすると、作戦指示を実行せずに、自分達の判断で動こうとする場合があります。
     この源泉にいるイフリート達は、源泉を汚すのを嫌っています。敵だと分かれば、まっしぐらに向かって行きます。
     イフリート達にわかりやすく理解させ、従うように指示をだしてあげてください。
     現れる時間帯は陽が落ちてから。
     それまでに辿り着き、索敵、イフリート達へ指示を出すことになります。
     
    「それでは、皆さんの勝利を願っています」
     そう言うと、晄は皆を見送った。


    参加者
    結音・由生(夜無き夜・d01606)
    マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)
    星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・d04321)
    ディートリヒ・エッカルト(水碧のレグルス・d07559)
    高峰・紫姫(守り抜くための盾・d09272)
    守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)
    ユーリ・エールウィング(見習いシスター・d14753)
    水瀬・裕也(中学生ファイアブラッド・d17184)

    ■リプレイ

    ●山頂にて
     鶴見岳にはロープウェイで山頂まで登り、後は徒歩で進むことになる。
     鞍ヶ戸から内山へと至り、塚原越と続く。
     別府湾や由布岳も臨む事が出来、温泉地独特の景色を見られた。
     空へと昇る煙の筋が幾本も見える。
     緑色の山々も少しずつだが、秋めいた色をつけてきており、早い時間帯もあって山登りの一行のよう。
     だが、8人と2体のサーヴァントは別の用件で訪れていた。
     イフリート達と共闘し、襲撃してくるアンデッドを撃退する為だ。
    (「屍王が絡むとなれば、放っておく訳にはいかないな。イフリートと共闘戦線、頑張っていかないと」)
     星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・d04321)は、僅かに黒瞳を細め、今回タッグを組むイフリートへと思考を向け始めた。
    (「温泉は日本の心、といいいますし、その源泉を荒らしたりするなど、言語道断です。だって、まだ別府温泉地だって行ったことないですし、観光ちゃんとしたいじゃないですかー」)
     ディートリヒ・エッカルト(水碧のレグルス・d07559)は、使ったらきっと心地よいのだろうと想像に難くない温泉地を眼下に臨む。
     項よりやや上の方でリボンで一つに纏めた艶やかな銀髪が風に遊ばれ靡く。
    「汚されて、温泉入れなくなったりしたら、困ります。だから、守ります」
    「意図はどうあれ、この温泉を守りたいってイフリートが言ってくれた。なら、彼らは僕の客やん。熊八のおいさんが『ねんごろにせよ』っち言った相手やん。だから、今は、この身に変えても守るわ」
     守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)は、別府観光の生みの親とも言われる油屋熊八の言葉を思い出す。
     招かざる客であるアンデッドに対しては、ご当地パワー全開で打ち砕くのみ。
     山歩きということで、皆、登山用の靴や地図、連絡に必要な携帯電話やトランシーバーなど必要と思える物は準備してやってきていた。
     他には、各自が必要だと思った物を用意してきてある。双眼鏡やLEDランタン、暗闇でも姿を捕らえることの出来る暗視スコープ、位置や距離を把握しやすいように打ち上げ花火や発煙筒など。
     足りない物があってもご当地ヒーローである神楽の実家も近く、調達には困らない。
    「と…近いのは…多分、この辺り…?」
     ユーリ・エールウィング(見習いシスター・d14753)は立ち止まり、仲間を大きな紫瞳で見上げる。地図にはスーパーGPSで現在の位置を示されていた。
    「聞いた情報から推測すると、うん、塚原温泉の源泉だね」
     それは伽藍岳の中腹にある場所。温泉の方は、観光客も訪れるが、地獄とも呼ばれるその場所は、管理地であるため普段は人の姿はない。
     イフリート達にとっては都合がよい場所なのだろう。
     今回、ユーリ以外にもディートリヒと高峰・紫姫(守り抜くための盾・d09272)、水瀬・裕也(中学生ファイアブラッド・d17184)の3人も使用できるようにしてあった。
     紫姫は胸元で輝く銀のペンダントトップに触れる。
    (「それにしても…これだけの数の眷属を用意できるノーライフキングとは。白の王セイメイは想像以上に危険なのでしょうね。クロキバはセイメイに対抗する手段を持っているのでしょうか」)
     共闘を持ちかけてきた相手の事を考えてしまう。
    「イフリートに会うのは初めてなんだよね」
     裕也はのルーツはファイアブラッドだったが、イフリートと遭遇する機会は今まで無かったのだ。
     お守りのカエル石に触れ、斜め後ろに浮かんでいるビハインドの葉を見やる。
    (「宿敵らしいけど、もふもふだったりで悪く思えないなあ。けど、ダークネスだから僕らとは考えが全然違うのは忘れちゃだめだ」)
     ダークネスと灼滅者、対のようであり、相対するもの。
    (「もう一つ気になるのは、楔・ガイオウガ・クロキバの言葉に、セイメイとの関係」)
     今回会うイフリートも含めて、知らないことを知っていきたいからこの場所にやってきた。
    「日没前には必要な情報は把握しておかなければな」
     マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)何の感情を面に浮かべることなく、言葉を紡ぐ。
     源泉に通じる登山道や獣道を調べ、不意打ちをされないように万全を期しておきたいもの。
     マリアの後をついて歩くのは、霊犬。名前はつけていない。自身の力の一部であるという認識で、使い慣れ馴染んだ殲術道具と同じ認識だからだ。霊犬の方も同じように思っているのか、クールな表情だ。
     携帯電話の連絡先交換も済ませて、作戦の齟齬がないかも道中で確認済み。
     アンデッド達が襲撃してくるまでの間にと時間は限られている。
     足下の草木は結音・由生(夜無き夜・d01606)と神楽の隠された森の小路が作用し、無用な草音が軽減され、歩くのも楽な様子。
     由生は緩やかな弧を描く銀髪を帽子の下で靡かせ、ふとこれから戦う敵の事を考え、金瞳を細め鋭くした。アンデッドは大嫌いなのだ。
     順調に移動し、源泉に近づいた頃、イフリート達が現れた。

    ●交わり
     源泉の近くにあって、動こうとはしない一団と、源泉から離れてこちらへとやってくるイフリート達に分かれるらしい。
     彼らの奥には、源泉から立ちのぼる煙。
     辺り一帯は、硫黄の匂いが立ちこめ、木々も生えていない岩肌ばかり。
     炎を纏う獣が4体。
     それが共に戦うイフリートなのだろう。
     警戒心を抱いたまま、ゆっくりと近づいてくると、一定の距離を保ち、歩みを止めた。
     次はこちらが歩む番だとでもいうのだろうか。
     ディートリヒが一歩前へ出る。
    「クロキバさんの要請で此方の援軍に来ました、ディートリヒと申します。ディートとでも呼んで下さいね、よろしくお願いします」
     小首を傾げ、笑みを浮かべた。
     同じように炎を纏っているが、よくよく見れば鬣が大きいもの、耳が丸いもの、しっぽがふさふさのものと個性がある。
     マリアのイフリートをみる眼差しは、何も変わらない。
     人に仇なすのなら敵として殺し、そうでないならどうでも良いと思っているからだ。
    (「…もふもふしたい、なぁ。…だめ?」)
     その気持ちが通じ合ったのか、裕也が頷いた。
    (「ちょっと触ってもふりたい」)
     触っていいかな…、そんな気持ちで溢れている。
    『ハナシ、キイテル』
    『マモル、キョウリョク、スル』
    「私の仲間が敵へと導きます。そこで存分に暴れてください」
     紫姫は、自分たちと共に戦うのだと、敵対してはいないのだと分からせるよう、ややゆっくりと言葉を紡ぐ。
     相手にするのは幼子なのだと言い聞かせつつ。
     眼鏡の奥の赤瞳は間近に見るイフリートに釘付けだ。
    『エングン、イッショ…?』
    「一緒に戦います」
     言葉が難しかったのだろう。ディートリヒはなるべく言葉を平たくする。
    『フレル、カ』
     裕也を見やり、しっぽをふぁさりと振った。
     そっと鬣に触れて、手を引っ込める。
    「熱いはずだけど、ファイアブラッドだからかな、大丈夫みたいだね」
    「一緒に戦う時、僕と一緒だからよろしく。僕たちは、調べ物すませるまで、君たちは待機して欲しい」
     神楽は、続けて自分の名前を教える。
    「カグラ、イッショ、タタカウ?」
    「うん、一緒だよ」
     3歳児も犬と同じ位の知能だと聞く。
     そう考えると、意思疎通は出来ているという実感がわいていた。
     時間を掛ければ理解できる知能はあるのだ。

     ひとまずイフリートたちと別れ、アンデッドが現れるルートとなりそうな山道を捜索を始めた。
     2人一組にし、a班を裕也と優輝、b班を紫姫と由生、c班をユーリとマリア、e班をディートリヒと神楽という組み合わせ。
     周囲の索敵を済ませた後は、再びイフリート達の居る場所へと戻り、戦闘時でのグループへと移行する。
     優輝は双眼鏡を使いながら、目標を確認する。服装は迷彩柄の上下に帽子という出で立ちであったから、木々の中へと紛れれば、発見もしにくい。
     確認した場所は、連絡を取り合い、確認作業がダブらないよう進めていく。
     由生と紫姫は、源泉から遠ざかるように移動しつつ、どの道が一番近道なのか確かめる。
     ユーリとマリアのシスターコンビは、地図と見比べながら、源泉までどれくらいで辿り着けるのか距離や時間もはかる。
     神楽は移動の痕跡を残さないよう、隠された森の小路を使う。
     陽が落ちると、一気に肌寒くなる。
     目を楽しませていた緑の木々も、薄暗い葉擦れの音を奏でるものとなった。
     源泉近くにいるイフリート達の燃えさかる炎が寄り集まる薪のよう。
     離れている4体のイフリート達も見つけやすい目印だ。
     それはきっと敵もそう。
     源泉に辿り着ける道や小道を確認後、ディートリヒが空飛ぶ箒を使い、上空を暗視双眼鏡で監視する。
     日没後、それほど時間が経たないうちに、行軍の足音が木々のざわめきに紛れて黒い人の形をしたものが源泉へと近づいてくる3つのグループが見て取れた。
     アンデッドでも身体能力の差があるのか、登ってくるスピードが違う。
     当初の予定通り、3つの班に分け、アンデッドを迎撃にかかる。
     A班を神楽とイフリート4体、B班をマリアとマリアの霊犬、裕也と葉、C班は由生と優輝、ディートリヒとユーリ、紫姫の構成。
     上空から監視していたお陰か、距離を稼ぐ事が出来、源泉へと詰められること無く、先端を開くことが出来そうだった。

    ●共闘
     源泉から見て、一番遠いアンデッドグループをA班。A班から近い胃位置にあるグループをB班が。源泉に一番近いグループにC班が対応する。
     殆どタイムラグを感じさせない状態で、迎撃に成功した3つの班が戦闘へと突入した。

     まずは、A班。
    「チェーンジケルベロース。Style:Mountain!」
     神楽の声が夜空に響く。
     どこからともなくナレーションが聞こえる。お約束という奴である。
     説明せねばなるまい! 別府がご当地ヒーローケルベロスの身体がトパーズ色に輝くとき、その身体に力強き山地獄の力が宿るのだ!! 舞台が山だけに!!
    「僕に続け!」
     凛々しく神楽がイフリート達に声をかけ、敵へとまっしぐらに突っ込んでいく。
     神楽がサイキックソードに炎を纏わせ、ナイフを手にしている3体の内1体へと叩きつけるように振りかぶり、切り捨てる。
     炎が移り、土気色の身体を延焼させていく。
    「1体ずつ倒すぞ!」
     神楽の言葉が分かるのか、獣声の応答が帰ってきた。
     鋭い爪や噛みつきで肉を削いでいく。
     頼もしい声に頷くと、力強く握った拳に力を込め、オーラを纏う。
    「喰らえ!」
     重い一撃が、枯れ木の様なアンデッドの身体にめり込んだ。
     各個撃破で確実に落としていく様は、武術の師匠と弟子の様な雰囲気を感じさせた。
     これなら、他の班の手助けに移動するのも早そうだった。

    「…って」
     裕也は妖の槍の切っ先でほんの少しだけ手の甲を傷つける。
     傷口からクリエイトファイアで自然の炎が生まれ、光源代わりにする。
     闇の濃い景色の中、誘蛾灯に引き寄せられる虫のようにアンデッドが一斉に集まってきた。
    「それでいい」
     自身の意図通り、目印としてやってくる様子に裕也は頷く。
    「にーちゃん、頼んだよ」
     隣にある葉に、視線を向ける。
     WOKシールドの守りの力を葉にも分け与えた。共に持久戦になっても倒れないように願って。
     葉がすいっと前に出て、アンデッドに顔を晒す。
     戦端を開いたのは少し遅い。
     人数的な事もあり、出来るだけ遅らせたのだ。A班の神楽とイフリート達の合流を待ちながら戦う。
     眼前の敵を排除する意志と邪魔をしにやってきた目的以外の者にアンデッドが襲い掛かってくる。
     マリアは契約の指輪を填めた白い指を前方に突き出し、魔法の力を発動させ撃ち出す。
     弾かれるようにナイフを手にしたアンデッドの肉が筋肉の筋の様な物を断ち切る音と共に飛ぶ。
     その光景に、マリアは表情ひとつ変えることない。こういった状況には耐性があるのだ。
     マリアの霊犬も淡々と仕事をこなす。基本は浄霊眼での回復役だが、負傷している者がいなければ、六文銭射撃で攻撃に加わる。
     マリアと霊犬の前にあるのは、裕也と葉。
     自分と同じようにサーヴァントを共にする仲間だ。
     アンデッドが裕也と葉に襲い掛かる。何体かは後方へと向かうかと思ったが、眼前にある敵を蹴散らして進む戦法のよう。
     受けた傷の回復を見誤らなければ、立ち続けることは出来そうだ。
     裕也が守りの厚い状態であるから、ダメージ総量が軽減できているのであって、比重を傾けさせるには、数を減らさなければ逆転はない。
     影業が裕也の足元から伸びる。炎の灯りを受けて、影が踊るように動きアンデッドを引き絞った。

     ここから先は突破はさせない。
     他の逃げて近づいて来ている者が居ないか周囲に注意を向けながら、向かってくるグループに攻撃の意志を向ける。
    「ミッション・スタート!」
     優輝はカードを人差し指と中指で挟み、カードの表面が見えるよう掲げた。戦闘時にだけ掛ける緑フレームの眼鏡を取り出す。
     腰にはランタンを括り付けて、光源を確保する。
     アンデッド達が前衛にいる由生と優輝、紫姫へと群がるように刃を掲げ襲い掛かってきた。
     紫姫はふわりと柔らかさの感じさせる猫の姿をした影業に微かに触れ、手にした魔導書から力を放つ。アンデッド達に刻まれるのは原罪の紋章。怒りに支配され、動きがより一層凶暴に変化する。
    「上手くいって良かったです…」
     ほっと紫姫は胸をなで下ろす。
     優輝は刃に填め込まれた蒼玉が輝く銀の妖の槍を捻りを加え、突き出す。
     アンデッドの身体から半ば固まった血がどろりと出てくる。槍先でその血を払う。
     続けて妖の槍を構えた由生が、槍に螺旋のように力を加え、更に拡大した。
     ディートリヒは予言者の瞳を発動させると、空色の瞳が一層深くなる。
    (「此処から先へは…いかせない」)
     天星弓から癒しの力を込めた矢を放つ。前衛に居る仲間に順番に回復を続けて、戦闘不能者を出さない事がユーリの役目。強い意志は刃に込めて。
     一斉に掛かってくるアンデッドを押し留め、確実に数を減らしていく。
     1体減らせば、格段に手数が減り戦況も好転する。
     半数を倒した頃には、完全に逆転し、他の班も同様だと繋がったトランシーバーから読み取れた。
     後は無事を確認する事と、イフリートの負傷具合が気になる所だった。

     戻って来たイフリート達の中で傷ついているのは、ユーリが駆け寄って癒す。その仕草には怖さや躊躇は感じられない。
    「無理をしちゃ、ダメ…今、治すよ」
    『イタイ』
     じっとしているイフリートに治癒の力を宿した光が、優しくしみこんでいく。
    『イタクナイ』
    「良かった…」
     ふわりとユーリは笑顔を向けた。

    「撃退は上手くいって良かったね」
     イフリート達と別れ、山を下りると裕也は鶴見岳を見上げた。
     次ここに来る時はイフリートとの戦争なんて事じゃないといいなと願いながら。

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ